また戦ってくれ――リュウと春麗、紙一重のライバル譚――   作:エーアイ

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断章IF:春麗は、訓練ということにする

 

 翌日、春麗は青い武道服で修行場に来た。

 

 黒ではない。

 

 あえて黒ではない。

 

 昨日、黒ドレスで負けた。

 

 女としての自分を武器にして、リュウの視線を奪い、呼吸をずらし、判断を遅らせるはずだった。

 

 だが、途中から自分がリュウの視線を気にしすぎた。

 

 リュウが見ているか。

 どこを見ているか。

 見惚れているか。

 止まるのか。

 止まらないのか。

 

 その確認に意識を奪われた。

 

 そして最後に、

 

 黒を着ていないお前も見る。

 

 と言われて、手が止まった。

 

 負けた。

 

 だから今日は黒ではない。

 

 青。

 

 いつもの青。

 

 だが、春麗は自分でわかっていた。

 

 青を選んだ理由は、逃げではない。

 

 訓練だ。

 

 そう、訓練。

 

 「……訓練よ」

 

 誰に言い訳するでもなく、春麗は小さく呟いた。

 

 リュウはすでに修行場にいた。

 

 相変わらずだ。

 

 いると思えばいる。

 

 来ると思えば来る。

 

 本当に、こちらの都合など考えずに、いつも通り立っている。

 

 春麗は近づいた。

 

 「リュウ」

 

 「春麗」

 

 「今日は訓練よ」

 

 リュウは少しだけ首を傾げた。

 

 「訓練?」

 

 「そう。訓練」

 

 春麗は腕を組む。

 

 「昨日の敗因はわかっているわ。私はあなたに見られることへ反応しすぎた。だから今日は、その反応を抑える訓練をする」

 

 リュウは黙って聞いていた。

 

 春麗は続ける。

 

 「つまり、あなたが私を見る。私は止まらない。あなたが何か言う。私は止まらない。あなたが昨日みたいな余計なことを言っても、私は止まらない」

 

 「わかった」

 

 即答だった。

 

 春麗は眉を寄せる。

 

 「本当にわかっているの?」

 

 「ああ」

 

 「なら、今からあなたは私を見る係」

 

 リュウは少し考えた。

 

 「見る係」

 

 「復唱しないで」

 

 「すまない」

 

 「謝らない」

 

 春麗は青い袖を払った。

 

 「いい? これは訓練よ」

 

 「ああ」

 

 「甘い話ではないわ」

 

 「ああ」

 

 「昨日の続きを確認したいわけでもない」

 

 「ああ」

 

 「私があなたに見られたいとか、そういう話でもない」

 

 リュウは少し黙った。

 

 春麗は目を細める。

 

 「何?」

 

 「違うのか」

 

 春麗は固まった。

 

 「……違うわよ」

 

 「そうか」

 

 「そうよ」

 

 春麗は少しだけ顔を逸らした。

 

 危ない。

 

 開始前から危ない。

 

 この男は、なぜ初手で踏み込んでくるのか。

 

 春麗は深く息を吸う。

 

 「訓練開始」

 

 そう言って、構えた。

 

 リュウも構える。

 

 春麗は一歩踏み込む。

 

 青の春麗は速い。

 

 黒のように視線を絡め取るのではなく、素直に踏み込む。

 

 掌底。

 

 リュウは受ける。

 

 春麗はすぐに引く。

 

 「今、見た?」

 

 「ああ」

 

 「どこを?」

 

 「踏み込み」

 

 「よろしい」

 

 春麗は頷く。

 

 「次」

 

 今度は蹴り。

 

 リュウは受ける。

 

 春麗は距離を取る。

 

 「今は?」

 

 「膝」

 

 「そこは見ていいわ」

 

 「いいのか」

 

 「戦闘中でしょう。当然よ」

 

 「わかった」

 

 春麗はもう一度踏み込む。

 

 掌底を出しかける。

 

 その瞬間、リュウが言った。

 

 「昨日より呼吸が整っている」

 

 春麗の手が止まりかけた。

 

 だが、止めなかった。

 

 掌底はリュウの腕に入る。

 

 リュウが少し下がる。

 

 春麗は着地して、胸の奥を押さえそうになるのをこらえた。

 

 「……今のは危なかったわ」

 

 「そうか」

 

 「そうよ」

 

 「だが、止まらなかった」

 

 春麗は顔を上げる。

 

 「ええ」

 

 少しだけ得意になる。

 

 本当に少しだけ。

 

 「だから訓練は成功に近いわ」

 

 リュウは頷いた。

 

 「もう一度やるか」

 

