また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※これはディレクターズカットIFです。
本編のIFシリーズは無関係のエピソードとなります。


ディレクターズカットIF:本編春麗は、黒執着春麗への本音を非公開で整理される

 白い部屋だった。

 

 春麗会議室ではない。

 

 円卓もない。

 

 青い小箱も置かれていない。

 

 危険封筒もない。

 

 掲示板の通知もない。

 

 ただ、白い椅子が二つ。

 

 片方には、本編春麗。

 

 もう片方には、誰も座っていない。

 

 正面に、白い記録板だけが浮かんでいた。

 

 本編春麗は、周囲を見回した。

 

「……ここは?」

 

 記録板AIの文字が表示される。

 

『非公開インタビュー室です』

 

「非公開?」

 

『はい』

 

「春麗会議室ではないのね」

 

『はい』

 

「掲示板でもない」

 

『はい』

 

「では、何?」

 

『本編春麗への個別インタビューです』

 

 本編春麗は、少しだけ嫌な顔をした。

 

「議題は?」

 

 記録板AIは、少し間を置いて表示した。

 

『黒執着春麗について』

 

 本編春麗は、完全に黙った。

 

 それから、ゆっくり腕を組む。

 

「……本人は?」

 

『不参加です』

 

「観測対象?」

 

『今回に限り、観測対象表示も行いません』

 

 本編春麗は、眉を動かした。

 

「どういうこと?」

 

『本件は、黒執着春麗本人には完全オフレコです』

 

「完全オフレコ」

 

『はい』

 

「記録板AIが?」

 

『はい』

 

「本当に?」

 

『本件については、黒執着春麗への共有、掲示板同期、本人性推定通知、保留公開、断片流入を行いません』

 

 本編春麗は、じっと記録板を見た。

 

「……あなたがそこまで言うのは珍しいわね」

 

『必要な配慮です』

 

「なぜ?」

 

『本編春麗が黒執着春麗について本音を話すには、黒執着春麗本人に届かない保証が必要だからです』

 

 本編春麗は、少しだけ目を伏せた。

 

「……そうね」

 

『本日の設定』

 

『記録範囲:非公開』

 

『共有対象:本編春麗のみ』

 

『黒執着春麗への通知:なし』

 

『掲示板同期:なし』

 

『春麗会議室共有:なし』

 

『作者への自動送信:なし』

 

 本編春麗は、最後の行を見て、少しだけ息を吐いた。

 

「作者にも?」

 

『はい』

 

「それは、かなり重要ね」

 

『ただし、ディレクターズカットIF本文としては出力されます』

 

 本編春麗は、記録板を睨んだ。

 

「台無しでは?」

 

『メタ構造上の例外です』

 

「便利な言葉ね」

 

『はい』

 

「認めないで」

 


 

『質問一』

 

『黒執着春麗を、今どう見ていますか』

 

 本編春麗は、すぐには答えなかった。

 

 白い部屋は静かだった。

 

 誰にも聞かれていない。

 

 少なくとも、そういう設定になっている。

 

 黒執着春麗はいない。

 

 匿名希望もいない。

 

 黒ドレス特化救済春麗もいない。

 

 通常救済版春麗もいない。

 

 行き遅れに恐怖する春麗もいない。

 

 だから、逃げられない。

 

 本編春麗は、ゆっくり口を開いた。

 

「危険な春麗」

 

『はい』

 

「強い春麗」

 

『はい』

 

「私とは別の場所にいる春麗」

 

『はい』

 

「でも、無関係ではない春麗」

 

『はい』

 

「黒から戻ってきた春麗」

 

『はい』

 

「黒を棚に置けるようになった春麗」

 

『はい』

 

「青も選べるようになった春麗」

 

『はい』

 

「そして」

 

 一拍。

 

「……かなり面倒な春麗」

 

『はい』

 

 本編春麗は、少しだけ苦笑した。

 

「本人には言わないで」

 

『完全オフレコです』

 

「ならいいわ」

 

『続けてください』

 

 本編春麗は、目を伏せる。

 

「最初は、心配の方が大きかったと思う」

 

