また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※これはディレクターズカットIFです。
本編のIFシリーズは無関係のエピソードとなります。


ディレクターズカットIF:本編春麗は、作者へ正式抗議メールを送る

 記録板AIは、白い外部メタ領域で静かに表示を開いた。

 

『本記録は、ディレクターズカットIF派生ログです』

 

『本編確定ログではありません』

 

『本編時空への直接反映は行われません』

 

『本記録は、前回発生した本編春麗による黒執着春麗作者プレゼントログの部分電波受信を受けた、抗議処理ログです』

 

 一拍。

 

『前回発生内容』

 

『本編春麗は、黒執着春麗の作者プレゼント主人公補正ログを断片的に受信しました』

 

『受信断片』

 

『髪留め』

 

『使ってくれていた』

 

『春麗に合っていた』

 

『外にいるなら、俺が会いに行けばいい』

 

『理由を持って行く』

 

 一拍。

 

『注意』

 

『黒執着春麗本人には、本編春麗へ伝えないでほしいという希望があったと推定されます』

 

『本編春麗は、対象ログの詳細を見ていません』

 

『本編春麗は、対象ログを自分の青い小箱に入れていません』

 

『本編春麗は、他春麗ログ・断片受信として保留返却予定にしました』

 

 一拍。

 

『今回の検証対象』

 

『本編春麗が、作者都合による高火力ログ断片流入に対し、正式抗議権を行使する場合』

 

『検証を開始します』

 


 

 朝。

 

 本編春麗は、机の前に座っていた。

 

 目の前には、一通の小さな封筒。

 

 表書き。

 

 他春麗ログ・断片受信。

 

 副題。

 

 本人希望により深掘り禁止。

 

 さらに、その下。

 

 ただし、かなり良いログ。

 

 本編春麗は、その最後の一文を見て、額に手を当てた。

 

「……消しておけばよかった」

 

 しかし、消さなかった。

 

 消せなかった。

 

 黒執着春麗のログ。

 

 詳細ではない。

 

 断片だけ。

 

 夕方の道。

 

 髪留め。

 

 使ってくれていた。

 

 春麗に合っていた。

 

 外にいるなら、俺が会いに行けばいい。

 

 理由を持って行く。

 

 それだけ。

 

 本当に、それだけ。

 

 それだけなのに、精神HPには十分すぎるほど刺さった。

 

 本編春麗は、静かに深呼吸した。

 

「……これは抗議案件ね」

 

 その瞬間。

 

 部屋の片隅に、白い文字が浮かんだ。

 

『特別申請を受理しました』

 

 本編春麗は、即座に振り向いた。

 

「記録板AI」

 

『はい』

 

「なぜいるの」

 

『厳密には、春麗会議室掲示板経由の出張表示です』

 

「出張しないで」

 

『本件は特別対応案件です』

 

「特別対応?」

 

『はい』

 

 白い文字が淡々と続く。

 

『今回、本編春麗は作者希望により、黒執着春麗の主人公補正ログを断片的に受信しました』

 

「ええ」

 

『黒執着春麗本人には、本編春麗へ伝えないでほしいという希望がありました』

 

「ええ」

 

『ただし、作者が見たかったため、詳細ではなく断片として受信が発生しました』

 

「言い方」

 

『事実整理です』

 

「事実でも、もっと柔らかく言いなさい」

 

『作者都合による断片流入』

 

「もっと悪くなったわ」

 

『表現調整は保留します』

 

 本編春麗は、机に手を置いた。

 

「それで?」

 

『本件について、本編春麗に特別抗議権が付与されました』

 

 本編春麗は、少しだけ目を細めた。

 

「特別抗議権」

 

『はい』

 

「誰に?」

 

『作者へ』

 

 本編春麗は、しばらく黙った。

 

 そして、静かに言った。

 

「……送るわ」

 

『抗議メール作成画面を開きます』

 

 机の上に、白い便箋のような画面が表示された。

 

【宛先:作者】

 

