また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※これは本編時空ではなく、妄想章IFです。
黒執着春麗の後日談です。


妄想章IF後日談:黒執着春麗は、相打ちの黒を越えて勝った黒を棚に置く

 黒ドレスを前にして、春麗は長く黙っていた。

 

 棚の中に、黒がある。

 

 その隣に、青がある。

 

 黒は畳まれている。

 

 青も畳まれている。

 

 どちらも見える場所にある。

 

 黒は、隠していない。

 

 青も、昔の場所へ押し戻していない。

 

 黒を棚に置いたまま、青で勝った自分がいる。

 

 黒でも青でもない服で、リュウに今日の自分まで残ると言われた自分がいる。

 

 好意を隠した黒も、私。

 

 そう言った自分がいる。

 

 黒の私も。

 

 青の私も。

 

 黒でも青でもない私も。

 

 相打ちの後の私も。

 

 その翌日の私も。

 

 その後の私も。

 

 全部、私。

 

 そこまでは、もう書いた。

 

 だからこそ。

 

 今日は、黒を選ぶ。

 

 春麗は、棚の黒へ指を伸ばした。

 

 指先が、布に触れる。

 

 黒は静かだった。

 

 けれど、軽くはなかった。

 

 ここ最近の黒は、軽く扱えるものではない。

 

 久しぶりに負けた黒。

 

 気合いを入れて、準備して、勝つつもりで行って、リュウにギリギリで負けた黒。

 

 その時、リュウに言われた。

 

 今日の春麗には、ぎりぎりで勝ちたかった。

 

 あの言葉は、まだ残っている。

 

 その次の黒。

 

 好意を隠すために尖らせて、いつもより鋭く整えて、リュウに向かっていった黒。

 

 勝てなかった。

 

 負けもしなかった。

 

 初めて、相打ちになった。

 

 同時に届いた。

 

 同時に届かれた。

 

 その時、リュウに言われた。

 

 今日の黒は、春麗が俺に向かってきた黒だった。

 

 そして。

 

 今日。

 

 春麗は、黒ドレスを棚から出した。

 

「……今日は、相打ちでは終わらせない」

 

 小さく言う。

 

 声は、部屋の中に落ちた。

 

 誰も聞いていない。

 

 それでも、言わずにはいられなかった。

 

 前回は同時だった。

 

 あの距離。

 

 あの拳。

 

 あの掌底。

 

 あの黒の入り方。

 

 リュウが踏み込んできた瞬間。

 

 自分も踏み込んだ瞬間。

 

 重なった。

 

 それは悪くなかった。

 

 悪くなかったから、余計に悔しい。

 

 届いた。

 

 届かれた。

 

 それでも、勝ってはいない。

 

 だから今日は。

 

 一拍ではなくてもいい。

 

 半拍でもいい。

 

 四分の一拍でもいい。

 

 最後に、自分だけが先に立つ。

 

 黒で。

 

 前回の黒を越えて。

 

 前々回の敗北も越えて。

 

「……勝ちたい」

 

 言ってから、春麗は少しだけ目を伏せた。

 

 その言葉は、もう隠しようがない。

 

 勝ちたい。

 

 リュウに。

 

 あのリュウに。

 

 自分の準備を見抜いて、なお勝ってきたリュウに。

 

 好意を隠した黒ごと、自分に届いてきたリュウに。

 

 相打ちで、同じところまで来たリュウに。

 

 勝ちたい。

 

「……かなり飢えているわね」

 

 自分で言って、少しだけ笑った。

 

 勝利に飢えている。

 

 それは認める。

 

 救済後、リュウに勝てていた。

 

 黒で勝った。

 

 青でも勝った。

 

 勝てる自分を知っている。

 

 だからこそ、最近の敗北と相打ちが効いている。

 

 勝ちたい。

 

 勝てるはずの自分で、もう一度勝ち切りたい。

 

 その飢えを隠すために、黒を着るのではない。

 

 その飢えを、黒の戦術へ変えるために着る。

 

 春麗は、鏡の前に座った。

 

 化粧道具を並べる。

 

 目元。

 

 唇。

 

 頬。

 

 髪。

 

 肌の影。

 

 黒ドレスの襟元に合わせる色。

 

 動いた時、汗で崩れない程度の強さ。

 

 笑った時に、挑発に見える角度。

 

 黙った時に、余裕に見える影。

 

 けれど、今日は前回より濃くしすぎない。

 

 前回は、隠すために尖らせた。

 

 好意を隠すために、攻撃的にした。

 

 その結果、リュウに見抜かれた。

 

 隠しながら届こうとしていたことまで。

 

 なら、今日は同じでは駄目だ。

 

 濃くすれば勝てるわけではない。

 

 黒を強く出せば勝てるわけではない。

 

 黒は魔法ではない。

 

 裾が勝手にリュウを遅らせるわけではない。

 

 メイクが勝手に拳を止めるわけではない。

 

 視線を奪うのは、技術だ。

 

 遅れを作るのは、立ち方だ。

 

 半拍を生むのは、足の置き方、腰の沈み、肩の角度、呼吸、言葉の置き方だ。

 

 女として見られることも、春麗が選べば戦術になる。

 

 見られることに飲まれるのではない。

 

 見られる位置を、自分で決める。

 

