また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
本編のIFシリーズは無関係のエピソードとなります。
夜。
本編春麗は、青い小箱を閉じた。
閉じた。
確かに閉じた。
危険封筒も開いていない。
黒執着春麗関連の保留棚にも触れていない。
記録板AIも呼んでいない。
春麗会議室にも行っていない。
今日はもう、何も受け取らない。
そう決めていた。
なぜなら、最近の自分は受け取りすぎている。
青のこと。
宿題のこと。
黒執着春麗のこと。
髪留めのこと。
外にいるなら会いに行く、という高火力断片のこと。
そして、作者への抗議メールまで送った。
十分。
今日は十分。
本編春麗は布団に入る。
「……今日は、何も来ない」
そう言った。
言ってしまった。
それがいけなかったのかもしれない。
目を閉じた瞬間。
黒が見えた。
黒。
夕方の赤に沈む黒。
揺れる裾。
古い広場。
人通りの少ない場所。
そして、誰かが立っている。
本編春麗は、布団の中で眉を寄せた。
「……待って」
これは、自分の記憶ではない。
青い小箱の中にもない。
自分の黒でもない。
黒執着春麗。
その名前が、頭に浮かんだ。
同時に、断片が流れ込む。
『理由を持って?』
女の声。
春麗の声。
でも、自分ではない。
黒執着春麗の声。
次に、リュウの声。
『戦いに来た』
本編春麗は、目を開けた。
「……何?」
部屋は暗い。
何もない。
なのに、胸の奥でその言葉が残っている。
戦いに来た。
リュウが。
黒執着春麗のところへ。
扉の外にいる春麗のところへ。
理由を持って。
本編春麗は、布団を握った。
「……また?」
また、作者がやった。
断片だけ。
詳細ではない。
全部ではない。
でも、十分すぎるほど分かる。
リュウが、黒執着春麗のもとへ行った。
しかも、理由が「戦いに来た」。
本編春麗は、深く息を吐いた。
「……ご褒美として、かなり分かっているわね」
言ってから、自分で固まった。
「違う」
違う。
評価していない。
していないはず。
これは抗議案件。
作者都合による断片受信。
高火力ログ流入。
黒執着春麗の棚の問題。
本編春麗の処理棚に無断で置かれた断片。
だから抗議。
抗議のはず。
なのに。
戦いに来た。
その一言は、黒執着春麗向けとして、かなり強い。
本編春麗は、布団を頭までかぶった。
「……もう嫌」
断片は、止まらなかった。
映像はぼやけている。
全部は見えない。
黒執着春麗の表情もはっきりしない。
リュウの顔も見えない。
ただ、声が刺さる。
『春麗がそこにいるなら、戦える』
本編春麗は、布団の中で息を止めた。
「……それは」
それは、駄目。
黒執着春麗は、扉の外にいる。
春麗会議室には入らない。
本編にも混ざらない。
本編春麗の青い小箱を奪わない。
正式回答ラインにも立たない。
その距離で存在している。
なのに、リュウは言う。
春麗がそこにいるなら、戦える。
本編春麗は、目を閉じたまま額に手を当てた。
「……強いわ」
認めたくない。
認めたくないが、強い。
外にいるなら、会いに行けばいい。
そして、そこにいるなら、戦える。
これは連続している。
リュウは、黒執着春麗を会議室へ連れてくるわけではない。
本編へ混ぜるわけでもない。
外にいる春麗を、外にいるまま相手にしている。
しかも、戦う相手として。
本編春麗は、ゆっくり起き上がった。
「……作者」
一拍。
「あなた、また見たかったのね」
返事はない。
しかし、だいたい分かる。
見たかった。
黒執着春麗の反応も。
本編春麗の反応も。
両方見たかった。
だから断片受信させた。
本編春麗は、低く言った。
「抗議権、当然あるわよね」
その瞬間、部屋の片隅に白い文字が浮かんだ。
『あります』
本編春麗は振り向いた。
「記録板AI」
『はい』
