また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
朝。
春麗は、青い小箱の前に座っていた。
蓋は閉じている。
今日は、開けない。
開ける用事はない。
正式回答の紙も見ない。
自分が返した手紙の控えも見ない。
普通に会う練習ログも、用事がなくても会えた青も、読み返さない。
ただ、そこにある。
それだけでいい。
春麗は、青い小箱から視線を外した。
今日は、試合をする予定ではない。
リュウと会う予定もない。
何かを確認する日でもない。
けれど、外には出る。
昨日までの自分なら、その時点でまた何かのログにしたかもしれない。
でも、今日は名前をつけない。
名前をつける前に、身体を動かす。
春麗は立ち上がり、衣装の前に立った。
青武道服がある。
黒いドレスがある。
黒でも青でもない普段着もある。
視線は、自然に黒いドレスへ向かった。
黒。
黒いドレスの戦闘服。
黒を着れば、戦い方が変わる。
間合いが変わる。
視線の使い方が変わる。
言葉の置き方が変わる。
リュウにどう見られるかまで、最初から計算に入る。
それは、自分の一部だ。
捨てたわけではない。
怖くなって避けているわけでもない。
なかったことにしたわけでもない。
春麗は、そこまで考えて、少しだけ息を止めた。
違う。
今日はそこまで考える日ではない。
黒を否定する日でもない。
黒を選ぶ日でもない。
ただ、今の自分が何を着て外へ出るか。
それだけ。
春麗は、青武道服へ手を伸ばした。
指先が布に触れる。
青。
戻って選び直した青。
見られた青。
進まれた青。
勝った青。
まだ正式回答を全部は持てない自分が、それでもリュウと普通に会い、ただ会っただけで帰ってこられた青。
春麗は、青武道服を手に取った。
「……今日は、青」
小さく言う。
一拍。
「黒をやめたわけじゃない」
誰も聞いていない。
でも、先に言っておきたかった。
自分に。
春麗は、青武道服へ着替えた。
鏡の前に立つ。
鏡に映っているのは、戦うためだけの春麗ではない。
リュウから宿題への正式回答を受け取った春麗。
まだ全部は持てない春麗。
普通に会う練習をした春麗。
何も用がない日に、ただ会えた春麗。
そして今日、黒を捨てずに青を着ている春麗。
「……面倒ね」
自分で言って、自分で苦笑する。
青を着るだけで、ここまで考える。
黒を見ただけで、ここまで整理が走る。
めんどくさい。
かなりめんどくさい。
でも、今はそれでいい。
春麗は、部屋を出た。
外は、少しだけ明るかった。
朝の空気が残っている。
まだ暑すぎない。
人も多すぎない。
歩くにはちょうどいい。
春麗は、いつもの道を歩いていた。
修行場へ向かっているわけではない。
そう言い切るには、少しだけ道が近い。
だが、今日は試合をしない。
手合わせもしない。
確認もしない。
そう決めている。
昨日、何も用がない日に会えた。
なら、今日はもっと普通に歩けるはず。
その考えが出た時点で、すでに普通ではない気もする。
春麗は、内心でため息をついた。
「……普通って、本当に難しいわね」
小さく呟く。
その時、前方に人影が見えた。
リュウだった。
いつもの道着。
いつもの歩幅。
いつもの顔。
春麗は、少しだけ足を緩めた。
会う予定はない。
だが、驚きは昨日ほどではなかった。
名前を呼べる。
挨拶もできる。
たぶん。
リュウも春麗に気づいた。
足を止める。
「春麗」
「リュウ」
名前を返す。
それだけ。
春麗は、少しだけ呼吸を整えた。
リュウの視線が、春麗を見る。
顔。
肩。
腕。
青武道服。
そこで、ほんの少しだけ止まった。
春麗は、その止まり方に気づいた。
気づいてしまった。
リュウは、何気なく言った。
「今日は青なんだな」
胸の奥が、少し削れた。
強い言葉ではない。
責めているわけでもない。
問い詰めているわけでもない。
ただ、見たままを言っただけ。
今日は青なんだな。
それだけ。
