また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※本編確定ではなく、断章IFです。


断章IF:本編春麗は、会いたい相手の連絡先を知らない

 正式回答を受け取った後。

 春麗は、三度リュウに会った。

 

 一度目。

 

 正式回答をまだ持てない自分のまま、普通に会う練習をした。

 試合はしなかった。

 手合わせもしなかった。

 少し歩き。

 少し話し。

 リュウが言葉を抑えていることに気づき。

 楽ではない。

 けれど、会えないほどではないと伝えた。

 

 二度目。

 

 何も用がない日に会った。

 試合の予定もない。

 正式回答について確認するつもりもない。

 青い小箱を開く理由もない。

 それでも外へ出て。

 道の向こうから来たリュウと会った。

 ただ会った。

 それでいいと、リュウは言った。

 

 三度目。

 

 春麗は、青い武道服を着て外へ出た。

 黒を捨てたわけではない。

 黒を怖がって避けたわけでもない。

 それでも。

 今は青でいたかった。

 その日に。

 またリュウと会った。

 リュウは、春麗が青を着ていることに気づいた。

 理由を聞きかけ。

 だが。

 春麗がまだ全部を言えないことを知ると、それ以上踏み込まなかった。

 

 三度とも。

 待ち合わせはしていない。

 日時を決めていない。

 リュウの予定も聞いていない。

 春麗の予定を、リュウが知っていたわけでもない。

 

 電話番号も知らない。

 住所も知らない。

 旅先も知らない。

 

 それでも。

 会えた。

 

 正式回答を受け取る以前から。

 二人は、そうして会ってきた。

 

 春麗が試合をしたいと思えば。

 いつもの場所にリュウがいた。

 

 リュウが先にいなくても。

 少し待てば現れた。

 

 必要な時に。

 必要な場所で。

 物語が、二人を会わせていた。

 

 だから。

 

 三度目に会った後も。

 春麗は、まだ気づいていなかった。

 

 自分たちが。

 会うための方法を。

 何一つ持っていないことに。

 


 

 正式回答後、四度目。

 

 春麗は仕事を終えた後。

 いつもの場所へ向かった。

 

 試合をするつもりはない。

 正式回答について話すつもりもない。

 黒と青の続きを説明するつもりもない。

 

 今日は。

 少し顔を見る。

 もしリュウが食事をしていなければ。

 一緒に何か食べる。

 それだけでよかった。

 

 会いたい。

 

 その感情を。

 春麗は、もう完全には知らないふりをできなかった。

 

 青い小箱の中には。

 誰にも見せていない紙がある。

 

 好意。

 青の蓄積。

 次に向き合う理由。

 

 未承認。

 保留保存。

 

 だから。

 今日ここへ来た理由を。

 試合や宿題に置き換える必要はなかった。

 

 会いたかったから。

 ただ、それだけ。

 

 春麗は、いつもの場所へ着いた。

 だが。

 リュウはいなかった。

 

 春麗は周囲を見た。

 

 白い道着はない。

 修行をしている音もない。

 地面に新しい足跡はある。

 

 けれど。

 リュウのものかどうかは分からない。

 春麗は時計を見た。

 

 まだ早い。

 少し待てば来るかもしれない。

 

 これまでなら。

 来た。

 

 春麗は待った。

 

 十分。

 二十分。

 三十分。

 

 誰も来なかった。

 

「……今日は、少し遅いのかしら」

 

 誰もいない場所へ言った。

 返事はない。

 

 さらに十五分待った。

 それでも。

 リュウは来なかった。

 

 春麗は。

 待っていたわけではないという顔をして。

 

 その場を離れた。

 


 

 翌日。

 春麗は、前日より早い時間に向かった。

 リュウは、早朝から修行していることがある。

 夕方では遅かったのかもしれない。

 その程度の仮説だった。

 

 いなかった。

 

 さらに翌日。

 春麗は出勤前に足を運んだ。

 

 朝靄が残る時間。

 以前なら。

 白い道着の背中が見えてもおかしくない場所だった。

 

 いなかった。

 

 地面にも。

 その朝、誰かが修行した形跡はなかった。

 

 春麗は時計を確認した。

 仕事へ遅れるわけにはいかない。

 

「……今日は、ここではないのね」

 

 誰もいない場所へ言い残し。

 春麗は職場へ向かった。

 

