また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
本編のIFシリーズは無関係のエピソードとなります。
記録板AIは、銀色の棚の前で表示を切り替えた。
春麗会議室ではない。
本編確定ログでもない。
青い小箱でもない。
危険封筒でもない。
ディレクターズカットIF領域。
本編時空には置けない可能性を、一時的に検証するための場所だった。
『本記録は、ディレクターズカットIFです』
『本編確定ログではありません』
『妄想章IF後日談の時空でも発生していません』
『本編時空への直接反映は禁止推奨です』
一拍。
『今回の検証条件を説明します』
『本編には現時点で登場していない春日野さくらを、ディレクターズカットIF用の外部要素として一時投入します』
『本記録における春日野さくらは、リュウを慕い、拳について語る相手として配置されます』
『ただし、リュウと春日野さくらの間に恋愛関係はありません』
『浮気も発生していません』
『発生しているのは、黒執着春麗側の誤認、嫉妬、独占欲、精神HP被弾です』
記録板AIは、淡々と続ける。
『本記録の検証主題』
『黒執着春麗が、リュウと春日野さくらの会話を目撃した場合』
『それを浮気疑惑として誤認した場合』
『黒ドレスを着た春麗が、嫉妬を戦術化してリュウと戦った場合』
『そして、分からせる側に回ったはずの春麗が、最終的にリュウの言葉で精神HPを削られる場合』
一拍。
『注意事項』
『黒執着春麗本人は、本記録をディレクターズカットIFとして認識していません』
『春日野さくらは、本編確定登場ではありません』
『本記録は、本編では危険すぎる嫉妬・独占欲・黒ドレス戦術の検証です』
最後に、記録板AIは表示した。
『黒執着春麗・浮気疑惑検証ログ、開始します』
最初に見たのは、笑顔だった。
リュウが、さくらと話していた。
ただ、それだけ。
試合の話かもしれない。
稽古の話かもしれない。
拳の話かもしれない。
リュウが誰かに拳を語るのは、珍しいことではない。
春日野さくらがリュウを慕っていることも、分かる。
彼女の目が真っ直ぐなのも。
リュウが、それを無視できない男なのも。
知っている。
だから、本来なら何も問題はない。
問題はない。
ないはずだった。
けれど、黒執着春麗は、足を止めてしまった。
黒ドレスの裾が、風に揺れる。
その視線の先で、さくらが笑っている。
リュウは、いつもの顔で頷いている。
真面目に。
静かに。
相手の拳を見ている時の目で。
それは、ただの会話だった。
けれど、その時の春麗には、そう見えなかった。
胸の奥が、冷えた。
次に、熱くなった。
黒が、静かに息をした。
「……そう」
春麗は、小さく呟いた。
「私の前では、あんなに言葉を選ばないくせに」
一拍。
「他の子には、ちゃんと向き合うのね」
違う。
違うと分かっている。
リュウは、誰にでも真っ直ぐだ。
さくらにも真っ直ぐ。
春麗にも真っ直ぐ。
ただ、それだけ。
けれど、今の黒執着春麗には、その「誰にでも」が危険だった。
リュウの真っ直ぐさは、武器だ。
春麗の精神HPを削る武器だ。
それが、他の誰かにも向いている。
その事実だけで、胸の奥が焦げた。
「……浮気」
言葉にしてから、自分で眉を寄せた。
浮気ではない。
そもそも、そういう関係ではない。
そういう約束をしたわけでもない。
恋人でもない。
所有権もない。
権利もない。
ない。
ないはずなのに。
春麗の唇が、ゆっくり笑った。
「なら、今から分からせればいいのね」
黒ドレスの裾が揺れる。
今日は、黒で来ていた。
リュウと戦うために。
勝つために。
そして、たぶん。
少しだけ、見てもらうために。
なのに、リュウは先にさくらを見ていた。
そう見えた。
その時点で、黒執着春麗の中で何かが外れた。
救済後の棚。
置いた黒。
勝った黒。
相打ちの黒。
戻ってきた黒。
選んだ青。
