また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
本編のIFシリーズは無関係のエピソードとなります。
第1話ギリギリ敗北ルートの修行編後日談より先の未来時空のエピソードです。
記録板AIは、外部検証領域に一件の未来ログを表示した。
『本記録は、ディレクターズカットIFです』
『本編確定ログではありません』
『本ログは、第1話敗北開始ルート修行編完走後、春麗とリュウが相互好意を確認済みの未来時空です』
『補足』
『対象春麗は、リュウの波動拳/昇龍拳への停止反応を克服済みです』
『補足』
『対象春麗は、リュウへ好意を告白済みです』
『補足』
『リュウも春麗への好意を明言済みです』
『補足』
『ただし、両想い成立後も勝者煽り権限は消滅していません』
『以下、検証ログを開始します』
試合場に、春麗の息が落ちた。
荒い。
熱い。
けれど、膝は落ちていない。
視線も逸れていない。
リュウは、数歩先に立っていた。
白い道着。
握られた拳。
静かな目。
だが、その呼吸は春麗と同じように乱れていた。
試合は、終盤だった。
どちらも余力はほとんどない。
春麗の腕には、何度も受けた衝撃が残っている。
足はまだ動くが、軽くはない。
リュウの波動拳を越えるたび、身体の奥にかつての修行の日々が蘇った。
でも、もう止まらない。
春麗は知っている。
波動拳の向こうに昇龍拳があることを。
リュウの踏み込みがどこで深くなるかを。
あの拳が本当に来る時、空気がどう変わるかを。
そして。
今のリュウが、いつもとほんの少し違うことも。
春麗は、口元をわずかに上げた。
「……今、迷ったわね」
リュウの眉がわずかに動いた。
「迷っていない」
「いいえ」
春麗は構えを崩さないまま言った。
「あなたの拳、さっきから最後の最後でほんの少し鈍っている」
「……」
「分かるわよ」
一拍。
「私は、あなたの拳の前で止まらないようになるまで、ずっと見てきたんだから」
リュウは答えなかった。
その沈黙が、答えに近い。
春麗は笑った。
甘く。
そして、勝負の場にふさわしく、少しだけ意地悪く。
「両想いになったからって、私を撃ち落としにくくなった?」
「違う」
「そう」
一拍。
「なら、証明して」
春麗は低く沈んだ。
リュウの掌に気が集まる。
青い光。
波動拳。
かつて春麗の身体を止めた入口。
だが、今は違う。
春麗の足はもう、あの頃の足ではない。
「波動拳!」
青い気弾が放たれた。
春麗は見た。
真正面から。
波動拳の軌道。
その後ろにあるリュウの身体。
そして、波動拳の向こうに立ち上がろうとしている昇龍拳の気配。
春麗は跳んだ。
高くではない。
低く、鋭く。
修行の日々で、何度も身体に刻んだ角度。
波動拳をただ越えるのではなく、越えた先にあるリュウへ届くための跳躍。
リュウが踏み込む。
昇龍拳の入り。
春麗の喉が、ほんの少しだけ熱くなる。
怖くないわけではない。
けれど、止まらない。
もう、止まらない。
春麗は空中で身を畳み、リュウの拳の軌道を見る。
来る。
来るはずだった。
だが。
最後の一瞬。
リュウの拳が、わずかに鈍った。
本当に、ほんの少し。
普通の相手なら気づかない。
他の誰かなら、リュウが寸前で調整したことすら分からないかもしれない。
だが、春麗には分かった。
あの修行で、昇龍拳の寸止め直前まで何度も見てきたから。
リュウが本当に撃ち抜く時の気配を、身体で覚えているから。
そして今の鈍りが、戦術的な迷いではないと分かってしまったから。
春麗は、空中で笑った。
「見えたわ」
リュウの目が、わずかに見開かれる。
