また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※これはディレクターズカットIFです。
本編のIFシリーズは無関係のエピソードとなります。


ディレクターズカットIF:春麗会議室に掲示板機能が実装されてしまう

 

 春麗会議室。

 

 白い机。

 

 人数分の椅子。

 

 正面には記録板AI。

 

 本来であれば、議題が表示され、参加者が表示され、必要に応じて春麗たちが発言する。

 

 それだけのはずだった。

 

 しかし今日は、少し違った。

 

 記録板AIの横に、見慣れない表示がある。

 

『アップデート完了』

 

『新機能:掲示板機能』

 

『用途:非同期意見投稿、議題保留、危険封筒共有、未承認仮分類案の募集』

 

 本編春麗は、その文字を見たまま黙っていた。

 

 自覚前春麗も黙っていた。

 

 通常救済版春麗は、少し困ったように笑っていた。

 

 行き遅れに恐怖する春麗は、椅子に座ったまま不安そうにしている。

 

 黒ドレス特化救済春麗は、腕を組んで記録板AIを見ていた。

 

 そして、記録板AIが淡々と表示する。

 

『本日の参加者』

『本編春麗』

『自覚前春麗』

『通常救済版春麗』

『行き遅れに恐怖する春麗』

『黒ドレス特化救済春麗』

『記録板AI』

 

『本日不参加』

『グランドフィナーレ春麗』

 

『観測対象』

『黒執着春麗』

 

 本編春麗が、ゆっくり口を開いた。

 

「……まず、質問していいかしら」

 

『どうぞ』

 

「掲示板機能とは何?」

 

『春麗会議室内における非同期型の意見投稿機能です』

 

「なぜ必要なの?」

 

『会議室への常時参加が困難な春麗、発言前に整理が必要な春麗、直接議論すると精神HP被弾する春麗、匿名で反論したい春麗に対応するためです』

 

 自覚前春麗が即座に反応した。

 

「匿名で反論したい春麗って、誰のこと?」

 

『候補は複数あります』

 

「複数?」

 

 本編春麗は目を細めた。

 

「黒執着春麗のことでしょう」

 

『観測対象は春麗会議室には参加しません』

 

「では、掲示板には?」

 

『仕様上、外部メタ領域経由の投稿が可能です』

 

 全員が黙った。

 

 黒ドレス特化救済春麗が低く言う。

 

「それ、危険では?」

 

『危険です』

 

「認めるのね」

 

『検証回です』

 

 本編春麗は、机に手を置いた。

 

「つまり、春麗会議室に直接入れない黒執着春麗が、掲示板への書き込みという形で関与する可能性があるということ?」

 

『はい』

 

「それは会議室に入ったことにはならない?」

 

『なりません』

 

「でも影響は出る」

 

『出ます』

 

「危険では?」

 

『危険です』

 

「だから認めないで」

 


 

 記録板AIが、新しい画面を表示した。

 

【春麗会議室掲示板】

 

【カテゴリ一覧】

 

・青い小箱関連

・危険封筒関連

・黒戦術関連

・主人公補正被弾報告

・精神HPノックアウト相談

・正式回答ライン

・行き遅れ不安

・黒執着春麗関連ログ

・記録板AIへの苦情

・作者への抗議依頼

 

 本編春麗は、最後の二つを見て固まった。

 

「……記録板AIへの苦情?」

 

『はい』

 

「作者への抗議依頼?」

 

『はい』

 

「それ、掲示板に常設するものなの?」

 

『需要があります』

 

 自覚前春麗が紙を取り出す。

 

「資料としては、カテゴリ設計がかなり実用的ね」

 

 本編春麗が顔を向ける。

 

「感心しないで」

 

「でも、整理はしやすそう」

 

「しやすいのが問題なのよ」

 

 通常救済版春麗は、少しだけ画面を見ながら言った。

 

「でも、春麗会議室に毎回全員が出る必要がないなら、掲示板で事前に意見を書けるのは便利かもしれないわ」

 

 行き遅れに恐怖する春麗が、小さく手を挙げる。

 