 その日の業務中。

 春麗は、一度だけ手を止めた。

 

 リュウは。

 今、どこにいるのか。

 

 そこで。

 初めて。

 当たり前の疑問が浮かんだ。

 

 春麗は、リュウの行き先を知らない。

 次にどの街へ向かうのか。

 どの大会へ出るのか。

 どこの道場へ立ち寄るのか。

 

 いつ、この街へ戻るのか。

 何も知らない。

 

 春麗は、机の上の書類を見つめた。

 そこまでは。

 以前から分かっていた。

 

 リュウは旅をしている。

 決まった住居を持たない。

 同じ場所へ長く留まらない。

 

 問題は。

 それだけではなかった。

 

 春麗は。

 リュウの電話番号を知らない。

 手紙を送る住所を知らない。

 伝言を預ける相手を知らない。

 そもそも。

 リュウに伝言を預けられる相手がいるのかさえ知らない。

 

 そして。

 春麗の電話番号も。

 住所も。

 リュウへ渡していない。

 

 会いたいと伝える方法が。

 何もない。

 

 春麗は。

 しばらく動かなかった。

 

「……嘘でしょう」

 

 声が漏れた。

 正式回答を受け取った。

 その返事も渡した。

 

 普通に会う練習をした。

 何も用がない日にも会った。

 青でいる理由を聞かれかけた。

 リュウの言葉で。

 何度も精神を削られた。

 それなのに。

 電話番号一つ知らない。

 

 春麗は額へ手を当てた。

 

「私たち…今まで、どうやって会っていたのよ」

 

 答えは。

 分かっている。

 

 偶然。

 主人公補正。

 物語上の都合。

 春麗が会う必要がある時。

 リュウはそこにいた。

 

 会うための手順など。

 二人とも考える必要がなかった。

 

 春麗は。

 三度会えたことを。

 正式回答後も関係が切れていない証明だと思っていた。

 

 それは間違いではない。

 持てないままでも会えた。

 用事がなくても会えた。

 青でも会えた。

 どれも大切な事実だった。

 

 けれど。

 

 会えた理由については。

 何一つ確認していなかった。

 

 三度とも。

 春麗が行けば、リュウがいた。

 それだけ。

 

 春麗は。

 会えることを確認したつもりで。

 物語がまだ二人を会わせてくれることしか、確認していなかった。

 


 

 その翌日。

 春麗は、公開されている格闘大会の予定を調べた。

 業務用の照会端末は使わない。

 公に閲覧できる情報だけ。

 大会運営へ問い合わせる時も。

 捜査官の肩書は使わなかった。

 

「リュウという選手の、今後の出場予定を確認したいのですが」

 

『現在、公表されている出場予定はありません』

 

「過去に登録された連絡先は?」

 

『個人情報ですので、お答えできません』

 

「そう」

 

 当然の回答だった。

 春麗も、それ以上は求めなかった。

 電話を切る。

 卓上に置かれた受話器を見つめる。

 

 国際犯罪に関係する照会なら。

 正式な手順がある。

 必要性を示し。

 権限を確認し。

 関係機関へ依頼できる。

 

 だが。

 リュウは捜査対象ではない。

 事件関係者でもない。

 行方不明者でもない。

 

 春麗が。

 個人的に会いたい相手だった。

 

「……公務なら追えるのに」

 

 一拍。

 

「会いたいだけだと、何もできないのね」

 

 以前なら。

 その言葉を口にしただけで。

 すぐに訂正したかもしれない。

 

 会いたいのではない。

 試合をしたいだけ。

 宿題について確認したいだけ。

 青と黒について話す必要があるだけ。

 何か別の理由へ置き換えたかもしれない。

 

 だが。

 今は。

 それをしなかった。

 

「会いたい」

 

 一拍。

 

「そこは、もう知らないふりをしない」

 

 机の上で。

 春麗の指が、わずかに動いた。

 

「問題は…会いたいと伝える先が、どこにもないことよ」

 


 

 次の日。

 春麗は、以前リュウが立ち寄ったことのある道場へ向かった。

 師範は、春麗の顔を覚えていた。

 

「リュウなら、しばらく見ていないな」

 

「どれくらい?」

 

「一月ほどか」

 

「次にどこへ行くか、聞いていない?」

 

「聞いても、あの男は決めていないことが多い」

 

「そう」

 

「探しているのか」

 

