また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※本編確定ではなく、断章IFです。


断章IF:春麗会議室は、負けた黒のヒロイン力に戦慄する

 

 春麗会議室の中央に、黒いログ札が置かれていた。

 

 黒いログ束ではない。

 

 重く積み上がった過去の束ではない。

 

 薄い。

 

 けれど、妙に濃い。

 

 黒執着春麗の新しいログ。

 

 救済後。

 

 黒ドレス。

 

 リュウとの再戦。

 

 結果。

 

 敗北。

 

 本編春麗は、その表示を見た瞬間、少しだけ眉を寄せた。

 

「……負けたの?」

 

 記録板AIが即座に表示する。

 

『はい』

 

『試合結果:リュウ辛勝』

 

『黒執着春麗:久しぶりの黒ドレス敗北』

 

『精神戦結果:リュウ勝利』

 

『黒執着春麗精神HP:ノックアウト』

 

 本編春麗は、椅子に座る前から額に手を当てた。

 

「試合に負けて、精神HPも落とされたのね」

 

『はい』

 

「なら、普通は敗北ログのはずよね」

 

『分類上は敗北ログです』

 

「でも、嫌な予感がするわ」

 

『妥当です』

 

「妥当って言わないで」

 

 記録板AIの表示が切り替わる。

 

『本日の議題:救済後黒執着春麗・黒ドレス敗北ログ観測』

 

『本日の参加者』

 

『本編春麗:ヒロイン力比較被弾担当』

 

『自覚前春麗:黒系統比較・資料観測担当』

 

『通常救済版春麗:安定化担当』

 

『行き遅れに恐怖する春麗:位置取り整理担当』

 

『黒ドレス特化救済春麗:特別参加/黒の扱い確認担当』

 

『記録板AI:ログ表示・保存・精神HP管理担当』

 

『グランドフィナーレ春麗:本日は不参加』

 

『黒執着春麗:観測対象/不参加』

 

『補足:黒執着春麗本人は本会議室へ接続していません』

 

『補足:本ログは会議室側による観測ログです』

 

 本編春麗は、最後の二行を確認して頷いた。

 

「そこは重要ね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が静かに言う。

 

「ええ。彼女はここには来ない」

 

 通常救済版春麗が湯呑みを置く。

 

「私たちが見るだけ」

 

 自覚前春麗が資料を手にする。

 

「今回は負けログなのね」

 

「そうらしいわ」

 

 本編春麗はログを見たまま言う。

 

「でも、負けログなのに圧があるのよ」

 

『本編春麗:観測前から警戒』

 

「保存しないで」

 

『保存しました』

 

 行き遅れ春麗が、湯呑みを両手で包む。

 

「負けた後に、次の位置ができたのかもしれない」

 

 本編春麗はそちらを見る。

 

「始まる前から刺すのやめて」

 

『行き遅れ春麗:予備整理』

 

「保存しなくていい」

 

『保存しました』

 


 

 記録板AIがログを開いた。

 

『冒頭ログ』

 

『黒執着春麗:黒ドレスを前に沈黙』

 

『状態:救済後/お詫び後黒運用経験済み/前回黒ドレス辛勝済み』

 

『今回目的:黒ドレスでリュウに勝つ』

 

『補足:圧勝ではなく、ギリギリ勝利を望む』

 

『準備状況:高』

 

『煽りセリフ:複数準備』

 

『勝利後用セリフ:準備あり』

 

 本編春麗は、無言になった。

 

 自覚前春麗も、資料を見る目を止めた。

 

 通常救済版春麗が、少しだけ微笑む。

 

「かなり気合いが入っているわね」

 

 本編春麗は、低い声で言う。

 

「勝利後用セリフまで準備しているの?」

 

『はい』

 

「負けたのに?」

 

『はい』

 

「……これは危険ね」

 

 自覚前春麗が、資料を見ながら呟く。

 

「黒ドレスで、ギリギリ勝つために、煽りだけでなく勝った後の言葉まで考える」

 

 一拍。

 

「かなり、黒執着春麗らしいわ」

 

 本編春麗が顔を覆う。

 

「やめて。すでにヒロイン力が高い」

 

