また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
夜。
本編春麗は。
青い小箱の蓋を閉じた。
正式回答は。
まだ持てない。
けれど。
次に会う方法と。
リュウの生活の入口は、少し持てた。
そう確認した後。
春麗は眠りについた。
そして。
目を開けた瞬間。
円卓があった。
春麗会議室。
自覚前春麗。
通常救済版春麗。
行き遅れに恐怖する春麗。
記録板AI。
見慣れた顔と。
見慣れた表示板。
自覚前春麗は。
前回から続いているような顔で資料を持っている。
通常救済版春麗も。
いつもと変わらない穏やかな表情で座っている。
行き遅れに恐怖する春麗は。
本編春麗が現れたことへ反応し。
何か新しい進展を期待するように身を乗り出した。
三人とも。
本編春麗が長く来なかったことを。
不自然には思っていない。
そもそも。
春麗会議室には。
本編側と同じ形の時間が流れていない。
この場所の住人たちは。
元をたどれば妄想章IFから生まれ。
ディレクターズカットIF側へ定着した春麗たちだ。
本編春麗が接続している時。
会議室は開かれる。
本編春麗がいない時。
どれほど本編時間が過ぎたのか。
彼女たちには明確に分からない。
前回の接続から。
一晩だったのか。
一週間だったのか。
あるいは。
もっと長い時間が流れていたのか。
三人にとっては。
本編春麗が再び現れた時が。
次の時間だった。
『接続を確認しました』
『本編春麗』
『春麗会議室へ接続』
一拍。
『本編同期記憶』
『更新』
『現在状態』
『宿題への正式回答』
『受領済み』
『九十九点』
『まだ持てない』
『持てるようになるまで待つ』
一拍。
『新規記録』
『本編春麗によるリュウ捜索』
『本編時間』
『約一週間』
一拍。
『リュウとの私的連絡経路』
『確立』
『固定電話』
『私的な手紙の宛先』
『第三者を介した伝言経路』
『獲得』
一拍。
『リュウとの私生活共有』
『開始』
自覚前春麗が。
資料から顔を上げた。
「待って」
本編春麗は。
記録板AIではなく。
先に三人を見た。
三人とも。
今表示された内容を。
初めて知った顔をしている。
「……あなたたち」
「何?」
「一週間」
一拍。
「私が来なかったことに」
「一週間?」
自覚前春麗が。
聞き返した。
通常救済版春麗も。
わずかに首を傾げた。
「本編では、一週間経っていたの?」
「ええ」
「そう」
通常救済版春麗は。
少し考えた。
「こちらでは」
一拍。
「そこまで時間が経った感覚はなかったわ」
「なかった?」
「ええ」
行き遅れに恐怖する春麗が。
円卓を見回した。
「前回あなたが帰って」
一拍。
「次に現れた」
「ええ」
「私たちからすると」
一拍。
「それだけよ」
本編春麗は。
三人の顔を順番に見た。
「私が」
一拍。
「何度も接続しようとしていたことも?」
「知らないわ」
自覚前春麗が答えた。
「一度も?」
「ええ」
「私が」
一拍。
「リュウを探していたことも?」
「今、記憶が同期されて初めて知ったわ」
「山まで登ったことも?」
三人の動きが。
同時に止まった。
「山?」
「登ったの?」
「なぜ?」
本編春麗は。
記録板AIへ顔を向けた。
「記録板AI」
『はい』
「あなたは?」
『質問内容の確認』
「私が」
一拍。
「一週間近く」
『はい』
「春麗会議室へ接続できなかったことを」
『はい』
「知っていた?」
『観測していました』
円卓が。
静かになった。
本編春麗は。
ゆっくりと目を細めた。
「知っていたのね」
『はい』
「この三人は知らなかった」
『はい』
「あなたは知っていた」
『はい』
「では」
一拍。
「説明しなさい」
『はい』
『本編側接続記録』
『正式回答後』
『通常接続』
『複数回成立』
一拍。
『その後』
『本編時間』
『約一週間』
『本編春麗による接続試行』
『複数回』
『結果』
『不成立』
一拍。
『記録板AI』
『接続失敗を観測』
『ただし』
『接続拒否処理』
『実行していません』
本編春麗は。
表示を見た。
「実行していない?」
『はい』
「あなたが」
一拍。
「扉を閉めたのではない?」
『いいえ』
「接続を拒否したのでもない?」
『いいえ』
「この三人が」
一拍。
「私を締め出したのでもない?」
『いいえ』
自覚前春麗が。
すぐに口を挟んだ。
「当然でしょう」
本編春麗が睨む。
「あなたは黙っていて」
「なぜ」
「私は今」
一拍。
「一週間分の抗議先を探しているのよ」
「こちらへ向けないで」
「今のところ、誰にも向けられないのよ!」
『回答します』
本編春麗は。
表示板へ向き直った。
『接続不成立の原因』
『本編物語側の進行条件』
一拍。
『より正確には』
『本編春麗が』
『春麗会議室による補助を受けず』
『現実世界で行動する区間として』
『接続が成立しなかったものと推定されます』
