また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
黒執着春麗の後日談です。
黒ドレスを前にして、春麗は腕を組んでいた。
いつもより長い。
ただ着るだけなら、もう時間はかからない。
黒を恐れているわけではない。
黒を持てないわけでもない。
黒を着ることに、もう逃げの意味はない。
黒は、自分で選べる。
黒は、自分で持てる。
黒を着ても、空ではない。
黒を着なくても、空ではない。
そこまでは、もう知っている。
問題は、そこではない。
「……今日は、余計に整っていない?」
鏡の前で、春麗は自分に言った。
黒ドレスの布を確認する。
裾の位置。
肩の角度。
髪の留め方。
足元。
手首。
立った時の影。
最初にリュウへ向ける視線。
最初の一言。
構えに入るまでの間。
煽りの温度。
攻撃的にしすぎるか。
それとも、いつもの距離感にするか。
考えすぎている。
明らかに考えすぎている。
理由は分かっていた。
認めてしまったからだ。
好意。
リュウへの好意。
救済前の執着と憎しみが、救済後に意味を変えたもの。
リュウを傷つけたい感情ではなくなった。
リュウに黒を押しつけたい感情でもなくなった。
今は、リュウに勝ちたい。
リュウに見てほしい。
自分で持った黒を、リュウへ届かせたい。
リュウが強いから、ギリギリで勝ちたい。
それを、好意と呼んでしまった。
呼んでしまった以上、なかったことにはできない。
春麗は、鏡の中の自分を睨む。
「……平然としていなさい」
無理だった。
顔に出しているつもりはない。
だが、準備に出ている。
布の整え方に出ている。
立ち方に出ている。
煽りの言葉を選ぶ時間に出ている。
今日の黒は、いつもより気合いが入っている。
それは認める。
だが、リュウに見抜かれるわけにはいかない。
前回も見抜かれた。
最初の一言も、動きも、黒の置き方も、いつもより丁寧だったと言われた。
今日も見られたら危険だ。
好意を自覚した後の準備まで見抜かれたら、たぶん終わる。
精神HPが。
試合前に。
「なら」
一拍。
「先に刺す」
春麗は、黒ドレスの裾を整えた。
今日の煽りは、甘さを隠すために尖らせる。
見てほしいと思っていることを隠す。
勝ちたいと思っていることを隠す。
好意があることを隠す。
隠すために、攻撃的にする。
「……逆に目立つ気もするわね」
言ってから、少しだけ嫌な顔をした。
だが、他に方法がない。
素直な黒など、今日の自分には扱えない。
春麗は息を吸った。
黒を着る。
黒を持つ。
好意を隠す。
隠したまま、勝ちに行く。
いや。
勝つ。
ギリギリで。
リュウに。
「今日こそ、あなたを遅らせるわ」
鏡の中の黒い春麗が、静かにこちらを見返していた。
リュウは、いつもの場所にいた。
春麗が黒ドレスで現れると、リュウはすぐにこちらを見た。
その視線だけで、春麗はわずかに身構える。
見るな。
いや、見ろ。
見てほしい。
でも、見抜くな。
自分の中で矛盾が騒ぐ。
だから、春麗は先に言った。
「今日は、手加減したら怒るわ」
リュウが静かに見る。
「しない」
「黒を見て遅れても、言い訳は聞かない」
「ああ」
「前に勝ったからって、私が同じ黒で来ると思っているなら甘いわ」
「思っていない」
「なら、覚悟しなさい」
リュウは、少しだけ頷いた。
「今日の春麗は、鋭いな」
精神HPが削れる。
春麗は表情を崩さないようにした。
「鋭い?」
「ああ」
「褒めているつもり?」
「見えたことを言った」
「なら、見方が浅いわね」
言ってしまった。
かなり攻撃的。
かなり刺す言葉。
だが、リュウは揺れない。
「そうか」
「ええ。今日の黒は、見ただけで分かった気になれるほど易しくないわ」
「ああ」
「あなたが見てきた黒の延長だと思うなら、そこで遅れる」
「ああ」
「そして、遅れたら負ける」
リュウは、まっすぐに言った。
「なら、遅れない」
春麗の胸が跳ねる。
その真っ直ぐさが嫌だ。
嫌ではない。
だから嫌だ。