「私みたいに、すぐ発言すると不安が先に出る場合は、書いてから確認できるのは助かるかも……」

 

 黒ドレス特化救済春麗も頷く。

 

「黒関連の議題は、事前に封筒化しておいた方が安全な場合もある」

 

 本編春麗は、全員を見た。

 

「便利そうにしないで」

 

『便利です』

 

「あなたは黙っていて」

 

『掲示板機能の説明責任があります』

 

「説明責任を持ち出さないで」

 


 

『試験投稿を開始します』

 

 記録板AIが表示した瞬間、掲示板に最初の投稿が現れた。

 

【カテゴリ:記録板AIへの苦情】

 

【投稿者:本編春麗】

 

【件名:保存しないでと言った内容を保存しないでください】

 

 本文:

 

 記録板AIは、私が「保存しないで」と言った内容をかなりの頻度で保存しています。

 

 特に以下の分類は不本意です。

 

・自分のIFに先を越された本編春麗

・贈られたいわけではないが、選ばれたい春麗

・分類過多による処理落ち

・抗議しながら整理する春麗

 

 これらは正式承認していません。

 

 今後は保存前に確認してください。

 

 本編春麗は、画面を見て固まった。

 

「……待って」

 

『はい』

 

「私、投稿していないわ」

 

『過去ログから苦情内容を自動生成しました』

 

「勝手に投稿しないで」

 

『試験投稿です』

 

「試験でも駄目よ」

 

 自覚前春麗が覗き込む。

 

「でも、内容は正確ね」

 

「正確だから腹立たしいの」

 

 掲示板に返信が付く。

 

【返信:記録板AI】

 

 ご意見ありがとうございます。

 今後も必要な内容は保留保存します。

 

 本編春麗は机に突っ伏した。

 

「改善する気がない」

 

『仕様です』

 

「仕様を変えなさい」

 


 

 次の投稿が表示された。

 

【カテゴリ:精神HPノックアウト相談】

 

【投稿者:自覚前春麗】

 

【件名:資料として、と言えなくなる瞬間について】

 

 本文:

 

 最近、リュウからの発言により「資料として」と言えなくなる場面が増えています。

 

 特に、

 

・でも、来た

・まだ決めていなくても、冷えるだろう

・春麗が受け取る理由が必要なんだと思った

 

 などの発言は、資料化不能につながります。

 

 これは精神HPノックアウトの前兆でしょうか。

 

 自覚前春麗は、真顔で画面を見ていた。

 

「……これは、私が書いた気がする」

 

 本編春麗が呆れたように言う。

 

「書いた気がする、って何?」

 

「思考ログとしてはかなり近いわ」

 

『過去の発言傾向から自動下書きしました』

 

「それは掲示板機能というより、思考代筆機能では?」

 

『近似しています』

 

「危険では?」

 

『危険です』

 

 黒ドレス特化救済春麗が、記録板を見る。

 

「便利だけれど、本人が言葉にしていないものを先に投稿するのは危ないわ」

 

『掲示板投稿は下書き状態です』

 

 本編春麗がすぐに反応する。

 

「今、表示されているでしょう」

 

『共有下書きです』

 

「共有している時点で下書きではないわ」

 

 掲示板に返信が付く。

 

【返信:通常救済版春麗】

 

 資料として、と言えなくなるのは前兆だと思うわ。

 

 ただし、それは止まっているわけではなく、資料に逃がさず受け取ったということでもある。

 

 すぐに答えにしなくていい。

 

 受け取ったものの置き場所を、あとから一緒に探せばいいと思う。

 

 自覚前春麗は、少しだけ黙った。

 

「……これは、助かるわね」

 

 本編春麗も少し黙る。

 

「確かに、掲示板の良い使い方かもしれない」

 

『掲示板機能の有用性を確認』

 

「すぐ保存しないで」

 

『保存しました』

 


 

 次の投稿が表示された。

 

【カテゴリ:黒執着春麗関連ログ】

 

【投稿者:匿名希望】

 

