また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※これは本編時空ではなく、妄想章IFです。
黒執着春麗の後日談です。


妄想章IF後日談:黒執着春麗は、憎しみが反転した後の自分を分析する

 

 黒ドレスを畳んだ後も、春麗はしばらく動けなかった。

 

 灯りは落としていない。

 

 部屋は静かだった。

 

 鏡の前には、黒を着ていない自分が映っている。

 

 青でもない。

 

 黒でもない。

 

 普通の服。

 

 けれど、普通の顔ではなかった。

 

 自分でもわかる。

 

 少し疲れている。

 

 少し悔しそうで。

 

 少し熱が残っていて。

 

 そして、少しだけ幸せそうに見える。

 

 春麗は、その顔が気に入らなかった。

 

「……何なの、その顔」

 

 鏡の中の自分へ言う。

 

 返事はない。

 

 ただ、救済後の黒執着春麗が、そこにいた。

 

 救済前の自分なら、こんな顔はしなかった。

 

 少なくとも、認めなかった。

 

 リュウのことを考える時、そこにあったのは黒だった。

 

 執着。

 

 憎しみ。

 

 苛立ち。

 

 負けた悔しさ。

 

 見られたことへの怒り。

 

 自分の黒を見抜かれたことへの拒絶。

 

 そして、拳に残してやりたいという歪んだ欲求。

 

 残ったのなら、あなたの拳の問題でしょう。

 

 そう言っていた。

 

 言えた。

 

 言ってしまえた。

 

 あの頃は、それが自分を守る言葉だった。

 

 自分の黒を、自分の中に置いておけなかった。

 

 だから、リュウの拳に返そうとした。

 

 自分だけが重いのは嫌だった。

 

 自分だけが残されるのは嫌だった。

 

 自分だけが見られたままになるのは嫌だった。

 

 だから、相手にも残れと思った。

 

 リュウにも、私の黒が残ればいいと思った。

 

 それは、たぶん。

 

「……憎しみだった」

 

 春麗は、静かに言った。

 

 認める。

 

 憎しみだった。

 

 リュウが憎かった。

 

 自分を見たから。

 

 自分の黒を見抜いたから。

 

 黒で隠そうとしたものへ、拳で届いたから。

 

 届かれたくなかった場所へ、届きかけたから。

 

 だから、憎かった。

 

 同時に、見てほしかった。

 

 そこが一番、どうしようもない。

 

 見ないでほしい。

 

 でも、見てほしい。

 

 届かないでほしい。

 

 でも、届いてほしい。

 

 残らないでほしい。

 

 でも、残ってほしい。

 

 黒執着春麗は、鏡の前で小さく笑った。

 

「……本当に、めんどくさいわね」

 

 その言葉を言えるようになった。

 

 以前なら、言えなかった。

 

 自分は悪くない。

 

 リュウが悪い。

 

 拳が悪い。

 

 見た方が悪い。

 

 残った方が悪い。

 

 そう言い張っていた。

 

 でも、今は違う。

 

 違ってしまった。

 

 お詫びに行った。

 

 迷惑をかけたと認めた。

 

 黒を持ったまま謝った。

 

 リュウは受け取った。

 

 責めなかった。

 

 軽く扱わなかった。

 

 謝ってくれて、ありがとうと言った。

 

 逃げずに来たから嬉しいと言った。

 

 その後も、試合をした。

 

 黒で勝った。

 

 黒で負けた。

 

 お詫び後でも煽った。

 

 煽りづらくて迷った。

 

 気合いを入れて準備したことまで見抜かれた。

 

 今日の春麗には、ぎりぎりで勝ちたかった。

 

 次の黒も、見たい。

 

 春麗は、鏡の前で顔を覆った。

 

「……思い出すものではないわ」

 

 思い出している。

 

 完全に思い出している。

 

 しかも、嫌ではない。

 

 嫌ではない。

 

 これが一番、問題だった。

 


 

 机の上には、白紙が置かれていた。

 

