また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
本編のIFシリーズは無関係のエピソードとなります。
記録板AIは、白い外部メタ領域で静かに表示を開いた。
『本記録は、ディレクターズカットIF派生ログです』
『本編確定ログではありません』
『本編時空への直接反映は行われません』
『本編春麗の青い小箱への直接投入は禁止推奨です』
一拍。
『対象ログ』
『黒執着春麗:作者プレゼント主人公補正ログ』
『関連要素』
『髪留め』
『使ってくれていた』
『春麗に合っていた』
『外にいるなら、俺が会いに行けばいい』
一拍。
『本記録では、対象ログの全容は開示されません』
『本編春麗が受信するのは、あくまで断片です』
『黒執着春麗本人の棚を開くものではありません』
『黒執着春麗のログを、本編春麗の青い小箱へ混入させるものでもありません』
一拍。
『分類候補』
『他春麗ログ・断片受信』
『本人希望により深掘り禁止』
『保留返却予定』
『検証を開始します』
夜。
本編春麗は、青い小箱を閉じた。
今日はもう、何も整理しない。
黒執着春麗のログも見ない。
青の分類も増やさない。
甘い宿題のことも考えない。
リュウの言葉も反芻しない。
そう決めて、布団に入った。
決めた。
かなり強く決めた。
だから、今日こそ何も起きないはずだった。
はずだった。
なのに。
目を閉じた瞬間。
ふ、と。
夕方の色が差し込んだ。
「……?」
本編春麗は、布団の中で眉を寄せた。
部屋は暗い。
夜だ。
夕方ではない。
なのに、目の奥に、赤みがかった道が浮かぶ。
人通りの少ない道。
少し冷えた風。
揺れる髪。
そして。
小さな髪留め。
本編春麗は、目を開けた。
「……何?」
起き上がる。
部屋には誰もいない。
記録板AIもいない。
春麗会議室にも接続していない。
青い小箱は閉じている。
危険封筒も開いていない。
なのに、胸の奥に変なものが残っている。
髪留め。
夕方。
リュウの声。
春麗。
本編春麗は、額に手を当てた。
「……まさか」
嫌な予感がした。
かなり嫌な予感。
最近の経験上、こういう時はだいたい当たる。
しかも、当たってほしくない方向で。
次の瞬間。
断片が来た。
『使ってくれていた』
本編春麗は、完全に止まった。
「……誰が?」
誰に。
何を。
分かる。
分かってしまう。
髪留めだ。
黒執着春麗の髪留め。
リュウから受け取った危険物。
戦闘用具と言い張っていたもの。
検証中と言い張っていたもの。
贈り物としては未承認と主張していたもの。
それを。
付けていた。
そして、リュウに見られた。
本編春麗は、布団の上で膝を抱えた。
「……見えすぎよ」
詳細ではない。
完全な映像ではない。
言葉も途中だけ。
状況も断片。
なのに、分かる。
分かってしまう。
黒執着春麗が、リュウからの髪留めを付けていた。
しかも、見られた。
さらに「使ってくれていた」と言われた。
本編春麗は、顔を覆った。
「……それは危険でしょう」
誰に言っているのか分からない。
黒執着春麗にか。
リュウにか。
作者にか。
記録板AIにか。
全部だった。
断片は、それだけでは終わらなかった。
また、夕方の色。
また、風。
今度は、髪留めではなく、声。
『春麗に合っていた』
本編春麗は、布団の上で固まった。
「……言った」
言った。
リュウが。
たぶん。
いや、間違いなく。
春麗に合っていた。
それは、黒でも、青でも、今の春麗でもなく、もっと直接的な言葉だった。
春麗に。
本編春麗は、青い小箱を見た。
黒執着春麗の髪留めは、青い小箱ではない。
黒執着春麗の棚の話だ。
黒と青の間。
髪留めの隣。
危険封筒。
作者プレゼント主人公補正ログ。
そういう場所にあるはずのもの。
それなのに、断片だけがこちらへ来る。
本編春麗は、低く言った。
「……黒執着春麗、あなた」
一拍。
「伝えないでほしいって思っていたでしょう」
そんな気がした。
確証はない。
だが、断片の奥に、強い抵抗があった。
本編春麗には流さないで。
春麗会議室には入らない。
本編にも混ざらない。
青い小箱を奪わない。
正式回答ラインにも立たない。
だから、このログは流さないで。
そんな気配。
本編春麗は、少しだけ申し訳ない気持ちになった。