 春麗は、目元の影を少しだけ整えた。

 

 強すぎない。

 

 弱くもしない。

 

 リュウの視線が、最初に目へ来る。

 

 そこで一瞬、止める。

 

 次に、唇。

 

 言葉を置く。

 

 そのあと、裾。

 

 足元。

 

 だが、本当の踏み込みは、リュウが裾を見た後ではない。

 

 目を戻す、その瞬間。

 

 そこで入る。

 

 春麗は、髪を留めた。

 

 前回より少し高い。

 

 首筋が見える。

 

 それも、無意味ではない。

 

 リュウがそこを見るかどうかではない。

 

 見ても見なくても、構えた時の肩の線が変わる。

 

 そこから蹴りの初動を隠す。

 

「……本当に、全部戦術にする気ね」

 

 鏡の中の自分に言う。

 

 黒ドレスの春麗が、同じ顔でこちらを見る。

 

 春麗は、黒ドレスを身につけた。

 

 裾を整える。

 

 肩を整える。

 

 足元を見る。

 

 前回、リュウは黒に踏み込んできた。

 

 見てから追うのではなく、黒の内側へ入ってきた。

 

 だから今日は、黒を置きすぎない。

 

 残しすぎない。

 

 見せる黒ではなく、見たと思わせる黒。

 

 踏み込んできたリュウの足が、ほんの少しだけ深く入るように誘う。

 

 その深さを、自分の間合いに変える。

 

 春麗は、鏡の中の自分へ言った。

 

「今日は、前回の黒ではない」

 

 一拍。

 

「もっと隠す、ではない」

 

 もう一拍。

 

「隠していたことまで持ったまま、勝つ」

 

 その言葉で、胸が少し熱くなった。

 

 危険だ。

 

 もう勝つ前から熱い。

 

 だが、今日はその熱も持っていく。

 

 熱を消すのではない。

 

 熱で暴れるのでもない。

 

 熱を、半拍へ変える。

 

 勝つために。

 


 

 リュウは、いつもの場所にいた。

 

 春麗が黒ドレスで現れると、リュウはすぐにこちらを見た。

 

 視線が、黒を捉える。

 

 裾。

 

 肩。

 

 足元。

 

 目元。

 

 そして、春麗を見る。

 

 春麗は、その視線を受けた。

 

 以前なら、そこで内側が騒いだ。

 

 見るな。

 

 いや、見ろ。

 

 見てほしい。

 

 でも、見抜くな。

 

 今日は、その矛盾ごと持っている。

 

 見られることも、戦術にする。

 

 見抜かれたくない自分も、戦術にする。

 

 それでも、最後に勝つ。

 

「リュウ」

 

「ああ」

 

「前回の相打ちを、覚えている?」

 

「ああ」

 

「忘れなさいとは言わないわ」

 

 リュウは静かに見る。

 

「言わないのか」

 

「どうせ無理でしょう」

 

「ああ」

 

「即答しないで」

 

 いつもの返し。

 

 だが、今日は少し違う。

 

 春麗は、一歩だけ前へ出た。

 

「今日は、同時では終わらせない」

 

 リュウの目が、少しだけ鋭くなる。

 

「そうか」

 

「ええ」

 

「なら、俺も前回より踏み込む」

 

 精神HPが削れる。

 

 もう来た。

 

 試合前から、来る。

 

 けれど、今日は崩れない。

 

 春麗は微笑んだ。

 

 用意してきた角度で。

 

 甘くしすぎず。

 

 攻撃的にしすぎず。

 

 リュウの視線を、一瞬だけ目元に止める角度で。

 

「踏み込むなら、覚悟しなさい」

 

「ああ」

 

「今日の黒は、見た後では遅い」

 

「ああ」

 

「でも、見ないともっと遅れる」

 

 リュウの拳が、わずかに握られる。

 

 春麗は続けた。

 

「あなたがどこを見るかも、今日は私の間合いよ」

 

 言った。

 

 かなり言った。

 

 女性として見られること。

 

 黒を見られること。

 

 準備を見られること。

 

 それを、全部こちらの間合いにする。

 

 リュウは、静かに頷いた。

 

「今日の春麗は、勝ちに来ている」

 

 精神HPが削れる。

 

 だが、春麗は目を逸らさない。

 

「ええ」

 

 認めた。

 

「勝ちに来たわ」

 

 一拍。

 

「黒で」

 

 もう一拍。

 

「あなたに」

 

 リュウは構える。

 

「なら、俺も勝ちに行く」

 

 胸が熱くなる。

 

 その真っ直ぐさが危険だ。

 

 だが、今日はそれでいい。

 

 春麗は黒い裾を静かに揺らした。

 

「来なさい」

 

 試合が始まった。

 


 

 序盤。

 

 春麗は、前回より黒を大きく使わなかった。

 

 裾を派手に残さない。

 

 半拍を見せびらかさない。

 

 視線を誘うのは、ほんの一瞬。

 

 リュウが足元を見た瞬間には、もう重心を変えている。

 

 目元を見せる。

 

 息を置く。

 

 口元に笑みを作る。

 

 そこから、肩を落とす。

 

 蹴りの初動は、裾ではなく腰から隠す。

 

 黒い布は、その結果として遅れる。

 

 黒が動かすのではない。

 

 春麗が動かし、黒が遅れて見える。

 