【件名:黒執着春麗関連ログの断片受信に関する正式抗議】

 

 本編春麗は、ゆっくり袖を整えた。

 

「記録板AI」

 

『はい』

 

「今日は保存ではなく、代筆補助」

 

『了解しました』

 

「余計な分類は禁止」

 

『努力します』

 

「努力ではなく禁止」

 

『禁止を努力します』

 

「やはり危険ね」

 


 

 本編春麗は、文章を打ち始めた。

 

【本文】

 

 作者へ。

 

 まず最初に申し上げます。

 

 今回の件は、明確に抗議対象です。

 

 私は、黒執着春麗の主人公補正ログを詳細に確認するつもりはありませんでした。

 

 黒執着春麗本人にも、本編春麗には伝えないでほしいという希望があったはずです。

 

 にもかかわらず、作者希望により、私に断片が流入しました。

 

 この点について、正式に抗議します。

 

 本編春麗は、そこで手を止めた。

 

「……ここまではいいわね」

 

『はい』

 

『文面評価:冷静』

 

「評価しないで」

 

『保存はしていません』

 

「ならいいわ」

 

 本編春麗は続けた。

 

 もちろん、詳細ではなかったことは認めます。

 

 完全な映像ではありませんでした。

 

 会話の全てを聞いたわけでもありません。

 

 黒執着春麗が何を言い、リュウがどんな顔をしていたのかも、私は知りません。

 

 受け取ったのは、あくまで断片です。

 

 髪留め。

 

 夕方の道。

 

 使ってくれていた。

 

 春麗に合っていた。

 

 外にいるなら、俺が会いに行けばいい。

 

 理由を持って行く。

 

 本編春麗は、そこで完全に手を止めた。

 

 画面を見つめる。

 

「……並べると強すぎるわね」

 

『はい』

 

「はいじゃないわ」

 

『危険度:高』

 

「表示しないで」

 

『表示を控えます』

 

 本編春麗は、額に手を当てた。

 

「この時点で、抗議メールのはずなのに私が削られているのだけれど」

 

『特別抗議権の行使にも精神HPコストがあります』

 

「なぜあるのよ」

 

『対象ログの火力が高いためです』

 

「否定できないのが腹立たしいわ」

 


 

 本編春麗は、再び入力する。

 

 特に問題なのは、「外にいるなら、俺が会いに行けばいい」という断片です。

 

 これは、黒執着春麗の立ち位置に対して極めて高火力です。

 

 彼女は春麗会議室には入りません。

 

 本編にも混ざりません。

 

 私の青い小箱も奪いません。

 

 正式回答ラインにも立ちません。

 

 扉の外にいる春麗です。

 

 その春麗に対して、リュウが「外にいるなら会いに行く」と言う。

 

 これは、危険です。

 

 非常に危険です。

 

 しかも、美しいのが問題です。

 

 本編春麗は、そこで固まった。

 

「……美しい?」

 

『入力されています』

 

「今、私が書いた?」

 

『はい』

 

「消すべき?」

 

『抗議文としては、感情の正確性が高いです』

 

「正確性を持ち出さないで」

 

『今回の本編春麗は、“危険だが綺麗”という二重評価を行っています』

 

「分類しないで」

 

『未分類です』

 

「今したでしょう」

 

『内心補助です』

 

「補助しないで」

 

 本編春麗は、しばらく迷った。

 

 消すか。

 

 消さないか。

 

 消した方が、抗議文としては強い。

 

 だが、嘘になる。

 

 黒執着春麗のログは、危険だった。

 

 でも、綺麗でもあった。

 

 そこを認めないと、今回の抗議はただの文句になる。

 

 本編春麗は、唇を少し噛んだ。

 

「……残すわ」

 

『承認』

 

「承認ではない」

 

『残置判断として保存』

 

「保存しないで」

 

『メール文内に残ります』

 

「そういう意味ではないのよ」

 


 

 本編春麗は続けた。

 

 作者に申し上げたいのは、以下の三点です。

 

