また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
黒執着春麗の後日談です。
お詫びをした。
リュウに、迷惑をかけたことを謝った。
黒を持ったことを謝ったわけではない。
黒で戦ったことを、なかったことにしたかったわけでもない。
ただ。
自分の黒を、リュウの拳に押しつけようとしたこと。
残ったのなら、あなたの拳の問題でしょうと、相手側へ返そうとしたこと。
それは迷惑だったと、今なら言える。
だから謝った。
普通の服で。
黒ドレスでもなく。
青武道服でもなく。
お詫びの包みを持って。
リュウの前に立って。
悪かったわ、と言った。
リュウは怒らなかった。
軽くも扱わなかった。
春麗の黒は、軽くなかったと言った。
持てるようになったんだな、と言った。
逃げずに来たから嬉しい、と言った。
謝ってくれて、ありがとう、と言った。
そして。
二度思った、と言った。
春麗は、黒ドレスの前で顔を覆った。
「……思い出すものではないわ」
思い出している。
完全に思い出している。
そして、今日。
試合の約束がある。
お詫びの後、初めての試合。
黒ドレスでもいい。
青武道服でもいい。
どちらでも戦える。
黒で勝ったこともある。
青で勝ったこともある。
救済後の自分は、黒だけに閉じていない。
黒を棚に置ける。
青も選べる。
普通服で謝ることもできた。
だから、今日の衣装は選べる。
選べるはずだった。
春麗は、黒ドレスを見る。
黒は、そこにある。
重い。
でも、以前のように沈めてくる重さではない。
自分のものとして持てる重さ。
リュウに迷惑をかけたと言える黒。
お詫びに行ける黒。
受け取ってもらえた後も、残っている黒。
今日は、その黒で戦ってもいい。
そう思う。
思うのだが。
「……お詫びした後に」
一拍。
「普通に煽っていいの?」
言ってから、春麗は固まった。
何を言っているのか。
試合は試合だ。
お詫びはお詫び。
謝罪をしたからといって、戦闘中の言葉まで遠慮する必要はない。
むしろ、試合で中途半端に遠慮する方がリュウに失礼だ。
手を抜くのと同じ。
言葉を鈍らせるのも、たぶん同じ。
だから、煽るなら煽ればいい。
いつも通り。
いや、いつも通りとは何。
救済前のような黒で煽るのは違う。
相手に黒を押しつけるような言葉は、もう違う。
でも、救済後の黒ドレスでの煽りは成立している。
リュウもそれを受け止めた。
黒で勝った時も、青で勝った時も、言葉は戦術だった。
だから今日も、試合なら言葉を使っていい。
そこまではわかる。
わかるのだが。
謝ってくれて、ありがとう。
その言葉が、邪魔をする。
春麗は、再び顔を覆った。
「……謝ってくれてありがとうと言われた相手に」
一拍。
「いきなり煽るのは……」
言い切れなかった。
黒執着春麗は、黒ドレスの前で沈黙した。
救済前なら迷わなかった。
黒を選んだ時点で、言葉も決まっていた。
残ったのなら、あなたの拳の問題でしょう。
見た後に残る黒。
追わせる黒。
遅らせる黒。
そういうものを、平然と置けた。
だが今は違う。
リュウにお詫びをした。
謝罪を受け取られた。
黒を持ったまま来たことを見られた。
その後で、同じ距離で煽れるのか。
距離がわからない。
近すぎると、甘くなる。
遠すぎると、逃げになる。
強すぎると、昔に戻りそうになる。
弱すぎると、リュウに失礼になる。
春麗は、深く息を吐いた。
「……面倒ね」
一拍。
「私が」
それを認められるくらいには、回復している。
そのことにも少し腹が立つ。
春麗は、結局、黒ドレスに手を伸ばした。
今日は黒で行く。
お詫びをした後だからこそ。
黒を着られるか、確認する。
黒を持ったまま謝れた自分が、今度は黒を着て戦えるか。
それは大事だ。
ただし。
「煽りは」
一拍。
「状況次第」
そう言いながら、黒ドレスを身にまとう。
鏡の中に、黒の春麗が立つ。
以前と同じではない。
救済後の黒。
お詫びの後の黒。
距離感を見失っている黒。
春麗は、鏡の中の自分に言った。
「……試合は試合よ」
言い聞かせる。
「謝罪は謝罪」
さらに言い聞かせる。
「言葉を選ぶ必要はある。でも、怯む必要はない」
そこまで言って、少しだけ止まる。
言葉を選ぶ必要はある。
