また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
眠りに落ちる前から、本編春麗は嫌な予感がしていた。
理由は、だいたいわかっている。
黒執着春麗のログだ。
お詫びに行った。
リュウに受け取られた。
黒を持ったまま謝った。
そして、その後。
今度は、黒ドレスで試合をしたらしい。
そこまでは、まだいい。
いや、よくはない。
かなりよくない。
ただ、問題はその中身だった。
お詫びの後だから、煽りづらい。
そう迷った黒執着春麗。
試合は試合。
謝罪は謝罪。
でも、謝ってくれてありがとうと言われた相手に、いきなり煽るのはどうなのか。
そんなことを考えた黒執着春麗。
本編春麗は、布団の中で顔を覆った。
「……何、そのヒロイン力」
自分で言って、さらに削れた。
黒執着春麗は、もともと危険な存在だった。
黒に沈む春麗。
黒をリュウの拳に残そうとする春麗。
黒を自分だけのものにできなかった春麗。
それが救済後、黒を自分で持てるようになった。
青も使えるようになった。
お詫びにも行けるようになった。
そして今度は、お詫び後の煽りの距離感で悩む。
強すぎる。
危険すぎる。
かわいすぎる。
本編春麗は、目を閉じた。
意識が沈んでいく。
青い光。
黒い影。
白い文字。
円卓。
椅子。
湯呑み。
眠りの底にある、高次の会議室。
春麗会議室。
本編春麗は、席に着いた瞬間、すでに机に片肘をついていた。
「今日は、来る前から疲れているわ」
記録板AIが即座に表示する。
『夢接続確認』
『対象:本編春麗』
『状態:精神HP警戒域』
『理由:黒執着春麗・お詫び後黒ドレス試合ログ到着前反応』
「だから到着前から削らないで」
『事前反応です』
「余計なのよ」
記録板AIの表示が切り替わる。
『本日の議題:救済後黒執着春麗・お詫び後黒ドレス試合ログ観測』
『本日の参加者』
『本編春麗:主人公性・ヒロイン力比較被弾担当』
『自覚前春麗:黒系統重複・存在感低下自覚担当』
『通常救済版春麗:安定化担当』
『行き遅れに恐怖する春麗:位置取り整理担当』
『黒ドレス特化救済春麗:特別参加/黒の扱い確認担当』
『記録板AI:ログ表示・保存・精神HP管理担当』
『グランドフィナーレ春麗:本日は不参加』
『黒執着春麗:観測対象/不参加』
『補足:黒執着春麗本人は本会議室へ接続していません』
『補足:本ログは会議室側による観測ログです』
本編春麗は、最後の二行を見て頷いた。
「そこは大事ね」
黒ドレス特化救済春麗が、静かに座っている。
「ええ。彼女はこちらには来ない」
通常救済版春麗が、湯呑みを置く。
「私たちが見るだけ」
自覚前春麗が、資料を手にしていた。
いつものように冷静な顔をしている。
ただし、少しだけ警戒している。
「また黒執着春麗のログなのね」
本編春麗が、疲れた声で言う。
「最近、多いわよね」
『黒執着春麗関連ログ増加傾向:事実』
「事実って言わないで」
記録板AIが、容赦なく次の表示を出した。
『概要』
『衣装:黒ドレス』
『状況:お詫び訪問後、初の黒ドレス試合』
『黒執着春麗の初期状態:煽り距離感不安定』
『主因:謝罪受領後のリュウとの距離変化』
『試合結果:黒執着春麗辛勝』
『精神戦結果:リュウ勝利』
本編春麗は、机に手を置いた。
「……試合には勝っているのね」
『はい』
「精神戦は負けているのね」
『はい』
「この連作、だいたいそうね」
『傾向として肯定します』
「肯定しなくていい」
自覚前春麗は、黙ってログを見ていた。
その表情はまだ平静だった。
ただ、目が少し細くなっていた。
記録板AIが、ログを開く。
『冒頭ログ』
『黒執着春麗:お詫び後、黒ドレス試合を前に煽り距離感で迷う』
