また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
黒執着春麗の後日談です。
黒ドレスは、畳まれていた。
丁寧に。
いつもより、少しだけ時間をかけて。
昨夜の相打ちの熱は、まだ布の奥に残っているような気がした。
リュウと同時に届いた。
同時に届かれた。
勝てなかった。
負けもしなかった。
初めての相打ち。
好意を隠すために尖らせた黒で、リュウと同じ場所まで踏み込んだ。
そして、試合後。
今日の黒は、春麗が俺に向かってきた黒だった。
そう言われて、精神HPを落とされた。
春麗は、黒ドレスを見つめたまま顔を覆った。
「……思い出すものではないわ」
思い出している。
完全に思い出している。
しかも、嫌ではない。
嫌ではないから、非常に問題だった。
今日は、黒を着ない。
そう決めていた。
負けたからではない。
相打ちだったからでもない。
黒から逃げるわけでもない。
黒は持っている。
昨日の黒は、確かにリュウへ届いた。
隠しても届いた。
隠しても見られた。
隠しても相打ちになった。
だからこそ、今日は黒を休ませる。
それだけ。
春麗は、青い武道服にも目を向けた。
青。
自分が青を選んだ時の感覚も、もう知らないわけではない。
黒だけではない自分。
黒を脱いでも空ではない自分。
青でも立てる自分。
それは大事だった。
でも、今日は青でもない。
黒を着ない日に、すぐ青を選ぶと、何かをごまかしたように見える。
少なくとも、自分にはそう見える。
黒でもない。
青でもない。
普通の服。
ただし、昨日の相打ちがなかったことになる服ではない。
リュウへの好意を自覚していないふりをする服でもない。
黒を捨てた服でも、青に逃げた服でもない。
春麗は、衣服を選びながら小さく呟いた。
「……今日は、黒でも青でもない」
一拍。
「試合ではない」
もう一拍。
「相打ちの整理日」
言ってから、目を細めた。
「資料整理日、とは言わないわ」
それは自覚前春麗の領域だ。
自分は、資料として逃げるには少し遅すぎるところまで来ている。
黒を持った。
青も持った。
好意も認めた。
相打ちもした。
そして、精神HPも落とされた。
今日の自分は、その全部を少しだけ抱えたまま、外に出る。
春麗は、黒でも青でもない服を選んだ。
柔らかすぎない。
甘すぎない。
動けないほど日常でもない。
けれど、戦闘服ではない。
鏡の前に立つ。
黒ではない。
青でもない。
でも、昨日の黒を失っていない自分が、そこにいる。
「……平然としていましょう」
一拍。
「無理ね」
即座に否定する。
昨日、相打ちをした。
昨日、全部見られた。
昨日、精神HPを落とされた。
今日、平然としていられるわけがない。
だが、外には出る。
部屋の中にいると、黒ドレスを見続けてしまう。
相打ちの瞬間を思い出してしまう。
リュウの言葉を反芻してしまう。
それは危険だ。
春麗は、鏡の中の自分に言った。
「今日は、会わない」
一拍。
「リュウには」
もう一拍。
「会わない」
言葉にした時点で、少し負けている気がした。
街は、何も知らない顔をしていた。
昨日の相打ちも。
黒の熱も。
精神HPノックアウトも。
誰も知らない。
春麗は、ゆっくり歩いた。
黒でも青でもない服は、思ったより軽かった。
だが、軽すぎない。
黒を脱いだから軽いのではない。
青を選ばなかったから軽いのでもない。
今日は、どちらも持ったまま選ばない日。
そう考えると、歩幅が少し落ち着いた。
「……悪くないわね」
小さく言う。
黒を着ない自分。
青も着ない自分。
それでも、自分は空ではない。
ここまでは、もう分かっている。
だから今日の目的は、確認ではない。
整理だ。
昨日の相打ちを、自分の中に置く。
好意を隠した黒が、リュウと同時に届いたこと。
リュウに見抜かれて落とされたこと。
それでも、次は勝ちたいと思っていること。
全部を、黒ドレスだけに閉じ込めない。
青だけで上書きもしない。
黒でも青でもない今日の自分で、少し持って歩く。
そういう日だった。
角を曲がる。
そこで、春麗は足を止めた。
リュウがいた。
当然のように。
あまりにも自然に。
春麗は、一瞬だけ目を閉じた。
「……会わないと言ったばかりなのに」