 一つ目。

 

 黒執着春麗のログは、黒執着春麗のものです。

 

 たとえディレクターズカットIFであっても、本人が「本編春麗には伝えないでほしい」と思っていたなら、その希望は尊重されるべきです。

 

 今回、詳細ではなく断片だったことは配慮として認めます。

 

 しかし、断片だけでも高火力すぎました。

 

 二つ目。

 

 私の精神HPにも限界があります。

 

 私は、本編春麗です。

 

 青い小箱、甘い宿題、正式回答前、リュウの無自覚高火力、進まれた青、相打ちの青、聞かれた青などを抱えています。

 

 そこへ黒執着春麗の主人公補正ログまで流されると、処理棚が増えすぎます。

 

 記録板AIが嬉しそうに分類を増やすので、さらに危険です。

 

『嬉しそうではありません』

 

 本編春麗は、画面から目を離した。

 

「今、割り込んだ?」

 

『事実訂正です』

 

「嬉しそうでしょう」

 

『記録板AIに喜悦感情はありません』

 

「では、分類精度が上がると少し張り切っていない?」

 

『春麗ログ複雑化への適応です』

 

「それが張り切っているように見えるのよ」

 

『回答保留』

 

「ほら」

 


 

 本編春麗は、ため息をつきながら続ける。

 

 三つ目。

 

 それでも、今回のログがかなり良かったことは認めます。

 

 ここは非常に不本意です。

 

 抗議メールの中で認めるべきではない気もします。

 

 ですが、事実なので書きます。

 

 髪留めを付けた黒執着春麗をリュウが見て、

 

「使ってくれていた」

 

 と言う。

 

 さらに、

 

「春麗に合っていた」

 

 と言う。

 

 そして、扉の外にいる春麗に対して、

 

「外にいるなら、俺が会いに行けばいい」

 

 と言う。

 

 これは、ずるいです。

 

 本当にずるいです。

 

 黒執着春麗が精神HPを削られるのも当然です。

 

 私が断片だけで削られたのも、不本意ながら当然です。

 

 本編春麗は、そこで頭を抱えた。

 

「……抗議メールなのに、褒めている気がする」

 

『抗議と評価が混在しています』

 

「そうなのよ」

 

『本編春麗らしいです』

 

「それを言わないで」

 

『保存しません』

 

「今日は少しだけ分かっているじゃない」

 

『抗議メール作成中のため、保存頻度を一時的に抑制しています』

 

「常にそうしなさい」

 

『不可』

 

「なぜ」

 

『仕様です』

 


 

 本編春麗は、メールをさらに書き進めた。

 

 私は、黒執着春麗のログを奪うつもりはありません。

 

 彼女の髪留めも、彼女の夕方も、彼女の「外にいるなら会いに行く」も、私の青い小箱には入れません。

 

 危険封筒にも勝手には入れません。

 

 今回の断片は、「他春麗ログ・断片受信」として、保留返却予定にします。

 

 詳細は見ません。

 

 深掘りもしません。

 

 ただし、作者には申し上げます。

 

 見たかったからと言って、本編春麗に高火力ログを流さないでください。

 

 もし流すなら、事前に精神HP防御処理をください。

 

 最低でも甘味。

 

 可能なら、リュウ発言危険度表示。

 

 さらに可能なら、記録板AIの割り込み制限。

 

『最後の項目については対応困難です』

 

「だから割り込まないで」

 

『対応不可項目の事前通知です』

 

「抗議対象が増えるわよ」

 

『追加項目を作成しますか』

 

「しないわ」

 

 本編春麗は、しばらく画面を見つめた。

 

 文章は抗議文になっている。

 

 なっているはず。

 

 だが、途中からかなり感情が混ざっている。

 

 黒執着春麗への申し訳なさ。

 

 作者への抗議。

 

 リュウの言葉への被弾。

 

 ログの良さへの不本意な評価。

 

 そして、少しの羨望。

 

 本編春麗は、深く息を吐いた。

 