「推定?」
『はい』
「あなたにも」
一拍。
「正確な原因は分からない?」
『物語構造上の機能は分析可能です』
『ただし』
『記録板AIは』
『物語そのものを決定する存在ではありません』
一拍。
『本編春麗への接続を』
『許可』
『拒否』
『以上を行う権限もありません』
本編春麗は。
腕を組んだ。
「つまり」
一拍。
「あなたは、私が入ろうとして失敗していることを」
『はい』
「記録だけしていた」
『はい』
「助けなかった」
『助ける手段がありません』
「知らせることも?」
『接続が成立していないため』
『本編春麗へ通知できません』
「この三人にも?」
『本編春麗の接続時にのみ』
『本編同期記憶が会議室へ展開されます』
『したがって』
『本編春麗不在時』
『会議室常駐者へ』
『本編側進行を通知する機能はありません』
行き遅れに恐怖する春麗が。
記録板AIを見た。
「では」
一拍。
「あなたは知っていたのに」
『はい』
「私たちは何も知らず」
『はい』
「本編春麗は一人で山を登っていた?」
『はい』
「それは」
一拍。
「少し怖くない?」
『評価』
『高負荷』
「少しではないでしょう!」
本編春麗が。
すぐに返した。
「私は!」
一拍。
「いつもの場所へ何度も行った!」
『はい』
「出勤前にも行った!」
『はい』
「公開情報を調べた!」
『はい』
「道場へ聞きに行った!」
『はい』
「休みを使って山まで登った!」
『はい』
「その間!」
一拍。
「何度眠っても!」
『はい』
「ここへ来られなかった!」
『はい』
「私は」
一拍。
「春麗会議室へ接続する能力まで」
『はい』
「失ったのかと思ったのよ!」
通常救済版春麗が。
表情を変えた。
「そこまで思っていたの?」
「思うでしょう!」
一拍。
「リュウはいない!」
「ええ」
「会議室にも入れない!」
「ええ」
「正式回答は持てない!」
「ええ」
「電話番号も知らない!」
「……ええ」
「あの一週間」
一拍。
「私、本当に一人だったのよ」
春麗会議室が。
静かになった。
自覚前春麗も。
資料を置いた。
行き遅れに恐怖する春麗も。
先ほどまでの勢いを失った。
通常救済版春麗が。
静かに言った。
「ごめんなさい」
本編春麗は。
顔を上げた。
「あなたが謝ることではないでしょう」
「ええ」
「知らなかったのだから」
「でも」
一拍。
「今、知ったから」
本編春麗は。
少しだけ目を伏せた。
「……そう」
自覚前春麗が。
記録板AIへ尋ねた。
「物語構造上の機能を」
『はい』
「説明できる?」
『可能です』
本編春麗は。
すぐに言った。
「誰かが意図的に閉めたと」
一拍。
「言うつもりはないのね」
『はい』
『記録板AI』
『春麗会議室常駐者』
『以上は』
『接続不成立の原因ではありません』
「分かったわ」
一拍。
「では」
本編春麗は。
表示板を睨んだ。
「物語都合とやらの説明を聞かせて」
『はい』
一拍。
『春麗会議室の主要機能』
『感情の分離』
『自己認識の補助』
『複数可能性との比較』
『過去ログ参照』
『精神HP観測』
『発言信頼度測定』
『未解決問題の可視化』
一拍。
『本編春麗が直面した問題』
『リュウの現在位置が分からない』
『リュウの連絡先を知らない』
『次に会う方法が存在しない』
一拍。
『以上は』
『内面分析のみでは解決しません』
「でも」
一拍。
「ここへ来られれば」
『はい』
「連絡先を知らないことくらい」
『はい』
「もっと早く気づけた」
『はい』
「誰かに」
一拍。
「伝言を預けられる相手を聞けと」
『はい』
「提案されたはず」
『はい』
「山まで登る前に!」
『はい』
「現実的な方法へ切り替えられた!」
『はい』
「なら」
一拍。
「やはり接続できた方がよかったでしょう!」
『効率のみを評価した場合』
『はい』
「効率以外に何があるのよ!」
『本編春麗本人の選択であることです』
本編春麗は。
口を止めた。
『春麗会議室へ接続した場合の予測』
『自覚前春麗』
『連絡経路不在を資料化』
自覚前春麗が。
小さく頷いた。
「するわね」
『通常救済版春麗』
『本編春麗の疲労を確認』
『無理な捜索を止める』
「止めると思うわ」
『行き遅れに恐怖する春麗』
『将来的な関係維持のため』
『連絡先交換を最優先で要求』
「当然でしょう!」
『記録板AI』
『問題分類』
『好意ではなく連絡経路』
『現実対応を推奨』
一拍。
『以上により』
『本編春麗は』
『一日から二日以内に』
『連絡経路の必要性を理解した可能性が高い』
「それでよかったでしょう」
『ただし』
一拍。
『その場合』
『本編春麗は』
『春麗会議室で必要性を指摘されたため』
『リュウの連絡先を求めた』
『と認識する可能性があります』
本編春麗の表情が。
わずかに変わった。
『また』
『リュウへ会いたいという感情を』
『他の春麗から分類された結果』