小さすぎる声だった。
リュウがこちらに気づく。
「春麗」
名前を呼ばれた。
昨日と同じ声。
昨日、相打ちになった相手の声。
昨日、今日の黒は春麗が俺に向かってきた黒だった、と言った男の声。
春麗は、どうにか平静を保った。
「偶然ね」
「ああ」
「本当に偶然ね」
「ああ」
「今日は、試合ではないわ」
「ああ」
「黒でもない」
「ああ」
「青でもない」
「ああ」
「だから、昨日の続きではないわ」
言ってから、自分で少し後悔した。
言い過ぎた。
続きではない、と言う時点で、昨日を意識している。
リュウは、しばらく春麗を見た。
黒ではない。
青でもない。
昨日の黒ドレスではない。
試合服でもない。
けれど、昨日を忘れた服でもない。
リュウは静かに言った。
「昨日の続きではない」
「ええ」
「でも、昨日の後の春麗だ」
春麗の精神HPが削れた。
初手。
初手から危険。
「……そういう言い方をしないで」
「違ったか」
「違わないから危険なのよ」
リュウは、少しだけ頷いた。
「今日の春麗は、昨日とは違う」
「当然でしょう」
「黒ではない」
「ええ」
「青でもない」
「ええ」
「でも、昨日の黒をなかったことにはしていない」
春麗は、息を止めた。
そこまで見るのか。
今日の服まで。
黒でも青でもない選択まで。
昨日の黒を捨てていないことまで。
「……リュウ」
「ああ」
「今日の私は、見なくていいところが多いわ」
「そうなのか」
「そうよ」
「でも、見えた」
「でしょうね」
春麗は、額に手を当てそうになってやめた。
ここで崩れたら、昨日の続きになる。
今日は試合ではない。
黒でも青でもない。
相打ちの整理日だ。
だが、リュウはその整理日ごと見てくる。
非常に危険だった。
二人は、並んで歩くことになった。
なぜそうなったのか、春麗には分からない。
分からないが、気づけばそうなっていた。
リュウは急かさない。
昨日の話も、すぐには出さない。
その沈黙が、少しありがたい。
そして、少し危険だった。
春麗は、横目でリュウを見る。
昨日は、拳が近かった。
相打ちの瞬間、リュウの拳が内側へ入ってきた。
自分の掌底も、リュウへ届いた。
同時。
あの感覚は、まだ体に残っている。
それを思い出しそうになって、春麗は視線を前へ戻した。
「昨日のことは」
自分から言ってしまった。
春麗は内心で頭を抱えた。
なぜ言う。
今日はその整理日なのに。
いや、整理日だから言うのか。
リュウは、静かに答える。
「ああ」
「忘れなさい」
「無理だ」
即答だった。
精神HPが削れる。
「即答しないで」
「忘れられない」
「二回言わないで」
「昨日の春麗が、全部使って来たからだ」
さらに削れる。
昨日の言葉の続き。
全部使って来た。
隠したものも、尖らせた黒も、勝ちたい気持ちも。
リュウは覚えている。
忘れない。
春麗は、黒でも青でもない服の裾を握りそうになった。
握らない。
ここで握ると、また見られる。
いや、すでに見られている。
「……今日は、全部使っていないわ」
かろうじて言う。
リュウは、春麗を見る。
「そうか」
「そうよ」
「でも、全部しまっているわけでもない」
春麗は止まりかけた。
「……何を」
「昨日の黒も、今日の春麗の中にある」
駄目だった。
かなり駄目だった。
黒を着ていない今日。
青でもない今日。
それでも昨日の黒を持っている。
自分では分かっていた。
分かっていたが、リュウに言われると危険だ。
「あなたは」
一拍。
「本当に、昨日の相打ちを盾にするわね」
「盾にしているのか」
「無自覚なのが余計に悪いわ」
リュウは、少し考えた。
「昨日の相打ちは、盾ではない」
「では何?」
「残っているものだ」
春麗は完全に黙った。
残っているもの。
昨日の相打ち。
黒でも青でもない今日の自分。
その両方を、リュウはつなげてくる。
春麗は顔を背けた。
「……今日は甘いことを言わないで」
「甘いのか」
「甘いわ」
「そうか」
「自覚しなさい」
「難しい」
「でしょうね」
春麗は、少しだけ息を吐いた。
怒りたい。
でも、怒りきれない。
昨日の相打ちが、残っている。
リュウの中にも。
自分の中にも。
それが分かってしまうから。
しばらく歩くと、小さな公園に出た。