「……ごめんなさい」
一拍。
「でも、見えたのよ」
見たかったのではない。
いや。
それは少し嘘かもしれない。
見たくなかったとは、言い切れない。
黒執着春麗の主人公補正ログ。
リュウから髪留めを見られる回。
外にいる春麗へ、リュウが会いに来る回。
そんなものがあるなら、気になる。
かなり気になる。
本編春麗は、顔を覆ったまま呟いた。
「……私も相当めんどくさいわね」
どこかで、記録板AIが保存した気がした。
いないはずなのに。
保存された気がした。
次の断片は、もっと曖昧だった。
道。
隣を歩く気配。
同じ方向。
仕方ない。
偶然。
そういう言い訳の気配。
本編春麗は、思わず目を細めた。
「……言い訳が似ている」
偶然。
仕方ない。
同じ方向。
安全確認。
検証中。
資料として。
どの春麗も、便利な言葉で逃げる。
そして、だいたい逃げられていない。
本編春麗は、少しだけため息をついた。
「黒執着春麗、あなたも十分こっち側よ」
こっち側。
めんどくさい女側。
そう思った瞬間、また断片が来た。
リュウの声。
低く、まっすぐ。
『外にいるなら、俺が会いに行けばいい』
本編春麗は、息を止めた。
今度は、しばらく動けなかった。
髪留めの比ではなかった。
春麗に合っていた、も危険だった。
だが、これは別の種類の危険だった。
外にいるなら、俺が会いに行けばいい。
本編春麗は、ゆっくり口元を押さえる。
「……それは」
一拍。
「それは、駄目でしょう」
何が駄目なのか。
分かっている。
黒執着春麗は、春麗会議室には入らない。
本編には混ざらない。
正式回答ラインにも立たない。
本編春麗の青い小箱を奪わない。
扉の外にいる。
その距離で、ようやく成立している。
だから、黒執着春麗を会議室に入れるのではない。
本編に混ぜるのでもない。
リュウが、外へ会いに行く。
これは、危険だ。
危険なのに、綺麗だった。
本編春麗は、唇を噛む。
「……ずるいわね」
誰に向けた言葉なのか分からない。
リュウにか。
黒執着春麗にか。
作者にか。
このログそのものにか。
ずるい。
黒執着春麗は外にいる。
外にいるままで、リュウに会いに来られる。
本編春麗は、青い小箱を見る。
自分には自分の場所がある。
青。
甘い宿題。
正式回答前。
待つ位置。
リュウに「聞かせてくれ」と言われた青。
それは黒執着春麗にはない。
ないはず。
だから、自分の場所は奪われていない。
分かっている。
分かっているのに。
「……外にいるなら、会いに行く」
本編春麗は、もう一度呟いた。
そして、精神HPが少し削れた。
自分に言われたわけではない。
自分のログではない。
なのに削れる。
なぜか。
答えは簡単だった。
それが、春麗に向けられた言葉だから。
本編春麗は、布団から出た。
水を飲む。
落ち着くため。
冷静になるため。
断片を、断片のままにするため。
全部見たわけではない。
細部は分からない。
黒執着春麗が何を言ったのか。
リュウがどんな顔をしていたのか。
どこを歩いたのか。
どこで止まったのか。
どんな封筒に入れたのか。
それは分からない。
分からないままでいい。
分からないままでなければならない。
黒執着春麗の希望を、完全に破るべきではない。
本編春麗は、深く息を吐いた。
「……断片だけ」
一拍。
「私は、断片だけを受け取った」
そう決める。
それ以上は開かない。
青い小箱には入れない。
危険封筒にも入れない。
黒執着春麗の棚には手を出さない。
ただ、断片として一枚だけ紙に書く。
本編春麗は、紙を取った。
表に書く。
断片受信ログ。
その下に、少し迷ってから書く。
髪留め。
使ってくれていた。
春麗に合っていた。
外にいるなら、俺が会いに行けばいい。
書いた瞬間、紙から火が出るかと思った。
出なかった。
出なかったが、精神HPは削れた。
本編春麗は、すぐに追記する。
詳細不明。
本人希望により、深掘り禁止。
黒執着春麗の棚へ返却予定。
書いてから、少しだけ胸が軽くなった。
見てしまったことへの罪悪感が、少しだけ形になった。
これは私のものではない。
黒執着春麗のもの。
ただ、断片だけがこちらへ来た。
だから、こちらで全部を分類しない。
勝手に保存しない。
記録板AIなら保存しただろう。
でも、本編春麗は、少しだけ意地を張る。
「……保存しないわ」