全部、ある。
戻れる。
分かっている。
けれど、今日は駄目だった。
戻る前に、リュウを捕まえる。
そう決めた。
さくらが去った後、リュウは春麗に気づいた。
「春麗」
いつもの声。
いつもの目。
春麗は笑った。
黒ドレスのまま。
ゆっくり近づく。
「楽しそうだったわね」
リュウは少しだけ首を傾げる。
「さくらのことか」
「ええ」
「稽古の話をしていた」
「そう」
「ああ」
「稽古」
春麗は、笑みを深くした。
「私とは試合の話で、さくらとは稽古の話なのね」
「そういうつもりではない」
「そういうつもりではない、ね」
春麗は一歩近づく。
リュウは、そこでようやく空気の違いに気づいたようだった。
「春麗」
「何?」
「怒っているのか」
「いいえ」
即答だった。
嘘だった。
「怒っていないわ」
一拍。
「少し、確認したいだけ」
「確認?」
「ええ」
春麗は、黒ドレスの裾を指で払う。
「あなたが、誰を見るのか」
リュウは真っ直ぐ答えた。
「春麗を見ている」
精神HPが削れた。
しかし、今日はそれすら燃料になった。
「今は、でしょう?」
「今も、だ」
また削れる。
危険。
危険なのに、止まらない。
春麗は笑った。
「いいわ」
一拍。
「なら、試合で確認しましょう」
リュウが構える。
「ああ」
「今日は、逃がさないわ」
「逃げない」
「そう」
春麗は、構えた。
黒が静かに、しかし熱く動く。
「なら、分からせてあげる」
一拍。
「私がどれだけ、あなたを見ていたか」
試合は、最初から荒かった。
春麗は普段よりも速かった。
いや、速いだけではない。
リュウの逃げ道を潰すように動いた。
拳の軌道。
足の置き方。
間合いを詰める角度。
後退できる線。
全部、春麗は先に塞いだ。
リュウは一度下がる。
春麗は笑う。
「下がるの?」
「距離を取った」
「誰から?」
「春麗からだ」
「そう」
春麗の目が細くなる。
「私からは、距離を取るのね」
リュウの拳が止まる。
その一瞬を、春麗は見逃さなかった。
黒ドレスの裾が翻る。
蹴りが入る。
リュウの脇腹。
浅くない。
リュウが息を吐く。
春麗は踏み込む。
「さくらには近づいていたのに?」
リュウの目がわずかに動く。
春麗の掌底が入る。
リュウは受ける。
だが、押される。
「春麗」
「何?」
「誤解している」
「ええ」
春麗は笑った。
「そうかもしれないわね」
黒が深くなる。
「でも、今日はその誤解ごと、あなたに受けてもらうわ」
リュウの拳が返る。
重い。
春麗の肩に入る。
痛み。
春麗は下がらない。
むしろ、近づいた。
「いい拳」
一拍。
「ちゃんと私に向いている」
リュウの拳が、わずかに止まった。
春麗は、その拳に手を添えるようにして軌道をずらす。
身体を入れる。
膝。
掌底。
黒ドレスの裾が遅れて揺れる。
リュウの身体が揺れる。
今日の春麗は、危険だった。
勝ちたいだけではない。
見てほしいだけでもない。
リュウの視線を、自分へ戻したい。
それが戦術になっている。
「今日は、私だけ見なさい」
言葉が出た。
春麗自身も、少しだけ驚いた。
だが、止めなかった。
「私の黒を」
一拍。
「私の拳を」
さらに一歩。
「私の嫉妬を」
リュウの目が大きくなる。
「嫉妬」
「言わせないで」
「言ったのは春麗だ」
「言わせたのはあなたよ」
「そうか」
「納得しないで!」
春麗の蹴りが飛ぶ。
リュウが受ける。
受けながら前に出る。
拳が春麗の腹へ届く。
深い。
春麗の息が止まる。
だが、それでも下がらない。
黒ドレスの裾を踏み込みに合わせて払う。
リュウの視線が一瞬だけ流れる。
そこへ、最後の一手。
春麗の掌底が、リュウの胸へ入った。
リュウの拳も動いた。
だが、春麗の方が半拍早い。
リュウの身体が後ろへ倒れた。
膝をつく。
拳はまだ握っている。
だが、次は出せない。
春麗は、立っていた。
息を切らしながら。
肩で呼吸しながら。
黒ドレスの裾を乱しながら。