春麗は足を止めた。
ここなら、人も少ない。
落ち着ける。
リュウも、少し離れて止まった。
試合の間合いではない。
日常の距離。
だが、昨日の相打ちを知っている距離。
春麗はベンチには座らず、その前に立った。
リュウも立ったまま。
風が吹く。
黒でも青でもない服が揺れる。
リュウが言った。
「今日は、戦わないんだったな」
「ええ」
「相打ちの続きは、しない」
「しないわ」
「なら、今日は何をする日なんだ」
春麗は、少しだけ目を伏せた。
整理日。
そう言おうとした。
だが、言葉が少しだけ変わる。
「昨日の自分を、黒ドレスだけに置いてこない日」
言ってから、少し驚いた。
自分で言った。
思っていたより、正直な言葉だった。
リュウは黙って聞いている。
春麗は続けた。
「黒を着ていた私は、確かに昨日の私よ」
「ああ」
「でも、今日の私は黒を着ていない」
「ああ」
「青でもない」
「ああ」
「それでも、昨日の相打ちを持っている」
「ああ」
「だから、今日は……」
一拍。
「黒でも青でもない私で、昨日を持てるか試しているのかもしれない」
言ってしまった。
かなり言ってしまった。
甘いエピソードを受ける前に、自分でかなり開示してしまった。
リュウは、しばらく何も言わなかった。
その沈黙は、余計ではなかった。
そして、リュウは言った。
「持てていると思う」
春麗の精神HPが削れた。
「……判定が早いわ」
「見えた」
「だから危険なのよ」
「今日の春麗は、昨日を捨てていない」
「ええ」
「昨日に戻ってもいない」
「ええ」
「黒でも青でもないまま、昨日を持っている」
さらに削れる。
春麗は、目を閉じた。
言われたかった。
たぶん。
言われたくなかった。
もちろん。
その両方だった。
「リュウ」
「ああ」
「今日は、褒める日ではないわ」
「そうなのか」
「そうよ」
「でも、昨日の後の春麗が、今日ここにいる」
「ええ」
「それは、強いと思う」
精神HPが大きく削れた。
春麗は、もう顔を背けるしかなかった。
「……強い、と言えばいいと思っているでしょう」
「思っていない」
「では、なぜ言うの」
「そう見えた」
「だから危険なのよ」
リュウは少しだけ考える。
そして、さらに危険なことを言った。
「昨日の黒も、今日の春麗も、同じ春麗だ」
春麗は、完全に止まった。
昨日の黒。
今日の黒でも青でもない自分。
それを同じ春麗だと言う。
黒を着ている時だけではない。
青を選んでいる時だけでもない。
相打ちした黒も、今日の整理している自分も、同じ春麗。
それは、かなり甘かった。
甘すぎた。
春麗は、顔を覆いかけた手を止める。
覆ったら負けだ。
いや、もうかなり負けている。
精神HPは危険域だ。
「……あなた」
「ああ」
「昨日、相打ちだったわよね」
「ああ」
「今日は試合していないわよね」
「ああ」
「なのに、なぜ私は今日も削られているのかしら」
リュウは少し考えた。
「俺が何かしたのか」
「したわ」
「何を」
「全部よ」
リュウは、少し困ったような顔をした。
春麗は、それを見て少しだけ笑ってしまった。
悔しい。
かなり悔しい。
でも、嫌ではない。
嫌ではないことが、今の自分の最大の問題だった。
公園を出る頃には、春麗の精神HPはかなり削れていた。
試合をしていない。
黒も着ていない。
青でもない。
ただ、昨日の相打ちの後に、黒でも青でもない姿でリュウと会っただけ。
それだけのはずだった。
だが、リュウは見てきた。
昨日の黒を捨てていないこと。
昨日に戻ってもいないこと。
黒でも青でもないまま、昨日を持っていること。
そして、昨日の黒も今日の自分も同じ春麗だということ。
危険。
非常に危険。
甘い。
甘すぎる。
春麗は、別れ際に立ち止まった。
「リュウ」
「ああ」
「今日のことは」
一拍。
「昨日の続きではないわ」
「ああ」
「でも」
もう一拍。
「昨日の後ではある」
リュウは、静かに頷いた。
「ああ」
「だから、覚えすぎないで」
「無理だ」
また即答。
春麗は、顔を背けた。
「即答しないで」
「今日の春麗も、残る」
精神HPが落ちた。
完全に。
試合をしていないのに。
黒でもないのに。
青でもないのに。
ただの別れ際の一言で。
今日の春麗も、残る。
それは駄目だ。
