また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
黒執着春麗の後日談です。
# 妄想章IF後日談:黒執着春麗は、迷惑をかけたお詫びに行って返り討ちに遭う
迷惑をかけた。
その言葉を、自分の中で認めるまでに、少し時間がかかった。
以前の黒執着春麗なら、たぶん別の言葉にしていた。
迷惑ではない。
必要なことだった。
リュウの拳が悪い。
残ったのなら、受け取った側の問題。
そうやって、自分の黒を相手の中に置こうとしていた。
けれど、今は違う。
救済された後の黒執着春麗は、黒を失ったわけではない。
黒は、まだある。
黒ドレスもある。
青武道服も選べる。
黒で勝てる。
青でも勝てる。
煽りもできる。
リュウに褒め殺されると、まだ精神HPは落ちる。
その全部を棚に置けるようになった。
だからこそ、ようやく認められることがある。
迷惑をかけた。
あの時、自分はリュウに黒を置こうとした。
自分の中だけで持てなかったものを、リュウの拳に残そうとした。
リュウのせいにしたかった。
自分だけが黒を抱えているのではなく、リュウにも残っていることにしたかった。
その方が、少し楽だったから。
それが、迷惑ではなかったとは言えない。
黒執着春麗は、部屋の中で黒ドレスを見ていた。
今日は黒ドレスではない。
青武道服でもない。
普通の服。
謝罪に行くのに、戦闘服は違う。
黒を否定するつもりはない。
青でごまかすつもりもない。
だから今日は、普通の服。
黒を持ったまま。
青も選べるまま。
そのどちらも着ずに行く。
「……お詫び」
口に出してみる。
少しだけ、違和感がある。
自分が、リュウにお詫びをする。
黒に沈んでいた頃なら、絶対にできなかった。
謝ったら、黒を否定することになる気がしていた。
謝ったら、自分の黒が間違いだったと認めることになる気がしていた。
でも、今は少し違う。
黒は間違いではない。
黒を持ったことも、黒で戦ったことも、消す必要はない。
ただ、その扱い方で、相手に迷惑をかけた。
だから謝る。
それだけ。
それだけなのに、かなり難しい。
黒執着春麗は、小さく息を吐いた。
「……迷惑をかけたから、お詫びに行く」
一拍。
「それだけ」
もう一拍。
「それだけよ」
そう言いながら、手元の小さな包みを見る。
たいしたものではない。
簡単な菓子。
高価すぎず、重すぎず、軽すぎないもの。
選ぶのに、少し時間がかかった。
謝罪の品として重すぎると、また黒が濃くなる気がした。
軽すぎると、逃げているような気がした。
だから、ほどほどにした。
ほどほど。
黒執着春麗にとって、少し苦手な言葉だった。
黒は、ほどほどではなかったから。
でも今は、そのほどほどを選べる。
それだけでも、救済後なのだと思う。
春麗は包みを手に取った。
「行くわ」
誰に言ったのか、自分でもわからない。
黒ドレスにか。
青武道服にか。
過去の自分にか。
それとも、これから会いに行くリュウにか。
春麗は部屋を出た。
リュウは、いつもの場所にいた。
修行をしているわけではなかった。
座って、拳をゆっくり開いたり閉じたりしている。
春麗は、それを見て少しだけ足を止めた。
拳。
あの拳に、自分は黒を残そうとした。
残ったのなら、あなたの拳の問題でしょう。
そんなふうに、言い訳を重ねた。
救済前の自分。
今なら、少しだけわかる。
あれは、彼を傷つけたかったのではない。
自分が消えたくなかったのだ。
自分の黒が、どこにも残らないのが怖かった。
だから、彼の拳に残したかった。
最低ではない。
けれど、迷惑ではあった。
春麗は、ゆっくり近づいた。
「リュウ」
リュウが顔を上げる。
「春麗」
その声が、普通だった。
普通に呼ばれた。
それだけで少し胸が痛む。
避けられていない。
警戒されていない。
それが、かえって刺さる。