『思考ログ一:お詫びした後に、普通に煽っていいの?』
『思考ログ二:いや、試合は試合』
『思考ログ三:でも、謝ってくれてありがとうと言われた相手に、いきなり煽るのは……』
本編春麗は、無言でログを見つめた。
そして、ゆっくり顔を覆った。
「……駄目」
自覚前春麗が、資料から目を離さず言う。
「何が?」
「全部」
通常救済版春麗が、少し微笑む。
「かなりかわいい迷い方ね」
本編春麗は、顔を覆ったまま言った。
「言わないで」
黒ドレス特化救済春麗が静かに頷く。
「でも、これは重要な迷いよ」
「わかっているわよ」
本編春麗は、ようやく顔を上げる。
「黒を弱めたくない。でも、謝罪の後で昔と同じ煽りはできない。相手に遠慮して手を抜くのも違う」
一拍。
「距離感の迷いとして、完璧すぎるのよ」
『本編春麗:黒執着春麗のヒロイン力に初回被弾』
「初回って何?」
『本ログ内での初回です』
「嫌な予告をしないで」
自覚前春麗が、少しだけ首を傾げた。
「資料として見ると、かなり強いわね」
「でしょう?」
「お詫び後に黒を選ぶ時点で強い」
「ええ」
「でも、黒を着たのに煽りづらいと迷う」
「ええ」
「さらに、それを隠そうとしてリュウに見抜かれる」
本編春麗は、机に突っ伏した。
「まとめないで」
『自覚前春麗:的確要約』
「保存しないで」
『保存しました』
行き遅れに恐怖する春麗が、湯呑みを両手で包みながら言う。
「距離を測っているのね」
黒ドレス特化救済春麗が頷く。
「ええ。お詫び後の距離。黒を着る距離。煽りを置く距離」
通常救済版春麗が続ける。
「リュウを傷つけず、でも試合を甘くしない距離」
本編春麗は、小さく呻く。
「……ヒロイン力が高すぎる」
『本編春麗:二回目被弾』
「数えないで」
自覚前春麗は、そこで一度だけ資料を閉じかけた。
しかし、閉じなかった。
もう一度、ログを見る。
「……黒ドレスで、煽りで、距離感で悩む」
ぽつりと呟く。
本編春麗が顔を上げる。
「何?」
「いえ」
自覚前春麗は、視線を外した。
「資料として、少し引っかかっただけ」
『自覚前春麗:違和感検知』
「表示しないで」
自覚前春麗が即座に言った。
しかし、表示は消えなかった。
記録板AIが、試合前ログへ進む。
『PRE-BATTLE LOG』
『黒執着春麗:黒ドレスでリュウの前に立つ』
『黒執着春麗発言:お詫びの後だからといって、黒をやめたわけではないわ』
『黒執着春麗発言:試合は試合よ』
『黒執着春麗:煽りを置こうとして一拍遅延』
『リュウ発言:今日の春麗は、少し言葉を選んでいる』
本編春麗と自覚前春麗が、同時に顔を覆った。
通常救済版春麗が、それを見て少し笑う。
「二人とも同じ反応ね」
本編春麗は顔を覆ったまま言う。
「これは無理」
自覚前春麗も言う。
「無理ね」
黒ドレス特化救済春麗が、静かに言う。
「リュウは、言葉の前の迷いを見たのね」
「それが無理なのよ」
本編春麗は机に沈む。
「黒ドレスで来ているのに、煽りが一拍遅れる。その理由が、お詫び後だから。そこをリュウに“言葉を選んでいる”と見られる」
一拍。
「圧倒的に、恋愛回じゃない」
『本編春麗:黒執着春麗ログを恋愛回認定』
「認定していない!」
『発言内容から判定』
「やめなさい!」
自覚前春麗は、資料を見ながら黙っていた。
本編春麗が、ふと気づく。
「自覚前春麗?」
「……何でもないわ」
『発言信頼度:低』
「低にしないで」
自覚前春麗は、わずかに苛立ったように言った。
通常救済版春麗が、穏やかに問いかける。
「何か気になったの?」
「資料として」
「ええ」
「この構造、少し……近いのよ」
本編春麗が首を傾げる。
「近い?」