それでも、立っていた。
「……私の勝ちね」
リュウは、膝をついたまま頷く。
「ああ」
「聞こえないわ」
「春麗の勝ちだ」
春麗の胸の奥で、黒が甘く揺れた。
勝った。
リュウに勝った。
嫉妬した黒で。
暴走しかけた黒で。
それでも、自分の黒で。
勝った。
危険だった。
かなり危険だった。
でも今日は、止まらない。
春麗は、リュウへ近づいた。
リュウはまだ膝をついていた。
立てないわけではない。
だが、試合は終わっている。
春麗は、その前に立つ。
見下ろす形になった。
普段なら、ここで引く。
今日は引かない。
「リュウ」
「ああ」
「顔を上げて」
リュウは顔を上げた。
真っ直ぐに春麗を見る。
その目で。
さっき、さくらにも向けていた目で。
けれど、今は春麗だけを見ている目で。
春麗は、ゆっくりしゃがんだ。
視線を合わせる。
「ねえ」
「ああ」
「あなた、分かっているの?」
「何を」
「私がどれだけ、あなたを見ていたか」
リュウは黙った。
春麗は、指で、リュウの額を軽く押した。
強くない。
痛くない。
ただ、逃がさないための小さな接触。
「あなたが誰に話しかけるか」
一拍。
「誰の拳を見るか」
もう一拍。
「誰に真っ直ぐ頷くか」
リュウは、静かに聞いている。
「全部、見てしまうのよ」
春麗は、少しだけ笑った。
「本当に面倒ね」
「春麗がか」
「ええ」
一拍。
「でも、今日はあなたも悪いわ」
「俺が?」
「ええ」
春麗は、リュウの胸元を軽く掴んだ。
引き寄せるほどではない。
ただ、距離を固定する。
「私に、あれだけ危険なことを言っておいて」
「ああ」
「私の青も、黒も、勝った日も、負けた日も、覚えておいて」
「ああ」
「それで、他の子にも同じように真っ直ぐなのは」
一拍。
「少し、困るわ」
リュウは、しばらく黙っていた。
沈黙。
春麗は、その沈黙に少しだけ不安になる。
言いすぎたか。
これは、さすがに重いか。
そう思った瞬間、リュウは言った。
「同じではない」
春麗の精神HPが削れた。
「……何が」
「さくらと話していた時と、春麗を見ている時は、同じではない」
春麗は固まった。
お仕置きする側だった。
勝った側だった。
嫉妬した側だった。
暴走しかけた側だった。
なのに、また削られた。
「リュウ」
「ああ」
「今、私はあなたをお仕置きしているの」
「ああ」
「そこで反撃しないで」
「反撃ではない」
「反撃よ」
リュウは、真面目な顔で言った。
「春麗には、春麗への見方がある」
精神HPがさらに削れる。
「やめなさい」
「やめるのか」
「やめないで」
言ってしまった。
春麗は目を閉じた。
完全に自爆だった。
リュウは、ほんの少しだけ目を細めた。
「春麗」
「何」
「誤解させたなら、すまない」
「そこは謝っていいわ」
「ああ」
「でも」
一拍。
「謝るだけで済むと思わないことね」
春麗は、少しだけ声を低くした。
黒ドレスの裾が、膝の横で揺れる。
「今日は、私がどれだけあなたを見ていたか、分からせる回だから」
「どうするんだ」
「まず」
春麗は、リュウの胸元から手を離し、彼の道着の襟元を軽く整えた。
乱れていた部分を直す。
戦いで乱れた布を、丁寧に戻す。
「私との試合で乱れたものは、私が整える」
リュウは黙っている。
「次に」
春麗は、リュウの肩の埃を払う。
「私の拳が届いたところを、あなたに忘れさせない」
「ああ」
「覚えておきなさい」
「忘れない」
即答。
削れる。
「即答しないで」
「忘れられない」
「二回言わないで」
春麗は、額を押さえた。
勝ったのに。
お仕置きしているのに。
なぜ自分が削られているのか。
納得できない。
だが、悪くない。
そこが一番問題だった。
春麗は、リュウの前に立ったまま、少しだけ息を整えた。
「最後に」
「ああ」
「今から言うことを、ちゃんと覚えておきなさい」
「ああ」
「私は、あなたが誰と話しても怒るわけではない」
「ああ」