『行動したと認識する可能性があります』
「……つまり」
一拍。
「私が」
『はい』
「自分から会いたかったのか」
『はい』
「会議室にそう判断されたから会おうとしたのか」
『はい』
「分からなくなる」
『可能性があります』
自覚前春麗が。
本編春麗を見る。
「あり得るわね」
「否定できないわ」
「あなたは」
一拍。
「自分の選択が、誰かの答えを借りたものではないか」
「ええ」
「かなり気にするから」
「……ええ」
『今回』
『本編春麗は』
『春麗会議室へ接続できませんでした』
『記録板AIの助言もありませんでした』
『他の春麗による分類もありませんでした』
一拍。
『それでも』
『いつもの場所へ複数回向かいました』
『公開情報を確認しました』
『道場へ聞きに行きました』
『休日と私費を使い』
『山の修行場へ向かいました』
一拍。
『以上は』
『会議室に指示された行動ではありません』
『本編春麗本人が』
『リュウへ会うために選択した行動です』
本編春麗は。
円卓へ視線を落とした。
「……会議室が」
『はい』
「使えなかったから」
『はい』
「会いたくなったわけではない」
『はい』
「会議室が使えなくても」
一拍。
「私は、会いたかった」
『はい』
「だから」
一拍。
「探した」
『発言信頼度』
『非常に高』
「今は」
一拍。
「表示していいわ」
通常救済版春麗が。
本編春麗へ尋ねた。
「道場では」
「何?」
「会いたいと」
一拍。
「言えたの?」
本編春麗は。
少しだけ顔を逸らした。
「……言ったわ」
自覚前春麗が。
すぐに資料を引き寄せた。
「正確には?」
「必要ないでしょう」
「重要記録よ」
「必要ないわ!」
『本編同期記憶から抽出可能です』
「抽出しなくていい!」
『発言』
『ただ、会いたいの』
本編春麗は。
表示板を睨んだ。
「消しなさい!」
『事実です』
「事実でも消しなさい!」
行き遅れに恐怖する春麗が。
円卓へ両手をついた。
「あなた!」
「何よ!」
「他人に!」
「ええ!」
「リュウへ会いたいと!」
「ええ!」
「言えたのね!」
「言えたわよ!」
「正式回答も持てていないのに!」
「それとこれは分けたの!」
行き遅れに恐怖する春麗は。
目元へ指を当てた。
「成長している……」
「大声で感動しないで!」
「好意を完全には知らないふりができない」
「ええ」
「持てないものは好意ではなく正式回答」
「ええ」
「だから」
一拍。
「正式回答を持てなくても」
「ええ」
「会いたいことまでは否定しなかった」
「そうよ!」
「長かった……」
「あなたの物語ではないでしょう!」
「本編の進行は全春麗の希望よ!」
「共有財産にしないで!」
通常救済版春麗が。
小さく笑った。
「会議室へ接続できなかったから」
「ええ」
「あなたが成長した、とは思わないわ」
本編春麗は。
通常救済版春麗を見る。
「では?」
「ここで今まで整理してきたことが」
一拍。
「会議室を離れても」
「ええ」
「あなたの中に残っていた」
「ええ」
「だから」
一拍。
「私たちが隣にいなくても」
「ええ」
「あなたは、自分で歩けた」
本編春麗は。
しばらく黙った。
「……それは」
一拍。
「認めてもいい」
『発言信頼度』
『非常に高』
「何度も表示しなくていい!」
自覚前春麗が。
資料をめくった。
「接続できなかった件については」
「保留しないわよ」
「誰も閉めていなかった」
「ええ」
「記録板AIにも権限がなかった」
「ええ」
「私たちは、接続できなかったこと自体を知らなかった」
「ええ」
「それでも」
一拍。
「物語都合で一週間一人にされたことには」
「ええ」
「抗議する?」
「当然でしょう!」
『本編春麗による抗議』
『対象』
『本編物語進行上の接続不成立』
『継続』
「そうよ!」
『責任主体』
『会議室内に該当者なし』
「抗議先がないではない!」
『物語構造への抗議として保存します』
「保存して!」
『保存しました』
「山まで登らせたことも!」
『追記しました』
「今のは重要よ!」
『はい』
自覚前春麗は。
資料へ一行加えた。
「本編春麗」
一拍。
「物語都合への正式抗議」
「そうよ」
「山道を含む」
「含みなさい」
「でも」
一拍。
「結果として、一人でも会いに行けた」
「その二つは別問題よ」
「ええ」
「歩けたことと」
一拍。
「無断で会議室へ接続できなくしてよいことは」
「ええ」
「別」
『保存しました』
「今の分類は正しいわ」
自覚前春麗が。
資料を別の頁へ変えた。
「では」
「何?」
「抗議報告の次」
一拍。
「私生活報告」
本編春麗は。
わずかに動きを止めた。
「……そこへ行くの?」
「行くでしょう」
通常救済版春麗が。
穏やかに言った。
「私たちは」
一拍。
「今、初めて知ったのだから」
「何を?」
「あなたが」
一拍。
「リュウと初めて私生活について話したことを」