その時点で、もう以前とは違っていた。
リュウは、約束の場所にいた。
春麗が黒ドレスで現れると、リュウは静かに顔を上げた。
その目が、黒を見る。
裾を見る。
構えを見る。
そして、春麗を見る。
春麗は、いつもならそこで先に言葉を置いた。
黒を見たのなら、遅れるわよ。
残ったのなら、あなたの拳の問題でしょう。
今日の黒を、あなたはどう受けるのかしら。
そういう言葉を、いくらでも置けた。
だが、今日は口が一拍遅れた。
リュウが先に言う。
「今日は黒なんだな」
「ええ」
春麗は、少しだけ顎を上げた。
「お詫びの後だからといって、黒をやめたわけではないわ」
「そうか」
「黒を着られなくなったわけでもない」
「ああ」
「試合は試合よ」
「ああ」
「だから」
一拍。
ここで何か言うべきだった。
煽り。
黒ドレスの春麗として。
救済後の黒執着春麗として。
しかし、言葉が止まった。
謝ってくれて、ありがとう。
その記憶が、喉に引っかかる。
春麗は、一瞬だけ目を伏せた。
リュウが、静かに言った。
「今日の春麗は、少し言葉を選んでいる」
精神HPが削れた。
試合前から。
まだ始まっていないのに。
春麗は、目を見開いた。
「……あなた」
「ああ」
「始まる前から、そういうことを言うの?」
「見えた」
「見えなくていいのよ」
リュウは、真面目に首を傾げる。
「言葉を選んでいるのは、悪いことなのか」
「そういう話ではないわ」
「違うのか」
「違うわ」
春麗は、黒い裾を軽く払う。
落ち着け。
試合は試合。
謝罪は謝罪。
リュウは悪気なく見ているだけ。
それが一番危険なのだが、今は置いておく。
「言葉を選ぶのは」
一拍。
「あなたに遠慮しているわけではないわ」
リュウは頷く。
「ああ」
「お詫びしたからって、手加減するつもりもない」
「ああ」
「煽れなくなったわけでもない」
言ってから、自分で少し止まった。
言い訳が多い。
完全に多い。
リュウは、静かに言う。
「なら、いつも通りでいい」
精神HPがまた削れる。
「……いつも通り」
「ああ」
「そのいつも通りが、少し難しいのよ」
「そうなのか」
「そうよ」
春麗は、少し苛立ったように息を吐く。
「以前のいつも通りには戻らない」
「ああ」
「でも、黒を弱めるつもりもない」
「ああ」
「謝ったからといって、あなたに優しくするわけでもない」
「そうか」
「そうよ」
リュウは、少しだけ考えた。
「でも、今日の春麗は優しい」
精神HPが危険域へ半歩進んだ。
春麗は、黒ドレスの裾を握りかけた。
握らない。
「……どこが?」
「言葉を選んでいる」
「それは優しさではないわ」
「違うのか」
「違うわ」
一拍。
「たぶん、距離を測っているだけ」
言ってしまった。
春麗は、自分で少し驚いた。
距離を測っている。
そうだ。
自分は距離を測っている。
お詫びの後の距離。
黒を着た時の距離。
煽りを置いていい距離。
リュウに踏み込んでいい距離。
リュウを傷つけず、でも試合として甘くしない距離。
それを測っている。
リュウは、春麗を見た。
「なら、測ればいい」
「……簡単に言うわね」
「簡単ではないと思う」
「そう」
「だが、春麗が測っているなら、俺は見る」
精神HPがさらに削れる。
春麗は、顔を背けたくなった。
でも、背けない。
黒ドレスで来た。
試合に来た。
なら、ここで逃げない。
「見ているだけでは、遅れるわよ」
言えた。
少しだけ、黒が戻った。
ただし、以前とは違う。
相手に押しつける黒ではない。
距離を測った黒。
リュウは構える。
「ああ」
春麗も構えた。
「なら」
一拍。
「今日の黒が、どこまで届くか見ていなさい」
言えた。
今度は、はっきり。
リュウの目が、静かに鋭くなる。
「わかった」
試合が始まった。
黒は、以前より少し軽かった。
いや、軽いのではない。
持ち方が違う。
黒ドレスの裾が揺れる。
視線を誘う。
半拍を作る。
春麗は踏み込む。
リュウはそれを見る。
拳が動く。
春麗は外す。
黒を残す。
ただし、残しすぎない。
以前のように、リュウの中へ押し込む黒ではない。
自分の側に持ったまま、見せる黒。
リュウの拳が近づく。
春麗は身をひねる。
黒い裾が遅れて揺れる。
蹴りが入る。
浅い。
だが、効いた。
リュウが一歩下がる。