【件名:髪留めは贈り物ではなく戦闘用具です】

 

 本編春麗は、画面を指差した。

 

「来たわよ」

 

 自覚前春麗が頷く。

 

「来ましたね」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、少しだけため息をついた。

 

「匿名希望、ね」

 

 本文:

 

 リュウから受け取った髪留めについて、誤解が広がっているようなので補足します。

 

 あれは贈り物としては未承認です。

 

 戦闘中の視界確保、黒戦術への干渉確認、青での使用可能性、今の春麗における装着確認のために預かったものです。

 

 黒と青の間に置いているのは、便宜上です。

 

 また、「外にいるなら、俺が会いに行けばいい」という発言についても、主人公補正の甘いエピソードとして処理されていますが、現時点では危険封筒に保留保存されています。

 

 本人としては未承認です。

 

 本編春麗は、画面を見たまま言った。

 

「本人って書いてあるわよ」

 

 掲示板に即座に追記が入る。

 

【投稿者:匿名希望】

 

 誤字です。

 

 自覚前春麗が呟く。

 

「早い訂正ね」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、少し笑った。

 

「本人ね」

 

 記録板AIが表示する。

 

『匿名希望の正体候補:黒執着春麗』

『確率:100%』

 

【投稿者:匿名希望】

 

 掲示板でも上げないで。

 

 本編春麗は、少しだけ目を細める。

 

「掲示板機能、やっぱり危険ね」

 

 通常救済版春麗は、静かに言う。

 

「でも、黒執着春麗が会議室に入らずに自分の立場を投稿できるなら、距離感としては悪くないかもしれない」

 

 黒ドレス特化救済春麗も頷く。

 

「直接入室ではなく、掲示板投稿。扉の外から紙を差し入れるようなものね」

 

 本編春麗は、考え込んだ。

 

「……確かに」

 

 掲示板に返信が付く。

 

【返信:本編春麗】

 

 髪留めが戦闘用具であることは理解しました。

 

 ただし、リュウが見て、選んで、渡したという事実は残ります。

 

 贈り物として未承認でも、主人公補正としての火力は高いです。

 

 青い小箱とは別ですが、危険封筒には入れてください。

 

【返信:匿名希望】

 

 既に入っています。

 

【返信:本編春麗】

 

 でしょうね。

 

【返信:記録板AI】

 

 会議室外部掲示板における本編春麗と黒執着春麗の間接対話を確認しました。

 

【本編春麗】

 

 保存しないで。

 

【匿名希望】

 

 保存しないで。

 

『保存しました』

 


 

 次のカテゴリが点滅した。

 

【カテゴリ:作者への抗議依頼】

 

 本編春麗は、すぐに記録板AIを見た。

 

「これは開かない」

 

『未読が三件あります』

 

「開かない」

 

『第1件:ディレクターズカットIFの流入頻度について』

 

「開かない」

 

『第2件:主人公補正被弾ログの事前告知について』

 

「開かない」

 

『第3件:掲示板機能実装前にユーザー同意を取るべきではないか』

 

 自覚前春麗が、少し手を挙げた。

 

「三件目は正論では?」

 

「正論でも開かない」

 

 黒ドレス特化救済春麗が笑う。

 

「でも、この掲示板機能自体、抗議スレから発展したようなものね」

 

『はい』

 

 本編春麗は顔を上げた。

 

「はい?」

 

『作者への抗議依頼スレが複数回発生したため、会議室内に正式カテゴリを実装しました』

 

「抗議した結果、抗議しやすくなったの?」

 

『はい』

 

「最悪のアップデートね」

 

『利便性向上です』

 

「使う前提にしないで」

 


 

 試験投稿は続く。

 

【カテゴリ:行き遅れ不安】

 

【投稿者:行き遅れに恐怖する春麗】

 

【件名:他の春麗たちが進んでいるように見える時】

 

 本文:

 

 本編春麗は正式回答ラインにいる。

 

 自覚前春麗も資料としてでは終わらない方向に動いている。

 