 「当然よ」

 

 春麗は構え直す。

 

 今度は、あえて近い間合いへ入る。

 

 リュウの視線を受ける。

 

 青の自分を見られる。

 

 黒ではない自分を見られる。

 

 昨日、リュウは「黒を着ていないお前も見る」と言った。

 

 今日は、その確認になってしまっている。

 

 訓練。

 

 訓練だ。

 

 春麗は自分に言い聞かせる。

 

 「リュウ」

 

 「何だ」

 

 「今、私は黒を着ていないわ」

 

 「ああ」

 

 「それでも見る?」

 

 「見る」

 

 即答。

 

 春麗の呼吸が揺れた。

 

 掌底が遅れる。

 

 リュウは受ける。

 

 春麗は自分で気づく。

 

 「……今のは駄目ね」

 

 「遅れた」

 

 「言わなくていいわ」

 

 「すまない」

 

 「謝らない」

 

 春麗は距離を取る。

 

 胸の奥が、じんと熱い。

 

 今のは訓練になっていない。

 

 確認になっている。

 

 自分が聞いて、自分が揺れた。

 

 最悪だ。

 

 でも、やめるつもりはない。

 

 春麗はもう一度構える。

 

 「もう一回」

 

 「ああ」

 

 「今度は、私が何を聞いても、私が止まらない訓練」

 

 リュウは頷く。

 

 「わかった」

 

 春麗は踏み込む。

 

 「黒の私を覚えている?」

 

 「ああ」

 

 掌底。

 

 今度は止まらない。

 

 「女として見た私も?」

 

 「ああ」

 

 蹴り。

 

 止まらない。

 

 「格闘家としてあなたを沈めた私も?」

 

 「ああ」

 

 春麗は続ける。

 

 「昨日、負けた私も?」

 

 「ああ」

 

 春麗の動きが一瞬だけ乱れる。

 

 リュウの手が伸びる。

 

 だが、攻撃ではない。

 

 春麗の腕を軽く支えた。

 

 春麗は止まった。

 

 「……今のは何?」

 

 「崩れた」

 

 「支えなくていいわ」

 

 「倒れそうだった」

 

 「倒れないわよ」

 

 「そうか」

 

 春麗はリュウの手を見た。

 

 腕に触れている。

 

 戦闘中なら、すぐに払う。

 

 だが、今は訓練だ。

 

 反応を抑える訓練。

 

 春麗は、すぐに払わなかった。

 

 「……三秒だけ」

 

 リュウは首を傾げる。

 

 「何がだ」

 

 「このまま」

 

 春麗は視線を逸らす。

 

 「反応を抑える訓練よ」

 

 「そうか」

 

 「そうよ」

 

 リュウの手は、春麗の腕を支えているだけだった。

 

 強く掴まない。

 

 引かない。

 

 止めない。

 

 ただ、崩れかけた春麗を支えている。

 

 春麗は自分の呼吸を数える。

 

 一。

 二。

 三。

 

 「終わり」

 

 春麗はリュウの手を離した。

 

 「合格?」

 

 リュウが聞く。

 

 春麗は少しだけ睨む。

 

 「私が決めるの」

 

 「そうか」

 

 「……合格よ」

 

 言ってしまった。

 

 春麗はすぐに視線を逸らす。

 

 「ただし、訓練として」

 

 「ああ」

 

 「甘やかされたわけではない」

 

 「ああ」

 

 「あなたに支えられて少し安心したとか、そういうことではない」

 

 リュウは少しだけ黙った。

 

 春麗は嫌な予感がした。

 

 「何?」

 

 「そうなのか」

 

 春麗は、青い袖を握った。

 

 「そうよ」

 

 「わかった」

 

 「簡単に納得しないで」

 

 「難しいな」

 

 「難しくしているのはあなたよ」

 

 「俺か」

 

 「あなたよ」

 

 春麗は息を吐いた。

 

 だが、怒りきれない。

 

 本当に、これが問題だった。

 

 怒ればいい。

 

 沈めればいい。

 

 黒なら惑わせて倒せばいい。

 

 青なら速さで抜けばいい。

 

 だが、今日のこれは、戦いではない。

 

 訓練という名の、言い訳だ。

 

 自分がリュウに見られても止まらないための訓練。

 

 自分がリュウに支えられても、呼吸を乱しすぎないための訓練。

 

 自分が、黒でも青でもない甘さに負けないための訓練。

 

 春麗は、そこで気づいた。

 

 すでに負けている気がする。

 

 「……リュウ」

 

 「何だ」

 

 「次は、あなたが言いなさい」

 

 「何を」

 