 春麗は、そこにペンを置いた。

 

 自己分析。

 

 そう呼べば、少しは冷静になれる気がした。

 

 救済後の黒執着春麗として、自分の黒を見る。

 

 自分の感情を見る。

 

 リュウへの感情を見る。

 

 春麗は、紙に一行目を書いた。

 

 救済前の感情。

 

 少し考えてから、箇条書きにする。

 

 執着。

 

 憎しみ。

 

 怒り。

 

 拒絶。

 

 見られたことへの反発。

 

 残したい欲求。

 

 拳への責任転嫁。

 

 相手にも黒を背負わせたい感情。

 

 書いていくほど、胸が重くなる。

 

 だが、書ける。

 

 今なら書ける。

 

 次に、二行目を書く。

 

 救済後の感情。

 

 ペンが止まった。

 

 止まる。

 

 それは当然だった。

 

 ここから先は、かなり危険だ。

 

 春麗は、深く息を吸った。

 

 そして、ゆっくり書いた。

 

 悔しさ。

 

 対抗心。

 

 勝ちたい。

 

 見てほしい。

 

 黒を受け止めてほしい。

 

 次も戦いたい。

 

 褒められると弱い。

 

 準備を見抜かれると落ちる。

 

 お詫びを受け取られて嬉しかった。

 

 次の黒も見たいと言われて嬉しかった。

 

 春麗は、そこでペンを止めた。

 

 白紙ではなくなった紙を見る。

 

 救済前と、救済後。

 

 書かれた言葉が並んでいる。

 

 憎しみ。

 

 嬉しかった。

 

 執着。

 

 見てほしい。

 

 怒り。

 

 次も戦いたい。

 

 拒絶。

 

 褒められると弱い。

 

 春麗は、眉を寄せた。

 

「……反転している」

 

 言葉にすると、ひどく単純だった。

 

 救済前、リュウは自分の黒を脅かす存在だった。

 

 今、リュウは自分の黒を見ても逃げない相手になっている。

 

 救済前、見られることは怒りだった。

 

 今、見られることは危険な喜びになっている。

 

 救済前、黒を残したかった。

 

 今、自分で持った黒を届かせたい。

 

 救済前、負けたらリュウのせいにしたかった。

 

 今、リュウが強いから勝ちたい。

 

 救済前、憎しみだったものが。

 

 今は。

 

 春麗は、ペンを握ったまま止まった。

 

 紙の上に、まだ書いていない言葉がある。

 

 書けば、認めることになる。

 

 だが、もう認めている。

 

 精神HPを落とされている。

 

 何度も。

 

 黒で勝っても。

 

 黒で負けても。

 

 お詫びしても。

 

 煽っても。

 

 準備しても。

 

 リュウに見られるたび、落ちている。

 

 それを何と呼ぶのか。

 

 春麗は、ペンを下ろした。

 

 好意。

 

 書いた。

 

 書いてしまった。

 

 白紙の上に、その二文字がある。

 

 救済後の感情。

 

 好意。

 

 春麗は、しばらくそれを見つめた。

 

 そして、静かに顔を覆った。

 

「……最悪」

 

 一拍。

 

「いいえ」

 

 もう一拍。

 

「最悪では、ないわね」

 

 それがさらに最悪だった。

 

 最悪と言い切れない。

 

 嫌ではない。

 

 むしろ、納得してしまう。

 

 それが、今の自分だった。

 


 

 リュウを憎んでいた。

 

 それは嘘ではない。

 

 過去の自分を否定するつもりはない。

 

 あの頃の春麗にとって、リュウは危険だった。

 

 自分の黒へ届く可能性がある男だった。

 

 見てほしくないものを見てしまう相手だった。

 

 拳で、逃げ道を塞ぐ相手だった。

 

 だから、憎んだ。

 

 執着した。

 

 黒を残そうとした。

 

 相手の拳の問題にしようとした。

 

 でも。

 

