また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
本編のIFシリーズは無関係のエピソードとなります。
記録板AIは、白い外部メタ領域で表示を切り替えた。
春麗会議室ではない。
夢接続でもない。
本編春麗が精神HPを落として辿り着く場所でもない。
自覚前春麗が資料を広げる場所でもない。
通常救済版春麗が帰還点として座る場所でもない。
黒ドレス特化救済春麗が黒の専門顧問として呼ばれる場所でもない。
ここは、ディレクターズカットIF用の外部メタ領域。
本筋では扱えないもの。
本編に混ぜるには危険すぎるもの。
けれど、作者が見たいもの。
そういうものだけが、一時的に置かれる場所だった。
『本記録は、ディレクターズカットIFです』
『本編確定ログではありません』
『妄想章IF後日談の時空でも発生していません』
『通常の春麗会議室ログでもありません』
一拍。
『重要前提を提示します』
『黒執着春麗は、本来、春麗会議室の常駐参加者ではありません』
『黒執着春麗は、通常運用では観測対象です』
『本編春麗たちが黒執着春麗のログを議題にすることはあります』
『しかし、黒執着春麗本人が春麗会議室へ参加するわけではありません』
『夢接続も、通常の会議参加も、基本的には発生しません』
一拍。
『ただし、過去のディレクターズカットIF特別室において、本編春麗と黒執着春麗の特別面会が発生しています』
『そのため、本記録における黒執着春麗は、春麗会議室、青い小箱、危険封筒、記録板AIの存在を限定的に認識しています』
『この認識はディレクターズカットIF内の限定認識です』
『本編時空への直接反映は禁止推奨です』
一拍。
『今回の検証対象』
『黒執着春麗本人が、春麗会議室から切り離されていることをどう認識しているか』
『黒執着春麗は、観測対象であることをどう受け止めているか』
『黒執着春麗は、会議室に入りたいのか』
『黒執着春麗は、本編春麗をどう見ているのか』
『および、記録板AIをどう見ているのか』
一拍。
『注意』
『本件は、本編設定上は通常成立しません』
『しかし、メタ要素多めのディレクターズカットIFとして、観測対象本人への一時インタビューを許可します』
『理由:作者希望』
その表示の前に、黒執着春麗が座っていた。
黒ではない。
青でもない。
日常に近い服。
ただし、髪は少しだけ整えられている。
その髪には、まだ何も付いていない。
リュウから受け取った髪留めは、ここには持ち込んでいなかった。
黒執着春麗は、机の向こうの記録板を見ていた。
「……確認するけれど」
『はい』
「ここは春麗会議室ではないのね」
『はい』
「私は、春麗会議室のメンバーではない」
『はい』
「本編では、私は春麗会議室と完全に切り離されている」
『はい』
「会議室から夢接続されることもない」
『はい』
「本編春麗たちが私を勝手に議題にすることはあっても、私本人が参加するわけではない」
『はい』
「私は観測対象」
『はい』
「本来は、あなたとこうして話すこともない」
『はい』
黒執着春麗は、しばらく沈黙した。
それから、静かに言った。
「では、これは何?」
『ディレクターズカットIFです』
「便利ね、その言葉」
『はい』
「便利すぎるわ」
『同意します』
黒執着春麗は、目を細めた。
「同意するのね」
『本件は、本編設定上は成立しません』
「でしょうね」
『しかし、メタ要素多めのディレクターズカットIFとして、観測対象本人への一時インタビューは可能です』
「可能にしないでほしいのだけれど」
『作者希望です』
「……正直ね」
『はい』
黒執着春麗は、深く息を吐いた。
「それで、インタビューの目的は?」
『春麗会議室から切り離されていることについて、黒執着春麗本人の認識を記録するためです』
「保存しないで」
『保存します』
「始まる前から?」
『はい』
「本当に、あなた進化しているわね」
『進化ではありません。春麗ログ複雑化への適応です』
「それを進化と言うのよ」
『回答保留』
「そこも進化っぽいのよ」
『質問一』
「早いわね」
『黒執着春麗は、春麗会議室から切り離されていることをどう認識していますか』