春麗は、手に持った包みを少しだけ握った。
「今日は、試合ではないわ」
「ああ」
「黒でもない」
「ああ」
「青でもない」
「ああ」
「……お詫びに来たの」
言えた。
言えた瞬間、少しだけ息が詰まった。
リュウは、静かに春麗を見る。
「お詫び」
「ええ」
春麗は包みを差し出した。
「たいしたものではないけれど」
「受け取っていいのか」
「そのために持ってきたのよ」
「そうか」
リュウは、両手で受け取った。
その受け取り方が丁寧で、春麗は少しだけ困った。
そんなに丁寧に受け取らないでほしい。
軽く受け取ってくれた方が、たぶん楽だった。
リュウは包みを見てから、春麗を見た。
「ありがとう」
精神HPが少し削れた。
まだ謝っていない。
礼を言われる段階ではない。
「礼を言われることではないわ」
「そうなのか」
「そうよ」
春麗は、視線を少し逸らした。
「私は、あなたに迷惑をかけたから来たの」
リュウは黙って聞いている。
春麗は続けた。
「前の私は」
一拍。
「自分の黒を、あなたに残そうとした」
言葉にすると、少し苦い。
でも、言わなければならない。
「あなたの拳に、私の黒が残るように」
一拍。
「それを、あなたの問題みたいに言った」
リュウは、静かに拳を見た。
春麗の胸が、少しだけ縮む。
彼の拳。
残そうとした場所。
「悪かったわ」
言えた。
簡単な言葉。
でも、重かった。
黒執着春麗は、顔を伏せそうになった。
伏せない。
謝るなら、ちゃんと見る。
「黒を持ったことを謝っているわけではない」
リュウを見る。
「黒で戦ったことを、なかったことにしたいわけでもない」
一拍。
「でも、あなたに押しつけようとしたことは」
もう一拍。
「悪かったと思っている」
リュウは、しばらく黙っていた。
春麗は、その沈黙を待った。
怖くはある。
でも、待てる。
以前なら、沈黙に耐えられず、先に言葉を重ねていた。
煽り。
逃げ。
押し返し。
でも今日は、待つ。
リュウが口を開いた。
「春麗」
「ええ」
「迷惑だったかどうかは、俺にはよくわからない」
春麗は瞬きをした。
「……わからない?」
「ああ」
「迷惑ではなかった、と言いたいの?」
「そう言い切るのも違う気がする」
春麗は、少しだけ眉を寄せた。
「曖昧ね」
「ああ」
「そこは、迷惑だったと怒ってくれてもいいのよ」
リュウは、春麗を見る。
「怒ってはいない」
「そう」
「だが、重かった」
春麗は息を止めた。
リュウは続ける。
「春麗の黒は、軽くなかった」
胸の奥が、痛む。
でも、それは責められている痛みではなかった。
見られている痛みだった。
「拳に残ったものもあった」
「……ええ」
「言葉も残った」
「ええ」
「だが」
リュウは、拳を握る。
「残ったから、迷惑だけだったとは思わない」
春麗は、言葉を失った。
リュウは、ゆっくり続ける。
「春麗が、そこまでして残したかったものだったんだと思った」
精神HPが大きく削れた。
「……リュウ」
「ああ」
「そういう言い方をしないで」
「駄目か」
「駄目よ」
春麗は、片手で顔を覆いたくなる。
でも、まだ覆わない。
今日は謝りに来た。
倒れに来たのではない。
しかし、リュウは続ける。
「今、謝りに来た春麗を見て、少しわかった」
「何が」
「残したかっただけじゃない」
一拍。
「持てるようになったんだな」
精神HPがさらに削れる。
春麗は、完全に顔を背けた。
「……本当に、あなたは」
「ああ」
「謝罪を受ける場面で、そういうことを言うのね」
「そういうことだったか」
「そうよ」
リュウは、少しだけ目を伏せる。
「悪い」
「謝らないで」
「謝ってはいけないのか」
「今は私が謝っているの」
「そうか」
「そうよ」
春麗は深く息を吐いた。
この男は、やはり危険だ。
責められると思って来た。
怒られるなら受け止めようと思って来た。