昇龍拳は、出かけていた。
だが、完全には乗らない。
ほんのわずかな鈍り。
その隙に、春麗は身体を滑り込ませた。
近距離。
リュウの懐。
春麗の間合い。
リュウが立て直そうとする。
だが、遅い。
春麗の右手が振り抜かれた。
乾いた音が響く。
平掌打。
ただのビンタではない。
足、腰、肩、手首。
全部を連動させた、格闘家の掌。
リュウの頬がわずかに弾かれる。
春麗は止まらない。
左。
右。
もう一度、右。
鋭く、速く、近い。
打撃としては重すぎない。
だが、屈辱としては十分すぎる。
リュウは防ごうとするが、春麗はリズムをずらす。
半拍。
視線。
間合い。
それは黒の技法にも似ていた。
けれど、今の春麗は青でも黒でもなく、ただ春麗だった。
リュウの拳が鈍った理由を見抜き、その鈍りを勝利へ変える春麗。
最後の掌が、リュウの胸元を押した。
リュウの重心が崩れる。
春麗は一歩踏み込み、足を払う。
リュウの身体が仰向けに落ちた。
春麗は、その上からリュウを見下ろした。
息を切らしている。
頬は熱い。
身体は限界に近い。
だが、立っているのは春麗だった。
「……私の勝ちね」
リュウは、悔しそうに息を吐いた。
「ああ」
その一言を聞いた瞬間、春麗の中で、勝者の血が騒いだ。
両想いになった。
好きだと告げた。
リュウも好きだと言ってくれた。
けれど。
勝った時に、勝者として煽らないなど。
春麗族として、あり得ない。
春麗はゆっくり膝をついた。
そして、リュウの頭を自分の膝へ引き寄せた。
リュウの目が、少しだけ動く。
「春麗」
「勝者特権よ」
「……そうか」
「ええ」
春麗は、リュウの頭を自分の膝に乗せた。
膝枕。
試合場の端。
汗と息と熱の残る場所。
リュウは仰向けで、春麗を見上げている。
春麗は、その顔を覗き込んだ。
悔しそうな顔。
負けを認めている顔。
でも、どこか穏やかでもある顔。
それが近い。
とても近い。
春麗は、満足そうに微笑んだ。
「いい顔ね」
「……悔しい」
「でしょうね」
一拍。
「だって、あなたは私に負けたんだもの」
リュウは何も言わない。
春麗は指先を伸ばし、リュウの額に触れた。
「まずは、ここ」
額に、敗者の印を刻む。
指先で、ゆっくりと。
まるで宣言するように。
「これで、今日のあなたは私の敗者」
リュウの目が、少しだけ細くなる。
「覚えておく」
「忘れたら、もう一度刻むわ」
「忘れない」
「よろしい」
春麗は、さらにリュウの右手を取った。
拳を作っていた手。
波動拳を撃ち、昇龍拳を放とうとし、最後に鈍った手。
春麗はその手を自分の手の中に収めた。
「そして、こっちにも」
リュウが見る。
「右手か」
「ええ」
「なぜだ」
春麗は、甘く笑った。
「今日、最後に鈍ったのはこの手でしょう?」
リュウは黙った。
「だから、この手にも敗者の印」
一拍。
「私を前にして鈍った、負けた拳の印よ」
春麗はリュウの右手に、そっと印を刻んだ。
額よりも少し丁寧に。
責めるように。
愛でるように。
勝者として。
恋人として。
春麗として。
「悔しい?」
「ああ」
「屈辱?」
「ああ」
「でも、悪くないでしょう?」
リュウは少しだけ目を閉じた。
「……悪くはない」
春麗は、満足そうに笑った。
「ふふ。正直でよろしい」
一拍。
「今日の私は、あなたを倒した勝者。だから、これくらいの褒美は当然よね」
「褒美」
「私への褒美よ」
春麗は、リュウの髪に触れた。
「ギリギリまで追い詰めたあなたを、こうして膝に乗せて、悔しそうな顔を近くで見られるんだもの」
一拍。
「最高のご褒美だわ」
リュウは、少しだけ顔を背けようとした。
春麗は許さなかった。