「ええ」

 

 春麗は答えた。

 

 師範が。

 少しだけ目を見開く。

 

 春麗自身も。

 言ってから、胸の奥がわずかに熱くなった。

 だが。

 訂正しなかった。

 

「探しているわ」

 

「急ぎか?」

 

「事件ではない」

 

「そうか」

 

「怪我をしたという情報もない」

 

「ああ」

 

「ただ…会いたいの」

 

 師範は。

 少しだけ笑った。

 春麗は、その笑いを見た。

 

「何?」

 

「いや」

 

「言いなさい」

 

「以前より、分かりやすくなったと思ってな」

 

「何が?」

 

「用件が」

 

 春麗は、師範を睨んだ。

 

「それ以上の分析は不要よ」

 

「分かった」

 

 帰り際。

 師範が言った。

 

「来たら、春麗が探していたと伝えようか」

 

 春麗の足が止まる。

 

 以前なら。

 探していた、ではなく。

 話す必要がある。

 試合をしたい。

 そう言い換えたかもしれない。

 

 だが。

 

「ええ」

 

 春麗は答えた。

 

「私が探していたと伝えて」

 

「ああ」

 

「それから…会いたがっていたと」

 

「分かった」

 

「急ぎではないわ」

 

「ああ」

 

「でも」

 

 春麗は。

 少しだけ迷った後。

 はっきりと言った。

 

「来たら、必ず伝えて」

 


 

 最後にリュウと別れてから六日目。

 

 春麗は。

 別の修行場所へ向かった。

 山道を歩く。

 公共交通機関で行ける場所までは利用した。

 その先は徒歩だった。

 

 仕事の休みを使った。

 公務ではない。

 

 交通費も。

 食事代も。

 全部、自分で払った。

 

 長い坂を上り。

 古い石段を越え。

 ようやく着いた場所に。

 リュウはいなかった。

 

 寺の者が。

 春麗へ言った。

 

「白い道着の方なら、少し前に来られました」

 

「いつ?」

 

「十日ほど前でしょうか」

 

「どこへ行くと?」

 

「山を下りるとだけ」

 

「方角は?」

 

「そこまでは」

 

「そう」

 

 十日前。

 正式回答の後。

 春麗と三度会った時期と。

 前後している可能性がある。

 

 その後。

 ここへ来たのかもしれない。

 

 だが。

 もう、いない。

 

 春麗は山を下りた。

 帰りの道で。

 何度か足を止めた。

 

 疲れただけ。

 そう説明することはできる。

 

 実際。

 長い山道だった。

 だが。

 身体の疲れとは別に。

 胸の内側へ。

 重いものが残っていた。

 

 これまでなら。

 こんなに苦労しなくても会えた。

 

 いつもの場所へ行けば。

 リュウがいた。

 

 何も用がない日にも。

 青を着て出た日にも。

 向こうから現れた。

 今は。

 六日近く動き。

 公開情報を確認し。

 道場を訪ね。

 山まで登って。

 それでも。

 会えない。

 

 春麗は。

 初めて理解した。

 

 世界は広い。

 

 旅をしている一人の男へ。

 連絡手段もなく会うことは。

 本来。

 これほど難しい。

 

 主人公だから。

 物語が続いているから。

 必要な時には会える。

 その奇跡を除けば。

 春麗とリュウの間には。

 次に会うためのものが。

 本当に。

 何もなかった。

 


 

 最後にリュウと別れてから七日目。

 

 春麗は仕事をしていた。

 報告書の確認中。

 ふと。

 リュウの名前が頭をよぎった。

 

 春麗は、書類へ視線を戻した。

 公務と私情を混ぜない。

 仕事中に考えることではない。

 

 夕方。

 業務を終えた。

 

 春麗は、一度自宅へ戻った。

 上着を脱ぐ。

 

 青い小箱が見えた。

 

 最近。

 紙が増えている。

 

 正式回答。

 九十九点。

 受領済み。

 まだ持てない。

 リュウへ返した短い手紙。

 正式回答後、普通に会う練習ログ。

 持てないものは好意ではなく、正式回答だと確認した紙。

 用事がなくても会えた青。

 黒を捨てずに青でいた日。

 

 三度。

 会えた記録がある。

 

 春麗は。

 青い小箱の前へ座った。

 蓋は開けなかった。

 開けなくても。

 中に何があるかは分かっている。

 