 リュウの拳が来る。

 

 春麗は、その拳の正面にはいない。

 

 半歩外。

 

 蹴り。

 

 リュウの脇腹へ入る。

 

 浅い。

 

 だが、入った。

 

「まず一つ」

 

 春麗は言う。

 

「前回より、見すぎたわね」

 

 リュウは崩れない。

 

「ああ」

 

「認めるの?」

 

「見た」

 

「そう」

 

「だが、前回とは違う」

 

 春麗は、内側で少し笑った。

 

「当たり前でしょう」

 

 リュウが踏み込む。

 

 速い。

 

 黒を追っていない。

 

 春麗を見ている。

 

 前回より早い。

 

 春麗は、裾を大きく払わない。

 

 リュウは、黒の大きな残りを待っている。

 

 そこに、何も置かない。

 

 空白。

 

 リュウの拳が、ほんの少し深く入る。

 

 春麗は、その内側へ回った。

 

 掌底。

 

 リュウの胸へ入る。

 

 リュウが息を吐く。

 

 しかし、拳が返る。

 

 春麗の肩をかすめた。

 

 痛い。

 

 リュウも届いている。

 

 春麗は距離を取る。

 

「……やっぱり、届くのね」

 

「ああ」

 

「腹が立つわ」

 

「春麗も届いている」

 

「そういう返しが、もっと腹立たしいのよ」

 

 リュウは構え直す。

 

「今日の黒は、前より静かだ」

 

 精神HPが少し削れる。

 

 見抜かれた。

 

 でも、それは想定内。

 

 春麗は微笑む。

 

「静かな方が、聞き逃すでしょう?」

 

 リュウの目がわずかに変わる。

 

 春麗は、その瞬間に踏み込んだ。

 


 

 中盤。

 

 リュウが追いついてくる。

 

 それは分かっていた。

 

 追いついてくる。

 

 越えてくる。

 

 だから、こちらも次を出す。

 

 黒を大きく見せない。

 

 しかし、消しもしない。

 

 見えた、と思わせる。

 

 見えたと思った瞬間に、春麗自身が別の位置へいる。

 

 リュウの拳が、春麗の肩を狙う。

 

 前回、相打ちになった距離。

 

 春麗は一瞬だけ、あの衝撃を思い出す。

 

 同時に届いた拳。

 

 同時に揺れた身体。

 

 同時に膝をついた瞬間。

 

 悪くなかった。

 

 でも、今日は違う。

 

 春麗は肩を落とす。

 

 拳が上を通る。

 

 黒い裾は遅れて揺れる。

 

 同時に、春麗は踏み込む。

 

 蹴り。

 

 リュウの太腿へ深く入る。

 

 リュウの身体がわずかに沈む。

 

 しかし、そこからリュウが踏み直す。

 

 拳。

 

 春麗の脇腹へ入る。

 

 重い。

 

 息が止まる。

 

 HPが削れる。

 

 春麗は歯を食いしばる。

 

 下がらない。

 

 ここで下がると、前回と同じになる。

 

 同時に届いて終わる。

 

 今日は、もう一歩先へ行く。

 

「リュウ」

 

「ああ」

 

「前回と同じ場所に、私はいないわ」

 

 リュウの目が、静かに春麗を見る。

 

「そう見える」

 

 削れる。

 

 だが、止まらない。

 

 春麗は、あえて一歩引いた。

 

 逃げではない。

 

 間合いを作るため。

 

 リュウが追う。

 

 追ってくる。

 

 春麗は、そこで笑った。

 

 勝ちたい気持ちが、胸の奥で燃えている。

 

 隠しきれない。

 

 でも、もう隠しきれないことまで、自分の黒だ。

 

「見たいなら、もっと近くへ来なさい」

 

 言った瞬間、自分でも危険だと思った。

 

 でも、今はこれでいい。

 

 リュウが踏み込む。

 

「行く」

 

 その返答が、真っ直ぐで。

 

 春麗の精神HPを削る。

 

 だが、身体は動く。

 

 黒の戦術は、精神HPが削れても止めない。

 

 春麗は、リュウの踏み込みを受け入れる。

 

 近い。

 

 近すぎる。

 

 拳の距離。

 

 掌底の距離。

 

 互いに逃げられない距離。

 

 春麗は、目線を上げた。

 

 目元へ誘う。

 

 笑う。

 

 リュウの視線が一瞬だけ上がる。

 

 その瞬間に、膝を沈める。

 

 足元ではない。

 

 腰の高さが変わる。

 

 リュウの拳の角度が、ほんの少しだけずれる。

 

 春麗は内側へ入った。

 

 掌底。

 

 リュウの胸。

 

 深い。

 

 リュウの拳も返る。

 

 春麗の肩に入る。

 

 重い。

 

 互いに弾かれる。

 

 しかし、今回は同時ではない。

 

 ほんの少し。

 

 ほんの少しだけ、春麗が先に入った。

 

 春麗はそれを感じた。

 

 前回より、先に届いた。

 

 その感触が、胸の奥を熱くする。

 

「……今の」

 

 春麗は、息を乱しながら言う。

 

「少し、遅れたわね」

 

 リュウは、呼吸を整えながら答えた。

 

「ああ」

 

 認めた。

 

 黒が熱くなる。

 