『本編春麗:初回被弾』

 

「数えないで」

 

 黒ドレス特化救済春麗が、静かに言う。

 

「今回の重要点は、負ける前から黒が沈んでいないことね」

 

 本編春麗は顔を上げる。

 

「どういう意味?」

 

「彼女は黒を着る前に、勝つために準備している。黒に逃げるのではなく、黒で勝ちに行こうとしている」

 

「ええ」

 

「しかも、圧勝ではなく、リュウにギリギリ勝ちたい」

 

「ええ」

 

「それは、相手の強さを認めたうえでの黒」

 

 記録板AIが表示する。

 

『整理:黒執着春麗の目的』

 

『旧:黒を残す』

 

『救済後前回:黒を持ったまま届かせる』

 

『今回:強いリュウに、黒でギリギリ勝ちたい』

 

 本編春麗は、表示を見て黙った。

 

 そして、ぽつりと言う。

 

「……かなり強い更新ね」

 

『本編春麗:黒更新評価』

 

「保存して」

 

『保存しました』

 


 

 ログが進む。

 

『PRE-BATTLE LOG』

 

『黒執着春麗発言:今日は、黒を見て遅れても言い訳は聞かないわ』

 

『リュウ発言:遅れないようにする』

 

『黒執着春麗発言:前より見えるようになった?』

 

『リュウ発言:今日の春麗は、前より準備してきたように見える』

 

 本編春麗は、椅子から少しずり落ちそうになった。

 

「始まる前から?」

 

『はい』

 

「準備を見抜いたの?」

 

『はい』

 

「黒ドレスで気合いを入れて、煽りまで準備してきたことを?」

 

『はい』

 

「リュウ、何をしているの?」

 

『観測です』

 

「観測が強すぎるのよ」

 

 自覚前春麗が、顔を少しだけ背ける。

 

「これは無理ね」

 

 本編春麗がそちらを見る。

 

「あなたも?」

 

「資料としても、かなり無理」

 

「資料として無理って何?」

 

「見られたくない準備を、試合前に見られている」

 

 一拍。

 

「しかも、黒ドレスで」

 

 本編春麗は机に突っ伏した。

 

「そうなのよ」

 

 通常救済版春麗が、穏やかに言う。

 

「でも、リュウはからかっていないのよね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が頷く。

 

「ええ。ただ、見えたものを言っている」

 

 行き遅れ春麗が小さく言う。

 

「準備してきた位置を、最初に見られた」

 

 記録板AIが表示する。

 

『精神HP被弾要因:準備観測』

 

『黒執着春麗:試合前精神HP微減』

 

『本編春麗:観測被弾』

 

 本編春麗は顔を上げた。

 

「私まで削らないで」

 

『比較被弾です』

 

「でしょうね!」

 


 

 記録板AIが戦闘ログを表示する。

 

『TURN 1』

 

『序盤:黒執着春麗優勢』

 

『黒の遅れ:有効』

 

『黒の残し方:調整済み』

 

『リュウ:黒を観測しながら対応』

 

『リュウ発言:いい黒だ』

 

『黒執着春麗反応:試合中に評価しないで』

 

 本編春麗は、目を細めた。

 

「いい黒だ、は危険ね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が頷く。

 

「かなり危険」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「黒を否定していない。黒の質を見ている」

 

 自覚前春麗が資料に書き込む。

 

「しかも序盤は春麗優勢」

 

 本編春麗はログを見ながら言う。

 

「負けログなのに、黒はちゃんと機能しているのね」

 

『はい』

 

『補足:今回の敗北は黒の失敗ではありません』

 

 本編春麗は少しだけ黙る。

 

「そこ、大事ね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が静かに言う。

 

「ええ。負けたから黒が駄目だった、ではない」

 

「ええ」

 

「黒は機能した。準備も機能した。煽りも機能した」

 

「ええ」

 

「それでも、リュウが強かった」

 

 記録板AIが表示する。

 

『重要整理:黒は失敗していない』

 

『敗因:リュウが黒を越えた』

 

『黒執着春麗の黒:有効状態を維持』

 

 本編春麗は頷いた。

 

「保存して」

 

『保存しました』

 


 