「さくらが悪いわけでもない」
「ああ」
「あなたが真っ直ぐなのも知っている」
「ああ」
「でも」
一拍。
「私に向けた言葉を、私だけのものにしてほしい時がある」
言った。
言ってしまった。
嫉妬というより、ただの本音だった。
春麗は、自分でもそれに気づいた。
黒は熱い。
嫉妬もある。
独占欲もある。
でも、奥にあるのはそれだった。
私だけのものにしてほしい時がある。
リュウに向けられた言葉ではない。
リュウから自分に向けられた言葉。
それだけは、自分だけの場所に置きたい。
春麗は、顔を少し背けた。
「……今のは、お仕置きの一環よ」
「そうなのか」
「そうよ」
「わかった」
「分かっていない顔ね」
リュウは、静かに言った。
「春麗に向けた言葉は、春麗に向けている」
春麗の精神HPが大きく削れた。
「……そういうところ」
「ああ」
「本当にそういうところ」
リュウは続ける。
「さくらには、さくらへの言葉を言う」
「ああ」
「春麗には、春麗への言葉を言う」
さらに削れる。
「同じではない」
完全に削れる。
春麗は、片手で顔を覆った。
「……お仕置きしているのは私よね?」
「ああ」
「なぜ私が倒されかけているの?」
「倒されているのか」
「精神HPが」
「精神HP」
「こちらの話よ!」
リュウは、それ以上追及しなかった。
春麗は、どうにか顔を上げる。
お仕置きは終わっていない。
いや、もう終わってもいい。
むしろ終わらせないと、こちらが危険だ。
「リュウ」
「ああ」
「今日の勝者は?」
「春麗だ」
「よろしい」
「今日の春麗は、強かった」
「そこで褒めない」
「すまない」
「謝らない」
「難しい」
「本当に難しい男ね」
春麗は、少しだけ笑った。
黒は、まだ熱い。
でも、最初のような危うさではない。
嫉妬は残っている。
だが、リュウの言葉で少し形を変えた。
怒りではなく、確認になった。
独占欲ではなく、置き場所の話になった。
春麗は、立ち上がる。
「今日はここまで」
「ああ」
「浮気疑惑は、一応保留」
「浮気ではない」
「分かっているわ」
一拍。
「でも、疑惑としては保存する」
「保存するのか」
「こちらの精神HP管理の都合よ」
「そうか」
春麗は、黒ドレスの裾を整える。
「次から、さくらと話す時は」
「ああ」
「私の目に入る場所で、ほどほどにしなさい」
「分かった」
「いえ、やっぱり今のは撤回」
「ああ」
「そんなことを本当にされると、私が面倒な女みたいでしょう」
リュウは黙った。
春麗の目が細くなる。
「今、何を考えたの」
「春麗は、面倒ではない」
精神HPが落ちた。
「……今のは」
「ああ」
「一番駄目」
「そうなのか」
「そうよ」
春麗は、顔を背けた。
もう無理だった。
勝った。
勝ったはずだった。
お仕置きもした。
分からせる側だった。
それなのに最後に、またリュウに落とされた。
どこで戦っても、リュウは危険だった。
帰り道。
黒執着春麗は、黒ドレスの裾を揺らしながら歩いていた。
勝った。
嫉妬した。
暴走しかけた。
お仕置きした。
分からせるつもりだった。
そして、分からされた。
「……おかしくない?」
小さく呟く。
お仕置き回だったはずだ。
私がどれだけあなたを見ていたか分からせてあげる。
そういう回だったはずだ。
なのに、リュウは言った。
同じではない。
春麗には、春麗への見方がある。
春麗に向けた言葉は、春麗に向けている。
春麗は、面倒ではない。
黒執着春麗は、道の途中で立ち止まった。
顔を覆う。
「……お仕置きされたのは、私では?」
認めたくない。
しかし、かなりそうだった。
勝負には勝った。
嫉妬もぶつけた。
リュウの視線も取り戻した。
けれど、精神戦ではまた負けた。
それも、かなり綺麗に。
黒執着春麗は、深く息を吐く。
黒はまだ熱い。
でも、最初のような黒酔いではない。
むしろ、妙に甘い。
危険な嫉妬が、リュウの言葉で甘い敗北に変えられてしまった。