「言うわね」
「ああ」
「今日の私は、あなたに優しくないわよ」
リュウが構える。
「それでいい」
精神HPが削れる。
春麗は歯を食いしばりそうになる。
なぜ、攻撃的に言ったのに受け止めるのか。
なぜ、刺したのにそのまま構えるのか。
なぜ、それでいい、などと言うのか。
春麗は黒の裾を揺らした。
「では、始めましょう」
「ああ」
試合が始まった。
序盤、春麗は速かった。
黒の揺れがいつもより鋭い。
遅れを作る。
半拍ではない。
四分の一拍。
短く、浅く、しかし確実に視線を切る。
リュウの拳が動く。
春麗はもうそこにいない。
膝。
蹴り。
掌底。
黒い裾が遅れて揺れる。
リュウが受ける。
受ける。
受ける。
だが、少し押される。
春麗は踏み込む。
「遅いわ」
リュウの拳を外しながら言う。
「今日のあなたは、見てから動くには遅すぎる」
攻撃的。
かなり攻撃的。
でも止まらない。
止めると、自分の熱が見える。
好意が見える。
だから、言葉を尖らせる。
「私を見たいなら、もっと早く踏み込んでみなさい」
リュウの目が変わった。
春麗は、言ってから気づいた。
今のは、煽りとして危険だった。
私を見たいなら。
なぜそんな言い方をした。
リュウが踏み込む。
速い。
春麗は黒を置く。
リュウは半拍遅れる。
その隙に、春麗の蹴りが入る。
浅くない。
リュウの肩を打つ。
リュウが一歩下がる。
だが、拳が返ってきた。
近い。
春麗はかわす。
かすめる。
HPが削れる。
春麗は息を吐く。
「……そう。少しは届くのね」
リュウは構えを崩さない。
「春麗が早い」
「当然でしょう」
「ああ」
「今日の私は、負けるつもりで来ていないもの」
リュウが静かに答える。
「俺もだ」
胸が熱くなる。
だから、春麗はさらに言葉を尖らせた。
「なら、負けた時の言い訳を考えておきなさい」
「考えない」
「なぜ?」
「負けても、春麗が強かっただけだ」
精神HPが削れる。
春麗は一瞬だけ止まりそうになった。
危険。
試合中。
まだ序盤。
褒め殺しは試合後だけにしてほしい。
「……本当に」
一拍。
「あなたは、戦闘中も危険ね」
「危険か」
「危険よ」
春麗は黒を走らせた。
中盤。
リュウが追いついてきた。
黒の鋭さを、リュウが少しずつ掴む。
春麗はそれを見て、胸の奥が燃えるのを感じた。
嫌だ。
追いつかれるのは嫌だ。
でも、追いついてくるから楽しい。
黒を越えてくるから、次を出したくなる。
この感情を好意と認めた自分が、さらに厄介だった。
リュウが踏み込む。
春麗は黒を引く。
リュウは止まらない。
拳が入る。
春麗の脇腹。
重い。
HPが大きく削れる。
だが、春麗の蹴りも入る。
リュウの太腿に深く。
互いに距離を取る。
息が上がる。
春麗は笑った。
笑ってしまった。
「……やるじゃない」
「ああ」
「嬉しそうにしないで」
「嬉しそうなのか」
「少しは自覚しなさい」
「春麗もだ」
直撃。
精神HPが削れる。
「何が」
「楽しそうだ」
「違うわ」
即答。
嘘だった。
かなり嘘だった。
リュウは静かに言う。
「違うなら、そうなのかもしれない」
「引き下がるのね」
「春麗がそう言うなら」
「そこは引き下がらないで」
言ってから、自分で詰まった。
何を言っているのか。
引き下がらないでほしいのか。
見抜いてほしいのか。
見抜かれたくないのか。
どちらなのか。
リュウは見ている。
答えは言わない。
でも、見ている。
春麗は、黒の裾を強く払った。
「余計な会話は終わりよ」
「ああ」
「次で沈める」
「来い」
その一言が、腹立たしいほど真っ直ぐだった。
春麗は踏み込む。
黒を深く置く。
リュウの視線を誘う。
前に出るふり。
後ろへ切る。
左へ揺らす。
右へ入る。
リュウの拳が追う。
春麗はもう一段奥へ入る。
掌底。
決まる。
リュウの胸に入る。
深い。
だが、リュウの拳も同時に春麗の肩へ入った。
重い。
互いに弾かれる。
春麗は足を踏み直す。
リュウも踏みとどまる。
HPは、どちらもかなり削れている。
