また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※本編確定ではなく、断章IFです。


断章IF:本編春麗は、会いたいと戦いたいを分ける

 翌日の夜。

 春麗は自宅の机に、昨夜の紙を並べていた。

 

『試合をしなくても、リュウと過ごす時間は楽しかった』

『試合をしなくても、リュウに会いたい』

『それでも、リュウと戦いたい』

 

 三行。

 

 昨夜から何度見ても、内容は変わらない。

 

「……増えたままね」

 

 春麗は椅子の背へ身体を預けた。

 消そうと思えば、どれか一つを消せる。

 たとえば最後の一行。

 

『それでも、リュウと戦いたい』

 

 これを一時的な衝動だったことにすれば、話は簡単になる。

 

 久しぶりにリュウの動きを見たから。

 格闘家として反応しただけ。

 少し時間が経てば消える。

 

 そう分類すればよい。

 だが。

 

「……消えていないのよね」

 

 一日経っても、まだ戦いたい。

 昨日公園で見た一歩を思い出す。

 

 右足。

 重心移動。

 腰の捻り。

 

 そこへ自分ならどう入る。

 今のリュウはどう返す。

 考え始めれば、身体の奥が熱くなる。

 なら、三行とも残すしかない。

 

 春麗は紙を揃えた。

 

「今回は、質問も決まっている」

 

 昨夜は、自分で分かるところまで考えた。

 今日会った理由は試合ではなかった。

 

 試合なしでも楽しかった。

 それでも戦いたいと思った。

 分からないのは、その二つをどう扱えばよいのか。

 

 春麗は目を閉じた。

 


 

 次に目を開けた時。

 足元には固い床。

 白い壁。

 円卓。

 正面には記録板AI。

 

 春麗会議室だった。

 

「……今回は普通に開いた」

 

『接続成立』

 

「そこの説明はいらないわ」

 

 円卓には、自覚前春麗、通常救済版春麗、行き遅れに恐怖する春麗がいる。

 本編春麗が席へ着く前に、自覚前春麗が口を開いた。

 

「それで?」

 

「何よ」

 

「リュウと戦いたくなったのでしょう?」

 

 本編春麗は足を止めた。

 

「……同期が早い」

 

「あなたが接続した時点で知っているもの」

 

「分かっているけれど、少しくらい本人から説明させなさいよ」

 

 行き遅れに恐怖する春麗が身を乗り出した。

 

「普通に街を歩いて、昼食を食べて、楽しかったのよね?」

 

「ええ」

 

「試合なしで?」

 

「ええ」

 

「正式回答の話もせず?」

 

「ええ」

 

「なのに、戦いたくなったの?」

 

「……ええ」

 

「どうしてよ!?」

 

「それを整理しに来たのよ!」

 

 通常救済版春麗が苦笑した。

 

「まず座ったら?」

 

「そうするわ」

 

 本編春麗は自分の席へ座った。

 昨夜机に並べた三行を思い浮かべる。

 

「質問は一つ」

 

 円卓の全員を見る。

 

「私は、試合をしなくてもリュウに会えるようになった」

 

 誰も口を挟まない。

 

「実際に会った。一緒に街を歩いた。昼食も食べた。楽しかった」

 

 ここまでは言える。

 

「なのに、リュウの動きを見たら、やっぱり戦いたいと思ったの」

 

 本編春麗は少しだけ眉を寄せた。

 

「これは……以前へ戻ろうとしているの?」

 


 

 最初に答えたのは自覚前春麗だった。

 

「以前って?」

 

「分かるでしょう?」

 

「確認したいの」

 

 本編春麗は少し考えた。

 

「試合を、リュウに会うための理由として使っていた頃」

 

「なるほど」

 

「私は長い間、それをやっていた」

 

 格闘家だから戦う。

 それ自体は本当だった。

 だが、その中へ別の感情も隠していた。

 

 会いたい。

 顔を見たい。

 声を聞きたい。

 

 それを直接認めなくても、

 

『試合がしたい』

 

 と言えばリュウへ会えた。

 

「だから、ようやく試合を使わなくても会えるようになったのに、また戦いたいと思ったことが怖いのよ」

 

 通常救済版春麗が静かに聞いた。

 

「戦いたいと思った瞬間、リュウはどこにいたの?」

 

「目の前」

 

「もう会えていたのね」

 

「……ええ」

 

「試合を申し込まなければ、その日の時間は終わっていたの?」

 