それが悔しい。
かなり悔しい。
けれど、嫌ではない。
「……次は、もっとちゃんとお仕置きするわ」
一拍。
「精神戦でも勝つ」
もう一拍。
「たぶん」
最後の一言が弱かった。
黒執着春麗は、自分でそれに気づき、少しだけ笑った。
帰宅後。
黒ドレスを棚に戻す。
今日は、嫉妬の黒。
浮気疑惑の黒。
お仕置きしようとして、逆に精神HPを削られた黒。
危険だった。
けれど、捨てるほどではない。
なかったことにするほどでもない。
春麗は、黒ドレスを丁寧に畳んだ。
「これは、残す」
一拍。
「でも、すぐには見ない」
黒を棚に置く。
少しだけ見えるように。
忘れないために。
そして、二度と同じ誤解で暴走しすぎないために。
春麗は、棚を閉じた。
灯りを落とす前に、小さく呟く。
「リュウ」
一拍。
「次に私だけの言葉を言う時は」
もう一拍。
「ちゃんと、私だけに言いなさい」
言ってから、顔が熱くなる。
これは、お仕置きの続きではない。
ただの願望だ。
黒執着春麗は、布団に入る。
目を閉じる。
勝った。
嫉妬した。
分からせた。
分からされた。
そして、少しだけ安心した。
さくらは悪くない。
リュウも浮気などしていない。
ただ、自分が面倒だった。
でも、リュウはそれを面倒ではないと言った。
それが、今日一番危険だった。
「……本当に」
春麗は、布団の中で小さく言った。
「あなたは、私を落とすのが上手すぎるわ」
その声は、怒っているようで。
どこか、甘かった。
記録板AIは、銀色の棚の前で表示を戻した。
『検証ログを終了します』
『本記録は、本編確定ログではありません』
『本編には現時点で登場していない春日野さくらを含むため、本編時空への直接反映は禁止推奨です』
『浮気は発生していません』
『発生したのは、黒執着春麗による浮気疑惑誤認、および嫉妬を燃料にした黒ドレス戦闘です』
一拍。
『戦闘結果』
『黒執着春麗、勝利』
『精神戦結果』
『リュウの無自覚反撃により、黒執着春麗の精神HP大幅減少』
さらに一拍。
『分類』
『嫉妬の黒』
『浮気疑惑の黒』
『お仕置き失敗の黒』
『私だけの言葉要求ログ』
『本編混入不可』
記録板AIは、淡々と締めた。
『以上、ディレクターズカットIF・浮気疑惑検証ログでした』
Q:今回のディレクターズカットIFについて解説して?
A:
今回は、ディレクターズカットIFとしての「浮気疑惑」回でした。
最初に記録板AIから説明があった通り、この話は本編確定ログではありません。
また、妄想章IF後日談の時空で発生した出来事でもありません。
今回は、本編には現時点で登場していない春日野さくらを、ディレクターズカットIF用の外部要素として登場させています。
なので、この話をもって「本編に春日野さくらが登場した」という扱いにはなりません。
あくまで、黒執着春麗が「リュウが他の女性と親しげに話している場面」を見たらどうなるか、という検証回です。
そして、かなり大事なことですが、リュウは浮気していません。
そもそも、春麗とリュウは恋人関係として約束を交わしているわけではありません。
春日野さくらとも、恋愛的なやり取りをしているわけではありません。
リュウはただ、さくらと稽古や拳について話していただけです。
問題は、黒執着春麗がそれをどう見たかです。
今回の春麗は、黒ドレスでリュウに会いに来ています。
戦うため。
勝つため。
そして、少しだけ見てもらうため。
ところが、リュウは先にさくらと話していた。
その時点で、黒執着春麗の中では、かなり危険なスイッチが入っています。
浮気ではない。
権利もない。
約束もない。
そもそも怒る資格があるのかも怪しい。
でも、嫌なものは嫌。
この「理屈では分かっているのに、感情が燃える」という部分が、今回の黒執着春麗の核です。
今回の黒は、勝つための黒であると同時に、嫉妬の黒です。
リュウの視線を自分に戻したい。