 ログは中盤に入る。

 

『TURN 2』

 

『リュウ:黒の半拍を少しずつ越え始める』

 

『黒執着春麗:悔しさと高揚を同時に認識』

 

『黒執着春麗内面:リュウが強いから、ギリギリ勝ちたい』

 

『黒執着春麗発言:やっぱり、あなたは強い』

 

『リュウ発言:春麗も強い』

 

『黒執着春麗反応:褒め返さないで』

 

 本編春麗は、深く息を吐いた。

 

「……負ける前に、もうヒロイン力が高い」

 

『本編春麗:二回目被弾』

 

「だから数えないで」

 

 自覚前春麗が資料を見つめる。

 

「リュウが強いから、ギリギリ勝ちたい」

 

 一拍。

 

「これは、かなり良いわね」

 

 本編春麗はそちらを見る。

 

「素直に褒めるのね」

 

「資料としても、感情としても良いものは良いわ」

 

『自覚前春麗:黒執着春麗ログを高評価』

 

「保存しないで」

 

『保存しました』

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「この時点で、黒執着春麗は相手の強さを受け入れているのね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が頷く。

 

「救済前なら、負けや悔しさをリュウのせいにする方向へ行きやすかった」

 

「ええ」

 

「でも今は、リュウが強いから勝ちたい、になっている」

 

 本編春麗は、静かに言う。

 

「かなり健全な悔しさね」

 

『新規整理:健全な悔しさ』

 

「保存していいわ」

 

『保存しました』

 

 行き遅れ春麗が、湯呑みを見つめたまま言う。

 

「勝ちたい位置に立てている」

 

 本編春麗が顔を向ける。

 

「勝ちたい位置?」

 

「相手を責める位置ではなく、次に向かう位置」

 

 会議室が静かになる。

 

 記録板AIが表示する。

 

『位置取り整理』

 

『救済前:黒を残して相手側へ置く』

 

『救済後今回:強い相手に勝ちたい位置へ立つ』

 

 本編春麗は、少しだけ目を細めた。

 

「……今日の行き遅れ春麗も刺すわね」

 

『行き遅れ春麗:位置取り整理担当として有効』

 

「保存していいわ」

 

『保存しました』

 


 

 終盤ログが開く。

 

『FINAL TURN』

 

『黒執着春麗:二段目の黒を設置』

 

『リュウ:黒を越えるのではなく、黒に踏み込む』

 

『黒執着春麗:蹴りを入れる』

 

『リュウ:同時に内側へ入り、一撃を入れる』

 

『判定:リュウ辛勝』

 

『黒執着春麗:久しぶりの黒ドレス敗北』

 

 本編春麗は、ログを見つめる。

 

「黒を越えるのではなく、黒に踏み込む」

 

 黒ドレス特化救済春麗が静かに頷く。

 

「リュウ側も進んでいるわね」

 

「ええ」

 

「黒を避けるでも、遅れるでもなく、踏み込んだ」

 

「ええ」

 

「だから勝った」

 

 自覚前春麗が言う。

 

「黒執着春麗の黒が弱かったのではなく、リュウが踏み込めるようになった」

 

 本編春麗は、静かに頷く。

 

「かなり良い敗北ね」

 

『本編春麗:敗北ログを高評価』

 

「保存していいわ」

 

『保存しました』

 

 通常救済版春麗が、優しく言う。

 

「負けても、黒は壊れていない」

 

 行き遅れ春麗が続ける。

 

「むしろ、次に勝ちたい位置ができた」

 

 記録板AIが表示する。

 

『敗北判定』

 

『黒の失敗:不成立』

 

『黒の沈降:不成立』

 

『悔しさ:成立』

 

『次回勝利欲求:成立』

 

『精神HP損傷:戦闘後リュウ発言により発生』

 

 本編春麗は最後の行を見る。

 

「ここからが本番ね」

 

『はい』

 

「嫌な本番ね」

 


 

 記録板AIが、試合後ログを展開した。

 

『POST BATTLE LOG』

 

『黒執着春麗:悔しがる』

 

『黒執着春麗内面:やはりリュウが強いから、ギリギリ勝ちたい』

 

『リュウ発言:春麗が、かなり準備してきたからだ』

 