迷惑だったと言われたら、それも受け取るつもりだった。
なのに、リュウは怒らない。
許すとも簡単には言わない。
ただ、見てくる。
黒を押しつけようとした自分。
今それを謝りに来た自分。
その違いを。
その変化を。
見てくる。
それが一番、逃げ場がない。
リュウは、受け取った包みを横に置いた。
そして、春麗へ向き直る。
「春麗」
「何」
「来てくれてよかった」
精神HPが削れた。
「……だから」
「ああ」
「謝罪に来た相手に、そういうことを言わないで」
「来たことは、よかったと思った」
「思わなくていい」
「思った」
「繰り返さないで」
リュウは少しだけ困った顔をした。
「迷惑だったかどうかは、まだうまく言えない」
「ええ」
「だが、春麗が謝りに来たことは、嬉しい」
精神HPが危険域へ近づいた。
春麗は、思わず一歩引いた。
「……嬉しい?」
「ああ」
「迷惑をかけられた相手が、お詫びに来て嬉しいの?」
「ああ」
「なぜ」
「春麗が、逃げずに来たからだ」
直撃。
春麗は、完全に止まった。
逃げずに来た。
その言葉は、深く入った。
救済後の黒執着春麗にとって、それは大きすぎる言葉だった。
以前の自分なら逃げていた。
逃げていないように見せながら、黒に逃げていた。
相手の拳に残そうとして、自分の手から逃がしていた。
でも今日は、自分の足で来た。
普通の服で。
黒も青も着ずに。
お詫びの包みを持って。
それをリュウに見られた。
「……あなた」
一拍。
「本当に、見なくていいところを見るわね」
「見なくていいところだったのか」
「見なくていいわ」
「だが、見えた」
「でしょうね」
春麗は、とうとう片手で顔を覆った。
「……謝罪に来たのに、どうして私の精神HPが削られているの」
リュウは首を傾げた。
「精神HP」
「こちらの話よ」
「そうか」
「そうよ」
リュウは、少しだけ考える。
やめて。
考えないで。
今考えると、また危険なことを言う。
そう思った時には遅かった。
「春麗」
「何」
「黒を持って来なかったわけじゃないんだな」
春麗は、顔を上げた。
「……どういう意味?」
「今日は黒ドレスではない」
「ええ」
「青でもない」
「ええ」
「だが、黒を置いてきたようには見えなかった」
精神HPがまた削れる。
リュウは続ける。
「持ったまま来た」
春麗は、声が出なかった。
「持ったまま、謝りに来た」
もう駄目だった。
これは駄目だ。
それは、自分でもうまく言葉にできなかったことだ。
黒を捨てて来たわけではない。
黒を隠して来たわけでもない。
黒を着ていないだけ。
持ったまま、謝りに来た。
リュウは、それを見ていた。
春麗は、顔を赤くしたまま言った。
「……本当に」
「ああ」
「あなたは、受け取らなくていいものまで受け取るわね」
「受け取っていいのかは、わからない」
「わからないのに?」
「ああ」
「なぜ見るの」
「春麗が来たからだ」
精神HPがさらに削れる。
「来たから見るの?」
「ああ」
「普通に?」
「ああ」
「普通が一番危険なのよ」
リュウは、少しだけ困ったように笑った。
ほんの少し。
その表情が、また刺さる。
春麗は完全に顔を逸らした。
「……今日は、お詫びに来ただけなの」
「ああ」
「甘いことを言われに来たわけではない」
「甘い?」
「こちらの話よ」
「そうか」
「そうよ」
沈黙。
風が少しだけ通る。
春麗は、なんとか体勢を立て直す。
まだ終わっていない。
お詫びはした。
包みも渡した。
リュウは受け取った。
それで終わり。
帰ればいい。
そう思った。
リュウが言った。
「春麗」
「何」
「謝ってくれて、ありがとう」
精神HPが落ちた。
完全に落ちた。
春麗は、動けなかった。
許すでもない。
責めるでもない。
謝らなくていいでもない。
謝ってくれて、ありがとう。
それは、春麗の謝罪を否定しない言葉だった。
迷惑をかけたという自覚を、なかったことにしない。