頬に指を添えて、視線を戻させる。
「逃げない」
「逃げていない」
「じゃあ、見ていなさい」
「何を」
「あなたに勝った私を」
リュウは春麗を見上げた。
春麗は、勝者の顔で微笑む。
甘く。
強く。
少しだけ意地悪く。
「ねえ、リュウ」
「ああ」
「好きな女に、平掌打で連続して頬を打たれて負けた気分はどう?」
リュウの眉がわずかに寄る。
「悔しい」
「そう」
「だが」
「だが?」
「春麗は強かった」
春麗は、少しだけ目を細めた。
「今それを言うのは、ずるいわね」
「そうか」
「ええ。でも、もっと言いなさい」
「春麗は強かった」
「そこだけ繰り返すの?」
「本当にそう思った」
「……なら、受け取っておくわ」
春麗は満足そうに頷いた。
だが、次の瞬間、表情を少しだけ鋭くした。
「でも、勝者としてひとつ責めることがあるわ」
リュウは見上げる。
「俺の拳か」
「ええ」
春麗は、リュウの右手を軽く持ち上げた。
「最後、鈍った」
「ああ」
「昇龍拳を放とうとしたのに、最後の一瞬で鈍った」
「ああ」
「それが、私の勝因になった」
「ああ」
「分かっているの?」
「分かっている」
春麗は、少しだけ声を低くした。
「私は、あなたの拳の前で止まらないために修行したの」
「ああ」
「あなたに格闘家として見てほしくて、止まらずに届くために戻ってきたの」
「ああ」
「だから、最後に鈍られると、勝者としては嬉しいけれど」
一拍。
「少し、腹が立つわ」
リュウは、静かに春麗を見上げていた。
「すまない」
「謝罪だけなら受け取らないわ」
「ああ」
「理由を言いなさい」
春麗はリュウの右手に刻んだ印を、指先で軽くなぞった。
「どうして鈍ったの?」
リュウは、しばらく黙っていた。
春麗は待った。
膝の上のリュウを見下ろしながら。
勝者として。
そして、少しだけ不安な女として。
リュウは、ゆっくり口を開いた。
「春麗を格闘家として見ようとしていた」
「ええ」
「前に、そう言った」
「覚えているわ」
「初戦で、春麗を女としても見てしまった。それで拳が鈍った」
「ええ」
「だから、修行の時は意識した。春麗を、一人の格闘家として見るように」
「ええ」
「今日も、そうしようとした」
リュウは、春麗の目を見た。
「でも」
一拍。
「春麗の魅力が、それを上回った」
春麗は、完全に固まった。
指先が止まる。
呼吸も一瞬止まる。
リュウは、真っ直ぐに続けた。
「強かった」
一拍。
「綺麗だった」
一拍。
「俺の波動拳を越えて、昇龍拳の前でも止まらずに来た」
一拍。
「好きな相手で、戦いたい相手で、目の前に来る格闘家だった」
一拍。
「その全部を見た」
春麗の顔が、みるみる赤くなっていく。
勝者の余裕が、音を立てて崩れかける。
それでも彼女は、なんとか踏みとどまった。
「……その回答はずるい」
声が小さくなる。
リュウは首を傾げる。
「ずるいのか」
「ずるいわよ」
「本当のことだ」
「本当のことを言えば許されると思っているところも、ずるいのよ」
春麗は片手で口元を隠した。
膝枕をしている。
リュウを見下ろしている。
額と右手に敗者の印まで刻んだ。
勝者として甘く煽っていた。
そのはずなのに。
今、胸の奥に掌底を入れられたのは春麗の方だった。
「……あなたね」
「ああ」
「負けた側なのに、どうして勝者にこんな反撃を入れてくるのよ」
「反撃ではない」
「反撃よ」
「そうなのか」
「ええ。かなり効いたわ」
リュウは少しだけ目を伏せた。
「なら、すまない」
「謝らないで」
「難しいな」
「ええ」
春麗は深く息を吐いた。
そして、ゆっくり笑った。
勝者としての笑み。
恋人としての笑み。