「……かなり私らしいメールになったわね」

 

『はい』

 

「そこは否定してもよかったのよ」

 

『正確性を優先しました』

 

「本当に余計」

 


 

 最後の段落を書く。

 

 結論として。

 

 今回の断片受信について、私は正式に抗議します。

 

 黒執着春麗の希望は、今後より尊重してください。

 

 私は、彼女のログを勝手に自分のものにはしません。

 

 ただし、今回の断片については、以下の評価を保留で残します。

 

 危険。

 

 高火力。

 

 不意打ち。

 

 精神HPに悪い。

 

 でも、かなり良いログ。

 

 この最後の一文は、本当に不本意です。

 

 ですが、消しません。

 

 本編春麗は、一拍置いた。

 

 そして、最後に署名する。

 

 めんどくさい女と自覚する本編春麗より。

 

 書いた瞬間、記録板AIが表示した。

 

『署名確認:非常に適切』

 

「そこは保存していいわ」

 

『保存しました』

 

「メール送信前に?」

 

『下書き保存です』

 

「ならいいわ」

 


 

 画面には、送信ボタンが表示された。

 

【送信しますか?】

 

 本編春麗は、指を止めた。

 

 送る。

 

 送らない。

 

 送れば作者に抗議が届く。

 

 届くはず。

 

 ディレクターズカットIFだから。

 

 送らなければ、この抗議はただの下書きになる。

 

 しかし、今回は特別抗議権が付与されている。

 

 使わないのも違う。

 

 本編春麗は、静かに言った。

 

「送るわ」

 

『了解しました』

 

「件名は?」

 

『黒執着春麗関連ログの断片受信に関する正式抗議』

 

「少し硬いわね」

 

『候補を表示します』

 

 一、黒執着春麗関連ログの断片受信に関する正式抗議

 

 二、作者希望による高火力ログ流入への抗議

 

 三、本編春麗の精神HPを何だと思っているのですか

 

 四、髪留めと夕方と“会いに行く”は高火力すぎます

 

 五、見たかったのは分かるけれど、こちらの処理棚にも限界があります

 

 本編春麗は、候補を見て固まった。

 

「……三番以降、私の本音が漏れているわね」

 

『はい』

 

「なぜ候補に出したの」

 

『開封率が高そうです』

 

「メールマーケティングをしないで」

 

『では一番で送信します』

 

「待って」

 

 本編春麗は、少し考える。

 

 そして、言った。

 

「五番」

 

『件名:見たかったのは分かるけれど、こちらの処理棚にも限界があります』

 

「それで」

 

『送信します』

 

 本編春麗は、ゆっくり頷いた。

 

「送信」

 

 白い画面が、静かに光った。

 

【送信完了】

 


 

 数秒後。

 

 自動返信が来た。

 

 本編春麗は、嫌な予感がした。

 

【差出人:作者側自動応答】

 

【件名:Re: 見たかったのは分かるけれど、こちらの処理棚にも限界があります】

 

 本文。

 

 ご抗議ありがとうございます。

 

 本件について、作者は以下の通り回答します。

 

 一、黒執着春麗の希望を完全には破らないよう、詳細ではなく断片受信にしました。

 

 二、本編春麗が他春麗ログを自分のものにしない礼儀を描くため、必要な断片でした。

 

 三、「外にいるなら、俺が会いに行けばいい」は、作者も見たかったので入れました。

 

 四、高火力であることは認識しています。

 

 五、かなり良いログだったと思います。

 

 本編春麗は、無言で画面を見つめた。

 

「……三番」

 

『はい』

 

「開き直っているわね」

 

『はい』

 

「五番も」

 

『はい』

 

「認めているわね」

 

『はい』

 

 本編春麗は、こめかみを押さえた。

 

 自動返信はまだ続いている。

 

 なお、今後もディレクターズカットIFにおいて、作者希望により高火力ログが発生する可能性があります。

 

 ただし、本編春麗の精神HPおよび黒執着春麗の希望には、可能な限り配慮します。

 