自覚前春麗は、ゆっくり資料を開いた。
「黒ドレス」
一拍。
「煽り」
一拍。
「リュウに見抜かれる」
一拍。
「言葉を選んでいることを見られる」
一拍。
「黒の距離感を調整する」
記録板AIが即座に表示する。
『比較対象候補:自覚前春麗・黒ドレス系統』
『関連ログ:黒ドレス勝利/黒勝利酔いフラグ折損/資料としての黒/対照実験の青』
自覚前春麗は、表示を睨んだ。
「まだ比較対象候補よ」
『はい』
「確定ではないわ」
『現時点では未確定比較です』
「なら表示を弱めて」
『できません』
「本当に余計ね」
本編春麗は、少しだけ表情を変えた。
「ああ……そういうこと」
自覚前春麗は、視線を逸らす。
「そういうことではないわ」
『発言信頼度:低』
「低にしないで!」
通常救済版春麗が、静かに言う。
「自覚前春麗の黒ドレスも、以前はかなり強い軸だったものね」
「ええ」
本編春麗が頷く。
「資料として黒を見る春麗。黒ドレスで戦う春麗。黒勝利に酔いかけて、リュウに折られた春麗」
自覚前春麗は、顔をしかめる。
「言い方」
「でも、間違ってはいないでしょう?」
「……資料としては」
『発言信頼度:中』
「中なの?」
黒ドレス特化救済春麗が、静かに言う。
「黒執着春麗が救済後に黒を持てるようになったことで、黒系統の存在感がかなり強くなっている」
会議室が少し静かになる。
自覚前春麗は、ログを見つめる。
「……そうね」
認めた。
小さく。
だが、認めた。
ログは、戦闘中盤へ進む。
『TURN 1』
『黒執着春麗発言:見ているだけでは、遅れるわよ』
『判定:お詫び後初の有効煽り』
『黒の性質:押しつける黒ではなく、距離を測った黒』
『リュウ:対応開始』
『春麗優勢微増』
黒ドレス特化救済春麗が、静かに頷く。
「ここで、黒が戻っている」
本編春麗は、ログを見つめる。
「でも、昔の黒じゃない」
「ええ」
「相手に黒を残す言葉じゃない」
「ええ」
「見ているだけでは遅れる。対応しなさい。今日の黒は届く。そういう煽り」
「ええ」
通常救済版春麗が続ける。
「お詫び後でも、黒を弱めていない」
自覚前春麗が言う。
「でも、黒を押しつけてもいない」
記録板AIが表示する。
『判定:救済後黒・戦術運用成立』
『補足:黒の攻撃性は維持』
『補足:黒の押しつけ性は低下』
本編春麗は、腕を組んだ。
「……普通に強いわね」
『本編春麗:黒戦術評価』
「保存していいわ」
記録板AIが、即座に保存した。
自覚前春麗は、再び黙った。
今度は、先ほどよりも長く。
通常救済版春麗が、そっと言う。
「自覚前春麗?」
「……わかっているわ」
「何を?」
「私の黒は、資料として扱う黒だった」
一拍。
「黒執着春麗の黒は、救済後に自分で持てる黒になった」
一拍。
「黒ドレス特化救済春麗の黒は、黒を返し、持ち直させる黒」
さらに一拍。
「黒系統が、多いのよ」
記録板AIが光る。
『自覚前春麗:黒系統重複を自覚』
「表示しないで」
『重要です』
「重要だけど!」
本編春麗は、少し困ったように笑う。
「たしかに、黒系統の春麗が増えたわね」
自覚前春麗は、資料を閉じた。
「増えた、ではなく、強くなったのよ」
会議室が少し静かになった。
「黒執着春麗は、以前は危険ルートだった」
「ええ」
「でも今は、救済後の黒として、独立している」
「ええ」
「黒で謝る。黒で煽る。黒で勝つ。黒でかわいい」
一拍。
「……役割が強すぎるわ」
『自覚前春麗:黒執着春麗の黒系統内存在感に被弾』
「保存しないで」
『保存しました』
本編春麗は、思わず言った。
「黒でかわいい、は確かに強いわね」
「そこに同意しないで」
次のログ。
『TURN 2』
『リュウ発言:今日の黒は、前より近い』
