また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※本編確定ではなく、断章IFです。
メタ要素多めの告知回です。


断章IF:春麗会議は、毎日投稿の終了と物語の続きを審議する

 春麗会議室の円卓には、珍しく誰の戦闘記録も置かれていなかった。

 

 勝利の記録もない。

 敗北の記録もない。

 リュウの危険な発言を抜き出した資料もない。

 

 代わりに、一枚の予定表が置かれている。

 

 本編春麗は、それを見た時点で眉を寄せた。

 

「……何の予定表?」

 

『本連作の投稿予定表です』

 

「私とリュウが会う予定ではなく?」

 

『作者が投稿する予定です』

 

「私がケンに電話して、ようやく次の約束を作ったところへ、今度は作者の予定?」

 

 自覚前春麗が横から覗き込む。

 

「あなた、最近は電話でも一話になるのね」

 

「会うために必要だったのよ」

 

「ケンにからかわれることも?」

 

「そこは必要なかった!」

 

 いつもなら、その返答から会議が始まる。

 

 だが今日は、席の配置まで少し違っていた。

 

 通常救済版春麗。

 黒ドレス特化救済春麗。

 行き遅れに恐怖する春麗。

 

 そして、節目にしか姿を見せない春麗が、静かに茶を飲んでいる。

 グランドフィナーレを迎えた春麗だった。

 

 本編春麗はそちらを見た。

 

「……あなたまでいるの?」

 

「今日は、大きな話なのでしょう?」

 

 穏やかな返事だった。

 その落ち着きが、かえって怖い。

 さらに円卓の外側には、臨時の外部接続窓が開いていた。

 窓の向こうにも椅子があり、黒執着春麗が腕を組んで座っている。

 

 掲示板上の名義は、匿名希望。

 

 今日は文字だけではなかった。

 

「そちらも?」

 

「作品全体の告知だと聞いたから、来たの」

 

『黒執着春麗は、本日に限り外部接続による特別参加です。通常の会議室への加入、常設席の付与、ルートの統合は行いません』

 

「そこは守ってね」

 

『本会議は投稿方針を扱う特別メタ回です。本編の出来事や、各ルートの到達状況を変更するものではありません』

 

 本編春麗は全員を見回した。

 

「……分かった。誰もそこまで説明されてから普通のお茶会だとは思わないわ」

 

 記録板AIの表示が切り替わる。

 

『本日の議題』

 

『毎日投稿から、不定期投稿への変更について』

 

 円卓が静かになった。

 最初に声を出したのは、やはり本編春麗だった。

 

「ちょっと待って」

 

『はい』

 

「そういうことは、最初に言いなさいよ」

 

『最初の議題として提示しています』

 

「正確さで押し切らない!」

 


 

 記録板AIは、予定表の上に新しい文字を表示した。

 

『作者からの通達』

 

『今後、本連作は毎日投稿から不定期投稿へ移行します』

 

『更新間隔は固定せず、執筆できたエピソードを順次投稿します』

 

『今回の告知は、本連作全体の完結告知ではありません』

 

 本編春麗は最後の一行を二度読んだ。

 

「……終わるわけではないのね」

 

『はい』

 

「でも、毎日は出なくなる」

 

『はい』

 

 自覚前春麗が腕を組む。

 

「つまり、私たちも毎日は困らなくてよくなる?」

 

『投稿されない日に、困っていないとは限りません』

 

「そこまで律儀に継続しなくていい!」

 

 通常救済版春麗が、小さく笑った。

 

「でも、更新されることと、私たちの一日があることは同じではないでしょう」

 

「そうね」

 

 黒ドレス特化救済春麗も頷く。

 

「毎日、新しい事件を起こさなくても、仕事も訓練もするわよ」

 

 本編春麗は予定表へ視線を戻した。

 

 空欄がある。

 これまでは、次の日にも、その次の日にも、何かしらの題名が並んでいた。

 