『リュウ発言:最初の一言も、動きも、黒の置き方も』

 

『リュウ発言:いつもより丁寧だった』

 

 本編春麗は、無言で机に突っ伏した。

 

 自覚前春麗も、資料を閉じた。

 

 通常救済版春麗が、小さく息を吐く。

 

「これは……」

 

 黒ドレス特化救済春麗が続ける。

 

「かなり強いわね」

 

 本編春麗は、突っ伏したまま言う。

 

「勝った直後に、準備してきたことを全部見抜いて褒めるのは反則よ」

 

『本編春麗:反則認定』

 

「保存して」

 

『保存しました』

 

 自覚前春麗が低い声で言う。

 

「最初の一言も、動きも、黒の置き方も」

 

 一拍。

 

「そこまで見られていたら、無理ね」

 

 本編春麗が頷く。

 

「無理よ」

 

 通常救済版春麗が穏やかに整理する。

 

「春麗が勝ちに来ていたことを、リュウは受け取っている」

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「しかも、黒を評価しているだけではない。準備した春麗そのものを見ている」

 

 行き遅れ春麗が、静かに言う。

 

「準備してきた位置ごと見られた」

 

 本編春麗は、顔を上げる。

 

「……それがヒロイン力を上げているのよ」

 

『本編春麗:黒執着春麗のヒロイン力上昇を確認』

 

「保存していいわ」

 

『保存しました』

 

 記録板AIがさらにログを出す。

 

『リュウ発言:春麗は、今日、勝ちに来ていた』

 

『リュウ発言:黒で』

 

『リュウ発言:俺に』

 

『リュウ発言:ぎりぎり勝ちに来ていた』

 

 本編春麗は、今度は完全に顔を覆った。

 

「やめて」

 

『続きがあります』

 

「あるでしょうね!」

 

 自覚前春麗が、資料を見ずに言う。

 

「黒で、俺に、ぎりぎり勝ちに来ていた」

 

 一拍。

 

「本人の欲求を、相手側から言語化されているわ」

 

 通常救済版春麗が頷く。

 

「黒執着春麗が言葉にしきれなかった部分を、リュウが言っている」

 

 黒ドレス特化救済春麗が静かに言う。

 

「これは精神HPが落ちるわ」

 

 本編春麗は、顔を覆ったまま言う。

 

「私でも落ちるわ」

 

『本編春麗:観測被弾大』

 

「表示しないで」

 

『保存しました』

 

 記録板AIは続ける。

 

『リュウ発言:春麗がそこまで準備してきたなら』

 

『リュウ発言:俺も、ただ勝つだけでは足りないと思った』

 

『リュウ発言:今日の春麗には、ぎりぎりで勝ちたかった』

 

 会議室が停止した。

 

 誰も、すぐには言わなかった。

 

 本編春麗は、ゆっくり顔を上げる。

 

「……これは」

 

 自覚前春麗が静かに言う。

 

「駄目ね」

 

 通常救済版春麗も頷く。

 

「駄目ね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「完全に駄目」

 

 行き遅れ春麗が、湯呑みを包む手に少し力を込める。

 

「同じ位置に立たれたのね」

 

 本編春麗が、そちらを見る。

 

「同じ位置?」

 

「黒執着春麗は、強いリュウにギリギリ勝ちたいと思った」

 

「ええ」

 

「リュウは、準備してきた今日の春麗にギリギリ勝ちたいと思った」

 

「ええ」

 

「互いに、相手を強いものとして見ている」

 

 記録板AIが表示する。

 

『相互位置成立』

 

『黒執着春麗:強いリュウにギリギリ勝ちたい』

 

『リュウ:準備してきた黒執着春麗にギリギリ勝ちたい』

 

『精神HP破壊力:極大』

 

 本編春麗は、机に手を置いた。

 

「圧倒的ヒロイン力」

 

『本編春麗:正式認定』

 

「認定していいわ」

 

『保存しました』

 

 自覚前春麗が、少しだけ眉を寄せる。

 

「負けたのに、ヒロイン力が上がっている」

 

「そうなのよ」

 

 本編春麗は、真顔で言う。

 

