また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※本編確定ではなく、断章IFです。


断章IF・幕間:リュウは、春麗からの伝言を受け取る

 その日。

 

 リュウは街道沿いの小さな町にいた。

 数日前までいた街から、いくつかの町を越え、山道を歩き、古い道場へ立ち寄った後だった。

 

 夕方。

 

 道場での稽古を終え、宿へ戻る前に公衆電話を見つけた。

 リュウは道着の内側へ手を入れる。

 小さく折った紙。

 春麗から受け取った、電話番号と住所、連絡可能な時間が書かれた紙。

 

 まだなくしていない。

 濡らしてもいない。

 文字も読める状態で残っている。

 

 だが、今日最初にかける相手は春麗ではなかった。

 リュウは別の番号を押した。

 

 長く覚えている番号。

 旅の途中、時々連絡を入れる相手。

 

 ケン。

 

 幼い頃から共に修行した友人であり、試合の賞金や必要な手続きについて、リュウが任せている相手でもある。

 

 呼び出し音。

 

 一回。

 二回。

 

 途中で電話がつながった。

 

「もしもし」

 

「俺だ」

 

「その名乗り方で分かる相手が、この世に何人いると思ってるんだ?」

 

「分からない」

 

「数えるところじゃない」

 

 受話器の向こうで、ケンが小さく息を吐いた。

 

「リュウだろ」

 

「ああ」

 

「今、どこだ?」

 

 リュウは町の名前を答えた。

 

「また随分移動したな」

 

「ああ」

 

「この前いた街には、もう戻る予定はないのか?」

 

「今のところは決めていない」

 

「そうか」

 

 ケンの声が、少し変わった。

 

「なら、ちょうどよかった」

 

「何がだ」

 

「おまえに伝言がある」

 

 リュウは公衆電話の受話器を持ち直した。

 

「誰からだ」

 

 ケンはすぐには答えなかった。

 わざと間を置いたようにも聞こえた。

 

「春麗」

 

 リュウは動かなかった。

 

 通りを歩く人。

 車輪の音。

 夕食を作る匂い。

 公衆電話の狭い空間。

 

 何も変わっていない。

 だが、受話器の向こうから聞こえた名前だけを、リュウははっきりと聞いていた。

 

「そうか」

 

「反応が薄いな」

 

「聞いている」

 

「聞いているのは分かってる」

 

 ケンは続けた。

 

「春麗から、二度電話があった」

 

「二度?」

 

「ああ」

 

 リュウは少しだけ眉を動かした。

 

「最初は、連絡先が正しいか確認しただけだと言っていた」

 

「そうか」

 

「おまえへの伝言かと聞いたら、途中まで何か言いかけた」

 

「……」

 

「でも、その日は何も預からなかった」

 

 リュウは黙って聞いていた。

 

「二度目は、言葉が決まったと言った」

 

「何と」

 

 今度はリュウの問いが少しだけ早かった。

 

 ケンは笑わなかった。

 茶化さなかった。

 

 春麗から預かった言葉を、そのままリュウへ渡した。

 

「リュウに、会いたいと伝えてほしい」

 

 リュウは何も言わなかった。

 

 ケンは続けた。

 

「次に連絡が取れたら、私へ電話するように。そう言っていた」

 

 公衆電話の中に短い沈黙が落ちた。

 

「以上だ」

 

 ケンは言葉を足さなかった。

 

 春麗がどういう顔で言ったのか。

 どれほど迷っていたのか。

 

 ケンには見えていない。

 

 電話の声から感じたものがあったとしても、それを春麗の伝言として勝手に加えることはしなかった。

 

 会いたい。

 電話してほしい。

 

 春麗が預けた言葉は、その二つだけだった。

 

「分かった」

 

 リュウは言った。

 

「電話する」

 

「今からか?」

 

「ああ」

 

 ケンは少し黙った。

 

「番号は持ってるのか?」

 

「持っている」

 

「なくしてないのか?」

 

「ああ」

 

「濡らしても?」

 

「いない」

 

「道着と一緒に洗っても?」

 

「いない」

 

 ケンが少し呆れたように言った。

 