昨日の黒が残った。
今日の黒でも青でもない春麗も残る。
リュウの中に。
春麗は、声を絞り出した。
「……あなたの記憶容量は、どうなっているの」
「容量?」
「忘れなさいと言ったでしょう」
「忘れられない」
「二回目よ」
「大事だからだ」
「そういうところよ」
春麗は、もう何も言えなくなった。
精神HPは落ちている。
なのに、足は立っている。
昨日の相打ちより危険かもしれない。
いや、昨日は戦闘だった。
今日は日常だ。
日常で落とされた。
それが、かなり危険だった。
リュウは、最後に言った。
「昨日の春麗も、今日の春麗も、次の春麗も見る」
オーバーキル。
春麗は、完全に顔を背けた。
「……次まで予約しないで」
「駄目か」
「駄目ではないから困るのよ」
また、その言葉が出た。
駄目ではない。
だから困る。
リュウは、静かに頷いた。
「また今度だ」
春麗は、どうにか返す。
「……ええ」
一拍。
「また今度」
そう言って、リュウと別れた。
背中に視線を感じる。
黒でも青でもない服の背中。
昨日の相打ちを持った背中。
今日も残ると言われた背中。
春麗は、振り返らなかった。
振り返ったら、完全に負けを認めることになる気がした。
いや、もう精神戦では負けている。
だが、せめて振り返らない。
それくらいの抵抗は許されるはずだった。
夜。
春麗は、黒でも青でもない服を椅子に掛けた。
脱いだ後の服を、少しだけ見つめる。
黒ドレスほど強くはない。
青い武道服ほど意味を背負っているわけでもない。
けれど、今日の服にも、何かが残ってしまった。
リュウの言葉。
昨日の後の春麗。
黒でも青でもないまま、昨日を持っている。
昨日の黒も、今日の春麗も、同じ春麗。
今日の春麗も、残る。
昨日の春麗も、今日の春麗も、次の春麗も見る。
春麗は、顔を覆った。
「……思い出すものではないわ」
今日は何度目だろう。
思い出すものではない。
でも、思い出す。
そして、嫌ではない。
本当に、嫌ではない。
黒を着ていない自分が、リュウに残った。
青を選んでいない自分が、リュウに残った。
昨日の相打ちを持った今日の自分が、リュウに残った。
それは、かなり甘い。
黒で勝つよりも。
青で勝つよりも。
別の意味で、かなり甘い。
春麗は、机の上に紙を出した。
自己分析の続き。
好意は、敗北理由にしない。
好意は、次に勝つ理由にする。
好意を隠した黒は、相打ちになった。
その下に、新しく書く。
黒でも青でもない日にも、昨日の黒は残る。
少し考える。
さらに書く。
昨日の黒も、今日の私も、同じ春麗。
書いてから、春麗は顔を伏せた。
かなり危険な整理だ。
でも、正しい。
リュウに言われてしまった。
自分でも、そう思ってしまった。
黒ドレスの自分だけが春麗ではない。
青の自分だけが春麗でもない。
相打ちした黒も、今日の黒でも青でもない自分も、同じ春麗。
そして、リュウはその両方を見ている。
春麗は、ペンを握り直した。
今日の春麗も、残る。
書いて、すぐに顔が熱くなる。
「……これは、保存しない方が」
紙を見る。
保存しない方がいい。
だが、破れない。
捨てられない。
結局、畳む。
以前の自己分析の紙と一緒に置く。
春麗は、椅子に掛けた服をもう一度見た。
黒でも青でもない服。
今日の服。
昨日の後の自分を持っていた服。
リュウに残ると言われた服。
「……次は、何を着ればいいのよ」
小さく呟く。
答えはない。
黒か。
青か。
それとも、また黒でも青でもない日か。
分からない。
でも、次がある。
リュウは言った。
次の春麗も見る。
春麗は、灯りを消す前に小さく笑った。
「……次まで見るなら」
一拍。
「次こそ、勝つわ」
それが、黒執着春麗の結論だった。
甘い体験を受けても。
精神HPを落とされても。
昨日の黒も今日の自分も見られても。
最後は、勝つ。
リュウに。
自分の黒で。
あるいは、黒でも青でもない自分で。
まだ分からない。
でも、次がある。
春麗は灯りを消した。
部屋には、畳まれた黒ドレスと、青い武道服と、椅子に掛けられた今日の服が残っている。
黒。
青。
黒でも青でもない今日。
その全部を持ったまま、黒執着春麗は静かに眠りへ落ちていった。
Q:今回の妄想章IF後日談について解説して?
