また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
電話が鳴らない理由を春麗は知っている。
リュウは電話番号をなくしたわけではない。
公衆電話を見つけられないわけでもない。
ケンへ連絡できないわけでもない。
春麗へ会いたくないわけでもない。
春麗が出した宿題の正式回答を渡し。
まだ持てないという春麗の返事を受け取り。
待つと決めた。
だからリュウは。
自分から電話をかけない。
何気ない連絡でさえ。
春麗には正式回答の返事を求める催促に聞こえるかもしれない。
次に会おうという言葉でさえ。
春麗を自分の方へ動かす圧力になるかもしれない。
リュウがそこまで細かく言語化しているとは限らない。
ただ春麗が待ってほしいと言った。
だから待つ。
リュウにとってはそれだけで十分だった。
電話はリュウが春麗を忘れたから鳴らないのではない。
春麗の言葉をリュウが守っているから鳴らない。
次の一歩は完全に春麗へ渡されている。
そこまで分かっていた。
分かっていたはずだった。
翌日。
仕事を終えた春麗は自宅とは違う方向へ歩いていた。
鞄の中にはケンを介した伝言先が書かれた紙がある。
自宅へ帰れば電話がある。
受話器を上げ番号を押せばリュウへ言葉を届けるための道へつながる。
必要な手段はすでに持っている。
それでも。
春麗は電話のある自宅へは向かわなかった。
歩いている先はいつもの場所だった。
「……確認よ」
春麗は小さく言った。
「今日は…確認するだけ」
何を確認するのか。
自分でも明確には言わなかった。
リュウがまだこの街にいる可能性。
旅へ出る前にいつもの修行場所へ立ち寄っている可能性。
春麗からの連絡を待ちながら同じ場所で修行している可能性。
前にも。
何度もそうだった。
春麗がいつもの場所に行けばリュウがいた。
先にいなくても少し待てば来た。
約束はなかった。
連絡先もなかった。
互いの予定も知らなかった。
それでも会えた。
だから。
今日ももしかするといるかもしれない。
電話をかけなくても。
会いたいと伝えなくても。
春麗がいつもの場所へ行くだけで。
リュウも同じように来ているかもしれない。
「可能性を…確認するだけよ」
連絡しないまま会おうとしている。
その事実を春麗は別の言葉へ置き換えた。
いつもの場所へ着いた。
リュウはいなかった。
春麗は入り口で一度足を止めた。
予想していた。
そういう顔をした。
白い道着は見えない。
風が通り抜ける。
木々が揺れる。
地面にはいくつか足跡が残っていた。
だがリュウが今日ここで修行したと判断できるものではない。
春麗は奥へ進んだ。
以前リュウが立っていた場所。
春麗の攻撃を受けた場所。
二人が何度も試合をした場所。
正式回答を受け取る前から物語が二人を会わせてきた場所。
だけどそこにリュウはいなかった。
「まだ…時間が早いのかもしれない」
春麗は時計を見た。
仕事が終わった後。
以前にも何度かリュウと会った時間だった。
早すぎるわけではない。
遅すぎるわけでもない。
それでも。
少し待つ理由にはできた。
春麗はその場に立った。
五分。
誰も来ない。
十分。
白い道着は現れない。
十五分。
遠くから足音が聞こえた。
春麗は反射的に顔を上げた。
来たのは散歩中の老人だった。
老人は春麗へ軽く会釈をして。
そのまま通り過ぎた。
春麗も小さく頭を下げた。
足音が遠ざかる。
再び静かになった。
「……見間違えてはいないわ」
誰もいない場所へ言った。
「最初から…リュウだと思ったわけではない」
言い訳だった。
春麗はもう一度時計を見た。
二十分。
来ない。
以前ならこの程度の待ち時間で物語は何かを起こした。
道の向こうから白い道着が見えた。
あるいは。
背後から声をかけられた。
春麗が帰ろうとした瞬間にリュウが現れた。
前回もそうだった。
一週間近く探しても。
どこにもいなかった。
