また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※本編確定ではなく、断章IFです。


断章IF:本編春麗は、リュウに返事を書こうとして失敗する

 昼を少し過ぎていた。

 春麗は、机の前に座っていた。

 目の前には、青い小箱がある。

 その中には、昨日入れた紙がある。

 

 リュウに出した宿題の正式回答。

 九十九点。

 受領済み。

 まだ持てない。

 持てるようになるまで待つ。

 

 その札を付けたことで、少しだけ息はできるようになった。

 

 少しだけ。

 完全ではない。

 持てるようになったわけではない。

 ただ、置き場所ができただけ。

 

 春麗は、青い小箱を見つめた。

 

「……置き場所は、できた」

 

 一拍。

 

「でも」

 

 言葉が止まる。

 

 置き場所ができたからといって、リュウに何も返さなくていいわけではない。

 昨日、リュウは手紙をくれた。

 

 宿題の答えを考えた。

 直接話したい。

 いつもの場所で待つ。

 

 それだけの短い紙だった。

 

 飾り気もない。

 逃げ道もない。

 用件だけ。

 だからこそ、危険だった。

 

 そして、リュウは来た。

 待っていた。

 答えを持っていた。

 

 春麗が自分の言葉で変わった後。

 その春麗をどう見るのか。

 どう受けるのか。

 逃げないのか。

 次も聞いていいのか。

 

 それに、答えた。

 

 春麗は、答えを受け取った。

 

 九十九点を付けた。

 青い小箱に入れた。

 でも、まだ持てない。

 だから、待つ。

 

 それはいい。

 それでいい。

 今日のところは、それでいい。

 

 だが。

 

「……返事」

 

 春麗は、小さく呟いた。

 

 言ってしまった瞬間、胸の奥が少し熱くなる。

 

 リュウからの手紙に対する返事。

 正式回答への返事。

 それを書く。

 直接会うには、まだ危険だ。

 リュウの顔を見たら、たぶん再生される。

 

 前の春麗と比べない。

 その春麗を受ける。

 変わった後でも、次も俺に聞け。

 

 今の精神状態で、それを本人の前で再生されたら危ない。

 

 危ないというか、終わる。

 いや、終わりはしない。

 処理が落ちるだけ。

 でも、それは十分に危ない。

 だから、直接会うのはまだ早い。

 でも、何も返さないのも違う。

 

 受け取った。

 逃げていない。

 なかったことにはしない。

 それだけは、伝えておきたい。

 

 春麗は、引き出しを開けた。

 白い紙を一枚出す。

 封筒も出す。

 筆記具を置く。

 手紙を書く準備は整った。

 

 準備だけは。

 

「……書くだけよ」

 

 自分に言う。

 

「会うわけではない」

 

 一拍。

 

「手紙なら安全」

 

 もう一拍。

 

「安全ではないわね」

 

 認めた。

 

 手紙も危険だ。

 リュウの手紙で呼び出されたばかりだ。

 手紙が安全なわけがない。

 それでも、今はこれしかない。

 

 春麗は、ペンを持った。

 

 紙の上で、しばらく止まる。

 

 書き出し。

 

 そこからして問題だった。

 

 リュウへ。

 

 普通だ。

 普通すぎる。

 だが、普通でいい。

 普通に書く。

 普通に返す。

 普通でなければ、持てない。

 

 春麗は、ゆっくり書いた。

 

 リュウへ。

 

 そこで止まった。

 

「……もう危険」

 

 名前を書いただけだ。

 名前を書いただけで、昨日の場所が戻ってくる。

 

 いつもの場所。

 立っていたリュウ。

 春麗、と呼ぶ声。

 来てくれて、ありがとう。

 

 春麗は、額に手を当てた。

 

「……手紙なのに」

 

 まだ一行。

 まだ名前だけ。

 

 春麗は、深く息を吐いた。

 ペンを持ち直す。

 

 次。

 

 まずは、事実から書く。

 余計な感情ではなく、事実。

 

 答えは受け取ったわ。

 