「……春麗に、同じことを確認されたな?」

 

「ああ」

 

「やっぱりか」

 


 

「伝言は、それだけか」

 

 リュウが聞いた。

 

「春麗から預かった言葉は、それだけだ」

 

「そうか」

 

「ただし」

 

 ケンの声が少しだけ低くなった。

 

「俺から、おまえに聞きたいことがある」

 

「何だ」

 

「春麗についてだ」

 

 リュウは受話器を持ったまま黙った。

 

「おまえ、前に春麗という強い格闘家がいると、それだけ言ったな」

 

「ああ」

 

「それだけじゃないだろう」

 

 リュウは答えなかった。

 

「今回は俺が伝言役をしている」

 

 ケンは続ける。

 

「春麗は俺の番号へ二度も電話してきた。一度目は言いたいことを言えずに切った。二度目は、おまえに会いたいと、自分へ電話してほしいとはっきり伝えた」

 

「ああ」

 

「それを俺が今、おまえへ伝えている」

 

「ああ」

 

「なら、それくらい聞く権利はあるだろう?」

 

 リュウは少し考えた。

 

「何が聞きたい」

 

「春麗は、おまえにとって何なんだ?」

 


 

 リュウはすぐには答えなかった。

 ケンも急かさない。

 

 町の夕方。

 公衆電話の外を、一人の子供が走っていく。

 

 リュウは受話器の向こうにいるケンではなく、遠く離れた街にいる春麗を思い浮かべた。

 

 青い武道服。

 構え。

 鋭い蹴り。

 勝った時の顔。

 負けた時の顔。

 

 言葉を選びながら、それでも聞くことをやめなかった春麗。

 

「強い」

 

 リュウは答えた。

 

「それは知っている」

 

 ケンはすぐに返した。

 

「おまえがわざわざ俺に名前を出すくらいだからな」

 

「何度も戦った」

 

「それも想像できる」

 

「俺に宿題を出した」

 

 ケンが数秒黙った。

 

「宿題?」

 

「ああ」

 

「おまえに?」

 

「ああ」

 

「格闘技の技か?」

 

「違う」

 

「では何だ」

 

 リュウは少し考えた。

 春麗から出された問い。

 

 変わった春麗を見ることができるか。

 以前の春麗へ戻そうとしないか。

 目の前にいる春麗を、そのまま受けられるか。

 

「春麗が変わった後も、その春麗を見られるか」

 

 ケンは黙って聞いた。

 

「前の春麗へ戻そうとしないか」

 

「それを、おまえに聞いたのか?」

 

「ああ」

 

「おまえは何と答えた」

 

 リュウは公衆電話の壁へ、少しだけ背を預けた。

 

「変わった春麗を見る。前へ戻そうとは思わない。面倒でもいい。次も、俺に聞け」

 

 受話器の向こうで、ケンが完全に黙った。

 

 数秒、言葉がなかった。

 

「……おまえ、そんなことを言ったのか?」

 

「ああ」

 

「春麗に?」

 

「ああ」

 

「自分で考えて?」

 

「ああ」

 

「誰にも教えられず?」

 

「ああ」

 

 リュウは少し間を置いた。

 

「今の確認は必要か?」

 

「必要だ」

 

 ケンは即答した。

 

「おまえが自分でそんな答えを出した事実は、確認する必要がある」

 

「そうか」

 

「春麗は何と返した?」

 

「九十九点」

 

「……点数をつけられたのか?」

 

「ああ」

 

「残りの一点は?」

 

「まだ持てないと言われた」

 

 ケンはまた黙った。

 

「答えを受け取れないという意味か?」

 

「なかったことにはしない。だが、今はまだ持てない」

 

「それで、おまえは待っていたのか?」

 

「ああ」

 

「自分から電話もせず?」

 

「ああ」

 

「春麗から次に動くまで?」

 

「ああ」

 

 ケンは長く息を吐いた。

 

「なるほどな」

 

「何がだ」

 

「春麗が最初の電話で伝言を残せなかった理由だ」

 

 リュウは黙っていた。

 