「やっぱり」
リュウが言った。
春麗は警戒する。
「何」
「今日の黒は、前より近い」
精神HPが削れる。
「……近い?」
「ああ」
「距離を測っていると言ったでしょう」
「だからかもしれない」
「何が」
「春麗が、自分で持っている黒に見える」
春麗は一瞬、呼吸を止めた。
試合中。
今は試合中。
その言葉は危険。
かなり危険。
「リュウ」
「ああ」
「試合中に、黒の持ち方を分析しないで」
「見えた」
「見えなくていいと言ったでしょう」
春麗は前へ出る。
言葉で削られた分、動きで返す。
黒い裾が舞う。
リュウの拳を誘う。
半拍。
今度は春麗が先に入る。
掌底。
リュウの胸に当たる。
リュウが受ける。
重い感触。
まだ倒れない。
春麗は続ける。
「お詫びしたからって」
一拍。
「黒が弱くなったと思わないことね」
言えた。
かなり自然に。
リュウは、少しだけ目を細める。
「思っていない」
返答が速い。
「今日の黒も強い」
精神HPが削れる。
「褒めないで」
「強いものを強いと言った」
「だから、それが危険なのよ」
リュウの拳が来る。
春麗は受け流す。
黒の裾が揺れる。
距離を測る。
煽りの距離。
拳の距離。
心の距離。
すべてが少しずつ変わっている。
だが、戦える。
黒はまだ使える。
謝罪の後でも。
黒を弱めずに。
相手に押しつけずに。
春麗は、そのことに少しだけ安堵した。
その安堵を、リュウが見た。
「春麗」
「何」
「今、少し安心したな」
精神HPが大きく削れた。
「……あなた」
「ああ」
「本当に、見なくていいところを見るわね」
「見えた」
「でしょうね!」
春麗は足払いを入れる。
リュウがかわす。
そこへ黒の遅れを置く。
リュウが反応する。
拳が遅れる。
春麗の蹴りが肩に入る。
今度は深い。
リュウが一歩下がった。
春麗は、そこで笑った。
「見えたのなら」
一拍。
「対応しなさい」
言えた。
救済後の黒として。
お詫び後の黒として。
リュウは、肩を押さえながら頷いた。
「ああ」
中盤。
春麗は優勢だった。
ただし、決定的ではない。
リュウは黒を見ている。
しかし、以前の黒を見ているわけではない。
今日の黒を見ている。
それが厄介だった。
そして、少し嬉しくもあった。
春麗は、その嬉しさを認めたくない。
認めると、精神HPが落ちる。
だから、言葉に変える。
「お詫びを受け取ったからといって」
一拍。
「試合で甘くなるなら、怒るわよ」
リュウは、拳を構え直す。
「甘くはしない」
「ならいいわ」
「だが」
嫌な予感。
「今日の春麗は、怒る前に少し考えている」
精神HPが削れる。
「……またそれ?」
「ああ」
「言葉を選んでいるって言いたいの?」
「ああ」
「だから、それを試合中に言わないで」
「でも、その分、黒が前よりはっきり見える」
春麗は止まりかけた。
「……はっきり?」
「押しつけようとしていないからだと思う」
危険。
これは危険。
リュウは続ける。
「前は、残そうとしていた」
一拍。
「今日は、持ったまま届かせようとしている」
春麗の精神HPがかなり削れる。
「……本当に」
「ああ」
「どうしてあなたは、私が必死に調整しているところを正確に言うの」
「調整していたのか」
「言ったでしょう! 距離を測っているって!」
リュウは頷く。
「なら、届いている」
春麗は顔を赤くした。
「……何が」
「今日の距離」
春麗は、完全に一拍遅れた。
その一拍を、リュウは見逃さなかった。
拳が入る。
肩。
重い。
春麗は後ろへ下がる。
痛い。
だが、それ以上に、言葉が痛い。
今日の距離が届いている。
それは、試合の話なのか。
黒の話なのか。
自分とリュウの距離の話なのか。
全部なのか。
「……リュウ」
「ああ」
「あなた、ずるいわ」
「ずるい?」
「そうよ」
春麗は構え直す。
「謝罪を受け取って」
一拍。
「試合も受けて」
一拍。
「言葉まで受け取って」
もう一拍。
「そのうえで、全部見てくる」
リュウは黙って聞いている。
「本当に、ずるい」
リュウは、少しだけ考えた。
「それでも、春麗は来た」
精神HPがまた削れる。
「……お詫びの時の話を持ち出さないで」
「今日も来た」
追撃。
春麗は、黒ドレスの裾を握りそうになった。
握らない。