 危険。

 

 まだ中盤。

 

 まだ勝っていない。

 

 酔うな。

 

 春麗は、黒い裾を押さえるように指を動かした。

 

 自分を押さえるために。

 


 

 終盤。

 

 春麗のHPは残り少ない。

 

 リュウも同じくらい削れている。

 

 敗北の黒を思い出す。

 

 相打ちの黒を思い出す。

 

 どちらも、ここから崩れた。

 

 ここで届かれた。

 

 ここで勝ち切れなかった。

 

 今日は。

 

 今日だけは。

 

 春麗は、深く息を吸った。

 

 黒ドレスの裾は乱れている。

 

 メイクも少し崩れている。

 

 髪も完全ではない。

 

 それでも、準備は残っている。

 

 目の置き方。

 

 肩の角度。

 

 足の位置。

 

 言葉。

 

 最後の一言。

 

 勝った後用ではない。

 

 勝つための一言。

 

 リュウが構える。

 

 春麗も構える。

 

「リュウ」

 

「ああ」

 

「前回、あなたはもっと見ると言ったわね」

 

「ああ」

 

「見えた?」

 

 リュウは、静かに答える。

 

「見えている」

 

 春麗は笑った。

 

 危険なほど、静かに。

 

「なら」

 

 一拍。

 

「見えている場所には、もういないわ」

 

 春麗は動いた。

 

 大きくはない。

 

 黒を派手に舞わせる動きではない。

 

 最短。

 

 沈む。

 

 踏む。

 

 腰をずらす。

 

 肩を開く。

 

 視線だけを残す。

 

 リュウが拳を出す。

 

 速い。

 

 強い。

 

 前回より踏み込んでいる。

 

 黒を恐れていない。

 

 黒の内側に入ってくる。

 

 だから、春麗は逃げない。

 

 入ってきたリュウのさらに内側へ、半身を滑らせる。

 

 黒い裾は遅れて揺れる。

 

 リュウの拳が春麗の肩をかすめる。

 

 痛い。

 

 熱い。

 

 だが、芯は外れた。

 

 春麗の掌底が、リュウの胸へ入る。

 

 深い。

 

 リュウの膝が揺れる。

 

 それでも、拳が返る。

 

 低い。

 

 春麗の脇腹へ。

 

 避けきれない。

 

 受ける。

 

 重い。

 

 視界が白くなる。

 

 だが、倒れない。

 

 前回は同時だった。

 

 今日は、ここで終わらせない。

 

 春麗は、残った足で踏み直す。

 

 黒ドレスの裾が、遅れて円を描く。

 

 リュウの視線が、ほんの一瞬だけその裾へ落ちる。

 

 落ちた。

 

 春麗は、最後の一言を置いた。

 

「そこは、もう見せたでしょう」

 

 リュウの目が戻る。

 

 遅い。

 

 ほんの少し。

 

 ほんの少しだけ、遅い。

 

 春麗の蹴りが走る。

 

 黒い裾が軌道を隠したのではない。

 

 春麗の腰が、肩が、視線が、言葉が、リュウの判断を半拍だけ遅らせた。

 

 その結果として、黒が遅れて見えた。

 

 蹴りが、リュウの防御の外を抜ける。

 

 肩。

 

 深い。

 

 リュウの体が揺れる。

 

 膝が落ちる。

 

 それでも拳が来る。

 

 春麗は腕で受ける。

 

 痺れる。

 

 足が震える。

 

 だが、中心は残る。

 

 最後の掌底を、リュウの胸へ置く。

 

 重く。

 

 静かに。

 

 リュウの拳が下がる。

 

 身体が沈む。

 

 立ち上がれない。

 

 春麗は、立っていた。

 

 黒で。

 

 相打ちの黒を越えて。

 

 敗北の黒を越えて。

 

 立っていた。

 

 沈黙。

 

 風が通る。

 

 黒い裾が、遅れて揺れた。

 

 春麗は、息を切らしながら言った。

 

「……私の勝ちね」

 

 リュウは、片膝のまま顔を上げた。

 

「ああ」

 

 その一言で、胸の奥が一気に熱くなった。

 

 勝った。

 

 勝った。

 

 今度は、勝った。

 

 負けた黒の後に。

 

 相打ちの黒の後に。

 

 今日の黒で。

 

 リュウに。

 

 あのリュウに。

 

 自分の黒で、勝ち切った。

 

 春麗の中で、黒が甘くなる。

 

 熱が、満ちていく。

 

 これだ。

 

 これが欲しかった。

 

 ギリギリで。

 

 リュウに。

 

 黒で。

 

 勝った。

 

 黒が、胸の奥で囁くようだった。

 

 やっぱり、黒なら勝てる。

 

 やっぱり、黒が一番届く。

 

 やっぱり、黒で勝つ私が──

 

 春麗は、そこで息を止めた。

 

 危険。

 

 今のは、危険。

 

 黒酔い。

 

 勝ったからこそ来る。

 

 負けた時より危ない。

 

 相打ちの時より甘い。

 

 久しぶりに勝ち切った黒だから、余計に甘い。

 

 春麗は、震えそうになる指を握った。

 

 黒が私。

 

 違う。

 

 黒も私。

 

 黒で勝った私も私。

 

 青で勝った私も私。

 

