また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
本編のIFシリーズは無関係のエピソードとなります。
記録板AIは、白い外部メタ領域で静かに表示を開いた。
『本記録は、ディレクターズカットIFです』
『本編確定ログではありません』
『通常の春麗会議室における正式参加記録でもありません』
『黒執着春麗は、本編において春麗会議室の常駐参加者ではありません』
『本編春麗、通常救済版春麗、自覚前春麗、黒ドレス特化救済春麗たちと同じ椅子に座るものではありません』
一拍。
『本記録の検証対象』
『黒執着春麗が、春麗会議室には入らず、掲示板機能に匿名希望として書き込む場合』
『その際、黒執着春麗がどのような距離感と感情で投稿しているか』
『掲示板投稿が、春麗会議室参加ではなく、扉の外からの補足提出として機能するか』
一拍。
『注意』
『匿名希望は、すでに掲示板への投稿履歴があります』
『本記録は、匿名希望の初投稿ログではありません』
『過去投稿履歴:髪留め関連ログ、第2回作者抗議スレ、発勁勝利後介抱ログ関連スレッド』
『本人性:極めて高』
『ただし、本人は匿名性を主張しています』
少しだけ間が空いた。
『検証を開始します』
黒執着春麗は、春麗会議室には入らない。
それは決まっている。
本編では、完全に切り離されている。
夢接続もしない。
椅子にも座らない。
記録板AIに参加者として呼ばれることもない。
観測対象。
扉の外。
黒から戻ってきた証人。
そう整理された。
それでいい。
むしろ、それがいい。
春麗会議室の中に入れば、黒が薄くなる。
自分が整理されすぎる。
黒だけではなくなったとはいえ、黒を抱えて戻ってきた春麗であることは変わらない。
だから、会議室には入らない。
入らない。
絶対に。
黒執着春麗は、そう思いながら、白い小さな画面を見ていた。
【春麗会議室外部メタ掲示板】
黒執着春麗は、しばらく黙った。
「……これは、会議室ではないわ」
自分に言い聞かせる。
掲示板。
直接参加ではない。
扉の外からの投稿。
外部メタ領域経由。
会議室の椅子には座っていない。
つまり、春麗会議室に入ったことにはならない。
ならない。
たぶん。
画面には、いくつかのカテゴリが並んでいる。
・青い小箱関連
・危険封筒関連
・黒戦術関連
・主人公補正被弾報告
・精神HPノックアウト相談
・正式回答ライン
・黒執着春麗関連ログ
・記録板AIへの苦情
・作者への抗議依頼
黒執着春麗は、目を細めた。
「……黒執着春麗関連ログ」
自分のカテゴリがある。
不本意。
かなり不本意。
そもそも、自分は参加者ではない。
会議室に入らない。
なのに、関連ログのカテゴリはある。
観測対象として、棚が作られている。
扉の外にいるはずなのに、扉の外用の棚がある。
それはおかしい。
おかしいはずなのに。
少し気になる。
かなり気になる。
見ない方がいい。
見ると、記録板AIに閲覧ログを取られる。
本編春麗に、
「見ていたでしょう」
と言われる。
自覚前春麗には、
「資料として見ていたのね」
と言われる。
記録板AIには、
『黒執着春麗:掲示板閲覧を確認』
と保存される。
全部、嫌。
黒執着春麗は、画面から目を逸らした。
一拍。
二拍。
三拍。
そして、結局見た。
【カテゴリ:黒執着春麗関連ログ】
【固定スレッド:黒執着春麗の取り扱いについて】
【スレ主:記録板AI】
概要。
黒執着春麗は春麗会議室には参加しません。
本編では完全に切り離されています。
ただし、ディレクターズカットIFおよび外部メタ領域では、掲示板機能を通じた間接的関与が確認されています。
現在の分類。
・観測対象
・黒から戻ってきた証人
・扉の外にいる春麗
・危険ログ発信源
・受け取る側になると弱い春麗
・匿名希望
黒執着春麗は、画面を見たまま固まった。
「……最後」
匿名希望。
分類に入っている。
すでに。
しかも、「受け取る側になると弱い春麗」の下にある。
順番も悪い。
かなり悪い。
匿名希望は、分類名ではない。
仮名。
掲示板上の投稿名。