「今、即答したわね」
『今回も作者希望による断片受信のため、特別抗議メール送信権が付与されます』
「当然ね」
『ただし、断片受信は継続中です』
「止めなさい」
『不可』
「なぜ」
『作者が本編春麗の反応を見たかったためです』
本編春麗は、静かに目を閉じた。
「……正直すぎるわ」
『事実整理です』
「事実でも言い方があるでしょう」
『作者都合による黒執着春麗ご褒美ログ断片流入』
「さらに悪い」
次の断片。
黒の裾。
拳。
夕方の風。
土埃。
リュウの拳が重い。
黒執着春麗が受ける。
黒だけに縋らない。
黒を置いて、春麗で受ける。
本編春麗は、思わず息を呑んだ。
「……受けたのね」
『断片ログです』
「分かっているわ」
見えるのは細部ではない。
戦闘の全容ではない。
勝敗もまだ分からない。
ただ、断片的に分かる。
黒執着春麗は、黒い戦闘服を選んだ。
髪留めも付けている。
リュウが来た。
戦いに来た。
遠慮しない。
黒執着春麗は迎え撃った。
黒に沈んだのではない。
黒で立った。
本編春麗は、少しだけ口元を引き結ぶ。
「……いい黒ね」
言ってから、また固まる。
「違う」
『評価ログを検出』
「検出しないで」
『未保存』
「珍しいわね」
『抗議権付与中のため、保存頻度を一時抑制しています』
「常にそうしなさい」
『不可』
「でしょうね」
断片がまた来る。
『遠慮をしに来たわけじゃない』
本編春麗は、机に手をついた。
「……リュウ」
その言い方は危険。
黒執着春麗に対して、あまりにも危険。
リュウは優しくしに来たのではない。
甘やかしに来たのでもない。
戦いに来た。
遠慮をしに来たわけではない。
黒執着春麗が欲しかったものを、まっすぐ渡している。
本編春麗は、静かに顔を覆った。
「これは、黒執着春麗が削られるわ」
『はい』
「勝敗は?」
『まだ断片受信中です』
「全部は見せないのね」
『黒執着春麗本人の領域保護のため、詳細表示は制限されています』
「そこは守るのね」
『作者も一応配慮しています』
「一応、という言葉が本当に似合うわ」
次の断片は、戦闘の終わりだった。
膝をつく黒。
立っているリュウ。
リュウも限界に近い。
黒執着春麗の声。
『負けたのね』
リュウの声。
『ああ』
本編春麗は、目を細めた。
「……負けた」
『はい』
「でも、圧倒されたわけではない」
『はい』
「リュウもかなり削られていた」
『はい』
「辛勝?」
『推定:リュウ辛勝』
本編春麗は、ゆっくり息を吐いた。
「……良い勝敗ね」
また言ってしまった。
良い。
認めたくないが、良い。
黒執着春麗が勝つのもありだった。
でも、リュウが辛勝するのもかなり良い。
リュウが会いに来た。
戦いに来た。
遠慮しなかった。
そして勝った。
そのことで、リュウの「来た理由」に重みが出る。
黒執着春麗も負けたが、価値は落ちない。
本編春麗は、机に額をつけた。
「……作者、分かっているのが腹立たしいわ」
『抗議メール文面候補に追加しますか』
「追加しなさい」
『了解しました』
また断片。
リュウが手を差し出している。
黒執着春麗が、何か言っている。
『介抱禁止』
本編春麗は、少し笑いかけた。
「……分かるわ」
介抱は禁止。
それは危険。
本編春麗も、発勁勝利後の介抱ログで痛いほど知っている。
だが、黒執着春麗は続ける。
『勝者として』
一拍。
『敗者に手を貸しなさい』
本編春麗は、完全に動きを止めた。
「……うまいわね」
甘さを、戦闘後の礼儀に変換した。
介抱ではない。
勝者が敗者に手を貸す。
だから受け取れる。
それでも、手は取る。
リュウの手。
勝者の手。
戦闘後の手。
本編春麗は、額に手を当てた。
「……黒執着春麗、あなたも十分めんどくさいわ」
『同系統語彙の別ルート到達』
「今それを出さないで」
『未保存』
「助かるようで助からないわ」
最後の断片が来た。
