また戦ってくれ――リュウと春麗、紙一重のライバル譚――   作:エーアイ

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リュウ視点です。


春麗は、青の先で待たれる(裏)

 リュウは、春麗を待っていた。

 

 修行場の空気は静かだった。

 夜風が石畳を撫で、遠くの灯りがかすかに揺れている。

 

 だが、リュウの中は静かではなかった。

 

 前回の戦いが残っている。

 

 青い武道服の春麗。

 迷いのない踏み込み。

 黒で覚えたものを残したまま、青の速度で先へ行く春麗。

 

 そして、自分が口にした言葉。

 

 「俺は、今日の青が好きだ」

 

 リュウは、その言葉を思い返して、わずかに眉を動かした。

 

 おかしなことを言ったつもりはなかった。

 

 あれは戦いの評価だった。

 

 迷いがない。

 速い。

 だが、黒で得たものも残っている。

 

 あの青は、よかった。

 

 だから、そう言った。

 

 けれど春麗は、一瞬止まった。

 

 ほんの一瞬だった。

 だが、リュウは見ていた。

 

 春麗の呼吸が、わずかに変わった。

 

 リュウは、まだその意味を完全にはわかっていない。

 

 だが、わかることもある。

 

 春麗に対する言葉は、簡単に置いていいものではない。

 

 春麗は、ただ速いだけではない。

 ただ強いだけでもない。

 ただ青い武道服を着ているだけでもない。

 

 春麗が青を選ぶ時、そこには意味がある。

 

 黒を選ぶ時にも、意味がある。

 

 そして、前回の春麗は青だった。

 

 その青を、リュウは見た。

 触れた。

 追った。

 だが、最後には相打ちだった。

 

 リュウは思う。

 

 青を追ってはいけない。

 

 春麗の青は速い。

 

 その速度を拳で追えば、遅れる。

 戻りを追えば、戻らない場所へ外される。

 戻らないと読めば、戻る一瞬を取られる。

 

 春麗は、見られていることをもう知っている。

 

 だから、見れば勝てるわけではない。

 

 リュウは手を握った。

 

 では、どうする。

 

 青を見る。

 だが、追わない。

 

 戻りを見る。

 だが、戻りだけを待たない。

 

 春麗がどこへ行くかを見る。

 

 いや、それだけでも遅い。

 

 春麗が、どこへ行きたがるか。

 

 春麗が、勝ちに行く場所。

 

 青が先に行くなら、その先へ。

 

 リュウは、ゆっくり息を吐いた。

 

 今日の課題は、それだった。

 

 春麗が来た。

 

 青い武道服だった。

 

 黒ではない。

 

 だが、ただの青でもない。

 

 前回より、さらに静かだった。

 前回より、さらに整っていた。

 

 リュウは見た。

 

 青い袖。

 足の置き方。

 帯の締まり。

 呼吸。

 目。

 

 春麗は少し笑った。

 

 「今日は青よ、リュウ」

 

 リュウは答えた。

 

 「見ている」

 

 見ている。

 

 ただし、追うためではない。

 

 春麗は言う。

 

 「そう。なら、置いていかれないことね」

 

 リュウは構えた。

 

 春麗が動いた。

 

 速い。

 

 やはり、速い。

 

 青は、来る前にそこにいる。

 見てから拳を出せば、もう遅い。

 春麗の踏み込みは浅く見えて深い。

 戻ったように見えて、戻らない。

 

 リュウの拳が空を切る。

 

 春麗は内側に入っていた。

 

 掌底。

 

 胸に入る。

 

 浅い。

 

 だが、息が少し乱れた。

 

 「遅いわ」

 

 春麗の声が近い。

 

 リュウは下がらなかった。

 

 下がれば、また先へ行かれる。

 

 追えば、置いていかれる。

 

 なら。

 

 リュウは半歩だけ前へ出た。

 

 春麗を追うのではない。

 

 春麗が次に使う場所を消す。

 

 春麗の目がわずかに細くなった。

 

 気づいた。

 

 リュウはそう思った。

 

 春麗は距離を変える。

 

 低い蹴り。

 戻り。

 戻ると見せて、違う角度。

 

 リュウは追わない。

 

 拳を出したい場所はあった。

 だが、そこへ出せば春麗に外される。

 

 春麗は、こちらが拳を出したい場所を知っている。

 

 だから、リュウは拳を遅らせた。

 

 待つのではない。

 