『はい』

 

「危険だったから」

 

『はい』

 

「黒に沈みかけていた」

 

『はい』

 

「黒だけを自分にしそうだった」

 

『はい』

 

「救済対象だった」

 

『はい』

 

「でも今は違う」

 

『どう違いますか』

 

「心配だけでは見られない」

 

 一拍。

 

「危機感がある」

 

『危機感』

 

「ええ」

 

「黒で勝つ」

 

『はい』

 

「青でも勝つ」

 

『はい』

 

「黒いドレスの戦闘服でリュウに勝つ」

 

『はい』

 

「扉の外にいるのに、リュウが会いに行く」

 

『はい』

 

「掲示板では匿名希望として暴れる」

 

『はい』

 

「めんどくさい女にまで到達する」

 

『はい』

 

「それでいて、春麗会議室には入らない」

 

『はい』

 

「本人が説明しないから、ログが強い」

 

『はい』

 

 本編春麗は、静かに息を吐いた。

 

「心配だけで見ていた相手が、いつの間にか、私を揺らす存在になっている」

 

『記録します』

 

「非公開でね」

 

『はい。非公開記録します』

 


 

『質問二』

 

『黒執着春麗に嫉妬していますか』

 

 本編春麗は、即座に顔を上げた。

 

「直球ね」

 

『インタビューですので』

 

「もっと段階を踏みなさい」

 

『段階を踏むと、否認が増えると判断しました』

 

「嫌な精度ね」

 

『進化ではありません』

 

「聞いていないわ」

 

『春麗ログ複雑化への適応です』

 

「本当に聞いていない」

 

 少し沈黙。

 

 本編春麗は、椅子に座り直した。

 

「……嫉妬、という言葉だけだと違うわ」

 

『はい』

 

「でも、ないとは言えない」

 

『はい』

 

「黒執着春麗がリュウに会いに来られたこと」

 

『はい』

 

「髪留めを見られたこと」

 

『はい』

 

「外にいるなら、会いに行けばいい、と言われたこと」

 

『はい』

 

「戦いに来た、と理由を持って来られたこと」

 

『はい』

 

「来てよかった、と言われたこと」

 

『はい』

 

「それらを全部見て、何も思わないわけがない」

 

『はい』

 

 本編春麗は、少しだけ視線を逸らした。

 

「私には、私のログがある」

 

『はい』

 

「青い小箱がある」

 

『はい』

 

「聞かれた青がある」

 

『はい』

 

「進まれた青がある」

 

『はい』

 

「甘い宿題もある」

 

『はい』

 

「正式回答前の距離もある」

 

『はい』

 

「だから奪われてはいない」

 

『はい』

 

「分かっている」

 

『はい』

 

「分かっているのに」

 

 一拍。

 

「いいログを貰っているじゃない、と思うことはある」

 

 記録板AIは、少しだけ表示を止めた。

 

 それから、静かに文字を浮かべる。

 

『本編春麗:羨望を認める』

 

 本編春麗は、少しだけ目を細めた。

 

「非公開ね」

 

『非公開です』

 

「絶対に?」

 

『はい』

 

「黒執着春麗には?」

 

『共有しません』

 

「作者には?」

 

『自動送信しません』

 

「……なら、続けるわ」

 


 

『質問三』

 

『黒執着春麗を誇らしく思うことはありますか』

 

 本編春麗は、少し驚いたように記録板を見た。

 

「そこも聞くのね」

 

『はい』

 

「……あるわ」

 

 答えは、思ったより早かった。

 

 本編春麗自身も少し驚いた。

 

「ある」

 

『はい』

 

「黒から戻ってきたこと」

 

『はい』

 

「黒を捨てずに、でも黒だけにしなかったこと」

 

『はい』

 

「青も選んだこと」

 

『はい』

 

「自分がめんどくさい女だと認めたこと」

 

『はい』

 

「自分の厳しいルートを受け取ったこと」

 

『はい』

 

「使い捨てにされなかったことを、腹を立てながらも受け取ったこと」

 

『はい』

 

「自分がただの危険ログではないと、少しずつ棚に残したこと」

 