 そこまでは書ける。

 書けるはず。

 春麗は、紙に書いた。

 

 答えは受け取ったわ。

 

 書けた。

 書けた瞬間、少し胸が詰まった。

 

 受け取った。

 

 自分で書いた。

 昨日も言った。

 青い小箱にも書いた。

 それでも、リュウに向けて書くと意味が変わる。

 これは自分への整理ではない。

 リュウへの返事だ。

 

 受け取ったわ。

 あなたの答えを。

 あなたが考えてきた答えを。

 あなたが、私のために持ってきた答えを。

 

 春麗は、ペンを置きそうになった。

 

 まだ早い。

 まだ一文しか書いていない。

 

「……次」

 

 点数。

 

 九十九点。

 

 これは書ける。

 昨日、言った。

 リュウ本人にも言った。

 春麗は、続けて書いた。

 

 九十九点。

 

 そこまでは大丈夫だった。

 大丈夫ではないが、書けた。

 

 九十九点。

 百点ではない。

 次があるから。

 リュウは、なら、次がある、と言った。

 

 春麗は、ペンを止めた。

 

「……今の再生は禁止」

 

 声に出して止める。

 止まらない。

 なら、次へ進む。

 

 次の文。

 

 まだ全部は持てない。

 

 春麗は、その言葉を頭の中で浮かべた。

 

 書くか。

 書かないか。

 ここで止まった。

 

 受け取ったことは書ける。

 点数も書ける。

 でも、まだ持てない、とリュウに書くのは別だ。

 

 それは弱さを見せることなのか。

 未処理を伝えることなのか。

 待たせることなのか。

 困らせることなのか。

 それとも、逃げていない証明なのか。

 

 春麗は、紙を見つめた。

 

 リュウへ。

 

 答えは受け取ったわ。

 

 九十九点。

 

 その下が空白。

 

 空白が、妙に重い。

 

「……ここで終わったら」

 

 一拍。

 

「どうなるのかしら」

 

 受け取ったわ。

 

 九十九点。

 

 それだけなら、綺麗だ。

 春麗らしくもある。

 採点して終わり。

 次を残して終わり。

 でも、それでは足りない。

 足りないことを、自分はもう知っている。

 

 受け取ったが、まだ持てない。

 持てるようになるまで待つ。

 その札を付けたから、息ができた。

 

 なら、それを隠したまま返事を書くのは違う。

 ただし、全部書く必要はない。

 全部は無理だ。

 全部を書こうとしたら、また落ちる。

 

 春麗は、ゆっくりペンを動かした。

 

 まだ全部は持てない。

 

 書いた。

 書いてしまった。

 その瞬間、胸の奥が大きく揺れた。

 

「……書いたわね」

 

 自分で確認する。

 

 書いた。

 まだ全部は持てない。

 リュウに向けて。

 

 春麗は、少しだけ顔を伏せた。

 

 これは危険だ。

 リュウが読めば、たぶん分かる。

 分かってしまう。

 春麗が逃げているのではなく、持てないものを持とうとしている途中だと。

 

 リュウは、そういうところだけ、妙に正確に受け取る。

 それが一番危険なのだ。

 

 春麗は、顔を上げる。

 

 次。

 でも、なかったことにはしない。

 

 これは書くべきだ。

 書かないと、前の文だけでは不安になる。

 

 まだ持てない。

 それだけだと、拒絶にも見える。

 

 違う。

 拒絶ではない。

 なかったことにはしない。

 

 春麗は書いた。

 でも、なかったことにはしない。

 

 書けた。

 少しだけ、呼吸が戻る。

 

 そうだ。

 それは本当だ。

 まだ持てない。

 でも、なかったことにはしない。

 リュウの答えを、なかったことにはしない。

 

 昨日の場所も。

 手紙も。

 九十九点も。

 次がある、も。

 その春麗を受ける、も。

 

 全部、なかったことにはしない。

 

「……全部思い出さなくていい」

 

 即座に止める。

 