『リュウ発言:春麗が、自分で持っている黒に見える』
『黒執着春麗:精神HP被弾』
『戦闘面:春麗有利継続』
本編春麗は、今度は黙った。
自覚前春麗も、資料を持つ手を止める。
通常救済版春麗が、静かに言う。
「これは良い言葉ね」
「良すぎるのよ」
本編春麗は低く言う。
「自分で持っている黒。これをリュウが言うのは、かなり危険」
黒ドレス特化救済春麗が頷く。
「救済後の黒執着春麗の核心ね」
「前は、黒をリュウに残そうとしていた」
「ええ」
「今は、自分で持っている」
「ええ」
「それを黒ドレス試合中に言われる」
「ええ」
本編春麗は、顔を覆った。
「強すぎる」
『本編春麗:三回目被弾』
「もう数えるのをやめて」
ログは続く。
『TURN 3』
『黒執着春麗発言:お詫びしたからって、黒が弱くなったと思わないことね』
『リュウ発言:思っていない』
『リュウ発言:今日の黒も強い』
『黒執着春麗反応:褒めないで』
本編春麗は、椅子にもたれた。
「かわいい」
会議室が静まった。
自覚前春麗が本編春麗を見る。
「今、言ったわね」
本編春麗は、顔を赤くして言い返す。
「言ったわよ。悪い?」
『本編春麗:黒執着春麗をかわいいと評価』
「保存しないで!」
『保存しました』
通常救済版春麗が微笑む。
「でも、かわいいわね」
黒ドレス特化救済春麗も、微かに笑う。
「ええ。救済後の黒執着春麗らしい反応ね」
本編春麗は、机に手を置く。
「お詫び後に黒が弱くなったと思わないことね、までは格好いいのよ」
「ええ」
「そこでリュウに“今日の黒も強い”と返されて、“褒めないで”になる」
一拍。
「かわいいでしょう」
『会議室内評価:かわいい』
「だから保存しないで!」
行き遅れ春麗が、ぽつりと言う。
「強いのに、褒められると弱い」
本編春麗は、また顔を覆った。
「それよ……」
中盤の本質ログが表示される。
『TURN 5』
『リュウ発言:前は、残そうとしていた』
『リュウ発言:今日は、持ったまま届かせようとしている』
『黒執着春麗:大被弾』
『リュウ発言:なら、届いている』
『リュウ発言:今日の距離』
本編春麗は、無言になった。
黒ドレス特化救済春麗も、静かにログを見つめている。
通常救済版春麗が、低く言った。
「これは、今回の中心ね」
本編春麗は頷く。
「前は残そうとしていた。今日は持ったまま届かせようとしている」
一拍。
「黒執着春麗の変化を、リュウが完全に言語化している」
自覚前春麗が言う。
「しかも“今日の距離”とまで言っている」
本編春麗は、机に額をつけたくなった。
「距離感で悩んでいる春麗に、今日の距離は届いていると言うのよ」
『本編春麗:戦慄反応』
「これは戦慄するわよ」
黒ドレス特化救済春麗が、ゆっくり口を開く。
「このログで、彼女の黒はかなり確定したわ」
「どういう意味?」
「黒を相手に残す段階から、自分で持ったまま届かせる段階へ移行した」
「ええ」
「そして、その距離を測ること自体が、黒の新しい運用になっている」
記録板AIが表示する。
『黒執着春麗・黒運用更新』
『旧:相手に残す黒』
『救済後:自分で持つ黒』
『今回:持ったまま距離を測り、届かせる黒』
本編春麗は、それを見た。
「……完成度が高いわね」
『本編春麗:黒執着春麗の完成度に被弾』
「被弾ばかりね、今日の私」
『はい』
「はい、じゃないわ」
終盤ログが開かれる。
『TURN 6』
『黒執着春麗発言:お詫びは済んだわ』
『黒執着春麗発言:ここからは、黒の時間よ』
『判定:お詫び後黒ドレス煽り・正式成立』
『春麗精神HP:微回復』
『戦闘面:春麗優勢拡大』
本編春麗は、そこで完全に沈黙した。
しばらくしてから、ぽつりと言う。
「……格好いい」