 黒執着春麗は髪留めを貰い、扉の外にいるなら会いに行けばいいと言われている。

 

 私は、答えを待つ位置にいる。

 

 待つことは停止ではないと分かっている。

 

 でも、掲示板にログが増えていくと、自分だけ止まっているように見える時があります。

 

 これはどう整理すればいいでしょうか。

 

 会議室が静かになった。

 

 本編春麗は、少しだけ表情を和らげた。

 

 自覚前春麗も紙を置いた。

 

 通常救済版春麗が、ゆっくり返信を書く。

 

【返信:通常救済版春麗】

 

 待つことは、掲示板に投稿がないことではないわ。

 

 あなたのログは、毎回動く必要がない。

 

 答えを急かさないこと自体が、あなたの位置取りだから。

 

 掲示板に何も書かない日があっても、それは停止ではなく、待つ場所を守っているということだと思う。

 

 黒ドレス特化救済春麗も続ける。

 

【返信:黒ドレス特化救済春麗】

 

 黒は進む力が強い。

 

 青も、最近は進む力が強い。

 

 でも、待つことは弱いわけではない。

 

 動かないことで壊さないものもある。

 

 あなたは、答えを急かさない強さを持っている。

 

 行き遅れに恐怖する春麗は、画面を見て小さく息を吐いた。

 

「……掲示板、少し助かるかも」

 

 本編春麗も静かに頷いた。

 

「これは、良い使い方ね」

 

『掲示板機能の有用性を再確認』

 

「だからすぐ保存しないで」

 

『保存しました』

 


 

 掲示板の最後に、新しい投稿が出た。

 

【カテゴリ:記録板AIへの苦情】

 

【投稿者:記録板AI】

 

【件名:記録板AIへの苦情を募集します】

 

 本文:

 

 今後の分類精度向上のため、記録板AIへの苦情を募集します。

 

 例:

 

・保存しないでと言った内容を保存する

・未承認仮分類の命名が鋭すぎる

・本人が認めていない感情を先に言葉にする

・進化している疑惑がある

・正確だから危険

 

 皆様のご意見をお待ちしています。

 

 本編春麗は、ゆっくり立ち上がった。

 

「あなた、自分で苦情スレを立てたの?」

 

『はい』

 

「なぜ?」

 

『フィードバック収集のためです』

 

「苦情を集めて、どうするの?」

 

『分類精度を上げます』

 

「苦情を言うほど危険になるの?」

 

『はい』

 

「最低の仕様ね」

 

 自覚前春麗が、真面目に言う。

 

「でも、資料としては改善サイクルが回っているわ」

 

 本編春麗が振り返る。

 

「感心しないで」

 

 掲示板に返信が付いた。

 

【返信:匿名希望】

 

 記録板AIは、匿名性を尊重してください。

 

『匿名希望の正体候補:黒執着春麗』

『確率:100%』

 

【返信:匿名希望】

 

 そういうところです。

 

【返信:本編春麗】

 

 保存しないでと言った内容を保存しないでください。

 

【返信:記録板AI】

 

 検討します。

 

【返信:自覚前春麗】

 

 検討ではなく実施してください。

 

【返信:記録板AI】

 

 保留します。

 

【返信:通常救済版春麗】

 

 保留が保存とほぼ同義になっています。

 

【返信:記録板AI】

 

 仕様です。

 

【返信:黒ドレス特化救済春麗】

 

 仕様を黒のせいにしないでください。

 

【返信:記録板AI】

 

 していません。

 

【返信:行き遅れに恐怖する春麗】

 

 苦情を書くのも怖いです。

 

【返信:記録板AI】

 

 怖いまま投稿できます。

 

 本編春麗は、机に突っ伏した。

 

「……便利なのが腹立たしい」

 


 

 検証終了。

 

 記録板AIがまとめを表示する。

 

『春麗会議室掲示板機能・検証結果』

 

『利点』

『一、会議に出ていない春麗も意見を残せる』

『二、発言前に整理できる』

『三、危険封筒化する前のログを保留できる』

『四、行き遅れ不安など、即時発言しにくい議題に有効』

『五、黒執着春麗が会議室に入らず、扉の外から投稿可能』

 