行き遅れに恐怖する春麗が。
身を乗り出した。
「しかも!」
「大声を出さないで」
「一週間探した末の再会で!」
「ええ」
「食事をして!」
「ええ」
「連絡先まで交換した!」
「ええ!」
『報告項目』
『本編春麗とリュウ』
『初の私生活共有』
『食事中』
『試合なし』
『正式回答の進展なし』
『関係名称の確定なし』
一拍。
『ただし』
『生活情報の相互開示』
『あり』
『私的連絡経路』
『確立』
本編春麗は。
表示板を睨んだ。
「大げさにしないで」
「大げさではないわ」
自覚前春麗が即答した。
「あなたたち」
一拍。
「正式回答まで交わしておきながら」
「ええ」
「相手の職業を知らなかったの?」
「……ええ」
「連絡先も?」
「ええ」
「親しい友人の名前も?」
「ええ」
「普段どこで寝ているかも?」
「ええ!」
自覚前春麗は。
資料を置いた。
「何をしていたの?」
「戦っていたのよ!」
「本当に戦うことしかしていない!」
「少しは話もしたわよ!」
「心の最深部について?」
「そうよ!」
「日常生活を飛ばして?」
「そうよ!」
「順番がおかしいでしょう!」
「自分でも分かっているわよ!」
行き遅れに恐怖する春麗が。
震える声で言った。
「心の不可侵領域へ」
一拍。
「正式回答を届けてもらった後に」
「ええ」
「相手の古い友人の名前を」
「ええ」
「初めて知ったの?」
「ええ!」
「高難度隠しルート……」
「同情しないで!」
通常救済版春麗が。
穏やかに尋ねた。
「あなたの仕事については」
「話したわ」
「どこまで?」
「国際警察機構の捜査官であること」
「ええ」
「国境を越える犯罪を扱っていること」
「ええ」
「麻薬犯罪に関係する捜査へ入ることが多いこと」
「ええ」
「ただし」
一拍。
「守秘義務があるから」
「ええ」
「具体的な事件や関係者については話せないと伝えた」
「リュウは?」
「分かった、と」
「それだけ?」
「それだけよ」
「らしいわね」
本編春麗は。
少しだけ息を吐いた。
「勤務が不規則なことも」
一拍。
「急に街を離れる場合があることも話した」
「ええ」
「連絡できなくても」
一拍。
「リュウを避けているとは限らない、と」
春麗会議室が。
静かになった。
本編春麗は。
数秒遅れて。
自分が何を報告したのか理解した。
「……何」
自覚前春麗が。
ゆっくり口を開いた。
「それは」
一拍。
「今後も連絡を取り合う前提ね」
「連絡方法を決めるために必要だったの!」
「今後」
一拍。
「リュウがあなたの沈黙を誤解しないように」
「必要な情報でしょう!」
「ええ」
「だから何よ!」
「未来の関係を想定している」
「連絡先を交換するのだから当然でしょう!」
「それを進展と呼ぶのよ」
「呼ばなくていい!」
『生活接続』
『進行』
「記録しないで!」
行き遅れに恐怖する春麗が。
前のめりに聞いた。
「それで」
「何」
「リュウの私生活は?」
「旅をしている」
「それは知っている」
「宿があれば宿へ泊まる」
「ええ」
「なければ野宿」
「止めなさい」
「私に言わないで」
「怪我をしても?」
「動ければ野宿するらしいわ」
「止めなさい!」
「だから私に言わないで!」
行き遅れに恐怖する春麗は。
記録板AIへ向いた。
「緊急保護対象」
『該当しません』
「該当させなさい!」
『本人の生活選択です』
「今後、本編春麗が管理するべきでは?」
「なぜ私が管理するのよ!」
「連絡先を交換したのでしょう!」
「連絡先は保護者登録ではない!」
通常救済版春麗が。
笑いを抑えながら尋ねた。
「旅費は?」
「大会の賞金や」
一拍。
「道場で頼まれた手合わせの礼」
「管理は?」
本編春麗は。
一瞬だけ黙った。
「……ケン」
三人の春麗が。
同時に反応した。
「ケン?」
「誰?」
「男性?」
本編春麗は。
額へ手を当てた。
「私も」
一拍。
「同じ反応をしたわ」
自覚前春麗が尋ねる。
「誰なの?」
「子供の頃からの友人」
「幼少期から?」
「一緒に修行した格闘家」
「長い付き合いね」
「賞金の管理も任せている」
「非常に信頼されている」
「リュウが持っていると」
一拍。
「旅の途中で邪魔になるらしいわ」
「預金や資産管理を?」
「たぶん」
「あなた」
一拍。
「正式回答を受け取るまで」
「ええ」
「リュウに、子供の頃からの友人がいることを知らなかったの?」
「知らなかったわよ!」
「本当に何をしていたの?」
「だから戦っていたのよ!」
本編春麗は。
少し迷った後。
続けた。
「それから」
一拍。
「リュウは」
「ええ」
「以前、そのケンに」
「ええ」
「私のことを話したことがあるらしいわ」
春麗会議室が。
完全に静止した。
『精神HP変動を予測』
「予測しなくていい」
自覚前春麗が。
資料を持つ手を止めた。
「何と?」
「強い格闘家がいる、と」
「名前は?」
「春麗」
「ケンはあなたの名前を知っている?」