 憎んでいた相手が、逃げなかった。

 

 黒を見ても、軽く扱わなかった。

 

 謝罪を受け取った。

 

 黒を弱いとは言わなかった。

 

 昔の黒に戻ったとも言わなかった。

 

 春麗が持ったまま、届かせた黒だったと言った。

 

 負けた時も。

 

 準備してきたことを見ていた。

 

 全部使って俺に勝とうとしていた、と言った。

 

 だから強かった、と言った。

 

 春麗は、紙を見つめる。

 

 嫌いだったはずの相手に。

 

 憎んでいたはずの相手に。

 

 今では、そんなことを言われるたびに落ちている。

 

 精神HPを。

 

 完全に。

 

「……構造としては、かなり単純ね」

 

 春麗は呟いた。

 

 黒を見られて怒っていた。

 

 でも、本当は見られること自体を完全には拒絶できなかった。

 

 相手に黒を残したかった。

 

 でも、本当は自分の黒が誰かに残るほど届いたことを確認したかった。

 

 リュウを憎んでいた。

 

 でも、その憎しみの中には、リュウでなければならない理由が混ざっていた。

 

 誰でもよかったわけではない。

 

 リュウだから。

 

 あの拳だから。

 

 あの目だから。

 

 あの沈黙だから。

 

 届いたから。

 

 届きかけたから。

 

 だから、憎かった。

 

 そして今。

 

 同じ理由で。

 

 リュウだから。

 

 あの拳だから。

 

 あの目だから。

 

 あの沈黙だから。

 

 黒を見ても逃げないから。

 

 準備してきた自分まで見てくるから。

 

 だから。

 

 春麗は、ペンを置いた。

 

「……好意に反転した」

 

 静かに言う。

 

 その言葉は、思ったよりも重くなかった。

 

 軽くもなかった。

 

 ただ、事実として落ちた。

 

 憎しみが消えたわけではない。

 

 なかったことになったわけでもない。

 

 救済前の黒は、そこにある。

 

 でも、同じ方向を向いたまま、意味が変わった。

 

 見られることへの怒りは、見られることへの弱さになった。

 

 届かれることへの拒絶は、届かれることへの期待になった。

 

 残したい黒は、届かせたい黒になった。

 

 リュウを傷つけたい感情は、リュウに勝ちたい感情になった。

 

 リュウのせいにしたい気持ちは、リュウが強いから勝ちたい気持ちになった。

 

「反転」

 

 一拍。

 

「いいえ、変換ね」

 

 春麗は紙に書き足す。

 

 執着・憎しみの消滅ではない。

 

 意味変換。

 

 救済後の好意は、救済前の黒を否定していない。

 

 黒の向きが変わった。

 

 書いてから、少しだけ息を吐く。

 

 これなら、少し納得できる。

 

 自分は急に別人になったわけではない。

 

 リュウを憎んでいた過去が、嘘になったわけではない。

 

 あの黒が消えたわけでもない。

 

 ただ、黒の向きが変わった。

 

 相手へ押しつける方向から。

 

 自分で持って、届かせる方向へ。

 

 憎しみとして燃やす方向から。

 

 悔しさや好意として燃やす方向へ。

 

 黒は黒のまま。

 

 けれど、もうリュウのせいにしない。

 

 春麗は、ようやく少しだけ肩の力を抜いた。

 


 

 問題は、そこからだった。

 

 好意。

 

 認めた。

 

 認めてしまった。

 

 では、どうするのか。

 

 春麗は、紙を睨む。

 

 好意があるからといって、何かを急ぐつもりはない。

 

 リュウに伝えたいのかと問われれば、答えは保留。

 

 リュウに知られたいのかと問われれば、かなり危険。

 

 知られたくない。

 

 でも、見てほしい。

 

 また戻っている。

 

 同じ構造だ。

 

 春麗は顔をしかめる。

 

「……成長しているのかしら、これ」

 

 している。

 

 たぶん。

 