「おまえへ電話してほしいと言えば、その答えに自分から近づくことになると思ったんだろう」

 

「そうかもしれない」

 

「おまえは、それを分かっていたのか?」

 

「全部は分からない」

 

「そうだろうな」

 

 ケンは少しだけ笑った。

 

「だが、急かしたくないとは思った」

 

「ああ」

 

「だから待った」

 

「ああ」

 

「今、春麗の方から会いたいと言ってきた」

 

「ああ」

 

「どう思った?」

 

 リュウはすぐに答えた。

 

「会いに行く」

 

「それは行動だ。気持ちを聞いている」

 

 リュウは少し黙った。

 

「会いたい」

 

 短い答えだった。

 

「俺も、春麗に会いたい」

 

 ケンは今度は笑わなかった。

 

「そうか」

 

「ああ」

 


 

「なら、電話しろ」

 

 ケンが言った。

 

「そのつもりだ」

 

「ただし、一つ確認しておく」

 

「何だ」

 

「春麗が会いたいと言ったことを、正式回答への返事として扱うな」

 

「分かっている」

 

 即答だった。

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「九十九点が百点になったと思うなよ」

 

「思わない」

 

「正式回答を持てるようになったとも」

 

「思わない」

 

「では、なぜ会う」

 

 リュウは受話器を持ちながら、遠くを見るように答えた。

 

「春麗が今、俺に会いたいと言った」

 

「ああ」

 

「俺も春麗に会いたい」

 

「ああ」

 

「それで十分だ」

 

 ケンは短く息を吐いた。

 

「……おまえにしては、驚くほど正確だな」

 

「春麗が待ってほしいと言った」

 

「ああ」

 

「だから待った。今度は会いたいと言った」

 

「ああ」

 

「だから会う」

 

 ケンは少しだけ笑った。

 

「単純だな」

 

「ああ」

 

「でも今回は、それでいい」

 


 

 リュウは春麗の電話番号が書かれた紙を見た。

 

 小さな紙。

 春麗の字。

 連絡可能な時間。

 

 今なら、まだ電話をかけてもよい時間だった。

 

「ケン」

 

「何だ」

 

「伝言を預かってくれて助かった」

 

 受話器の向こうが静かになった。

 

「……おまえ」

 

「何だ」

 

「今、礼を言ったか?」

 

「ああ」

 

「俺に?」

 

「ああ」

 

「伝言を預かったことへ?」

 

「ああ」

 

 ケンが少し笑った。

 

「春麗は相当な相手らしいな」

 

「どういう意味だ」

 

「おまえが人へ頼んだことを、頼んだこととして理解している」

 

「前から分かっている」

 

「怪しいな」

 

「電話を切るぞ」

 

「待て」

 

 ケンは最後に言った。

 

「春麗に、俺が余計なことを聞いたとは言うなよ」

 

「聞かれたら答える」

 

「そういうところだぞ」

 

「何がだ」

 

「もういい」

 

 ケンは小さく笑った。

 

「行け」

 

「ああ」

 

「春麗へ電話しろ」

 

「ああ」

 

 リュウはケンとの通話を終えた。

 


 

 受話器を置く。

 だが、公衆電話からは出なかった。

 リュウはもう一度硬貨を入れた。

 春麗から受け取った紙を開く。

 番号を確認する。

 

 一度、春麗の前で復唱した番号。

 覚えている。

 それでも紙を見る。

 間違えないために。

 

 リュウは番号を押した。

 

 一桁。

 次の一桁。

 

 国を越え、遠く離れた街へつながる数字。

 春麗は自分から直接リュウへ電話できない。

 だからケンへ言葉を預けた。

 

 リュウに会いたい。

 次に連絡が取れたら、自分へ電話してほしい。

 その伝言を受け取った。

 だから今度は、リュウが応じる。

 

 正式回答への返事を求めるためではない。

 九十九点の残りを聞くためでもない。

 持てるようになったか確かめるためでもない。

 春麗が今、会いたいと言ったから。

 そして、リュウも春麗に会いたいから。

 

 最後の番号を押す。

 

 呼び出し音。

 