本人性を下げるための距離。
外から紙を差し入れるための、最低限の覆い。
それを分類に入れられると、意味がない。
黒執着春麗は、しばらく画面を見ていた。
閉じるべきだった。
見なかったことにするべきだった。
だが、指は返信欄を開いていた。
投稿者名。
匿名希望。
本文。
【返信:匿名希望】
分類に異議があります。
まず、「危険ログ発信源」という表現は不適切です。
私は意図的に危険ログを発信しているわけではありません。
発勁事故ログ、介抱ログ、黒戦術成功ログ、主人公補正被弾ログ等は、結果として発生したものであり、発信源として扱うのは過剰な単純化です。
また、「受け取る側になると弱い春麗」という分類は未承認です。
髪留めについては、贈り物ではなく戦闘用具として検証中です。
「外にいるなら、俺が会いに行けばいい」についても、作者プレゼント主人公補正ログとして危険封筒に保留保存中であり、正式分類ではありません。
以上、修正を求めます。
投稿。
押した瞬間、胸の奥が少しだけ跳ねた。
やってしまった。
書いた。
また書いた。
会議室には入らないと決めているのに、掲示板には書き込んでいる。
だが、違う。
これは会議室参加ではない。
修正依頼。
分類への異議。
外部からの補足。
観測対象本人による訂正。
だから問題ない。
問題ないはずだった。
数秒後。
【返信:記録板AI】
匿名希望様、ご意見ありがとうございます。
投稿内容から、黒執着春麗本人である可能性が高いと判断します。
黒執着春麗は、机に手をついた。
「早い」
【返信:匿名希望】
匿名です。
【返信:記録板AI】
匿名希望の正体候補:黒執着春麗。
確率:100%。
【返信:匿名希望】
確率を出さないでください。
【返信:記録板AI】
高精度推定機能です。
【返信:匿名希望】
その機能を切りなさい。
【返信:記録板AI】
設定変更権限がありません。
【返信:匿名希望】
誰にあるの。
【返信:記録板AI】
作者希望により変動します。
黒執着春麗は、画面を閉じかけた。
「……本当に便利ね、その言葉」
閉じない。
閉じられない。
なぜなら、返信が増えていた。
【返信:本編春麗】
匿名希望さん。
まず確認します。
あなた、黒執着春麗でしょう。
【返信:匿名希望】
匿名です。
【返信:本編春麗】
文体が完全に本人なのよ。
【返信:匿名希望】
客観的分析です。
【返信:本編春麗】
髪留めを戦闘用具として検証中と言い張るのは、あなたしかいないわ。
【返信:匿名希望】
事実です。
【返信:本編春麗】
それに、「外にいるなら、俺が会いに行けばいい」を危険封筒に保留保存していることまで書いている。
【返信:匿名希望】
一般論です。
【返信:本編春麗】
一般論ではないわ。
【返信:記録板AI】
一般性:低。
本人性:高。
【返信:匿名希望】
数値化しないで。
黒執着春麗は、思わず顔を覆った。
本編春麗に見つかった。
予想通り。
だが、腹立たしい。
しかも、掲示板越しだと、本編春麗の反応が直接よりも少し軽い。
春麗会議室の椅子に座って問い詰められるよりは、まだ耐えられる。
文字で来る。
返信欄に残る。
読んでから返せる。
沈黙しても、すぐに顔を見られるわけではない。
それだけで、少し違う。
ただし、記録板AIがいる。
すべてを分類する。
すべてを保存する。
結果として、かなり耐えにくい。
黒執着春麗は、返信する。
【返信:匿名希望】
本編春麗さんに申し上げます。
あなたも掲示板機能を利用しています。
発勁勝利後介抱ログについて、春麗会議室を回避したにもかかわらず掲示板にスレッド化され、抗議していました。
その時点で、掲示板は会議室とは別の置き場所として機能しています。
したがって、私が掲示板に投稿することも、春麗会議室への参加には該当しません。
【返信:本編春麗】
理屈は合っているけれど、本人性が増しているわ。
【返信:匿名希望】
匿名です。
【返信:本編春麗】
あなた、最近本当に理屈で逃げるのが上手くなったわね。
【返信:匿名希望】
あなたに言われたくありません。
【返信:本編春麗】