それでも探すことをやめ、夕食を取りに出た道で最後には会えた。
あまりにも都合のよい再会。
主人公補正。
物語の奇跡。
だから今日も。
もう少しだけ待てば何かが起こるのではないか。
春麗が帰ろうとすれば。
物語がもう一度だけリュウを連れてくるのではないか。
春麗はその可能性を完全には捨てられなかった。
三十分。
リュウは来なかった。
春麗はその場から動かなかった。
風が髪を揺らす。
夕暮れが少しずつ濃くなる。
人の気配はない。
試合の予定はない。
宿題もない。
正式回答について話す約束もない。
春麗はリュウへ連絡していない。
リュウも春麗へ連絡していない。
二人が今日この場所へ来ると決めた事実は何一つない。
なら会えない。
本来はそれが当然だった。
「……そうよね」
春麗はようやく言った。
「連絡していないのだから…いない方が当たり前よね」
言葉にした。
しかし。
胸の奥に小さな痛みが残った。
当たり前。
これまで。
その当たり前を。
物語が何度も壊してきた。
約束がなくても会えた。
連絡先がなくても会えた。
世界を旅しているリュウが。
必要な時には春麗のいる場所へ現れた。
春麗が主人公だから。
二人の物語を進めるために。
必要な出会いが用意された。
その主人公補正は春麗にとって常に有利なものだった。
会いたいと言わなくても会えた。
自分から呼ばなくてもリュウがいた。
試合を口実にすれば関係を続けられた。
正式回答を持てなくても偶然会ったという形ならリュウの前へ立てた。
自分が会うことを選んだ責任を完全には持たずに済んだ。
だがそれはもう終わった。
前回、最後の奇跡で会えた時。
春麗は電話番号を渡した。
手紙の宛先を渡した。
ケンを介した伝言経路を作った。
会いたい時には会いたいと伝えると決めた。
次は偶然ではなく二人で会う日を決めると約束した。
物語はその約束を無視してまで二人を会わせることはしない。
連絡方法がないから奇跡で補っていた。
今は連絡方法がある。
なら使わなければならない。
春麗が自分で作った道を使わず、以前の奇跡だけを求めても。
物語はもうリュウを置いてくれない。
「……主人公補正」
春麗は誰もいない場所でその言葉を口にした。
「終わったのね」
返事はない。
だが少し考え春麗は自分の言葉を訂正した。
「違う…終わったのではない」
主人公補正はまだ働いている。
ただし以前とは逆の方向に。
これまでは春麗が何もしなくても物語がリュウを会わせた。
今は春麗が行動するまで物語がリュウを会わせない。
偶然を起こさない。
都合のよい再会を用意しない。
いつもの場所へ立たせない。
春麗が自分たちで作った手順を踏むまで。
物語は次の場面を始めない。
それも主人公補正だった。
主人公だからこそ本人の選択が求められる。
主人公だからこそ物語の次の一歩を脇役や偶然へ任せることを許されない。
春麗が動かなければリュウは登場しない。
電話をかけなければ次の話は始まらない。
会いたいと伝えなければ再会の場面は用意されない。
主人公を都合よく助ける補正ではない。
主人公に物語を進める責任を負わせる補正。
春麗にとってそれはマイナスの主人公補正だった。
「……厳しくない?」
春麗は誰もいない場所へ聞いた。
「前回は…一週間も探したのよ」
返事はない。
「いつもの場所へ何度も行った」
一拍。
「道場にも行った」
一拍。
「山まで登った」
風が吹いた。
「最後にもう一度くらい」
一拍。
「奇跡が起きてもいいじゃない!」
もう一拍。
「もう十分、苦労したでしょう!!」
何も起きない。
道の向こうに。
白い道着は見えない。
背後から春麗、と呼ぶ声もない。
帰ろうとした瞬間に足音が近づくこともない。
物語は沈黙したままだった。
春麗は少しだけ唇を引き結んだ。
「……分かったわよ」
一拍。
「今回は…山には登らない」
自分で言って。
少しだけ腹が立った。
誰かに命令されたわけではない。
記録板AIもいない。
春麗会議室にも接続していない。