自分がどれだけリュウを見ていたか分からせたい。
リュウが誰を見るのか確認したい。
そして、自分に向けられた言葉は、自分だけの場所に置きたい。
ここまで行くと、かなり危険です。
ただし、今回の春麗は単なる暴走ではありません。
嫉妬をしている。
誤解もしている。
かなり面倒な状態になっている。
それでも、その感情を戦術に変えています。
リュウの逃げ道を潰す。
距離を詰める。
視線を奪う。
「今日は、私だけ見なさい」と言ってしまう。
そして、その嫉妬ごと黒に乗せて戦う。
黒執着春麗らしい危険な戦い方だったと思います。
一方で、今回のリュウも非常に危険です。
リュウは誤解を誤解として否定します。
さくらと話していた時と、春麗を見ている時は同じではない、と言います。
春麗には、春麗への見方がある、と言います。
春麗に向けた言葉は、春麗に向けている、と言います。
これは、黒執着春麗にはかなり刺さります。
今回の構図は、
春麗がお仕置きする側。
春麗が分からせる側。
春麗が嫉妬をぶつける側。
のはずでした。
しかし、リュウが無自覚に真っ直ぐな言葉を返してきた結果、春麗の精神HPが削られていきます。
つまり、戦闘では春麗の勝ち。
お仕置きも一応成功。
リュウの視線も取り戻した。
でも精神戦では、またリュウに削られています。
今回の黒執着春麗は、怒りや独占欲から入っていますが、最後に残ったのは「私に向けた言葉を、私だけのものにしてほしい時がある」という本音でした。
ここは、かなり重要です。
嫉妬。
独占欲。
浮気疑惑。
お仕置き。
そういう危険な言葉で包まれていますが、奥にあるのはかなりシンプルです。
リュウから自分に向けられた言葉を、自分だけの場所に置きたい。
黒執着春麗は、その願望をかなり危険な形で出してしまったわけです。
この話を本編に置くと、かなり距離が進みすぎます。
また、春日野さくらも本編未登場なので、通常回として扱うと時空が混乱します。
だからこそのディレクターズカットIFです。
本編には混ぜない。
でも、黒執着春麗の危険な嫉妬や独占欲を検証する。
そのためのサンドボックス回でした。
今回の分類としては、
嫉妬の黒。
浮気疑惑の黒。
お仕置き失敗の黒。
私だけの言葉要求ログ。
になります。
個人的には、「お仕置きしようとして、最終的に自分が精神HPを落とされる」という流れが、かなりこの連作らしいと思っています。
HP表記ありのRPG形式バトル解説
今回のバトルをHP制で見ると、だいたい以下のようなイメージです。
試合開始時
黒執着春麗 HP100
リュウ HP100
黒執着春麗 精神HP100
リュウ 精神HP100
ただし、春麗は試合開始前の時点で状態異常が入っています。
状態異常:嫉妬
状態異常:黒過熱
状態異常:浮気疑惑
状態異常:お仕置き宣言
この時点で、通常の黒ドレス戦よりもかなり危険です。
序盤
黒執着春麗 HP91
リュウ HP72
序盤は春麗がかなり押しています。
今回の春麗は、普段よりも踏み込みが荒いです。
速いだけではなく、リュウの逃げ道を潰すように動いています。
リュウが距離を取ろうとすると、
「私からは、距離を取るのね」
と言葉で刺してきます。
これはかなり強いです。
リュウの動きだけでなく、精神面にも半拍の遅れを作っています。
ただし、この時点で春麗自身もかなり危険です。
嫉妬を燃料にしているため、攻撃力は上がっていますが、精神HPの安定性は落ちています。
中盤
黒執着春麗 HP58
リュウ HP43
中盤から、リュウが押し返します。
春麗は黒ドレスの視線誘導、踏み込み、言葉の圧でリュウを捕まえ続けます。
「今日は、私だけ見なさい」
「私の黒を」
「私の拳を」
「私の嫉妬を」
ここは、春麗の攻撃力がかなり高いです。
リュウの精神HPにもダメージが入っています。
ただし、リュウはここで完全には崩れません。
むしろ、春麗の言葉を真っ直ぐ受け止めてしまいます。