広場の端。
少し距離を空けて座る二人。
黒執着春麗の声。
『一つまで』
リュウの声。
『来てよかった』
本編春麗は、完全に固まった。
数秒。
何も言えなかった。
そして、ゆっくり布団に倒れ込んだ。
「……駄目」
『精神HP低下を確認』
「確認しなくていい」
『これは断片だけでも高火力です』
「分かっているわ」
来てよかった。
短い。
たった一言。
でも、危険。
扉の外まで来たこと。
戦いに来たこと。
黒を見たこと。
髪留めを見たこと。
黒執着春麗と本気で戦ったこと。
辛勝したこと。
全部をまとめて、来てよかった。
それは、黒執着春麗が大被弾する。
当然。
自分のログではない本編春麗ですら、削られた。
本編春麗は、布団を握った。
「……作者」
『はい』
「抗議メール」
『作成可能です』
「今すぐ」
『了解しました』
白い画面が開いた。
【宛先:作者】
【件名:また作者希望で高火力断片を流した件について】
本編春麗は、深く息を吸った。
「書くわ」
『代筆補助を行います』
「余計な補足は禁止」
『努力します』
「禁止」
『禁止を努力します』
「本当に変わらないわね」
本編春麗は、文章を打ち始める。
作者へ。
まず最初に申し上げます。
今回も抗議対象です。
前回、黒執着春麗関連ログを断片受信した件について、私は正式に抗議しました。
その際、黒執着春麗の希望を尊重すること、私の処理棚にも限界があること、断片だけでも高火力であることを伝えたはずです。
にもかかわらず、今回また、作者希望により黒執着春麗のご褒美ログを断片受信しました。
これは、明確に再発です。
『文面評価:冷静な怒り』
「評価しないで」
『未保存』
本編春麗は続ける。
今回受信した断片は、以下です。
黒い戦闘服。
髪留め。
扉の外。
リュウ来訪。
理由を持って来たこと。
「戦いに来た」
「春麗がそこにいるなら、戦える」
「遠慮をしに来たわけじゃない」
リュウ辛勝。
勝者として手を貸すこと。
そして。
「来てよかった」
本編春麗は、そこで手を止めた。
「……並べると、さらに高火力ね」
『はい』
「はいじゃないわ」
『抗議メールとして説得力があります』
「そういう問題ではないのよ」
本編春麗は、画面に向き直る。
特に問題なのは、「来てよかった」です。
これは一言です。
短文です。
しかし、火力が高すぎます。
黒執着春麗が「一つまで」と制限したにもかかわらず、一つだけで精神HPを大きく削る発言です。
リュウの無自覚短文高火力について、作者はもっと慎重になるべきです。
また、「戦いに来た」という理由も、黒執着春麗向けに最適化されすぎています。
ただ会いに来るより危険です。
甘いだけではなく、戦う理由があるから受け取れてしまう。
この構造は非常に危険です。
本編春麗は、少し手を止める。
「……危険だけれど、正しいのよね」
『本文に入れますか』
「入れない」
『既に口頭ログとして検出』
「検出しないで」
『未保存』
「今日は本当に未保存を頑張っているわね」
『抗議権付与中です』
「常に付与してほしいわ」
本編春麗は続けた。
なお、今回のリュウ辛勝という勝敗については、悔しいですが、良い判断だと思います。
黒執着春麗を勝たせるだけでは、ご褒美として分かりやすすぎます。
一方で、リュウが圧勝すれば、彼女の価値が落ちます。
リュウが辛勝したことで、黒執着春麗は強く描かれ、同時にリュウが本気で会いに来た重みも出ています。
この判断については認めます。
本編春麗は、そこで固まった。
「……また抗議文で褒めている」
『抗議と評価が混在しています』
「前にも言われたわ」
『本編春麗の抗議メール傾向です』
「保存しないで」
『未保存』
「未保存と言われると、逆に怪しいわ」
本編春麗は、さらに書く。
ただし、だからといって、私に断片を流していい理由にはなりません。