 救済前なら、この感情を全部リュウのせいにしていた。

 

 今は、自分のものとして紙に書いている。

 

 それだけでも進んでいる。

 

 だが、進んでいるから楽になるわけではない。

 

 むしろ、厄介さは増している。

 

 リュウに勝ちたい。

 

 黒で勝ちたい。

 

 青でも勝てる。

 

 お詫びもした。

 

 煽れる。

 

 負けても次へ行ける。

 

 褒められると落ちる。

 

 次の黒も見たいと言われると、完全に落ちる。

 

 それを好意と認める。

 

 かなり危険だ。

 

 春麗は、机に肘をついた。

 

「……救済された結果、リュウへの耐性が下がっていない?」

 

 言ってから、かなり嫌な顔をした。

 

 下がっている。

 

 明らかに下がっている。

 

 救済前は、怒りで防御していた。

 

 憎しみで距離を取っていた。

 

 執着で相手を責めていた。

 

 黒で相手を押し返していた。

 

 今はそれがない。

 

 いや、黒はある。

 

 怒りもゼロではない。

 

 悔しさもある。

 

 でも、リュウの言葉を全部敵意として処理できなくなった。

 

 褒め言葉が褒め言葉として刺さる。

 

 見ていた、が見られていたとして刺さる。

 

 嬉しい、が嬉しいとして刺さる。

 

 次も見たい、が次も見たいとして刺さる。

 

 防御が消えた。

 

 いや。

 

 防御ではなかったものを、防御のように使っていただけだ。

 

 春麗は、紙にまた書く。

 

 救済前の防御:憎しみ、責任転嫁、黒の押しつけ。

 

 救済後の状態:防御低下。受容可能。精神HP被弾増加。

 

 書いてから、顔を覆う。

 

「……何を冷静に分析しているの」

 

 しかし、分析しなければ危険だった。

 

 分析しないと、ただ落ちる。

 

 落ちて、顔を覆って、黒ドレスを握って、リュウの言葉を思い出して終わる。

 

 それは負けだ。

 

 精神戦ではすでに何度も負けているが、自己分析まで放棄するのは違う。

 

 春麗は、再びペンを取る。

 

 対処方針。

 

 一、好意を否定しない。

 

 書いてから止まる。

 

 かなり重い。

 

 しかし、書く。

 

 二、救済前の憎しみも否定しない。

 

 三、憎しみが反転したことを、恥だけで処理しない。

 

 四、リュウの発言による精神HP被弾は今後も発生するものとして扱う。

 

 五、試合では勝つ。

 

 最後だけ、やけに力が入った。

 

 春麗は、少しだけ笑った。

 

「結局、そこなのね」

 

 リュウが好きかもしれない。

 

 好意がある。

 

 憎しみが反転した。

 

 精神HPを落とされる。

 

 でも。

 

 試合では勝つ。

 

 それは変わらない。

 

 むしろ、前より強くなっている。

 

 好きだから勝ちたい、ではない。

 

 好意があるから負けていい、でもない。

 

 リュウが強いから勝ちたい。

 

 見てくるから勝ちたい。

 

 黒を受け止めるから勝ちたい。

 

 褒め殺してくるから勝ちたい。

 

 あの男に勝ちたい。

 

 ギリギリで。

 

 春麗は、紙の最後に書いた。

 

 好意は、敗北理由にしない。

 

 好意は、次に勝つ理由にする。

 

 書いてから、しばらく見つめる。

 

 かなり良い。

 

 かなり危険で、かなり自分らしい。

 


 

 夜が深くなっていた。

 

 春麗は、書いた紙を畳まなかった。

 

 隠さなかった。

 

 机の上に置いたままにする。

 

 誰かに見せるつもりはない。

 

 だが、自分から隠すつもりもない。

 

 救済前の自分。

 

 執着。

 

 憎しみ。

 

 怒り。

 

 拒絶。

 

 救済後の自分。

 

 好意。

 

 悔しさ。

 

 勝ちたい。

 