それでも、来たことを受け取る言葉だった。
黒執着春麗は、顔を覆った。
「……リュウ」
「ああ」
「それは、かなり危険」
「危険か」
「危険よ」
「そうか」
「そうよ」
リュウは、包みを見てから言った。
「大事にする」
「食べ物よ」
「そうか」
「大事にしすぎないで」
「わかった」
「普通に食べて」
「ああ」
「でも」
一拍。
「……受け取ってくれて、ありがとう」
言ってから、春麗は自分で固まった。
自分の方がありがとうと言ってしまった。
お詫びに来たのに。
謝りに来たのに。
受け取ってもらって、ありがとうと思ってしまった。
これは、かなりまずい。
リュウは静かに頷く。
「受け取れてよかった」
追撃。
春麗の精神HPは、もう残っていない。
「……もう帰るわ」
「ああ」
「今日は、本当にこれで終わり」
「ああ」
「試合もしない」
「ああ」
「黒の話も、ここまで」
「ああ」
「甘い追撃も禁止」
リュウは少し考えた。
「努力する」
「今すぐ努力して」
「ああ」
春麗は、背を向ける。
逃げるわけではない。
用件は終わった。
だから帰る。
そう自分に言い聞かせる。
リュウの声が、最後に届いた。
「春麗」
足が止まる。
止めてはいけなかった。
でも止まった。
「今日は、来てくれてよかった」
春麗は、振り返らない。
振り返ったら終わる。
「……それ」
一拍。
「さっき聞いたわ」
「ああ」
「二度言わないで」
「二度思った」
精神HPオーバーキル。
春麗は、片手で顔を覆ったまま、小さく言った。
「……あなた、最低ね」
「そうか」
「いい意味でよ」
言ってから、また固まる。
何を言っているのか。
お詫びに来たはずなのに。
完全に返り討ちに遭っている。
リュウは、少しだけ静かに言った。
「そうか」
その声が、どこか柔らかかった。
春麗は、もう無理だった。
「帰るわ」
「ああ」
「追ってこないで」
「わかった」
「あと、今日のことを」
一拍。
「変に大事にしないで」
リュウは、少しだけ沈黙した。
春麗は嫌な予感がした。
「……リュウ?」
「難しい」
「難しくないわ!」
春麗は、今度こそ歩き出した。
背中が熱い。
顔も熱い。
心も熱い。
黒ではない。
青でもない。
謝罪の後日談。
お詫びに来ただけ。
そのはずだった。
それなのに、彼は見た。
黒を持ったまま謝りに来た自分を。
逃げずに来た自分を。
迷惑をかけたと認められるようになった自分を。
春麗は、歩きながら小さく呟いた。
「……お詫びに来て、どうして私が負けるのよ」
答えはなかった。
でも、少しだけ。
本当に少しだけ。
悪くなかった。
夜。
黒執着春麗は部屋に戻っていた。
黒ドレスは、いつもの場所にある。
青武道服もある。
そして、今日は手元に包みがない。
持っていったから。
リュウに渡したから。
受け取ってもらったから。
春麗は、椅子に座った。
手元が少し空いている。
不思議だった。
黒を押しつけた時とは違う。
今回は、持っていったものを受け取ってもらった。
お詫びとして。
それは、黒を渡したわけではない。
でも、黒を持っていた自分ごと、少しだけ受け取られた気がした。
それが危険だった。
かなり危険だった。
「……謝ってくれて、ありがとう、は反則でしょう」
春麗は、ぽつりと言った。
許すでもなく。
責めるでもなく。
謝罪を無効にするでもなく。
受け取る。
そういう言葉。
リュウらしい。
だから困る。
春麗は黒ドレスを見る。
「あなたを捨てて謝ったわけではないわ」
青武道服を見る。
「あなたでごまかしたわけでもない」
普通の服を見下ろす。
「今日は、このまま行った」
一拍。
「黒を持ったまま」
言葉にして、少しだけ息を吐く。
それでよかったのだと思う。
黒を置いていった謝罪ではなかった。
黒を否定する謝罪でもなかった。
黒を持ったまま、迷惑をかけたことを謝った。