一拍。
「保留返却よ」
そう言った瞬間。
どこかで、記録板AIの声がした気がした。
『新規分類:保留返却』
本編春麗は、顔を上げた。
「いないでしょう!」
返事はない。
でも、保存された気がした。
「……本当に余計」
布団に戻る前。
本編春麗は、ふと考えてしまった。
黒執着春麗は、どう思ったのだろう。
外にいるなら、俺が会いに行けばいい。
そんなことを言われた黒執着春麗は、どうなったのか。
精神HPは。
たぶん落ちた。
少なくとも大被弾。
勝てない。
あれは勝てない。
本編春麗は、少しだけ同情した。
そして、少しだけ腹が立った。
「……あなた、いいログを貰っているじゃない」
言ってから、自分で顔を覆う。
「違うわ」
違う。
嫉妬ではない。
たぶん。
いや、少しある。
でも、それだけではない。
黒執着春麗が、扉の外にいる春麗として認められたこと。
リュウに会いに来られたこと。
髪留めを見られたこと。
春麗に合っていたと言われたこと。
それは、危険だけれど、救いでもある。
本編春麗は、それを分かってしまった。
だから、少しだけ嬉しい。
かなり悔しい。
少し羨ましい。
そして、やっぱり誇らしい。
「……複雑すぎるわ」
紙に追記する。
本編春麗反応。
嫉妬ではない。
ただし、羨望少量。
誇らしさ少量。
危険度大。
精神HP軽度損耗。
書いてから、すぐに線を引いた。
「これはいらない」
だが、完全には消さなかった。
薄く残った。
それがまた腹立たしい。
その夜、本編春麗は夢を見なかった。
春麗会議室にも行かなかった。
記録板AIに議題化もされなかった。
ただ、朝方に一度だけ目が覚めた。
その時、まだ断片が残っていた。
夕方の道。
髪留め。
春麗に合っていた。
外にいるなら、俺が会いに行けばいい。
そして、もう一つ。
かすかな断片。
『理由を持って行く』
本編春麗は、布団の中で目を開けた。
「……次があるの?」
言ってしまった。
言ってから、すぐに口を押さえた。
これは、深掘り禁止。
黒執着春麗のログ。
こちらで追ってはいけない。
でも。
理由を持って行く。
リュウが。
黒執着春麗のところへ。
本編春麗は、布団の中で顔を覆った。
「……黒執着春麗」
一拍。
「あなた、次も大変ね」
それは、同情だった。
たぶん。
たぶん、同情。
ほんの少しだけ、読みたいという気持ちはあった。
本当に少し。
かなり少し。
そういうことにした。
朝。
本編春麗は、断片受信ログの紙を見つめた。
青い小箱には入れない。
危険封筒にも入れない。
黒執着春麗の棚へ返す。
だが、完全に捨てることもできない。
だから、小さな封筒を一つ作った。
表書き。
他春麗ログ・断片受信。
副題。
本人希望により深掘り禁止。
さらに小さく。
ただし、作者希望により少し見えてしまった。
本編春麗は、その一文を見て、額に手を当てた。
「……本当にごめんなさいね」
黒執着春麗に向けて言う。
聞こえない。
届かない。
届かなくていい。
でも、言っておきたかった。
「詳細は見ていないわ」
一拍。
「断片だけ」
一拍。
「それでも、かなり高火力だったけれど」
封筒を閉じる。
青い小箱の横ではない。
危険封筒の中でもない。
少し離れた場所。
黒執着春麗関連の保留棚。
そこへ置く。
本編春麗は、静かに息を吐いた。
「……外にいるなら、会いに行く」
もう一度、言葉が残る。
それは黒執着春麗のログ。
自分のものではない。
でも、春麗のどこかに届く言葉。
本編春麗は、少しだけ目を伏せた。
「私は、私の場所にいる」
一拍。
「黒執着春麗は、扉の外にいる」
一拍。
「リュウは、たぶんどちらにも危険」
そこは間違いない。
本編春麗は、少しだけ笑った。
「本当に、全春麗共通脆弱性ね」
どこかで、記録板AIが表示した気がした。
『全春麗共通脆弱性:リュウ無自覚高火力』
本編春麗は、即座に言った。
「保存しないで」
返事はない。
だが、保存された気がした。
その日、本編春麗は春麗会議室には行かなかった。
ただ、断片だけを受け取った。
そして、深掘りしないまま、黒執着春麗の棚へ返す準備をした。
完全に見なかったことにはできない。
でも、自分のものにはしない。
それが、今回の本編春麗なりの礼儀だった。
ただし。
最後に、どうしても一言だけ漏れた。
「……髪留め、見られたのね」
