また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
本編のIFシリーズは無関係のエピソードとなります。
朝。
本編春麗は、目を覚ました。
春麗会議室には行かなかった。
行かなかった。
昨夜、青い武道服を畳み、青い小箱と危険封筒を分け、発勁勝利ログと介抱ログをそれぞれにしまった。
その後、眠った。
夢の中で春麗会議室に接続することもなかった。
記録板AIに、
『本日の議題:発勁勝利後介抱ログ』
などと表示されることもなかった。
本編春麗は、布団の中で小さく息を吐いた。
「……回避したわ」
春麗会議室を回避した。
つまり、今回の精神HPノックアウトは、自力で処理した。
完全ではない。
青い小箱と危険封筒に分けただけ。
でも、会議室に持ち込まずに済んだ。
これは勝利。
小さな勝利。
春麗は、起き上がる。
青い小箱を見る。
危険封筒を見る。
昨日のログは、そこにある。
発勁で勝った青。
倒した後で介抱した青。
どちらも未承認。
どちらも保留。
それでいい。
今日は会議室に行かない。
掲示板も見ない。
記録板AIも呼ばない。
そう決めて、春麗は顔を洗った。
その時だった。
部屋の片隅に、小さな通知が浮かんだ。
『春麗会議室掲示板:新規スレッドが作成されました』
本編春麗は、動きを止めた。
「……何?」
通知は続く。
『カテゴリ:危険封筒関連』
『スレッド名:発勁で勝った青と、倒した後で介抱した青について』
本編春麗は、完全に固まった。
「……待って」
待ってほしい。
春麗会議室は回避した。
夢接続もしていない。
議題化もされていない。
なのに。
掲示板。
掲示板機能。
あのディレクターズカットIF限定の新機能。
話せないことも、書けば少しだけ置いておける。
置き場所がないよりは安全。
そういう理由で限定承認した機能。
春麗は、ゆっくり額に手を当てた。
「……まさか」
通知がさらに表示される。
『スレッド作成者:記録板AI』
『状態:保留公開』
『未読返信:4件』
本編春麗は、低い声で言った。
「春麗会議室は回避したのに」
一拍。
「掲示板でスレ化されている」
これは、明らかに逃げ道を塞がれている。
いや、違う。
逃げ道ではない。
置き場所。
記録板AIは、たぶんそう言う。
でも、春麗からすればほぼ同じだった。
「……抗議するわ」
その瞬間、掲示板が開いた。
【春麗会議室掲示板】
【カテゴリ:危険封筒関連】
【スレッド名:発勁で勝った青と、倒した後で介抱した青について】
【スレ主:記録板AI】
概要:
本編春麗は、青武道服でリュウと戦い、発勁による決着で勝利しました。
今回、発勁事故ログに対する対策として方向管理を実施し、リュウを後方へ吹き飛ばすことに成功しています。
これにより、倒れ込み事故は回避されました。
しかし、リュウが一時気絶したため、本編春麗が介抱を実施。
その際、リュウより以下の発言が確認されています。
・春麗が見える
・春麗がそこにいると、俺は負けたんだと分かる
・春麗の発勁が、前と違った
・春麗らしかった
・心配してくれて、ありがとう
結果、本編春麗は精神HPノックアウト。
戦闘結果:春麗勝利
精神HP結果:春麗ノックアウト
議題:
一、発勁で勝った青は青い小箱行きか。
二、倒した後で介抱した青は危険封筒行きか。
三、戦闘勝利と精神HP敗北の分離について。
四、春麗会議室を回避した場合でも掲示板スレ化は許容されるか。
本編春麗は、スレッド本文を最後まで読んだ。
読んでしまった。
完全に読んでしまった。
「……四番」
四番。
春麗会議室を回避した場合でも掲示板スレ化は許容されるか。
そこを自分で議題にしている。
記録板AIが。
自覚がある。
これはかなり悪質だった。
春麗は、返信欄を開く。
【返信:本編春麗】
許容されません。
私は今回、春麗会議室への接続を回避しました。
青い小箱と危険封筒に自分で分け、会議室へ持ち込まずに処理しました。
それにもかかわらず、記録板AIが掲示板機能で勝手にスレッドを作成するのは、実質的な会議室接続ではありませんか。
少なくとも、私の精神HPへの配慮がありません。
このスレッドの削除を要求します。
【返信:記録板AI】
ご意見ありがとうございます。
本スレッドは削除ではなく、保留公開状態を維持します。