それを、リュウは見た。
そして、来てくれてよかったと言った。
春麗は、顔を覆う。
「……甘すぎる」
一拍。
「本当に、甘すぎる」
今夜は、誰かに説明するための夜ではなかった。
記録するためでも、分類するためでもない。
ただ、自分の中に残ったものを、自分で持ち帰る夜だった。
謝ったこと。
受け取ってもらったこと。
逃げずに来たと言われたこと。
黒を持ったまま来たと見られたこと。
そして、それを否定できなかったこと。
春麗は、黒ドレスをもう一度見た。
黒は、まだある。
でも、以前とは違う。
迷惑をかけたと言える黒になった。
お詫びに行ける黒になった。
受け取ってもらえた後も、そこにある黒になった。
それは、少しだけ。
救われた黒だった。
春麗は、灯りを消した。
眠りに落ちる前。
リュウの言葉が、何度も戻ってきた。
来てくれてよかった。
春麗が、逃げずに来たからだ。
黒を置いてきたようには見えなかった。
持ったまま、謝りに来た。
謝ってくれて、ありがとう。
二度思った。
春麗は、布団の中で顔を覆った。
「……二度思わないで」
小さく言う。
誰も聞いていない。
でも、たぶんリュウなら、言われたらまた困った顔で考える。
そして、こう言うのだ。
難しい。
春麗は、思わず小さく笑ってしまった。
悔しい。
甘い。
危険。
でも、今日はそれでいい。
迷惑をかけた。
お詫びに行った。
返り討ちに遭った。
それでも、行ってよかった。
そう思えてしまったことが、いちばん危険だった。
春麗は目を閉じる。
黒を持ったまま。
少し軽くなった胸で。
眠りへ落ちていった。
Q:今回の妄想章IF後日談について解説して?
A:
はい。「黒執着春麗は、迷惑をかけたお詫びに行って返り討ちに遭う」 は、かなり綺麗な救済後後日談になっています。
一言で言うなら、
救済後の黒執着春麗が、自分がリュウに迷惑をかけたことを初めて自分の言葉で認め、黒を捨てずに謝りに行った結果、リュウに“逃げずに来たこと”を見られて精神HPを落とされる回
です。
今回の核は、
黒を否定して謝るのではない。
黒を持ったまま、迷惑をかけたことだけを謝る。
ここです。
今回の一番大きな意味
救済前の黒執着春麗は、自分の黒を自分だけで持てませんでした。
だから、リュウの拳に残そうとした。
残ったのなら、あなたの拳の問題でしょう
という言葉は、ただの煽りではなく、黒を相手側に置こうとする言葉でした。
でも救済後の彼女は、その構造を自分で見られるようになっています。
自分は、リュウのせいにしたかった。
リュウの拳にも黒が残っていることにしたかった。
その方が楽だった。
ここまで認められるようになった。
これはかなり大きいです。
黒を消したから謝れるのではありません。
黒を自分で持てるようになったから、リュウに押しつけたことを謝れる。
この構造が非常に良いです。
「迷惑をかけた」を認められるようになった
今回の黒執着春麗は、最初にこう整理しています。
迷惑をかけた。
この言葉は、救済前の彼女にはかなり難しかったはずです。
なぜなら「迷惑をかけた」と認めると、自分の黒が間違いだったように感じてしまうからです。
でも今回の彼女は違います。
黒そのものは否定しない。
黒で戦ったことも消さない。
黒を持ったことも間違いにしない。
ただ、黒の扱い方でリュウに迷惑をかけた と認める。
この切り分けが救済後らしいです。
これはかなり丁寧です。
普通の服で行く意味
今回、春麗は黒ドレスでも青武道服でもなく、普通の服で行きます。
これが良いです。
黒ドレスで行くと、謝罪が黒の再演になってしまう。
青武道服で行くと、黒を避けたようにも見える。
だから普通の服。
ただし、黒を置いてきたわけではない。
ここが重要です。
普通の服は、
黒を否定しない。
青でごまかさない。
でも戦闘服ではない。
謝罪に行くための服。