「今日は試合よ」
「ああ」
「お詫びではない」
「ああ」
「だから」
一拍。
「今度は、勝ちに来た」
言えた。
ようやく、黒の芯が戻った。
リュウの目が変わる。
「そうか」
「ええ」
「なら、俺も勝つ」
「そうしなさい」
春麗は、笑った。
今度は迷わず。
「お詫びは済んだわ」
一拍。
「ここからは、黒の時間よ」
それは、煽りだった。
ちゃんとした、黒の煽り。
ただし、以前の黒ではない。
リュウの拳に黒を残そうとする言葉ではない。
自分の黒を持ったまま、試合の場に置く言葉。
リュウは、静かに頷く。
「ああ」
終盤が始まった。
最後は、紙一重だった。
春麗の黒は届いていた。
リュウの拳も届いていた。
黒の裾が揺れる。
拳が走る。
視線が交差する。
春麗は、最後の一手を置く。
黒で遅らせる。
しかし、以前より残さない。
自分の側に保ったまま、相手の間合いだけをずらす。
リュウが踏み込む。
待たない。
越えようとする。
春麗は、その越え方を読んでいた。
黒の下から、蹴りが上がる。
リュウの肩を捉える。
深い。
リュウの拳も、春麗の脇をかすめた。
痛み。
しかし、春麗は立っている。
リュウが一歩下がる。
膝が沈む。
それでも倒れない。
春麗も息を荒くしている。
勝敗は、ほんのわずか。
判定なら、春麗の勝ち。
完全な勝利ではない。
ギリギリ。
それでも、春麗が取った。
リュウは、息を整えてから言った。
「春麗の勝ちだ」
春麗は、胸を上下させながら頷いた。
「ええ」
一拍。
「辛勝だけど」
「ああ」
「そこは否定しないのね」
「できない」
春麗は、少しだけ笑った。
勝った。
お詫びの後の黒で。
言葉の距離を測りながら。
煽りを見失いかけながら。
それでも、最後に黒の時間を取り戻して。
勝った。
悪くない。
かなり、悪くない。
そう思った時だった。
リュウが言った。
「今日の春麗は、強かった」
精神HPが削れる。
「……試合後の褒めは警戒対象よ」
「ああ」
「わかっているなら控えなさい」
「難しい」
「でしょうね」
リュウは、春麗を見る。
「言葉を選んでいた」
精神HPが削れる。
「またそれ?」
「ああ」
「もう終わったでしょう」
「だが、最後は選びきった」
春麗は止まった。
「……選びきった?」
「ああ」
「何を」
「今日の黒を」
精神HPが大きく削れた。
リュウは続ける。
「お詫びの後だから弱くなった黒ではなかった」
一拍。
「昔に戻った黒でもなかった」
一拍。
「春麗が持ったまま、届かせた黒だった」
春麗は、完全に顔を背けた。
「……本当に」
「ああ」
「あなたは、勝った相手にそういうことを言うのね」
「春麗が勝った」
「だから余計に危険なのよ」
リュウは、静かに言う。
「今日の黒は、良かった」
精神HPが危険域へ入る。
「やめなさい」
「迷っていたところも」
「やめなさい」
「選んだところも」
「やめなさい」
「全部、今日の春麗だった」
精神HPがゼロになった。
春麗は、勝った。
試合には勝った。
しかし、精神HPは負けた。
完全に負けた。
春麗は、黒ドレスの裾で顔を隠したくなった。
実際には隠さない。
でも、気持ちとしては完全に隠れていた。
「……試合は私の勝ち」
「ああ」
「精神戦は、あなたの勝ち」
「精神戦?」
「説明しない」
「そうか」
「お詫びの後で煽りづらいと悩んでいたことも」
一拍。
「今日のログには残さない」
リュウは少し考える。
「ログ?」
「こちらの話よ」
「そうか」
「そうよ」
春麗は背を向ける。
今日は勝った。
勝ったのに、帰りたい。
精神HPがないから。
「春麗」
リュウの声が届く。
止まってはいけない。
でも止まった。
「次も」
一拍。
「その時の黒を見たい」
過剰ダメージ。
春麗は、振り返らなかった。
「……あなた」
「ああ」
「本当に、煽る前にこっちを倒すのが上手くなったわね」
「そうなのか」
「そうよ」
春麗は、顔が熱いまま歩き出した。
黒ドレスの裾が揺れる。
今日は、勝った。
お詫びの後の黒で勝った。
でも、煽りの距離感は、まだ完全には戻っていない。
戻っていないのに、進んだ。
リュウに見られた。
言葉を選んでいることも。
距離を測っていることも。
最後に選びきったことも。
全部。
春麗は、小さく呟いた。