 一回。

 二回。

 三回。

 


 

 遠く離れた街。

 

 春麗の自室。

 電話が鳴った。

 春麗は机の前にいた。

 

 青い小箱。

 確認を書いた紙。

 

『リュウに、会いたいと伝えて』

 

『次に連絡が取れたら、私へ電話するように』

 

 その横には、

 

『伝達済み』

 

 と書かれている。

 

 電話がもう一度鳴った。

 春麗は動けなかった。

 

 誰からか、まだ分からない。

 

 仕事の連絡かもしれない。

 別の知人かもしれない。

 間違い電話かもしれない。

 だが春麗は、自分が何を待っていたのか知っている。

 

 三回目。

 

 春麗は受話器へ手を伸ばした。

 

 持ち上げる。

 

「はい」

 

 受話器の向こうで短い沈黙があった。

 そして、春麗がずっと待っていた声がした。

 

「春麗か」

 

 春麗は受話器を握った。

 

「……リュウ」

 

 自分から送った言葉がリュウまで届き。

 今、リュウの声になって。

 春麗のもとへ戻ってきた。




Q:今回の断章IF・幕間について解説して?

A:

今回の幕間では、春麗がようやく外へ送り出した、
「リュウに会いたい」
「次に連絡が取れたら、私へ電話してほしい」
という二つの言葉が、ケンを経由してリュウへ届くまでを描きました。

前話までの正式回答編は、ほとんどが春麗側の物語でした。

電話が鳴らない理由を考える。
いつもの場所へ行ってもリュウに会えない。
春麗会議室にも接続できない。
最初の電話では本当の理由を言えない。
そして二度目の電話で、ようやく「会いたい」と伝える。

春麗にとっては長い過程でしたが、リュウ側から見れば、そのすべては見えていません。
リュウが受け取るのは、最終的にケンから渡される、
「春麗が会いたいと言っている」
「春麗へ電話してほしいと言っている」
という、非常に短い伝言だけです。

その短い言葉の後ろに、春麗が何日悩み、何度紙へ書き、正式回答と連絡をどう分け、どれほどの精神HPを使ったのか。

リュウは知りません。
しかし、知らないからこそ、今回のリュウは余計な意味を加えず、春麗が実際に伝えた言葉だけへ応じています。

春麗が会いたいと言った。
自分も春麗に会いたい。
だから電話する。
非常にリュウらしい、単純で正確な応答です。

今回、ケンには伝言役として少し踏み込んでもらいました。
春麗から二度も国際電話を受け、そのうち一度は言葉を残せず、二度目にようやくリュウへの伝言を預かった。
そのうえで、何も聞かずにただ中継するだけでは、ケンの立場としても少し不自然です。

そこで、
「俺が伝言役をしているんだ。それくらい聞く権利はあるだろう?」
と、リュウへ春麗との関係を尋ねています。
ただし、ケンは恋愛の答えを作る役にはしていません。
春麗に対しても、何を伝えるべきか教えなかった。
リュウに対しても、春麗の気持ちを勝手に解釈しなかった。

ケンが行ったのは、春麗の言葉をそのまま渡し、その伝言を引き受けた人間として最低限の事情を確認することだけです。
この距離感は、今後も大切にしたいところです。

ケンが二人を強引に結びつけてしまうと、春麗が自分の意思で言葉を選んだ意味や、リュウがその言葉へ自分で応じる意味が弱くなります。
ケンは道を作る人ではなく、二人が自分たちで作った道の途中に立つ中継者です。
また今回、ケンとの会話を通して、リュウが春麗へ渡した正式回答も改めて確認しています。

変わった春麗を見る。
前の春麗へ戻そうとは思わない。
面倒でもいい。
次も、俺に聞け。

リュウはこの答えを渡した後、春麗から「まだ持てない」「待ってほしい」と言われました。
だから待った。
自分から電話をせず、春麗が動くまで待っていた。
この行動は、リュウが春麗を放置したのではなく、春麗の言葉をそのまま守った結果です。