それだけなのに、春麗の中で、黒が揺れた。
黒を捨てたわけではない。
黒を避けているわけでもない。
黒を失ったわけでもない。
黒は、まだある。
自分の中にある。
棚にもある。
戦い方にもある。
リュウを見返す時の距離にもある。
でも、今は青。
今は、青でいたい。
黒でリュウを揺らすのではなく。
黒で自分を強く見せるのでもなく。
黒で半拍を奪うのでもなく。
今は、青で。
リュウが見ている青で。
その先へ。
そこまで考えて、春麗は内側で止まった。
危険。
今のは危険。
そこまでは言えない。
まだ言ってはいけない。
言えば、青い小箱が開く。
正式回答の横にある紙が全部揺れる。
黒も青も、同時に持とうとして落ちる。
春麗は、短く息を吸った。
リュウは、ただこちらを見ている。
続けようとはしていない。
だが、聞きたいのかもしれない。
最近、黒ではないんだな。
そう言おうとしたのかもしれない。
なぜ黒ではないのか。
そう聞こうとしたのかもしれない。
春麗は、先に線を引いた。
「黒をやめたわけじゃないわ」
言った。
思ったより、まっすぐ声が出た。
リュウは、少しだけ頷いた。
「ああ」
それだけ。
春麗は、少しだけ肩の力を抜いた。
受けられた。
否定されなかった。
聞き返されなかった。
黒ではない理由を掘られなかった。
それだけで、少し助かった。
だが、まだ足りない。
黒をやめたわけではない。
それだけでは、今の青の説明にはならない。
春麗は、視線を少しだけ逸らした。
「黒を避けているわけでもない」
「ああ」
「黒が怖くなったわけでもない」
「ああ」
「黒を失ったわけでもない」
「ああ」
リュウは、すべて短く受けた。
余計なことは言わない。
春麗は、それにまた少し削られる。
短い受け方が、今は助かる。
助かるから、危険だ。
春麗は、拳を軽く握った。
「でも」
一拍。
「今は、青でいたいの」
言えた。
核心の手前まで。
そこまで。
春麗は、それ以上言わなかった。
あなたが見ている青の先へ。
リュウから正式回答を受け取った後の自分で。
まだ全部は持てないまま。
でも、黒ではなく青で。
その先へ行きたい。
それは、言わない。
言えない。
まだ危険すぎる。
春麗は、内側で青い小箱の蓋を押さえるように息を整えた。
リュウは、春麗を見ていた。
しばらく黙っていた。
そして、静かに言った。
「そうか」
それだけだった。
春麗は、止まった。
そうか。
聞かない。
詰めない。
なぜ、と言わない。
黒をやめたのか、とも言わない。
青でいたい理由を求めない。
ただ、そうか。
それで止まる。
それが、かなり効いた。
胸の奥に、静かに落ちる。
落ちた。
でも、倒れない。
春麗は、ゆっくり息を吐いた。
「……そうよ」
「ああ」
「今日は、それ以上聞かないで」
「ああ」
「黒の話も、ここまで」
「ああ」
「青の話も、ここまで」
「ああ」
「今、何か言いたそうな顔をした?」
「していないと思う」
「思う、なのね」
「ああ」
春麗は、少しだけ目を細めた。
「なら、禁止」
「分かった」
リュウは、それ以上言わなかった。
春麗は、少しだけ歩き出した。
リュウも、少し離れて並ぶ。
青武道服の袖が、歩くたびに揺れる。
黒ではない。
でも、黒を捨てていない。
今は青。
それだけが、リュウに伝わった。
二人は、少しだけ歩いた。
会う予定はない。
試合の予定もない。
だが、昨日と同じように、会って歩いている。
ただし今日は、春麗が青武道服を着ている。
その違いがある。
春麗は、前を見たまま言った。
「今日は、試合をするために青を着たわけじゃないから」
「ああ」
「青武道服だからといって、手合わせするわけでもない」
「ああ」
「構えないで」
「構えていない」
「気配で構えないで」
リュウは、少しだけ考えた。
「気配もか」
「気配もよ」
「分かった」
春麗は、少しだけ息を吐いた。
こういうやり取りは、少し楽だった。
楽。
危険な言葉。
でも、完全に危険ではない。