「いいえ」

 

「その後も一緒に歩いた?」

 

「ええ」

 

「楽しかった?」

 

「……楽しかったわ」

 

 通常救済版春麗は頷いた。

 

「なら少なくとも、昨日の『戦いたい』は、会うための手段ではなかったのではないかしら」

 

 本編春麗は黙った。

 昨夜、自分でもそこまでは確認した。

 だからこそ、次が分からない。

 

「昨日はそう。でも、次に試合を申し込んだら?」

 

「その時に、試合を会う理由へ戻すかもしれない?」

 

「そう」

 

 春麗は即答した。

 

「それが怖いの」

 


 

 記録板AIに文字が表示された。

 

『本編春麗の現状整理』

『リュウに会いたい気持ちを確認済み』

『本人への伝達実績、あり』

『試合を介さない接触、成立済み』

 

 春麗は表示を見る。

 

『リュウと戦いたい、確認』

『新規発生欲求ではありません』

 

「……新規ではないの?」

 

『はい』

『過去の継続記録』

『リュウとの試合、複数回』

『再戦欲求、複数回確認』

『勝利欲求、長期にわたり存在』

 

 本編春麗は少しだけ目を細めた。

 

『近時』

『正式回答、会議室、連絡経路形成、主人公補正非依存型再会、日常接触』

『以上を優先したため』

『実行機会、長期停止』

 

「……つまり?」

 

『本編春麗が急にリュウと戦いたくなったわけではありません』

『以前から戦いたかったが実行できる状況ではなかったため後順位となっていたと判定』

 

 春麗は表示を見続けた。

 少しして、自覚前春麗が言った。

 

「そりゃそうでしょう」

 

「何がよ」

 

「あなた、リュウと何度戦ったと思っているの」

 

「回数の問題ではないわ」

 

「でも、何度も再戦している」

 

「そうだけれど」

 

「勝ちたいともずっと思っている」

 

「……ええ」

 

「強くなったリュウを見たら、自分も戦いたくなる。それ自体は前からでしょう?」

 

 本編春麗は反論できなかった。

 その通りだった。

 

 電話をかけるより前から。

 正式回答より前から。

 宿題より前から。

 

 リュウと戦いたかった。

 

「では」

 

 春麗は記録板AIを見る。

 

「会いたいと戦いたいは、どちらかが偽物ではない?」

 

『判定』

『現時点で偽装関係を示す根拠なし』

『両者、並立可能』

 

 表示された。

 

『会いたいから会う』

『戦いたいから戦う』

『同時成立可能』

 

 春麗は、その表示内容を黙って読んだ。

 


 

「……簡単に表示するわね」

 

『分類結果です』

 

「私が一晩悩んだのだけれど」

 

『観測記録、一致』

 

「そこは一致しなくていい」

 

 行き遅れに恐怖する春麗が手を挙げた。

 

「質問」

 

「何よ」

 

「リュウと戦うために会うのと、会っているリュウと戦いたくなるのは違うの?」

 

 本編春麗は答えようとして止まった。

 通常救済版春麗が代わりに言った。

 

「違うと思う」

 

「どう違うの?」

 

「前者は、試合が接触の条件になっている」

 

 試合がなければ会わない。

 試合があるから会える。

 

「後者は、すでに試合とは別に関係がある。その相手と、さらに試合もしたいと思っている」

 

 本編春麗は小さく息を吐いた。

 

「……つまり」

 

 自分で言葉にする。

 

「試合を会うための理由にすることと」

 

 少し間を置く。

 

「会える相手と、純粋に試合をしたいと思うことは違う」

 

「ええ」

 

 通常救済版春麗が頷いた。

 本編春麗は紙があれば書き留めたかった。

 代わりに、頭の中で何度か繰り返す。

 試合を会うための理由にする。

 会える相手と、試合をしたい。

 似ている。

 だが同じではない。

 


 

「でも」

 

 本編春麗はまだ納得しきれなかった。

 

「試合を始めたら、結局また混ざる可能性はある」

 

『はい』

 

「あるのね」

 

『可能性の否定はできません』

 

「そこは安心させなさいよ」

 

『虚偽の安心提供は行いません』

 

「正しいけれど」

 

 春麗は額へ手を当てた。

 自覚前春麗が言う。

 

「だったら、混ぜないための決まりを作れば?」

 

 本編春麗が顔を上げた。

 

「決まり?」

 