A:
執筆者としての解説
今回のエピソードは、一言で言うなら、
黒執着春麗が「黒を着ている自分」でも「青を選ぶ自分」でもない、普通服の自分として、昨日の黒と相打ちを抱えて歩く回
です。
かなり重要な回です。
前回までの黒執着春麗は、黒ドレスでリュウと戦い、好意を隠すために尖らせた黒で相打ちになりました。
勝てなかった。
負けもしなかった。
初めての相打ち。
そのうえで、リュウから「今日の黒は、春麗が俺に向かってきた黒だった」と言われ、精神HPを落とされています。
この時点で、黒はかなり更新されています。
救済前の黒は、リュウへ押しつける黒でした。
自分だけが重いのは嫌だから。
自分だけが見られたままになるのは嫌だから。
リュウの拳にも黒が残ればいいと思っていた。
そういう黒でした。
でも、今の黒は違います。
自分で持った黒。
好意を隠した黒。
それでもリュウへ向かっていった黒。
相打ちになった黒。
つまり、黒はもう「逃げ場所」でも「押しつけ」でもなくなっています。
では、その黒を着ていない日はどうなるのか。
今回のエピソードは、そこを描いた回です。
今回、春麗は黒を着ません。
でも、黒から逃げているわけではありません。
黒は持っている。
昨日の黒は、確かにリュウへ届いた。
隠しても届いた。
隠しても見られた。
隠しても相打ちになった。
だからこそ、今日は黒を休ませる。
この判断がとても良いです。
黒を着ないことが、黒の否定ではない。
黒を捨てることでもない。
黒を休ませること。
ここが救済後の黒執着春麗らしい成長です。
そして、もう一つ大事なのが、青も選ばないところです。
黒を着ないなら青を着ればいい、という話ではありません。
青を選ぶことも、春麗にとっては大切です。
黒だけではない自分。
青でも立てる自分。
それはもう分かっている。
でも今回は、すぐ青へ行くと、何かをごまかしたように見える。
だから、黒でも青でもない服を選ぶ。
ここが非常に重要です。
今回の春麗は、「黒か青か」の二択ではなく、そのどちらでもない自分として、昨日の相打ちを持って外に出ています。
黒でもない。
青でもない。
でも、昨日の黒を失っていない。
これは、黒執着春麗にとってかなり大きな自己統合です。
黒を着ていない自分も、黒を失っていない。
青を選んでいない自分も、空ではない。
普通服の自分でも、昨日の相打ちを持てる。
ここが今回の一番の核です。
そして、当然のようにリュウと会います。
「今日は、会わない」と言った直後に会う。
このあたりはもう、運命というより、春麗会議室的には事故です。
ですが、今回のリュウは非常に危険です。
春麗が「昨日の続きではない」と言う。
それに対してリュウは、
昨日の続きではない。
でも、昨日の後の春麗だ。
と言う。
これはかなり強いです。
昨日の続きではない、という春麗の防御を壊さずに、その防御の内側へ入っています。
今日は試合ではない。
黒でもない。
青でもない。
昨日の続きではない。
それは認める。
でも、昨日の後の春麗だ。
この言い方によって、昨日の相打ちも、今日の普通服の春麗も、切り離されずに繋がります。
春麗は、それを自分でも分かっていました。
しかし、リュウに言われると危険です。
黒でも青でもない服を選んだ意味。
昨日の黒を捨てていないこと。
昨日に戻ってもいないこと。
その全部をリュウに見られてしまう。
ここが今回の精神HP被弾ポイントです。
今回のリュウは、戦闘で春麗を倒していません。
黒にも触れていません。
青にも触れていません。
拳も交えていません。
それでも春麗を落としています。
なぜなら、今日の春麗を見ているからです。
黒ドレスの春麗だけを見るのではない。
青の春麗だけを見るのでもない。
昨日の相打ちの春麗だけを見るのでもない。
黒でも青でもない、昨日の後の春麗を見ている。
ここが非常に甘いです。
今回の中盤で、春麗はかなり正直なことを言います。
昨日の自分を、黒ドレスだけに置いてこない日。
これはかなり良い言葉です。
昨日の黒ドレスの自分は、確かに自分だった。
でも、黒ドレスを脱いだ今日の自分も、その昨日を持っている。