春麗は息を荒げながら言った。
「……しぶといわね」
「春麗もだ」
「褒め返さないで」
「本当だ」
「それが危険なのよ」
終盤。
勝敗は、もう見えなかった。
春麗のHPは残りわずか。
リュウも同じ。
どちらかが一撃を入れれば終わる。
そういう距離。
そういう空気。
黒ドレスの裾は乱れている。
息は熱い。
足は重い。
それでも、春麗は笑っていた。
隠せていない。
もう、隠せていない。
楽しい。
悔しい。
勝ちたい。
見てほしい。
でも、見抜くな。
いや、見抜いて。
その矛盾ごと、黒が燃えている。
リュウが構える。
春麗も構える。
「リュウ」
「ああ」
「今日は、あなたにだけは負けたくない」
「ああ」
「他の誰でもない」
「ああ」
「あなたに勝つための黒よ」
言ってしまった。
好意を隠すために攻撃的にしていたはずなのに、核心に近いところを言ってしまった。
リュウは、静かに受け止める。
「なら、俺も春麗に勝つために行く」
精神HPが削れる。
だが、もう止まらない。
春麗は黒を走らせた。
最後の黒。
見せる。
隠す。
誘う。
消す。
残す。
リュウが踏み込む。
黒に遅れる。
だが止まらない。
リュウの拳が内側へ入る。
春麗は、さらにその内側へ入る。
読み合いではない。
もう、互いに踏み込んでいる。
逃げ場のない距離。
春麗の掌底が、リュウの胸へ向かう。
リュウの拳が、春麗の肩口へ向かう。
どちらも避けない。
どちらも止まらない。
同時。
音が重なった。
春麗の掌底がリュウを打つ。
リュウの拳が春麗を打つ。
二人の体が同時に揺れる。
同時に後退する。
同時に膝が落ちる。
春麗は地面に片手をついた。
リュウも片膝をついた。
沈黙。
風だけが通る。
春麗は、息を切らしながら顔を上げた。
リュウも、同じように顔を上げていた。
立ち上がれない。
今すぐには。
どちらも。
春麗は、少しだけ笑った。
「……相打ち?」
リュウは、息を整えながら言う。
「そうだと思う」
「思う、なのね」
「ああ」
「断言しなさい」
「相打ちだ」
胸の奥が、熱くなった。
初めてだった。
黒執着春麗として、リュウと相打ち。
勝てなかった。
負けもしなかった。
届いた。
届かれた。
同時だった。
春麗は、黒い裾を地面に落としたまま、笑った。
「……悪くないわ」
「ああ」
「ただし、次は私が勝つ」
「ああ」
「相打ちは、今日だけ」
「そうか」
「そうよ」
リュウは、少しだけ息を吐く。
「今日の春麗は、強かった」
精神HPが削れる。
試合後が始まった。
春麗は身構える。
体は動かない。
精神だけが警戒する。
「……試合後に褒めないで」
「だが、強かった」
「二回言わないで」
「今日の黒は、前より近かった」
さらに削れる。
「近い?」
「ああ」
「何に」
「春麗に」
精神HPが大きく削れた。
春麗は顔を背ける。
「……意味がわからないわ」
「前の黒も、春麗の黒だった」
「ええ」
「だが、今日はもっと春麗が入っていた」
やめて。
それは駄目だ。
好意を自覚した後の黒。
好意を隠すために尖らせた黒。
準備を重ねた黒。
リュウに勝つための黒。
それを、もっと春麗が入っていた、などと言わないでほしい。
リュウは続ける。
「煽りも、鋭かった」
「そこは褒めるところではないわ」
「だが、春麗が隠そうとしているものも見えた」
春麗は完全に止まった。
「……何が見えたの」
聞いてはいけない。
でも聞いてしまった。
リュウは、まっすぐに言う。
「勝ちたい気持ちだ」
春麗は、少しだけ息を吐いた。
助かった。
好意ではない。
勝ちたい気持ち。
そこなら、まだ耐えられる。
そう思った瞬間。
リュウが続けた。
「俺に、勝ちたい気持ちだ」
精神HPがまた削れる。
「それは、試合だから当然でしょう」
「ああ」
「当然なのよ」
「でも、今日はそれだけではなかった」
春麗は、喉が詰まった。
リュウは、ゆっくり立ち上がろうとして、少しだけふらついた。
それでも、春麗を見る。