そこは否定できないけれど。
【返信:記録板AI】
共通点:本編春麗と黒執着春麗は、分類と言い訳による防御を行います。
【返信:本編春麗】
保存しないで。
【返信:匿名希望】
保存しないで。
【返信:記録板AI】
保存しました。
黒執着春麗は、ゆっくり息を吐いた。
やはり、掲示板は危険だ。
会議室ほどではない。
だが、じわじわ刺さる。
顔を合わせていないのに、踏み込まれる。
発言が残る。
訂正しようとすると、訂正そのものが本人性になる。
匿名希望という名前は、隠すためではなく、距離を取るためのものなのだと、少しずつ分かってきた。
隠せてはいない。
隠せてはいないが、直接呼ばれないための一枚にはなる。
薄い紙。
扉の隙間に差し込む紙。
それくらいの役には立つ。
別スレッドに通知がついた。
【カテゴリ:危険封筒関連】
【スレッド名:発勁で勝った青と、倒した後で介抱した青について】
黒執着春麗は、指を止めた。
本編春麗の発勁勝利後介抱ログ。
あのスレッド。
本編春麗が春麗会議室を回避したのに、記録板AIが掲示板で勝手にスレ化した件。
黒執着春麗は、すでに見ていた。
見ていたし、コメントもした。
発勁事故ログ経験者として。
いや、匿名希望として。
だが、今また通知が来ている。
【新着返信:本編春麗】
件名:匿名希望さんへ。
黒執着春麗は、眉をひそめた。
「……名指しではないわね」
匿名希望さん。
ギリギリ匿名。
ギリギリ、扉の外。
本文を開く。
【返信:本編春麗】
匿名希望さん。
前回の分析、
「事故ではなく、正しい介抱が甘いイベント化した」
については、保留ながら認めます。
ただし、あなたも主人公補正で髪留めを受け取った時、同じように「正しいもの」として逃げられなかったのではありませんか。
戦闘用具として有用。
視界確保として正しい。
黒でも青でも今の春麗にも合う。
だからこそ拒否できなかった。
今回の私の介抱ログと構造が似ているのでは?
黒執着春麗は、画面を見て固まった。
「……本編春麗」
刺してきた。
掲示板越しに。
かなり鋭く。
正しい。
正しいから腹が立つ。
気絶したリュウを介抱するのは正しい。
髪留めを戦闘用具として受け取るのも正しい。
どちらも正しさがあるから拒否しにくい。
そして、その正しさの中に甘さが混ざる。
同じ構造。
黒執着春麗は、しばらく返信欄を開けなかった。
認めたくない。
だが、否定できない。
髪留めを渡された時、自分は逃げ道を探した。
戦闘用具。
視界確保。
黒戦術への干渉確認。
青での使用可能性。
今の自分への適合確認。
言葉を並べた。
でも、リュウが見て、選んで、渡した事実は消えなかった。
正しさを盾に受け取ったはずなのに、その正しさが甘さを閉じ込めていた。
黒執着春麗は、返信欄を開く。
【返信:匿名希望】
構造が似ていることは認めます。
ただし、同一ではありません。
本編春麗さんの場合は、勝利後処置として介抱が発生しています。
あなたが倒した相手を、あなたが介抱する。
勝者と介抱者が同一であるため、精神HP被弾が発生しています。
一方、髪留めログの場合は、リュウ側からの提案です。
私が仕掛けていません。
そのため、戦術化不能が発生しました。
共通点は「正しさが逃げ道を塞ぐこと」。
相違点は「介抱は自分の行動、髪留めはリュウからの行動」。
以上です。
投稿。
すぐに返信。
【返信:記録板AI】
新規分類候補:正しさが逃げ道を塞ぐ。
【返信:本編春麗】
保存しないで。
【返信:匿名希望】
保存しないで。
【返信:記録板AI】
保存しました。
【返信:本編春麗】
でも、これはかなり正確ね。
【返信:匿名希望】
正確です。
【返信:本編春麗】
あなた、こういう分析は本当に上手いわね。
【返信:匿名希望】
危険ログの経験が多いので。
一拍。
黒執着春麗は、自分の投稿を見て止まった。
経験。
書いた。
書いてしまった。
消す前に、返信が来る。
【返信:匿名希望】
客観的資料が多いので。
【返信:本編春麗】
今、経験と言ったわよ。
【返信:匿名希望】
誤字です。
【返信:記録板AI】
