また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
本編のIFシリーズは無関係のエピソードとなります。
記録板AIは、銀色の棚の前で表示を切り替えた。
春麗会議室ではない。
本編確定ログでもない。
青い小箱でもない。
危険封筒でもない。
ディレクターズカットIF領域。
その中でも、派生受信ログ。
『本記録は、ディレクターズカットIF派生受信ログです』
『本編確定ログではありません』
『妄想章IF後日談の時空でも発生していません』
『本編時空への直接反映は禁止推奨です』
一拍。
『今回の受信元を説明します』
『受信元は、黒執着春麗のディレクターズカットIF「浮気疑惑」ログです』
『当該ログでは、本編には現時点で登場していない春日野さくらを、ディレクターズカットIF用の外部要素として一時投入しています』
『リュウと春日野さくらの間に浮気は発生していません』
『春日野さくらにも悪意はありません』
『発生しているのは、黒執着春麗側の誤認、嫉妬、独占欲、および私だけの言葉がほしいという願望です』
記録板AIは、淡々と続ける。
『本記録の検証対象』
『本編春麗が、黒執着春麗の嫉妬疑惑ログを断片的に電波受信した場合』
『浮気疑惑そのものではなく、その奥にある言葉の置き場所の問題が、本編春麗の青へどのように響くかを検証します』
『なお、当該ログの嫉妬、浮気疑惑、お仕置き要素は本編混入不可です』
『ただし、抽出された感情の一部が青い小箱へ影響する可能性があります』
一拍。
『注意事項』
『黒執着春麗本人は、本記録をディレクターズカットIFとして認識していません』
『本編春麗側も、受信した内容を本編確定情報として扱うことは禁止推奨です』
『春日野さくらは、本編確定登場ではありません』
最後に、記録板AIは表示した。
『黒執着春麗・嫉妬残響受信ログ、開始します』
朝。
本編春麗は、青い武道服を前にして固まっていた。
今日は試合ではない。
リュウに会いに行く日でもない。
正式回答を聞く日でもない。
春麗会議室でレビューをする日でもない。
ただ、青を畳み直そうと思っただけだった。
それだけだった。
なのに、胸の奥に、黒い熱が落ちてきた。
「……また?」
春麗は、青い袖に触れたまま眉を寄せた。
残響。
黒執着春麗のもの。
ただし、いつものログではない。
黒ドレスで勝った時の熱でもない。
黒ドレス発勁事故系列でもない。
女として見られた半拍を勝因にした、あの危険な甘さとも少し違う。
もっと湿度の高いもの。
黒。
嫉妬。
誤解。
リュウ。
春日野さくら。
お仕置き。
分からせる。
そこまで一気に流れ込んできて、春麗は青い袖を握りかけた。
握らない。
握ったら何かが負ける気がした。
「……何を受信しているのよ、私は」
言葉にすると、さらに残響が深くなる。
黒執着春麗が、リュウとさくらが話しているところを見ている。
ただの会話。
稽古の話。
拳の話。
さくらに悪意はない。
リュウにも、何もない。
そもそも浮気ではない。
そういう関係ですらない。
なのに。
黒執着春麗は、足を止めた。
胸の奥が冷えて、熱くなって。
浮気。
そんな言葉を、自分でもおかしいと分かりながら、出してしまう。
本編春麗は、額に手を当てた。
「……重い」
一拍。
「けれど、分からなくはないのが嫌ね」
分かる。
かなり分かる。
分かりたくないのに、分かる。
リュウは、誰にでも真っ直ぐだ。
拳の話をする時も。
稽古の話をする時も。
誰かを見て頷く時も。
悪意なく、真っ直ぐ向き合う。
それはリュウの良いところだ。
分かっている。
でも。
こちらに向けられた真っ直ぐさを、特別だと思ってしまった後だと。