それでも。
物語の条件は明確だった。
ケンへの連絡先を持っている。
自宅には電話がある。
リュウへ言葉を届ける方法がある。
ならそこを使え。
同じ場所へ何度も通い偶然を待つことはもう正解ではない。
春麗はいつもの場所を見回した。
寂しい。
そう感じた。
だが。
絶望ではなかった。
リュウに会えない理由は。
関係が切れたからではない。
正式回答を持てない春麗をリュウが拒絶したからでもない。
物語が二人を引き離したいからでもない。
道はすでにある。
電話番号。
手紙。
伝言先。
二人で作った。
次に会うための方法。
その道の入り口に春麗が立ったまままだ足を出していないだけだった。
以前は道そのものがなかった。
だから物語が二人を運んだ。
今は道がある。
だから春麗が歩く番になった。
春麗は目を閉じた。
少しだけ深く息を吸う。
それから誰もいない場所へ言った。
「今度は…本当に私からなのね」
言葉は静かな空間へ落ちた。
重かった。
だが間違ってはいなかった。
次の一歩をリュウに奪われたわけではない。
物語に強制されたわけでもない。
春麗へ選択権が渡されている。
連絡するか。
しないか。
会いたいと伝えるか。
伝えないか。
いつ動くか。
何を言うか。
すべて春麗が決められる。
それは自由だった。
けどそれは同時に負荷だった。
選べるということは。
選ばなかった結果も。
自分のものになるということだから。
電話をかけなければリュウは来ない。
伝言を残さなければ次の再会は決まらない。
春麗が動かない限り二人の物語はここで止まり続ける。
それでも誰も春麗を急かさない。
リュウも。
物語も待っている。
春麗が自分の意思で次の場面を始めることを。
春麗はいつもの場所を離れた。
振り返らなかった。
もう少し待てば奇跡が起きるかもしれない。
そう期待して足を止めることもしなかった。
今日は確認できた。
これまでの方法ではもう会えない。
主人公補正は春麗を助ける側から春麗へ選ばせる側へ変わった。
それは罰ではない。
正式回答を持てない春麗へ無理に答えを出させるための強制でもない。
ただ会いたいなら会いたいと伝える。
自分で作った約束を自分で使う。
その最低限を主人公である春麗へ求めている。
「最低限にしては…重すぎるのよ」
春麗は歩きながら呟いた。
だが、もういつもの場所へは戻らなかった。
自宅へ向かう。
電話のある部屋へ。
ケンの連絡先がある机へ。
会いたい時は会いたいと伝える。
そう書いた紙がある場所へ。
春麗はまだ電話をかけるとは決めていない。
今日受話器へ触れられるかも分からない。
何を伝えるかも決めていない。
正式回答は今も持てない。
それでも。
もう偶然を待つ場所には立たない。
次にリュウへ会うためには自分から動かなければならない。
その事実だけは持って帰る。
自宅へ戻った。
春麗は部屋の明かりをつけた。
電話は鳴っていない。
留守番電話の表示も点滅していない。
昨日までならその静けさに。
リュウが待っている意味を感じたが今日はもう一つ別の意味が加わっていた。
これは春麗が動くまで続く静けさ。
いつもの場所へ行っても。
終わらない静けさ。
物語が都合のよい再会によって代わりに終わらせてはくれない静けさ。
春麗は机の引き出しを開けた。
ケンを介した伝言先。
自分の手で確認した番号。
その横に。
自分で書いた一文。
『会いたい時は、会いたいと伝える』
春麗は紙を見た。
次に電話を見た。
受話器にはまだ触れない。
「分かっているわ…今度は私から」
電話は鳴らなかった。
いつもの場所にもリュウは現れなかった。
だがそれは春麗が見捨てられた証拠ではない。
主人公補正を失った証拠でもない。
春麗が自分の物語を自分で次へ進める段階へ来たというあまりにも厳しい主人公補正の形だった。
選択権は春麗の手の中にある。
ただしその手はまだ 受話器へ届いていなかった。
Q:今回の断章IFについて解説して?