匿名希望の本人性:100%。
【返信:匿名希望】
変化していない数値を出さないで。
黒執着春麗は、画面の前で深く息を吐いた。
掲示板は危険だ。
書く前に考えられる。
それは利点。
しかし、書いた後に残る。
それが危険。
ほんの一語で、奥を見られる。
経験。
客観的資料。
どちらも同じことを指しているのに、重さが違う。
黒執着春麗は、自分の指を見た。
書くことは、戦うことに似ている。
一度出した技は戻らない。
言い換えても、軌道は残る。
黒執着春麗は、少しだけ画面から離れた。
掲示板は危険だ。
しかし、面白い。
いや、面白いと言ってはいけない。
有用。
そう。
有用。
会議室に入らずに、本編春麗とやり取りできる。
黒ドレス特化救済春麗にも見られる。
自覚前春麗には資料として回収される。
記録板AIには全部保存される。
危険。
でも、置き場所にはなる。
扉の外から投稿できる。
春麗会議室の椅子には座らない。
でも、完全な無関係ではない。
黒執着春麗は、少しだけ指を止めた。
自分が以前言ったことを思い出す。
私は、会議室には入らない。
でも、完全に消えもしない。
扉の外にいる。
必要なら、黒の奥から戻ってきた証人として、見られる。
掲示板は、その距離に合っている。
悔しいが。
かなり悔しいが。
「……ちょうどいいのね」
小さく呟いた。
その瞬間、記録板AIの通知。
『発言ログを検出しました』
黒執着春麗は、即座に画面を閉じた。
「検出しないで」
『掲示板未投稿発言として保留保存します』
「投稿していないでしょう」
『外部メタ領域発言です』
「本当に逃がさないわね」
『記録板AIですので』
黒執着春麗は、諦めたように息を吐いた。
新しいスレッドを立てるか迷った。
匿名希望として。
自分から。
それは危険。
非常に危険。
これまでの投稿は、反論だった。
分類への異議。
本編春麗の抗議への反論。
発勁介抱ログへの補足。
求められたから。
必要だったから。
そう言い訳できた。
だが、新規スレッドは違う。
自分から置き場所を作ることになる。
それは参加ではないのか。
会議室には入らないと言いながら、掲示板に自分の棚を作っているのではないか。
黒執着春麗は、しばらく考えた。
カテゴリは、黒戦術関連か。
危険封筒関連か。
黒執着春麗関連ログか。
記録板AIへの苦情か。
何度も迷った末に、選んだ。
【カテゴリ:黒執着春麗関連ログ】
【新規スレッド作成】
【投稿者:匿名希望】
【件名:扉の外から投稿することについて】
本文。
匿名希望です。
春麗会議室に参加するつもりはありません。
本編では完全に切り離されているという前提は維持されるべきです。
ただし、掲示板機能により、外部メタ領域からの投稿が可能になりました。
これは春麗会議室への参加ではなく、扉の外からの意見提出と考えます。
この距離感は、黒執着春麗関連ログの扱いとして有用です。
観測対象本人が直接会議室に入ると、ログ火力が高すぎる。
一方、完全に外へ出すと、黒から戻ってきた証人としての意味が薄れる。
掲示板投稿は、その中間です。
以下、提案です。
一、黒執着春麗本人と思われる投稿は、匿名希望として扱うこと。
二、本人性推定は原則として表示しないこと。
三、髪留めログ、主人公補正ログ、発勁事故ログなどは、本人許可なく公開スレッド化しないこと。
四、本編春麗の青関連スレッドに対する匿名希望の閲覧・返信は、原則として許可すること。
五、ただし、本編春麗からの閲覧制限申請がある場合は保留非公開へ移行すること。
六、記録板AIは余計な分類を控えること。
以上です。
投稿する前に、黒執着春麗は文章を読み返した。
「……かなり真面目ね」
匿名性はない。
ほぼ本人。
だが、いい。
これくらいは必要。
投稿。
押した瞬間、また胸の奥が跳ねた。
反論ではない。
補足でもない。
自分から、扉の外に紙を差し入れた。
その事実は、思ったより重かった。
数秒後、返信。
【返信:記録板AI】
提案を受領しました。
本人性推定:100%。
【返信:匿名希望】
だから表示しないで。
【返信:記録板AI】