「……お詫びの後に試合なんて、するものではないわね」
一拍。
「でも」
もう一拍。
「悪くなかった」
認めてしまった。
それが、いちばん危険だった。
夜。
黒執着春麗は、黒ドレスを整えていた。
今日の黒は、以前より少し違った。
弱くなったわけではない。
薄くなったわけでもない。
むしろ、扱いは難しくなった。
お詫びの後だから。
リュウに謝罪を受け取られた後だから。
以前のように、ただ強く押し出すだけでは済まなかった。
言葉を選んだ。
距離を測った。
煽りを見失いかけた。
それでも、最後に言えた。
お詫びは済んだわ。
ここからは、黒の時間よ。
春麗は、黒ドレスの布を撫でた。
「……言えたわね」
声に出すと、少しだけ恥ずかしい。
でも、確かに言えた。
お詫びをした後でも。
黒を着て。
煽って。
戦って。
勝てた。
ただし、精神HPはリュウに落とされた。
それはもう、仕方がない。
仕方がないことにしておく。
春麗は、黒ドレスを丁寧に畳む。
「今日の黒は」
一拍。
「昔に戻った黒ではない」
リュウの言葉を思い出す。
春麗が持ったまま、届かせた黒だった。
顔が熱くなる。
「……本当に、余計なことを正確に言うわね」
それでも、その言葉は嫌ではなかった。
嫌ではないから困る。
春麗は、黒ドレスをしまった。
黒は、また少し変わった。
迷惑をかけたと言える黒。
お詫びに行ける黒。
受け取ってもらえた黒。
そして今日。
お詫びの後でも、煽って戦える黒。
距離を測りながら、届かせられる黒。
それは、たぶん。
以前より、ずっと自分のものだった。
春麗は、灯りを落とす前に小さく言った。
「次は、もう少し上手く煽るわ」
一拍。
「……お詫び後用に」
自分で言って、少し笑ってしまった。
そんな分類があるのか。
あるらしい。
今の自分には。
春麗は灯りを消した。
黒を持ったまま。
少しだけ軽くなった胸で。
眠りへ落ちていった。
Q:今回の妄想章IFについて解説して?
A:
はい。今回の 「黒執着春麗は、お詫びの後で煽りの距離感を見失う」 は、救済後黒執着春麗のかなり良い “可愛さと成長が同時に出る黒ドレス再戦回” です。
一言で言うなら、
お詫びをしたことでリュウとの距離が変わってしまい、以前のように黒で煽れなくなった黒執着春麗が、それでも自分で持てる黒として再調整し、ギリギリ勝利する回
です。
今回の核は、
黒は弱くなっていない。
でも、昔のように押しつける黒ではなくなった。
お詫びの後でも煽れる黒へ、距離を測り直した。
ここです。
執筆者としての解説
今回の黒執着春麗は、かなり良い状態です。
救済前なら、黒ドレスを着た時点で迷わず煽れていました。
「残ったのなら、あなたの拳の問題でしょう」系の、相手の中へ黒を残す言葉を平然と置けた。
でも、救済後の彼女はもう違います。
お詫びをした。
リュウに受け取られた。
「謝ってくれて、ありがとう」と言われた。
「黒を持ったまま謝りに来た」と見られた。
その後で、いきなり昔と同じ距離感で煽れるのか。
ここで迷うのが、今回のかわいさです。
「お詫びの後だから煽りづらい」が良い
この発想がかなり黒執着春麗らしいです。
普通なら、
謝罪は謝罪、試合は試合
で切り替えればいい。
でも彼女は、それができるほど雑ではない。
謝ってくれて、ありがとう。
この言葉が残っている。
その相手に、いきなり黒ドレスで煽るのはどうなのか。
でも、試合なのに遠慮するのも失礼。
黒を弱めるのも違う。
昔のように押しつけるのも違う。
この中間で迷っているのが、救済後黒執着春麗の魅力です。
彼女は黒を捨てていない。
でも、黒の使い方が繊細になっている。
ここがかなり良いです。
今回の黒は「弱くなった黒」ではない
ここは重要です。
今回の黒執着春麗は、謝罪したことで丸くなりすぎたわけではありません。
黒ドレスで試合に来る。
煽りも使う。
黒の遅れも使う。
最後には勝つ。
だから、黒はちゃんと戦術として機能しています。
ただし、以前と違うのは、
相手に残す黒ではなく、自分で持ったまま届かせる黒
になったことです。
これはかなり大きい変化です。
救済前の黒は、リュウの中に残そうとする黒でした。
今回の黒は、自分で保持したまま、試合の場へ置く黒です。