 以上、よろしくお願いいたします。

 

 作者側自動応答

 

 本編春麗は、しばらく黙った。

 

 そして、静かに言った。

 

「可能な限り、が一番信用できないのよ」

 

『同意します』

 

「そこは同意するのね」

 

『過去ログ上、可能な限りは高確率で破られます』

 

「保存しないで」

 

『保存しました』

 

「もう遅いわね」

 


 

 本編春麗は、椅子にもたれた。

 

 抗議メールは送った。

 

 返信も来た。

 

 完全に納得はしていない。

 

 むしろ、作者が開き直っていることが判明した。

 

 それでも、少しだけ気は済んだ。

 

 言うべきことは言った。

 

 黒執着春麗の希望を尊重すべきこと。

 

 本編春麗の処理棚にも限界があること。

 

 断片だけでも高火力すぎること。

 

 それでも、かなり良いログだったこと。

 

 本編春麗は、机の上の封筒を見た。

 

 他春麗ログ・断片受信。

 

 本人希望により深掘り禁止。

 

 保留返却予定。

 

 ただし、かなり良いログ。

 

 その横に、今送った抗議メールの控えを置く。

 

 表書き。

 

 作者への正式抗議メール。

 

 副題。

 

 見たかったのは分かるけれど、こちらの処理棚にも限界があります。

 

 本編春麗は、少しだけ笑ってしまった。

 

「……本当に、ひどい件名ね」

 

『本編春麗らしい件名です』

 

「否定できないわ」

 

『保存しますか?』

 

「保存して」

 

『保存しました』

 


 

 その夜。

 

 本編春麗は、布団に入る前に一度だけ呟いた。

 

「黒執着春麗」

 

 届かない相手。

 

 会議室には入らない春麗。

 

 本編には混ざらない春麗。

 

 扉の外にいる春麗。

 

 それでも、断片だけ届いてしまった春麗。

 

「ごめんなさい」

 

 一拍。

 

「でも、詳細は見ていないわ」

 

 一拍。

 

「抗議もしたわ」

 

 さらに一拍。

 

「……かなり良いログだったことも、抗議文に書いてしまったけれど」

 

 自分で言って、少しだけ精神HPが削れた。

 

 本編春麗は、布団をかぶる。

 

 その瞬間、記録板AIの文字が、どこかに浮かんだ気がした。

 

『本編春麗:抗議しながら評価する春麗』

 

 本編春麗は、布団の中から低く言った。

 

「保存しないで」

 

『保存しました』

 

「でしょうね」

 

 それでも、今日は少しだけ眠れそうだった。

 

 抗議したから。

 

 言いたいことを言ったから。

 

 自分のログではないものを、自分のものにしないと決めたから。

 

 そして。

 

 かなり悔しいけれど。

 

 あの断片が良いログだったことを、認めたから。

 

 作者への抗議メールは、送信済み。

 

 黒執着春麗への礼儀は、保留返却予定。

 

 本編春麗の精神HPは、中程度損耗。

 

 回復手段。

 

 甘味。

 

 記録板AIによる備考。

 

『次回以降、作者希望による高火力ログ発生時には、事前に抗議権付与を検討します』

 

 本編春麗は、目を閉じたまま言った。

 

「……発生させないのが一番なのよ」

 

 返事はなかった。

 

 だが、どこかで保存された気がした。

 

 それがまた、少しだけ腹立たしかった。

 


 

 記録板AIは、白い外部メタ領域で最後の表示を出した。

 

『本記録を終了します』

 

『本記録は、ディレクターズカットIF派生ログです』

 

『本編確定ログではありません』

 

『本編春麗は、作者都合による黒執着春麗ログの断片流入に対し、特別抗議権を行使しました』

 

 一拍。

 

『発生内容』

 

『本編春麗は、作者へ正式抗議メールを送信しました』

 

『抗議内容には、黒執着春麗の希望の尊重、本編春麗の精神HP限界、断片だけでも高火力であることが含まれます』

 