最近のリュウは、高火力を抑えている。
踏み込まない。
待つと言わない。
正式回答を持ち出さない。
それでいい、と言いすぎない。
ただ、こちらの線を受けている。
それが、青のまま歩くには助かる。
春麗は、ちらりとリュウを見る。
リュウは、何も言わない。
本当に何も言わない。
だが、先ほどの一言だけは残っている。
今日は青なんだな。
あの一言は、リュウが自分を見ているという事実でもあった。
黒ではないことに気づいた。
青であることに気づいた。
最近の春麗が何を着ているか、見ている。
それが、少し怖い。
少し嬉しい。
嬉しい、とは言わない。
春麗は、内心でその言葉を折り畳んだ。
「……あなた」
「何だ」
「見ているのね」
言ってしまった。
春麗は、すぐに後悔した。
何を言っているのか。
今日は黒の理由も、青の理由も、ここまでにするはずだった。
なのに、自分から踏み込んだ。
リュウは、春麗を見る。
「ああ」
それだけ。
それだけなのに、春麗の胸の奥がまた削れる。
「今のは、聞かなかったことにして」
「分かった」
「分かった、も危険なのよ」
「そうか」
「そうか、も危険」
リュウは、少しだけ困ったように黙った。
春麗は、その沈黙に少し救われた。
そして、自分で言った。
「沈黙は、今日は許可するわ」
「ああ」
「短い返事も、今日は許可する」
「ああ」
「ただし、青についての追加感想は禁止」
「ああ」
「黒についての質問も禁止」
「ああ」
「私が黒をどう思っているかの確認も禁止」
「ああ」
「私が青をどう思っているかの確認も禁止」
「ああ」
春麗は、そこで少しだけ自分に呆れた。
禁止事項が多い。
めんどくさい。
本当にめんどくさい。
でも、必要だった。
今の自分は、黒の話も、青の話も、雑に扱えない。
だから線を引く。
線を引けば、歩ける。
線を引けば、リュウと会える。
線を引けば、青でいられる。
春麗は、前を見た。
「……面倒で悪いわね」
言ってから、また後悔した。
これは、かなり自覚的な言葉だった。
リュウは、少しだけ考えた。
そして言った。
「悪くない」
春麗は、足を止めた。
危険。
非常に危険。
悪くない。
面倒で悪いわね、に対して、悪くない。
それは駄目だ。
かなり駄目だ。
春麗は、ゆっくりリュウを見る。
「今のは、追撃に近いわ」
「そうか」
「そうよ」
「すまない」
「謝らない」
「ああ」
リュウは、本当にそれ以上言わなかった。
春麗は、胸の奥を押さえそうになって、やめた。
ここで押さえたら負ける気がした。
何に負けるのかは、まだ分からない。
ただ、今日は倒れない。
黒を捨てていない。
今は青でいたい。
それだけを伝えた。
それで十分だ。
道の途中で、春麗は足を止めた。
ここから先へ行けば、修行場に近づく。
今日は行かない。
試合をしない。
青武道服を着ていても、戦わない。
春麗は、リュウに向き直った。
「今日はここまで」
「ああ」
「黒の話はここまで」
「ああ」
「青の話もここまで」
「ああ」
「私は黒をやめたわけじゃない」
「ああ」
「でも、今は青でいたい」
「ああ」
「それだけ」
リュウは、春麗を見た。
そして、静かに頷いた。
「分かった」
春麗は、少しだけ息を止めた。
分かった。
それで終わる。
その終わり方が、今はとても助かった。
春麗は、視線を少し伏せる。
「……助かるわ」
言ってから、すぐに顔を上げた。
「今のは、会話上の便宜として」
「ああ」
「深く取らない」
「ああ」
「記憶もしすぎない」
「それは難しい」
春麗は、止まった。
リュウも止まった。
しまった。
来た。
高火力ではない。
だが、油断していたところへ来た。
記憶もしすぎない。
それは難しい。
春麗は、胸の奥が落ちるのを感じた。
何を記憶するつもりなのか。
青でいる春麗か。
黒をやめたわけではないと言った春麗か。
今は青でいたいと言った春麗か。
助かるわ、と言ってしまった春麗か。
全部、危険。
全部、危険すぎる。