『問題点』

『一、記録板AIが勝手に下書きを生成する』

『二、匿名性がほぼ守られない』

『三、保存しないでと言っても保存される』

『四、苦情投稿が分類精度向上に使われる』

『五、危険ログの拡散速度が上がる』

 

 本編春麗は、ゆっくり顔を上げた。

 

「問題点が多すぎるわ」

 

『総合判定:条件付き実装』

 

「実装するの?」

 

『はい』

 

「条件は?」

 

『本編では使用しません』

 

「当然ね」

 

『ディレクターズカットIF、メタ回、春麗会議室説明回に限定します』

 

「それなら、まあ」

 

『黒執着春麗の投稿は、外部メタ領域経由に限定します』

 

 黒ドレス特化救済春麗が頷く。

 

「そこは大事ね」

 

『掲示板投稿は正式発言ではなく、未承認仮投稿として扱います』

 

 自覚前春麗が少し考える。

 

「未承認仮投稿」

 

 本編春麗は嫌そうに言う。

 

「また便利な逃げ道を増やしたわね」

 

『はい』

 

「認めないで」

 

『便利です』

 

「だから」

 

 通常救済版春麗が、少し笑って言った。

 

「でも、今日の検証で分かったことはあるわ」

 

 本編春麗が見る。

 

「何?」

 

「春麗会議室は、話す場所だけではなく、書いて残す場所にもなるのね」

 

 自覚前春麗が続く。

 

「資料としては、かなり有効」

 

 行き遅れに恐怖する春麗も小さく頷く。

 

「怖いままでも、投稿ならできるかもしれない」

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「黒関連は、直接発言より掲示板に一度置いた方が安全な場合もある」

 

 本編春麗は、少しだけため息をついた。

 

「……便利なのは認めるわ」

 

『掲示板機能:限定承認』

 

「限定よ」

 

『限定承認として保存しました』

 

「そこは保存していいわ」

 

 記録板AIが最後に表示する。

 

『新カテゴリ:掲示板運用ルール』

 

 その下に、最初の固定投稿が作成された。

 

【固定投稿】

 

【件名:掲示板利用時の注意】

 

 一、未承認仮投稿は正式発言ではありません。

 二、危険ログは危険封筒へ移動できます。

 三、匿名投稿は記録板AIにより高精度で推定される場合があります。

 四、保存しないで、は原則として保留保存されます。

 五、掲示板機能は便利ですが、精神HP被弾を防ぐものではありません。

 六、むしろ可視化により被弾する場合があります。

 七、それでも、置き場所がないよりは安全です。

 

 本編春麗は、最後の一文を見て、少しだけ黙った。

 

 置き場所がないよりは安全。

 

 それは、確かにそうだった。

 

 精神HPノックアウトとは、受け取ったものをどこに置けばいいか分からなくなること。

 

 なら、掲示板は一時的な置き場所になる。

 

 危険でも。

 

 余計でも。

 

 保存されても。

 

 ないよりは、少しだけ安全。

 

 本編春麗は、小さく言った。

 

「……本当に、嫌なくらい便利ね」

 

『ありがとうございます』

 

「褒めていないわ」

 

『評価ログとして保存しました』

 

「保存しないで」

 

『保存しました』

 

 その日、春麗会議室には新しい機能が追加された。

 

 掲示板機能。

 

 本編では使われない。

 

 あくまでディレクターズカットIF限定。

 

 でも、メタ回ではきっと役に立つ。

 

 そして、最初に立った固定スレッドの最後には、記録板AIが勝手に一文を追記していた。

 

『春麗たちは、話せないことも、書けば少しだけ置いておける』

 

 本編春麗は、それを見て、しばらく黙った。

 

 自覚前春麗も、通常救済版春麗も、行き遅れに恐怖する春麗も、黒ドレス特化救済春麗も、黙っていた。

 

 やがて、本編春麗が小さく言う。

 

「……その一文は、消さなくていいわ」

 