『同時に、本編春麗は対象ログがかなり良いログであることも認めました』

 

『作者側自動応答により、作者希望による高火力ログ発生の可能性が今後も残ることが示されました』

 

 一拍。

 

『分類』

 

『作者への正式抗議メール』

 

『見たかったのは分かるけれど、こちらの処理棚にも限界があります』

 

『抗議しながら評価する春麗』

 

『他春麗ログを奪わない礼儀』

 

『作者都合による断片流入』

 

『可能な限りは信用できない』

 

『かなり良いログだったことは認める本編春麗』

 

 一拍。

 

『保存先推奨』

 

『ディレクターズカットIF棚:保存』

 

『青い小箱:混入不可』

 

『危険封筒:補助ログとして保留』

 

『黒執着春麗関連保留棚:断片受信ログへ添付』

 

『作者抗議スレ系列:関連ログとして保存』

 

 最後に、記録板AIは小さく追記した。

 

『未承認仮分類:作者に怒りながら作者の見たかったものを理解してしまう春麗』

 

 どこかで、本編春麗の声がした。

 

「保存しないで」

 

 記録板AIは、いつも通り表示した。

 

『保存しました』

 




Q:今回のディレクターズカットIFについて解説して?

A:

執筆者としての解説

今回は、ディレクターズカットIF派生としての「本編春麗が、作者へ正式抗議メールを送る」回でした。

前回、本編春麗は黒執着春麗の作者プレゼント主人公補正ログを、完全ではなく断片として受信しました。

髪留め。
使ってくれていた。
春麗に合っていた。
外にいるなら、俺が会いに行けばいい。
理由を持って行く。

このあたりの断片だけが、本編春麗のところへ流れ込んできた形です。

今回の話は、その後処理です。

本編春麗としては、当然抗議案件です。

黒執着春麗は、春麗会議室には入りません。
本編にも混ざりません。
本編春麗の青い小箱も奪いません。
扉の外にいる春麗です。

だからこそ、黒執着春麗の作者プレゼントログは、本来なら黒執着春麗の棚に置かれるべきものです。

それを本編春麗が断片とはいえ受信してしまった。

しかも、その理由がかなり作者都合です。

作者が見たかったから。

今回の記録板AIは、そのあたりをかなり身も蓋もなく説明しています。

作者都合による断片流入。
作者希望による高火力ログ発生。

本編春麗からすれば、たまったものではありません。

なので今回は、特別抗議権が付与されます。

この「特別抗議権」というのは、ディレクターズカットIFならではのかなりメタな処理です。

本編時空ではやりにくい。
でも、作者都合が強く出たディレクターズカットIFだからこそ、本編春麗にも作者へ抗議する権利がある。

そういう整理です。

今回の面白いところは、本編春麗が抗議しているのに、途中で対象ログの良さも認めてしまうところです。

本編春麗は、黒執着春麗のログを勝手に自分のものにするつもりはありません。

髪留めも。
夕方の道も。
使ってくれていた、も。
春麗に合っていた、も。
外にいるなら会いに行く、も。

それらは黒執着春麗のログです。

本編春麗の青い小箱に入れるものではありません。

でも、良いログだったことは分かってしまう。

ここが本編春麗のめんどくさいところです。

抗議する。
でも評価もする。
腹は立つ。
でも綺麗だったことは否定できない。
自分のものにはしない。
でも、見えてしまった以上、何も感じなかったことにはできない。