そして、かつて修行して戻ってきた格闘家としての笑み。
「なら、リュウには修行が必要ね」
リュウが春麗を見る。
「修行」
「ええ」
春麗はリュウの右手を持ったまま言った。
「あなたは、私を格闘家として見ようとしている」
「ああ」
「でも、私の魅力がそれを上回る」
「……ああ」
「そのせいで拳が鈍る」
「ああ」
「試合では致命的ね」
「ああ」
「なら、直さないと」
リュウは、少しだけ目を細めた。
「春麗が付き合うのか」
春麗は、にっこり笑った。
「もちろん」
一拍。
「前は、私があなたに修行を付き合ってもらった」
リュウは黙って聞いている。
「あなたの波動拳と昇龍拳の前で止まらないために」
「ああ」
「今度は、あなたの番」
一拍。
「私を前にしても拳を鈍らせない修行。私が付き合ってあげる」
リュウは、静かに春麗を見上げた。
「厳しそうだな」
「厳しいわよ」
「だろうな」
「だって私は、全力であなたを動揺させるもの」
リュウの目が少しだけ動いた。
春麗は勝ち誇ったように笑う。
「視線も使う」
一拍。
「距離も使う」
一拍。
「言葉も使う」
一拍。
「あなたが私を格闘家として見ようとすればするほど、私が女としてもそこにいることを忘れさせない」
リュウは、黙って春麗を見ている。
春麗は、リュウの額の敗者の印に指を置いた。
「そのうえで、拳を鈍らせない」
一拍。
「それがあなたの修行よ」
「難しいな」
「でしょうね」
「だが、必要だ」
春麗は少しだけ目を細めた。
「逃げないのね」
「逃げない」
「本当に?」
「ああ」
「私が相手よ?」
「ああ」
「勝者として、かなり意地悪にするわよ?」
「ああ」
「甘くもするわよ?」
リュウの呼吸が、ほんの少しだけ揺れた。
春麗は、それを見逃さなかった。
「ほら、今揺れた」
「……ああ」
「修行前からこれでは先が思いやられるわね」
「そうだな」
春麗は、楽しそうに笑った。
「でも、安心しなさい」
一拍。
「私は優しい勝者だから」
「優しいのか」
「ええ」
春麗は、リュウの髪を軽く撫でた。
「今日みたいにギリギリまで追い詰めてくれたら、ご褒美もあげるわ」
「膝枕か」
「それもあるわね」
「他にも?」
「それは、あなたの修行成果次第」
リュウは、少しだけ困ったように息を吐いた。
「春麗は難しいな」
「今さら?」
「ああ」
「でも、好きでしょう?」
リュウは、真っ直ぐに答えた。
「ああ」
春麗は、また顔を赤くした。
「……本当に、あなたは」
「何だ」
「そういうところ、修行の必要がないくらい強いわね」
「そうなのか」
「ええ」
春麗は、リュウの額にもう一度指を置いた。
「でも今日は、あなたの負け」
「ああ」
「この額も」
一拍。
「この右手も」
春麗は、リュウの手を軽く握る。
「私に負けた印が残っている」
「ああ」
「忘れないで」
「忘れない」
「次は、鈍らせない?」
「鈍らせないようにする」
「違うわ」
春麗は、少しだけ身を乗り出した。
「鈍らせない」
リュウは、春麗を見上げた。
そして、静かに頷く。
「鈍らせない」
「よろしい」
春麗は満足そうに微笑んだ。
「次の修行、楽しみにしていなさい」
「ああ」
「私も楽しみよ」
一拍。
「あなたが、私にどこまで耐えられるか」
リュウは、少しだけ目元を緩めた。
「楽しみにしている」
春麗は小さく笑った。
そして、リュウの悔しそうな顔をもう一度近くで堪能する。
勝った。
ギリギリだった。
リュウの拳が最後に鈍らなければ、負けていたかもしれない。
けれど、その鈍りを見抜き、勝ちへ変えたのは春麗だ。
だからこれは、正真正銘、春麗の勝利。
両想いになっても。