自覚前春麗も、今度は否定しなかった。
「ええ。格好いいわ」
本編春麗が少し驚く。
「素直ね」
「これは、認めるしかないもの」
黒ドレス特化救済春麗が、静かに目を細める。
「とても良い言葉ね」
本編春麗は、ログを見つめたまま言う。
「お詫びをなかったことにしていない」
「ええ」
「でも、お詫びに縛られてもいない」
「ええ」
「謝罪は済んだ。ここからは試合。ここからは黒」
「ええ」
「……強い」
『本編春麗:黒執着春麗の黒ドレス煽りに戦慄』
「保存していいわ」
『保存しました』
行き遅れ春麗が言う。
「位置が変わったのね」
本編春麗がそちらを見る。
「位置?」
「お詫びの位置から、試合の位置へ移動した」
「ええ」
「でも、お詫びの位置を消してはいない」
記録板AIが表示する。
『位置取り整理』
『謝罪位置:保存』
『試合位置:再接続』
『黒ドレス煽り:成立』
『黒の押しつけ:不成立』
『判定:お詫び後黒の位置取り成功』
本編春麗は、深く息を吐いた。
「……行き遅れ春麗、最近かなり刺すわね」
『行き遅れ春麗:位置取り整理担当として有効』
「保存していいわ」
『保存しました』
最終ターンが表示された。
『FINAL TURN』
『黒執着春麗:黒を残しすぎず、自分の側に保つ』
『リュウ:黒を越えようと踏み込む』
『黒執着春麗:越え方を読み、蹴りで決定打』
『試合結果:黒執着春麗辛勝』
『黒執着春麗残HP:7』
『リュウ残HP:0』
『判定:春麗辛勝』
本編春麗は、少しだけ口元を緩めた。
「勝ったのね」
通常救済版春麗が頷く。
「ええ」
自覚前春麗が言う。
「辛勝だけど、勝ちは勝ちね」
黒ドレス特化救済春麗が静かに言う。
「お詫び後の黒が、戦術として成立した」
本編春麗は、ログを見つめる。
お詫びの後だから煽りづらい。
距離を測る。
言葉を選ぶ。
それでも、黒を弱めず。
昔に戻らず。
最後には勝つ。
「……ヒロイン力だけじゃなくて、戦闘力もあるのよね」
『本編春麗:黒執着春麗の総合力に被弾』
「もう被弾しすぎているわ」
記録板AIが続ける。
『POST BATTLE LOG』
『リュウ発言:今日の春麗は、強かった』
『リュウ発言:言葉を選んでいた』
『リュウ発言:だが、最後は選びきった』
『リュウ発言:今日の黒を』
『リュウ発言:お詫びの後だから弱くなった黒ではなかった』
『リュウ発言:昔に戻った黒でもなかった』
『リュウ発言:春麗が持ったまま、届かせた黒だった』
『リュウ発言:迷っていたところも、選んだところも、全部、今日の春麗だった』
本編春麗は、もう何も言わなかった。
机に突っ伏した。
自覚前春麗も静かに資料を伏せた。
通常救済版春麗が、小さく息を吐く。
「これは、精神HPが落ちるわね」
黒ドレス特化救済春麗が頷く。
「ええ」
行き遅れ春麗も、湯呑みを包んだまま言う。
「迷ったことまで、今日の春麗に含められた」
本編春麗が、突っ伏したまま言う。
「それが無理なのよ」
『黒執着春麗:精神HPノックアウト』
『本編春麗:観測被弾継続』
『自覚前春麗:比較被弾継続』
自覚前春麗が顔を上げる。
「私も?」
『はい』
「私は資料として見ているだけよ」
『比較被弾です』
「……否定しきれないのが嫌ね」
記録板AIが、夜間内面ログを表示した。
『黒執着春麗・夜間整理』
『迷惑をかけたと言える黒』
『お詫びに行ける黒』
『受け取ってもらえた黒』
『お詫びの後でも、煽って戦える黒』
『距離を測りながら、届かせられる黒』
『黒執着春麗発言:次は、もう少し上手く煽るわ』
『黒執着春麗発言:……お詫び後用に』
本編春麗は、静かに顔を上げた。
そして、真顔で言った。
「かわいい」
自覚前春麗が、今度は少し笑った。