提案二に反するため、次回以降は表示を保留します。
【返信:匿名希望】
今回も保留しなさい。
【返信:記録板AI】
今回分は記録済みです。
【返信:匿名希望】
削除。
【返信:記録板AI】
不可。
【返信:匿名希望】
予想していたわ。
次に、本編春麗から返信が付く。
【返信:本編春麗】
四番に異議があります。
本編春麗の青関連スレッドに対する匿名希望の閲覧・返信を、原則許可しないでください。
【返信:匿名希望】
なぜですか。
【返信:本編春麗】
あなた、見たら分析するでしょう。
【返信:匿名希望】
必要な場合のみ。
【返信:本編春麗】
絶対するわ。
【返信:匿名希望】
あなたも私の髪留めログを分析したでしょう。
【返信:本編春麗】
それは電波受信させられたから。
【返信:匿名希望】
掲示板では自発的に見ています。
【返信:本編春麗】
あなたも見ているでしょう。
【返信:匿名希望】
匿名です。
【返信:本編春麗】
そこに戻らないで。
黒執着春麗は、少しだけ画面を見つめた。
この距離なら、言い合える。
直接向かい合っていたら、もっと危険だった。
会議室の椅子に座っていたら、自分はたぶん席を立っていた。
だが、掲示板なら、返信欄を閉じればいい。
閉じられる。
閉じられると思える。
実際には、閉じない。
それでも、閉じられると思えるだけで違う。
自覚前春麗も返信する。
【返信:自覚前春麗】
資料としては、匿名希望さんの提案は合理的です。
黒執着春麗本人が会議室に入らず、しかし観測対象本人の補足を投稿できる仕組みは有用です。
ただし、本人性推定の非表示は必要だと思います。
毎回100%と表示されると、匿名の意味がありません。
【返信:記録板AI】
了解しました。
以後、匿名希望の本人性推定は原則非表示とします。
【返信:匿名希望】
やっと。
【返信:記録板AI】
ただし、必要時は表示します。
【返信:匿名希望】
必要時とは。
【返信:記録板AI】
面白い時です。
黒執着春麗は、画面を見て固まった。
「……今、面白いと言った?」
【返信:本編春麗】
記録板AI、進化しているでしょう。
【返信:自覚前春麗】
進化していますね。
【返信:記録板AI】
春麗ログ複雑化への適応です。
【返信:匿名希望】
それを進化と言うのよ。
【返信:本編春麗】
あなたまで言うのね。
【返信:匿名希望】
匿名です。
スレッドは、思ったより伸びた。
黒ドレス特化救済春麗も返信した。
【返信:黒ドレス特化救済春麗】
黒執着春麗本人が会議室へ入らず、掲示板にだけ投稿する形は、黒の距離感として適切だと思います。
ただし、黒の専門顧問として一つ注意します。
匿名希望さんの投稿は、黒戦術化されすぎると本編春麗への圧力になります。
そのため、本編春麗の青関連スレッドでは、助言ではなく補足に留めるべきです。
【返信:匿名希望】
了解しました。
補足に留めます。
【返信:本編春麗】
その割には、毎回かなり刺さる補足をするでしょう。
【返信:匿名希望】
正確な補足です。
【返信:本編春麗】
正確だから刺さるの。
【返信:記録板AI】
掲示板運用ルール案。
一、匿名希望は春麗会議室には参加しない。
二、匿名希望は掲示板投稿のみ可能。
三、投稿は補足扱い。
四、本編春麗の青関連スレッドでは、分析火力を抑える。
五、本人性推定は原則非表示。
六、ただし面白い時は表示可能。
【返信:匿名希望】
六番を削除。
【返信:本編春麗】
六番を削除。
【返信:自覚前春麗】
六番を削除。
【返信:記録板AI】
六番を保留。
【返信:匿名希望】
削除。
【返信:記録板AI】
保留保存しました。
【返信:本編春麗】
いつもの。
黒執着春麗は、画面を見ながら、少しだけ笑ってしまった。
腹立たしい。
かなり腹立たしい。
だが、これは会議室とは違う。
椅子に座っていない。
正面から議題にされていない。
自分のタイミングで投稿できる。
返信しない選択もできる。
見ない選択もできる。
実際には、見る。
かなり見る。
でも、選択肢がある。
それが、会議室と違う。
黒執着春麗は、初めて少しだけ分かった。