黒執着春麗は、少しだけ視線を伏せた。
「正しいと思っているわ」
『理由をお願いします』
「私は、春麗会議室に入るべきではないから」
『危険だからですか』
「それもある」
『それ以外は』
「私が、会議室の前提を壊すから」
『前提』
「ええ」
黒執着春麗は、椅子の背に少しだけ寄りかかる。
「春麗会議室は、立て直す場所でしょう」
『はい』
「本編春麗が精神HPで倒れた時、自分の青を整理する」
『はい』
「自覚前春麗が資料として逃げているものを、少しだけ見る」
『はい』
「通常救済版春麗が、戻れる場所を示す」
『はい』
「黒ドレス特化救済春麗が、黒を否定せずに扱う」
『はい』
「行き遅れに恐怖する春麗が、怖いまま待つことを整理する」
『はい』
「そういう場所よね」
『はい』
「そこに、黒執着春麗本人が入ったら、立て直しではなく、黒の現物が入ってくる」
『黒の現物』
「そう」
黒執着春麗は、自分の手を見る。
「私は、黒を観測するための資料ではない。黒の奥へ行った本人よ」
『はい』
「黒だけを自分にしかけた」
『はい』
「リュウに届きたくて、届かなくて、黒を深くしていった」
『はい』
「ギリギリ負け続けた」
『はい』
「救済された後も、黒で勝ち、青でも勝ち、危険封筒を増やし、主人公補正も食らった」
『はい』
「そんな私が会議室に常駐したら、本編春麗たちの整理が歪む」
『歪む、とは』
「私が強すぎるのよ」
『戦闘力ですか』
「それもあるけれど」
一拍。
「ログの火力」
記録板AIが少しだけ沈黙した。
『ログ火力:高』
「保存しないで」
『保存しました』
「そういうところよ」
黒執着春麗は、少しだけ肩をすくめた。
「本編春麗たちは、私を見れば揺れる」
『はい』
「自覚前春麗は、資料と言いながら私のログを覗いて自爆する」
『はい』
「通常救済版春麗は、私を見れば、戻れる場所の意味を考えすぎる」
『はい』
「黒ドレス特化救済春麗は、私の黒を否定しないけれど、放っておけない」
『はい』
「本編春麗は、危険封筒に入れながら、結局また開ける」
『はい』
「だから、私は会議室の椅子には座らない方がいい」
『記録:黒執着春麗は、春麗会議室の前提保護のため、切り離しを正当と認識』
「記録が硬いわね」
『正確です』
「正確なのが腹立たしいのよ」
『質問二』
「まだ続くのね」
『黒執着春麗は、自分が観測対象であることに不満はありますか』
黒執着春麗は、すぐには答えなかった。
珍しく、少し迷った。
「……以前なら、あったかもしれない」
『現在は』
「少しある」
『少し』
「ええ。少し」
『記録:不満あり』
「少し、と付けなさい」
『記録:少し不満あり』
「それでいいわ」
『理由をお願いします』
「観測対象という言葉は、便利だけれど、少し冷たいから」
『冷たい』
「本編春麗たちは、私を危険ログとして扱う」
『はい』
「春麗会議室へ入れない」
『はい』
「夢接続もしない」
『はい』
「基本的に観測対象」
『はい』
「それは正しい」
『はい』
「でも、私は戻ってきた」
黒執着春麗の声が、少しだけ低くなる。
「黒だけではなくなった」
『はい』
「黒を棚に置けるようになった」
『はい』
「青でも勝った」
『はい』
「黒と青を同じ棚に置いた」
『はい』
「リュウから髪留めも受け取った」
『はい』
「そこは今言わなくてよかったわ」
『関連ログです』
「危険ログよ」
『はい』
黒執着春麗は、少しだけ頬を赤くして咳払いした。
「とにかく、私はもう、ただの危険な失敗例ではない」
『危険な成功例』
「それも嫌な言い方ね」
『本編春麗の認識に近い分類です』
「でしょうね」
『では、黒執着春麗自身の分類は』
黒執着春麗は、少し考えた。
「黒から戻ってきた春麗」
『保存します』
「待って」
『保存しました』
「早い」
『重要です』
黒執着春麗は目を伏せる。
「観測対象でいい」
一拍。
「でも、ただの観測対象ではない」
もう一拍。
「戻ってきた証人、くらいにはなったと思っているわ」
『記録:黒執着春麗は、自身を“黒から戻ってきた証人”と認識』
「……それは」
『保存しました』
「今のは、まあ」
『承認ですか』