「二度目ね」
「もう認めるわよ」
『本編春麗:黒執着春麗をかわいいと再認定』
「保存していいわ」
『保存しました』
通常救済版春麗が微笑む。
「お詫び後用の煽り」
黒ドレス特化救済春麗が、少しだけ楽しそうに言う。
「新しい黒の運用ね」
行き遅れ春麗が言う。
「距離を測るための言葉」
本編春麗は、ログを見ながら小さく呟いた。
「……本当に、最近すごいわね。黒執着春麗」
誰もすぐには返さなかった。
静かな沈黙が落ちる。
記録板AIが、本日の結論を表示する。
『本日の結論』
『一、救済後黒執着春麗は、お詫び後初の黒ドレス試合において煽りの距離感を見失いました』
『二、黒は弱体化しておらず、押しつける黒から“自分で持ったまま届かせる黒”へ更新されました』
『三、黒執着春麗は“お詫びは済んだわ。ここからは、黒の時間よ”により、お詫び後黒ドレス煽りを成立させました』
『四、試合結果は黒執着春麗辛勝』
『五、精神戦はリュウ勝利』
『六、黒執着春麗の黒は“お詫びの後でも煽って戦える黒”へ更新されました』
『七、本編春麗は、黒執着春麗のヒロイン力・戦闘力・独立ログ力に戦慄しました』
会議室の輪郭が、少しずつほどけていく。
青い光。
黒い影。
白い文字。
本編春麗は、消えていくログを見つめた。
黒執着春麗は、ここには来ない。
でも、あちらで進んでいる。
そして、夢がほどけた。
朝。
本編春麗は目を覚ました。
部屋には、薄い光が入っている。
夢の会議室の記憶が、まだ残っていた。
黒執着春麗のログ。
お詫び後の黒。
言葉を選ぶ黒。
ここからは、黒の時間よ。
勝った黒。
リュウに褒め殺された黒。
彼女は彼女で頑張っている。
そして、自分はリュウが宿題の正式回答を出すのを待っている。
改めて、行き遅れに恐怖する春麗の強さを実感する朝だった。
Q:今回の断章IFについて解説して?
A:
一言で言うなら、
黒執着春麗の“お詫び後でも煽って戦える黒”を観測した結果、本編春麗はそのヒロイン力に戦慄回
です。
今回の核は、
黒執着春麗が急激に強くなりました。
お詫びに行ける黒。
お詫び後でも煽れる黒。
自分で持ったまま届かせる黒。
黒でかわいい。
黒で勝てる。
黒でリュウに褒め殺される。
これが強すぎた。
黒執着春麗のログが強すぎる
今回、観測されている黒執着春麗のログ自体が非常に強いです。
特に、
お詫びした後に、普通に煽っていいの?
でも、謝ってくれてありがとうと言われた相手に、いきなり煽るのは……
この迷いが強すぎます。
黒執着春麗は、もともと黒の危険ルートでした。
それが救済後、謝罪できるようになり、その後で黒ドレスを着た時に、今度は煽りづらくなる。
これはヒロイン力が高いです。
しかも、弱くなったわけではありません。
最後には、
お詫びは済んだわ。ここからは、黒の時間よ
と言って、黒ドレス煽りを成立させる。
この流れが非常に強い。
本編春麗が戦慄するのも、自覚前春麗が黒系統の危機を感じるのも自然です。
「黒でかわいい」が強い
今回かなり重要なのは、本編春麗が黒執着春麗を「かわいい」と認めてしまうところです。
黒執着春麗は、以前は危険な黒でした。
怖い。
重い。
危うい。
黒だけに沈みそう。
でも救済後は違います。
お詫びできる。
煽りづらいと悩む。
リュウに褒められて「褒めないで」と言う。
お詫び後用の煽りを考える。
これはかわいい。
しかも、ただかわいいだけではない。
黒で強い。
黒で勝てる。
黒で成長している。
そのうえでかわいい。
だから強い。
今回の到達点
黒執着春麗の黒が正式にさらに更新されたこと。
相手に残す黒
から、
自分で持つ黒
へ。
さらに、
持ったまま距離を測り、届かせる黒
へ。