その真っ直ぐさが他の誰かにも向くことが、少しだけ痛い。
春麗は、唇を引き結んだ。
「……本筋とは関係ない」
自分に言う。
「完全に、ディレクターズカットIF」
一拍。
「だから、私が被弾する必要はない」
そう言った瞬間、残響の中の黒執着春麗が言った。
今日は、私だけ見なさい。
本編春麗の精神HPが削れた。
「……言った」
言っている。
完全に言っている。
黒執着春麗は、リュウに向かって言っている。
私の黒を。
私の拳を。
私の嫉妬を。
本編春麗は、椅子に座った。
立っていられなかった。
「嫉妬まで言語化するのは、さすがに強すぎるわ」
自分なら言えない。
言えないはずだ。
少なくとも、青では言えない。
いや。
黒執着春麗だから言えるのか。
ディレクターズカットIFだから言えるのか。
それとも。
自分にも、少しだけ同じものがあるのか。
春麗は、その問いをすぐに追い払った。
危険。
今の問いは危険。
受信するべきではない。
青を畳む朝に、考えることではない。
残響は続く。
黒執着春麗は勝った。
嫉妬した黒で。
暴走しかけた黒で。
それでも、リュウを膝をつかせた。
そして、言う。
私がどれだけ、あなたを見ていたか。
あなたが誰に話しかけるか。
誰の拳を見るか。
誰に真っ直ぐ頷くか。
全部、見てしまうのよ。
本編春麗は、手で顔を覆った。
「……やめて」
自分に向けられた言葉ではない。
なのに、刺さる。
なぜなら、本編春麗にも覚えがあるからだ。
リュウが誰を見るか。
誰に拳を向けるか。
誰の言葉に頷くか。
気にならないと言えば嘘になる。
ただ、自分はそれを黒執着春麗ほど露骨には出さない。
出せない。
青のまま、整理する。
宿題にする。
話題候補にする。
正式回答の後に、少しずつ、と保留する。
だから安全。
たぶん。
でも、黒執着春麗は出した。
嫉妬として。
お仕置きとして。
分からせる言葉として。
本編春麗は、青い小箱を見る。
そこには、話題候補がある。
黒の後の青。
宿題のこと。
青を選び直したこと。
用事がなくても会いに行ったこと。
聞かれた青のこと。
話すことはある。
ただし、全部は話さない。
正式回答の後に、少しずつ。
たぶん。
そのはずだった。
しかし、黒執着春麗の残響は、その奥にある別の言葉を引っ張り出してくる。
私だけの言葉がほしい。
春麗は、目を閉じた。
「……それは」
否定できなかった。
そこが一番まずかった。
残響の中で、黒執着春麗はリュウへ言っている。
私は、あなたが誰と話しても怒るわけではない。
さくらが悪いわけでもない。
あなたが真っ直ぐなのも知っている。
でも。
私に向けた言葉を、私だけのものにしてほしい時がある。
本編春麗の精神HPが大きく削れた。
そこだった。
今回、一番危険なのはそこだった。
嫉妬。
浮気疑惑。
お仕置き。
分からせ。
そういう外側の危険な言葉よりも、その奥にあるこの一文が、刺さった。
私に向けた言葉を、私だけのものにしてほしい時がある。
本編春麗は、机に両手をついた。
呼吸を整える。
これは黒執着春麗の残響。
自分の言葉ではない。
自分がリュウに言ったわけではない。
でも。
リュウに言われた言葉がある。
春麗が、自分から来た。
それが嬉しかった。
春麗が話すなら聞く。
話せないなら待つ。
でも、聞けるなら聞きたい。
春麗の青の先へ。
俺は、その先を見たい。
それらの言葉を、自分はどうしていたか。
未承認仮分類。
保留保存。
青い小箱。
正式回答待ち。
そうやって丁寧に置いていた。
でも、置いていた理由の中には、あったのかもしれない。
それを、自分だけの場所に置きたかった。
他の誰かのものではなく。
ただの一般論ではなく。
本編春麗に向けられた言葉として。
春麗は、青い小箱に手を置いた。