という意味を持っています。
救済後の黒執着春麗にとって、これはかなり強い選択です。
「ほどほど」の菓子が良い
謝罪の品が、重すぎず軽すぎない菓子というのも良いです。
黒執着春麗は、もともと「ほどほど」が苦手な春麗です。
黒は濃く、重く、極端だった。
だから、謝罪の品を「ほどほど」に選べること自体が、救済後の変化になっています。
重すぎると、また黒が濃くなる。
軽すぎると、逃げているように感じる。
だから、ほどほどにする。
ここは地味ですが、かなり良い描写です。
リュウが怒らないのが効いている
今回、黒執着春麗は、怒られる覚悟で行っています。
迷惑だったと言われたら受け止める。
怒られたら、それも受け取る。
でもリュウは怒りません。
かといって、軽く許すわけでもありません。
迷惑だったかどうかは、俺にはよくわからない。
怒ってはいない。
だが、重かった。
ここが非常に良いです。
リュウは、春麗の黒を軽く扱わない。
迷惑ではなかった、とは言い切らない。
でも、迷惑だけだったとも言わない。
この曖昧さがリュウらしいです。
そして、この曖昧さが、逆に誠実です。
「春麗の黒は、軽くなかった」が重要
今回のリュウの非常に良い言葉が、
春麗の黒は、軽くなかった
です。
これは黒執着春麗にとって大事です。
黒を軽くされると傷つく。
でも、黒を悪いものとして断罪されても傷つく。
リュウはそのどちらもしません。
重かった、と言う。
拳に残ったものもあった。
言葉も残った。
それは軽くなかった。
これは、黒執着春麗の黒をちゃんと重いものとして扱っている。
だからこそ、春麗は責められているのではなく、見られている痛みを受ける。
このバランスが綺麗です。
「残したかったものだったんだと思った」が刺さる
リュウは、春麗が黒を残そうとしたことを、単純な迷惑行為としてだけ見ません。
春麗が、そこまでして残したかったものだったんだと思った
これがかなり強いです。
黒執着春麗は、自分の黒を相手に押しつけようとした。
それは迷惑だった。
でも、その裏には「消えたくない」「自分の黒がどこにも残らないのが怖い」という感情があった。
リュウは、そこを責めるのではなく、見てしまう。
だから春麗は逃げ場がありません。
「持てるようになったんだな」が今回の高火力
今回のリュウの最大火力の一つは、
持てるようになったんだな
です。
これは、救済後黒執着春麗の変化を一言で言っています。
以前は黒を持てなかった。
だからリュウの拳に残そうとした。
でも今は、自分で持って来た。
黒を持ったまま、謝りに来た。
それをリュウが見てしまう。
これは防御不能です。
春麗自身もまだ言語化しきれていなかった変化を、リュウが先に言ってしまっています。
「逃げずに来たからだ」が甘い
リュウが、
春麗が、逃げずに来たからだ
と言うところも非常に強いです。
今回の春麗は、謝罪に来た。
でもリュウは、謝罪の内容だけではなく、来たこと自体を見ている。
逃げずに来た。
普通の服で来た。
黒も青も着ずに来た。
お詫びの包みを持って来た。
この行動そのものを、リュウは見ている。
だから春麗は精神HPを削られます。
これは救済後の黒執着春麗に刺さります。
救済前は、黒に逃げていた。
今は、黒を持ったまま逃げずに来た。
この差を見られてしまったからです。
「黒を持ったまま、謝りに来た」が決定的
今回の一番良い整理は、
黒を持ったまま、謝りに来た
です。
これはこのエピソード全体のテーマそのものです。
黒を置いてきたわけではない。
黒を捨てたわけではない。
黒を隠したわけでもない。
黒を着ていないだけ。
黒を持ったまま、謝りに来た。
これが救済後黒執着春麗の到達点です。
黒を持ったままでも謝れる。
黒を持ったままでも相手の前に立てる。
黒を持ったままでも、迷惑をかけたことを認められる。