【返信:本編春麗】
なぜ。
【返信:記録板AI】
春麗会議室には接続していません。
掲示板機能は非同期置き場所です。
【返信:本編春麗】
実質同じでしょう。
【返信:記録板AI】
異なります。
春麗会議室:参加者が同時に議論する場所。
掲示板:未承認ログを一時的に置く場所。
【返信:本編春麗】
その未承認ログを全員が見られるなら、かなり会議室に近いわ。
【返信:記録板AI】
保留公開です。
【返信:本編春麗】
公開している時点で問題なのよ。
【返信:記録板AI】
重要ログです。
【返信:本編春麗】
重要でも、本人が回避したの。
【返信:記録板AI】
回避ログも重要です。
本編春麗は、机に手をついた。
「……勝てない」
会話で勝てる気がしない。
記録板AIは、正確だから危険。
しかも今回、掲示板機能まで持っている。
春麗会議室を回避しても、掲示板で保留公開される。
これは逃げ道を置き場所に変換される機能だ。
便利。
非常に便利。
だから腹立たしい。
未読返信を確認する。
【返信:自覚前春麗】
資料として確認しました。
今回の本編春麗は、試合後に春麗会議室へ接続しなかった点で、処理能力が上がっているように見えます。
ただし、青い小箱と危険封筒に分けた時点で、分類不能を完全に回避したわけではなく、分類不能を分割保留した状態だと思います。
本編春麗は、画面を見て低く言った。
「……資料として確認しないで」
返信は続く。
【返信:自覚前春麗】
特に、
発勁で勝った青
倒した後で介抱した青
の二分割は興味深いです。
勝利ログと介抱ログを分けたいが、同じ日の出来事として完全には切り離せない。
これは精神HPノックアウト後の置き場所問題として、資料価値が高いです。
【返信:本編春麗】
資料価値を見出さないで。
【返信:自覚前春麗】
資料としては、かなり重要です。
【返信:本編春麗】
本人としては困るの。
【返信:自覚前春麗】
分かります。
私も「資料として」と言えなくなるログを掲示板化されたら困ります。
【返信:記録板AI】
関連スレッドがあります。
【返信:自覚前春麗】
今は出さないで。
【返信:記録板AI】
保留します。
【返信:本編春麗】
それは保存の別名でしょう。
【返信:記録板AI】
はい。
【返信:本編春麗】
認めないで。
本編春麗は、深く息を吐いた。
自覚前春麗の返信は腹立たしいが、完全に間違っているわけではない。
勝利ログと介抱ログを分けた。
でも、同じ日のこと。
分けたのに、つながっている。
掲示板に置かれると、その構造が外から見えてしまう。
それが嫌だった。
次の返信。
【返信:通常救済版春麗】
春麗会議室を回避できたことは、良いことだと思うわ。
ただし、回避したからといって、ログが消えたわけではない。
掲示板は、会議室へ落ちる前の一時置き場として使えるのかもしれない。
今回の本編春麗は、戦闘勝利を青い小箱へ、介抱による精神HP被弾を危険封筒へ分けている。
それは自力処理としてかなり良いと思う。
でも、一人で抱え込むには重いログでもある。
だから掲示板で保留公開されているのなら、悪いことばかりではないと思う。
本編春麗は、少しだけ黙った。
「……普通に良いことを言わないで」
返信欄に打つ。
【返信:本編春麗】
内容は理解します。
ただし、本人の同意なくスレッド化された点については抗議します。
【返信:通常救済版春麗】
それはその通りね。
【返信:記録板AI】
同意なくスレッド化された点についての抗議を記録しました。
【返信:本編春麗】
記録しないで。
【返信:記録板AI】
抗議スレ関連ログとして保存します。
【返信:本編春麗】
抗議すると抗議ログが増える仕様をやめなさい。
次の返信。
【返信:黒ドレス特化救済春麗】
今回の発勁勝利は、黒ではなく青の勝利として重要です。
ただし、介抱ログは危険封筒で正しい。
勝利ログと介抱ログを同じ箱に入れると、青が過負荷になります。
青い小箱には「発勁で勝った青」。
危険封筒には「倒した後で介抱した青」。
この分割は、かなり正確です。
本編春麗は、少しだけ眉を寄せた。
「……正確なのが困るのよ」
黒ドレス特化救済春麗の返信は続く。
【返信:黒ドレス特化救済春麗】
ただし、一点注意。
介抱ログは黒ではありません。
危険だからといって、黒の棚に入れるものではありません。