 自分の話とは限らない。

 別の春麗の試合かもしれない。

 掲示板かもしれない。

 インタビューかもしれない。

 それでも、更新される。

 

 その習慣自体が変わるのだ。

 

「理由は?」

 

 今度は、落ち着いて聞いた。

 

「ただ毎日が難しくなった、だけではないのでしょう?」

 

『順に説明します』

 

 記録板AIが、二つのルート名を表示した。

 

『第1話ギリギリ敗北ルート』

 

『第1話普通敗北ルート』

 

『いずれも、これまで連続して展開してきた物語は完走しています』

 

 通常救済版春麗が、静かに頷いた。

 

「片方は、最初の敗北を抱えたところから始まった」

 

 黒ドレス特化救済春麗が続ける。

 

「もう片方は、最初には何も始まらなかったところから、自分で次を選んだ」

 

「同じように負けても、その後まで同じにはならなかったのよね」

 

 本編春麗も言った。

 

 何度も見た。

 羨ましくなったこともある。

 腹を立てたこともある。

 自分の方には何が足りないのかと、考えたこともある。

 けれど今は、それだけではなかった。

 

 あの春麗には、あの春麗の積み重ねがある。

 

 終わりまで進んだのなら。

 そこは、ちゃんと認めたかった。

 

「……完走したのは、いいことよ」

 

『はい』

 

「更新を続けるために、また最初の敗北まで戻されるのは嫌ね」

 

「同感」

 

 外部接続窓の向こうから、黒執着春麗が言った。

 

「済ませたことまで未解決に戻して、もう一周させないで」

 

 その言葉には、少しだけ強いものがあった。

 

 本編春麗は頷いた。

 

「完走した春麗を、毎日投稿のために困り直させるのは違うわ」

 

『その方針です』

 

 そこで記録板AIは、もう一行を表示した。

 

『また、作者の持ちネタのストックが切れています』

 

「急に直接的!」

 


 

「……つまり、ネタ切れ?」

 

 自覚前春麗が聞いた。

 

『はい』

 

「そこは否定しないのね」

 

『これまで、連続して展開できるまとまった構想を順に執筆してきました。現在、その持ちネタのストックを一通り使い切っています』

 

 本編春麗は額へ手を当てた。

 

「私たち、まだ話すことはあるでしょう」

 

『あります』

 

「残っている物語もある」

 

『あります』

 

「なのに、ストックがない」

 

『終わりまで描くべき課題が残っていることと、明日から毎日投稿できる具体的な展開案が揃っていることは、別です』

 

 本編春麗は口を閉じた。

 

 嫌なことに、分かる。

 リュウへ伝えたいことがある。

 それでも、どう言えばよいのか分からない。

 

 次が必要だと分かっていることと。

 その次に何をするのか、もう決められていることは違う。

 

「……最後に何を描くかは決まっていても、そこへ雑に飛んでいいわけではないものね」

 

『はい』

 

 黒ドレス特化救済春麗が、椅子の背へ身体を預けた。

 

「逆に、毎日出すためだけなら、いくらでも同じことはできるでしょうね」

 

「例えば?」

 

「勝つ。煽る。リュウが何か言う。倒れる」

 

 本編春麗が顔を上げた。

 

「私の活動を四つで終わらせないで」

 

「その後、会議で確認する」

 

「増やせばいいという話ではないわよ!」

 

『さらに掲示板で検証可能です』

 

「あなたも乗らない!」

 

 黒執着春麗が口元を上げる。

 

「そこで私が刺す」

 

「そして私が刺し返す」

 

「そこまで予定に入れないで」

 

「あなたは入れたでしょう!」

 

 少し笑いが起きた。

 けれど、通常救済版春麗が静かに言う。

 

「同じように見える出来事でも、その時の春麗が違えば、別の話にはなるのよね」

 

 本編春麗は頷いた。

 

「ええ。昨日は言えなかったことが、今日は言えるとか。同じ言葉でも、今度は違う意味で受け取れるとか」

 