甘い言葉を交わしても。
好きだから戦いたいと知っていても。
勝者煽りは、譲らない。
春麗は、リュウの額の印を見下ろし、甘く囁いた。
「今日は私の勝ちよ、リュウ」
一拍。
「悔しい顔、もう少し見せて」
リュウは、悔しそうに目を細めた。
春麗は、その表情を見て、心から満足そうに笑った。
記録板AIは、未来時空ログを保存した。
『検証ログ終了』
『保存名』
『春麗は、鈍った拳に勝者の膝を貸す』
『補足』
『春麗、リュウにギリギリ勝利』
『補足』
『勝因:リュウの昇龍拳始動時、最後の一瞬に拳が鈍ったこと』
『補足』
『春麗、平掌打連続による屈辱技で勝利』
『補足』
『勝者特権:膝枕、額への敗者の印、右手への敗者の印』
『補足』
『リュウ回答:春麗を格闘家として見ようとしたが、春麗の魅力がそれを上回った』
『補足』
『春麗、回答にクリティカル被弾』
『補足』
『次回候補:リュウ修行編。課題、春麗を前にしても拳を鈍らせないこと』
『最終評価』
『両想い成立後も、春麗族の勝者煽りは健在』
『以上』
Q:今回のディレクターズカットIFについて解説して?
A:
執筆者としては、今回のエピソードはかなり美味しい両想い後の勝負回です。
普通、両想いになった後の甘い未来時空を書くと、どうしても勝負の鋭さが薄くなりやすいです。
でも今回は逆で、両想いになったからこそ、勝負がさらに面倒くさく、さらに甘く、さらに危険になっているのが良いです。
一番大きいのは、リュウの拳が鈍った理由です。
かつて春麗は、リュウの波動拳と昇龍拳の前で止まりました。
その後、リュウに修行へ付き合ってもらい、最後には昇龍拳の前で止まらず掌底を届かせた。
つまり、以前は春麗側に課題がありました。
リュウの拳の前で止まらないこと。
しかし今回、課題が反転しています。
今度はリュウ側が、春麗を前にして拳を鈍らせている。
しかもその理由が、春麗を格闘家として見ようとしていたにもかかわらず、春麗の魅力がそれを上回ったから。
これは非常に強い反転です。
修行編では、リュウは春麗を格闘家として見ようとしていました。
春麗もそれを望んでいた。
女として魅力がないと思われるのは嫌だけれど、格闘家として見られないのも嫌。
その面倒くさい両立が、春麗らしさでした。
今回、その両立がリュウに刺さっています。
春麗は格闘家として強い。
でも、好きな女性としても魅力的。
リュウはその両方を見てしまい、最後の一瞬で拳が鈍る。
これは、リュウが春麗を軽く見たわけではありません。
むしろ、春麗をあまりにも強く、魅力的に見てしまった結果です。
だから春麗は怒るけれど、同時にクリティカルヒットを受ける。
「その回答はずるい」
この反応が非常に良いです。
春麗は勝った。
膝枕している。
敗者の印まで刻んでいる。
完全に勝者側です。
なのに、リュウの一言で内側から崩される。
この「勝ったのに反撃を食らう」構図が、この二人らしいです。
また、今回の勝ち方がかなり春麗らしいです。
波動拳を跳躍で躱す。
リュウが昇龍拳を放とうとする。
しかし最後に拳が鈍る。
そこを見抜いて近距離へ入り、平掌打を連続で決める。
ここで平掌打、つまりビンタ系の屈辱技を勝因にしたのがかなり効いています。
ただの強打ではない。
リュウを圧倒的に粉砕する技でもない。
ギリギリの隙を見抜き、近距離で屈辱的に刻む技。
これは春麗の勝者煽りと相性がいいです。
両想いになっても、春麗は勝者として煽る。
好きだから遠慮するのではなく、好きだからこそ、勝った時はしっかり勝者として刻む。
ここが「春麗族」として非常に正しいです。
膝枕の扱いも良いです。