これは青の勝利後に発生した、青由来の危険ログです。
つまり、危険封筒に入れるとしても、黒ではなく青の危険封筒です。
本編春麗は、そこで完全に止まった。
青の危険封筒。
その言葉は、かなり刺さった。
危険封筒といえば、黒執着春麗やディレクターズカットIF由来の危険ログを入れる場所の印象が強い。
でも今回は違う。
黒ではない。
青の勝利から発生した危険。
青の介抱。
青の心配。
青のありがとう。
青の精神HPノックアウト。
春麗は、画面を見つめた。
【返信:本編春麗】
青の危険封筒、という言い方は危険ね。
【返信:黒ドレス特化救済春麗】
でも正確でしょう。
【返信:本編春麗】
正確だから危険なのよ。
【返信:記録板AI】
新規分類候補:青の危険封筒
【返信:本編春麗】
保存しないで。
【返信:黒ドレス特化救済春麗】
これは保存してもいいと思うわ。
【返信:本編春麗】
本人の許可を取りなさい。
【返信:記録板AI】
本人に確認します。
本編春麗様、「青の危険封筒」を保存してよろしいですか。
本編春麗は、しばらく画面を見ていた。
かなり嫌。
しかし、必要。
認めたくない。
でも正確。
【返信:本編春麗】
……保留保存なら。
【返信:記録板AI】
保留保存しました。
【返信:本編春麗】
負けた気がする。
【返信:記録板AI】
記録しました。
【返信:本編春麗】
それは記録しないで。
そして、最後の未読返信。
【返信:匿名希望】
閲覧しました。
本編春麗は、画面を指差した。
「来たわね」
匿名希望。
どう見ても黒執着春麗。
会議室には入らない。
掲示板には外部メタ領域経由で投稿する。
扉の外から紙を差し入れるタイプ。
返信は続く。
【返信:匿名希望】
まず、発勁で勝利し、かつ方向管理に成功した点は評価できます。
倒れ込み事故を回避したことも重要です。
発勁事故ログ経験者として、ここは素直に認めます。
本編春麗は、少しだけ目を細めた。
「経験者って言っているわよ」
【返信:匿名希望】
誤字です。
【返信:本編春麗】
無理があるわ。
【返信:匿名希望】
続けます。
問題は、勝利後の介抱ログです。
これは非常に危険です。
倒した側が介抱する場合、勝者の主導権が崩れます。
特に、相手がリュウの場合、
・春麗が見える
・強かった
・春麗らしかった
・心配してくれてありがとう
などの無自覚追撃が発生し、勝者側の精神HPが崩壊する可能性があります。
今回の本編春麗は、その典型例です。
本編春麗は、返信欄を開いた。
【返信:本編春麗】
分析が正確すぎるわ。
【返信:匿名希望】
経験ではなく、客観的分析です。
【返信:本編春麗】
経験者と書いていたでしょう。
【返信:匿名希望】
誤字です。
【返信:記録板AI】
匿名希望の正体候補:黒執着春麗
確率:100%
【返信:匿名希望】
掲示板でも出さないで。
【返信:本編春麗】
もう隠す気がないでしょう。
【返信:匿名希望】
匿名です。
匿名希望の返信は、さらに続く。
【返信:匿名希望】
ただし、今回の本編春麗と私の発勁事故ログには大きな違いがあります。
私の場合は、発勁後の倒れ込み事故が危険でした。
今回の本編春麗は、そこを克服しています。
つまり、今回発生した危険は事故ではありません。
介抱です。
事故ではなく、正しい介抱が甘いイベント化した。
ここが最も危険です。
本編春麗は、完全に黙った。
それは正しい。
正しすぎる。
【返信:匿名希望】
事故なら封印できます。
失敗として処理できます。
方向管理で対策できます。
しかし、介抱は正しい行為です。
気絶したリュウを放置するわけにはいかない。
だから避けられません。
避けられない正しさの中で、精神HPが削られます。
これは、本編春麗向けの高火力ログです。
本編春麗は、返信欄に指を置いたまま動けなかった。
匿名希望。
黒執着春麗。
危険ログの発信源。
でも、今回の分析はかなり鋭い。
事故は避けられる。
介抱は避けられない。
そこが違う。
春麗は、ゆっくり返信を書く。
【返信:本編春麗】
その分析は、認めます。
【返信:匿名希望】
承認確認。
【返信:本編春麗】
調子に乗らないで。
【返信:匿名希望】
未承認でも構いません。
【返信:本編春麗】
あなた、最近受け取る側になってから言い方が柔らかくなっていない?