 黒でも青でもない服で、リュウに今日の私まで残ると言われた私も私。

 

 好意を隠した黒も、私。

 

 でも、黒だけが私ではない。

 

 勝った黒だけを、自分の中心にしてはいけない。

 

 春麗は、リュウから視線を外した。

 

 自分の黒ドレスの裾を見る。

 

 乱れている。

 

 汗を含んでいる。

 

 戦った跡がある。

 

 勝った跡がある。

 

「……今日は、ここまで」

 

 リュウは静かに頷く。

 

「ああ」

 

「これ以上いると、酔うわ」

 

「酔う?」

 

「こちらの話」

 

 春麗は、どうにか笑った。

 

「今日は勝った」

 

「ああ」

 

「相打ちではなく」

 

「ああ」

 

「黒で」

 

「ああ」

 

「それで十分」

 

 言いながら、自分に言い聞かせる。

 

 十分。

 

 これ以上、勝った黒に浸らない。

 

 これ以上、リュウに感想を求めない。

 

 以前、青で勝った後にそれをして沈んだ。

 

 勝った春麗も見たい。

 

 あの言葉を思い出すだけで、まだ危険だ。

 

 今日は聞かない。

 

 今日の黒がどう見えたか。

 

 強かったか。

 

 春麗に見えたか。

 

 聞かない。

 

 聞いたら終わる。

 

 黒酔いと精神HPノックアウトが同時に来る。

 

 春麗は、背を向けた。

 

「次も勝つわ」

 

「ああ」

 

「でも、今日の黒は今日の黒として、棚に置く」

 

「ああ」

 

「覚えておきなさい」

 

「忘れない」

 

 また危険な即答。

 

 春麗は振り返らない。

 

「……忘れないなら、正しく覚えておきなさい」

 

「ああ」

 

「これは、あなたに押しつけた黒ではないわ」

 

「ああ」

 

「あなたの拳のせいでもない」

 

「ああ」

 

「負けた黒の言い訳でもない」

 

「ああ」

 

「相打ちの黒の上書きでもない」

 

 一拍。

 

「私が選んで、私が使って、私が勝った黒よ」

 

 リュウは、静かに言った。

 

「そう見えた」

 

 精神HPが削れる。

 

 でも、今日は崩れない。

 

 春麗は、少しだけ笑った。

 

 勝った。

 

 見られた。

 

 酔いかけた。

 

 でも、戻れた。

 

 黒を持ったまま。

 

 自分の足で。

 


 

 その夜。

 

 春麗は、黒ドレスを畳んでいた。

 

 いつもより丁寧に。

 

 だが、飾るためではない。

 

 しまうためだ。

 

 今日の黒は勝った。

 

 前々回、負けた黒。

 

 前回、相打ちになった黒。

 

 そして、今日、勝った黒。

 

 その三つが、胸の奥でつながっている。

 

 悔しい黒。

 

 届いた黒。

 

 届かれた黒。

 

 同時だった黒。

 

 そして、半拍だけ先に届いた黒。

 

 春麗は、布を撫でた。

 

 胸の奥が、まだ熱い。

 

 大満足だった。

 

 かなり満足している。

 

 思い出すだけで、黒が甘くなる。

 

「……危ないわね」

 

 小さく呟く。

 

 勝利は危険だ。

 

 敗北より危険な時がある。

 

 負ければ、悔しがる。

 

 反省する。

 

 次へ向かう。

 

 相打ちなら、同時に届いた熱を抱える。

 

 次こそ勝つと決められる。

 

 だが、勝つと酔う。

 

 特に、最近勝てていなかった後に。

 

 リュウに負けて。

 

 リュウと相打ちになって。

 

 その次に、黒で勝ち切ると。

 

 酔う。

 

 自分の黒に。

 

 勝った黒に。

 

 リュウへ届き、リュウを遅らせ、リュウに勝った黒に。

 

 春麗は、黒ドレスを持って棚の前に立った。

 

 棚には、これまでの黒がある。

 

 負けた黒。

 

 折られた黒。

 

 救われた黒。

 

 相打ちの黒。

 

 好意を隠した黒。

 

 そして、青がある。

 

 黒を棚に置いたまま勝った青。

 

 褒め殺された青。

 

 黒でも青でもない自分の服も、椅子に掛けられている。

 

 全部、見える場所にある。

 

 春麗は、少しだけ迷った。

 

 今日の黒だけ、別に置きたい。

 

 少し高い場所に。

 

 特別な場所に。

 

 久しぶりに、黒で勝ち切ったのだから。

 

 敗北を越えた黒だから。

 

 相打ちを越えた黒だから。

 

 リュウに勝った黒だから。

 

 そう思った瞬間、自分で笑った。

 

「……それが黒酔いよ」

 

 分かっている。

 

 だから、そうしない。

 

 春麗は、今日の黒を、負けた黒の隣に置いた。

 

 相打ちの黒の隣に置いた。

 

 救われた黒の隣に置いた。

 

 青の近くにも見える場所に置いた。

 

 特別な祭壇にはしない。

 

 軽く扱いもしない。

 

 同じ棚に置く。

 

 今日の黒は勝った。

 

 それは事実。

 

 とても大事な事実。

 

 でも、勝ったからといって、自分の全部ではない。

 

「今日の黒は、勝った黒」

 