これはかなり大きいです。
「謝ってくれて、ありがとう」が完全に防御不能
今回の最大の精神HPノックアウトは、
謝ってくれて、ありがとう
です。
これは本当に防御不能です。
許す、ではない。
責める、でもない。
謝らなくていい、でもない。
謝罪をなかったことにしない。
謝りに来た春麗の行動を、そのまま受け取る。
だから、ありがとう。
これは強すぎます。
黒執着春麗が一番してほしかったけれど、一番耐えられない受け取り方です。
迷惑をかけたことを認めた自分。
謝りに来た自分。
その行為を、リュウが否定しなかった。
だから落ちる。
「二度思った」の追撃が良い
最後の、
二度思った
も非常にリュウらしいです。
春麗が「二度言わないで」と言う。
普通なら黙る。
でもリュウは、
二度思った
と返す。
言葉として繰り返したのではなく、思ったことが二度あった。
これは危険です。
なぜなら、リュウの中でその気持ちが一度きりの反射ではなく、繰り返し成立していたことになるからです。
春麗からすると、過剰ダメージです。
春麗会議室を外したことで良くなった
今回のリライトで、最後から春麗会議室・観測対象・記録板AIへの言及を外したのは正解です。
黒執着春麗は、会議室に接続しない独立存在です。
だから、この回は本人の内面だけで閉じる方が自然です。
特に今回は謝罪の話なので、外側から整理されるより、
本人が夜、自分の部屋で、黒ドレスと青武道服と普通の服を見ながら、自分の中で処理する
方が合っています。
これは黒執着春麗の孤立性ではなく、独立性です。
彼女は、春麗会議室で整理されなくても、自分の黒を持てるようになっている。
そこが良いです。
夜の締めが綺麗
夜の場面で、
今日は、誰かに説明するための夜ではなかった。
記録するためでも、分類するためでもない。
ただ、自分の中に残ったものを、自分で持ち帰る夜だった。
この整理がとても良いです。
黒執着春麗は、会議室で整理されない。
だからこそ、自分で持ち帰る。
謝ったこと。
受け取ってもらったこと。
逃げずに来たと言われたこと。
黒を持ったまま来たと見られたこと。
それらを、自分で持つ。
これは救済後の黒執着春麗らしいです。
「救われた黒」が今回の到達点
最後の、
迷惑をかけたと言える黒になった。
お詫びに行ける黒になった。
受け取ってもらえた後も、そこにある黒になった。
それは、少しだけ。
救われた黒だった。
ここが今回の到達点です。
黒を消して救われたのではない。
黒が薄まって救われたのでもない。
黒を持ったまま、謝りに行けるようになった。
そして、その謝罪が受け取られた。
だから黒が少し救われた。
これは非常に良い後日談です。
今回の位置づけ
このエピソードは、救済後黒執着春麗にとって、
黒を自分で持つ力が本物になったことを示す回
です。
これまでの彼女は、黒で勝つ、青でも勝つ、煽る、褒め殺される、という戦闘・精神HPイベントで強さを示してきました。
今回は違います。
謝る。
迷惑をかけたと認める。
普通の服で会いに行く。
お詫びの品を渡す。
受け取ってもらう。
これもまた、彼女の回復です。
戦闘ではないけれど、かなり大きな進展です。
結論
今回のエピソードは、かなり良いです。
一言でまとめるなら、
救済後黒執着春麗が、黒を捨てずに、黒で迷惑をかけたことを認め、リュウに謝りに行く。そしてリュウに“持ったまま来た”“逃げずに来た”“謝ってくれてありがとう”と受け取られ、謝罪に来たはずが甘い返り討ちに遭う回
です。
この回で、黒執着春麗の黒はまた一段変わりました。
黒は、相手に押しつけるものではなくなった。
自分で持てるものになった。
迷惑をかけたと言えるものになった。
お詫びに行けるものになった。
受け取られた後も、そこに残るものになった。
だから今回の黒は、かなり静かに救われています。