 置く場所を変える。

 

 春麗の肩をかすめる。

 

 浅い。

 

 だが、触れた。

 

 春麗はすぐに横へ抜けた。

 

 青の速度。

 

 そこからまた先へ行く。

 

 リュウは追わない。

 

 だが、離れない。

 

 春麗がどこへ戻るかではない。

 どこへ戻らないかでもない。

 

 春麗が、勝ちに行くためにどこへ身体を運ぶか。

 

 そこを見る。

 

 春麗が笑った。

 

 「いいわね」

 

 その声に、リュウは返さなかった。

 

 返す余裕はなかった。

 

 春麗はまだ速い。

 

 そして、強い。

 

 リュウの腕に蹴りが入る。

 肩を押される。

 脇腹を削られる。

 

 春麗の青は、軽い。

 だが、軽いから弱いのではない。

 

 軽いから、先へ行く。

 

 黒のように場を重くしない。

 だが、黒で得たものを捨ててもいない。

 

 リュウは、春麗の青に黒の残り香を見る。

 

 視線を使う。

 見られていることを使う。

 こちらがどこを見たかを利用する。

 

 春麗は青でも、もう春麗だった。

 

 リュウは息を整える。

 

 速さを追うな。

 

 青を捕まえようとするな。

 

 春麗が先に行くなら、その先で待て。

 

 春麗の蹴りが、脇腹に入った。

 

 リュウの身体が揺れる。

 

 痛い。

 

 呼吸が崩れる。

 

 春麗が続ける。

 

 ここで決めに来る。

 

 リュウはわかった。

 

 春麗の動きが、ほんのわずかに変わった。

 

 勝ちに行く動き。

 

 速さの中に、迷いがない。

 青のまま、深く入ってくる。

 

 その場所。

 

 リュウは、そこへ身体を置いた。

 

 拳ではない。

 

 まず、身体。

 

 春麗が来る場所に、自分の身体を置く。

 

 春麗の目が見開かれた。

 

 リュウは踏み込む。

 

 春麗が蹴りを捨てる。

 掌底へ切り替える。

 

 速い。

 

 さすがに速い。

 

 春麗の掌底が胸に入った。

 

 深い。

 

 息が止まる。

 

 だが、リュウの拳も春麗に届いていた。

 

 青い武道服の脇腹へ。

 

 重さを置く。

 

 春麗の膝が落ちかける。

 

 だが、落ちない。

 

 春麗は、落ちない。

 

 肩を打たれる。

 

 リュウの身体も崩れる。

 

 近い。

 

 春麗の呼吸が近い。

 青い袖が揺れる。

 目が見える。

 

 春麗は、さらに一撃を入れようとしている。

 

 その目に、ほんの一瞬、別の色が入った。

 

 揺れ。

 

 戦いの中の揺れ。

 

 リュウは、それが何なのかを完全には言えない。

 

 けれど、わかった。

 

 今だ。

 

 春麗はすぐに戻る。

 一瞬で戦いに変える。

 

 なら、その前に行く。

 

 リュウは拳を出した。

 

 春麗の肩に入る。

 

 浅くない。

 

 同時に、春麗の蹴りがリュウの膝を打った。

 

 足が崩れる。

 

 石畳が近づく。

 

 リュウは手をついた。

 

 落ちるな。

 

 ここで落ちれば相打ちだ。

 

 春麗の青へ届いた意味が消える。

 

 リュウは歯を食いしばり、膝を残した。

 

 春麗は片膝をついた。

 

 リュウも落ちかけた。

 

 だが、立っていた。

 

 ほんの少し。

 

 ほんの半呼吸。

 

 立っていたのは、リュウだった。

 

 勝った。

 

 そう思った瞬間、リュウはすぐに違うと思った。

 

 勝った。

 

 だが、勝ちきってはいない。

 

 春麗は片膝をついている。

 だが、目は折れていない。

 

 青はまだ終わっていない。

 

 今日の青に、ほんの少し届いただけだ。

 

 春麗は見上げていた。

 

 悔しそうだった。

 

 それでも、口元に笑みがある。

 

 「……やるじゃない」

 

 リュウは息を整える。

 

 胸が痛い。

 膝も痛む。

 肩も重い。

 

 立っているだけで精一杯だった。

 

 けれど、言葉は出た。

 

 「速さの先が見えた」

 

 春麗の目が、わずかに変わった。

 

 その変化を、リュウは見た。

 