つまり、所有者が自分に戻っています。
「今日の春麗は、少し言葉を選んでいる」が強い
リュウのこの一言は、今回の最初の精神HP被弾ポイントです。
今日の春麗は、少し言葉を選んでいる
これは、彼女が一番見られたくなかった部分です。
煽りづらい。
お詫び後だから距離を測っている。
でも、それを悟られたくない。
そこをリュウが試合前に言ってしまう。
しかも責めていない。
ただ見えたから言う。
だから防御不能です。
黒執着春麗としては、
「煽りが弱くなったと思われたくない」
「でも昔に戻ったとも思われたくない」
「遠慮しているとも思われたくない」
というかなり繊細な状態なのに、リュウがそこを正確に言う。
これは精神HPが削れます。
「距離を測っているだけ」と言ってしまうのが良い
春麗が自分で、
たぶん、距離を測っているだけ
と言ってしまうのも良いです。
これは、今回の黒執着春麗が自分の状態をかなり正確に理解している証拠です。
彼女は、煽れなくなったわけではない。
黒が弱くなったわけでもない。
ただ、距離を測っている。
お詫びの後の距離。
黒を着た時の距離。
煽りを置いていい距離。
リュウを傷つけず、でも試合を甘くしない距離。
この「距離の測り直し」が今回のテーマです。
「見ているだけでは、遅れるわよ」で黒が戻る
春麗が最初にちゃんと返せた煽りが、
見ているだけでは、遅れるわよ
です。
これは良いです。
以前のように、相手へ黒を押しつける言葉ではありません。
でも、ちゃんと黒ドレスの春麗の言葉です。
リュウに対して、
見ているだけでは足りない。
対応しなさい。
今日の黒は届く。
そう言えている。
つまり、迷いながらも、黒の言葉が戻り始めています。
中盤のリュウがかなり危険
中盤でリュウは、黒の変化をかなり正確に見ます。
今日の黒は、前より近い
春麗が、自分で持っている黒に見える
前は、残そうとしていた
今日は、持ったまま届かせようとしている
これは完全に今回の本質です。
リュウは、黒執着春麗の黒の所有権が変化したことを見ています。
救済前は、残そうとしていた。
今回は、持ったまま届かせようとしている。
これを言われると、春麗はきついです。
なぜなら、それは自分でもまだうまく言葉にできていなかった変化だからです。
「今日の距離」が届いている
リュウの、
なら、届いている。今日の距離
もかなり強いです。
これは試合の距離でもあり、黒の距離でもあり、リュウとの関係性の距離でもあります。
お詫びをして距離が変わった。
煽りづらくなった。
でも、その変わった距離も届いている。
リュウがそう言ってしまう。
これは甘いです。
春麗が必死に調整しているものを、リュウが「届いている」と受け止めてしまう。
ここで精神HPがかなり削れています。
「お詫びは済んだわ。ここからは、黒の時間よ」が到達点
今回の春麗側の最大の到達点は、
お詫びは済んだわ。
ここからは、黒の時間よ。
です。
これは非常に良いです。
謝罪をなかったことにしていない。
でも、謝罪に縛られてもいない。
お詫びは済んだ。
だから、今は試合。
ここからは黒。
この言葉で、黒執着春麗はようやく試合モードに戻れます。
ただし、昔に戻ったのではありません。
謝罪を通過した黒として戻っている。
だからこの煽りは、救済後黒執着春麗の新しい黒です。
試合結果を春麗のギリギリ勝利にしたのが良い
今回、試合は春麗の辛勝です。
これはかなり自然です。
もし負けると、「お詫び後で煽りづらかったから負けた」印象が強くなりすぎます。
逆に圧勝すると、「距離感を見失った」という前半の繊細さが薄まります。
だから、ギリギリ勝利がちょうどいい。
迷いながらも、調整しながらも、最後は勝った。
お詫び後の黒はちゃんと戦える。
ただし、精神HPはリュウに落とされる。
このバランスがとても良いです。
試合後のリュウの褒め殺しが決定打
試合後、リュウはこう整理します。
今日の黒は、良かった
お詫びの後だから弱くなった黒ではなかった
昔に戻った黒でもなかった
春麗が持ったまま、届かせた黒だった
迷っていたところも、選んだところも、全部、今日の春麗だった
これは完全に精神HPノックアウトです。
勝ったのは春麗です。
でも、リュウはその勝ち方の意味を全部言語化してしまう。