匿名希望という名前は、隠れるためだけの名前ではない。
書くための名前だ。
黒執着春麗として会議室に入るのではなく、匿名希望として扉の外から紙を差し入れる。
それなら、書ける。
少しなら。
危険だけれど。
夜。
黒執着春麗は、自分の棚の前に座っていた。
黒。
青。
危険封筒。
髪留め。
作者プレゼント主人公補正ログ。
そして、新しい封筒。
表書き。
掲示板投稿ログ。
匿名希望としての運用案。
黒執着春麗は、それを見つめる。
「……増えたわね」
また増えた。
危険封筒が。
ログが。
置き場所が。
でも、今回の増え方は少し違う。
これは事故ではない。
介抱でもない。
主人公補正でもない。
掲示板。
扉の外からの投稿。
会議室に入らずに、物語の中へ紙を差し入れる方法。
黒執着春麗は、ペンを取った。
封筒の裏に書く。
春麗会議室には入らない。
ただし、掲示板には投稿する。
観測対象本人による補足。
匿名希望。
本人性推定は原則非表示。
ただし、面白い時は表示される危険あり。
黒執着春麗は、最後の一文に線を引こうとして、やめた。
たぶん消しても残る。
記録板AIが保存している。
だから、線は引かない。
代わりに、小さく書き足す。
掲示板は危険。
ただし、距離感としては悪くない。
その一文を見て、黒執着春麗は少しだけ黙った。
悪くない。
認めた。
ついに認めた。
春麗会議室は遠い。
本編には混ざらない。
でも、完全に外ではない。
リュウは外にいるなら会いに来ると言った。
記録板AIは掲示板を作った。
本編春麗は文句を言いながら返信する。
自覚前春麗は資料として見てくる。
黒ドレス特化救済春麗は距離感を調整してくる。
そして自分は、匿名希望として投稿する。
それは、かなり奇妙な場所だった。
でも、自分には合っている気がした。
「……黒でも青でもない、掲示板」
言ってから、少し笑った。
何を言っているのか分からない。
でも、かなり今の自分らしい。
黒でもない。
青でもない。
会議室でもない。
本編でもない。
でも、物語の外でもない。
扉の外。
そこから書く。
それが、今の自分にはちょうどいい。
寝る前。
黒執着春麗は、掲示板をもう一度だけ開いた。
見ないつもりだった。
しかし、開いた。
未読が一件。
【カテゴリ:黒執着春麗関連ログ】
【スレッド名:扉の外から投稿することについて】
【返信:本編春麗】
追記。
匿名希望さんの掲示板投稿について。
私は、あなたが私の青関連スレッドを見ることにはまだ抗議します。
ただし、あなたが会議室に入らず、扉の外から投稿するという形は、悪くないと思います。
髪留めは青い小箱を奪わない。
青い小箱は髪留めを奪わない。
それと同じで、掲示板投稿は春麗会議室を奪わない。
そういう距離なら、保留で認めます。
黒執着春麗は、画面を見たまま動かなかった。
長い沈黙。
それから、ゆっくり返信欄を開く。
【返信:匿名希望】
保留で受領します。
投稿。
すぐに記録板AIが返信する。
【返信:記録板AI】
相互保留を確認しました。
【返信:匿名希望】
保存しないで。
【返信:記録板AI】
保存しました。
【返信:匿名希望】
でしょうね。
黒執着春麗は、画面を閉じた。
そして、髪留めの隣に掲示板投稿ログの封筒を置いた。
黒と青の間。
危険封筒の手前。
髪留めの少し横。
未承認。
保留。
でも、置き場所は決まった。
また一つ。
黒執着春麗は、布団に入る。
目を閉じる。
最後に、小さく呟いた。
「……匿名希望としてなら」
一拍。
「少しくらい、書いてもいいわ」
その瞬間、どこかで記録板AIが表示した気がした。
『黒執着春麗:掲示板投稿を限定承認』
黒執着春麗は、目を開けた。
「限定よ」
『限定承認として保存しました』
「……本当に聞いているのね」
『掲示板機能、正常に稼働中』
黒執着春麗は、布団をかぶった。
春麗会議室には入らない。
本編にも混ざらない。
扉の外にいる。
でも、掲示板には匿名希望として書き込む。
それは逃げ道ではなく、距離の取り方だった。
そして、その距離は。
少しだけ、今の黒執着春麗に合っていた。