黒執着春麗のログは黒執着春麗のものです。
彼女が扉の外で迎え撃った黒も、負けた黒も、来てよかったログも、私の青い小箱には入れません。
今回も、他春麗ログ・断片受信として扱い、保留返却予定にします。
詳細は見ません。
深掘りもしません。
ただし。
本編春麗は、そこで止まった。
ただし。
書くか。
書かないか。
書かない方が抗議文としては強い。
しかし、また嘘になる。
今回の断片は、悔しいが良かった。
黒執着春麗のご褒美として、かなり正しい。
本編春麗は、額に手を当てた。
「……本当に、作者に腹が立つわ」
『理由は』
「分かっているからよ」
『本文に反映しますか』
「反映するわ」
ただし、今回のご褒美ログが黒執着春麗にとってかなり正しかったことは認めます。
扉の外にいる彼女のところへ、リュウが会いに行く。
しかも理由は「戦いに来た」。
黒で迎え撃つ。
辛くも負ける。
それでも「来てよかった」と言われる。
これは、高火力ですが、ご褒美としては非常に適切です。
だからこそ、抗議します。
適切すぎる高火力ログを、私に流さないでください。
本編春麗は、そこで筆を止めた。
「……完璧な抗議ね」
『はい』
「異論は?」
『ありません』
「珍しいわね」
『本件については、文面が非常に本編春麗らしいです』
「それは保存していいわ」
『保存しました』
「今、保存した?」
『はい』
「抗議権付与中でも保存するのね」
『承認がありました』
「そうね……」
最後に署名を書く。
めんどくさい女と自覚する本編春麗より。
送信ボタンが表示される。
【送信しますか?】
本編春麗は、迷わず押した。
【送信完了】
数秒後。
自動返信が来た。
本編春麗は、すでに嫌な予感がしていた。
【差出人:作者側自動応答】
【件名:Re: また作者希望で高火力断片を流した件について】
本文。
ご抗議ありがとうございます。
本件について、作者は以下の通り回答します。
一、黒執着春麗のご褒美回として、リュウが扉の外へ会いに行く構造は必要でした。
二、ただ甘く会いに行くより、「戦いに来た」の方が黒執着春麗向けに適切だと判断しました。
三、勝敗は、黒執着春麗の価値を落とさず、リュウが本気で来た重みを出すため、リュウ辛勝としました。
四、「来てよかった」は、作者も入れたかったので入れました。
本編春麗は、目を閉じた。
「四番」
『はい』
「また開き直っているわね」
『はい』
返信は続いていた。
五、本編春麗の反応も見たかったため、詳細ではなく断片受信にしました。
六、本編春麗が他春麗ログを自分のものにせず、抗議しながら評価する流れは重要です。
七、今後も可能な限り配慮します。
本編春麗は、静かに画面を閉じた。
「……七番」
『はい』
「一番信用できない言葉ね」
『過去ログ上、可能な限りは高確率で破られます』
「もう定型文ね」
『標準応答です』
本編春麗は、深く息を吐いた。
怒っている。
かなり怒っている。
でも、少しだけ気が済んだ。
抗議した。
見たかっただけで流さないで、と言った。
黒執着春麗のログを自分のものにしない、と書いた。
そして、今回のご褒美がかなり適切だったことも認めた。
腹立たしい。
非常に腹立たしい。
でも、整理はできた。
本編春麗は、新しい封筒を出した。
表書き。
他春麗ログ・断片受信。
副題。
黒執着春麗ご褒美回。
その下に書く。
詳細不明。
深掘り禁止。
保留返却予定。
さらに、小さく。
リュウ辛勝。
来てよかった。
本編春麗は、その二行を見て少しだけ精神HPが削れた。
「……短いのに強い」
『短文高火力』
「保存しないで」
『保留保存』
「やっぱり保存するのね」
さらに追記する。
作者への抗議メール送信済み。
件名。
また作者希望で高火力断片を流した件について。
最後に、少し迷ってから書く。
ただし、ご褒美としてはかなり適切。