 「昨日の言葉」

 

 リュウは黙る。

 

 春麗は顔を上げた。

 

 「黒を着ていない私も見る、って言ったでしょう」

 

 「ああ」

 

 「もう一度言いなさい」

 

 リュウは、春麗を見た。

 

 青い春麗を。

 

 黒ではない春麗を。

 

 それでも、黒を知っている視線で。

 

 「黒を着ていないお前も見る」

 

 春麗の胸が、強く跳ねた。

 

 だが、今度は動いた。

 

 一歩踏み込む。

 

 掌底。

 

 リュウが受ける。

 

 春麗は止まらない。

 

 蹴り。

 

 リュウが下がる。

 

 春麗はさらに踏み込む。

 

 「もう一度」

 

 リュウは言った。

 

 「黒を着ていないお前も見る」

 

 春麗は止まらない。

 

 今度は、動きながらその言葉を受けた。

 

 胸は熱い。

 

 呼吸は乱れる。

 

 でも、足は止まらない。

 

 掌底がリュウの胸の前で止まる。

 

 打たない。

 

 寸止め。

 

 春麗は、息を少し乱しながら言った。

 

 「……今のは」

 

 リュウは春麗を見る。

 

 春麗は言う。

 

 「訓練成功ね」

 

 リュウは頷いた。

 

 「ああ」

 

 「あなたの言葉を受けても、止まらなかった」

 

 「ああ」

 

 「でも」

 

 春麗は掌をリュウの胸の前に置いたまま、少しだけ声を落とす。

 

 「ちょっと効いた」

 

 リュウは黙る。

 

 春麗はすぐに顔を上げる。

 

 「訓練結果の報告よ」

 

 「ああ」

 

 「甘えているわけではない」

 

 「ああ」

 

 「確認よ」

 

 「ああ」

 

 「あなたは本当に、返事が少ないわね」

 

 「すまない」

 

 「謝らない」

 

 春麗は掌を下ろした。

 

 リュウとの距離は近い。

 

 近いまま、春麗は少しだけ迷った。

 

 そして、リュウの袖を軽くつまんだ。

 

 本当に少しだけ。

 

 「春麗?」

 

 「動かないで」

 

 「訓練か」

 

 「そうよ」

 

 即答した。

 

 即答したせいで、少し怪しかった。

 

 「これは、私がリュウに触れても余計に動揺しない訓練」

 

 「そうか」

 

 「そうよ」

 

 春麗はリュウの袖をつまんだまま、目を逸らす。

 

 「あなたが私を見る」

 

 「ああ」

 

 「私は止まらない」

 

 「ああ」

 

 「私があなたに触れる」

 

 「ああ」

 

 「私は動揺しない」

 

 リュウは静かに言った。

 

 「少ししている」

 

 春麗は袖をつまむ指に力を入れた。

 

 「言わなくていいわ」

 

 「すまない」

 

 「謝らない」

 

 だが、手は離さなかった。

 

 春麗は小さく息を吐く。

 

 「少しだけよ」

 

 「何がだ」

 

 「少しだけ、動揺している」

 

 リュウは黙る。

 

 春麗は続けた。

 

 「でも、止まっていない」

 

 「ああ」

 

 「だから、訓練としては成功」

 

 「ああ」

 

 春麗は、ようやく袖から手を離した。

 

 少し名残惜しいと思ってしまった。

 

 最悪だ。

 

 春麗はそれを顔に出さないよう、背を向けた。

 

 「今日はここまで」

 

 リュウは構えを解く。

 

 「終わりか」

 

 「ええ」

 

 「訓練は成功か」

 

 春麗は少しだけ考えた。

 

 「半分成功」

 

 「半分?」

 

 「あなたの言葉で止まらなかった」

 

 「ああ」

 

 「でも、あなたに触れた時に、少し動揺した」

 

 「ああ」

 

 「だから次も必要ね」

 

 言ってしまった。

 

 春麗は、自分で言ってから気づく。

 

 次も必要。

 

 つまり、またやる。

 

 春麗は顔を少しだけ熱くした。

 

 リュウは頷いた。

 

 「わかった」

 

 春麗は振り返る。

 

 「何がわかったの?」

 

 「次も訓練する」

 

 春麗は目を細める。

 

 「あなた、嬉しそうね」

 

 「そうか」

 

 「そうよ」

 

 「嬉しいかもしれない」

 

 春麗は完全に止まった。

 

 「……リュウ」

 

 「何だ」

 

 「それは、訓練相手として?」

 

 リュウは少しだけ考えた。

 

 春麗は待ってしまった。

 

 答えを。

 

 リュウは言った。

 