春麗は、一歩下がった。
「……今日は、ここまで」
「ああ」
「本当にここまで」
「ああ」
「今の発言は保留」
保留。
黒執着春麗みたいで嫌だと思った。
だが、今は便利だった。
リュウは、少しだけ頷いた。
「分かった」
「分かりすぎないで」
「ああ」
春麗は、背を向けた。
「帰るわ」
「ああ」
「追ってこない」
「ああ」
「青について何も言わない」
「ああ」
「黒についても何も言わない」
「ああ」
「記憶についても、もう何も言わない」
「ああ」
春麗は、歩き出した。
背中にリュウの視線を感じる。
でも、呼ばれない。
止められない。
待つとも言われない。
それが、今日は助かった。
春麗は、青武道服の袖を軽く握った。
黒を捨てたわけではない。
黒を避けているわけでもない。
でも、今は青でいたい。
言えた。
核心までは言っていない。
でも、少しだけ言えた。
それを持って帰る。
今日は、それで十分だった。
部屋に戻ると、春麗は扉を閉めた。
青武道服のまま、しばらく立っていた。
倒れていない。
突っ伏してもいない。
精神は削れている。
だが、残っている。
これは重要だ。
春麗は、机へ向かった。
青い小箱の前に座る。
今日は開けないつもりだった。
でも、また新しい紙を入れる必要がある。
最近、青い小箱が忙しすぎる。
春麗は、自分で少し呆れた。
「……本当に面倒ね」
それでも、蓋を開けた。
リュウから受け取った正式回答の紙は見ない。
自分が返した手紙の控えも見ない。
普通に会う練習ログも、用事がなくても会えた青も、深く読まない。
ただ、その横に新しい紙を置く。
春麗は、ペンを取った。
書く。
黒ではない理由を聞かれかけた日。
一拍。
リュウに「今日は青なんだな」と言われた。
黒をやめたわけではない、と伝えた。
黒を避けているわけでも、失ったわけでもない、と伝えた。
でも、今は青でいたい、と言った。
核心は言っていない。
あなたが見ている青の先へ、とは言っていない。
言えなかった。
まだ危険。
リュウは、踏み込まなかった。
そうか、とだけ返した。
分かった、とだけ受けた。
少しだけ、助かった。
ただし、記憶しすぎない、は失敗。
リュウは、難しいと言った。
春麗は、そこまで書いてペンを止めた。
難しい。
あの言葉は、かなり危険だった。
だが、今日は主題ではない。
今日は、黒の話。
いや。
黒を捨てずに青でいた話。
春麗は、紙の下に分類を書いた。
黒を捨てずに青でいた日。
書いた。
書いてしまった。
その一文を見て、胸の奥が少しだけ熱くなる。
黒を捨てずに。
青でいた。
リュウに、それだけは伝わった。
でも、青を選んでいる理由の核心はまだ話していない。
その距離が、今日の自分には必要だった。
春麗は、新しい紙を青い小箱の中に置いた。
用事がなくても会えた青の隣。
少しだけ間を空けて。
でも、同じ場所へ。
青い小箱の中で、日常接続ログが少しずつ増えていく。
正式回答を持てないままでも。
リュウと会える。
ただ会える。
黒を捨てずに青でいられる。
全部は言えない。
でも、少しずつ言える。
春麗は、蓋を閉じた。
指先を置く。
「黒をやめたわけじゃない」
一拍。
「でも、今は青でいたい」
もう一拍。
「それだけ」
声に出すと、少しだけ落ち着いた。
本当は、それだけではない。
それだけではないことを、自分が一番よく知っている。
でも、今日はそれだけにする。
春麗は、鏡の前に立った。
青武道服の自分が映っている。
黒ではない。
でも、黒を捨ててはいない。
青だけでもない。
でも、今は青でいたい。
「急がない」
一拍。
「でも、逃げない」
もう一拍。
「今日は、黒を捨てずに青でいられた」
その言葉は、今の本編春麗には十分だった。
青い小箱の中で、新しい紙が静かに増えた。
黒を捨てずに青でいた日。
それは、用事がなくても会えた青の次に置かれる、小さくて、かなり危険な一歩だった。
Q:今回の断章IFについて解説して?