「嫉妬」
「言ったのは春麗だ」
「そうか」
このあたりで、春麗の方が逆に削られ始めます。
戦闘HPでは春麗が優勢。
精神HPでは、すでにリュウの無自覚反撃が始まっています。
終盤
黒執着春麗 HP22
リュウ HP15
終盤、リュウの拳が春麗の腹へ深く入ります。
ここはかなり危ない場面です。
普通なら春麗が下がってもおかしくありません。
しかし今回の春麗は下がりません。
嫉妬の黒。
お仕置きの黒。
リュウの視線を自分へ戻す黒。
その全部を乗せて、最後の半拍を取りに行きます。
黒ドレスの裾を払う。
リュウの視線が一瞬だけ流れる。
その一瞬に、掌底を入れる。
この流れで、春麗の攻撃が先に届きます。
決着
黒執着春麗 HP14
リュウ HP0
戦闘結果は、黒執着春麗の勝利です。
かなりギリギリですが、今回は春麗が勝っています。
リュウは膝をつき、次の攻撃を出せない状態になります。
春麗は立っている。
黒ドレスの裾は乱れている。
息も切れている。
でも立っている。
戦闘面では、完全に春麗の勝ちです。
ただし、問題はここからです。
戦闘後精神HP推移
リュウが「春麗の勝ちだ」と言う
黒執着春麗 精神HP78
ここまでは、まだ春麗が優勢です。
勝った実感があります。
嫉妬した黒で、リュウに勝った。
お仕置きする側として立っています。
リュウが「さくらと話していた時と、春麗を見ている時は、同じではない」と言う
黒執着春麗 精神HP49
ここで一気に削れます。
春麗はお仕置きしているつもりでした。
しかしリュウが真っ直ぐに「同じではない」と返したことで、春麗の怒りが少し崩れます。
リュウが「春麗には、春麗への見方がある」と言う
黒執着春麗 精神HP26
かなり危険です。
春麗は嫉妬で攻めていたはずなのに、リュウの言葉によって「自分はちゃんと特別に見られているのかもしれない」という方向へ引っ張られます。
リュウが「春麗に向けた言葉は、春麗に向けている」と言う
黒執着春麗 精神HP8
ここでほぼ瀕死です。
春麗の本音である「私に向けた言葉を、私だけのものにしてほしい時がある」に対して、リュウが真っ直ぐ返してしまいました。
これは強すぎます。
春麗はお仕置きする側だったのに、精神HPは大きく削られています。
リュウが「春麗は、面倒ではない」と言う
黒執着春麗 精神HP1
実質ノックアウト寸前です。
今回の春麗は、嫉妬して、独占欲を出して、浮気疑惑を保存しようとして、自分でも面倒だと分かっています。
そこへリュウが、
春麗は、面倒ではない。
と言ってしまう。
これは、黒執着春麗には大ダメージです。
戦闘総合結果
戦闘勝者
黒執着春麗
精神戦勝者
リュウ
黒執着春麗は、戦闘には勝ちました。
嫉妬の黒で勝ちました。
リュウの視線も取り戻しました。
お仕置きも一応成立しています。
ただし、精神戦ではリュウに返り討ちにされています。
お仕置きするはずが、お仕置きされたような気分になる。
分からせるはずが、分からされる。
勝ったはずなのに、帰り道で「お仕置きされたのは、私では?」となる。
今回の戦闘は、そういう構造です。
RPG的にまとめると、
黒執着春麗
戦闘HP 14/100
精神HP 1/100
状態異常:嫉妬解除
状態異常:黒過熱解除
状態異常:私だけの言葉要求ログ追加
状態異常:リュウの無自覚反撃による精神HP瀕死
リュウ
戦闘HP 0/100
精神HP 不明
状態異常:春麗への誤解謝罪
状態異常:無自覚反撃成功
状態異常:春麗は面倒ではない発言
今回の結論は、
黒執着春麗、戦闘勝利。
浮気疑惑、誤認。
さくら、無罪。
リュウ、浮気なし。
黒執着春麗、嫉妬の黒でお仕置き成功。
ただし精神戦では、リュウの無自覚反撃により大敗。
です。
つまり、今回もいつもの形です。
春麗は勝った。
でも、リュウの言葉で落とされた。
ディレクターズカットIFでも、リュウはやっぱり危険でした。