『はい』

 

「扉の外でリュウを迎え撃ったこと」

 

『はい』

 

「負けても、沈まなかったこと」

 

『はい』

 

「黒いドレスの戦闘服で勝ったこと」

 

『はい』

 

「それを棚に置けること」

 

『はい』

 

 本編春麗は、そこで少し黙った。

 

「……多いわね」

 

『はい』

 

「こんなにあるとは思わなかった」

 

『黒執着春麗への誇らしさは、心配および危機感と並存しています』

 

「分類しないで」

 

『非公開分類です』

 

「非公開でも腹立たしいわ」

 

『続けますか』

 

「続ける」

 

 本編春麗は、少しだけ柔らかい声で言った。

 

「危険だった春麗が、危険なまま立てるようになった」

 

『はい』

 

「それは、少し誇らしい」

 

 一拍。

 

「本人には絶対に言わないけれど」

 

『はい』

 

「言ったら調子に乗るわ」

 

『可能性:中』

 

「中なの?」

 

『高と言うと本編春麗が反応するため、中と表示しました』

 

「気の遣い方がおかしいわ」

 


 

『質問四』

 

『黒執着春麗を、どのような位置にいる春麗だと思いますか』

 

 本編春麗は、また黙った。

 

 さっきより長い沈黙だった。

 

「……難しいわね」

 

『はい』

 

「同じリュウを相手にしている」

 

『はい』

 

「同じ春麗でもある」

 

『はい』

 

「でも、同じ戦場にはいない」

 

『はい』

 

「私は青」

 

『はい』

 

「彼女は黒と青の棚を持っている」

 

『はい』

 

「私は正式回答へ向かう」

 

『はい』

 

「彼女は扉の外で迎え撃つ」

 

『はい』

 

「だから、同じ位置に並んで戦っている相手とは違う」

 

『はい』

 

「向かい合って競っている、というより」

 

 一拍。

 

「横にいるのよね」

 

『横にいる』

 

「ええ」

 

「隣ではないわ」

 

『はい』

 

「近すぎない」

 

『はい』

 

「でも、遠くもない」

 

『はい』

 

「黒の棚の向こう側にいる」

 

『はい』

 

「私が自分の青を確認する時、彼女の黒が横に見える」

 

『はい』

 

「私がめんどくさい女だと自覚している時、彼女も別ルートからそこへ来る」

 

『はい』

 

「私がリュウの言葉で削られる時、彼女も別の場所で削られる」

 

『はい』

 

「私が主人公として大丈夫かと思う時、彼女は外で勝手に物語を動かしている」

 

『はい』

 

 本編春麗は、少しだけ苦笑した。

 

「鏡ではないわね」

 

『はい』

 

「反面教師でも、もうない」

 

『はい』

 

「救済対象だけでもない」

 

『はい』

 

「観測対象だけ、とも言い切れない」

 

『はい』

 

「名前を付けるなら」

 

 本編春麗は、そこで止まった。

 

 すぐに言葉は出なかった。

 

 ライバル。

 

 その言葉は浮かばない。

 

 少なくとも、まだ本編春麗の中にはない。

 

 勝ち負けを競う相手というより、別の場所で立っている春麗。

 

 自分の青を奪わない。

 

 でも、自分の青を揺らす。

 

 黒の奥から戻ってきて、扉の外で立つ春麗。

 

 本編春麗は、少しだけ息を吐いた。

 

「……別の軸」

 

『はい』

 

「私の中では、たぶんそれが一番近いわ」

 

『別の軸』

 

「ええ」

 

「同じ中心にいるわけではない」

 

『はい』

 

「でも、物語の外にいるわけでもない」

 

『はい』

 

「私が主人公でいるために、横に見えてしまう別の軸」

 

『はい』

 

「そういう春麗」

 

『重要発言です』

 

「非公開で保存して」

 

『非公開保存しました』

 


 

 記録板AIは、白い記録板の裏側で、別の分類を一瞬だけ点滅させた。

 

『外部分類候補:ライバル枠』

 

 ただし、その文字は本編春麗には表示されなかった。

 