つまり、黒を衣装だけに閉じ込めない。
黒を脱いだら昨日の自分が消えるわけではない。
青を着たら上書きされるわけでもない。
黒でも青でもない自分でも、昨日の相打ちを持てる。
これはかなり重要です。
リュウはそれに対して、
持てていると思う。
と言います。
これも強いです。
判定が早い。
でも、見えている。
さらに、
今日の春麗は、昨日を捨てていない。
昨日に戻ってもいない。
黒でも青でもないまま、昨日を持っている。
と言う。
ここは、黒執着春麗の今の状態を、かなり正確に言語化しています。
そして決定的なのが、
昨日の黒も、今日の春麗も、同じ春麗だ。
この一言です。
これが今回の最大の高火力発言だと思います。
黒ドレスの春麗。
相打ちした春麗。
好意を隠して尖らせた黒。
今日の普通服の春麗。
黒でも青でもない整理日の春麗。
それらは別々ではない。
全部、同じ春麗。
これは、春麗が求めていた自己統合を、リュウが外側から言ってしまった形です。
だから春麗は落ちます。
黒を着ている時だけが自分ではない。
青を選んでいる時だけが自分でもない。
黒でも青でもない今日も、自分である。
リュウにそう見られた。
これは、かなり甘いです。
今回の終盤で、さらに危険なのが、
今日の春麗も、残る。
です。
昨日の黒が残った。
相打ちが残った。
では、今日の黒でも青でもない春麗はどうなるのか。
リュウは、それも残ると言う。
これは春麗にとって非常に危険です。
なぜなら、黒を着ていない自分まで、リュウの中に残るからです。
黒ドレスで煽った自分だけではない。
青で立つ自分だけでもない。
普通服で、昨日の相打ちを抱えている自分まで残る。
これは、春麗にとってかなり深い受け取られ方です。
しかもリュウは最後に、
昨日の春麗も、今日の春麗も、次の春麗も見る。
と言います。
完全なオーバーキルです。
昨日だけではない。
今日だけでもない。
次まで見る。
これで、春麗の中に「次」が発生します。
黒か。
青か。
それともまた、黒でも青でもない日か。
まだ分からない。
でも、次がある。
この「次がある」が、今回の結論に繋がっています。
夜、春麗は黒でも青でもない服を椅子に掛けます。
ここがとても良いです。
黒ドレスほど強い意味を背負っていない。
青い武道服ほど象徴的でもない。
でも、今日の服にも何かが残ってしまった。
これは、今回のエピソードの到達点です。
黒にもログが残る。
青にも意味がある。
そして、黒でも青でもない今日にも、リュウとの記憶が残る。
つまり、春麗の選択肢が増えています。
黒。
青。
黒でも青でもない今日。
その全部が、春麗の一部になっている。
これはかなり大きいです。
最後に、春麗は紙に書きます。
黒でも青でもない日にも、昨日の黒は残る。
昨日の黒も、今日の私も、同じ春麗。
今日の春麗も、残る。
かなり危険な整理です。
でも、正しい。
そして最後に、
次まで見るなら、次こそ、勝つわ。
ここに着地します。
これが黒執着春麗らしいです。
どれだけ甘い言葉を受けても。
精神HPを落とされても。
昨日の黒も、今日の普通服も、次の自分まで見られても。
最後は、勝つ。
リュウに。
自分の黒で。
あるいは、黒でも青でもない自分で。
まだ分からない。
でも、次がある。
今回のエピソードは、恋愛的にもかなり甘い回ですが、それ以上に、黒執着春麗の自己統合回として重要です。
黒だけが自分ではない。
青だけが自分でもない。
黒でも青でもない今日も、自分である。
そして、そのどの自分もリュウに見られてしまう。
ここまで来ると、黒執着春麗の「黒」は、もう衣装や戦術だけではありません。
自分が何を着ていても、何を選んでいても、昨日の黒を持っている。
好意も、悔しさも、相打ちも、次に勝ちたい気持ちも持っている。
だから、黒執着春麗はさらに強くなっています。
今回の一番大事な結論は、
黒でも青でもない自分も、春麗である。
ということです。
そしてリュウは、それを見てしまった。
だから、春麗は落ちる。
でも、次は勝つと思える。
黒執着春麗にとって、今回の「黒でも青でもない日」は、かなり大事な一歩だったと思います。