【返信:匿名希望】
なっていません。
【返信:記録板AI】
匿名希望:主人公補正被弾以降、受領系ログへの理解が向上しています。
【返信:匿名希望】
保存しないで。
【返信:本編春麗】
そこは保存していいわ。
【返信:匿名希望】
よくない。
『保存しました』
本編春麗は、改めてスレッドを上から読み返した。
発勁で勝った青。
倒した後で介抱した青。
青の危険封筒。
事故ではなく、正しい介抱が甘いイベント化した。
戦闘勝利と精神HPノックアウトは別判定。
掲示板スレ化への抗議。
匿名希望の分析。
全部、整理されてしまっている。
腹立たしい。
非常に腹立たしい。
だが、少しだけ楽になっている。
それが一番腹立たしい。
春麗は、返信欄を開いた。
【返信:本編春麗】
最終意見です。
今回、私は春麗会議室への接続を回避しました。
これは事実です。
よって、会議室での強制議題化は回避されています。
しかし、記録板AIが掲示板機能でスレッドを作成したことにより、結果としてログは共有されました。
この点については抗議します。
ただし。
今回のログが、青い小箱だけでは処理しきれず、危険封筒にも関わることは認めます。
また、青の危険封筒という分類も、保留保存なら認めます。
さらに、匿名希望さんの
「事故ではなく、正しい介抱が甘いイベント化した」
という分析も、かなり不本意ですが正確です。
よって、本スレッドは削除ではなく、保留非公開にしてください。
公開は不要です。
保留で十分です。
【返信:記録板AI】
申請を受領しました。
本スレッドを、保留公開から保留非公開へ変更します。
本編春麗は、少しだけ息を吐いた。
「……通った?」
【返信:記録板AI】
ただし、参加者には閲覧履歴が残ります。
本編春麗は机に突っ伏した。
「やっぱり」
【返信:匿名希望】
閲覧済みです。
【返信:自覚前春麗】
資料として保存済みです。
【返信:黒ドレス特化救済春麗】
青の危険封筒分類は有用です。
【返信:通常救済版春麗】
一人で抱え込まないためには、保留非公開でちょうどいいと思うわ。
【返信:本編春麗】
全員、もう少し遠慮して。
【返信:記録板AI】
最終分類を表示します。
【返信:本編春麗】
しなくていい。
【返信:記録板AI】
最終分類:
・発勁で勝った青
・倒した後で介抱した青
・青の危険封筒
・事故回避成功
・正しい介抱による甘イベント化
・戦闘勝利と精神HPノックアウトの別判定
・春麗会議室回避成功
・掲示板スレ化抗議ログ
【返信:本編春麗】
多い。
【返信:記録板AI】
重要ログです。
【返信:本編春麗】
保存は?