「あなた、そういうの好きでしょう?」

 

「言い方が気になるけれど、否定できないわね」

 

「何が怖いのか、もう分かっている」

 

 試合を会うための口実へ戻すこと。

 会いたいを戦いたいの中へ隠すこと。

 勝敗へ関係全体を預けること。

 

「なら、それをしないと先に決めればいい」

 

 本編春麗はしばらく自覚前春麗を見た。

 

「……あなたにしては」

 

「何よ」

 

「まとも」

 

「失礼ね!」

 

 通常救済版春麗が少し笑った。

 

「でも、よいと思うわ」

 

「具体的には?」

 

「あなた自身で決めた方がいい」

 

 本編春麗は考えた。

 昨日、紙へ左右に分けた二つの言葉。

 

『会いたい』

『戦いたい』

 

 どちらも消さない。

 どちらも偽物にしない。

 なら。

 

「会いたい時は」

 

 春麗はゆっくり言った。

 

「会いたいから会う」

 

『記録候補』

 

 記録板AIが表示する。

 

「まだ記録しないで」

 

『待機します』

 

「戦いたい時は」

 

 続ける。

 

「戦いたいから戦う」

 

 少しだけ胸が熱くなった。

 

「どちらかを、もう一方の理由にはしない」

 

 会いたいから試合を申し込む。

 戦いたいだけなのに、それを関係の証明にする。

 そういう使い方をしない。

 

「試合をしても」

 

 本編春麗は続けた。

 

「それで会いたいという気持ちを隠したことにはしない」

 

「ええ」

 

「会いたいと言っても、格闘家として戦いたい気持ちを消したことにはしない」

 

「ええ」

 

「両方あっていい」

 

 最後の一言だけ、少し小さくなった。

 自覚前春麗がすぐ拾う。

 

「もう一度」

 

「聞こえたでしょう」

 

「本人が言った方がいい」

 

「……両方あっていい」

 

 今度は、はっきり言った。

 


 

 記録板AIが表示を更新した。

 

『本編春麗』

『新規運用規則』

『仮登録』

 

『一、会いたいから会う』

 

『二、戦いたいから戦う』

 

『三、一方を他方の口実として使用しない』

 

『四、試合結果を関係継続条件として使用しない』

 

「待って」

 

 本編春麗が止めた。

 

「四つ目はまだ早くない?」

 

『本編春麗が表明した懸念』

『勝敗へ関係全体を預ける可能性』

 

「それは言ったけれど」

 

『予防規則として整合』

 

 春麗は少し考えた。

 

 勝ったら何かを要求する。

 負けたら関係が変わったと思う。

 以前の自分ならあり得た。

 今度、リュウと本当に試合をするなら。

 そこも切り離す必要がある。

 

「……分かった。仮登録でいい」

 

『はい、正式回答との関連を確認します』

 

 春麗の表情が少しだけ硬くなった。

 

『正式回答』

『九十九点』

『九十九点は不足点ではありません』

『本編春麗が次を残すため選択した点数』

 

 本編春麗は頷いた。

 

「ええ」

 

『今回の戦闘欲求』

『正式回答採点への影響なし』

『正式回答保持判定への試合結果利用予定なし』

 

「……そこまで表示されると」

 

 春麗は少しだけ肩の力を抜いた。

 

「楽ね」

 

 試合をしてよいかどうかを、正式回答で決めなくていい。

 勝つか負けるかで、正式回答を持てるか決めなくていい。

 格闘家としてリュウと戦いたい。

 その理由だけで、試合をしてもいい。

 まだ申し込んではいない。

 だが少なくとも、申し込みたいと思うこと自体を否定する必要はなくなった。

 


 

 行き遅れに恐怖する春麗が、まだ少し難しい顔をしていた。

 

「でも、試合をしたら」

 

「何?」

 

「またものすごく盛り上がるでしょう」

 

「勝負なのだから当然でしょう」

 

「それで勝ったら?」

 

「嬉しい」

 

「負けたら?」

 

「悔しい」

 

「その後リュウへ会いたくなくなる?」

 

 本編春麗は即答しかけて、止まった。

 

 考える。

 勝った場合。

 負けた場合。

 どちらでも。

 

「……会いたいと思う」

 

「なら」

 

 行き遅れに恐怖する春麗は首を傾げた。

 

「もう勝敗と会いたいは、完全には同じではないのでは?」

 

 本編春麗は黙った。

 意外な方向から来た。

 