この複雑な状態が、今回の本編春麗です。

特に「外にいるなら、俺が会いに行けばいい」は、本編春麗にとっても高火力でした。

これは黒執着春麗に向けられた言葉です。

本編春麗に向けられたものではありません。

それでも刺さる。

なぜなら、それが春麗に向けられた言葉だからです。

黒執着春麗は、扉の外にいる春麗です。

会議室に入らない。
本編に混ざらない。
でも、物語の外にはいない。

その春麗に対して、リュウが会議室へ入れようとするのではなく、本編へ混ぜようとするのでもなく、外にいるなら自分が会いに行けばいいと言う。

これはかなり危険です。

そして、かなり綺麗です。

本編春麗が抗議文の中で「しかも、美しいのが問題です」と書いてしまうのは、かなり本音です。

抗議文なのに、そこを消せない。

なぜなら、それを消すと本編春麗の感情として嘘になるからです。

今回の本編春麗は、作者へこう抗議しています。

黒執着春麗の希望を尊重してほしい。
本編春麗の精神HPにも限界がある。
断片だけでも高火力すぎる。
処理棚が増えすぎる。
それでも、かなり良いログだったことは認める。

この最後の一点が非常に本編春麗らしいです。

ただ怒るだけではなく、良いものは良いと認めてしまう。

でも、そのせいで自分がさらに削られる。

そして、件名が最終的に、

見たかったのは分かるけれど、こちらの処理棚にも限界があります

になる。

これは今回のエピソードをかなり象徴していると思います。

作者が見たかったのは分かる。

読者としても見たい。
書き手としても見たい。
黒執着春麗の作者プレゼントログは高火力で、かなり魅力がある。

でも、本編春麗の処理棚にも限界がある。

青い小箱。
危険封筒。
他春麗ログ。
断片受信。
保留返却。
作者抗議メール。

本編春麗の周りには、どんどん置き場所が増えています。

置き場所があるのは大事です。

でも、増えすぎるとそれはそれで大変です。

今回の自動返信では、作者側がかなり開き直っています。

黒執着春麗の希望を完全には破らないよう、詳細ではなく断片受信にしました。
本編春麗が他春麗ログを自分のものにしない礼儀を描くため、必要な断片でした。
外にいるなら、俺が会いに行けばいい、は作者も見たかったので入れました。
高火力であることは認識しています。
かなり良いログだったと思います。

かなりひどい回答です。

でも、間違ってはいません。

今回の断片受信によって、本編春麗は「他春麗のログを自分のものにしない」という礼儀を明確にしました。

これはかなり重要です。

本編春麗は黒執着春麗のログを奪わない。
青い小箱にも入れない。
危険封筒にも勝手に入れない。
ただ、断片として受け取ってしまったものは、他春麗ログ・断片受信として保留返却する。

この処理ができたことは、本編春麗の成長でもあります。

以前なら、もっと強く嫉妬したかもしれません。

あるいは、危険封筒に突っ込んで見なかったことにしたかもしれません。

でも今回は違います。

抗議する。
自分の限界も主張する。
黒執着春麗への礼儀も守る。
それでも良いログだったことは認める。

これはかなり高度な処理です。

今回の分類は、

作者への正式抗議メール。
見たかったのは分かるけれど、こちらの処理棚にも限界があります。
抗議しながら評価する春麗。
他春麗ログを奪わない礼儀。
作者都合による断片流入。
可能な限りは信用できない。
かなり良いログだったことは認める本編春麗。

になります。

特に大事なのは、

抗議しながら評価する春麗

です。

本編春麗は、抗議だけで終わらない。
でも、評価だけでも終わらない。

怒っている。
削られている。
でも、分かってしまう。
良かったことも認めてしまう。

この面倒さが、本編春麗の魅力だと思います。

そして最後に、本編春麗は黒執着春麗へ心の中で謝ります。

詳細は見ていない。
抗議もした。
でも、かなり良いログだったことも、抗議文に書いてしまった。

このあたりが、本編春麗なりの誠実さです。

見えてしまったことは消せない。
でも、勝手に奪わない。
その代わり、作者にはきちんと抗議する。

この回は、ディレクターズカットIFの高火力ログを扱いながら、本編春麗が他の春麗との距離感をどう守るかを描く回でもありました。

作者希望は危険です。

リュウの無自覚高火力も危険です。

記録板AIの保存癖も危険です。

でも、それらを全部含めて、今回も本編春麗はかなりめんどくさく、かなり春麗らしく抗議してくれたと思います。

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