 遅かった。

 頭の中で、またリュウの声が蘇る。

 

 その春麗を受ける。

 

 春麗は、ペンを強く握った。

 今は手紙を書く。

 再生する時間ではない。

 

 次の文。

 

 少し待ちなさい。

 

 これは、書ける。

 たぶん書ける。

 

 命令形だ。

 春麗らしい。

 防御にもなる。

 お願いではない。

 待って、ではない。

 

 少し待ちなさい。

 

 それなら、書ける。

 春麗は書いた。

 

 少し待ちなさい。

 

 書いた瞬間、思った。

 

 これは強い。

 かなり強い。

 リュウが読んだら、たぶん頷く。

 

 ああ、と言う。

 

 いや、手紙だから言わない。

 でも、頭の中で言う。

 春麗は、額を押さえた。

 

「……返事の想像で削られないで」

 

 難しい。

 かなり難しい。

 

 次。

 最後。

 逃げてはいないから。

 

 春麗は、ペンを止めた。

 

 ここが一番危険だった。

 

 逃げてはいない。

 

 それを書くことは、自分が逃げているように見える可能性を考えているということだ。

 それを書くことは、リュウに対して、逃げていないと伝えたいということだ。

 それを書くことは、リュウに、待っていてほしいと言わずに、待つ余地を渡すことだ。

 

 危険。

 非常に危険。

 

 春麗は、紙を見つめた。

 

 リュウへ。

 

 答えは受け取ったわ。

 

 九十九点。

 

 まだ全部は持てない。

 

 でも、なかったことにはしない。

 

 少し待ちなさい。

 

 ここで終わらせることもできる。

 

 できる。

 

 でも、終われない。

 

 なぜなら。

 少し待ちなさい、だけでは、リュウがどう受け取るか分からない。

 いや、分かる。

 リュウなら、待つ。

 それが分かるから危険なのだ。

 でも、自分から言わなければならないことがある。

 

 待たせるだけではない。

 逃げてはいない。

 

 これは、自分のためでもある。

 リュウのためでもある。

 

 春麗は、深く息を吸った。

 今度は、少しだけ吸えた。

 

 書く。

 逃げてはいないから。

 

 ペン先が紙に触れる。

 文字が生まれる。

 

 逃げてはいないから。

 

 最後の点を打った瞬間、春麗は机に突っ伏した。

 

「……」

 

 書いた。

 書けた。

 いや。

 書けたと言っていいのか。

 

 これは、返事としては短い。

 説明が足りない。

 

 どこが持てないのか。

 何をどう待ってほしいのか。

 いつまで待てばいいのか。

 次にいつ会うのか。

 何も書いていない。

 でも、今の自分にはこれ以上無理だった。

 

 春麗は、突っ伏したまま小さく言った。

 

「……失敗ね」

 

 一拍。

 

「長い返事は」

 

 もう一拍。

 

「無理」

 

 でも、短い返事は残った。

 それは失敗なのか。

 成功なのか。

 分からない。

 

 春麗は、ゆっくり顔を上げた。

 

 紙を読む。

 

 リュウへ。

 答えは受け取ったわ。

 九十九点。

 まだ全部は持てない。

 でも、なかったことにはしない。

 少し待ちなさい。

 逃げてはいないから。

 

 春麗。

 

 名前を書くか迷った。

 

 迷った末に、最後に小さく書いた。

 

 春麗。

 自分の名前。

 リュウが、最初の手紙で書いた名前。

 

 春麗へ。

 

 その返事。

 

 リュウへ。

 

 春麗。

 

 それだけで、何かが往復した気がした。

 

 春麗は、顔を伏せた。

 

「……名前だけで削れるの、やめてほしいわ」

 

 誰も答えない。

 答えなくていい。

 

 春麗は、手紙を畳もうとして、もう一度止まった。

 このまま渡すのか。

 本当に。

 これを。

 

 短すぎる。

 強すぎる。

 逃げてはいないから、などと書いている。

 少し待ちなさい、とも書いている。

 まだ全部は持てない、とも書いている。

 