一拍。
「しかも、春麗に合っていたって」
もう一拍。
「……強いわ、それは」
認めた。
かなり小さく。
誰にも聞こえないように。
それでも、認めた。
黒執着春麗の主人公補正ログは、断片だけでも十分に強かった。
そして本編春麗は、少しだけ悔しそうに、けれど少しだけ優しく、封筒を棚へ置いた。
他春麗ログ・断片受信。
本人希望により深掘り禁止。
保留返却予定。
最後に、小さく追記。
ただし、かなり良いログ。
本編春麗は、その一文を見て、しばらく固まった。
「……これは」
消すか迷った。
迷って、消さなかった。
「……今回だけよ」
誰に言ったのかは、分からない。
黒執着春麗に。
作者に。
自分に。
そして、たぶん。
リュウに。
その日の朝は、少しだけいつもより静かだった。
記録板AIは、白い外部メタ領域で最後の表示を出した。
『本記録を終了します』
『本記録は、ディレクターズカットIF派生ログです』
『本編確定ログではありません』
『本編春麗が受信したのは、黒執着春麗の作者プレゼント主人公補正ログの断片です』
『対象ログの全容は開示されていません』
一拍。
『発生内容』
『本編春麗は、黒執着春麗の髪留めログを部分電波受信しました』
『受信内容は、髪留め、使ってくれていた、春麗に合っていた、外にいるなら俺が会いに行けばいい、理由を持って行く、の断片です』
『本編春麗は、対象ログを青い小箱にも危険封筒にも入れず、他春麗ログ・断片受信として保留しました』
『本編春麗は、黒執着春麗本人の希望を推測し、深掘り禁止としました』
『本編春麗は、嫉妬、羨望、誇らしさ、申し訳なさを少量ずつ確認しました』
一拍。
『分類』
『他春麗ログ・断片受信』
『本人希望により深掘り禁止』
『保留返却予定』
『黒執着春麗作者プレゼントログ部分受信』
『髪留め被弾』
『外にいるなら会いに行く被弾』
『全春麗共通脆弱性:リュウ無自覚高火力』
一拍。
『保存先推奨』
『青い小箱:混入不可』
『危険封筒:直接投入不可』
『黒執着春麗関連保留棚:一時保存』
『本編時空:直接反映不可』
『ディレクターズカットIF棚:保留返却』
最後に、記録板AIは小さく追記した。
『未承認仮分類:見なかったことにはできないが、自分のものにはしない春麗』
どこかで、本編春麗の声がした。
「保存しないで」
記録板AIは、いつも通り表示した。
『保存しました』
Q:今回のディレクターズカットIFについて解説して?
A:
今回は、ディレクターズカットIF派生としての「本編春麗が、黒執着春麗の作者プレゼント主人公補正ログを部分電波受信する」回でした。
ポイントは、完全受信ではなく、あくまで部分受信であることです。
本編春麗は、黒執着春麗のログを全部見たわけではありません。
夕方の道。
髪留め。
使ってくれていた。
春麗に合っていた。
外にいるなら、俺が会いに行けばいい。
理由を持って行く。
こうした断片だけが、ふっと流れ込んできた形です。
これがもし完全なログ受信だった場合、本編春麗が黒執着春麗の棚を勝手に開いたようになってしまいます。
それは違う。
黒執着春麗は、春麗会議室には入らない。
本編には混ざらない。
青い小箱を奪わない。
扉の外にいる。
その距離感が大事です。
だから今回、本編春麗は「見えてしまった断片」だけを受け取っています。
しかも、それを自分のものにはしません。
青い小箱には入れない。
危険封筒にも入れない。
黒執着春麗の棚へ返す。
ただし、完全に見なかったことにもできない。
この中間の置き場所として、「他春麗ログ・断片受信」という封筒を作りました。
これはかなり本編春麗らしい整理だと思います。
見えてしまった。
でも奪わない。
気になる。
でも深掘りしない。
羨ましい。
でも自分のログではない。
悔しい。
でも、少しだけ嬉しい。
この複雑さが今回の主題です。
特に危険なのは、リュウの言葉です。
使ってくれていた。
春麗に合っていた。
外にいるなら、俺が会いに行けばいい。
どれも、黒執着春麗に向けられた言葉です。
本編春麗に向けられたものではありません。
それでも、本編春麗の精神HPが削れます。
理由は単純で、それが「春麗」に向けられた言葉だからです。
この連作では、春麗たちは別々の春麗でありながら、どこかで同じ春麗でもあります。