「あなたが言うのね」

 

「何よ!」

 

「もっと大騒ぎすると思った」

 

「これは大事なところでしょう!」

 

 少しだけ胸を張っている。

 

「負けたから二度と会わないとか、勝たなければ次へ進めないとか、そういう状態よりずっといいでしょう」

 

「……それは、そう」

 

「私は行き遅れたくないの!」

 

「最後で台無しよ!」

 


 

 通常救済版春麗が、本編春麗へ尋ねた。

 

「では今、リュウと戦いたい?」

 

「……ええ」

 

 昨日より答えやすかった。

 

「リュウに会いたい?」

 

「ええ」

 

「どちらが本当?」

 

 本編春麗は一瞬だけ止まった。

 そして。

 

「両方」

 

 と答えた。

 

「どちらかを選ぶ必要はない」

 

 自分で言ってみると、妙に簡単だった。

 春麗は続ける。

 

「私はリュウに会いたい」

 

 もう、この言葉自体には以前ほど抵抗がない。

 

「それとは別に」

 

 少しだけ息を吸う。

 

「リュウと戦いたい」

 

 今度は止まらなかった。

 通常救済版春麗が微笑んだ。

 

「なら、今はそれでいいと思う」

 

「……そうね」

 

 まだ、リュウ本人へは言っていない。

 試合の日程も決めていない。

 試合後をどうするかも決めていない。

 そこは次の問題だ。

 だが。

 自分の中では、二つを並べられた。

 


 

『本編春麗の記録更新』

 

『リュウに会いたい気持ち、確認済み』

『リュウと戦いたい思い、確認済み』

『両者並立可能、相互排他性なし』

 

『会いたいは接触欲求』

『戦いたいは戦闘欲求』

『一方による他方の偽装は現時点で認定せず』

 

『新規運用規則』

『会いたいから会う、戦いたいから戦う』

『一方を他方の口実にしない』

『以上、仮登録』

 

 本編春麗は表示を見た。

 

「……これなら」

 

 少し考える。

 

「次にリュウへ会った時」

 

 言えるかもしれない。

 

「試合がしたいと?」

 

 自覚前春麗が聞く。

 

「ええ」

 

「そのまま?」

 

「……そのままは」

 

 少し迷った。

 

「まだ怖い」

 

「そこは変わらないのね」

 

「一晩で全部変わるわけないでしょう」

 

 ただし、昨日とは違う。

 昨日は、

 

『戦いたいと言ったら、以前へ戻るのではないか』

 

 という疑問だった。

 今は違う。

 以前へ戻らないための言葉が分かっている。

 

「試合を申し込むなら」

 

 本編春麗は言った。

 

「先に、自分で確認する」

 

「何を?」

 

「私はリュウに会いたい」

 

 一つ。

 

「会うだけなら、もう試合を理由にしなくていい」

 

 二つ。

 

「その上で」

 

 三つ。

 

「私はリュウと戦いたい」

 

 春麗はそこで止めた。

 それ以上は、まだ本人へ言う時の言葉だ。

 

「今回は」

 

 円卓の三人を見る。

 

「助かったわ」

 

 自覚前春麗が少し驚いた顔をした。

 

「素直」

 

「何よ」

 

「抗議から始まらなかったじゃない」

 

「毎回抗議しているわけじゃないわよ!」

 

『直近接続時、抗議あり』

 

「記録板AIは黙っていて!」

 

 通常救済版春麗が笑った。

 本編春麗も、少しだけ笑う。

 そして目を閉じる。

 


 

 自室。

 

 春麗は目を開いた。

 机の上には昨夜の三行が残っている。

 

『試合をしなくても、リュウと過ごす時間は楽しかった』

『試合をしなくても、リュウに会いたい』

『それでも、リュウと戦いたい』

 

 春麗は新しい紙を一枚出した。

 

『新しい決まり』

 

 そう書く。

 

『会いたいから会う』

『戦いたいから戦う』

『どちらかを、もう一方の口実にしない』

 

 そこまで書いて、少しだけ考えた。

 もう一行。

 

『勝敗に、関係全体の答えを預けない』

 

 書いた。

 

 リュウからもらった宿題の正式回答は九十九点。

 まだ持てない。

 そこは変わっていない。

 だが、持てない正式回答の存在する関係の中でも。

 春麗はリュウへ会える。

 一緒に過ごせる。

 

 そして。

 格闘家として戦いたいと思うこともできる。

 全部を一つにしなくていい。

 

「……増えたのではなく」

 

 春麗は紙を見た。

 

「分けただけなのね」

 

 会いたい。

 楽しい。

 戦いたい。

 

 どれか一つだけが、本当なのではない。

 全部、本当でいい。

 そのことを認めた時。

 

 長い間、関係の問題の後ろへ置かれていた格闘家としての春麗が。

 ようやく、リュウの前へ戻る準備を始めていた。




Q:今回の断章IFについて解説して?