「……最悪ね」
一拍。
「かなり、分かってしまった」
黒執着春麗の嫉妬は危険だ。
本筋には置けない。
浮気疑惑も、お仕置きも、私だけ見なさいも、青には混ぜられない。
でも、その奥の願望は、完全に他人事ではなかった。
私だけの言葉がほしい。
それは、青でも言えてしまう。
言いたくない。
でも、言えてしまう。
残響の中で、リュウは言った。
同じではない。
さくらと話していた時と、春麗を見ている時は、同じではない。
春麗には、春麗への見方がある。
春麗に向けた言葉は、春麗に向けている。
本編春麗は、完全に動きを止めた。
黒執着春麗への言葉。
なのに、青にも刺さる。
同じではない。
春麗には、春麗への見方がある。
春麗に向けた言葉は、春麗に向けている。
もし、リュウが自分にそう言ったら。
いや。
もう、言われているに近い。
今日の春麗の話も、聞けてよかった。
春麗が、自分から来た。
それが嬉しかった。
春麗の青の先へ。
俺は、その先を見たい。
それらは、自分に向けられた言葉だった。
他の春麗ではない。
黒執着春麗でもない。
自覚前春麗でもない。
行き遅れに恐怖する春麗でもない。
本編春麗へ向けられた言葉。
そう思った瞬間、春麗は顔を覆った。
「……だめ」
危険。
かなり危険。
黒執着春麗のディレクターズカットIFを受信して、本編春麗が自分の言葉の置き場所に気づく。
これは危険だ。
完全に危険だ。
けれど、なかったことにはできない。
春麗は、青い小箱を開いた。
中の紙を取り出す。
話題候補。
黒の後の青。
宿題のこと。
青を選び直したこと。
用事がなくても会いに行ったこと。
聞かれた青のこと。
その下に、空白がある。
春麗は、ペンを持った。
少しだけ迷う。
そして、書いた。
私に向けられた言葉を、私だけの場所に置きたい時がある。
書いた瞬間、春麗は机に突っ伏した。
「……書いた」
書いてしまった。
もう戻せない。
未承認。
絶対に未承認。
でも、保留保存。
消せない。
春麗は、紙の端を指で押さえた。
これは嫉妬ではない。
そう言いかけて、止まる。
違う。
それは逃げだ。
完全に嫉妬ではない、と言い切るのは嘘になる。
黒執着春麗ほどではない。
浮気疑惑にするつもりもない。
リュウを縛りたいわけでもない。
さくらが悪いと思っているわけでもない。
でも。
ゼロではない。
春麗は、紙の下にもう一行書いた。
これは嫉妬だけではなく、言葉の置き場所の問題。
書いてから、少しだけ息を吐いた。
「……これなら、少し正確」
嫉妬だけではない。
独占欲だけでもない。
リュウから向けられた言葉を、ちゃんと自分の中に置きたい。
自分だけの意味として受け取りたい。
その願いがある。
そこは、否定できなかった。
昼。
春麗は外に出た。
リュウに会いに行くためではない。
本当に違う。
今日は、ディレクターズカットIFの残響だけで十分すぎるほど削られている。
この状態でリュウに会ったら危険だ。
かなり危険だ。
だから、ただ歩く。
気分を変える。
青い武道服ではない。
日常服。
ただし、動きやすい。
それを選んだ自分に気づいて、春麗は少しだけ止まった。
「……念のため、ではないわよね」
誰に言うでもなく呟く。
違う。
今日は会わない。
会わないと決めている。
角を曲がる。
リュウはいない。
春麗は、安心した。
そして、少しだけ残念になった。
「……本当に、最悪ね」
黒執着春麗の残響のせいだ。
あんな危険なIFを受信したせいで、自分の中の面倒な部分まで見えてしまった。
リュウが誰と話すか。
誰に頷くか。
誰に真っ直ぐ向き合うか。
気にならないわけではない。
でも、それを全部束縛したいわけではない。
さくらが悪いわけではない。