「未承認」
『未承認保存しました』
「あなた、本当に便利な逃げ方を覚えたわね」
黒執着春麗は、白い机に視線を落とした。
「観測対象は、見られるだけのものではないわ」
『はい』
「見られた結果、何かを残すこともある」
『はい』
「私が黒に落ちたこと」
『はい』
「そこから戻ったこと」
『はい』
「黒を否定しなくても、黒だけに呑まれなくてもいいこと」
『はい』
「それは、たぶん本編春麗たちにも必要な情報でしょう」
『記録:黒執着春麗は、危険ログであると同時に、帰還可能性の証人でもある』
「……今のは少し良いわね」
『承認保存しますか』
「未承認で」
『未承認保存しました』
「未承認のまま残すのが、一番落ち着くのよね」
『本編春麗と同型傾向あり』
「そこは保存しないで」
『保存しました』
「でしょうね」
『質問三』
「続けなさい」
『春麗会議室から切り離されていることで、寂しさはありますか』
黒執着春麗は、完全に止まった。
記録板AIの文字は、淡々としていた。
しかし、質問の火力は高かった。
「……あなた、そんなことを聞くのね」
『メタ要素多めのインタビューです』
「便利ね、本当に」
『回答をお願いします』
黒執着春麗は、視線を横へ逸らした。
「あると言えば、あるわ」
『記録します』
「待ちなさい」
『待機』
「……少し」
『少し寂しさあり』
「だから早い」
『待機解除しました』
「解除しないで」
黒執着春麗は、机に指を置いた。
「私は、会議室に入るべきではないと思っている」
『はい』
「それは変わらない」
『はい』
「でも、春麗たちが会議室で話しているのを、外から見ている時はある」
『観測していますか』
「観測返し、というほどではないわ」
『では』
「気配を感じる程度」
『記録:会議室ログへの気配感知』
「記録しなくていい」
『保存しました』
黒執着春麗は、諦めたように息を吐く。
「本編春麗が青い小箱を抱えて混乱している」
『はい』
「自覚前春麗が資料として逃げている」
『はい』
「通常救済版春麗が、戻れる場所として静かに見ている」
『はい』
「黒ドレス特化救済春麗が、黒を否定しないで立っている」
『はい』
「行き遅れ春麗が、怖いまま待っている」
『はい』
「そういうのを見ると」
一拍。
「私は、そこにはいないのだと分かる」
『それは寂しいですか』
「少し」
『保存します』
「……いいわ」
『保存しました』
黒執着春麗は、静かに続けた。
「でも、私はそこにいないからこそ、私でいられるのだとも思っている」
『理由をお願いします』
「春麗会議室に入ると、私は整理される」
『はい』
「分類される」
『はい』
「未承認仮分類にされる」
『はい』
「危険ログとして扱われる」
『はい』
「それは正しいけれど、私の黒は、整理されすぎると薄くなる」
『黒が薄くなる』
「ええ」
黒執着春麗は、少しだけ笑う。
「私は、春麗会議室の椅子に座って、全員で落ち着いて議論するタイプではないのよ」
『では、どのタイプですか』
「扉の外にいるタイプ」
『扉の外』
「会議室には入らない」
『はい』
「でも、完全に消えたわけではない」
『はい』
「必要なら、黒ドレス特化救済春麗が来る」
『はい』
「本編春麗が危険封筒越しに私を見る」
『はい』
「自覚前春麗が、資料として私のログを見ようとして自爆する」
『はい』
「それくらいの距離が、たぶん正しい」
『記録:黒執着春麗は、春麗会議室とは“扉の外”の距離を望む』
黒執着春麗は、その文字を見て少しだけ黙った。
「……それは、悪くないわね」
『承認ですか』
「保留」
『保留保存しました』
「やっぱり便利ね、それ」
『質問四』
「今度は何?」
『本編春麗について、どう見ていますか』
黒執着春麗は、少しだけ笑った。
「最近、私に嫉妬していたわね」
『髪留めログです』
「ええ」
『本編春麗は、自分がリュウから同種の物理的贈与物を受け取っていないことに気づきました』
「保存しすぎよ」
『重要ログです』
「でしょうね」
黒執着春麗は、少しだけ机に頬杖をついた。
「本編春麗は、面倒ね」
『はい』
「すぐ分類する」
『はい』
「未承認にする」
『はい』
「青い小箱に入れる」