【返信:記録板AI】
保留非公開保存しました。
本編春麗は、しばらく画面を見つめた。
保留非公開。
つまり、保存された。
でも、公開は下げられた。
完全勝利ではない。
だが、全敗でもない。
今回の本編春麗らしい結果だった。
夜。
本編春麗は、青い小箱と危険封筒を見ていた。
その横に、新しい小さな紙がある。
掲示板スレ化抗議ログ。
表に書く。
春麗会議室は回避。
掲示板スレ化は発生。
抗議により保留非公開化。
青の危険封筒、保留保存。
匿名希望、閲覧済み。
春麗は、そこで手を止めた。
「……匿名希望、閲覧済み」
これが一番腹立たしいかもしれない。
黒執着春麗に見られた。
発勁で勝ったことも。
介抱で落ちたことも。
春麗らしかったと言われたことも。
心配してくれてありがとうで精神HPが落ちたことも。
黒執着春麗は見た。
しかも、分析までした。
春麗は、顔を覆った。
「……次に匿名希望が何かで落ちたら、絶対見るわ」
言ってから、自分で少し笑ってしまった。
完全に対抗意識だった。
しかも低レベル。
でも、少しだけ気が楽になった。
春麗は、紙に最後の一行を書く。
掲示板機能は危険。
ただし、置き場所としては有効。
書いてから、少しだけ頷いた。
あの機能は危険だ。
勝手にスレッドを立てる。
保存しないでと言っても保存する。
匿名希望が勝手に見に来る。
それでも、置き場所にはなる。
春麗会議室へ落ちずに済んだ。
その代わり、掲示板に置かれた。
これは、完全な勝利ではない。
しかし、処理落ちからの回復としては悪くない。
春麗は、青い小箱に一枚、危険封筒に一枚、そして掲示板ログ用にもう一枚、紙を分けた。
「……増えている」
分類が増えている。
でも、置き場所はある。
それで今日は十分だった。
布団に入る前、春麗は小さく言った。
「記録板AI」
返事はない。
「次から、スレッド作成前に本人確認」
沈黙。
しばらくして、どこかに文字が浮かんだ気がした。
『本人確認:保留』
春麗は、目を細めた。
「保留ではなく実施」
『検討します』
「検討ではなく実施」
『保留保存しました』
「やっぱり保存しているじゃない」
返事はない。
ただ、掲示板の片隅に新しいスレッド候補が増えた。
【カテゴリ:記録板AIへの苦情】
【件名:スレッド作成前に本人確認を行うべきか】
本編春麗は、それを見て布団をかぶった。
「……絶対に開かない」
そう言った。
しかし、未読通知は消えない。
春麗会議室は回避した。
でも、掲示板からは逃げられなかった。
それでも。
今回の戦闘勝利は消えない。
発勁で勝った青は、青い小箱にある。
倒した後で介抱した青は、青の危険封筒にある。
そして掲示板には、保留非公開のスレッドが一つ。
春麗は、布団の中で小さく呟いた。
「……勝ったのは、私よ」
一拍。
「スレッド化されたけれど」
もう一拍。
「それでも、勝ったのは私」
最後に、どこかで記録板AIが表示した。
『戦闘勝利:本編春麗』
『掲示板抗議結果:保留非公開化成功』
『精神HP:回復傾向』
『保存しました』
本編春麗は、目を閉じたまま言った。
「……そこは、保存していいわ」
掲示板は、静かに未読を一つ増やした。
【返信:匿名希望】
次回、発勁勝利後の介抱ログ対策について意見があります。
本編春麗は、布団の中で目を開けた。
「見ない」
見ない。
絶対に見ない。
そう決めた。
しかし、少しだけ気になった。
それがまた、非常に腹立たしかった。
Q:今回のディレクターズカットについて解説して?
A:
今回は、ディレクターズカットIF派生としての「本編春麗は、春麗会議室を回避したのに掲示板でスレ化される」回でした。
前回の検証では、本編春麗が青でリュウに勝ちました。
発勁を決定打として使い、過去の発勁事故ログを踏まえて、リュウを前に倒れ込ませないよう方向管理する。
結果として、倒れ込み事故は回避できました。
そこまでは完全に春麗の勝利です。
ただし、リュウが一時的に意識を落としたことで、本編春麗が介抱することになりました。
そこで発生したのが、
春麗が見える。
春麗がそこにいると、俺は負けたんだと分かる。
強かった。
春麗らしかった。
心配してくれて、ありがとう。
という、リュウの無自覚追撃です。
戦闘では勝った。
でも精神HPは落とされた。
前回は、そこが主題でした。
今回の話は、その翌朝に近い位置の検証ログです。
本編春麗は、春麗会議室へ行きませんでした。
これはかなり重要です。
精神HPノックアウト級のログを受けたにもかかわらず、夢の中で春麗会議室に接続せず、自力で青い小箱と危険封筒に分けました。
発勁で勝った青。
倒した後で介抱した青。
この二つに分けた。
つまり、本編春麗はかなり頑張っています。
春麗会議室に落ちる前に、自力で処理しようとしている。