「春麗は、今日、俺に見られたくないものまで使っていた」
終わった。
春麗の精神HPは、危険域に入った。
「……リュウ」
「ああ」
「それ以上言うと、今日の相打ち判定を取り消すわよ」
「取り消すのか」
「精神戦では、あなたの反則負けにする」
「反則か」
「反則よ」
リュウは少しだけ考えた。
「でも、言う」
「言わないで」
「今日の春麗は、俺に隠そうとしていた」
「やめなさい」
「でも、隠しながら俺に届こうとしていた」
精神HPがゼロに近づく。
「やめなさい」
「だから、相打ちになった」
春麗は、黒い裾を握った。
体が動かない。
精神も限界。
だが、リュウは悪気なく、最後の一撃を出した。
「今日の黒は、春麗が俺に向かってきた黒だった」
精神HPが落ちた。
完全に。
試合は相打ち。
精神戦は敗北。
いつものように。
いや、いつも以上に。
春麗は、顔を伏せた。
「……あなたは」
「ああ」
「勝っても、負けても、相打ちでも、危険なのね」
「危険か」
「危険よ」
リュウは、少しだけ近づこうとした。
春麗は手で止める。
「近づかないで」
「ああ」
「今日は、相打ちよ」
「ああ」
「でも精神戦は、あなたの勝ちでいいわ」
リュウは、少しだけ驚いたように見た。
「いいのか」
「認めないと終わらないのよ」
「そうか」
「そうよ」
春麗は、どうにか立ち上がった。
足が震える。
黒ドレスも乱れている。
だが、立つ。
リュウも立つ。
二人とも満身創痍。
それが、少しだけ嬉しい。
嬉しいのが悔しい。
「リュウ」
「ああ」
「次は勝つ」
「ああ」
「相打ちではなく」
「ああ」
「黒で」
「ああ」
「今度こそ、あなたを遅らせる」
リュウは、静かに頷いた。
「なら、俺も今日より踏み込む」
精神HPオーバーキル。
春麗は、もう何も言わなかった。
ただ背を向ける。
帰る。
ここにいると、また何か言われる。
「春麗」
呼ばれた。
止まらない。
止まってはいけない。
でも、止まった。
「何」
振り返らずに言う。
リュウは言った。
「今日の相打ちは、忘れない」
春麗は、黒い裾を握った。
完全に過剰攻撃。
「……忘れなさい」
「忘れない」
「忘れなさい」
「無理だ」
精神HPはすでにゼロなのに、さらに削られる感覚があった。
「なぜ」
「今日の春麗が、全部使って来たからだ」
春麗は、もう振り返れなかった。
黒ドレスのまま、顔が熱い。
好意を隠すために攻撃的にした。
準備を重ねた。
黒を尖らせた。
煽った。
届いた。
届かれた。
相打ちになった。
そして、全部見られた。
「……次は」
一拍。
「もっと隠すわ」
リュウは答えた。
「なら、もっと見る」
終わり。
完全に終わり。
春麗は、今度こそ歩き出した。
顔を見せないまま。
黒を揺らしながら。
相打ちの熱と、精神ノックアウトの余熱を抱えたまま。
夜。
春麗は、黒ドレスを畳んでいた。
今日は勝っていない。
負けてもいない。
相打ち。
初めての相打ち。
黒執着春麗として。
リュウと。
あのリュウと。
同時に届いて、同時に届かれた。
春麗は、布を撫でる。
今日の黒は、かなり乱れていた。
準備は完璧だったはずだ。
裾も、立ち方も、煽りも、言葉も。
いつも以上に整えた。
好意を隠すために。
見抜かれないために。
なのに、見抜かれた。
勝ちたい気持ち。
俺に勝ちたい気持ち。
隠そうとしていたこと。
隠しながら届こうとしていたこと。
今日の黒は、春麗が俺に向かってきた黒だった。
春麗は顔を覆った。
「……思い出すものではないわ」
だが、思い出す。
そして、嫌ではない。
これが一番問題だ。
相打ち。
勝てなかった。
悔しい。
でも、悪くない。
初めて、リュウと同じ場所に倒れた気がする。
同時に届いた。
同時に届かれた。
どちらも立てなかった。
それが、少しだけ嬉しい。
「……認めないわよ」
何を。
嬉しいことを。
いや、もう認めている。
好意を認めた後の黒で、相打ちになった。
それは、救済後の黒がまた一つ進んだということだ。
春麗は、黒ドレスを丁寧に畳む。