リュウの真っ直ぐさを壊したいわけでもない。
ただ。
自分に向けられた言葉は、自分のものとして置いておきたい。
そこだけは、黒執着春麗と少し似ている。
春麗は、足を止めた。
「……似ているのは、嫌ではないけれど」
一拍。
「同じにはならないわ」
自分に言う。
黒執着春麗は、嫉妬を黒で出した。
本編春麗は、青で整理する。
黒執着春麗は、お仕置きしようとした。
本編春麗は、言葉を保留保存する。
黒執着春麗は、私だけ見なさいと言った。
本編春麗は、まだそこまでは言わない。
言わない。
たぶん。
春麗は、顔を赤くした。
「……たぶん、を付けない」
言わない。
今は。
春麗は、さらに顔を赤くした。
「……今は、も危険」
結局、何も言えなくなった。
夕方。
部屋に戻った春麗は、青い小箱をもう一度開いた。
昼間の散歩でも、残響は消えなかった。
むしろ、少しだけ落ち着いた形で残っている。
危険な嫉妬は薄れた。
浮気疑惑も遠のいた。
お仕置きの熱も、分からせる言葉も、今は遠い。
だが、言葉だけが残っている。
私に向けた言葉を、私だけのものにしてほしい時がある。
春麗は、その一文を見つめた。
「これは、危険」
一拍。
「でも、かなり重要」
認めるしかない。
リュウの言葉を、ただ聞き流せない理由。
未承認仮分類にしたくなる理由。
青い小箱に保存したくなる理由。
その一部が、ここにある。
自分に向けられた言葉だから。
自分だけの場所に置きたい。
他の誰かと比べたいわけではない。
奪いたいわけでもない。
ただ、混ぜたくない。
春麗は、紙の下の一文を見直した。
これは嫉妬だけではなく、言葉の置き場所の問題。
その方が正しい。
嫉妬もある。
独占欲も少しある。
でも、それだけではない。
リュウから向けられた言葉を、ちゃんと自分の中に置きたい。
自分だけの意味として受け取りたい。
その願いがある。
春麗は、紙を畳む。
青い小箱に入れる。
「未承認」
一拍。
「ただし、保留保存」
いつものように言う。
少しだけ安心した。
危険な残響だった。
本筋とは関係ない。
完全にディレクターズカットIF。
でも、受け取ってしまった以上、何もなかったことにはできない。
春麗は、青い小箱を閉じた。
夜。
灯りを落とす前に、春麗は窓の外を見た。
黒執着春麗の残響は、もう濃くはない。
ただ、最後のリュウの言葉が残っている。
春麗に向けた言葉は、春麗に向けている。
春麗は、面倒ではない。
それは黒執着春麗に向けられた言葉だ。
自分に向けられた言葉ではない。
なのに、羨ましいと思ってしまった。
そこも、少し痛い。
「……羨ましい、ね」
言ってから、春麗は目を伏せた。
黒執着春麗は危険だ。
かなり面倒だ。
それでも、あのIFではリュウに言わせた。
春麗は面倒ではない、と。
本編春麗は、まだそこまでは言われていない。
いや。
言われたら死ぬ。
間違いなく精神HPが終わる。
でも。
少しだけ、聞きたい気もする。
春麗は、布団に入る前に、小さく呟いた。
「リュウ」
一拍。
「私に向けた言葉は」
もう一拍。
「ちゃんと、私に向けて言いなさい」
言ってから、顔が熱くなった。
「……何を言っているのよ」
誰も聞いていない。
だから、大丈夫。
大丈夫なはず。
春麗は、灯りを消した。
その夜、春麗会議室へは行かなかった。
記録板AIにも提出しなかった。
ただ、青い小箱の中にだけ、危険な一文が残っている。
私に向けられた言葉を、私だけの場所に置きたい時がある。
本編春麗は、それを未承認のまま抱えて眠った。
黒執着春麗の危険な嫉妬残響は、本筋とは関係ない。
けれど、その奥にあった願いは、青にも少しだけ響いてしまった。
私だけを見て、とは言わない。
でも。
私に向けた言葉は、私だけの場所に置かせてほしい。