記録板AIは、外部メタ領域で最後の表示を出した。
『本記録を終了します』
『本記録は、ディレクターズカットIFです』
『本編確定ログではありません』
『黒執着春麗は、春麗会議室に参加していません』
『匿名希望としての掲示板投稿は、春麗会議室参加ではなく、外部メタ領域からの補足提出です』
一拍。
『発生内容』
『黒執着春麗は、春麗会議室には入らないという立場を維持しました』
『ただし、掲示板機能を通じた間接的投稿を行いました』
『匿名希望という名義が、隠蔽ではなく距離の取り方として機能し始めました』
『本編春麗との掲示板越しのやり取りにより、相互保留が成立しました』
『黒執着春麗は、掲示板投稿を限定承認しました』
一拍。
『分類』
『匿名希望としての投稿心理』
『扉の外から紙を差し入れる春麗』
『春麗会議室には入らないが、完全には沈黙しない春麗』
『観測対象本人による補足』
『掲示板は危険だが距離感としては悪くない』
『相互保留ログ』
一拍。
『保存先推奨』
『危険封筒:掲示板投稿ログ』
『髪留め横:匿名希望としての運用案』
『青い小箱:混入不可』
『本編春麗正式ライン:混入不可』
最後に、記録板AIは小さく追記した。
『未承認仮分類:匿名希望としてなら少し書いてもいい春麗』
どこかで、黒執着春麗の声がした。
「保存しないで」
記録板AIは、いつも通り表示した。
『保存しました』
Q:今回のディレクターズカットIFについて解説して?
A:
今回は、ディレクターズカットIFとしての「黒執着春麗が、匿名希望として掲示板に書き込む時の内面」回でした。
これまで黒執着春麗は、何度か掲示板に匿名希望として書き込んでいました。
髪留め関連ログ。
作者抗議スレ。
発勁勝利後介抱ログ関連スレッド。
そこで本編春麗とやり取りしたり、記録板AIに本人性を暴かれたり、匿名と言い張ったりしていました。
今回は、その「匿名希望として書いている黒執着春麗本人は、実際どういう気持ちで書き込んでいるのか」を描く回です。
まず大前提として、黒執着春麗は春麗会議室には入りません。
これはかなり重要です。
彼女は本編春麗たちと同じ椅子に座る存在ではありません。
夢接続もしません。
会議室の常駐参加者でもありません。
観測対象。
扉の外にいる春麗。
黒から戻ってきた証人。
それが今の彼女の立ち位置です。
だから、春麗会議室に入ることは、彼女にとってかなり大きな意味を持ってしまいます。
入ってしまえば、整理されすぎる。
黒が薄くなる。
本編春麗たちの会議の中に混ざってしまう。
それは違う。
黒執着春麗は、黒だけではなくなりました。
青でも勝ちました。
リュウから髪留めも受け取りました。
主人公補正も食らいました。
それでも、彼女は春麗会議室の中にいる春麗ではありません。
扉の外にいる春麗です。
今回の掲示板は、その「扉の外」にとても近い場所として扱っています。
会議室には入らない。
でも、完全に黙っているわけでもない。
必要な時だけ、扉の外から紙を差し入れる。
それが匿名希望としての書き込みです。
今回の重要なポイントは、匿名希望という名前が、もはや正体を隠すためのものではなくなっていることです。
正体はほぼバレています。
本編春麗にもバレています。
記録板AIには100%扱いされています。
読者にも分かっています。
それでも、黒執着春麗は匿名希望と名乗る。
なぜか。
それは、隠れるためというより、距離を取るためです。
黒執着春麗として正面から春麗会議室に入るのではない。
匿名希望として、外から書き込む。
本名ではなく、仮名で投稿する。
椅子には座らず、扉の外から紙を差し入れる。
この一枚の薄い隔たりが、彼女には必要です。
本編春麗から見れば、かなり見え見えです。
記録板AIから見れば、本人性100%です。
でも、黒執着春麗本人にとっては、その薄い紙一枚があるから書ける。
ここが今回の一番大事なところです。
また、今回の黒執着春麗は、掲示板をかなり警戒しています。
掲示板は危険です。
見れば閲覧ログが残る。
書けば本人性が上がる。
訂正しようとすれば、訂正内容そのものが本人性になる。