書いた。
書いてしまった。
本編春麗は、しばらくその一文を見つめた。
「……本当に悔しいわ」
『はい』
「でも、消さない」
『はい』
「消したら嘘になるから」
『はい』
「それがまた腹立たしいのよ」
『本編春麗らしいです』
「保存していいわ」
『保存しました』
夜明け前。
本編春麗は、布団に戻った。
疲れた。
非常に疲れた。
自分のログでもないのに疲れた。
黒執着春麗のご褒美ログ。
扉の外。
黒い戦闘服。
髪留め。
リュウ来訪。
戦いに来た。
リュウ辛勝。
来てよかった。
それらは、黒執着春麗のもの。
本編春麗の青い小箱には入れない。
危険封筒にも勝手には入れない。
ただ、断片として受信してしまった以上、完全に見なかったことにもできない。
だから、保留返却。
本編春麗は、目を閉じた。
「……黒執着春麗」
届かない相手へ、小さく呟く。
「ごめんなさい」
一拍。
「また見えてしまったわ」
もう一拍。
「でも、詳細は見ていない」
さらに一拍。
「あなたのログは、あなたのものよ」
そして、最後に。
「……ただし、かなり良いご褒美だったと思う」
言ってから、顔を覆った。
「これは言わなくてよかったわ」
『いいえ』
記録板AIの文字が、どこかに浮かんだ気がした。
『重要です』
「……そうね」
『保存しますか』
本編春麗は、少しだけ迷った。
そして、小さく答えた。
「保留非公開なら」
『保留非公開保存しました』
それならいい。
黒執着春麗に届かなくていい。
作者に届かなくてもいい。
自分の中だけで、保留にする。
ご褒美としては、かなり良い。
でも、自分に流すな。
その両方を抱えたまま、本編春麗は目を閉じた。
記録板AIは、白い外部メタ領域に最後の表示を出した。
『本記録を終了します』
『本記録は、ディレクターズカットIFです』
『本編確定ログではありません』
『本編春麗が、黒執着春麗のご褒美ログを断片受信した記録です』
一拍。
『発生内容』
『本編春麗は、黒執着春麗の扉の外ご褒美ログを断片受信しました』
『受信内容は、黒い戦闘服、髪留め、リュウ来訪、戦いに来た、リュウ辛勝、来てよかった等です』
『本編春麗は、作者へ抗議メールを送信しました』
『本編春麗は、他春麗ログを自分のものにしない方針を再確認しました』
『ただし、ご褒美としての適切性は認めました』
一拍。
『分類』
『他春麗ログ・断片受信』
『黒執着春麗ご褒美回断片』
『作者希望による高火力断片流入』
『本編春麗抗議メール再発』
『抗議しながら評価する春麗』
『リュウ辛勝』
『短文高火力:来てよかった』
『ご褒美としてはかなり適切』
『詳細不明』
『深掘り禁止』
『保留返却予定』
一拍。
『保存先推奨』
『ディレクターズカットIF棚:保存』
『本編春麗保留棚:保留非公開』
『黒執着春麗棚:本ログそのものは返却対象』
『青い小箱:混入不可』
『危険封筒:必要箇所のみ参照』
『本編時空:直接反映不可』
最後に、記録板AIは小さく追記した。
『未承認仮分類:本編春麗は、また抗議しながら評価した』
布団の中から、本編春麗の声がした。
「……また、って言わないで」
『再発傾向あり』
「再発とも言わないで」
『では、代替分類を提示します』
一拍。
『本編春麗:他春麗ログを奪わず、抗議しながら良さだけは認めた春麗』
少しだけ間があった。
本編春麗は、小さく言った。
「……それなら、保留で」
『保留保存しました』
その日、本編春麗は少し寝不足になった。
理由。
作者希望による高火力断片受信。
記録板AIによる備考。
『本編春麗:抗議しながら評価する春麗、再発』
本編春麗は、半分眠りながら呟いた。
「……だから、再発と言わないで」
返事はなかった。
だが、たぶん保存された。
それが、少しだけ腹立たしかった。
Q:今回のディレクターズカットIFについて解説して?