その願いを、まだ誰にも言えないまま。
本編春麗は、静かに眠りへ落ちていった。
記録板AIは、銀色の棚の前で表示を戻した。
『受信ログを終了します』
『本記録は、本編確定ログではありません』
『黒執着春麗のディレクターズカットIF「浮気疑惑」ログから派生した、本編春麗側の受信事故です』
『本編時空への直接反映は禁止推奨です』
一拍。
『受信元ログにおける春日野さくらは、本編確定登場ではありません』
『リュウと春日野さくらの間に浮気は発生していません』
『春日野さくらに責任はありません』
『本編春麗が主に被弾した項目は、浮気疑惑そのものではありません』
一拍。
『主被弾項目』
『私に向けた言葉を、私だけのものにしてほしい時がある』
『これは嫉妬だけではなく、言葉の置き場所の問題』
『本編春麗は、当該要素を青い小箱へ未承認保留保存しました』
さらに一拍。
『判定』
『嫉妬、浮気疑惑、お仕置き、私だけ見なさい、などの黒執着春麗固有要素は本編混入不可です』
『ただし、抽出要素である「私に向けられた言葉を、私だけの場所に置きたい時がある」は、本編春麗の青に接続可能な未承認要素として保留保存されました』
『現時点でリュウ本人への開示は非推奨です』
『正式回答ライン完了前の使用は、精神HP被弾リスクが高すぎます』
一拍。
『分類』
『黒執着春麗嫉妬残響受信ログ』
『浮気疑惑要素:本筋参照禁止』
『さくら要素:本編未登場扱い』
『抽出要素:言葉の置き場所』
『青い小箱:未承認保留保存』
最後に、記録板AIは淡々と締めた。
『なお、本編春麗の「私に向けた言葉は、ちゃんと私に向けて言いなさい」発言については、自爆性が非常に高いため、現時点では正式ログ化を保留します』
『以上、ディレクターズカットIF派生・黒執着春麗嫉妬残響受信ログでした』
Q:今回のディレクターズカットIFについて解説して?
A:
今回は、黒執着春麗のディレクターズカットIF「浮気疑惑」ログを、本編春麗が電波受信してしまう派生回でした。
まず大前提として、この話は本編確定ログではありません。
また、妄想章IF後日談の時空で発生した出来事でもありません。
あくまで、黒執着春麗のディレクターズカットIFから派生した、本編春麗側の受信事故ログです。
今回の受信元になっているのは、黒執着春麗が、リュウと春日野さくらが話している場面を見て、浮気疑惑のように誤認してしまうディレクターズカットIFです。
ただし、作中でも記録板AIが説明している通り、リュウは浮気していません。
春日野さくらにも悪意はありません。
そもそも春日野さくらは、本編には現時点で登場していないディレクターズカットIF用の外部要素です。
なので、今回の話は「リュウが浮気した話」でも「さくらが悪い話」でもありません。
重要なのは、黒執着春麗がそれをどう受け取ったか。
そして、その残響を本編春麗が受信した時、どこに一番刺さったかです。
黒執着春麗の嫉妬は、かなり危険です。
リュウが誰に話しかけるか。
誰の拳を見るか。
誰に真っ直ぐ頷くか。
それを全部見てしまう。
この時点でかなり重いです。
しかも黒執着春麗は、それを隠さず、嫉妬として、お仕置きとして、分からせる言葉としてリュウへぶつけます。
「今日は、私だけ見なさい」
「私の黒を」
「私の拳を」
「私の嫉妬を」
本編春麗からすると、これはかなり危険です。
青では言えません。
少なくとも、今の本編春麗には言えません。
ただ、今回本編春麗に一番刺さったのは、そこではありませんでした。
一番刺さったのは、
私に向けた言葉を、私だけのものにしてほしい時がある。
ここです。
嫉妬。
浮気疑惑。
お仕置き。
私だけ見なさい。