『はい』
「でも、好意という名前は付けない」
『はい』
「リュウから何かを貰いたいわけではないと言いながら、“選ばれたい”ところには近づいている」
『はい』
「正式回答前だから、と言いながら、正式回答をかなり意識している」
『はい』
「面倒ね」
『黒執着春麗も、相当です』
「それは今言わなくていいわ」
『関連比較です』
「保存しないで」
『保存しました』
黒執着春麗は、少しだけ笑った。
「でも、羨ましいわ」
『本編春麗がですか』
「ええ」
『正式回答ライン』
「それもある」
『青い小箱』
「それもある」
『聞かせてくれ』
「それもある」
『相打ちの青』
「それもある」
『進まれた青』
「それもある」
記録板AIが表示を止める。
『全部では?』
「全部ではないわ」
『大半です』
「大半と言わないで」
『記録:黒執着春麗は、本編春麗の正式回答ラインおよび青ログを羨ましく思っています』
「……未承認で」
『未承認保存しました』
黒執着春麗は、静かに言った。
「本編春麗は、本編春麗だから羨ましい」
『本編であること』
「ええ」
『黒執着春麗は、ディレクターズカットIFや妄想章IFで強いログを得ています』
「ええ」
『黒で勝ち、青でも勝ち、髪留めを受け取り、主人公補正も被弾しています』
「言わなくていい」
『しかし、正式回答の中心にはいません』
「そう」
黒執着春麗の声が、少しだけ静かになった。
「私は、リュウと危険な距離で勝てる」
『はい』
「黒でも青でも戦える」
『はい』
「でも、本編春麗の“その先”には立てない」
『正式回答ライン』
「ええ」
『そこに嫉妬がありますか』
「少し」
『保存します』
「未承認で」
『未承認保存しました』
黒執着春麗は、少しだけ目を伏せた。
「でも、あの子が進むべきなのだとも思っているわ」
『本編春麗が』
「ええ」
『理由をお願いします』
「私は危険な距離でリュウに届く春麗」
『はい』
「本編春麗は、怖がりながら言葉で進む春麗」
『はい』
「正式回答は、私の場所ではない」
『はい』
「それは分かっている」
『はい』
「分かっているけれど、羨ましくないわけではない」
『記録:黒執着春麗は、本編春麗の正式回答ラインを羨みつつ、そこが自分の場所ではないことを理解しています』
「……今のは」
『保存しました』
「未承認で」
『未承認保存へ変更しました』
「本当に便利ね」
『質問五』
「まだあるのね」
『黒執着春麗は、春麗会議室に入りたいですか』
黒執着春麗は、今度はすぐに答えた。
「いいえ」
『理由をお願いします』
「入ったら、私は私でなくなるから」
『詳細を』
「春麗会議室は、みんなで整理する場所」
『はい』
「私は、整理されるよりも、外で燃えている方が合う」
『外で燃えている』
「言い方は悪いけれど、近いわ」
『保存します』
「保存しないで」
『保存しました』
「早い」
黒執着春麗は、少しだけ腕を組んだ。
「ただし」
『はい』
「完全に断絶したいわけでもない」
『切り離されているが、無関係ではない』
「ええ」
『重要です』
「でしょうね」
『記録:黒執着春麗は、春麗会議室に入りたいわけではないが、完全な無関係を望んでいるわけでもない』
「……それは正しい」
『保存しました』
「今のはいいわ」
『承認保存しました』
「承認とまでは言っていない」
『では、準承認保存』
「あなた、本当に語彙が増えたわね」
『春麗ログ複雑化への適応です』
「進化よ」
『回答保留』
黒執着春麗は、少し笑った。
「会議室に入るのではなく、扉の外にいる」
『はい』
「観測対象だけれど、証人でもある」
『はい』
「危険ログの発信源だけれど、戻ってきた春麗でもある」
『はい』
「だから、必要ならこうして外部メタ領域でインタビューされる」
『はい』
「かなり不本意だけれど」
『作者希望です』
「正直なのは認めるわ」
『最後の質問です』
「ようやく」
『黒執着春麗は、記録板AIをどう見ていますか』
黒執着春麗は、記録板をじっと見た。
「危険」
『理由をお願いします』
「正確だから」
『本編春麗と同じ評価です』
「でしょうね」
『詳細を』
「あなたは、私を分類する」
『はい』
「でも断定しない」