「知っているかもしれない」
「リュウが」
一拍。
「子供の頃からの友人に」
「ええ」
「あなたの話をした」
「強い格闘家としてよ!」
「それでも」
「それ以上ではないわ!」
「あなたがいないところで」
「ええ」
「リュウがあなたを思い出し」
「その言い方はやめなさい!」
「友人へ話題として出した」
「事実を積み上げないで!」
『本編春麗』
『精神HP』
『六十一』
「減っているではない!」
行き遅れに恐怖する春麗が。
目元へ指を当てた。
「よかった……」
「何がよ!」
「リュウ側にも」
一拍。
「春麗を他人へ話すだけの私生活があった」
「最初からあるでしょう!」
「でも私たちは知らなかった!」
「あなたたちは今日知ったのでしょう!」
「だから感動しているの!」
通常救済版春麗が。
春麗を見た。
「家族の話もしたの?」
本編春麗は。
少しだけ表情を変えた。
「ほんの少しだけ」
「リュウは?」
「家族はいない、と」
「あなたは?」
「父がいた」
一拍。
「今はいない、と」
会議室の空気が。
静かになる。
「詳しいことは?」
「話していない」
「リュウも聞かなかった?」
「ええ」
「あなたも?」
「リュウが話したくなった時に話せばいいと言った」
通常救済版春麗は。
ゆっくり頷いた。
「それでいいと思うわ」
「……ええ」
「初めて私生活を話したからといって」
「ええ」
「全部を一度に開かなければならないわけではない」
「ええ」
「互いに」
一拍。
「まだ知らない場所があると知ることも」
「ええ」
「相手を知ることの一つだから」
本編春麗は。
少しだけ肩の力を抜いた。
「その点は」
一拍。
「私も、そう思う」
『発言信頼度』
『非常に高』
「今は表示していいわ」
自覚前春麗は。
資料へ新しい項目を書き込んだ。
「まとめるわ」
「勝手に資料化しないで」
「本編春麗」
一拍。
「正式回答受領済み」
「ええ」
「まだ持てない」
「ええ」
「好意は保留保存」
「ええ」
「リュウと初めて私生活を共有」
「ええ」
「本編春麗の職業を開示」
「ええ」
「リュウの旅の生活を確認」
「ええ」
「古い友人ケンの存在を確認」
「ええ」
「互いの家族について最小限共有」
「ええ」
「固定電話番号」
「ええ」
「私的な手紙の宛先」
「ええ」
「第三者を介した伝言経路」
「ええ」
「次回の再会方法」
「ええ」
「確立」
一拍。
自覚前春麗は。
顔を上げた。
「関係名称は未確定」
「そうよ」
「正式回答は未保持」
「そうよ」
「それでも」
一拍。
「生活上の接続は始まった」
本編春麗は。
反論しようとして。
やめた。
「……そこは」
一拍。
「否定しない」
行き遅れに恐怖する春麗が。
両手を握った。
「ようやく!」
「大声を出さないで」
「ようやく連絡先!」
「そうよ」
「正式回答より後に!」
「そうよ!」
「歴史的に順番がおかしい!」
「自分が一番分かっているわよ!」
記録板AIが。
新しい表示を出した。
『質問』
『本編春麗』
『リュウとの食事を』
『どのように分類しますか』
「普通の食事」
『発言信頼度』
『低』
「なぜよ!」
『一週間捜索後の再会』
『初の私生活共有』
『連絡先交換』
『古い友人についての開示』
『家族についての最小限共有』
『次回再会方法の確立』
『以上を含みます』
「それでも食事は食事よ!」
『候補』
『初の私生活共有食事』
「長い」
『候補』
『日常接続食事』
「機械的」
『候補』
『初めて互いの生活を知った食事』
本編春麗は。
少しだけ黙った。
「……それなら」
『はい』
「仮登録」
『仮登録しました』
自覚前春麗が。
資料の題名を書き換える。
「本編春麗は」
一拍。
「リュウと初めて互いの生活を知った」
「そのままね」
「そのままで十分でしょう」
通常救済版春麗が。
優しく言った。
「特別な名前をつけなくても」
一拍。
「大切な食事だったことは変わらないわ」
本編春麗は。
視線を少し逸らした。
「……そうね」
記録板AIは。
最終整理を表示した。
『春麗会議室共有記録』
『対象』
『正式回答後』
『本編春麗によるリュウ捜索』
『および』
『初の私生活共有』
一拍。
『会議室側時間認識』
『本編側経過時間との同期』
『なし』
『会議室常駐者』
『本編春麗の不在期間を認識せず』
『本編春麗接続時』
『同期記憶によって初めて把握』
一拍。
『記録板AI』
『本編側接続試行』
『複数回観測』
『結果』
『不成立』
『原因分析』
『本編物語側の進行条件』
『現実行動優先区間』
『以上による接続不成立と推定』
一拍。
『物語上の機能』
『本編春麗が会いたいという感情を会議室の分析結果ではなく』
『本人の選択と行動によって確認』
『本編春麗が主人公補正による再会後』
『現実的な連絡方法を本人の判断で構築』
一拍。
『本編春麗による抗議』
『接続不成立について』
『特に』