「そこが怖いのよ」

 

 通常救済版春麗が微笑む。

 

「負けたからこそ見えるものがあるのね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が頷く。

 

「負けても黒が壊れない。悔しがれる。次に勝ちたいと言える。しかも、その準備をリュウに見られる」

 

 本編春麗は、静かに言う。

 

「強い。かわいい。悔しい。次がある」

 

 一拍。

 

「これは強すぎるわ」

 

『本編春麗:黒執着春麗の敗北ヒロイン力に戦慄』

 

「保存して」

 

『保存しました』

 


 

 記録板AIが、最後の追撃を表示した。

 

『リュウ発言:今日の春麗は、全部使って俺に勝とうとしていた』

 

『リュウ発言:だから、強かった』

 

『黒執着春麗:精神HPノックアウト』

 

『黒執着春麗発言:次は、私がギリギリで勝つ』

 

『リュウ発言:なら、俺も今日より見る』

 

『リュウ発言:次の黒も、見たい』

 

 本編春麗は、椅子にもたれた。

 

「……オーバーキルね」

 

『はい』

 

「次の黒も見たい、まで言うのね」

 

『はい』

 

「勝った側が」

 

『はい』

 

「負けた春麗に」

 

『はい』

 

「準備を見抜いて、強かったと言って、次の黒も見たいと言うのね」

 

『はい』

 

「本当に何なの、リュウ」

 

『リュウです』

 

「答えになっているのが腹立たしいわ」

 

 自覚前春麗が資料を見ながら言う。

 

「これ、黒執着春麗にとっては敗北なのに、次回予告になっているわね」

 

 本編春麗は頷く。

 

「そう。そこが強い」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「負けて終わりではない」

 

 黒ドレス特化救済春麗が続ける。

 

「黒が沈まず、次の黒になる」

 

 行き遅れ春麗が言う。

 

「次の位置ができた」

 

 記録板AIが表示する。

 

『敗北ログ最終整理』

 

『試合結果:リュウ辛勝』

 

『精神戦結果:リュウ勝利』

 

『黒執着春麗:完全敗北ではあるが、黒の沈降なし』

 

『敗北後欲求:次はギリギリ勝ちたい』

 

『黒の状態:悔しさで燃える黒』

 

『新規到達点:負けても次に勝ちたい黒』

 

 本編春麗は、その表示を見て静かに頷いた。

 

「……これ、かなり重要ね」

 

『保存します』

 

「して」

 

『保存しました』

 


 

 夜間整理ログが開く。

 

『黒執着春麗・夜間整理』

 

『負けた』

 

『悔しい』

 

『黒は沈まない』

 

『次に着るために畳む』

 

『リュウが強いから、勝ちたい』

 

『ギリギリで』

 

『負けても、自分を空にしない黒』

 

『負けても、リュウのせいにしない黒』

 

『負けても、次に勝ちたいと言える黒』

 

 本編春麗は、黙って読んだ。

 

 自覚前春麗も、今回は茶々を入れなかった。

 

 通常救済版春麗が、静かに微笑む。

 

「良い黒ね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が頷く。

 

「ええ。救済後の黒として、とても良い」

 

 本編春麗は、ゆっくり言う。

 

「負けても、自分を空にしない黒」

 

「ええ」

 

「負けても、リュウのせいにしない黒」

 

「ええ」

 

「負けても、次に勝ちたいと言える黒」

 

「ええ」

 

 一拍。

 

「……これ、救済の成果そのものね」

 

『本編春麗:救済成果を認定』

 

「保存して」

 

『保存しました』

 

 自覚前春麗が、少しだけ視線を落とす。

 

「黒系統、また更新されたわね」

 

 本編春麗は、自覚前春麗を見る。

 

「大丈夫?」

 

「資料としては、大丈夫」

 

『発言信頼度:中』

 

「中なのね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が、自覚前春麗に言う。

 

「黒執着春麗の黒は、また更新された。でも、あなたの黒とは同じではない」

 

 自覚前春麗は、少し黙る。

 

「……わかっているわ」

 

『発言信頼度:中』

 

「中から上げて」

 

『検討します』

 

 本編春麗は、少しだけ苦笑した。

 