今日は、勝つための黒だった。
同時に、隠すための黒だった。
そして、リュウに向かっていった黒だった。
春麗は、机の上に置いていた紙を取り出す。
以前、自己分析で書いた言葉。
好意は、敗北理由にしない。
好意は、次に勝つ理由にする。
その下に、新しく書き足す。
好意を隠した黒は、相打ちになった。
春麗は、少しだけ止まった。
それだけでは足りない。
さらに書く。
隠しても、届いた。
隠しても、見られた。
隠しても、相打ちになった。
次は、隠すのではなく、勝つ。
書いてから、春麗は苦笑した。
「結局、勝つのね」
そう。
結局、勝つ。
好意を自覚しても。
隠しても。
見抜かれても。
相打ちでも。
精神HPを落とされても。
次は勝つ。
それが、自分だった。
春麗は、黒ドレスを見つめる。
「次は、もっと準備するわ」
一拍。
「そして、もっと隠す」
もう一拍。
リュウの声が頭の中で蘇る。
なら、もっと見る。
春麗は顔を覆った。
「……本当に、腹が立つ」
でも、少し笑っていた。
灯りを消す前に、春麗は黒ドレスへ手を置いた。
相打ちの黒。
好意を隠した黒。
見抜かれた黒。
リュウに向かっていった黒。
「次は、勝つ」
静かに言う。
「相打ちではなく」
一拍。
「黒で」
その声は、夜の中に落ちた。
黒は、そこにある。
好意を隠す布として。
勝ちたい理由として。
相打ちの記録として。
そして、次にリュウへ届くための黒として。
黒執着春麗は、初めての相打ちを抱えたまま、静かに眠りへ落ちていった。
Q:今回の妄想章IF後日談について解説して?
A:
今回のエピソードは、一言で言うなら、
リュウへの好意を自覚した黒執着春麗が、その好意を隠すために黒を尖らせた結果、初めてリュウと相打ちになる回
です。
今回の黒執着春麗は、すでに自分の感情を一段階整理しています。
救済前の憎しみ。
執着。
黒をリュウに残したいという歪んだ感情。
それらが救済後に意味を変え、リュウへの好意、対抗心、勝ちたい欲求に変換されていた。
その自己分析を経た後の試合です。
だから、今回の戦闘前準備はいつもより重いです。
黒ドレスを着るだけではない。
裾の位置。
肩の角度。
髪の留め方。
足元。
手首。
立った時の影。
リュウへ向ける最初の視線。
最初の一言。
煽りの温度。
全部を考えすぎています。
これは、単に勝つための準備ではありません。
好意を自覚してしまったことを隠すための準備でもあります。
リュウに見てほしい。
でも、見抜かれたくない。
勝ちたい。
でも、勝ちたい理由の中に好意が混じっていることは知られたくない。
その矛盾が、今回の黒をかなり尖らせています。
今回の煽りが攻撃的な理由
今回の黒執着春麗は、かなり攻撃的に煽っています。
今日は、手加減したら怒るわ
今日の黒は、見ただけで分かった気になれるほど易しくないわ
あなたが見てきた黒の延長だと思うなら、そこで遅れる
負けた時の言い訳を考えておきなさい
かなり強い言葉です。
でも、これは単純な敵意ではありません。
むしろ逆です。
好意を隠したいから、攻撃的になっています。
柔らかくすると、見てほしい気持ちが漏れる。
素直にすると、勝ちたい理由が見える。
だから、言葉を尖らせる。
しかし、その中でうっかり、
私を見たいなら、もっと早く踏み込んでみなさい
と言ってしまう。
ここが非常に危険です。
攻撃的な煽りの形をしているのに、内側には「見てほしい」が混じっている。
この矛盾が、今回の黒執着春麗の一番おいしいところです。
初めての相打ちの意味
今回の試合結果は、勝利でも敗北でもありません。
相打ちです。
これは黒執着春麗にとってかなり大きいです。
これまでの彼女は、黒で勝ちたい、黒で負けて悔しい、リュウが強いからギリギリ勝ちたい、という形で進んできました。
でも今回は、初めてリュウと同時に届きます。
春麗の掌底がリュウを打つ。
リュウの拳が春麗を打つ。
二人が同時に膝をつく。
勝てなかった。
負けもしなかった。