 一拍。

 

「負けた黒と、相打ちの黒の後に来た黒」

 

 もう一拍。

 

「でも、私の全部ではない」

 

 さらに一拍。

 

「棚に置く」

 

 声に出して、棚を閉じる。

 

 完全には閉じない。

 

 少しだけ、黒が見えるように。

 

 青も見えるように。

 

 忘れないために。

 

 酔わないために。

 

 必要な時に取り出せるように。

 

 春麗は、鏡の前に戻った。

 

 メイクは崩れていた。

 

 戦ったのだから当然だ。

 

 目元の影も、唇の色も、最初に整えた形ではない。

 

 けれど、残っている。

 

 今日、戦術として使った名残。

 

 女性としての自分を、勝つために使った名残。

 

 見られることに飲まれず、見られる位置を自分で決めた名残。

 

 春麗は、鏡の中の自分を見る。

 

「勝ったわ」

 

 言う。

 

 笑みが浮かぶ。

 

 満足が戻る。

 

 黒が甘くなる。

 

 すぐに、息を吸う。

 

「でも、今日は終わり」

 

 黒を棚に置いた。

 

 勝利も棚に置いた。

 

 自分は、ここにいる。

 

 黒を着ていない自分として。

 

 黒を脱いでも、空ではない自分として。

 

 青もある。

 

 黒でも青でもない自分もある。

 

 全部、私。

 

 春麗は、机の上に紙を出した。

 

 以前の自己分析がある。

 

 好意は、敗北理由にしない。

 

 好意は、次に勝つ理由にする。

 

 好意を隠した黒は、相打ちになった。

 

 隠しても、届いた。

 

 隠しても、見られた。

 

 隠しても、相打ちになった。

 

 次は、隠すのではなく、勝つ。

 

 春麗は、その下に新しく書いた。

 

 負けた黒の後。

 

 相打ちの黒の後。

 

 今日、黒で勝った。

 

 勝った黒は、甘い。

 

 かなり危険。

 

 黒酔い注意。

 

 春麗は、少しだけ迷ってから、さらに書く。

 

 勝った黒も、私。

 

 でも、黒だけが私ではない。

 

 棚に置く。

 

 書いてから、長く息を吐いた。

 

 これでいい。

 

 今日は、それでいい。

 

 大満足だった。

 

 危うく黒酔いしかけた。

 

 だが、戻れた。

 

 それが、今日の本当の勝利だった。

 


 

 同じ夜。

 

 遠い場所で、黒ドレス特化救済春麗は、そのログを見届けていた。

 

 春麗会議室ではない。

 

 黒執着春麗本人に接触する場でもない。

 

 ただ、黒の奥に残った反応を、専門家として見る。

 

 黒ドレス特化救済春麗は、静かに目を閉じていた。

 

 見えたのは、黒の熱。

 

 敗北の後の熱。

 

 相打ちの後の熱。

 

 そして、久しぶりに勝ち切った黒の熱。

 

 黒ドレス特化救済春麗は、静かに息を吐いた。

 

「……これは、危なかったわね」

 

 ただの勝利ではない。

 

 負けた後の勝利。

 

 相打ちの後の勝利。

 

 青でも勝てる春麗が、それでも今日は黒を選び、黒で勝ち切った勝利。

 

 それは、黒執着春麗にとってかなり甘い。

 

 黒こそが自分。

 

 黒で勝つ自分こそが本物。

 

 そう傾きかけても、おかしくなかった。

 

 むしろ、傾かない方が不自然だった。

 

 黒ドレス特化救済春麗は、その瞬間を見ていた。

 

 勝った直後。

 

 リュウが膝をつき、春麗だけが立っていた瞬間。

 

 負けた黒と、相打ちの黒を越えた瞬間。

 

 黒が春麗を飲みかけた。

 

 勝った黒だけを、特別なものにしようとした。

 

 けれど、黒執着春麗は止まった。

 

 黒が私。

 

 違う。

 

 黒も私。

 

 そう戻した。

 

 青で勝った自分を思い出した。

 

 黒でも青でもない自分を思い出した。

 

 好意を隠した黒も私だと認めた自分を思い出した。

 

 そして、勝った黒を棚に置いた。

 

 負けた黒の隣に。

 

 相打ちの黒の隣に。

 

 救われた黒の隣に。

 

 青の近くにも見える場所に。

 

 特別な祭壇にはしなかった。

 

 黒ドレス特化救済春麗は、少しだけ微笑んだ。

 

「合格よ」

 

 一拍。

 

「本当に、かなり危なかったけれど」

 

 黒の扱いにおいて、勝利は敗北より危うい時がある。

 

 負けた黒は、悔しさになる。

 

 相打ちの黒は、次への熱になる。

 

 でも、勝った黒は酔わせる。

 

 特に、勝利に飢えた後の黒は。

 

 黒ドレス特化救済春麗は、今日の戦いを思い返す。

 

 黒は魔法ではなかった。

 

 黒い裾が勝手に遅らせたのではない。

 

 春麗が遅らせた。

 

 立ち方で。

 

 足の置き方で。

 

 腰の沈みで。

 

 肩の角度で。

 

 呼吸で。

 

 目線で。

 

 唇に乗せる言葉で。

 

 女性として見られることまで、戦術の中に組み込んで。

 