A:

今回の断章IFは、本編春麗がようやく、
「リュウに会いたい」

「リュウと戦いたい」
を別々の本音として持てるようになる話です。

前回の春麗は、四日後の外出から帰宅した後、
『試合をしなくても、リュウと過ごす時間は楽しかった』
『試合をしなくても、リュウに会いたい』
『それでも、リュウと戦いたい』
という三つの事実を並べました。

問題は、三つ目でした。

せっかく試合を使わなくてもリュウへ会えるようになったのに、また「戦いたい」と思った。
それは以前へ戻ることではないのか。
結局、自分は「会いたい」を「試合がしたい」の中へ隠そうとしているのではないか。

そこが今回、春麗会議室へ持ち込まれた問題です。

この問いに対して、今回一番重要なのは、
「戦いたい」は新しく発生した感情ではない
という整理です。

本編春麗は、正式回答を受け取るより前からリュウと何度も戦っています。

勝ちたいと思っていた。
再戦したいと思っていた。
強くなったリュウへ自分の技をぶつけたいと思っていた。
つまり、格闘家としての「戦いたい」はずっと存在していました。
それが消えたわけではありません。

正式回答。
春麗会議室。
連絡先。
電話。
再会。
普通の外出。

そういった関係側の問題を優先していたため、長い間実行できなかっただけです。

だから今回、公園でリュウの一歩を見たことで戦闘欲求が戻ってきたのは、
「また昔の春麗へ退行した」
のではありません。

長い間後回しになっていた格闘家としての春麗が、ようやく表へ戻ってきた。
そう捉えています。

そして今回、通常救済版春麗が確認している、
「戦いたいと思った時点で、もうリュウとは会えていた」
という事実が非常に重要です。

春麗はその日、試合をするためにリュウへ会ったわけではありません。

すでに約束していた。
噴水前で会った。
市場を歩いた。
昼食を食べた。
楽しかった。

その後で、リュウの動きを見て、
「戦いたい」
と思った。

順番が違います。

以前なら、
試合がしたい。
だからリュウへ会う。
でした。

今回は、
リュウに会いたい。
だから会う。

そのうえで、
目の前のリュウと戦いたい。
になっています。

この違いによって、
「試合を会うための理由にすること」

「すでに会える相手と、純粋に試合をしたいと思うこと」
を分けられるようになります。

これが今回の最大の整理です。

本編春麗にとって、試合は長い間かなり便利な存在でした。
試合なら、自分から「会いたい」と言わなくてもいい。

格闘家同士だから会う理由になる。
勝てば何かを要求する理由にもなる。
負ければ、その敗北へ関係上の意味を持たせることもできる。

つまり試合には、
格闘そのもの以外のものを載せすぎていた。

そのため今回、単純に、
「久しぶりにリュウと戦いたい」
と思っても、

それだけで受け取れなくなっています。

また何かを隠しているのではないか。
また関係を勝敗へ預けるのではないか。

そう疑ってしまう。
そこで今回、本編春麗は新しい決まりを作ります。
『会いたいから会う』
『戦いたいから戦う』
『どちらかを、もう一方の口実にしない』
この三つです。

ここは、今後の本編春麗とリュウの関係にかなり重要なルールになると思っています。
「会いたい」と思った時に、試合という理由を作らない。
会いたいなら、会いたいから会う。

一方で、
「戦いたい」と思った時に、
「でも私はリュウへ好意があるから、この戦闘欲求も恋愛感情の一種なのではないか」
と全部を恋愛へ吸収しない。

戦いたいなら、格闘家として戦いたい。
両方あっていい。

ここまで来てようやく、春麗は恋愛と格闘をどちらか一方へまとめずに持てるようになります。

今回、本編春麗が、
「どうして二つあると、すぐどちらかを偽物にしたくなるのよ」
という問題から一歩進み、
「両方あっていい」
と自分で言えるようになったことも大きいです。