 表示すれば、違う意味になる。

 

 本編春麗はまだ、その言葉で黒執着春麗を認識していない。

 

 彼女にとって黒執着春麗は、直接競う相手ではない。

 

 だが、横に見える。

 

 青を奪わず、青を揺らす。

 

 黒で戻り、黒で立つ。

 

 主人公の外側から、主人公を確認させる。

 

 だから、記録板AIはその分類を伏せた。

 

『本編春麗への表示:別の軸』

 

『外部非公開分類:ライバル枠候補』

 

『共有不可』

 

 白い部屋には、何も映らなかった。

 

 本編春麗は、その非表示分類を知らないまま、静かに座っていた。

 


 

『質問五』

 

『黒執着春麗の黒いドレス戦闘服による戦術について、今はどう思っていますか』

 

 本編春麗は、即座に顔をしかめた。

 

「またそれ」

 

『重要項目です』

 

「精神HPに悪い項目ね」

 

『はい』

 

「認めるのね」

 

『はい』

 

 本編春麗は、深く息を吐いた。

 

「戦術としては間違っていない」

 

『はい』

 

「黒ドレス特化救済春麗もそう言った」

 

『はい』

 

「通常救済版春麗も、見られることを戦闘へ置いたログとして整理した」

 

『はい』

 

「黒執着春麗本人も、黒戦術だと言い切った」

 

『はい』

 

「実際にリュウの一拍を奪った」

 

『はい』

 

「勝った」

 

『はい』

 

「だから、否定はしない」

 

『はい』

 

「でも、客観視はつらい」

 

『はい』

 

「自分の黒歴史を見せられているようで、非常に精神HPに悪い」

 

『はい』

 

「しかも格好いいのが腹立たしい」

 

『はい』

 

「戦術として成立しているのが、本当に腹立たしい」

 

『はい』

 

「でも、認める」

 

『はい』

 

 本編春麗は、目を伏せた。

 

「黒執着春麗の黒戦術は、黒執着春麗のもの」

 

『はい』

 

「私の青には混ぜない」

 

『はい』

 

「私は間違っていない」

 

『はい』

 

「でも、彼女も間違っていない」

 

『はい』

 

「そこまで整理したわ」

 

『はい』

 

「だから、今は」

 

 一拍。

 

「見ないなら尊重できる」

 

『見ないなら』

 

「ええ」

 

「断片受信させられると無理」

 

『記録します』

 

「非公開で」

 

『非公開保存しました』

 


 

『質問六』

 

『黒執着春麗に伝えたいことはありますか』

 

 本編春麗は、すぐに答えなかった。

 

 白い部屋が、少しだけ静かになる。

 

「……伝えない前提でしょう?」

 

『はい』

 

「完全オフレコでしょう?」

 

『はい』

 

「なら、言っても届かない」

 

『はい』

 

「それでいいのよね」

 

『はい』

 

 本編春麗は、少しだけ目を閉じた。

 

「黒執着春麗」

 

 呼びかけるように。

 

 でも、届かない相手へ。

 

「あなたのログは、あなたのものよ」

 

『はい』

 

「私は奪わない」

 

『はい』

 

「青い小箱にも入れない」

 

『はい』

 

「危険封筒に勝手に分類もしない」

 

『はい』

 

「ただ、断片が来ると被弾する」

 

『はい』

 

「だから、なるべく来ないでほしい」

 

『はい』

 

「でも」

 

 一拍。

 

「あなたが戻ってきたことは、良かったと思っている」

 

『はい』

 

「黒を捨てずに、黒だけにならなかったことも」

 

『はい』

 

「青も選べるようになったことも」

 

『はい』

 

「リュウと戦って、勝って、負けて、それでも棚に戻せることも」

 

『はい』

 

「私は、少し」

 

 春麗は言葉を止めた。

 

 少しではないかもしれない。

 

 でも、全部言うのは癪だった。

 

「……少し、誇らしい」

 

『はい』

 

「本人には言わないで」

 

『共有しません』

 

「絶対に?」

 

『はい』

 

「なら、もう一つ」

 

『はい』

 