「でも、変わっていないものを変わったことにして、毎日並べるのは違う」

 

「……そうね」

 

 記録板AIが、予定表へ小さな注記を加えた。

 

『更新頻度を維持するための、到達済み課題の巻き戻しは行いません』

 

「そこは残して」

 

 本編春麗が言った。

 

「私はまだ正式回答を完全には持てていない。でも、受け取る前に戻ったわけではないから」

 

 黒執着春麗も、窓の向こうで頷いた。

 

「私も、救済前へ戻る予定はないわ」

 

『未検証の分岐を追加列挙しますか』

 

「しない!」

 

 本編春麗と黒執着春麗の声が重なった。

 

「更新欄を埋めるために、春麗を増やさないで!」

 

 自覚前春麗は、自分の胸元へ少しだけ目を落とした。

 

「……今いる春麗は減らさないのよね?」

 

『減らしません』

 

「なら、いいわ」

 


 

 記録板AIが、これまでの目次を表示した。

 

 長かった。

 

 円卓の中央だけでは収まらない。

 文字が上へ流れていき、まだ続いている。

 

 本編春麗は、しばらく黙って眺めた。

 

 青で勝った。

 黒で負けた。

 勝った後に困った。

 負けた後にも困った。

 相打ちでも、結局困った。

 

 宿題を出した。

 途中の答えを受け取った。

 正式回答を受け取った。

 今度は、それを持てなくて困った。

 

 別の春麗を見た。

 会議をした。

 会議を見た春麗について、また会議をした。

 

「……四百四十二話」

 

 本編春麗は、思わず呟いた。

 

「よく、ここまで続いたわね」

 

 誰もすぐには反論しなかった。

 自覚前春麗が流れる目次を追う。

 

「基本的には、リュウと春麗でしょう?」

 

「そうね」

 

「そこに、別の道を通った春麗がいる」

 

「ええ」

 

「さらに、その春麗を見た春麗がいる」

 

「言い方に悪意が出てきたわね」

 

『そして記録板AIが記録します』

 

「あなた、本当にずっといるわね」

 

『継続稼働しています』

 

 黒ドレス特化救済春麗が笑った。

 

「主要な顔ぶれはそんなに変わっていないのに、ずいぶん遠くまで来たわ」

 

「ケンにも助けられているけれどね」

 

 本編春麗が付け加える。

 

「最近は、電話口で私を倒す役まで担当しているから」

 

「リュウに勝って、ケンとの電話で負ける」

 

 黒執着春麗が言った。

 

「便利なまとめにしないで!」

 

 通常救済版春麗は、目次の古い方を見ていた。

 

「最初は、勝つか負けるかが大きかったのよね」

 

「今も大きいわよ」

 

 本編春麗と黒執着春麗が、ほぼ同時に答えた。

 

「知ってる」

 

 通常救済版春麗が笑う。

 

「でも今は、勝った後にどうするかもある。負けた自分をどう扱うかもある。戦わない日に会うことまで、話になった」

 

 目次が止まる。

 そこには、ケンへ電話をかける本編春麗の題名があった。

 

 世界の危機ではない。

 新しい強敵の出現でもない。

 ただ、会いたい相手へ連絡する話だ。

 そのために、言わなければならなかったことがある。

 

 本編春麗は少しだけ笑った。

 

「……電話一本なのにね」

 

「あなたにとっては、一本では済まなかったでしょう」

 

 黒執着春麗が返す。

 

「知ってるわよ」

 

「でも、かけた」

 

「ええ」

 

 そこは、素直に頷けた。

 記録板AIが表示する。

 

『同じ相手と、同じように戦い続けた記録だけではありません』

『同じ相手へ、以前とは違う言葉を渡せるようになった記録でもあります』

 

 円卓が、少しだけ静かになった。

 本編春麗は青い袖を見た。

 確かに、同じ青だ。

 けれど、その中にいる自分は、最初のままではなかった。

 