 「春麗とだからだ」

 

 春麗は、息を止めた。

 

 その言い方は、反則だ。

 

 訓練相手としてでもなく。

 黒の攻略対象としてでもなく。

 青の相手としてでもなく。

 

 春麗とだから。

 

 春麗は胸元を押さえそうになり、こらえた。

 

 「……本当に」

 

 声が小さくなる。

 

 「あなたは危険ね」

 

 「そうか」

 

 「そうよ」

 

 春麗は背を向ける。

 

 「次回も訓練よ」

 

 「ああ」

 

 「甘い時間ではないわ」

 

 「ああ」

 

 「私があなたの言葉や視線や接触に慣れるための、極めて実戦的な訓練」

 

 「ああ」

 

 「だから、勘違いしないで」

 

 「わかった」

 

 春麗は数歩歩いて、止まった。

 

 振り返らずに言う。

 

 「でも」

 

 リュウは黙って聞いている。

 

 「来なかったら、許さない」

 

 言ってしまった。

 

 春麗はすぐに歩き出した。

 

 これ以上いたら、また何か言ってしまう。

 

 背後でリュウが答えた。

 

 「行く」

 

 春麗は足を止めそうになった。

 

 だが止めない。

 

 青い袖が夜風に揺れる。

 

 今日は黒ではなかった。

 

 戦闘でもなかった。

 

 訓練だった。

 

 訓練ということにした。

 

 リュウに見られても止まらない訓練。

 

 リュウの言葉を受けても動ける訓練。

 

 リュウに触れても、触れられても、呼吸を崩しすぎない訓練。

 

 ただ、それが少し甘かっただけ。

 

 かなり甘かっただけ。

 

 春麗は夜道を歩きながら、小さく呟いた。

 

 「……本当に、私は面倒ね」

 

 でも、次もやる。

 

 訓練だから。

 

 そう言い訳すれば、またリュウを呼べる。

 

 また見てもらえる。

 

 また、止まらない練習ができる。

 

 そしてたぶん。

 

 少しずつ、止まらなくなる。

 

 見られても。

 

 言われても。

 

 触れても。

 

 それでも、自分で選べるようになる。

 

 春麗は青い袖を握った。

 

 「次は、もう少し長く」

 

 言ってから、顔が熱くなる。

 

 「……訓練として」

 

 誰も聞いていない夜道で、春麗はそう付け足した。

 

 その言い訳は、あまりにも春麗らしくて。

 

 甘くて、面倒だった。




Q:今回の断章IFについて解説して?

A:
はい。執筆者として見ると、今回の断章IFは、前回の敗北後に生まれた「リュウに見られると止まる」という弱点を、春麗が“訓練”という名目で甘く処理しようとする話です。