『山道を含む負荷について強い異議』
「そこは大きく表示して」
『表示サイズを拡大します』
『山道を含む負荷について強い異議』
「よろしい」
一拍。
『本編春麗による評価』
『今まで私たちは何をしていたのか』
『回答』
『主に戦っていました』
「最後にそれを入れないで!」
『事実です』
「分かっているわよ!」
『保存します』
「待ちなさい!」
『保存完了』
「早い!」
本編春麗は椅子から立ち上がった。
接続できなかったことへ。
完全に納得したわけではない。
この会議室の中に。
責任を負わせられる相手はいない。
それでも。
物語の都合で。
一週間近く一人にされたことには。
腹が立つ。
山まで登ったことにも。
強く抗議する。
だが。
一人で探したこと。
会いたいと言えたこと。
奇跡で再会した後。
次の再会方法を自分で作れたこと。
それらは。
会議室に言われて行ったことではない。
本編春麗が。
現実で自分から選んだことだった。
「記録板AI」
『はい』
「確認するわ」
『はい』
「あなたが」
一拍。
「私を拒否したわけではない」
『はい』
「この三人も」
一拍。
「私が来られなかったことを知らなかった」
『はい』
「会議室では」
一拍。
「本編と同じ一週間が流れていたわけでもない」
『はい』
「それでも」
一拍。
「本編の私は、一週間ここへ来られなかった」
『はい』
「その間」
一拍。
「自分で歩いた」
『はい』
「会いたいと認めた」
『はい』
「リュウと会った」
『はい』
「互いの生活を初めて話した」
『はい』
「次に会う方法を作った」
『はい』
本編春麗は。
少しだけ胸を張った。
「会議室へ来られなかったから」
『はい』
「できたのではない」
『はい』
「会議室へ来られなくても」
一拍。
「私は、できた」
『発言信頼度』
『非常に高』
「保存して」
『保存しました』
通常救済版春麗が。
小さく笑った。
「おかえりなさい」
本編春麗は。
動きを止めた。
「……あなたたちにとっては」
一拍。
「久しぶりでもないのでしょう?」
「ええ」
「私が来なかった一週間も」
「私たちには分からなかった」
「ええ」
「でも」
通常救済版春麗は。
春麗を見た。
「あなたにとっては」
一拍。
「一人で歩いた後に」
「ええ」
「戻ってきた場所でしょう?」
本編春麗は。
少しだけ目を伏せた。
「……そうね」
一拍。
「ただいま」
自覚前春麗が。
すぐに資料へ書き込む。
「今のは保存しなくていい!」
『保存しました』
「あなたも書かないで!」
「重要記録よ」
「どこが!」
「本編春麗が」
一拍。
「春麗会議室を、戻ってくる場所として認識した可能性」
「そこまで言っていない!」
『発言信頼度』
『中』
「測らないで!」
行き遅れに恐怖する春麗が。
嬉しそうに頷いた。
「それでいいのよ」
「何が!」
「現実には」
一拍。
「リュウとの日常の入口ができた」
「ええ」
「内側には」
一拍。
「戻って報告できる場所がある」
「ええ」
「本編春麗」
一拍。
「かなり恵まれているわ」
「一週間接続できなかった直後に言うこと?」
「今回は戻れたでしょう」
「戻れなかったらどうするのよ!」
「次に戻った時に」
一拍。
「まとめて抗議する」
「今しているのよ!」
春麗会議室に。
いつもの騒がしさが戻った。
本編春麗は。
腹を立て。
顔を赤くし。
何度も記録の削除を要求し。
一度も受理されなかった。
それでも。
以前とは違うものを。
現実から持ち帰っていた。
リュウの古い友人の名前。
旅の生活。
連絡先。
次に会うための約束。
そして。
正式回答をまだ持てない自分のまま。
会いたい相手へ会いに行けたという記憶。
それらは。
会議室が作った答えではない。
本編春麗が。
一人で歩き。
現実で得たものだった。
『最終記録』
『本編春麗』
『春麗会議室へ接続』
一拍。
『会議室常駐者』
『本編側の一週間を』
『本編春麗の記憶同期によって初認識』
一拍。
『記録板AI』
『接続不成立を観測』
一拍。
『確認事項』
『本編春麗は春麗会議室へ接続できない期間も』
『一人で歩くことが可能』
一拍。
『ただし』
『一人で歩けることと』
『物語都合で接続できなくしてよいことは』
『別問題』
『本編春麗による強い主張として保存』
本編春麗は。
表示を最後まで見た。
「そこは」
一拍。
「絶対に忘れないで」
『保存済みです』
「それならいいわ」
円卓の上。
新しい記録が増えた。
この場所では。
本編の一週間さえ。
明確には流れていなかった。
それでも。
本編春麗にとって。
会議室へ来られなかった一週間は。
確かに存在した。
一人で歩き。
会いたい相手を探し。
奇跡で再会し。
その奇跡を。
日常の入口へ変えた一週間。
本編春麗は。
その時間を。
今度は自分の記憶として。
春麗会議室へ持ち帰った。
Q:今回の断章IFについて解説して?