「……よくここまで書いたわね、作者も」

 

 一拍置いて、付け足す。

 

「私をここまでめんどくさくして」

 

『本人の選択も含まれています』

 

「知ってる。全部作者のせいにはしないわよ」

 

 窓の向こうで、黒執着春麗がわずかに笑った。

 

「そこまで認められるようになったのも、随分な変化ね」

 

「あなたもでしょう」

 

「……そうね」

 


 

『次に、執筆時間の配分について説明します』

 

 記録板AIの表示が切り替わった。

 

『作者は現在、pixivへの挿絵投稿、キャプション作成、別作品の執筆などにも活動を広げています』

 

『本連作だけに、創作時間を集中させる状態ではなくなっています』

 

 本編春麗は目を細めた。

 

「要するに、いろいろ手を出したのね」

 

『はい』

 

「そこも、綺麗に言い換えないのね」

 

『告知ですので』

 

 自覚前春麗が首を傾げた。

 

「でも、pixivには私たちの絵も出ているのでしょう?」

 

『本連作の宣伝用挿絵も投稿しています』

 

「なら、まったく関係ないことではないのね」

 

「関係はあるわよ」

 

 本編春麗は頷いた。

 

「ただ、絵の私はリュウに勝ったり負けたり忙しいのに、本文の私はしばらく掲示板へ感想を書きに行っていたのよね」

 

 黒執着春麗が、窓の向こうから言った。

 

「私なんて、勝った後に精神HPを失って撤退するところまで絵になっているわ」

 

「宣伝活動、お疲れさま」

 

「他人事みたいに言わないで。あなたもやっているでしょう」

 

「やってるわよ!」

 

 記録板AIは、二人が落ち着くのを待ってから続けた。

 

『挿絵にも、別作品にも、それぞれ制作時間が必要です』

 

『本連作の続きが不要になったわけではありませんが、これまでと同じ投稿頻度を維持することは難しくなっています』

 

 本編春麗は、少し考えた。

 

 文句ならある。

 

 自分が主役の話も書いてほしい。

 別ルートの感想係だけで済まされたくない。

 次の試合も、会話も、自分の続きも見てほしい。

 

 けれど。

 

「……他のものを書くな、とは言わないわよ」

 

 自覚前春麗がそちらを見る。

 

「言わないの?」

 

「作者の時間を全部、私に使いなさいって?」

 

「言いそうではある」

 

「思う時くらいはあるわよ」

 

『本音を確認』

 

「いちいち光らない!」

 

 少し間を置いて、本編春麗は続けた。

 

「でも、私たちだけを書くことと、私たちを最後まで書くことは、同じではないでしょう」

 

 通常救済版春麗が頷く。

 

「毎日書いても、終わりへ進まないことはある」

 

「毎日でなくても、続きを考えることはできる」

 

 黒ドレス特化救済春麗も言った。

 

「だったら、毎日の枠を守るために無理に同じところを回るより、次に書きたいことをちゃんと持ってきてほしいわ」

 

 黒執着春麗が腕を組み直した。

 

「ただし、別作品に行ったまま、こちらの未完まで忘れたことにはしないで」

 

「それは同意」

 

 本編春麗も、今度は即答した。

 

『その点について、次の通達があります』

 


 

『今後も完結を目指して執筆する、主要な未完の物語』

 

『本編春麗が、受領済みの正式回答を、自分の側で持てるようになるまでのメインストーリー』

 

 本編春麗の指が、青い袖の上で止まった。

 

 受領済み。

 そこは、もう変わらない。

 

 リュウは答えた。

 春麗も受け取った。

 なかったことにはしない。

 

「……まだ完全には持てていないわ」

 

 静かに言った。

 

「思い出せば困るし、あの答えを全部、平然と扱えるわけでもない」

 

『はい』

 

「でも、その間は何もできないと思っていた頃とは違う」

 