これは、黒執着春麗にとってかなり象徴的です。
救済前の黒は、リュウへ押しつける黒でした。
救済後の黒は、自分で持って届かせる黒になりました。
そして今回は、好意を隠した黒で、リュウと同時に届くところまで来た。
つまり今回の相打ちは、
黒執着春麗がリュウと同じ場所まで踏み込んだログ
です。
勝利ではありません。
でも、かなり大きな到達点です。
リュウの無自覚褒め殺し
試合後、リュウはまた危険なことを言います。
今日の春麗は、強かった
今日の黒は、前より春麗に近かった
今日はもっと春麗が入っていた
春麗は、今日、俺に見られたくないものまで使っていた
隠しながら俺に届こうとしていた
今日の黒は、春麗が俺に向かってきた黒だった
これは完全に黒執着春麗の精神HPを破壊しています。
特に強いのは、
今日の黒は、春麗が俺に向かってきた黒だった
です。
これは、今回の黒の本質をリュウが見抜いています。
春麗は好意を隠すために黒を尖らせた。
攻撃的な煽りで防御した。
でも、その黒は結局リュウへ向かっていた。
リュウはそれを、好意とは言いません。
恋愛感情としては言語化しません。
でも、黒がリュウへ向かっていたことは見抜いている。
だから精神HPが落ちます。
言われたくないところに、言葉が届いているからです。
今回の到達点
今回の黒執着春麗の到達点は、
好意を隠した黒は、相打ちになった
です。
これはかなり良い結果です。
勝てなかった。
でも、負けなかった。
隠しても、届いた。
隠しても、見られた。
隠しても、リュウと同時に踏み込めた。
ただし、それでも彼女は満足しません。
最後に出る結論は、
次は、隠すのではなく、勝つ。
ここが黒執着春麗らしいです。
好意を認めても。
精神HPを落とされても。
相打ちになっても。
最終的に、勝つ方向へ戻る。
彼女にとって、好意は弱体化ではありません。
好意は、次に勝つ理由です。
今回のエピソードの核
今回の核は、以下の三つです。
一つ目。好意自覚後の黒は、以前より準備が重くなる。
リュウへの好意を認めたことで、黒執着春麗はむしろ戦闘前準備に気合いが入りすぎています。
二つ目。好意を隠したいから、煽りが攻撃的になる。
攻撃性は敵意ではなく、防御です。好意が漏れないように、黒を尖らせています。
三つ目。その黒でリュウと初めて相打ちになる。
勝てない。負けない。同時に届く。これは、黒執着春麗にとって新しい到達点です。
そして最後に、リュウの無自覚褒め殺しで精神HPが落ちます。
試合結果は相打ち。
精神戦はリュウ勝利。
この分離が、今回もかなり重要です。
HP表記ありRPG形式バトル解説
戦闘開始時ステータス
黒執着春麗
HP:100
精神HP:100
状態:救済後、リュウへの好意自覚済み
装備:黒ドレス
特殊状態:好意隠蔽
戦闘方針:黒を尖らせてリュウに勝つ
煽り傾向:攻撃的
隠しパラメータ:見てほしい/見抜かれたくない
リュウ
HP:100
精神HP:100
状態:通常
戦闘方針:春麗の黒へ踏み込む
特殊能力:無自覚観測
危険発言:常時発動可能
PRE-BATTLE
黒執着春麗は、いつも以上に戦闘前準備へ時間をかけます。
裾、髪、立ち方、最初の視線、最初の一言、煽りの温度。
すべてを調整しています。
これは、好意を自覚したためです。
黒執着春麗 精神HP:100 → 92**
理由:自分の準備が好意由来であることを自覚してしまっているため。
リュウと対面。
春麗は攻撃的に煽ります。
> 今日は、手加減したら怒るわ。
> 今日の黒は、見ただけで分かった気になれるほど易しくないわ。
リュウは、
> 今日の春麗は、鋭いな。
と返します。
黒執着春麗 精神HP:92 → 84
理由:攻撃的に隠したはずなのに、リュウに状態を観測されたため。
TURN 1:序盤・黒の鋭化
春麗は序盤から優勢。
黒の遅れを短く鋭く使い、リュウの反応を遅らせます。
リュウ HP:100 → 82
黒執着春麗 HP:100 → 94
春麗は、