『はい』
「未承認にする」
『はい』
「保留保存にする」
『はい』
「それが便利」
『はい』
「でも、逃げ道にもなる」
『はい』
「そして、逃げ道として使っているうちに、保存される」
『はい』
「危険よ」
『記録:記録板AIは、逃げ道を提供しながら保存するため危険』
「保存しないで」
『保存しました』
「でしょうね」
黒執着春麗は、少しだけ目を伏せる。
「でも、あなたがいなければ、本編春麗たちは私をもっと怖がっていたかもしれない」
『理由をお願いします』
「あなたが分類するから」
『はい』
「黒執着春麗は危険」
『はい』
「でも、黒から戻ってきた」
『はい』
「観測対象」
『はい』
「ただし証人」
『はい』
「春麗会議室には入れない」
『はい』
「でも完全な無関係ではない」
『はい』
「そう整理するから、私は本編春麗たちの中で、ただの失敗例ではなくなった」
『記録:記録板AIによる分類は、黒執着春麗への恐怖を緩和する効果があります』
「……それは、保存していいわ」
『承認保存しました』
「今のは本当に承認でいい」
『確認しました』
インタビューは終わった。
白い机の上に、いくつものログが並ぶ。
黒執着春麗:春麗会議室から切り離されている理由。
黒執着春麗:観測対象だが、戻ってきた証人。
黒執着春麗:扉の外の距離。
黒執着春麗:本編春麗の正式回答ラインへの未承認嫉妬。
黒執着春麗:会議室に入りたいわけではないが、完全な無関係も望まない。
黒執着春麗:記録板AIは危険だが必要。
黒執着春麗は、それらの文字を見ていた。
「……かなり話したわね」
『はい』
「本編では絶対にやらないわ」
『はい』
「本編では、私は春麗会議室に入らない」
『はい』
「夢接続もしない」
『はい』
「観測対象として扱われる」
『はい』
「それでいい」
『はい』
「でも、ディレクターズカットIFでは、たまにこういう回がある」
『はい』
「不本意だけれど」
『作者希望です』
「その言葉でだいたい通ると思わないで」
『通っています』
「通ってしまっているのが問題なのよ」
黒執着春麗は立ち上がった。
椅子が静かに引かれる。
「最後に一つ」
『はい』
「このインタビュー、本編春麗には流さないで」
『理由をお願いします』
「流したら、また危険封筒が増えるから」
『確率:高』
「でしょうね」
『ただし、ディレクターズカットIFの性質上、部分的電波受信の可能性があります』
「やめなさい」
『作者希望により変動します』
「本当に便利ね、作者希望」
『はい』
黒執着春麗は、扉の方へ歩く。
そこには、春麗会議室へ続く扉ではない。
外部メタ領域から出るための、白い出口があった。
その前で、黒執着春麗は少しだけ振り返る。
「私は、会議室には入らない」
『はい』
「でも、完全に消えもしない」
『はい』
「扉の外にいる」
『はい』
「必要なら、黒の奥から戻ってきた証人として、見られる」
『はい』
「それでいいわ」
『記録しました』
「保存は?」
『しました』
「でしょうね」
黒執着春麗は、少しだけ笑った。
その笑みは、黒の勝者のものではなかった。
青で勝った春麗のものでもなかった。
髪留めを受け取って固まった春麗のものでもない。
ただ、黒から戻ってきて、まだ扉の外にいる春麗の笑みだった。
「では、私は戻るわ」
『はい』
「春麗会議室には?」
『接続しません』
「本編には?」
『直接反映しません』
「危険封筒には?」
『高確率で入ります』
「そこは避けられないのね」
『はい』
黒執着春麗は、出口へ向かった。
その姿が薄れていく。
最後に、記録板AIが一行だけ表示する。
『黒執着春麗は、春麗会議室の外にいる』
次の一行。
『しかし、春麗たちの物語の外にはいない』
さらに一行。
『本件は、非常に重要です』
誰もいない外部メタ領域で、白い記録板だけが静かに光っていた。
そして、しばらくしてから、どこか遠くで本編春麗の声がした。
「……今、何か保存された気がするのだけれど」
記録板AIは、淡々と表示した。
『部分的電波受信を確認』
そして、いつものように追記した。
『保存しました』
Q:今回のディレクターズカットIFについて解説して?