 リュウの判断を、ほんの半拍だけ遅らせた。

 

 その半拍で勝った。

 

 だからこそ、価値がある。

 

 そして、だからこそ危険だった。

 

 自分の女としての見られ方まで使い、黒でリュウに勝つ。

 

 それは、黒執着春麗にとって甘すぎる勝利になり得る。

 

 けれど、彼女は棚に戻した。

 

 黒ドレス特化救済春麗は、静かに言う。

 

「勝った黒を、勝ったまま棚に戻せた」

 

 一拍。

 

「なら、選べている」

 

 黒が戻った。

 

 黒執着春麗の手元に。

 

 ただし、黒だけが春麗になったわけではない。

 

 黒は棚にある。

 

 必要なら選べる。

 

 でも、棚から出し続けなくていい。

 

 青も、そこにある。

 

 普通の自分も、そこにある。

 

 勝った黒も、負けた黒も、相打ちの黒も、全部そこにある。

 

 黒ドレス特化救済春麗は、少しだけ目を伏せた。

 

 あの子は、危うい。

 

 救済後でも危うい。

 

 リュウに勝てば酔う。

 

 リュウに褒められれば落ちる。

 

 負ければ燃える。

 

 相打ちなら、もっと勝ちたくなる。

 

 黒で届けば熱くなる。

 

 青で勝っても、勝った青を聞きたくなって沈む。

 

 黒でも青でもない服で会えば、今日の自分まで残ると言われて落ちる。

 

 それでも、戻れる。

 

 今日、それが確認できた。

 

「黒でも勝てる」

 

 一拍。

 

「青でも勝てる」

 

 もう一拍。

 

「黒でも青でもなくても、リュウに残る」

 

 そして。

 

「勝った黒を、棚に置ける」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、静かにログを閉じた。

 

 黒執着春麗本人には伝えない。

 

 今伝えれば、また黒が揺れる。

 

 合格と言われたことに酔うかもしれない。

 

 まだ、その必要はない。

 

 外から見届けるだけでいい。

 

 敗北の黒。

 

 相打ちの黒。

 

 勝利の黒。

 

 全部が棚に戻った。

 

 黒を着た春麗も、黒を脱いだ春麗も、青で勝った春麗も、同じ春麗として戻りつつある。

 

 それでいい。

 

 黒ドレス特化救済春麗は、最後に小さく言った。

 

「次は、どれを選んでもいい」

 

 一拍。

 

「黒でも、青でも、黒でも青でもなくても」

 

 もう一拍。

 

「選んで、勝って、戻せるなら」

 

 今日のログは、十分すぎる。

 

 久しぶりに勝ち切った黒。

 

 相打ちを越えた黒。

 

 危うく酔いかけた黒。

 

 それでも棚へ戻された黒。

 

 その黒は、もう春麗を飲むだけのものではない。

 

 春麗が選び、使い、勝ち、そして棚に戻せる黒だった。

 




Q:今回の妄想章IF後日談について解説して?

A:

今回は、黒執着春麗が「相打ちの黒」を越えて、久しぶりに黒でリュウに勝ち切る回でした。

今回のポイントは、単に黒ドレスで勝ったことではありません。

直前の流れとして、黒執着春麗はまず黒でリュウに敗北しています。
その次の試合では、初めてリュウと相打ちになりました。

つまり、救済後に黒で勝てていた春麗が、最近は黒で勝ち切れていなかったわけです。

負けた。
次は相打ち。
なら、今度こそ勝つ。

今回の黒は、その流れを受けた黒です。

なので、今回の春麗はかなり勝利に飢えています。

ただし、救済前のように「リュウに黒を押しつけたい」「リュウを黒の原因にしたい」という方向ではありません。

リュウが強いから勝ちたい。
前回、相打ちになったから今度は勝ち切りたい。
好意を隠した黒も自分だと認めたうえで、それでも黒を選んで勝ちたい。

そういう救済後の黒です。

また、今回の黒は魔法ではありません。

黒い裾が勝手にリュウを遅らせるわけではありません。
黒ドレスを着たら自動的に相手が惑うわけでもありません。

春麗が、衣装、メイク、視線、立ち方、腰の沈み、肩の角度、足の置き方、呼吸、煽りの言葉、そして女性として見られることまで、全部を格闘技の中に組み込んでいます。

見られることに飲まれるのではなく、見られる位置を自分で決める。
リュウがどこを見るかを読み、その判断を半拍だけ遅らせる。
その半拍で、自分の技を届かせる。

今回の黒ドレス戦術は、そういうものです。

そして、この回の本当の危険は勝った後です。

前々回は負けた。
前回は相打ち。
今回は勝った。

この流れで黒で勝ち切ると、春麗はかなり黒に酔いかけます。

やっぱり黒なら勝てる。
やっぱり黒が一番届く。
黒で勝つ私こそが本物。

そう傾きかけるわけです。

でも、今の黒執着春麗はそこで戻れます。

黒で勝った私も私。
青で勝った私も私。
黒でも青でもない服でリュウに残ると言われた私も私。
好意を隠した黒も私。

だから、黒だけが私ではない。

今回の本当の勝利は、リュウに勝ったことだけではなく、勝った黒に酔い切らず、その黒を棚に戻せたことです。

勝った黒を祭壇に置かない。
負けた黒、相打ちの黒、救われた黒、青で勝った自分の近くに置く。

それができたから、この黒はもう春麗を飲むだけのものではなくなっています。

春麗が選び、使い、勝ち、そして棚に戻せる黒になった。

今回は、そこを描いた回でした。

HP表記ありのバトル解説

今回の試合をHP制で表すと、だいたい以下のようなイメージです。

試合開始時

黒執着春麗 HP100
リュウ   HP100

序盤

黒執着春麗 HP88
リュウ   HP82

序盤は春麗が取っています。

ただし、これは黒ドレスの特殊能力でリュウを翻弄したわけではありません。

春麗が前回より黒を大きく使わず、裾を派手に残さず、目線、唇、肩、腰、足元のズレでリュウの判断を細かく遅らせています。

リュウは黒に引っかかっていますが、完全に遅れているわけではありません。
すでに春麗本体を見ようとしていて、肩をかすめる攻撃も入れています。

中盤

黒執着春麗 HP55
リュウ   HP52

中盤でリュウがかなり追いついています。

ネタバレ込みで言うと、今回のリュウは弱くありません。

むしろ、前回の相打ちを踏まえてかなり対応しています。

黒の裾だけを追うのではなく、春麗の重心、肩、腰、踏み込みの深さを見ています。
さらに、黒の外側から追うのではなく、黒の内側へ踏み込もうとしています。

前回、相打ちに持ち込めた理由をリュウ側も掴んでいる状態です。

なので、春麗はかなり危ないです。

黒を大きく見せれば見せるほど、リュウはそこへ踏み込んでくる。
だから今回の春麗は、あえて黒を静かに使っています。

派手に惑わせるのではなく、リュウが「見えた」と思った瞬間に、ほんの少しだけ位置を変える。
そこが今回の勝負でした。

終盤突入時

黒執着春麗 HP24
リュウ   HP21

ここからは、どちらが勝ってもおかしくない状態です。

リュウはかなり対応しています。
前回と同じく、相打ちに近いところまで持っていっています。

ただ、今回の春麗は前回と違って、同時に届くだけでは終わらせませんでした。

リュウが黒の内側へ踏み込んでくる。
春麗はそれを読んだ上で、さらに内側へ半身を滑らせる。
リュウの拳は春麗の肩をかすめるが、芯は外れる。
春麗の掌底はリュウの胸へ深く入る。

ここで、ほんの少しだけ春麗が先に届いています。

最終盤

黒執着春麗 HP6
リュウ   HP0

今回の勝利は、かなりギリギリです。

春麗の残HPは6くらいです。
ほぼ限界です。

リュウの最後の拳も入っています。
春麗は腕で受けていますが、痺れも残っています。
もう一撃もらっていたら、また相打ち、あるいは敗北でした。

ただ、最後の最後にリュウの視線が黒い裾へほんの一瞬落ちました。

そこで春麗が置いた言葉が、

「そこは、もう見せたでしょう」

です。

この一言で、リュウの判断が半拍遅れます。

重要なのは、黒い裾そのものが魔法のようにリュウを止めたわけではないことです。

春麗の腰、肩、足、目線、言葉、そしてリュウが過去の黒を見てきた記憶。
それらが合わさって、最後の半拍を作っています。

その半拍で春麗の蹴りが防御の外を抜け、最後の掌底でリュウを沈めました。

今回の勝敗

試合結果

黒執着春麗 HP6
リュウ   HP0

黒執着春麗のギリギリ勝利です。

ただし、精神HPで見ると、勝った後がかなり危険です。

試合終了直後の黒執着春麗

肉体HP 6
精神HP 18
黒酔い危険度 かなり高い

ここでリュウに「今日の黒はどう見えた?」などと聞いていたら、たぶん精神HPは即死していました。

青で勝った時に、春麗はリュウへ感想を求めて褒め殺されています。
今回はその反省もあり、感想を聞かずに撤退しています。

つまり、今回の春麗は戦闘だけでなく、撤退判断も少し成長しています。

リュウの状態について

今回のリュウは、春麗の黒にただ翻弄されて負けたわけではありません。

前回の相打ちを踏まえて、かなり春麗の黒に対応しています。

黒の裾を見る。
でも裾だけを追わない。
春麗の重心を見る。
肩の角度を見る。
踏み込みの深さを見る。
黒の外ではなく、内側へ踏み込む。

リュウは、かなり正解に近い対応をしています。

それでも負けたのは、今回の春麗が前回の相打ちをさらに上回るために、黒を派手に使うのではなく、逆に静かに使ったからです。

大きく惑わせる黒ではなく、見えたと思わせる黒。
見抜いたと思った瞬間に、春麗自身がもう半歩ずれている黒。
女性として見られることも、煽りも、姿勢も、全部含めた格闘戦術としての黒。

リュウはかなり見えていました。
ただ、最後の一瞬だけ、春麗の設計した位置を見てしまった。

その差で負けています。

なので今回のリュウは、弱体化していません。
むしろかなり強いです。

強いリュウに、黒執着春麗がギリギリで勝ち切った。
だからこそ、今回の黒は危険なほど甘い勝利になりました。

そして、その勝った黒を棚に戻せたことが、今回の黒執着春麗の本当の成長です。
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