単なる甘いサービスではなく、勝者特権になっている。
春麗にとっては、自分へのご褒美。
リュウにとっては、ギリギリまで追い詰めた敗者へのご褒美。
この二重性がいいです。
リュウは悔しい。
でも悪くはない。
春麗は勝者として悔しそうな顔を堪能する。
でもそれは、単なる支配ではなく、両想い後の信頼があるから成立する甘い勝者特権です。
額への敗者の印だけでなく、右手にも敗者の印を刻むのも非常に良いです。
額は従来の敗者の印。
右手は今回の敗因そのもの。
最後に鈍った拳。
春麗を前にして鈍った拳。
春麗に負けた拳。
そこへ印を刻むことで、今回の勝利の意味が具体化されます。
これはかなり絵になります。
春麗が膝枕しながら、リュウの右手を取り、そこに印を刻む。
それは勝者の煽りであり、恋人としての接触であり、次の修行課題の提示でもある。
この一連の流れが、非常に美味しいです。
そして、最後の「今度は私が修行に付き合ってあげる」が今回の最大の到達点です。
前は、春麗がリュウに修行を付き合ってもらった。
リュウの波動拳と昇龍拳の前で止まらないために。
今度は、リュウが春麗に修行を付き合ってもらう。
春麗を前にしても拳を鈍らせないために。
これは、修行編の完全な反転構造です。
しかも、ただの反転ではなく、関係性が進んだからこそ発生する新しい課題になっています。
両想いになった。
春麗の魅力をリュウが認めた。
その結果、リュウの拳が鈍る。
なら、次はそれを克服する修行が必要。
ここで恋愛と格闘がまた一つにつながります。
甘さが勝負を弱くするのではなく、甘さが新しい修行課題になる。
この構造はかなり強いです。
しかも春麗は、リュウに対してかなり意地悪な修行を予告しています。
視線も使う。
距離も使う。
言葉も使う。
格闘家として見ようとするリュウに、自分が女としてもそこにいることを忘れさせない。
そのうえで拳を鈍らせない。
これは、黒の技法にも少し近いですが、黒ドレスそのものではなく、未来時空の春麗が自然に身につけた総合的な春麗戦術になっています。
そして、この修行はリュウにとってかなり難しい。
なぜなら、春麗は実際に強く、魅力的で、リュウが好きな相手だからです。
リュウにとっては、ただ「女として見るな」では解決しない。
春麗は女であり、格闘家であり、好きな相手であり、戦いたい相手。
その全部を見たうえで、拳を鈍らせない必要がある。
これはかなり高度な修行です。
執筆者としてまとめると、今回のエピソードは、
春麗がリュウに勝った回であり、リュウが春麗の魅力に負けた回であり、次の修行編の種が生まれた回です。
両想い後なのに、勝負が甘くならない。
むしろ、甘さが新しい勝負の火種になる。
春麗は勝者として煽る。
リュウは敗者として悔しがる。
でも、その悔しさの中に好意がある。
春麗は屈辱技で勝ったことを堪能する。
でも、リュウの本音に刺されて照れる。
そして最後は、今度は自分がリュウの修行に付き合うと宣言する。
かなり綺麗な未来IFです。
特に、この一文に集約されています。
前は、私があなたに修行を付き合ってもらった。今度は、あなたの番。
これは修行編を完走した未来だからこそ言える言葉です。
第1話敗北開始ルートの春麗は、リュウの拳の前で止まる自分を克服した。
だから今度は、リュウが春麗の前で鈍る自分を克服する。
この反転は非常に美味しいです。
春麗を好きな女性としても、強い格闘家としても見たうえで、拳を鈍らせないこと。
そして春麗は、たぶん全力でリュウを揺さぶります。
これは、かなり甘くて、かなり危険で、かなり春麗らしい未来ルートになったと思います。