 黒執着春麗は、また強くなった。

 

 しかも、負けて強くなった。

 

 これはかなり厄介だ。

 

 主人公としても、同じ春麗としても、会議室の観測者としても。

 

 けれど、嫌ではない。

 

 ただ、戦慄する。

 

 負けたのに輝いている。

 

 悔しがっているのに折れていない。

 

 リュウに褒め殺されて倒れているのに、次へ向かっている。

 

 本編春麗は、深く息を吐いた。

 

「……本当に、圧倒的ヒロイン力ね」

 

『本編春麗:再度認定』

 

「保存していいわ」

 

『保存しました』

 


 

 記録板AIが、本日の結論を表示する。

 

『本日の結論』

 

『一、救済後黒執着春麗は、黒ドレスでリュウに久しぶりの敗北を喫しました』

 

『二、敗北理由は黒の失敗ではなく、リュウが黒に踏み込んだためです』

 

『三、黒執着春麗は敗北をリュウのせいにせず、リュウが強いからギリギリ勝ちたいと認識しました』

 

『四、リュウは黒執着春麗が気合いを入れて準備してきたことを見抜いていました』

 

『五、リュウは“今日の春麗には、ぎりぎりで勝ちたかった”と発言し、黒執着春麗の精神HPを破壊しました』

 

『六、試合結果はリュウ辛勝、精神戦もリュウ勝利』

 

『七、ただし黒執着春麗の黒は沈まず、悔しさで燃える黒へ更新されました』

 

『八、新規到達点:負けても次に勝ちたい黒』

 

『九、本編春麗は黒執着春麗の敗北ヒロイン力に戦慄しました』

 

 本編春麗は九番を見る。

 

「敗北ヒロイン力」

 

『はい』

 

「嫌な言葉なのに、正しいわね」

 

『保存します』

 

「して」

 

『保存しました』

 

 通常救済版春麗が、お茶を差し出す。

 

「今日は、重いというより熱いログだったわね」

 

 本編春麗は湯呑みを受け取る。

 

「ええ。黒が沈むのではなく、燃えた」

 

 行き遅れ春麗が言う。

 

「次の位置が、負けた場所から生まれた」

 

 黒ドレス特化救済春麗が頷く。

 

「救済後だからこそできた敗北ね」

 

 自覚前春麗が、小さく言う。

 

「負けても更新される黒」

 

 一拍。

 

「強いわね」

 

 本編春麗は頷いた。

 

「強いわ」

 

 会議室の空気が、少しずつほどけていく。

 

 黒いログ札は、中央で静かに光っている。

 

 それは、重いログ束ではない。

 

 沈む黒でもない。

 

 負けた黒。

 

 悔しい黒。

 

 燃える黒。

 

 次に勝つための黒。

 

 本編春麗は、最後にもう一度ログを見る。

 

 黒執着春麗は、ここには来ない。

 

 けれど、またあちらで進んだ。

 

 勝っても進む。

 

 負けても進む。

 

 黒を沈めず、次へ燃やす。

 

 本編春麗は、目を閉じる。

 

「……やっぱり、負けていられないわね」

 

『本編春麗:主人公性刺激』

 

「保存して」

 

『保存しました』

 

 白い文字が薄れていく。

 

 青い光と黒い影がほどけていく。

 

 最後に記録板AIが、小さく表示した。

 

『次回以降:黒執着春麗の再戦欲求、継続観測推奨』

 

 本編春麗は、ため息交じりに言った。

 

「推奨されなくても、届くのでしょうね」

 

『はい』

 

「本当に、圧倒的ね」

 

 その言葉を最後に、会議室は静かに消えた。

 


 

 朝。

 

 本編春麗は目を覚ました。

 

 部屋には薄い光が入っている。

 

 昨夜のログが、まだ残っていた。

 

 黒ドレス。

 

 準備してきた黒。

 

 リュウに見抜かれた準備。

 

 久しぶりの敗北。

 

 悔しさ。

 

 やはりリュウが強いから、ギリギリ勝ちたいという黒。

 

 そして。

 

 今日の春麗には、ぎりぎりで勝ちたかった。

 

 次の黒も、見たい。

 