A:
今回のエピソードは、一週間近く一人でリュウを探し、最後に再会して日常の入口を作った本編春麗が、その経験を春麗会議室へ持ち帰る話です。
最初に重要なのは、春麗会議室の面々が、本編春麗の一週間の不在に気づいていなかったことです。
自覚前春麗、通常救済版春麗、行き遅れに恐怖する春麗は、もともと妄想章IFを起点として、ディレクターズカットIF側へ定着した存在です。
彼女たちは、本編春麗と同じ時間を連続して生きているわけではありません。
本編春麗が接続した時に会議室が開き、接続していない間の本編時間は、彼女たちには明確に流れません。
前回の接続から一晩だったのか。
一週間だったのか。
さらに長い時間が経ったのか。
それを彼女たち自身が知る方法はありません。
本編春麗が再び接続し、その時点までの記憶が同期されて初めて、本編で何が起きていたのかを知ります。
そのため今回、三人にとっては、本編春麗が前回帰った後、次に現れたという感覚しかありません。
一方、本編春麗にとっては違います。
何度眠っても会議室へ来られなかった。
リュウにも会えない。
正式回答もまだ持てない。
連絡先も知らない。
これまで内面を整理する時には必ず存在した春麗会議室まで失ったように感じた。
本編春麗だけが、一週間という時間と、その孤独を実際に経験しています。
この時間感覚のずれが、今回の抗議を少し切ないものにしています。
本編春麗は「あなたたちはどこにいたの」と責めます。
しかし三人は、待っていたわけでも、見捨てたわけでもありません。
本編春麗が来られなかったこと自体を知らなかったのです。
通常救済版春麗の「今、知ったから」という言葉は、その構造を受け止めた上での言葉です。
当時は助けられなかった。
しかし、今その孤独を知ったから、今の本編春麗には寄り添える。
過去の一週間を変えることはできなくても、その一週間を一人だけの記憶にはしない。
本編春麗が会議室へ経験を持ち帰ったことで、初めて共有された時間になりました。
記録板AIの立場も、今回整理しています。
記録板AIだけは、本編春麗が複数回接続を試み、接続が成立しなかったことを観測していました。
ただし、記録板AIが接続を拒否したわけではありません。
扉を閉める権限も、接続を許可する権限もありません。
記録板AIは、起きた現象を記録し、その物語上の意味を分析する存在です。
今回の接続不成立は、本編物語側で、本編春麗が会議室の補助なしに現実を歩く区間だったために起きたものと推定されています。
つまり、会議室の誰かが本編春麗を試すために意地悪をしたわけではありません。
物語の進行上、会議室へ接続しない一週間が発生し、その結果を記録板AIが後から説明しています。
この違いは重要です。
記録板AIを全知全能の管理者にしてしまうと、本編春麗の苦労が記録板AIによって意図的に与えられた試練になります。
しかし実際の記録板AIは、物語を決定する存在ではありません。
本編春麗が苦しんでいることを観測していても、接続が成立しなければ本人へ連絡することも、会議室側へ伝えることもできません。
高性能な記録機能を持ちながら、物語そのものには介入できない。
この無力さも、記録板AIの役割の一部です。
それでも、接続できなかった一週間には物語上の意味があります。
会議室へ来られれば、本編春麗は早い段階で、
連絡先を知らない。
伝言経路がない。
誰かを中継にすべき。
という問題へ到達できたはずです。
自覚前春麗なら即座に資料化します。
通常救済版春麗なら無理な捜索を止めます。
行き遅れに恐怖する春麗なら、将来の関係維持のため連絡先交換を最優先にします。
効率だけを考えれば、会議室へ接続できた方がよかったでしょう。
山まで登る必要もありませんでした。
しかし、それでは本編春麗が後から、
会議室に必要だと言われたから探した。
好意だと分類されたから会おうとした。
他の春麗から答えを与えられたから連絡先を求めた。
と考える余地が残ります。
本編春麗は、自分の選択が他人の答えによって作られたものではないかを強く気にする人物です。
今回、会議室へ接続できなかったことで、その逃げ道はありません。
誰にも指示されていない。
発言信頼度も表示されていない。
他の春麗から好意だと分類されてもいない。
それでも本編春麗は、リュウを探しました。
道場の師範へ、
「ただ、会いたいの」
と伝えました。