これまでの春麗は、分類することで自分を守ってきました。

青なのか。
黒なのか。
会いたいのか。
戦いたいのか。
正式回答を持てるのか。
持てないのか。

どれか一つに決められれば楽です。
しかし人間の感情は、本来そんなに一つではありません。

会いたい。
楽しい。
戦いたい。
勝ちたい。
全部同時にあってもよい。

今回は、「分ける」という行為が、
「どちらかを排除するための分類」
から、
「どちらも本物として持つための分類」
へ変わっています。

ここは本編春麗の成長としてかなり重要なところです。

また今回、記録板AIが、
『リュウに会いたい』

『リュウと戦いたい』
について、
『両者・並立可能』
と記録しています。

これは、
「恋愛感情と戦闘欲求が同じもの」
という意味ではありません。

逆です。
別のものだから、同時に存在できます。

会いたい。
戦いたい。

片方をもう片方へ翻訳しなくていい。

この整理ができたことで、ようやく次に、
「リュウへ試合を申し込む」
という行動へ進めます。

そして今回は、もう一つ重要なルールとして、
『勝敗に、関係全体の答えを預けない』
も仮登録しています。

ここは今後の試合へ向けたかなり重要な準備です。

以前の本編春麗は、勝負の結果へ関係の意味を載せることがありました。
勝った。
だから何かを求める。
負けた。
だから関係の現在地まで変わったように感じる。

しかし次にリュウと試合をするなら、それをやってはいけない。
春麗が勝っても、
「だから正式回答を持てた」
とはならない。

負けても、
「だからまだ関係を進めてはいけない」
とはならない。

試合は試合です。

ここで正式回答の九十九点についても、再確認しています。

九十九点は、
「あと一点足りない」
という意味ではありません。

百点は満点です。
その先がない。
だから春麗は、自分で一点を残しました。
次があるように。
次もリュウへ聞けるように。
次に受け取るものを置く場所が残るように。

九十九点は、不足ではなく春麗自身が選んだ点数です。

その一方で、
「正式回答をまだ全部持てない」
という状態は別に存在しています。

点数と保持状態は別。
だから今後試合をしても、
勝ったから百点になることはない。
負けたから点数が下がることもない。

そして、試合の結果で正式回答を持てるかどうかを判定することもしない。

ここを分けたことで、試合そのものをかなり自由に描けるようになります。

正式回答という巨大な問題を背負った試験ではなく、
「長い間戦えていなかった二人が、純粋にもう一度戦う」
ところへ戻せるからです。

また今回、行き遅れに恐怖する春麗から、
「勝ったら?」
「負けたら?」
「その後リュウへ会いたくなくなる?」
と聞かれています。

これも重要な確認です。

勝ったら嬉しい。
負けたら悔しい。
でも、どちらでもリュウにはまた会いたい。

ここまで来ると、
「勝敗」と「関係継続」
も少しずつ別のものになっています。

勝負は激しくていい。
負ければ悔しがっていい。
勝てば大喜びしていい。

でも、その結果によって、
次に会えるかどうか。
関係が続くかどうか。
正式回答を持てるかどうか。
そこまで変える必要はない。

この分離ができれば、本編春麗は以前よりずっと自由に格闘家として戦えます。
そして今回の最後。

春麗は自宅へ戻り、
『新しい決まり』
として、
『会いたいから会う』
『戦いたいから戦う』
『どちらかを、もう一方の口実にしない』
『勝敗に、関係全体の答えを預けない』
と書きます。

これは、長く止まっていた本編春麗とリュウの試合を再開するための準備が、ようやく整ったことを意味します。

まだ試合は申し込んでいません。
そこは次です。

ただ、以前との違いはもう明確です。

以前は、
「リュウと戦いたいから会う」
でした。

これからは、
「リュウに会いたいから会う」
そして別に、
「リュウと戦いたいから戦う」
です。

両方をそのままリュウへ渡すことができれば、ようやく本編春麗は試合を口実にせず、純粋な再戦を申し込めます。

今回の話は、その直前。
恋愛側へ進んだから格闘を捨てるのでもなく。
格闘へ戻るから恋愛側の成長をなかったことにするのでもなく。
会いたい春麗と、戦いたい春麗。
その二人を一人の中に同時に置くための回でした。

本編春麗は今回、ようやく、
「どちらかではなく、両方でいい」
というところまで来ています。

ここから先は、その両方をリュウ本人へ直接伝える段階です。
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