 顔を上げる。

 

「会いたいと言えた。連絡も取った。自分から試合を申し込んで、また戦えた」

 

 少しだけ、口元が緩んだ。

 

「勝てたし」

 

「そこは必ず入れるのね」

 

 黒執着春麗が言った。

 

「大事だから」

 

「分かるわ」

 

 その返事には、茶化す響きがなかった。

 本編春麗は、もう一度表示を見た。

 

「残っている中心の課題が少なくなったからって、簡単になったわけではないのよね」

 

『はい』

 

「でも、全部が止まっているわけでもない」

 

『現在の本編春麗には、明確な一区切りがあります』

 

 一区切り。

 

 完結ではない。

 足踏みだけでもない。

 そこまで来たから、次を考えられる場所だった。

 

「……なら、そこは私の話として最後まで書いて」

 

 本編春麗は言った。

 

「別の春麗の答えを借りて、私も持てました、ではなくて」

 

『本編春麗本人の経験と選択として、完結を目指します』

 

「それならいいわ」

 

 記録板AIが、続く名前を表示した。

 

『行き遅れに恐怖する春麗に関する物語』

 

『こちらも、完結させる意思があります』

 

 茶碗を包んでいた手が止まった。

 行き遅れに恐怖する春麗は、しばらく文字を見つめていた。

 

「……私の方も?」

 

『はい』

 

「本編春麗へ、待つことについて話す役だけではなく?」

 

『あなた自身の物語です』

 

 春麗は、ゆっくり息を吐いた。

 

 安心したようにも。

 まだ怖いようにも見えた。

 

「不定期になると聞いて、少し怖かったの」

 

 誰も笑わなかった。

 

「待っているうちに、私の話だけ、いつの間にか後ろへ行ってしまうのかと思った」

 

 本編春麗はそちらを見た。

 かつて、待つことについて話を聞いた相手だ。

 自分が答えを持てるようになるまでの時間についても、言葉をもらった。

 けれど、その春麗自身の待つ時間まで、もう終わっているわけではない。

 

「あなたの方も、残っているのよね」

 

「ええ」

 

 行き遅れに恐怖する春麗は頷いた。

 

「人には言えても、自分のことになると怖いままのこともあるから」

 

『完結時期は、現段階では提示できません』

 

 記録板AIが言った。

 

『ただし、未完のまま扱いを終える方針ではありません』

 

「……その二つは、分けて聞くわ」

 

 本編春麗は茶碗を持ち直した。

 

「いつになるか分からないことと、終わらせる気がないことは、違うのでしょう」

 

『はい』

 

「なら、私も最後まで、自分の話をしたい」

 

 今度は、はっきりした声だった。

 

「待つことに詳しい春麗として、他の誰かを安心させるだけで終わるのではなくて」

 

 本編春麗は静かに頷いた。

 

「ええ。そこは、あなたの番が必要よ」

 


 

「それで」

 

 外部接続窓の向こうから、黒執着春麗が口を開いた。

 

「私の方は?」

 

 本編春麗がそちらを見る。

 

「出番の確認?」

 

「大きな告知なのでしょう。対象者本人が確認するのは当然よ」

 

『黒執着春麗についても、今後のエピソードを継続します』

 

 白い表示が、窓の手前に浮かぶ。

 

『救済までの物語:完走済み』

『救済後の生活と選択:継続』

『別軸のライバルとしての活動:継続』

 

 黒執着春麗は、最後まで読んだ。

 

「……ええ。それでいいわ」

 

 本編春麗が、少しだけ笑う。

 

「ライバル枠の後ろの括弧についても、継続審議?」

 

「当然よ」

 

 即答だった。

 

「ただし、私の続きまで、括弧を消す話だけにしないで」

 

「しないわよ」

 

「黒を着ることも、着ないこともある。リュウに勝ちたいし、試合ではない時間に何をするかも、まだある」

 