> 私を見たいなら、もっと早く踏み込んでみなさい。
と言います。
これは煽りですが、内側には「見てほしい」が漏れています。
黒執着春麗 精神HP:84 → 78
理由:自分の煽りに本音が混じったことを自覚。
リュウは踏み込み、浅く反撃成功。
黒執着春麗 HP:94 → 86
リュウ発言:
> 負けても、春麗が強かっただけだ。
黒執着春麗 精神HP:78 → 68
理由:試合中の無自覚褒め返し。
TURN 2:中盤・リュウの追いつき
リュウが黒の鋭さに追いつき始めます。
春麗は嫌がりながらも、リュウが越えてくることに高揚します。
黒執着春麗 HP:86 → 65
リュウ HP:82 → 66
リュウ発言:
> 春麗も楽しそうだ。
春麗は即座に否定しますが、内心では否定しきれていません。
黒執着春麗 精神HP:68 → 55
理由:戦闘の楽しさを見抜かれたため。
春麗は強い黒を置き、掌底を入れます。
リュウ HP:66 → 48
しかしリュウも同時に拳を入れます。
黒執着春麗 HP:65 → 49
ほぼ互角。
この段階で、試合は勝敗不明になります。
TURN 3:終盤・核心漏れ
春麗は言ってしまいます。
> 今日は、あなたにだけは負けたくない。
> 他の誰でもない。
> あなたに勝つための黒よ。
これは攻撃的な宣言ですが、かなり本音に近いです。
黒執着春麗 精神HP:55 → 44
理由:好意を隠すための黒から、リュウ個人へ向かう黒であることが漏れたため。
リュウは、
> なら、俺も春麗に勝つために行く。
と返します。
黒執着春麗 精神HP:44 → 34
理由:相互指名状態成立。
ここで最終ターンへ入ります。
FINAL TURN:初の相打ち
春麗は最後の黒を使います。
見せる。
隠す。
誘う。
消す。
残す。
リュウは踏み込みます。
黒に遅れながらも止まらない。
春麗の掌底。
リュウの拳。
同時命中。
リュウ HP:48 → 0
黒執着春麗 HP:49 → 0
RESULT
戦闘結果:相打ち
黒執着春麗として、リュウとの初めての相打ち。
勝利ではない。
敗北でもない。
同時に届いた。
同時に届かれた。
これは、新しい到達点です。
POST-BATTLE EVENT:リュウの無自覚褒め殺し
試合後、リュウの発言が始まります。
> 今日の春麗は、強かった。
黒執着春麗 精神HP:34 → 28
> 今日の黒は、前より近かった。
> 春麗に。
黒執着春麗 精神HP:28 → 18
> 今日はもっと春麗が入っていた。
黒執着春麗 精神HP:18 → 10
春麗は危険を感じます。
リュウはさらに踏み込みます。
> 春麗は、今日、俺に見られたくないものまで使っていた。
黒執着春麗 精神HP:10 → 5
> 隠しながら俺に届こうとしていた。
黒執着春麗 精神HP:5 → 1
最後の一撃。
> 今日の黒は、春麗が俺に向かってきた黒だった。
黒執着春麗 精神HP:1 → 0
FINAL RESULT
試合結果:相打ち
精神戦結果:リュウ勝利
黒執着春麗 精神HP:0/ノックアウト
簡易バトルログ
春麗、好意自覚後の黒ドレスで出撃。
戦闘前準備が過剰に丁寧になる。
好意を隠すため、煽りが攻撃的になる。
序盤は黒の鋭さで春麗優勢。
中盤、リュウが黒へ追いつき始める。
春麗の「あなたに勝つための黒」発言で核心が漏れる。
最終ターン、春麗の掌底とリュウの拳が同時命中。
初の相打ち成立。
試合後、リュウが黒の本質を無自覚に言語化。
春麗、精神HPノックアウト。
今回の到達点
好意を隠した黒は、リュウと相打ちになった。
そして、
隠しても届いた。
隠しても見られた。
隠しても相打ちになった。
次は、隠すのではなく勝つ。
これが今回の黒執着春麗の更新点です。
試合には勝てなかった。
でも、負けなかった。
精神戦では落とされた。
でも、黒は沈まなかった。
好意自覚後の黒は、弱くなったのではありません。
むしろ、リュウへ向かう力を増していました。