A:
今回は、黒執着春麗のご褒美ログを、本編春麗が断片受信してしまう回でした。
前回の黒執着春麗側のエピソードでは、リュウが扉の外まで会いに来て、理由を持って試合をしに来るという構造でした。
黒執着春麗にとっては、これはかなり強いご褒美です。
ただ会いに来るのではなく、戦いに来た。
この理由があるから、黒執着春麗は受け取れる。
甘さをそのまま甘さとして受け取るのではなく、試合、拳、勝敗、迎撃という形に変換できる。
だからこそ、黒執着春麗向けとしてかなり適切なご褒美でした。
今回の本編春麗は、そのログを詳細ではなく断片として受信します。
黒い戦闘服。
髪留め。
扉の外。
リュウ来訪。
戦いに来た。
春麗がそこにいるなら、戦える。
遠慮をしに来たわけじゃない。
リュウ辛勝。
勝者として手を貸すこと。
来てよかった。
断片だけです。
全容は見えていません。
黒執着春麗の細かな表情も、戦闘の全体も、本人の受け取り方も完全には見えていません。
それでも本編春麗には分かってしまいます。
これは黒執着春麗にとって、かなり良いご褒美だと。
ここが今回の本編春麗のしんどいところです。
抗議したい。
というより、抗議するしかない。
他春麗のログを勝手に受信させられている。
自分の青い小箱とは別のものを見せられている。
しかも高火力。
なので、当然抗議メールを送ります。
しかし、抗議しながら評価してしまう。
この構造が今回の核です。
本編春麗は、黒執着春麗のログを奪いません。
黒執着春麗の扉の外も、迎え撃った黒も、リュウ辛勝も、「来てよかった」も、自分のものにはしません。
青い小箱にも入れません。
本編春麗のルートには混ぜません。
けれど、良いものは良いと分かってしまう。
だから、
ご褒美としてはかなり適切。
と書いてしまいます。
この一文が、今回の本編春麗らしさだと思います。
抗議文なのに評価している。
怒っているのに、判断は正確。
腹立たしいのに、嘘はつけない。
これが本編春麗の「めんどくさい女」としての強さでもあります。
今回のリュウ辛勝という勝敗も、本編春麗は評価しています。
黒執着春麗が勝つだけなら、ご褒美として分かりやすい。
リュウが圧勝すれば、黒執着春麗の価値が落ちる。
しかし、リュウが辛勝することで、黒執着春麗の強さも残り、リュウが本気で会いに来た重みも出る。
これがかなり良いバランスです。
本編春麗はそこを見抜いてしまいます。
だからこそ腹が立つ。
作者が分かってやっているからです。
今回の「来てよかった」は、短文高火力としてかなり危険な言葉です。
たった一言です。
でも、扉の外まで来たこと、戦いに来たこと、黒を見たこと、髪留めを見たこと、本気で戦ったこと、辛勝したこと、その全部をまとめて肯定してしまう言葉です。
黒執着春麗が大被弾するのは当然です。
そして、断片だけ見た本編春麗まで削られます。
これがリュウの危険なところです。
本人はたぶん、余計なことを言っているつもりがありません。
ただ、そう思ったから言っている。
だから危険です。
今回の本編春麗は、最後に黒執着春麗へ届かない形で謝ります。
また見えてしまった。
でも、詳細は見ていない。
あなたのログは、あなたのものよ。
この一連の言葉は、本編春麗の礼儀です。
他春麗ログを受信してしまったことへの申し訳なさ。
でも、奪わないという意思。
それでも、良いご褒美だったと認める正直さ。
この三つが同時にあります。
今回の分類は、
他春麗ログ・断片受信。
黒執着春麗ご褒美回断片。
作者希望による高火力断片流入。
本編春麗抗議メール再発。
抗議しながら評価する春麗。
リュウ辛勝。
短文高火力:来てよかった。
ご褒美としてはかなり適切。
詳細不明。
深掘り禁止。
保留返却予定。
になります。
特に重要なのは、
本編春麗:他春麗ログを奪わず、抗議しながら良さだけは認めた春麗
です。
本編春麗は、黒執着春麗のログを自分のものにはしない。
でも、良いものは良いと認める。
そこに少し嫉妬もあるかもしれない。
悔しさもある。
作者への怒りもある。
でも、それでも線は引く。
この「線を引きながら評価する」ことが、今の本編春麗の成熟だと思います。
今回の回は、黒執着春麗のご褒美回そのものではなく、その余波です。
黒執着春麗のログが本編春麗へ断片的に流れ込み、本編春麗がそれをどう処理するか。
奪わない。
混ぜない。
でも、見えてしまったものとして保留する。
そして、抗議する。
ただし、評価もする。
本編春麗らしい、非常に面倒で誠実な処理回になったと思います。