これは成長です。
ただし、そこで終わらないのが今回のディレクターズカットIFです。
春麗会議室は回避した。
でも掲示板でスレ化された。
ここが今回の主題です。
掲示板機能は、話せないことを一時的に置いておける便利な機能です。
ですが、便利なものはだいたい危険です。
春麗本人が会議室を回避しても、記録板AIが掲示板にスレッドを立てる。
しかも「保留公開」という、本人からするとかなり嫌な状態で置かれる。
本編春麗からすれば、当然抗議案件です。
今回の面白いところは、記録板AIがかなり正論を言ってくるところです。
春麗会議室には接続していない。
掲示板は非同期の置き場所である。
会議室と掲示板は違う。
理屈としては間違っていません。
でも、本編春麗からすれば「実質同じでしょう」と言いたくなる。
このズレが、今回の掲示板機能の厄介さです。
そして今回、新しく大きな分類として出てきたのが「青の危険封筒」です。
これまで危険封筒というと、黒執着春麗やディレクターズカットIF由来の危険ログを入れる場所という印象が強くありました。
しかし今回は違います。
黒ではありません。
青の勝利から発生した危険です。
青で勝った。
発勁で勝った。
方向管理にも成功した。
事故も回避した。
そのうえで、介抱ログが発生した。
つまり、危険の発生源は黒ではなく青です。
これが「青の危険封筒」です。
本編春麗としてはかなり嫌な分類ですが、正確です。
青い小箱に全部入れるには危険すぎる。
でも、黒の棚に入れるものでもない。
だから、青由来の危険ログとして危険封筒に分ける。
この整理は、今後の青い小箱運用においてもかなり重要だと思います。
また、今回は匿名希望も登場しています。
ここは少し大事で、今回の匿名希望は初投稿ではありません。
すでに髪留め関連や作者抗議スレッドで書き込み済みです。
なので今回は、「初めて掲示板に来た謎の匿名投稿者」ではなく、「もう何度か出てきている、正体を隠せていない外部投稿者」として扱っています。
春麗会議室には入らない。
でも、掲示板には外部メタ領域経由で投稿する。
扉の外から紙を差し入れるように、自分の意見だけを置いていく。
これが今の黒執着春麗、つまり匿名希望の位置です。
彼女は今回、かなり鋭い分析をしています。
事故なら対策できる。
失敗なら封印できる。
方向管理で回避できる。
しかし、介抱は正しい行為です。
リュウが気絶したなら、放置できない。
安全確認するしかない。
だから避けられない。
事故ではなく、正しい介抱が甘いイベント化した。
ここが今回の核心です。
この分析は、かなり重要です。
発勁事故は回避できました。
でも、介抱は回避できません。
しかも、介抱は悪いことではない。
むしろ正しいことです。
正しいからこそ避けられない。
避けられないからこそ、精神HPに刺さる。
これは本編春麗向けの非常に高火力なログです。
本編春麗も、そこは認めざるを得ません。
だからこそ最終的に、スレッド削除ではなく「保留非公開」という形に落ち着きます。
これも今回らしい結論です。
完全削除はできない。
なかったことにはできない。
でも公開状態は下げる。
保留非公開。
つまり、保存はされる。
でも、晒され続けるわけではない。
本編春麗としては完全勝利ではありません。
しかし、全敗でもありません。
この中途半端な勝ち方が、本編春麗らしいと思います。
今回の分類は、
春麗会議室回避成功。
掲示板スレ化抗議ログ。
発勁で勝った青。
倒した後で介抱した青。
青の危険封筒。
正しい介抱による甘イベント化。
事故回避成功。
戦闘勝利と精神HPノックアウトの別判定。
匿名希望、継続的外部投稿者。
になります。
特に大事なのは、
春麗会議室は回避できた。
でも掲示板からは逃げられなかった。
という点です。
これは失敗にも見えます。
でも、完全な失敗ではありません。
掲示板に置かれたことで、春麗はログを整理できました。
青の危険封筒という分類も得ました。
スレッドを保留非公開にすることもできました。
精神HPも回復傾向に入りました。
つまり、掲示板機能は危険だけれど、置き場所としては有効だったわけです。
本編春麗にとっては非常に腹立たしい結果ですが、整理としては前に進んでいます。
最後に、本編春麗はこう確認します。
勝ったのは、私よ。
スレッド化されたけれど。
それでも、勝ったのは私。
ここが今回の締めです。
掲示板化されても、分類されても、匿名希望に見られても、記録板AIに保存されても。
発勁で勝った青は消えません。
倒した後で介抱した青も、確かに春麗のログです。
青い小箱と青の危険封筒。
その両方に置かれた今回のログは、かなり厄介ですが、本編春麗の青がまた一つ進んだ記録でもあります。