A:
今回の断章IFは、前回の「電話が鳴らない理由を知っている」から、さらに一段進んだ話です。
前回、本編春麗は、リュウから電話が来ない理由を理解しました。
リュウは春麗を忘れたわけではない。
会いたくないわけでもない。
連絡先をなくしたわけでもない。
春麗が「まだ正式回答を持てない」「少し待ってほしい」と言ったから、その言葉を正確に受け取り、自分から春麗を動かさないように待っている。
そこまで理解した春麗でしたが、理解したことと、実際に自分から連絡できることは別です。
そこで今回、春麗が選んだのは電話をかけることではなく、いつもの場所へ行くことでした。
これは春麗なりの、最後の抵抗でもあります。
電話をかければ、自分からリュウへ「会いたい」と伝えたことになる。
しかし、いつもの場所へ行って偶然リュウに会えたなら、自分から呼んだことにはならない。
会いたかったわけではない。
確認しに来ただけ。
偶然そこにリュウがいただけ。
そういう逃げ道を残したまま、リュウと再会できます。
これまでの本編では、実際にその方法が何度も成立してきました。
約束がなくても会えた。
互いの予定を知らなくても会えた。
リュウが世界を旅していても、物語を進める必要がある時には、二人は同じ場所へ置かれた。
春麗はそれを「主人公補正」「物語の奇跡」と認識しています。
もちろん作中の春麗が、本当に物語の構造を完全に理解しているというより、本連作における記録板AI的なメタ認識を通して、自分がこれまでどれほど都合よくリュウと会えていたかを理解している、という描写です。
これまでの主人公補正は、春麗を助ける方向に働いていました。
会いたいと言わなくても会わせてくれる。
自分から呼ばなくてもリュウを登場させてくれる。
関係をどうしたいのか決められなくても、試合や偶然を口実に次の場面を始めてくれる。
春麗は、その恩恵を受けてきました。
しかし今回は、いつもの場所へ行ってもリュウはいません。
五分待っても来ない。
十分待っても来ない。
聞こえた足音もリュウではない。
帰ろうとした瞬間にも、都合よく白い道着は現れない。
何も起きません。
この「何も起きないこと」が、今回の出来事です。
約束をしていない。
連絡もしていない。
互いに今日この場所へ来ると決めていない。
それなら会えないのが本来は当然です。
以前は物語が、その当然を何度も壊してくれました。
しかし今回は壊してくれない。
なぜなら、もう二人には連絡手段があるからです。
電話番号がある。
手紙を送る住所がある。
ケンを介した伝言経路がある。
以前は道がなかったため、物語が奇跡によって二人を運ぶ必要がありました。
今は道があります。
だから、その道を使わずに奇跡だけを求めても、物語はもう助けてくれません。
ここで春麗は最初、「主人公補正が終わった」と考えます。
しかし、すぐに訂正します。
主人公補正は終わったのではない。
今までとは逆の方向へ働いている。
以前の主人公補正は、春麗が行動しなくてもリュウを会わせるものでした。
今回の主人公補正は、春麗が行動するまでリュウを会わせないものです。
電話をかけなければ次の話が始まらない。
会いたいと伝えなければ再会の場面が用意されない。
主人公自身が選ばなければ、物語が進まない。
これが今回の「マイナスの主人公補正」です。
ただし、この補正は春麗への罰ではありません。
作者や物語が春麗を苦しめるために、リュウを隠しているわけではありません。
正式回答を早く受け入れろと強制しているわけでもありません。
むしろ反対です。
春麗には、連絡する自由があります。
連絡しない自由もあります。
今日動くか、明日動くか。
何を伝えるか。
どこまで伝えるか。
すべて春麗が決められます。
ただし、選択権を持った以上、選ばなかった結果も春麗自身のものになります。
電話をかけなければ、電話は鳴らない。
伝言を残さなければ、リュウには届かない。
いつもの場所へ何度通っても、約束していないリュウは現れない。
この「自由と負荷が同時に渡されること」が、今回の重要な部分です。