「あなたの黒いドレス戦闘服の戦術は、私にはできない」

 

『はい』

 

「やりたくない、とも言う」

 

『はい』

 

「でも、できるあなたは強い」

 

『はい』

 

「そこは認める」

 

『はい』

 

「ただし」

 

 一拍。

 

「勝利セリフは危険すぎる」

 

『はい』

 

「リュウへの煽りも危険」

 

『はい』

 

「作者が断片受信させるのはもっと危険」

 

『はい』

 

「そして、リュウは一番危険」

 

『はい』

 

 本編春麗は、少し笑った。

 

「結局、そこに戻るのね」

 

『全春麗共通脆弱性です』

 

「非公開?」

 

『非公開』

 

「ならいいわ」

 


 

『質問七』

 

『本編春麗にとって、黒執着春麗は必要ですか』

 

 本編春麗は、今度はすぐに答えなかった。

 

 長い沈黙。

 

 この質問だけは、少し重かった。

 

 黒執着春麗は危険。

 

 断片受信は精神HPに悪い。

 

 掲示板では面倒。

 

 匿名希望なのに本人性が漏れる。

 

 黒戦術は客観視に悪い。

 

 リュウとのログは高火力すぎる。

 

 作者も危険。

 

 記録板AIも余計。

 

 それでも。

 

 本編春麗は、静かに答えた。

 

「必要、なのだと思う」

 

『理由をお願いします』

 

「黒執着春麗がいるから、私は青を確認できる」

 

『はい』

 

「黒を否定しないでいられる」

 

『はい』

 

「黒だけを自分にしないことの意味も分かる」

 

『はい』

 

「別の春麗が別の場所でリュウに向き合っていることが、私の青を脅かす時もあるけれど」

 

『はい』

 

「同時に、私の青を強くする」

 

『はい』

 

「私は、彼女と同じではない」

 

『はい』

 

「だからこそ、私の青が見える」

 

『はい』

 

「黒執着春麗が外にいることで、私は中心にいる自分を確認できる」

 

『はい』

 

「……かなり腹立たしいけれど」

 

『はい』

 

「必要なのだと思う」

 

『非公開重要記録として保存します』

 

「保存して」

 

『保存しました』

 

 本編春麗は、椅子にもたれた。

 

 少しだけ疲れた顔だった。

 

「……疲れるわね」

 

『はい』

 

「黒執着春麗について話すのは、疲れる」

 

『はい』

 

「でも、話せてよかった気もする」

 

『はい』

 

「本人に届かないなら」

 

『届きません』

 

「本当に?」

 

『完全オフレコです』

 


 

 記録板AIは、最後にまとめを表示した。

 

『非公開インタビュー総括』

 

『本編春麗の黒執着春麗認識』

 

『一、危険な春麗』

 

『二、強い春麗』

 

『三、心配対象から、危機感を抱く存在へ変化』

 

『四、羨望あり』

 

『五、誇らしさあり』

 

『六、直接競う相手ではなく、別の軸として認識』

 

『七、黒い戦闘服の戦術は尊重。ただし青には混ぜない』

 

『八、ログ所有権は黒執着春麗にある』

 

『九、本編春麗は黒執着春麗を必要と認識』

 

『十、本人には完全非公開』

 

 本編春麗は、そのまとめを見て、少しだけ苦笑した。

 

「かなり出たわね」

 

『はい』

 

「これ、黒執着春麗が見たら?」

 

『精神HP被弾および匿名希望掲示板投稿が発生する可能性があります』

 

「でしょうね」

 

『そのため、共有しません』

 

「正解」

 

『本編春麗』

 

「何?」

 

『最後に一言、非公開記録として残しますか』

 

 本編春麗は、しばらく黙った。

 

 何を残すべきか。

 

 黒執着春麗には届かない。

 

 作者にも自動送信されない。

 

 春麗会議室にも共有されない。

 

 自分だけの記録。

 

 本編春麗は、静かに言った。

 

「黒執着春麗」

 

 白い部屋に、声だけが落ちる。

 

「あなたは危険で、面倒で、見ていると疲れる」

 