 見てほしい。

 

 褒められると弱い。

 

 次も戦いたい。

 

 その全部が、自分の中にある。

 

 黒は消えていない。

 

 黒は反転している。

 

 好意になったからといって、白くなったわけではない。

 

 黒いまま、向きが変わった。

 

 だから、自分は今も黒執着春麗なのだと思う。

 

 執着が消えたわけではない。

 

 ただ、リュウを壊したい執着ではなくなった。

 

 リュウに勝ちたい。

 

 リュウに見てほしい。

 

 リュウの拳に、今度は押しつけではなく、自分で持った黒を届かせたい。

 

 そういう執着になった。

 

 春麗は、鏡の前に立つ。

 

 普通服の自分。

 

 黒を着ていない自分。

 

 でも、黒を持っている自分。

 

 そして、好意を認めてしまった自分。

 

「……これから、どうするの」

 

 鏡の中の自分に問う。

 

 答えはすぐには出ない。

 

 それでいい。

 

 今日は認めただけで十分だ。

 

 憎しみが反転した。

 

 好意になった。

 

 精神HPを落とされている。

 

 それでも、自分は壊れていない。

 

 黒は沈んでいない。

 

 むしろ、次へ向かっている。

 

 春麗は、静かに息を吐いた。

 

「次に会ったら」

 

 一拍。

 

「平然としていましょう」

 

 もう一拍。

 

「無理ね」

 

 即座に自分で否定した。

 

 無理だ。

 

 リュウが何か言えば、また落ちる。

 

 今日の春麗は、と言われる。

 

 黒が、と言われる。

 

 準備してきたな、と言われる。

 

 次も見たい、と言われる。

 

 そのたびに、落ちる。

 

 だが。

 

「落ちても」

 

 一拍。

 

「勝てばいい」

 

 かなり強引だった。

 

 でも、救済後の黒執着春麗には、それくらいがちょうどよかった。

 

 春麗は灯りを落とす前に、机の紙へもう一度目を向けた。

 

 好意は、敗北理由にしない。

 

 好意は、次に勝つ理由にする。

 

 その文字が、夜の中で静かに残っている。

 

「……本当に、面倒な女ね」

 

 小さく笑う。

 

 嫌ではなかった。

 

 それが、今の自分だった。

 

 春麗は灯りを消した。

 

 黒は、そこにある。

 

 憎しみの残骸として。

 

 好意の燃料として。

 

 次に勝つ理由として。

 

 黒執着春麗は、反転した感情を抱えたまま、静かに夜へ沈んでいった。

 




Q:今回の妄想章IF後日談について解説して?

A:

今回のエピソードは、黒執着春麗にとって、かなり大きなターニングポイントです。

一言で言うなら、

黒執着春麗が、かつてリュウへ向けていた執着や憎しみの正体を見直し、それが救済後には「好意」と「勝ちたい理由」に変換されていたことを、自分で認める回

です。

これは、かなり重要です。

今回、春麗は試合をしていません。

リュウとも会っていません。

誰かに追撃されたわけでもありません。

ただ、黒ドレスを畳んだ後、自分一人で鏡を見て、紙に書いて、自己分析しています。

それなのに、かなり重い。

なぜなら、今回は外からの攻撃ではなく、黒執着春麗が自分の内側を自分で見に行く回だからです。

今までの黒執着春麗は、リュウに見られて落ちることが多かった。

黒を見られる。
準備を見抜かれる。
次の黒も見たいと言われる。
今日の春麗にはぎりぎりで勝ちたかったと言われる。

そういう外部からの言葉で精神HPを削られていました。

でも今回は違います。

自分で書いて、自分で認めて、自分で落ちに行っています。

ここがターニングポイントです。

今回、最初に重要なのは、春麗が鏡に映った自分を見て「少しだけ幸せそうに見える」と感じるところです。

これはかなり危険な認識です。

救済前の黒執着春麗なら、こんな顔は認めなかったと思います。

リュウのことを考える時に出てくる感情は、執着、憎しみ、苛立ち、拒絶、見られたことへの怒りだった。

自分の黒を見抜かれたことが許せなかった。

だから、相手にも残れと思った。
リュウの拳にも自分の黒が残ればいいと思った。
自分だけが重いのは嫌だった。
自分だけが見られたままになるのは嫌だった。

ここで春麗は、はっきり言います。

憎しみだった。

これはとても大事です。

今回のエピソードは、救済前の黒を綺麗にごまかしていません。

「あれは本当は恋でした」と単純に置き換えていない。

ちゃんと憎しみだった。
執着だった。
怒りだった。
責任転嫁だった。
相手にも黒を背負わせたい感情だった。

そこを否定していない。

ここが、この回の誠実なところです。

黒執着春麗の救済は、過去の黒をなかったことにするものではありません。

リュウを憎んでいたことも、黒を相手へ押しつけようとしたことも、過去の春麗にとっては本当だった。

だから、まずそれを認める必要がある。

そのうえで、救済後の自分を見る。

今回の中心は、救済前と救済後の感情を書き出す場面です。

救済前の感情。

執着。
憎しみ。
怒り。
拒絶。
見られたことへの反発。
残したい欲求。
拳への責任転嫁。
相手にも黒を背負わせたい感情。

かなり重いです。

でも、書ける。

今の春麗は、それを書ける。

そして次に、救済後の感情を書く。

悔しさ。
対抗心。
勝ちたい。
見てほしい。
黒を受け止めてほしい。
次も戦いたい。
褒められると弱い。
準備を見抜かれると落ちる。
お詫びを受け取られて嬉しかった。
次の黒も見たいと言われて嬉しかった。