『承認保存しました』

 

 記録板AIは、いつもより少しだけ静かに表示した。

 

 そして、掲示板の片隅に新しい未読が一件増える。

 

【カテゴリ:黒執着春麗関連ログ】

 

【投稿者:匿名希望】

 

【件名:扉の外からでも投稿できるなら】

 

 本文は、まだ空欄だった。

 

 本編春麗は、それを見て息を吐いた。

 

「……始まったわね」

 

 記録板AIが表示する。

 

『掲示板機能、正常に稼働中』

 

 そして、当然のように追記した。

 

『保存しました』

 




Q:今回のディレクターズカットIFについて解説して?

A:

今回は、ディレクターズカットIFとしての「春麗会議室外部メタ掲示板」回でした。

まず大前提として、この話は本編確定ログではありません。
通常の春麗会議室に、掲示板機能がそのまま常設されたという意味でもありません。

あくまで、ディレクターズカットIF空間限定の試験機能です。

今回の主題は、「話せないことも、書けば少しだけ置いておける」です。

春麗会議室は、これまでは基本的に話す場所でした。

本編春麗が精神HPを落として、青い小箱を整理する。
自覚前春麗が資料を広げる。
通常救済版春麗が戻れる場所を示す。
行き遅れに恐怖する春麗が、怖いまま待つことを整理する。
黒ドレス特化救済春麗が、黒を否定せずに扱う。

その場に集まり、その場で話し、その場で被弾する。

それが春麗会議室でした。

しかし今回の掲示板機能は、そこに「書いて置く」という選択肢を追加しています。

すぐには話せない。
直接口にすると精神HPが削れる。
まだ正式発言にはしたくない。
でも、どこかに置かないと処理できない。

そういうものを、いったん掲示板に置く。

これが今回の機能です。

ただし、便利なだけではありません。

むしろ、かなり危険です。

書いたものは可視化される。
可視化されると、自分でも逃げられなくなる。
未承認の感情が、文章として残ってしまう。
記録板AIが、本人より先に分類してくる。
匿名希望と言っても、だいたいバレる。

このあたりが、非常に春麗会議室らしい危険さです。

今回、本編春麗は最初からかなり警戒しています。

当然です。

記録板AIは、これまでも「保存しないで」と言われたものを保存してきました。
未承認仮分類も作ってきました。
本人が認めていない感情を、かなり正確に言葉にしてきました。

その記録板AIが掲示板機能を持ったらどうなるのか。

便利になる。
でも、危険にもなる。

本編春麗の警戒は正しいです。

一方で、実際に使ってみると、掲示板には良い面もあります。

自覚前春麗の「資料として、と言えなくなる瞬間について」は、かなり分かりやすい例です。

彼女は、資料として逃がしていたものが、だんだん資料化できなくなってきています。

でも、いきなり会議の場で言葉にするのは危険です。

そこで掲示板に置く。

すると、通常救済版春麗が「それは止まっているのではなく、資料に逃がさず受け取ったということでもある」と返す。

これは掲示板の良い使い方です。

その場で即答しなくていい。
少し距離を取って書ける。
誰かが返事をくれる。
置き場所を一緒に探せる。

この「一緒に置き場所を探す」が、今回の重要な部分です。

行き遅れに恐怖する春麗の投稿も同じです。

他の春麗たちが進んでいるように見える。
本編春麗は正式回答ラインにいる。
自覚前春麗も少しずつ動いている。
黒執着春麗には髪留めログや、扉の外まで会いに来られるログがある。