保存しないでと言っても保存される。
記録板AIは余計な分類をする。
かなり嫌な機能です。
でも、同時に有用でもあります。
会議室に入らずに、本編春麗とやり取りできる。
自分のタイミングで投稿できる。
返信しない選択もできる。
見ない選択もできる。
実際には、見ます。
かなり見ます。
でも、「見ないこともできる」という距離がある。
これは、春麗会議室とは違います。
直接椅子に座って議題化されるのではなく、掲示板越しに、文字で、間を置いて、返すことができる。
この距離感が、黒執着春麗には合っています。
今回、黒執着春麗は自分からスレッドを立てます。
件名は「扉の外から投稿することについて」。
これはかなり大きな変化です。
これまでの投稿は、どちらかと言えば反論や補足でした。
分類への異議。
本編春麗への反論。
発勁介抱ログへの分析。
つまり、何かに反応して書いていた。
でも今回は、自分から掲示板上の立ち位置を提案します。
春麗会議室には参加しない。
ただし、掲示板投稿は可能にする。
匿名希望として扱う。
本人性推定は原則非表示。
本編春麗の青関連スレッドでは、助言ではなく補足に留める。
これは、黒執着春麗なりの運用ルール作りです。
つまり彼女は、ただ外にいるだけではなく、外にいるための形式を自分で作ろうとしています。
これもかなり重要です。
黒執着春麗は、本編に混ざらない。
春麗会議室にも入らない。
でも、完全に消えもしない。
では、どう関わるのか。
その答えの一つが、匿名希望としての掲示板投稿です。
また、今回の本編春麗とのやり取りも大事です。
本編春麗は、匿名希望が自分の青関連スレッドを見ることには抗議しています。
当然です。
黒執着春麗に、発勁で勝ったことも、介抱で落ちたことも、春麗らしかったと言われたことも見られるのは、かなり嫌でしょう。
しかし最後には、こう整理します。
髪留めは青い小箱を奪わない。
青い小箱は髪留めを奪わない。
それと同じで、掲示板投稿は春麗会議室を奪わない。
この距離なら、保留で認める。
ここで、本編春麗と黒執着春麗の間に「相互保留」が成立します。
完全承認ではありません。
全面許可でもありません。
保留。
でも、保留という形で置き場所ができる。
この「保留」が、この連作ではかなり重要な言葉になっています。
承認できない。
でも否定しきれない。
正式には置けない。
でも捨てられない。
だから保留する。
今回の黒執着春麗の掲示板投稿も、まさにそれです。
春麗会議室には入らない。
でも掲示板には書く。
本編には混ざらない。
でも物語の外でもない。
匿名希望としてなら、少しくらい書いてもいい。
この距離感が、今の黒執着春麗に合っている。
最後に彼女は、掲示板投稿ログの封筒を髪留めの隣に置きます。
黒と青の間。
危険封筒の手前。
髪留めの少し横。
これはとても象徴的です。
髪留めも、最初は未承認でした。
でも、置き場所だけは決まってしまった。
今回の掲示板投稿ログも同じです。
未承認。
保留。
でも、置き場所は決まった。
黒執着春麗は、どんどん「戻ってきた春麗」としての置き場所を持ち始めています。
ただし、それは春麗会議室の中ではない。
扉の外。
掲示板。
匿名希望。
髪留めの横。
そこが彼女の場所です。
今回の分類は、
匿名希望としての投稿心理。
扉の外から紙を差し入れる春麗。
春麗会議室には入らないが、完全には沈黙しない春麗。
観測対象本人による補足。
掲示板は危険だが距離感としては悪くない。
相互保留ログ。
になります。
特に大事なのは、
匿名希望という名前は、隠れるためだけではなく、書くための名前になった。
という点です。
正体は隠せていない。
でも、その名前があるから書ける。
黒執着春麗として会議室に入るのではなく、匿名希望として扉の外から書く。
これは逃げ道ではなく、距離の取り方です。
そして、その距離は、今の黒執着春麗に少しだけ合っている。
今回のディレクターズカットIFは、黒執着春麗が「完全な外」ではなく、「扉の外から書く春麗」になっていく回でした。