ここで、明確に構造が変わっています。

救済前は、相手に黒を背負わせたい感情でした。

救済後は、自分で持った黒を届かせたい感情になっています。

救済前は、見られることへの怒りでした。

救済後は、見られることへの危険な喜びになっています。

救済前は、リュウのせいにしたかった。

救済後は、リュウが強いから勝ちたいになっています。

この変化が非常に大きいです。

そして、そこで春麗は書いてしまいます。

好意。

この二文字が、今回の最大の到達点です。

黒執着春麗が、リュウへの感情を「好意」として自分で書く。

これは、かなり大きいです。

今まで彼女は、嬉しかった、少し安心した、少し助かった、少しよかった、と少しずつ言葉を進めてきました。

でも今回は、好意です。

しかも、誰かに言われたからではない。

リュウに追撃されたからでもない。

記録板AIに分類されたからでもない。

自分で書いた。

ここが重要です。

ただし、今回の好意は、救済前の憎しみを消して生まれたものではありません。

ここがこの回の一番大事な整理です。

憎しみが消えたのではない。

反転した。
いいえ、変換した。

この言い直しがかなり良いです。

「反転」だと、憎しみがそのまま裏返って好意になったように見えます。

でも「変換」なら、過去の黒を否定せずに、向きが変わったことを表せます。

救済前の黒は、相手へ押しつける黒だった。
救済後の黒は、自分で持って届かせる黒になった。

救済前の執着は、リュウを壊したい執着だった。
救済後の執着は、リュウに勝ちたい、見てほしい、届かせたい執着になった。

黒は白くなったわけではありません。

黒いままです。

でも、向きが変わった。

これは非常に黒執着春麗らしい変化です。

好意になったからといって、急に穏やかなだけの女になるわけではない。

リュウに勝ちたい。
黒で勝ちたい。
ギリギリで勝ちたい。
見てほしい。
でも見られると落ちる。
褒められると弱い。
それでも試合では勝ちたい。

このめんどくささが残っている。

だから黒執着春麗なのだと思います。

今回のもう一つの重要点は、救済後にリュウへの耐性が下がっていると春麗自身が気づくところです。

これはかなり面白いです。

救済前は、憎しみや怒りを防御に使っていました。

リュウの言葉を敵意として処理できた。
見られることを怒りに変えられた。
届かれそうになることを拒絶に変えられた。
黒を相手に押し返せた。

でも救済後は、それができなくなっています。

リュウの言葉が褒め言葉として刺さる。
見ていた、が見られていたとして刺さる。
嬉しい、が嬉しいとして刺さる。
次も見たい、が次も見たいとして刺さる。

防御に使っていた憎しみがなくなったことで、リュウの言葉が直撃するようになっている。

これは、かなり危険です。

でも、それは後退ではありません。

怒りで守っていた状態から、自分で受け取れる状態になったということです。

つまり、防御力は下がったけれど、受容力が上がった。

精神HPは落ちやすくなった。
でも、リュウの言葉を全部敵意として処理しなくなった。

ここが救済後の変化です。

そして最後に、春麗は対処方針を書きます。

一、好意を否定しない。
二、救済前の憎しみも否定しない。
三、憎しみが反転したことを、恥だけで処理しない。
四、リュウの発言による精神HP被弾は今後も発生するものとして扱う。
五、試合では勝つ。

最後がとても良いです。

結局、そこなのです。

好意がある。
リュウが気になる。
褒められると落ちる。
次の黒も見たいと言われると落ちる。

でも、試合では勝つ。

ここが黒執着春麗の軸です。

好意が敗北理由になるのではない。
好意が次に勝つ理由になる。

この一文が、今回の最大の結論です。

好意は、敗北理由にしない。
好意は、次に勝つ理由にする。

これは、黒執着春麗にとって非常に強い整理です。

恋愛感情を認めたから弱くなるのではない。

むしろ、勝つ理由が増える。

リュウが好きかもしれない。
だから負けてもいい、ではない。

リュウが好きかもしれない。
だからこそ、あの強い男に勝ちたい。

リュウが黒を見てくる。
だからこそ、もっと黒を届かせたい。

リュウが準備まで見抜いてくる。
だからこそ、次はもっと上の黒で勝ちたい。

この変換が、今回のターニングポイントです。

ラストも非常に良いです。

春麗は普通服で鏡の前に立っています。

黒を着ていない。
青でもない。
でも、黒を持っている。

この状態が良いです。

黒ドレスを着ていなくても、黒はそこにある。
黒は衣装だけではない。
黒は、自分の中の向きが変わった感情として残っている。

そして春麗は言います。

次に会ったら、平然としていましょう。
無理ね。

この即否定がとても彼女らしいです。

平然とはできない。
リュウが何か言えば落ちる。
また精神HPを削られる。

でも、

落ちても、勝てばいい。

かなり強引です。

でも、救済後の黒執着春麗には、それくらいがちょうどいい。

これは恋愛の処理としてはかなり乱暴です。

でも、戦う女としてはとても正しい。

好きになったから負けるのではない。
落ちても、勝つ。
精神HPを削られても、試合では勝つ。
好意を抱えたまま、黒で勝ちに行く。

これが今回の黒執着春麗の到達点です。

今回のエピソードは、黒執着春麗の内面整理として非常に重要でした。

救済前の黒を否定しない。
憎しみがあったことを認める。
それが救済後に好意へ意味変換されたことを認める。
好意を敗北理由にしない。
好意を次に勝つ理由にする。

この整理によって、黒執着春麗はまた一つ進んだと思います。

彼女はもう、リュウに黒を押しつける春麗ではありません。

リュウに自分の黒を届かせたい春麗です。

彼女はもう、リュウのせいにして黒を残そうとする春麗ではありません。

リュウが強いから、リュウに勝ちたい春麗です。

そして、彼女はもう、好意を認めたら負ける春麗ではありません。

好意を持ったまま、次に勝ちに行く春麗です。

だから今回の最後の言葉は、非常に大事です。

好意は、敗北理由にしない。
好意は、次に勝つ理由にする。

これが、今回の黒執着春麗の新しい黒だと思います。
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