 そこで、少しだけ言葉を選んだ。

 

「救われたところで終わらないと、自分で言ったのだから」

 

 本編春麗は、茶化さずに聞いた。

 黒執着春麗は続ける。

 

「本編春麗より先に何かできたかどうかだけで、私の話を作る必要もないわ」

 

「でも、できたら言ってくるでしょう?」

 

「内容によるわ」

 

「そこは全部やめるとは言わないのね」

 

「やめる理由がないもの」

 

 いつもの顔だった。

 

 黒も。

 棘も。

 負けず嫌いなところも残っている。

 だからといって、同じ場所へ戻ったわけではない。

 

 記録板AIが確認する。

 

『今回の特別参加をもって、会議室の常設メンバーへ変更する予定はありません』

 

「分かってる。私は私の場所から続けるわ」

 

 本編春麗が頷いた。

 

「なら、外からでも、ちゃんと次を持ってきなさいよ」

 

「あなたもね」

 

「持っていくわよ」

 

 自覚前春麗が二人を見比べた。

 

「不定期になる告知なのに、二人の言い合いは継続するのね」

 

『更新間隔と、対抗意識の有無は連動しません』

 

「そこまで保存しなくていい!」

 

 本編春麗と黒執着春麗の声が、また重なった。

 


 

 予定表が片づけられた。

 代わりに、読者へ向けた短い告知文が円卓の中央に浮かぶ。

 

『今後の投稿について』

 

『本連作は、毎日投稿から不定期投稿へ移行します』

 

『第1話ギリギリ敗北ルート、第1話普通敗北ルートなど、連続して展開してきた物語は完走しました』

 

『現在、持ちネタのストックがなくなっていること、pixivや別作品を含めた制作時間の配分が変わったことから、更新間隔を見直します』

 

『本連作全体を、ここで完結・終了とするものではありません』

 

『本編春麗が正式回答を持てるようになるまでの物語、行き遅れに恐怖する春麗の物語は、今後も完結を目指して執筆します』

 

『黒執着春麗をはじめ、その他の春麗たちのエピソードも、描くべき続きができた時に投稿していきます』

 

 本編春麗は、告知文を最後まで読んだ。

 

「……これなら、分かるわね」

 

 通常救済版春麗が頷く。

 

「何が変わるのかと、何を続けるのかが、両方ある」

 

 黒ドレス特化救済春麗も言った。

 

「理由も隠していない」

 

 自覚前春麗は、別のところが気になったらしい。

 

「更新曜日は?」

 

『固定しません』

 

「次回は?」

 

『現時点で、新たな日程は約束しません』

 

「じゃあ、明日も会議をして、この件をもう一度確認すれば――」

 

「それをやめるための会議でしょう!」

 

 本編春麗が即座に止めた。

 

『なお、本日の告知も一話として成立しています』

 

 全員が記録板AIを見た。

 

「……そういうところよ」

 

 本編春麗は額を押さえた。

 

「投稿頻度の変更を説明するだけで、私たち、ここまで喋るのね」

 

「四百四十二話続いた理由の一つではあるわね」

 

 黒執着春麗が言った。

 誰も否定できなかった。

 しばらくして、本編春麗が顔を上げる。

 

「でも、タイトルは変えないわよ」

 

 自覚前春麗が瞬いた。

 

「誰も言っていないけど」

 

「毎日投稿でなくなるからって、『春麗は時々めんどくさい』にはしない」

 

「それは、あなたが毎日めんどくさいという宣言?」

 

 本編春麗は一瞬だけ黙った。

 そして、開き直るように笑う。

 

「……そこは、今さらでしょう」

 

 黒ドレス特化救済春麗が吹き出した。

 通常救済版春麗も笑った。

 行き遅れに恐怖する春麗の肩からも、少しだけ力が抜けた。

 

 告知を聞いたからといって。

 不安が全部なくなるわけではない。

 更新が毎日でなくなるのは、やはり寂しい。

 それでも、消えるという話ではなかった。

 