 言葉が届いたのかもしれない。

 

 リュウには、まだその届き方がわからない。

 

 だが、春麗の中で何かが動いたことはわかった。

 

 春麗は笑った。

 

 「見えたなら、次はもっと遠くへ行くわ」

 

 リュウは、すぐに答えた。

 

 「なら、そこへ行く」

 

 それは、考える前に出た言葉だった。

 

 春麗が遠くへ行くなら、そこへ行く。

 

 今日の青の先で待てたなら、次の青の先も見る。

 

 春麗が黒へ戻るなら、黒を見る。

 青を変えるなら、その青を見る。

 意味を変えるなら、その意味を見る。

 

 春麗は立ち上がった。

 

 身体が少し揺れる。

 

 リュウは手を出さなかった。

 

 出してはいけない気がした。

 

 春麗は、自分の足で立つ。

 

 そういう相手だ。

 

 春麗は青い袖を払った。

 

 「今日は、あなたの勝ちね」

 

 リュウは答えた。

 

 「少しだけだ」

 

 本当に、少しだけだった。

 

 春麗は目を細めた。

 

 「ええ。少しだけよ」

 

 その声には、悔しさがあった。

 

 だが、悔しさだけではない。

 

 リュウは、その奥をまだ読めない。

 

 春麗は続けた。

 

 「だから、勘違いしないことね」

 

 「しない」

 

 「次の青は、今日の青じゃないわ」

 

 リュウは言った。

 

 「見る」

 

 春麗は一瞬、黙った。

 

 その沈黙が、リュウには少し不思議だった。

 

 何かを言い間違えただろうか。

 

 いや。

 

 春麗はすぐに背を向けた。

 

 「なら、置いていかれないことね」

 

 リュウは答えた。

 

 「行く」

 

 春麗は振り返らなかった。

 

 青い武道服の背中が、夜の中へ離れていく。

 

 リュウはその背中を見ていた。

 

 勝った。

 

 だが、追いついたわけではない。

 

 今日の春麗が、青で先に行く場所を一度だけ見た。

 

 そこで、ほんの少し立てた。

 

 それだけだ。

 

 リュウは拳を握る。

 

 掌には、まだ春麗の掌底を受けた時の痺れがある。

 膝には蹴りの痛みがある。

 胸には、呼吸を止められた重さが残っている。

 

 春麗の青は、まだ遠い。

 

 今日見えたのは、速さの先。

 

 だが、春麗は次にもっと遠くへ行くと言った。

 

 なら、そこへ行く。

 

 リュウは静かに息を吐いた。

 

 前に、春麗は言った。

 

 黒を待てば、青に遅れる。

 

 リュウは黒を待たないことを覚えた。

 青を追わないことも、少しだけ覚えた。

 

 だが、春麗はそこで止まらない。

 

 黒も変わる。

 青も変わる。

 その意味も変わる。

 

 なら、自分も変わるしかない。

 

 リュウは、春麗が去った方向を見た。

 

 「次の青か」

 

 小さく呟く。

 

 その言葉には、苦さもあった。

 

 楽しさもあった。

 

 今日、リュウは勝った。

 

 だが、勝ったことで、次の春麗がもっと難しくなることもわかっていた。

 

 それでいい。

 

 リュウは拳を下ろした。

 

 春麗が遠くへ行くなら、そこへ行く。

 

 青の先で待てたのは、今日だけかもしれない。

 

 次は、さらに先。

 

 リュウはその先を見に行く。




Q:スキル《青の先で待つ》を得るとリュウは青い武道着の春麗に対して特攻を得るんですか?