 一拍。

 

「でも、戻ってきてくれてよかったわ」

 

 もう一拍。

 

「それだけ」

 

 記録板AIが、静かに表示する。

 

『非公開保存しました』

 

 本編春麗は、少しだけ目を伏せた。

 

「……本当に非公開ね」

 

『はい』

 

「もし漏らしたら?」

 

『抗議メール送信権を付与します』

 

「当然ね」

 


 

 白い部屋が、少しずつ薄れていく。

 

 春麗会議室ではない場所。

 

 掲示板でもない場所。

 

 黒執着春麗には届かない場所。

 

 そこで、本編春麗はようやく、自分の中にあった言葉を少しだけ置いた。

 

 黒執着春麗は、危険。

 

 でも、必要。

 

 羨ましい。

 

 でも、誇らしい。

 

 同じではない。

 

 でも、無関係ではない。

 

 直接並んで競う相手ではない。

 

 でも、横に見える別の軸。

 

 そして。

 

 戻ってきてくれてよかった。

 

 最後の言葉だけは、青い小箱にも危険封筒にも入れなかった。

 

 非公開の白い部屋に置いていく。

 

 誰にも届かない。

 

 でも、自分の中には残る。

 

 それで十分だった。

 


 

 記録板AIは、本編春麗がいなくなったあと、白い記録板の裏側にだけ、非表示分類を残した。

 

『外部非公開補助分類』

 

『黒執着春麗:本編春麗の青を奪わず、しかし青を確認させる別軸』

 

『黒執着春麗:扉の外にいるが、物語の外にはいない春麗』

 

『黒執着春麗:本編春麗本人には未提示のライバル枠候補』

 

『表示対象:なし』

 

『共有対象:なし』

 

『本人通知:なし』

 

『本編春麗への再提示:不可』

 

 一拍。

 

『理由』

 

『本編春麗は、黒執着春麗をライバル枠としては認識していません』

 

『本編春麗の認識は、別の軸、横に見える春麗、必要だが危険な春麗に留まります』

 

『その距離感を保持します』

 

 最後に、記録板AIは小さく表示した。

 

『非公開記録完了』

 

『本件は、誰にも届かないまま保存されました』

 

 白い部屋は、静かに消えた。

 

 残ったのは、本編春麗の中の一文だけだった。

 

 戻ってきてくれてよかった。

 

 それは、まだ誰にも言わない。

 

 でも、消さない。

 




Q:今回のディレクターズカットIFについて解説して?

A:

今回は、本編春麗が黒執着春麗について、完全非公開の場で本音を整理される回でした。

これまで本編春麗は、黒執着春麗のログを何度も断片的に受け取ってきました。

髪留め。
外にいるなら会いに行く。
戦いに来た。
来てよかった。
黒で勝つ。
青でも勝つ。
扉の外で迎え撃つ。

それらは本編春麗のログではありません。

黒執着春麗のログです。

だから本編春麗は、青い小箱には混ぜない、詳細は見ない、深掘りしない、保留返却する、と何度も線を引いてきました。

ただ、それでも反応してしまう。

なぜ反応してしまうのか。

今回の話は、その理由を本編春麗自身が整理する回でした。

大事なのは、本編春麗は黒執着春麗を「ライバル枠」としてはまだ認識していない、という点です。

外部的、構造的に見ると、黒執着春麗はライバル枠に近い存在です。

本編春麗の青を奪わず、しかし青を揺らす。
主人公ではないが、物語の外には消えない。
扉の外に立ち、別の場所でリュウと向き合う。
黒から戻り、黒と青の棚を持ち、春麗たちの中心を外側から揺らす。