 リュウは、読む。

 読むだけで済むだろうか。

 いや、読むだけだ。

 

 手紙だから。

 

 その場に自分はいない。

 

 直接の追撃はない。

 想像追撃はある。

 それは避けられない。

 

 春麗は、手紙を畳んだ。

 

 封筒へ入れる。

 封筒の表に、短く書く。

 

 リュウへ。

 

 そこで、また止まった。

 

「……手紙って危険すぎない?」

 

 今さらだった。

 今さらだが、危険すぎる。

 

 リュウはこれを昨日、自分にしたのだ。

 

 春麗へ。

 

 宿題の答えを考えた。

 直接話したい。

 いつもの場所で待つ。

 

 あれを、何の飾りもなく差し込んできた。

 

 春麗は、封筒を見つめる。

 

「……あなたも大概よ」

 

 そう言って、少しだけ笑った。

 笑えた。

 それなら、まだ完全には落ちていない。

 

 春麗は、青い小箱を開けた。

 手紙の控えを残すべきか迷う。

 控えを残す。

 残さないと、後で何を書いたか思い出して落ちる。

 残しても落ちる。

 どちらでも落ちるなら、残す。

 

 春麗は、別の紙に短く控えを書いた。

 

 リュウへの返事。

 答えは受け取った。

 九十九点。

 まだ全部は持てない。

 なかったことにはしない。

 少し待ちなさい。

 逃げてはいない。

 

 分類。

 正式回答への初回返事。

 

 一拍。

 

 状態。

 長文失敗。

 短文成立。

 

 春麗は、自分で書いて苦い顔をした。

 

「……正確ね」

 

 また記録板AIみたいな分類になってしまった。

 でも、必要だった。

 青い小箱の特別区画。

 正式回答の紙の横に、その控えを置く。

 少し離す。

 でも、見える場所に置く。

 

 春麗は、蓋を閉じた。

 

「……返事は書いた」

 

 一拍。

 

「渡せるかどうかは、別」

 

 言ってから、首を横に振る。

 

「違う」

 

 春麗は、封筒を手に取った。

 

「渡す」

 

 声は小さい。

 でも、言った。

 

「直接は無理」

 

 一拍。

 

「でも、渡す」

 

 なら、どうするか。

 昨日のリュウと同じように、扉の隙間へ差し込むのか。

 

 それは危険だ。

 かなり危険だ。

 同じ形式で返すことになる。

 往復してしまう。

 でも、手紙とはそういうものだ。

 

 来たものに返す。

 受け取ったものに、返す。

 

 春麗は、立ち上がった。

 足元は少しふわつく。

 だが、立てる。

 封筒を胸元に抱えそうになって、やめる。

 

 危険すぎる。

 普通に持つ。

 普通に。

 全然普通ではないが。

 

 春麗は、部屋の扉の前で止まった。

 外へ出る前に、一度だけ振り返る。

 青い小箱は、引き出しの中にある。

 正式回答の紙も。

 返事の控えも。

 全部、そこにある。

 

「……受け取った」

 

 一拍。

 

「まだ持てない」

 

 もう一拍。

 

「でも、返す」

 

 それだけ言って、春麗は部屋を出た。

 


 

 夕方。

 

 リュウがいつも通る道の途中。

 春麗は、少し離れた場所に立っていた。

 

 会うつもりはない。

 会えたら危険だ。

 会えなかったら、それはそれで危険だ。

 だから、会わない距離。

 ただ、手紙だけを置ける距離。

 そんな都合のいい距離があるのか。

 

 ある。

 たぶん。

 今日は、そういうことにする。

 

 春麗は、道の脇にある小さな石の上へ封筒を置いた。

 風で飛ばないように、平たい石を端に乗せる。

 

 リュウなら気づく。

 気づかなかったら。

 その時は、その時。

 いや、たぶん気づく。

 あの男は、こういう時だけ妙に気づく。

 

 春麗は、封筒を見た。

 