 本編春麗は、布団の中で顔を覆った。

 

「……勝っても負けても、あの子は強いわね」

 

 黒執着春麗は、会議室には来ない。

 

 でも、ログだけでこちらを揺らす。

 

 しかも今回は、勝利ログではない。

 

 敗北ログだ。

 

 それなのに、ヒロイン力が上がっている。

 

 負けて、悔しがって、次に勝ちたいと思っている。

 

 その準備までリュウに見抜かれて、精神HPを落とされている。

 

 本編春麗は、ゆっくり起き上がった。

 

 青い武道服を見る。

 

 自分の青。

 

 宿題を持つ青。

 

 正式回答を待つ青。

 

 黒とは違う。

 

 でも、負けていられない。

 

「……私も、次を持っているわ」

 

 小さく呟く。

 

 黒執着春麗には、次の黒がある。

 

 本編春麗には、リュウへの宿題の正式回答待ちがある。

 

 それぞれの場所で、次がある。

 

 春麗は、朝の光の中で息を吐いた。

 

「圧倒的ヒロイン力、ね」

 

 一拍。

 

「本当に、厄介な春麗が増えたわ」

 

 そう言って、少しだけ笑った。

 

 悔しい。

 

 でも、悪くない。

 

 誰かの敗北ログにすら刺激される。

 

 それも、春麗会議室の役割なのかもしれない。

 

 本編春麗は、青い袖に触れた。

 

「次は、私の青も次へ進めないと」

 

 そう言って、朝を始めた。

 




Q:断章IFについて解説して?

A:

今回のエピソードは、一言で言うなら、

黒執着春麗の敗北ログを、春麗会議室側が観測し、その敗北が「黒の後退」ではなく「黒の更新」だったと確認する回

です。

今回は黒執着春麗本人は春麗会議室に参加していません。

ここはかなり重要です。

黒執着春麗は、基本的に春麗会議室の観測対象です。
本人が会議室に来て、他の春麗たちと直接話すのではなく、あちら側で起きた出来事を、こちら側がログとして見る。

だから今回も、春麗会議室の面々は「本人を説得する」のではなく、「ログを読む」立場にいます。

そして、そのログが敗北ログだった。

黒ドレス。
救済後。
リュウとの再戦。
結果、敗北。

一見すると、かなり重いログです。

しかし、今回の面白いところは、敗北ログなのにまったく沈んでいないことです。

むしろ、黒執着春麗の黒がまた一段進んでいます。

今回の黒執着春麗は、最初から黒で勝ちに行っています。

黒に逃げているのではありません。
黒をリュウに押しつけようとしているのでもありません。
黒を残すために戦っているのでもありません。

強いリュウに、黒で、ギリギリ勝ちたい。

この欲求がはっきりしています。

ここが救済後の黒として非常に大きいです。

救済前の黒は、どこかで「黒を残したい」「黒で見られたい」「黒だけを自分にしてしまう」危険がありました。

でも今回の黒は違います。

リュウが強いことを前提にしている。
そのリュウに勝ちたい。
しかも、圧勝ではなく、ギリギリで勝ちたい。

これは、相手をちゃんと強いものとして認めたうえでの黒です。

黒執着春麗の黒は、かなり健全な悔しさに変わっています。

今回、春麗会議室の面々が最初に大きく被弾するのは、黒執着春麗の準備です。

勝つための黒。
最初の煽り。
動き。
黒の置き方。
勝利後用の言葉まで考えていること。

これは、かなり黒執着春麗らしいです。

しかも、リュウはそれを見抜いています。

「今日の春麗は、前より準備してきたように見える」

これが試合前に来る。

黒ドレスで気合いを入れて、言葉も、動きも、間合いも整えてきた。
その準備を、リュウが見ている。

これは非常に危険です。

黒執着春麗本人も被弾しますが、それを観測している本編春麗たちも被弾します。

今回の春麗会議室側の役割は、その被弾を通して「黒執着春麗がどこまで進んだか」を確認することです。

特に良いのは、黒ドレス特化救済春麗の視点です。

今回の敗北は、黒の失敗ではない。

ここは本当に大事です。

黒は機能しています。
序盤は春麗が取っている。
黒の遅れも効いている。
煽りも効いている。
黒の残し方も調整されている。

それでも、リュウが強かった。

リュウが黒を越えてきた。
最後には、黒を避けるのでもなく、見ないふりをするのでもなく、黒に踏み込んできた。

だから負けた。

つまり、今回の敗北は「黒が駄目だったから負けた」ではありません。

黒が機能したうえで、リュウがそこに踏み込んできたから負けた。

これは、黒にとってもリュウにとっても、とても良い敗北です。

今回の春麗会議室が確認した最大の更新は、

負けても黒が沈まなかったこと

です。

黒執着春麗は負けました。

悔しい。
かなり悔しい。
気合いを入れて準備した黒で負けた。
勝利後用の言葉まで考えていたのに負けた。

でも、折れていません。

黒を沈めていない。
リュウのせいにしていない。
自分を空にしていない。

むしろ、

リュウが強いから、ギリギリで勝ちたい。

ここへ行っています。

これは本当に大きいです。

救済後の黒は、負けても次へ向かえる黒になりました。

負けても、自分を空にしない黒。
負けても、リュウのせいにしない黒。
負けても、次に勝ちたいと言える黒。

今回のエピソードで、この三つが確認されています。

そして、リュウの試合後発言が強烈です。

春麗が、かなり準備してきた。
最初の一言も、動きも、黒の置き方も、いつもより丁寧だった。
春麗は、今日、黒で、俺に、ぎりぎり勝ちに来ていた。
だから、自分もただ勝つだけでは足りないと思った。
今日の春麗には、ぎりぎりで勝ちたかった。

これは、黒執着春麗にとって精神HP破壊力が高すぎます。

なぜなら、黒執着春麗が思っていたことを、リュウ側から返されているからです。

黒執着春麗は、強いリュウにギリギリ勝ちたかった。
リュウは、準備してきた今日の春麗にはギリギリ勝ちたかった。

これで相互位置が成立します。

お互いに、相手を強いものとして見ている。
お互いに、ただ勝つだけでは足りないと思っている。
お互いに、ギリギリで勝ちたいと思っている。

これは、勝敗以上に大きな相互認識です。

だから精神HPは落ちます。

試合にも負けた。
精神HPも落とされた。

結果だけ見れば完全敗北に近いです。

でも、これは黒を壊す敗北ではありません。

むしろ、黒を次に進める敗北です。

春麗会議室側が「敗北ヒロイン力」と表現しているのも、そこです。

負けている。
悔しがっている。
精神HPも落ちている。
でも、次に勝ちたいと思っている。
しかもリュウに「次の黒も見たい」と言われている。

敗北なのに、次回予告になっている。

ここが今回の強さです。

本編春麗が戦慄しているのも当然です。

勝った黒執着春麗が強いのは分かる。
救済後に黒で勝てるようになった黒執着春麗が強いのも分かる。

でも今回は、負けて強い。

負けたことで、むしろヒロイン力が上がっている。
負けたことで、リュウとの相互認識が深まっている。
負けたことで、次の黒が生まれている。

これはかなり厄介です。

本編春麗から見ても、同じ春麗として負けていられない。

そして最後に、本編春麗自身にも刺激が入ります。

黒執着春麗には、次の黒がある。
本編春麗には、宿題の正式回答待ちがある。

この対比が今回の締めとしてかなり綺麗です。

黒執着春麗は黒で負けた。
でも、次の黒へ向かっている。

本編春麗はそのログを見た。
そして、自分の青も進めないといけないと感じる。

これは、春麗会議室の良い使い方です。

誰かのログを見て、他の春麗が刺激を受ける。
ただし、全員が同じ道へ行くわけではない。

黒執着春麗には黒の次がある。
本編春麗には青の次がある。

それぞれの場所で、次がある。

今回のエピソードは、黒執着春麗の敗北回でありながら、全体としてはかなり前向きな回でした。

負けた黒。
悔しい黒。
燃える黒。
次に勝つための黒。

この更新が非常に大きいです。

黒執着春麗は、勝っても進む。
負けても進む。

そして、そのログを見た本編春麗もまた、自分の青を進める必要を感じる
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