これは完全に本編春麗自身の言葉です。
会議室が使えなかったから、会いたくなったわけではありません。
会議室が使えなくても、すでにリュウへ会いたかった。
これまで会議室で整理してきたものが、本編春麗自身の中へ残っていたから、一人でも行動できました。
そのため今回の結論は、春麗会議室が不要になったというものではありません。
春麗会議室で得た理解が、会議室の外でも本編春麗本人の力として機能したということです。
後半では、本編春麗がリュウとの初めての私生活共有を報告します。
ここで会議室の三人は、接続できなかった一週間と同じく、食事の内容も初めて知ります。
本編春麗が国際警察機構の捜査官であることをリュウへ話した。
麻薬犯罪に関係する捜査へ入ることが多い。
守秘義務があり、急に連絡できなくなる場合もある。
その沈黙は、リュウを避けているという意味ではない。
この説明は、単なる職業紹介ではありません。
今後もリュウと連絡を取り合うことを前提にした説明です。
自覚前春麗が「未来の関係を想定している」と指摘するのは、このためです。
リュウ側についても、本編春麗は初めて多くのことを知りました。
宿がなければ野宿すること。
大会賞金や手合わせの礼で旅を続けていること。
子供の頃から一緒に修行したケンという友人がいること。
そのケンへ賞金の管理まで任せていること。
さらに、リュウが以前からケンへ春麗のことを「強い格闘家」として話していたこと。
正式回答まで受け取っていた本編春麗が、ここで初めてケンを知ります。
春麗会議室の面々が、
「今まで何をしていたの?」
と聞き、本編春麗が、
「戦っていたのよ!」
と返すやり取りは、今回の構造をそのまま表しています。
二人は、相手の心の深いところを先に知りました。
宿題を出し、正式回答まで交わしました。
しかし、仕事や友人、旅費、宿泊先、連絡方法といった日常の情報は知りませんでした。
心の不可侵領域へ先に入り、生活の入口へ後から立つ。
この順序の逆転が、本編春麗ルートらしい高難度さです。
家族については、互いに最小限だけ話しています。
リュウは家族がいない。
春麗は父がいたが、今はいない。
今回は詳しい事情へ踏み込みません。
初めて私生活を話したからといって、すべてを一度に開示する必要はありません。
まだ知らない場所があると知ることも、相手を知る第一歩です。
通常救済版春麗がその点を肯定し、本編春麗も素直に受け取れたことは、今回の静かな到達点になっています。
そして、固定電話、手紙の宛先、ケンを介した伝言経路、次回の連絡方法が会議室全体へ共有されます。
正式回答の状態は変わりません。
受領済み。
九十九点。
まだ持てない。
しかし、生活接続は始まりました。
大きな答えはまだ持てなくても、電話番号や友人の名前、次に会う方法といった具体的なものは持てる。
本編春麗は、持てないことだけで停止しているのではありません。
今の自分が持てるものを、少しずつ増やしています。
今回の最後に本編春麗が言う、
「会議室へ来られなかったから、できたのではない」
「会議室へ来られなくても、私は、できた」
という言葉が、このエピソードの結論です。
そして同時に、
「一人で歩けることと、物語都合で接続できなくしてよいことは別問題」
という抗議も保存されます。
成長したから、今後は一人で苦しませてもよい。
そのような結論にはしません。
本編春麗は一人でも歩けました。
しかし、一人で歩けることと、孤独が苦しくなかったことは同じではありません。
成果を認めながら、負荷への抗議も撤回しない。
この二つを同時に持つことが、本編春麗らしい反応です。
春麗会議室の面々にとっては、久しぶりの再会ではありません。
しかし本編春麗にとっては、一週間一人で歩いた後に戻ってきた場所です。
通常救済版春麗の「おかえりなさい」に、本編春麗が「ただいま」と返すことで、春麗会議室は単なる分析装置ではなく、現実で得たものを持ち帰り、共有できる場所になります。
現実には、リュウとの日常の入口ができた。
内側には、その進展を報告できる春麗会議室がある。
本編春麗は一週間、一人で歩きました。
そして最後には、リュウとの新しい道だけでなく、その一週間の記憶も会議室へ持ち帰りました。
今回のエピソードは、春麗会議室へ接続できなかった理由を説明する回であると同時に、本編春麗が現実で得た成長を、初めて会議室全体の共有記録へ変えた回です。