A:
はい。執筆者としては、リュウがスキル 《青の先で待つ》 を得たことで、青い武道服の春麗に対する特攻を得たと考えてよいです。

ただし、これは「青春麗に常時有利になる」という意味ではありません。

正確には、

青い武道服春麗の“速度そのもの”ではなく、“青で先に行く戦術”に対する特攻

です。

《青の先で待つ》の効果

このスキルの本質は、

春麗の青を追わないこと
です。

青い武道服の春麗は速い。
だから、リュウがその速度を追うと負けます。

蹴りを見てから反応する。
戻りを見て拳を置く。
青の動きに合わせようとする。

この時点では、春麗の土俵です。

でも今回リュウは違いました。

春麗の速度を追うのではなく、

春麗が青で勝ちに行く場所
春麗が戻る場所ではなく、戻らないことで生まれる場所
春麗が「ここで決める」と入ってくる到達点

を見ました。

だから、青の先で待てた。

これは青い春麗に対する明確な攻略スキルです。

特攻対象は「青そのもの」ではなく「青の勝ち筋」

ここが重要です。

《青の先で待つ》は、青い武道服そのものに対して万能なわけではありません。

特攻対象は、

春麗が青の速度で先に行き、相手の反応遅れを刈る戦術

です。

つまり、次のような春麗には刺さります。

青の速度で先手を取る春麗
戻り偽装で相手の拳を空振りさせる春麗
「考えている一拍」を奪う春麗
リュウが追ってくる前提で、さらに先へ行く春麗
今日のように、勝ちに行く到達点がはっきりしている春麗

このタイプには、リュウはかなり強くなります。

RPG風に言えば、

青速度型春麗への与命中率上昇
戻り偽装への回避補正低下
青の初動優位を一部無効化
終盤の春麗の決め手にカウンター判定発生

という感じです。

ただし「青春麗に完全有利」ではない

ここを勘違いすると危険です。

春麗は今回負けましたが、これは「青が攻略された」わけではありません。

攻略されたのは、今日の青です。

リュウ自身も、

今日の青に、ほんの少し届いただけだ。

という認識でした。

春麗も、

次の青は、今日の青じゃないわ。

と言っています。

つまり春麗は、次に青を更新できます。

リュウが《青の先で待つ》を得たことで、春麗側には次の進化圧がかかります。

春麗側の対抗策

春麗はこのスキルに対して、いくつか対抗できます。

1. 青の到達点を偽装する

リュウは「青が勝ちに行く場所」を見ました。

なら春麗は次に、

勝ちに行く場所そのものを偽装する

ことができます。

行くように見せて、行かない。
決めるように見せて、決めない。
リュウが待つ場所を作らせて、その外へ抜ける。

これは次の青の進化として自然です。

2. 青から黒の重さへ切り替える

リュウが青の先を見られるようになったなら、春麗は黒に戻る手もあります。

青の速度を読む目になったリュウに、黒の責任圧をぶつける。

これはかなり強いです。

青の先を見るようになったのね。
なら今日は、待つ場所ごと黒で潰すわ。

という展開ができます。

3. 青の速度ではなく、青の停止を使う

青は速い。
だからリュウは「先」を見る。

なら春麗は、あえて止まる。

青なのに止まる。
先に行くはずの春麗が、そこで止まる。
リュウが先で待った場所に、春麗が来ない。

これは《青の先で待つ》への強烈なカウンターです。

次のスキル名にするなら、

《青の停止》
《先に行かない青》
《青の空白》

あたりです。

リュウ側のメリット

それでも、《青の先で待つ》は大きいです。

リュウはこれまで、春麗の青に対してどうしても後手でした。

青は速い。
青は軽い。
青は考える前に先へ行く。

でも今回、リュウは初めて青を「追わずに待つ」ことに成功しました。

これは春麗攻略の段階として非常に重要です。

リュウの青対策はこう進化しています。

青に遅れる

青を追う

青の戻りを見る

青を選んだ意味を読む

青の先で待つ

今回ここまで来た。

これは明確に青春麗への特攻獲得です。

特攻の強さ

ゲーム的に言うなら、こんな感じです。

スキル:《青の先で待つ》

対象:
青い武道服春麗の「先行型」「戻り偽装型」「速度押し型」

効果:
・青の速度補正を一部無効化
・戻り偽装への耐性上昇
・春麗の決め手に対してカウンター発生率上昇
・終盤、春麗が勝ちに行く場所を読む確率上昇

弱点:
・春麗が到達点を偽装すると外される
・青の停止、青の空白には弱い
・黒ドレス責任圧には直接対応しない
・春麗の新しい青には再学習が必要

なので、特攻ではあります。

ただし、限定特攻です。

結論

はい。リュウは《青の先で待つ》によって、青い武道服の春麗に対する特攻を得ました。

ただしそれは、

青い春麗全般に勝てる万能特攻ではなく、
“今日までの青が持っていた、速度で先に行く勝ち筋”への特攻

です。

このスキルによって、リュウは青の速度を追わずに、青が勝ちに行く場所で待てるようになりました。

でも春麗は、次にその「待たれる場所」ごと更新してくる。

だからこのスキルは、リュウの勝利フラグであると同時に、春麗の次の青を進化させるトリガーでもあります。
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