「面倒でもいい。次も、俺に聞け」

 

 覚えている言葉を口にする。

 そして。

 少しだけ。

 苦く笑った。

 

「聞けないのよ」

 

 一拍。

 

「どこにいるのか分からないから」

 

 答えを持てない。

 だから会えないのではない。

 

 持てないままでも。

 三度会えた。

 

 会おうとした。

 何度も。

 いつもの場所にも行った。

 道場にも行った。

 山の修行場にも行った。

 

 それでも。

 今は会えない。

 

 春麗は。

 青い小箱へ手を置いた。

 

「三度も会えたから」

 

 一拍。

 

「次も会えると思っていた」

 

 もう一拍。

 

「何もしなくても」

 

 正式回答を持てないこと。

 好意を保留保存していること。

 青と黒の間で揺れていること。

 それらは。

 今の問題ではない。

 今の問題は。

 もっと単純だった。

 

「私は…あなたに会いたい」

 

 言えた。

 誰も聞いていない。

 だからこそ。

 何の言い訳もつけずに言えた。

 

「でも…あなたの連絡先を知らない」

 

 春麗は。

 青い小箱へ額をつけそうになり。

 寸前で止まった。

 

「何をしていたのよ、私たち」

 

 宿題の正式回答を受け取った。

 その回答に対し、受け取れるまで待ってほしいと手紙で返事をした。

 それなのに。

 電話番号一つ交換していない。

 

 春麗は顔を上げた。

 

「次に会えたら」

 

 一拍。

 

「絶対に聞く」

 

 リュウの連絡先。

 連絡先がないなら。

 伝言を預ける方法。

 手紙を受け取れる場所。

 次にいつ戻るのか。

 少なくとも。

 どこへ行けば。

 春麗の言葉がリュウへ届くのか。

 

「次に会えたら、ではないわね」

 

 自分で言い直す。

 

「次は…会えるようにする」

 

 そのために。

 明日から調べる。

 

 リュウとつながりのある人物。

 格闘大会の関係者。

 リュウが過去に立ち寄った道場。

 旅の途中で使う伝言先。

 

 まだ。

 知らないだけで。

 方法はあるはずだ。

 

 春麗は立ち上がった。

 

 今日は。

 いつもの場所へ行かない。

 

 何度行っても、いなかった。

 同じことを続けるより。

 今後の連絡経路を考える。

 その前に。

 夕食を取る。

 

 春麗は部屋を出た。

 近くの食堂へ向かう。

 

 以前。

 何も用がない日に。

 リュウと一緒に食事をした場所ではない。

 だが。

 リュウなら入ってもおかしくない。

 そう思ったことのある店だった。

 だから選んだわけではない。

 

 今日は。

 一人で食べる。

 食事を済ませ。

 帰ってから。

 次の方法を考える。

 それだけ。

 

 夕暮れ。

 

 人通りは多くない。

 春麗は、店へ続く道を歩いていた。

 

 その時。

 道の向こうに。

 白い道着が見えた。

 

 春麗の足が止まった。

 

 すぐには信じなかった。

 

 この一週間。

 何度も。

 白いものをリュウだと思った。

 

 道場の練習生。

 洗濯物。

 遠くを歩く別人。

 そのたびに。

 違った。

 

 だから。

 今度も。

 最初は見間違いだと思った。

 

 だが。

 白い道着の男は。

 春麗を見つけ。

 足を止めた。

 

「春麗」

 

 声。

 間違えようがなかった。

 本編春麗は。

 数秒。

 動けなかった。

 

 いつもの場所へ行ってもいなかった。

 時間を変えても会えなかった。

 道場へ行ってもいなかった。

 山へ登っても会えなかった。

 大会予定にも名前がなかった。

 

 それなのに。

 今日は。

 探すことをやめ。

 ただ夕食を取りに出ただけで。

 

 リュウがいる。

 あまりにも。

 都合がよかった。

 

 あまりにも。

 物語らしかった。

 

「……リュウ」

 

 ようやく。

 名前を返した。

 

 奇跡は。

 また一度だけ。

 二人を、同じ道の上へ置いた。




Q:今回の断章IFについて解説して?