主人公だから、物語が何でも助けてくれるのではない。
主人公だからこそ、自分の物語を次へ進める選択を、いつまでも脇役や偶然へ任せることはできない。
本編春麗は、そういう段階へ進みました。
また、今回の春麗が「前回は一週間も探した」「山まで登った」「最後にもう一度くらい奇跡が起きてもいい」と誰もいない場所へ抗議する場面は、かなり切実ではありますが、少しコメディ寄りにもしています。
春麗の言い分にも一理あります。
実際、前回は相当苦労しました。
いつもの場所へ行き、道場へ行き、山まで探し、それでも会えなかった。
最後には、探すことをやめて夕食へ向かったところで、ようやくリュウと偶然再会しました。
あれだけ苦労したのだから、今回も一度くらい奇跡を起こしてくれてもよい。
春麗がそう思うのは自然です。
しかし、その前回の奇跡によって、二人は連絡方法を作りました。
つまり、あの奇跡は春麗を今後も偶然へ依存させるためのものではなく、偶然に頼らなくても会える状態へ送り届けるための、最後の橋渡しだったとも言えます。
最後の奇跡を使って連絡先を交換した以上、次からはその連絡先を使わなければならない。
春麗にとっては、非常に理不尽に感じる構造です。
けれど物語としては、ここで以前と同じ偶然を繰り返してしまうと、連絡先を交換した意味がなくなります。
春麗が「会いたい時は、会いたいと伝える」と決めた意味もなくなります。
そのため今回は、物語そのものが春麗の逃げ道を塞ぐ形になりました。
とはいえ、今回も春麗はまだ電話をかけていません。
自宅へ帰り、ケンの連絡先と、自分で書いた一文を確認します。
それでも受話器には触れられない。
ここで電話をかけなかったことは、失敗ではありません。
今回の春麗が持ち帰ったものは、リュウとの再会ではなく、
「もう偶然を待つ場所には立たない」
という認識です。
以前の春麗であれば、翌日もまたいつもの場所へ行ったかもしれません。
時間を変えれば会えるかもしれない。
もう少し待てば来るかもしれない。
別の道場へ行けばいるかもしれない。
もう一度山を探せば見つかるかもしれない。
そうして、自分から会いたいと伝えずに済む方法を探し続けた可能性があります。
しかし今回の春麗は、いつもの場所を離れた後、振り返りませんでした。
もう少し待てば奇跡が起きるかもしれない、と足を止めることもしません。
今回は山にも登らないと決めています。
これは小さく見えますが、大きな進展です。
春麗はまだリュウへ近づけていません。
けれど、自分が進むべき方向とは違う場所で、リュウを待ち続けることをやめました。
本編春麗に必要なのは、すぐに勇気を出して電話をかけることだけではありません。
自分が何から逃げているのかを理解し、その逃げ道を一つずつ使わないと決めることです。
前回は、電話が鳴らない理由から目を逸らすことをやめました。
今回は、偶然の再会を待つことをやめました。
そうして逃げ道を一つずつ閉じた先に、ようやく「自分から連絡する」という行動があります。
今回の題名は「マイナスの主人公補正の洗礼を受ける」ですが、最終的には、これは単なるマイナスではありません。
物語が春麗を助けなくなったのではなく、春麗が自分で物語を動かせるところまで来たため、助け方が変わった。
リュウを目の前へ連れてくる代わりに、選択権を春麗の手へ渡した。
その選択権は、今の春麗には重すぎます。
けれど、主人公として本当に与えられるべきものでもあります。
最後の、
「選択権は春麗の手の中にある。ただしその手はまだ受話器へ届いていなかった」
という締めは、今回の春麗の現在地を表しています。
選択権はもう持っている。
何をすべきかも分かっている。
逃げる方向も一つ閉じた。
それでも、まだ行動には届かない。
この届かなさを飛ばさずに描くことが、正式回答後の本編春麗には必要だと考えています。
今回の話は、再会そのものではなく、本編春麗が「偶然に会わせてもらう主人公」から、「自分で会う場面を始める主人公」へ変わるための、少し厳しい通過点でした。