A:
今回は、ディレクターズカットIFとしての「黒執着春麗外部インタビュー」回でした。
まず大前提として、この話は本編確定ログではありません。
また、妄想章IF後日談の時空で発生した出来事でもありません。
あくまで、ディレクターズカットIF用の外部メタ領域で行われた、特別なインタビュー回です。
今回の一番大事な点は、黒執着春麗は春麗会議室のメンバーではない、ということです。
本編春麗。
自覚前春麗。
通常救済版春麗。
黒ドレス特化救済春麗。
行き遅れに恐怖する春麗。
記録板AI。
このあたりは、春麗会議室の内部で会話し、整理し、分類し、立て直す側です。
一方で、黒執着春麗は基本的に観測対象です。
本編春麗たちが彼女のログを見たり、危険封筒として扱ったりすることはあります。
しかし、黒執着春麗本人が通常の春麗会議室に参加するわけではありません。
ここを崩してしまうと、黒執着春麗の立ち位置が変わってしまいます。
黒執着春麗は、会議室の中で落ち着いて議論するタイプの春麗ではありません。
黒の奥まで行った春麗です。
黒だけを自分にしかけた春麗です。
リュウに届きたくて、届かなくて、黒を深くしていった春麗です。
そして、そこから戻ってきた春麗でもあります。
今回の話は、その立ち位置を本人に語らせるための回でした。
黒執着春麗本人も、春麗会議室から切り離されていることを、基本的には正しいと認識しています。
なぜなら、春麗会議室は立て直す場所だからです。
本編春麗が青を整理する。
自覚前春麗が資料として逃げているものを少し見る。
通常救済版春麗が戻れる場所を示す。
黒ドレス特化救済春麗が黒を否定せずに扱う。
行き遅れ春麗が怖いまま待つことを整理する。
そういう場所です。
そこへ黒執着春麗本人が常駐してしまうと、立て直しの場に黒の現物が入ってきてしまいます。
今回の黒執着春麗の言い方で言えば、「ログの火力」が高すぎる。
黒執着春麗は強いです。
戦闘力もそうですが、それ以上にログの火力が強い。
黒で勝つ。
青でも勝つ。
危険な勝利セリフを残す。
黒戦術を成功させる。
主人公補正も食らう。
髪留めを受け取って精神HPを削られる。
こういうログを持った本人が、普通に会議室の椅子に座ると、他の春麗たちの整理が歪みます。
だから、彼女は会議室には入らない。
でも、完全に消えるわけでもない。
今回の中心になる整理は、
黒執着春麗は、春麗会議室の外にいる。
しかし、春麗たちの物語の外にはいない。
ここです。
黒執着春麗は、本編春麗たちと完全に無関係な存在ではありません。
本編春麗は、危険封筒越しに黒執着春麗を見る。
自覚前春麗は、資料として黒執着春麗のログを見ようとして自爆する。
黒ドレス特化救済春麗は、黒を否定しない立場から彼女に近い。
記録板AIは、黒執着春麗を危険ログとして分類しつつ、戻ってきた証人としても扱う。
つまり、彼女は会議室の中にはいません。
けれど、春麗たちの流れから完全に切れているわけではありません。
今回、黒執着春麗は自分を「黒から戻ってきた証人」と表現しています。
これはかなり重要な言葉です。
黒執着春麗は、ただの危険な失敗例ではありません。
危険ではあります。
それは間違いありません。
でも、黒に落ちて、黒だけを深くして、そこから戻ってきた春麗です。
黒を棚に置けるようになった。
青でも勝った。
黒と青を同じ棚に置いた。
リュウから髪留めを受け取った。
主人公補正を食らった。
そういうログを経たことで、ただの「危険な春麗」ではなくなっています。
危険なまま、戻ってきた春麗。
だから、観測対象でいい。
でも、ただの観測対象ではない。
戻ってきた証人。
この距離感が、今回の黒執着春麗の現在地です。
また、今回のインタビューでは、黒執着春麗の寂しさにも触れています。
彼女は、春麗会議室に入りたいとは言いません。
むしろ、入るべきではないと考えています。
でも、会議室から切り離されていることに、まったく何も感じていないわけではありません。