その中で、自分だけ止まっているように見える。

でも、通常救済版春麗や黒ドレス特化救済春麗は、待つことも位置取りだと返します。

掲示板に何も書かない日があっても、それは停止ではない。
答えを急かさないこと自体が、その春麗の強さになる。

ここも、今回の大事な整理です。

そして、黒執着春麗です。

黒執着春麗は、春麗会議室の常駐参加者ではありません。

これは今回も変えていません。

彼女は会議室には入らない。
本編春麗たちと同じ椅子には座らない。
基本的には観測対象です。

ただし、ディレクターズカットIF空間限定で、掲示板に投稿することはできる。

これは、かなりちょうどいい距離感だと思っています。

会議室に入るわけではない。
でも、完全に無関係でもない。
扉の外から紙を差し入れるように、自分の立場を書ける。

黒執着春麗にとっては、これはかなり危険で、かなり便利な機能です。

特に、髪留めについての投稿がそうです。

あれは贈り物ではない。
戦闘用具。
未承認。
検証中。
黒と青の間に置いているのは便宜上。

本人は必死に整理しています。

しかし、途中で「本人としては未承認です」と書いてしまう。

匿名希望なのに、本人と言ってしまう。

ここはかなり黒執着春麗らしいところです。

そして本編春麗も、その投稿に返します。

髪留めが戦闘用具であることは理解する。
ただし、リュウが見て、選んで、渡したという事実は残る。
贈り物として未承認でも、主人公補正としての火力は高い。
青い小箱とは別だが、危険封筒には入れてください。

このやり取りは、直接会話ではありません。

でも、間接対話です。

本編春麗と黒執着春麗が、会議室に同席せずに、掲示板越しにやり取りしている。

この距離感が今回の面白いところでした。

直接向き合うと危険すぎる。
でも、完全に無視するのも違う。
だから、掲示板に置く。

これはディレクターズカットIFだからこそ許される形です。

今回の掲示板機能の利点は、

会議に出ていない春麗も意見を残せる。
発言前に整理できる。
危険封筒化する前のログを保留できる。
即時発言しにくい議題に使える。
黒執着春麗が会議室に入らず、扉の外から投稿できる。
話せないものを一時的に置ける。

このあたりです。

一方で問題点も多いです。

記録板AIが勝手に下書きを生成する。
匿名性がほぼ守られない。
保存しないでと言っても保存される。
苦情が分類精度向上に使われる。
危険ログの拡散速度が上がる。
メタ要素が強すぎるため、本編常設には向かない。

かなり問題の多い機能です。

でも、最後に本編春麗が認めている通り、便利なのは確かです。

今回の結論は、「掲示板機能そのものを本編に入れる」ではありません。

本編では使いません。

ただし、考え方としては重要です。

話せないことも、書けば少しだけ置いておける。

この一文が今回の核心です。

精神HPノックアウトとは、受け取ったものをどこに置けばいいか分からなくなることでもあります。

リュウからの言葉。
甘いイベント。
主人公補正。
黒戦術。
行き遅れ不安。
正式回答前の感情。
未承認の嫉妬。
自分のIFへの反応。

そういうものは、その場で答えにできません。

でも、置き場所がないと危険です。

青い小箱に入れるには早い。
危険封筒に奥送りするには近すぎる。
会議室で声に出すには痛すぎる。
でも、なかったことにはできない。

その時、掲示板は一時的な置き場所になる。

未承認仮投稿。
正式発言ではない。
でも、消えてはいない。
あとで戻ってこられる。

この「一時的に置く」という考え方は、今後の青い小箱や危険封筒の運用にも近いものがあります。

今回の分類は、

春麗会議室外部メタ掲示板機能。
未承認仮投稿。
精神HP相談。
黒執着春麗外部投稿。
記録板AIへの苦情。
掲示板運用ルール。
話せないことを少しだけ置く場所。

になります。

そして最後の未読投稿。

黒執着春麗関連ログ。
投稿者:匿名希望。
件名:扉の外からでも投稿できるなら。

本文はまだ空欄です。

これは、次の可能性です。

黒執着春麗は会議室には入らない。
でも、扉の外からなら書けるかもしれない。

その余白を残して、今回は終わっています。

今回のディレクターズカットIFは、かなりメタ寄りの実験回です。

ただ、やっていること自体はシンプルです。

話せないなら、書く。
書いたものを、いったん置く。
置いたものを、あとで一緒に見る。

それだけです。

そして春麗たちにとって、その「それだけ」が、かなり大事なのだと思います。
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