A:

今回のエピソードは、正式回答後に三度もリュウと会えていた本編春麗が、四度目に初めて会えなくなり、自分たちが再会するための方法を何一つ持っていなかったことに気づく話です。
正式回答を受け取った後、本編春麗はすでに三度リュウと会っています。

正式回答をまだ持てない状態で普通に会う練習をした日。
試合や宿題といった用事がなくても会えた日。
黒を捨てず、自分の意思で青を着ている日に会えた日。

この三度の再会によって、春麗は「正式回答を持てない自分のままでもリュウに会ってよい」と確認できました。
しかし、その成功体験が、別の問題を隠していました。

三度とも、待ち合わせをしていません。
日時も決めていません。
互いの電話番号も住所も知りません。
リュウが次にどこへ行くのかも、いつ戻るのかも知りません。
それでも、春麗が必要とした時にはリュウが現れました。

正式回答以前から、本編春麗とリュウはずっとそうやって会ってきました。
春麗が試合をしたいと思えば、リュウがいる。
先にいなくても、少し待てば現れる。
必要な時に、必要な場所で、物語が二人を会わせてくれる。
本編主人公である春麗に与えられた、主人公補正とも呼べる奇跡です。

春麗もリュウも、その奇跡を奇跡だとは認識していませんでした。
前にも会えた。
正式回答後にも三度会えた。
だから次も会える。
二人とも、約束がなくても再会できることを、関係の仕組みだと思い込んでいたわけです。
今回、その主人公補正が一時的に働かなくなります。

春麗はいつもの場所へ行きます。
時間を変えます。
大会予定を調べます。
以前リュウが立ち寄った道場へ行きます。
休日と私費を使い、山の修行場まで足を運びます。
それでも会えません。

ここで重要なのは、春麗が捜査官としての権限を使っていないことです。
リュウは捜査対象でも、事件関係者でも、行方不明者でもありません。
春麗が個人的に会いたい相手です。

公務であれば情報を追える春麗が、一人の女性としてリュウを探そうとすると、公開情報や自分の足に頼るしかない。
そのため春麗は、初めて世界の広さと、住所を持たない旅人へ会うことの難しさを知ります。
同時に今回の春麗は、自分がリュウを探している理由を、試合や正式回答へ置き換えません。

道場の師範から「探しているのか」と聞かれ、
「探しているわ」
「ただ、会いたいの」
と答えています。

以前の春麗なら、試合をしたい、話す必要がある、宿題について確認したい、と別の理由へ言い換えたかもしれません。

しかし正式回答を受けた春麗は、自分の好意を完全には知らないふりができなくなっています。
好意はまだ未承認であり、保留保存です。
本人へ正式に渡したわけでもありません。
それでも、会いたいから探していることまでは否定しません。

そして自室では、誰にも聞かれていない状態で、
「私は、あなたに会いたい」
と言います。

春麗会議室も記録板AIもいません。
誰にも分類されず、誰にも言わされず、自分一人で認めた言葉です。
一週間探しても会えなかった最後に、春麗は一度、探すことをやめます。
いつもの場所へは行かず、一人で夕食を取ろうと部屋を出ます。
その瞬間、道の向こうに白い道着が見えます。
どこを探しても会えなかったリュウが、探すのをやめた時に現れる。

あまりにも都合がよく、あまりにも物語らしい再会です。
一週間にわたる現実的な捜索の末、最後だけ主人公補正がもう一度作動した。

この再会は春麗の捜索による成果ではありません。
春麗自身も、奇跡に助けられたことになります。
ただし、今回の題名にある「最後の一度」が意味するのは、奇跡が今後一切起こらなくなることではありません。
次に会うための手段を持たないまま、奇跡だけを待つ状態を終わらせるという意味です。

まだ、春麗はリュウを見つけただけです。
電話番号も交換していません。
互いの私生活についても何も知りません。
奇跡を無駄にしないために何をするかは、次回へ持ち越されます。

今回は、正式回答を持てないことよりも、もっと単純で現実的な問題を扱っています。

好きな相手へ会いたい。
しかし、どこにいるのか分からない。
連絡する方法もない。
本編春麗は高難度の内面問題を何百話も扱ってきましたが、今回止められたのは、電話番号一つ知らないという生活上の問題でした。

心の深いところへ踏み込んできた二人が、日常の入口にはまだ立っていなかった。

その事実を春麗が思い知り、それでも自分の足で探し続け、最後にもう一度だけ物語の奇跡でリュウと出会う。

それが今回のエピソードです。
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