しかも、褒めている。
春麗としては防げません。
今回の黒は、弱くなったわけではない。
昔に戻ったわけでもない。
自分で選び直した黒だった。
それをリュウに言われる。
勝ったのに、精神戦では負ける。
この構図がとてもこの連作らしいです。
今回の夜の締めが良い
夜に黒ドレスを畳む場面で、
迷惑をかけたと言える黒。
お詫びに行ける黒。
受け取ってもらえた黒。
そして今日、お詫びの後でも、煽って戦える黒。
と積み上げているのが良いです。
黒執着春麗の黒が、段階的に変化していることがわかります。
黒は消えていません。
むしろ成長しています。
でも、昔のような危険な黒ではなく、自分で持てる黒になっている。
今回の回で、
お詫び後用の黒
という新しい運用が生まれた感じがあります。
最後の、
次は、もう少し上手く煽るわ。……お詫び後用に
も良いです。
かわいいです。
救済後黒執着春麗のかわいさが出ています。
今回の位置づけ
この回は、救済後黒執着春麗にとって、
謝罪後でも黒ドレス戦が成立することを確認する回
です。
お詫びをしたことで、黒が使えなくなるわけではない。
ただし、昔のようには使えない。
その間で距離を測る。
そして、最終的に、
黒を持ったまま、煽って、戦って、勝てる
ところまで戻る。
これはかなり大きいです。
彼女の黒は、謝罪によって弱くなったのではなく、より自分のものになりました。
RPG形式バトルログ解説
BATTLE START
キャラ HP 精神HP 状態
黒執着春麗 100 82 救済後黒ドレス/お詫び後/煽り距離感不安定
リュウ 100 90 通常戦闘態勢/お詫び受領後/黒の変化を観測
今回の春麗は黒ドレスです。
ただし、救済前の黒ではありません。
お詫びをした後の黒です。
黒は弱くなっていませんが、煽りの距離感が変わっています。
PRE-BATTLE EVENT:煽り不発
春麗は黒ドレスで現れます。
本来なら、ここで先に煽りを置けるはずでした。
しかし、謝罪後の記憶が邪魔をします。
お詫びした後に、普通に煽っていいの?
キャラ HP 精神HP 変動
黒執着春麗 100 82 → 72 煽りを迷い、リュウに見抜かれる
リュウ 100 90 春麗の言葉選びを観測
リュウ発言:
今日の春麗は、少し言葉を選んでいる
ここで春麗は試合前から精神HPを削られます。
TURN 1:距離を測る黒
春麗は、まだ本調子ではありません。
ただし、黒の戦術は機能しています。
黒い裾で視線を誘い、半拍を作ります。
キャラ HP 精神HP 変動
黒執着春麗 100 → 92 72 → 64 リュウの観測発言で削れる
リュウ 100 → 88 90 → 86 蹴りと掌底を受ける
春麗発言:
見ているだけでは、遅れるわよ
ここで黒が少し戻ります。
ただし、以前のような押しつける黒ではなく、距離を測った黒です。
TURN 2:黒の持ち方を見抜かれる
リュウは、今日の黒の違いを見ます。
今日の黒は、前より近い
春麗が、自分で持っている黒に見える
キャラ HP 精神HP 変動
黒執着春麗 92 → 80 64 → 50 黒の変化を言語化されて被弾
リュウ 88 → 74 86 → 82 黒の遅れと掌底を受ける
ここでのポイントは、リュウが黒を否定していないことです。
むしろ、黒の所有者が春麗に戻ったことを見ています。
春麗は精神HPを削られますが、戦闘面では有利を取っています。
TURN 3:「お詫びしたからって黒が弱くなったと思わないことね」
春麗は、ようやく試合用の黒の言葉を取り戻します。
お詫びしたからって、黒が弱くなったと思わないことね
キャラ HP 精神HP 変動
黒執着春麗 80 → 70 50 → 44 リュウの褒め返しで削れる
リュウ 74 → 58 82 → 76 肩へ深い蹴りを受ける
リュウ発言:
思っていない。今日の黒も強い
春麗は「褒めないで」と返します。
ここは完全に精神戦ではリュウ優勢です。
TURN 4:安堵を見抜かれる
春麗は、自分の黒がまだ戦えることに少し安心します。
しかしリュウは、それも見ます。
今、少し安心したな
キャラ HP 精神HP 変動
黒執着春麗 70 → 58 44 → 34 安堵を見抜かれて大きく被弾