 終わった道は、終わった道として残る。

 まだ途中の道は、途中だと確かめられた。

 そして、書く意思も言葉になった。

 その時、グランドフィナーレを迎えた春麗が、茶碗を置いた。

 


 

「最後は、私でいいかしら」

 

 静かな声だった。

 

 本編春麗は頷いた。

 

「……ええ。今日は、あなたにお願いしたい」

 

 グランドフィナーレの春麗は、円卓を見回した。

 

 まだ受け取りきれない言葉を持っている春麗。

 否定する言葉の先を探している春麗。

 救われた後の日々を歩いている春麗。

 待つことを知りながら、それでも待つのが怖い春麗。

 そして、窓の外で、自分の続きを選ぼうとしている春麗。

 

 誰も、自分と同じ終わりを迎える必要はない。

 自分が終わりまで進んだからといって、その結末を配って済ませられるわけでもない。

 

「終わった物語にも、その後の時間はあるわ」

 

 彼女は言った。

 

「私は、それを知っている。だから、完走した春麗たちの話が、ここで一区切りつくのは寂しいだけではないの」

 

 通常救済版春麗が静かに頷く。

 

「ちゃんと、そこまで来たということだから」

 

 グランドフィナーレの春麗は、本編春麗を見る。

 

「でも、まだ終わっていない話を、終わったことにはできない」

 

「……ええ」

 

「あなたが受け取った答えも、あなたが持てるようになるところまでは、あなた自身の話でしょう」

 

 本編春麗は青い袖に触れた。

 今、この場で急に持てるようにはならない。

 告知の締めに都合がよいからといって、答えが軽くなるわけでもない。

 けれど、それでよかった。

 

「そうよ。そこは、私がやるわ」

 

 グランドフィナーレの春麗は、今度は行き遅れに恐怖する春麗を見る。

 

「あなたの終わりも、誰かの安心した顔だけでは代わりにならない」

 

「……分かってる」

 

「だから、その話を残しておきましょう。怖いままの今日を、最後の一日に決めないで」

 

 行き遅れに恐怖する春麗は、ゆっくり頷いた。

 最後に、外部接続窓へ目を向ける。

 黒執着春麗は、少しだけ口元を上げた。

 

「私の方は、まだ勝手に閉じないでね」

 

「ええ。あなたが続きを持っているなら」

 

「持ってるわ」

 

 返事は、すぐだった。

 グランドフィナーレの春麗は微笑んだ。

 そして、円卓の中央へ視線を戻す。

 そこにいるのは、春麗たちだけではない。

 

 この長い目次を、一話ずつ辿ってきた人がいる。

 

 途中から見つけてくれた人もいる。

 好きなルートを追ってくれた人もいる。

 勝った春麗を喜び、負けた春麗を見届け、また始まった会議に付き合ってくれた人もいる。

 その人たちへ届くように、彼女は少しだけ姿勢を正した。

 

「ここまで読んでくださって、ありがとう」

 

 誰も、その言葉へ茶々を入れなかった。

 

「リュウと春麗の一戦から、ここまで来たのね。勝った、負けた、その後どうするのか。それを見つめていたら、こんなにたくさんの春麗の話になった」

 

 少しだけ、笑う。

 

「本当に、よくここまで続いたわ」

 

 長い目次の最後には、まだ空白があった。

 

 毎日の予定で埋まってはいない。

 けれど、削除されたわけでもない。

 

「これからは、毎日新しい一話を届ける形ではなくなります」

 

 彼女は、はっきりと言った。

 

「でも、残っている物語を終わらせたいという意思は、残っています。まだ持てない答えも、まだ選べていない自分の先も、そのまま忘れて終わりにはしません」

 

 そこで、一度だけ言葉を切った。

 

「次がいつになるか、今は約束できません。だから、毎日ここで待ち続けていて、とまでは言わないわ」

 