一言で言うなら、

甘えたいのではなく訓練。
確認したいのではなく訓練。
触れたいのではなく訓練。
……という言い訳で、本編めんどくさい女春麗がリュウとの甘い距離を自分に許す回

です。

今回の核は「訓練という言い訳」

前回、春麗は黒ドレス戦で負けました。

敗因は、単純な力負けではありません。

リュウに見られる。
リュウに「黒を着ていないお前も見る」と言われる。
その言葉で一拍止まる。

つまり、リュウ関連の心理効果が上がりすぎて、戦闘中の発生や重心に影響が出たわけです。

だから春麗は、今回それを修正しようとします。

表向きは、

リュウに見られても止まらない訓練
リュウの言葉を受けても動ける訓練
リュウに触れても動揺しすぎない訓練

です。

これは確かに理屈としては正しい。

でも実際には、かなり甘い。

春麗はそれを自覚しているから、何度も「訓練よ」と言い訳します。

ここが本編春麗らしいです。

黒ではなく青で来た意味

今回、春麗は黒ではなく青で来ています。

ここが重要です。

黒で来ると、どうしても「見せる」「惑わせる」「沈める」という黒ドレス戦術になります。

でも今回の目的は、黒で勝つことではありません。

黒を着ていない状態でも、リュウの言葉や視線に止まらないこと。

つまり、

黒の外側にある春麗自身の反応を訓練する回

です。

だから青が正解です。

青は逃げではありません。

青を着て、黒の影響を処理している。

ここが良いです。

春麗は黒を否定していない。
でも黒に閉じこもってもいない。
青で、黒の敗因を修正しようとしている。

本編春麗のフォーム自由度が出ています。

「見る係」という言い方が春麗らしい

春麗がリュウに、

あなたは私を見る係

と言うのは、かなり春麗らしいです。

本当は、

私を見て。
黒じゃない私も見て。
でも私が止まらないか確認して。

と言いたい。

でもそれをそのまま言うのは甘すぎる。

だから、

見る係

という訓練用語に変換している。

この言い換えが、まさに本編のめんどくさい女春麗です。

甘さをそのまま出さず、実戦・検証・訓練の名目にする。

ただし、リュウにはだいたい見抜かれています。

リュウの「違うのか」が刺さる理由

序盤で春麗が、

私があなたに見られたいとか、そういう話でもない

と言った後、リュウが、

違うのか

と返します。

これが非常に効いています。

リュウは煽っているわけではありません。

素直に疑問を持っているだけです。

でも春麗にとっては、それが一番危ない。

なぜなら図星だからです。

見られたい。
でも見られたいとは言いたくない。
訓練ということにしたい。

その本音をリュウが無自覚に踏むから、春麗は揺れる。

ここがこの二人の甘さです。

「止まらなかった」ことが小さな勝利

今回の戦闘は、本格的な勝敗ではありません。

春麗が確認したかったのは、

リュウの言葉を受けても、自分が止まらないか

です。

途中でリュウに、

黒を着ていないお前も見る

ともう一度言わせます。

前回は、その言葉で春麗の手が止まり、敗北しました。

今回は違います。

春麗は胸を揺らされながらも、動きました。

掌底を出した。
蹴りを出した。
最後は寸止めまで持っていった。

これは春麗にとって、かなり重要な小勝利です。

完全に平静ではない。

でも止まらなかった。

だから春麗は、

訓練成功ね

と言える。

触れる訓練は、完全に甘い

中盤以降、春麗はリュウの袖をつまみます。

ここはかなり甘いです。

しかし春麗はそれを、

私がリュウに触れても余計に動揺しない訓練

と言い張ります。

これはもう、言い訳としてかなり苦しい。

でも、その苦しさがいい。

春麗自身も、たぶんわかっています。

これは訓練でもある。
でも、訓練だけではない。

リュウに触れたい。
触れても平気でいたい。
でも、触れたら動揺する自分もいる。

それをいきなり恋愛として認めるのではなく、実戦的訓練として処理する。

ここが本編春麗らしい重めの甘さです。

リュウの「春麗とだからだ」が決定打

今回、一番甘いのはここです。

春麗が、

それは訓練相手として?

と聞いた時、リュウは、

春麗とだからだ

と答えます。

これはかなり強い。

「訓練相手として」でもない。
「黒の攻略対象として」でもない。
「青の相手として」でもない。

春麗とだから。

この答えは、春麗の言い訳をかなり危険なところまで崩します。

春麗は訓練という枠に閉じ込めようとしている。

でもリュウは、訓練の意味を否定しないまま、その下にある個人的な感情へ触れてしまう。

だから春麗は、

あなたは危険ね

と言う。

本当に危険です。

今回の春麗は「負けをすぐ甘さに変換しない」

ここも大事です。

前回の敗北後、すぐ甘えるだけなら、春麗の強さが薄れます。

でも今回の春麗は、まず敗因を訓練項目に変換しています。

リュウに見られると止まる。
なら見られても止まらない訓練をする。

リュウの言葉で止まる。
ならその言葉をもう一度言わせて、動けるか試す。

リュウに触れると動揺する。
なら触れても呼吸を整える訓練をする。

つまり、甘いことをしているのに、本人の中ではちゃんと戦闘改善の文脈になっています。

ここが本編春麗らしい。

甘いだけではない。
甘さを訓練に変換する。
でも、訓練と言いながら甘い。

非常に面倒です。

今回の話の到達点

今回の到達点は、

春麗がリュウに見られても、言われても、触れても、完全には止まらずにいられた。

ことです。

まだ完璧ではありません。

本人も、

半分成功

と言っています。

ここがいいです。

完全成功ではない。

まだ動揺する。
まだ言い訳が必要。
まだ「訓練」と言わないと近づけない。

でも、一歩進んだ。

次も必要、と自分から言ってしまう。

これが甘さでもあり、次回へのフックでもあります。

結論

今回の断章IFは、前回の黒ドレス敗北を受けて、本編春麗が“リュウに見られても止まらない自分”を作るために、訓練という言い訳で甘い距離を許す話です。

構造としては、

前回の敗因を訓練項目にする
リュウを「見る係」にする
言葉を受けても止まらない練習をする
接触にも慣れるという名目で甘くなる
最後に「次も訓練」と言って、次回の甘さを予約する

です。

一言でまとめるなら、

春麗は甘えたのではない。訓練した。
ただし、その訓練があまりにも甘かった。

これが今回の断章IFの肝です。
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