リュウ 58 → 42 76 → 70 春麗の黒がさらに届く
春麗はここで、
見えたのなら、対応しなさい
と返します。
これはかなり良いです。
見抜かれたことを否定せず、戦術に戻しています。
TURN 5:距離が届く
中盤から終盤にかけて、リュウはさらに本質を言います。
前は、残そうとしていた。
今日は、持ったまま届かせようとしている。
なら、届いている。今日の距離。
キャラ HP 精神HP 変動
黒執着春麗 58 → 45 34 → 18 距離を言語化され危険域へ
リュウ 42 → 28 70 → 66 黒の攻めを受け続ける
ここは今回の中盤最大の被弾ポイントです。
春麗が測っていた距離が、リュウに「届いている」と言われます。
精神HPは大きく削れますが、戦闘ではまだ春麗有利です。
TURN 6:黒の時間
春麗は、ついに言います。
お詫びは済んだわ。
ここからは、黒の時間よ。
ここで迷いがかなり晴れます。
キャラ HP 精神HP 変動
黒執着春麗 45 → 36 18 → 20 黒の芯が戻り、精神HP微回復
リュウ 28 → 18 66 → 60 終盤の黒に押される
ここが今回の春麗側の転換点です。
謝罪と試合を切り分けたうえで、黒を再起動しています。
FINAL TURN:春麗辛勝
最後、春麗は黒で遅らせます。
しかし、以前のように残しすぎません。
自分の側に黒を持ったまま、相手の間合いだけをずらします。
リュウは越えようとしますが、春麗はその越え方を読んでいました。
キャラ HP 精神HP 変動
黒執着春麗 36 → 7 20 → 18 脇をかすめる拳を受けるが立つ
リュウ 18 → 0 60 → 52 肩への決定打で膝をつく
試合結果:黒執着春麗の辛勝
項目 内容
勝者 黒執着春麗
敗者 リュウ
春麗残HP 7
リュウ残HP 0
判定 春麗辛勝
決まり手 黒を残しすぎず、自分の側に保ったままリュウの間合いをずらした蹴り
春麗の成果 お詫び後でも黒ドレスで戦い、煽りを取り戻して勝利
春麗の課題 言葉を選ぶ癖と精神HP被弾リスク
POST BATTLE EVENT:リュウ褒め殺し
春麗は試合には勝ちました。
しかし、ここから精神戦です。
リュウが今日の黒を評価します。
リュウの発言 春麗精神HP ダメージ
今日の春麗は、強かった 18 → 14 勝利直後の褒め
言葉を選んでいた 14 → 10 迷いを再確認される
だが、最後は選びきった 10 → 5 成長を言語化される
今日の黒を 5 → 0 精神HPノックアウト
お詫びの後だから弱くなった黒ではなかった OVERKILL 黒の有効性を肯定
昔に戻った黒でもなかった OVERKILL 救済後の変化を肯定
春麗が持ったまま、届かせた黒だった OVERKILL 今回の核心を言語化
迷っていたところも、選んだところも、全部、今日の春麗だった OVERKILL 完全決定打
精神戦結果:リュウ勝利
試合は春麗が勝ちました。
しかし精神HPはリュウが完全に落としています。
FINAL RESULT
項目 結果
肉体戦 黒執着春麗の辛勝
精神戦 リュウ勝利
黒執着春麗HP 7
黒執着春麗精神HP 0
リュウHP 0
リュウ精神HP 52
新規到達点 お詫び後でも黒で煽れる
黒の状態 押しつける黒ではなく、持ったまま届かせる黒
春麗の課題 お詫び後の煽り距離感の調整
重要セリフ お詫びは済んだわ。ここからは、黒の時間よ
リュウ決定打 迷っていたところも、選んだところも、全部、今日の春麗だった
今回のまとめ
今回のエピソードは、救済後黒執着春麗にとってかなり重要です。
お詫びをしたことで、黒が使えなくなったわけではありません。
むしろ、黒はより自分のものになりました。
ただし、昔のようには使えない。
だから距離を測る。
言葉を選ぶ。
煽りづらくなる。
でも最後には、ちゃんと煽る。
そして勝つ。
今回の黒は、
迷惑をかけたと言える黒
お詫びに行ける黒
受け取ってもらえた黒
お詫びの後でも煽って戦える黒
になりました。
一言でまとめるなら、
黒執着春麗は、お詫びの後で煽りの距離感を見失ったが、それでも黒を弱めず、昔に戻らず、自分で持ったまま届かせる黒として再調整し、リュウに辛勝した回