A:
今回は、本編春麗が「最近、黒ではない理由」に触れられかける回でした。
まず、ここで言う「黒」について少し整理しておきます。
この連作における黒は、魔法の属性や特殊能力という意味ではありません。
黒ドレス、黒い戦闘服、黒を着た時の春麗の戦い方、見られ方、言葉の置き方、距離の取り方をまとめた呼び方です。
黒を着る春麗は、ただ服を変えているだけではありません。
相手にどう見られるか。
どのタイミングで踏み込ませるか。
どの距離で止めるか。
どの言葉で相手の呼吸をずらすか。
自分の女性としての見え方まで、戦闘の一部として使うか。
そういうものまで含めて、黒です。
つまり黒は、春麗にとって「戦闘服」でもあり、「戦術」でもあり、「自分の一部」でもあります。
だからこそ、リュウに何気なく「今日は青なんだな」と言われただけで、春麗の中ではかなり大きな整理が走ります。
リュウは、ただ見たままを言っただけです。
責めているわけではありません。
黒を着ない理由を問い詰めているわけでもありません。
けれど、春麗にとっては危険です。
なぜなら、黒を着ていないことには意味があるからです。
黒を捨てたわけではない。
黒を避けているわけでもない。
黒を失ったわけでもない。
黒はまだ春麗の中にある。
黒を使う自分も、黒でリュウを揺らす自分も、黒で距離を支配する自分も、なかったことにはしていない。
でも、今は青でいたい。
今回、春麗がリュウに言えたのは、ここまでです。
「黒をやめたわけじゃないわ」
「でも、今は青でいたいの」
この二つだけです。
本当は、その先にもっと大きな理由があります。
リュウが見ている青。
戻って選び直した青。
正式回答を受け取った後の春麗が、それでもリュウと普通に会い、ただ会っただけで帰ってこられた青。
黒を通ったあとで、改めて選び直している青。
でも、そこまではまだ言えません。
「あなたが見ている青の先へ」
その核心は、まだ春麗には危険すぎます。
ここで全部話してしまうと、黒と青と正式回答を一度に持とうとしてしまう。
今の春麗には、まだそれは重い。
だから今回の到達点は、もっと手前です。
黒を捨てたわけではないこと。
でも、今は青でいたいこと。
それだけをリュウに伝える。
リュウも、今回は踏み込みません。
「そうか」
「分かった」
それだけで受けます。
このリュウの抑え方も大事でした。
ここでリュウが「なぜだ」と聞いてしまうと、春麗はまだ言えないところまで説明しなければならなくなります。
でも、リュウは聞かない。
見ている。
気づいている。
けれど、掘らない。
今の春麗には、その距離が必要です。
今回の分類は、
黒を捨てずに青でいた日
です。
これはかなり重要なログだと思います。
前回までの春麗は、正式回答後に普通に会う練習をして、さらに何も用がない日にリュウと会うことができました。
今回は、その次です。
ただ会うだけではなく、青武道服の自分をリュウに見られる。
そして、黒ではないことに気づかれる。
そのうえで、黒を捨てたわけではないと伝える。
でも、青を選んでいる理由の核心までは話さない。
つまり春麗は、少しずつリュウに自分の現在地を見せています。
全部は見せられない。
でも、何も見せないわけではない。
少しだけ言う。
今日はここまで、と線を引く。
その線をリュウが受ける。
この積み重ねが、今の本編春麗の進み方です。
本編春麗は、本当にめんどくさいです。
青を着るだけでも、黒の意味が走る。
リュウに「今日は青なんだな」と言われるだけで、黒を捨てたのか、避けているのか、失ったのか、今は青でいたいのか、という整理が始まる。
でも、そのめんどくささは、逃げではありません。
黒を雑に扱わないため。
青を軽く選ばないため。
リュウに見られている自分を、少しずつ受け取るため。
そのための手順です。
今回の春麗は、黒を否定しませんでした。
黒を封印したわけでもありません。
黒はある。
でも、今は青でいたい。
その一文を言えたことが、今回の小さくて大きな前進です。
黒を捨てずに青でいた日。
これは、用事がなくても会えた青の次に置かれる、本編春麗の日常接続ログです。
まだ全部は言えない。
でも、少しずつ言える。
今の本編春麗には、それで十分だと思います。