 リュウへ。

 

 それだけ。

 

「……これでいい」

 

 一拍。

 

「今は」

 

 背を向ける。

 このまま帰る。

 振り返らない。

 待たない。

 リュウが来るかどうかを確認しない。

 

 確認したら、会ってしまう。

 会ったら、話してしまう。

 話したら、持てないものがまたあふれる。

 

 だから、帰る。

 

 春麗は、歩き出した。

 

 三歩。

 五歩。

 七歩。

 止まりかけた。

 止まらない。

 もう少し歩く。

 

 背中が気になる。

 封筒が気になる。

 リュウが気になる。

 全部気になる。

 

 でも、今日はここまで。

 

 返事を書いた。

 置いた。

 逃げてはいない。

 

 春麗は、小さく息を吐いた。

 

「……逃げてはいない」

 

 声に出すと、少しだけ楽になった。

 そのまま、春麗は歩いていく。

 夕方の風が、青い袖を少しだけ揺らした。

 


 

 その夜。

 春麗は、青い小箱の前に座っていた。

 

 返事は置いてきた。

 

 リュウが読んだかどうかは、分からない。

 まだ確認していない。

 確認できない。

 でも、手紙はもう自分の手元にない。

 それだけは確かだった。

 

 春麗は、青い小箱を開ける。

 控えの紙を見る。

 

 正式回答への初回返事。

 

 長文失敗。

 短文成立。

 

 その下に、もう一行書き加える。

 

 直接会う前に、返した。

 

 春麗は、ペンを止める。

 それから、さらに小さく書いた。

 

 逃げてはいない。

 

 書いた瞬間、胸が少し熱くなった。

 でも、落ちなかった。

 落ちかけたが、落ちなかった。

 

 春麗は、息を吐く。

 

「……今日は」

 

 一拍。

 

「ここまで」

 

 青い小箱の蓋を閉じる。

 指先を置く。

 

「答えは、受け取った」

 

 一拍。

 

「まだ全部は持てない」

 

 もう一拍。

 

「でも、返事はした」

 

 それは、小さな一歩だった。

 正式回答を持てるようになったわけではない。

 リュウと普通に会えるようになったわけでもない。

 名前を付けられるようになったわけでもない。

 でも、無反応ではなかった。

 逃げてもいなかった。

 

 春麗は、机に突っ伏さなかった。

 今日は、突っ伏さなかった。

 

 それだけで、少し進んだ気がした。

 

 窓の外は暗い。

 リュウが返事を読んだかどうかは、分からない。

 分からないから、危険ではある。

 

 でも、今夜は確認しない。

 確認しないことも、待つことの一部だ。

 

 春麗は、静かに灯りを落とした。

 布団に入る前に、もう一度だけ青い小箱を見る。

 

「……少し待ちなさい」

 

 それは、リュウに向けた言葉だった。

 同時に、自分にも向けた言葉だった。

 

 春麗は、目を閉じる。

 

 答えを受け取った後の春麗は。

 まだ持てない答えに、短い返事だけを返した。

 

 長い返事は失敗した。

 けれど。

 逃げてはいないと、書けた。

 それだけは、確かだった。




Q:今回の断章IFについて解説して?

A:

今回は、リュウから宿題への正式回答を受け取った後、本編春麗が初めて「返事」をしようとする回でした。

前回までで、本編春麗はリュウへ出した宿題の正式回答を受け取りました。
ただし、受け取ったからといって、すぐ持てるわけではない。
正式回答は青い小箱の中に入りましたが、そこには新しく、