だから、他の春麗に向けられた高火力ログでも、本編春麗に刺さることがあります。
もちろん、それを全部自分のものにしてしまうのは違います。
でも、何も感じないわけでもない。
そこが面倒で、春麗らしいところです。
今回の本編春麗は、黒執着春麗に対して少し申し訳なさを感じています。
これはかなり大事です。
黒執着春麗は、このログを本編春麗へ流したくなかったはずだと、本編春麗は察しています。
会議室には入らない。
本編にも混ざらない。
青い小箱を奪わない。
だから、この髪留めログも流さないでほしい。
そういう黒執着春麗側の抵抗を、本編春麗は断片越しに感じ取ります。
だからこそ、今回の本編春麗は、好奇心だけでは動きません。
見たい気持ちはあります。
かなりあります。
でも、見ない。
深掘りしない。
これは礼儀です。
黒執着春麗への、本編春麗なりの礼儀です。
一方で、本編春麗の中には嫉妬もあります。
黒執着春麗、あなた、いいログを貰っているじゃない。
これはかなり正直な反応です。
髪留めを使ってくれていた。
春麗に合っていた。
外にいるなら、俺が会いに行けばいい。
これは強いです。
強すぎます。
本編春麗からすれば、自分には自分の青い小箱があると分かっています。
リュウに聞かせてくれと言われた青。
甘い宿題。
正式回答前の位置。
待っている場所。
それは黒執着春麗にはない。
だから、黒執着春麗のログが自分の場所を奪うわけではありません。
それでも羨ましい。
これは矛盾ではなく、自然な反応です。
自分の場所はある。
でも、他の春麗が貰った言葉も強い。
だから少し悔しい。
でも、その春麗が救われているなら少し嬉しい。
今回の本編春麗は、そのあたりをかなり丁寧に処理しています。
また、「外にいるなら、俺が会いに行けばいい」は、今回の中でも特に重要な言葉です。
黒執着春麗は、春麗会議室には入りません。
本編にも混ざりません。
扉の外にいます。
普通なら、外にいる存在は置いていかれるか、戻ってくるかの二択になりがちです。
しかしリュウは、「外にいるなら、俺が会いに行けばいい」と言う。
これは、黒執着春麗を会議室に入れる言葉ではありません。
本編に混ぜる言葉でもありません。
扉の外にいる彼女を、そのままの位置で見つけに行く言葉です。
だから危険です。
そして、かなり綺麗です。
本編春麗が「それは駄目でしょう」と思うのも当然です。
黒執着春麗が外にいるままで救われてしまう。
その構図は、青い小箱とは別の強さがあります。
今回の分類は、
他春麗ログ・断片受信。
本人希望により深掘り禁止。
保留返却予定。
黒執着春麗作者プレゼントログ部分受信。
髪留め被弾。
外にいるなら会いに行く被弾。
全春麗共通脆弱性:リュウ無自覚高火力。
になります。
最後の「全春麗共通脆弱性」は、今回かなり重要です。
本編春麗でも、黒執着春麗でも、自覚前春麗でも、どの春麗でも、リュウの無自覚なまっすぐさには弱い。
しかも、本人は攻撃しているつもりがない。
安全確認だったり、感想だったり、ただ見たことを言っているだけだったりします。
だから防ぎにくい。
今回も、リュウは黒執着春麗に対して、ただまっすぐに言っています。
使ってくれていた。
春麗に合っていた。
外にいるなら、俺が会いに行けばいい。
本人はたぶん、精神HPを削るつもりはありません。
だからこそ危険です。
そして今回は、その高火力ログが、本編春麗にまで断片として飛んできました。
ただし、本編春麗はそれを自分のものにはしません。
ここが今回の締めです。
見なかったことにはできない。
でも、自分のものにはしない。
そのための保留返却です。
黒執着春麗のログは、黒執着春麗のもの。
本編春麗は、その断片だけを受け取り、少しだけ削られ、少しだけ羨ましがり、少しだけ誇らしく思い、そして棚へ返す。
これは、他の春麗との距離感を守るための回でもありました。
髪留め、見られたのね。
しかも、春麗に合っていたって。
強いわ、それは。
本編春麗は最後にそう認めています。
悔しそうに。
けれど、少しだけ優しく。
この「認めるけれど奪わない」が、今回の本編春麗の礼儀です。
ディレクターズカットIFの危険ログが増えていく中で、本編春麗も少しずつ、他の春麗のログとの距離の取り方を覚えてきているのだと思います。