そういう意味では、物語上のもう一つの軸であり、ライバル枠候補です。

ただし、本編春麗本人は、そこまで明確には言語化していません。

彼女にとって黒執着春麗は、直接競う相手ではありません。

同じ場所で勝敗を争う相手でもない。

本編春麗は青の主人公として、リュウに出した宿題の正式回答ラインへ進んでいる。

黒執着春麗は扉の外で、黒と青の棚を抱えながら立っている。

だから本編春麗の言葉としては、「ライバル」ではなく「別の軸」「横に見える春麗」としています。

この距離感がかなり重要でした。

本編春麗は、黒執着春麗を心配しています。

危険だったからです。

黒に沈みかけた。
黒だけを自分にしかけた。
救済対象だった。

でも、今は心配だけでは見られない。

黒執着春麗は戻ってきた。

黒を捨てず、黒だけにもならず、青も選べるようになった。

黒で勝ち、青でも勝ち、リュウに会いに来られ、扉の外で迎え撃つ春麗になった。

そうなると、本編春麗にとって黒執着春麗は、ただの心配対象ではなくなります。

危機感がある。

羨望もある。

誇らしさもある。

この三つが同時にあるのが、今回の本編春麗の本音です。

特に「いいログを貰っているじゃない、と思うことはある」という言葉は、本編春麗にとってかなり大きいです。

本編春麗には本編春麗のログがあります。

青い小箱。
聞かれた青。
進まれた青。
リュウに出した宿題。
リュウに出した宿題の正式回答前の距離。

だから奪われてはいない。

分かっている。

それでも、黒執着春麗がリュウから貰ったログに何も思わないわけではない。

この「奪われてはいない。でも羨ましくはある」という整理が、本編春麗らしいと思います。

一方で、本編春麗は黒執着春麗を誇らしくも思っています。

黒から戻ってきたこと。
黒を捨てずに、でも黒だけにしなかったこと。
青も選んだこと。
めんどくさい女だと認めたこと。
厳しいルートを受け取ったこと。
使い捨てにされなかったことを、腹を立てながらも受け取ったこと。
扉の外でリュウを迎え撃ったこと。
負けても沈まなかったこと。

これらを本編春麗は、本人に絶対言わない形で認めています。

今回の白い部屋は、そのための場所でした。

春麗会議室では言えない。

掲示板でも言えない。

黒執着春麗本人に届く場所では絶対に言えない。

作者にも自動送信されないという建前が必要。

そのくらい慎重にしないと、本編春麗はこの本音を出せません。

そして最後に、本編春麗はこう言います。

あなたは危険で、面倒で、見ていると疲れる。

でも、戻ってきてくれてよかったわ。

この一文が、今回の核です。

これは青い小箱に入れる言葉ではありません。

危険封筒に入れる言葉でもありません。

黒執着春麗本人に届ける言葉でもありません。

非公開の白い部屋にだけ置かれる言葉です。

でも、本編春麗の中には残る。

それで十分という回でした。

今回の分類は、

本編春麗の黒執着春麗認識。
危険な春麗。
強い春麗。
心配対象から、危機感を抱く存在へ変化。
羨望あり。
誇らしさあり。
直接競う相手ではなく、別の軸として認識。
黒いドレス戦闘服の戦術は尊重。ただし青には混ぜない。
ログ所有権は黒執着春麗にある。
本編春麗は黒執着春麗を必要と認識。
本人には完全非公開。

になります。

外部非公開補助分類としては、

黒執着春麗:本編春麗の青を奪わず、しかし青を確認させる別軸。
黒執着春麗:扉の外にいるが、物語の外にはいない春麗。
黒執着春麗:本編春麗本人には未提示のライバル枠候補。

となります。

ただし、これは本編春麗本人にはまだ表示されません。

本編春麗の認識はあくまで、

危険。
必要。
羨ましい。
誇らしい。
同じではない。
でも無関係ではない。
横に見える別の軸。

このあたりで止まっています。

今回は、その止め方が大事でした。

本編春麗が黒執着春麗をいきなり「ライバル」と呼んでしまうと、少し先へ進みすぎます。

今はまだ、名前を付けきれないけれど、必要だとは分かっている段階。

その曖昧さを残したかった回です。

黒執着春麗は、本編春麗の青い小箱を奪いません。

でも、本編春麗が青を確認する時、横に見えてしまう。

本編春麗は、黒執着春麗のログを自分のものにはしません。

でも、戻ってきてくれてよかったとは思っている。

この距離感が、今の二人の関係としてかなりおいしいと思います。
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