受領済み。
まだ持てない。
持てるようになるまで待つ。

という札が付きました。

今回のエピソードは、その次の一歩です。

つまり、

「まだ持てない」
「でも、何も返さないのは違う」
「直接会うには危険」
「だから手紙で返す」

という回になります。

リュウは手紙で春麗を呼び出しました。

宿題の答えを考えた。
直接話したい。
いつもの場所で待つ。

それはとても短い手紙でした。
だから今回は、春麗も手紙で返そうとします。
ただし、春麗の場合は、書くこと自体がもう危険です。

リュウへ。

この一文だけでも危険。

答えは受け取ったわ。

ここまでは書ける。

九十九点。

これも書ける。

ですが、そこから先が問題になります。

まだ全部は持てない。

この一文を書くかどうかで止まります。

なぜなら、これはかなり弱い部分をリュウに見せる言葉だからです。

受け取った。
でも、まだ持てない。
これは拒絶ではありません。
けれど、完全に受け入れたとも言えない。
本編春麗の今の状態を、かなり正確に表している言葉です。

さらに、
でも、なかったことにはしない。
これも大事です。

「まだ持てない」だけだと、リュウの正式回答を遠ざけているようにも見えてしまう。
でも、そうではない。

まだ持てない。
でも、消さない。
なかったことにはしない。

この二つを並べることで、春麗の今の位置が見えます。

そして今回、一番強いのは、

少し待ちなさい。
逃げてはいないから。

です。

「待って」ではなく、「少し待ちなさい」。

ここが本編春麗らしいところです。

お願いではない。
弱音だけでもない。
命令形で防御している。

でも、その実質は、

今はまだ無理。
でも、あなたの答えをなかったことにはしない。
逃げているわけではない。
だから少し待って。

という意味です。

春麗としては、かなり素直です。
素直なのに、素直に見せすぎないために「待ちなさい」という形にしています。

この回の春麗は、長い返事には失敗しています。

説明しようとすればするほど、リュウの言葉が再生されてしまう。

前の春麗と比べない。
その春麗を受ける。
変わった後でも、次も俺に聞け。
それを思い出すたびに、処理が落ちかける。
だから、長文は無理でした。
でも、短文は成立した。

この「長文失敗、短文成立」が今回の分類です。

完璧な返事ではありません。
詳細な説明でもありません。
いつ会えるのかも書いていない。
どれくらい待ってほしいのかも書いていない。

けれど、

受け取った。
九十九点。
まだ全部は持てない。
なかったことにはしない。
少し待ちなさい。
逃げてはいない。

ここまで書けた。

それは、本編春麗にとってかなり大きい一歩です。
また、今回の手紙は「直接会う前に返した」という点も重要です。
前回のリュウは、手紙で春麗を呼び出しました。
今回の春麗は、手紙でリュウに返しました。
これで、手紙が一往復しました。
春麗へ。
リュウへ。

この往復が生まれたこと自体が、かなり本編らしい進展です。
ただし、春麗は直接渡しません。
それはまだ危険だからです。

リュウに会ったら、また正式回答が再生される。
リュウの顔を見たら、たぶん話してしまう。
話したら、まだ持てない答えがあふれる。
だから、会わない距離で手紙だけを置く。
これは逃げているようにも見えますが、春麗自身は「逃げてはいない」と書いています。

この差が大事です。
会わないことが逃げとは限らない。
今は会わない。
でも、返事はする。
正式回答をなかったことにはしない。

これは、正式回答後の春麗ができる、精一杯の前進です。

最後に青い小箱へ控えを入れるところも重要です。

正式回答への初回返事。
長文失敗。
短文成立。
直接会う前に、返した。
逃げてはいない。

この分類が、春麗の中に残ります。

今後、リュウと会う時、この返事が間に入っていることになります。
つまり、次に会う時の春麗は、正式回答を受け取っただけの春麗ではありません。
正式回答に対して、自分の言葉で返事をした春麗です。

これはかなり大きな違いです。

今回の分類は、

本編春麗:リュウの正式回答に対し、長文での返事には失敗したが、短い手紙で「受け取った」「まだ持てない」「逃げてはいない」と返した春麗

になります。

本編春麗は、まだ正式回答を持てていません。
でも、無反応ではありません。
逃げてもいません。
直接会うにはまだ危険。
けれど、手紙なら返せた。

これはとても小さな一歩ですが、正式回答後の本編春麗にとっては、かなり大きな一歩だったと思います。
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