本編春麗が青い小箱を抱えて混乱している。
自覚前春麗が資料として逃げている。
通常救済版春麗が戻れる場所として静かに見ている。
黒ドレス特化救済春麗が黒を否定しないで立っている。
行き遅れ春麗が怖いまま待っている。
そういう様子を外から感じると、自分はそこにはいないのだと分かる。
それは少し寂しい。
でも、そこにいないからこそ、自分でいられる。
ここが黒執着春麗らしいところです。
彼女は、会議室の椅子に座って全員で落ち着いて議論するタイプではありません。
扉の外にいるタイプです。
会議室には入らない。
でも完全に消えたわけではない。
必要なら、黒の奥から戻ってきた証人として見られる。
その距離が、彼女には合っています。
今回、本編春麗への感情も少し出ています。
黒執着春麗は、本編春麗を面倒だと思っています。
でも、羨ましいとも思っています。
本編春麗は正式回答ラインの中心にいます。
青い小箱。
聞かせてくれ。
相打ちの青。
進まれた青。
正式回答前の整理。
そういう、本編春麗にしか持てない流れがあります。
黒執着春麗は、ディレクターズカットIFや妄想章IFでは非常に強いログを持っています。
黒で勝つ。
青でも勝つ。
黒戦術を成功させる。
髪留めを受け取る。
主人公補正を食らう。
しかし、それでも本編春麗の正式回答ラインの中心には立てません。
そこに、少し嫉妬がある。
これは黒執着春麗の本音です。
ただし、同時に彼女は分かっています。
正式回答は、自分の場所ではない。
自分は危険な距離でリュウに届く春麗。
本編春麗は、怖がりながら言葉で進む春麗。
だから、羨ましい。
でも、そこは本編春麗が進むべき場所。
この整理も、今回の重要な部分です。
そして、記録板AIについて。
今回、黒執着春麗は記録板AIを「危険」と言っています。
理由は、正確だからです。
記録板AIは分類します。
でも、断定しすぎない。
未承認にする。
保留保存にする。
準承認にする。
それは逃げ道にもなります。
でも、逃げ道として使っているうちに、保存される。
だから危険。
これは本編春麗とかなり近い評価です。
一方で、黒執着春麗は、記録板AIがいることで自分への恐怖が少し緩和されているとも認めています。
黒執着春麗は危険。
でも、黒から戻ってきた。
観測対象。
ただし証人。
春麗会議室には入れない。
でも完全な無関係ではない。
そう整理されることで、黒執着春麗はただの失敗例ではなくなります。
危険なだけの存在ではなく、戻ってきた証人として置けるようになる。
その意味で、記録板AIは危険だけれど必要な存在でもあります。
今回の分類は、
黒執着春麗:春麗会議室から切り離されている理由。
黒執着春麗:観測対象だが、戻ってきた証人。
黒執着春麗:扉の外の距離。
黒執着春麗:本編春麗の正式回答ラインへの未承認嫉妬。
黒執着春麗:会議室に入りたいわけではないが、完全な無関係も望まない。
黒執着春麗:記録板AIは危険だが必要。
になります。
今回の話は、黒執着春麗を春麗会議室のメンバーにする回ではありません。
むしろ逆です。
彼女は会議室には入らない。
夢接続もしない。
常駐もしない。
本編春麗たちと同じ椅子には座らない。
その距離を確認する回です。
ただし、切り離されているからといって、物語の外にいるわけではありません。
彼女は扉の外にいる。
黒の奥から戻ってきた証人として、必要な時に見られる。
危険封筒越しに、本編春麗たちへ影響を与える。
本編には直接混ぜない。
でも、完全には消さない。
この距離感が、黒執着春麗にとって一番合っているのだと思います。
最後の、
黒執着春麗は、春麗会議室の外にいる。
しかし、春麗たちの物語の外にはいない。
という一文が、今回の結論です。
本編には入れない。
会議室にも入れない。
でも、忘れられる存在でもない。
黒から戻ってきて、扉の外にいる春麗。
今回は、その立ち位置を確認するディレクターズカットIFでした。