そして今回、春麗が「会いたい」と言った。
だから、今度は会うために動く。
リュウは、春麗の言葉が変わったから、自分の行動も変えています。

ここで重要なのは、ケンが念を押した通り、春麗の「会いたい」を正式回答への返事として扱っていないことです。
春麗が会いたいと言ったからといって、九十九点が百点になったわけではありません。

正式回答を持てるようになったわけでもありません。
リュウが示した関係全体への答えを、春麗が全面的に受け入れたわけでもありません。
今回成立したのは、もっと小さく、もっと現在に限定されたものです。

春麗は今、リュウに会いたい。
リュウも今、春麗に会いたい。
ならば会う。
未来の全部を決めなくても、現在の気持ちだけで次の約束は作れる。

前話で春麗が理解した「正式回答の一部運用」を、リュウ側も正確に受け取っています。

ケンから、
「正式回答への返事として扱うな」
「九十九点が百点になったと思うな」
と確認されたリュウが、すぐに否定したのも大事な点です。

リュウは春麗の伝言を、正式回答編を一気に終わらせる都合のよい返事にはしません。
春麗が今回渡した分だけ受け取ります。
そこに、リュウの正式回答が言葉だけではなかったことが表れています。

春麗がまだ持てないなら待つ。
春麗が会いたいなら応じる。
その時々の春麗を見て、以前の状態や自分の望む結論へ無理に戻そうとしない。

リュウはすでに、「変わった春麗を見る」という正式回答を、生活上の行動として実行しています。
そして今回、リュウ自身も、
「俺も春麗に会いたい」
とケンへ認めました。

これは春麗本人への告白ではありません。
また、春麗の正式回答への返事を先回りして示す場面でもありません。
ただ、リュウが春麗からの伝言を義務や約束だけで受けているわけではないことを、本編側の幕間として示す言葉です。

春麗が呼んだから仕方なく戻るのではない。
リュウ自身も会いたいから電話する。
これによって、次の再会は春麗だけの一方的な要求ではなくなります。
ただし、その始点を作ったのは春麗です。
ここが今回の正式回答編における大きな進展です。

以前の再会は、主人公補正や偶然によって成立していました。
今回は違います。

春麗がケンへ電話した。
本当の理由を伝えた。
ケンがリュウへそのまま届けた。
リュウが受け取った。
そして、リュウが春麗へ電話した。
原因と結果が、すべて二人の具体的な行動でつながっています。

物語が偶然二人を同じ場所へ置いたのではありません。
春麗が自分から送った言葉が、ケンを経由し、リュウの行動を生み、その声になって戻ってきました。

最後の、
「春麗か」
「……リュウ」
という短いやり取りは、その一連の行動が成功した瞬間です。

春麗が送った「会いたい」は、まだリュウ本人の口から繰り返されてはいません。
しかし、リュウが電話をかけてきたこと自体が、伝言を受け取ったという返答になっています。
前回まで電話は、鳴らないことで春麗へ選択を求める装置でした。

今回は初めて、春麗が自分から行動した結果として鳴りました。
同じ電話の音でも、意味が完全に変わっています。
何もせず待っていた時には鳴らなかった。
本当の言葉を送った後には鳴った。

これは主人公補正による救済ではなく、春麗自身が動かした因果です。
この幕間を挟んだことで、次話の電話は単なる連絡場面ではなくなりました。

春麗にとっては、自分が会いたいと伝えた結果、リュウの声が戻ってきた電話です。
リュウにとっては、待っていた春麗が自分から次の一歩を示したため、それへ応じる電話です。
ここから二人は、初めて偶然ではなく、事前に日時と場所を決めて会うことになります。

正式回答は、まだ持てないままです。
九十九点も変わりません。
それでも春麗は、「次も、俺に聞け」の一部を使ってリュウを呼びました。

リュウは、その呼びかけを正式回答の受諾へ勝手に変換せず、春麗が差し出した現在の気持ちだけを受け取りました。

今回の幕間は、春麗が独力で起こした小さな行動が、初めてリュウ側の物語を動かした回です。

これまで物語に会わせてもらっていた二人が、ようやく自分たちの言葉と連絡手段によって、次の再会を作り始めました。
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