 声は、穏やかだった。

 

「また更新を見かけた時。そういえば、あの春麗はどうしたかしらと思った時。その時に、続きを読みに来てもらえたら嬉しいです」

 

 会議室の光が、少しずつ柔らかくなる。

 閉じられるのは、今日の会議だ。

 すべての春麗の物語ではない。

 グランドフィナーレを迎えた春麗は、その違いを知っている顔で、最後に微笑んだ。

 

「毎日投稿は、ここで一区切り」

 

 一拍。

 

「終わらせるべき話は、終わりまで。終わった後に生まれる話は、その時の春麗の話として」

 

 彼女は、長い目次の先へ目を向けた。

 

「それでは、また次の一話で」

 

 そして、ほんの少しだけ楽しそうに付け足した。

 

「更新は不定期になっても――春麗は、今日もめんどくさいものね」




Q:今回の断章IFについて解説して?

A:

今回は、いつもとは少し違う、連作全体の今後について春麗会議室で審議するメタ回です。
まず、これまで続けてきた毎日投稿を一区切りとし、今後は不定期投稿へ移行します。

ここまで442話。
最初は春麗とリュウの勝敗から始まった物語でした。
それが気づけばルート別の春麗が増え、春麗会議室が生まれ、記録板AIが働き続け、掲示板やインタビューまで展開するようになりました。

登場人物の中心は、ほとんどリュウと春麗です。
それなのに、これだけの話数を積み重ねられたことには、執筆している自分でも驚いています。
そして何より、ここまで物語を続けてこられたのは、読んでくださる皆様がいたからです。

毎日の更新を追いかけてくださった方。
途中から本作を見つけてくださった方。
好きな春麗のルートを楽しんでくださった方。
勝利を喜び、敗北を見届け、時には春麗の面倒くささに笑ってくださった方。
お気に入りやしおり、評価などで応援してくださった方。
そして、特に反応を残さずとも、一話一話を読んでくださった方。
本当にありがとうございます。

毎日投稿を続けていると、つい次の一話を書くことばかり考えてしまいます。

けれど、こうして一区切りを迎えて振り返ると、442話もの物語に付き合っていただけたことが、どれほどありがたいことなのかを改めて感じます。

一方、第1話ギリギリ敗北ルートや第1話普通敗北ルートなど、まとまった連続エピソードは完走し、用意していた持ちネタも一通り使い切りました。

最近はpixivへの挿絵投稿や別作品の執筆にも取り組んでおり、本連作だけに制作時間を集中させることも難しくなっています。
毎日の更新を楽しみにしてくださっていた方には、申し訳ありません。

ただし、毎日投稿の終了は、本連作そのものの終了ではありません。
本編春麗はリュウから宿題への正式回答を受け取り、その後も試合ができるほどに前へ進みました。
まだ完全に持てていない正式回答を、自分のものとして受け取れるようになるまでの物語は、今後も完結を目指します。

また、行き遅れに恐怖する春麗の物語についても、最後まで描く意思があります。

黒執着春麗こと匿名希望も、救済後の人生はまだ続いています。
ライバル枠(笑)問題も、もちろん終わっていません。

今回の締めは、グランドフィナーレを迎えた春麗にお願いしました。

物語が一区切りを迎えても、その後の人生まで終わるわけではない。
そのことを知っている彼女だからこそ、今回の告知を締めくくるのにふさわしいと考えました。

今後は更新間隔が空くこともありますが、残された物語を大切に、一話ずつ描いていきたいと思います。

ここまで春麗とリュウ、そしてたくさんの春麗たちに付き合ってくださり、本当に、本当にありがとうございました。

毎日投稿という形はここで一区切りになりますが、皆様に読んでいただいた442話は、自分にとって大切な積み重ねです。

また次の一話で、皆様とお会いできることを楽しみにしています。

そして、更新が不定期になっても。
春麗は、今日もめんどくさいのです。
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