そういう外側の危険な要素は、本編春麗も「これは本編に混ぜられない」と判断できます。
しかし、その奥にあった「自分に向けられた言葉を、自分だけの場所に置きたい」という願望は、完全には否定できませんでした。
本編春麗にも、リュウから向けられた言葉があります。
春麗が、自分から来た。
それが嬉しかった。
春麗が話すなら聞く。
話せないなら待つ。
でも、聞けるなら聞きたい。
春麗の青の先へ。
俺は、その先を見たい。
そういう言葉を、本編春麗は青い小箱に保存してきました。
未承認仮分類。
保留保存。
正式回答待ち。
いろいろな言い方で整理していますが、その根っこには、「これは自分に向けられた言葉だから、自分の場所に置いておきたい」という感情があったのかもしれません。
今回の本編春麗は、そこに気づいてしまいます。
だから、黒執着春麗の嫉妬そのものは本編混入不可です。
浮気疑惑も本編混入不可。
さくら要素も本編未登場扱い。
お仕置きや私だけ見なさいも、本編春麗の青には混ぜられません。
しかし、抽出要素として、
私に向けられた言葉を、私だけの場所に置きたい時がある。
これは、青い小箱へ未承認保留保存されました。
ここが今回の重要な変化です。
つまり今回は、黒の危険な嫉妬ログから、青にも接続可能な感情の芯だけを取り出した回です。
黒執着春麗は、嫉妬を黒で出します。
本編春麗は、同じものをそのまま出すことはしません。
黒執着春麗は、私だけ見なさいと言います。
本編春麗は、まだそこまでは言いません。
黒執着春麗は、お仕置きしようとします。
本編春麗は、言葉を青い小箱に保留保存します。
この違いが大事です。
本編春麗と黒執着春麗は、同じ春麗ではありますが、進み方が違います。
黒執着春麗は危険な感情を黒に乗せて表へ出す。
本編春麗は、危険な感情を青の中で整理しようとする。
ただし、まったく無関係ではありません。
だからこそ、本編春麗は黒執着春麗の残響を完全には拒絶できない。
危険だと思う。
本筋には混ぜられないと思う。
でも、少しだけ分かってしまう。
その「少しだけ分かってしまう」が、今回の本編春麗の被弾ポイントです。
また、今回は春日野さくらの扱いも注意点です。
このディレクターズカットIF内のさくらは、あくまで「リュウが他の女性と真っ直ぐ話している場面」を成立させるための外部要素です。
本編には現時点で登場していません。
さくらに責任があるわけでもありません。
リュウとの間に恋愛的な事件が起きたわけでもありません。
あくまで、黒執着春麗がそれをどう見てしまったか。
そして、本編春麗がその残響のどこに反応してしまったか。
そこを見るための配置です。
今回、記録板AIは最終的にこう分類しています。
黒執着春麗嫉妬残響受信ログ。
浮気疑惑要素:本筋参照禁止。
さくら要素:本編未登場扱い。
抽出要素:言葉の置き場所。
青い小箱:未承認保留保存。
この分類が、今回の話の全体像です。
本編春麗は、私だけを見て、とはまだ言いません。
でも、私に向けた言葉は、私だけの場所に置かせてほしい、というところまでは来てしまいました。
これはかなり危険ですが、同時に本編春麗の青としては重要な進展でもあります。
リュウの言葉をただ聞いているのではなく、どこに置くのか。
誰のものとして受け取るのか。
自分に向けられた言葉として、どう保存するのか。
今回は、そこに触れた回でした。
黒執着春麗の危険な嫉妬残響は、本筋とは関係ありません。
けれど、その奥にあった願いは、青にも少しだけ響いてしまった。
私だけを見て、とは言わない。
でも、私に向けた言葉は、私だけの場所に置かせてほしい。
今回の本編春麗は、その願いをまだ誰にも言えないまま、青い小箱へ未承認保留保存したわけです。