白亜紀からこんにちわ   作:VISP

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その10 公害怪獣の脅威

 203×年代後半、宇宙から不自然に地球へと飛来した隕石の中にいた鉱物生命体を発見した時、人類はそれを警戒した。

 しかし、調査が進むに連れてこの生物を「宇宙からの贈り物」として歓迎した。

 自然界に存在するあらゆる人為的な化学物質、即ち環境汚染に繋がる物質のみを食して成長・増殖する上に低温・高温・乾燥に極端に弱い生態から簡単に管理・利用可能な存在であると複数の研究機関が発表した事で、世論はこの生物を自然再生のために利用できると喜んだのだ。

 最大の専門機関であるモナークの警告は無視され、一部の国や企業、自然保護団体は各地で発見した鉱物生命体を殺処分ではなく積極的に捕獲、利用のために繁殖すら計画し、更には無作為にばら撒き始めたのだ。

 だが、その都合の良い事実しか見ようとしない無知と油断を人々は自らの血と命で購う事となる。

 

 一ヶ月後、世界各地の工業地帯周辺にて多数の未知の怪獣が出現した。

 

 全身をヘドロ、汚泥の様なゲル状で構成された半不定形の身体に、左右別々に動く不揃いの真っ赤な眼球、そして全身から猛毒を垂れ流すという余りに危険な性質を持ったソレらは各地の工業地帯を襲撃、石油や原油を含む化学物質の貯蔵庫や工場から出る排煙や排水を啜った。

 その途中、全身から漏れ出る毒ガスや毒液により周辺のあらゆる生物を死に絶えさせながら、ソレらは実に美味そうに食事を続けた。

 無論、人類とてただ見ていた訳ではない。

 怪獣災害に慣れ、対応可能な先進国は即座に軍に設立された即応部隊を出撃させた。

 しかし、無力だった。

 ヘドロ状の怪獣、後にへドラと呼称されるソレには通常の砲弾やミサイルは一切効果が無かった。

 それは単に既存の怪獣らの持つ強固な外皮や甲殻ではない。

 ヘドラは一体辺り数mm程の無数の鉱物生命体が結合して一個の生物として振る舞っている群体生物だった。

 故に砲弾や爆撃を浴びせようとも弾は突き抜け、爆撃で肉片が散ればそこから何れ別のヘドラとして成長していく。

 実際、爆撃でバラバラになった死骸が無数の小型ヘドラとなった事例が発生した事から、通常弾薬での砲撃や爆撃は事態を悪化させるとして禁じられた。

 そのため、急遽モナークが開発した冷凍弾頭の他、既存のナパーム弾を用いた作戦が展開された事で漸くヘドラの侵攻は大きく停滞した。

 数m程の小型の個体は排出する毒ガスも少量かつ携帯式火炎放射器でも十分有効であり、化学防護装備を着た上で周辺状況にさえ注意してしっかり焼き尽くせば対応可能だった。

 しかし、数十mの中型以降はそうはいかない。

 その巨体が相手では簡単に冷凍も乾燥も出来ない。

 また、ナパーム弾の飽和攻撃で一度は対象の沈黙を確認したものの、数時間後には体内の無事な部分のみが再度活動を開始した事もあった。

 更にヘドラは水中でもスライム状の姿で巧みに泳ぐため、冷凍も乾燥も不可能だった。

 下手に攻撃して肉片をばら撒いては根絶も出来ないため、根絶するには被害を覚悟で上陸させるしかない。

 しかも上陸可能な個体は四肢を用いた歩行と跳躍が可能であり、ヘドラが歩いた後は生物の息吹が一切存在しない程に汚染される。

 何より、今回は数体所ではなく小型の個体も合わせれば全世界で100近い数が観測されている。

 未確認の個体がどれだけいるかは不明だが、少なくともこのままでは減るスピードよりも増えるスピードの方が早いだろう。

 このままでは人類はその文明を維持できぬ程の殺戮と破壊に見舞われて滅ぶしかない。

 最悪の予想図に人々が青ざめる中、モナークから緊急報告が成された。

 

 北極の氷床の下、G0の放射線及び熱量が急速に上昇し、それに遅れて世界各地で活動しているゴジラ達の放射線量及び熱量が急速に上昇している。

 

 ヘドラの出現から遅れて半日、世界各地の工業地帯へとゴジラ達が出現した。

 その全身を燃え上がるような紅蓮に染め上げ、体表温度が5000度を超えた状態で戦意と怒りにその相貌を歪めながら、ゴジラ達は各地でヘドラを絶滅させるべく戦闘を開始した。

 そこからはもう人類の手出しできる領域ではなかった。 

 ただ、全てが終わった後に立っていた勝者はゴジラ達だった。

 彼らが立ち去った後は何も残らなかった。

 全てが焼き尽くされ、全てが灰燼と成り果てていた。

 中でも最も人的被害が多かったのが北京だった。

 長い間続く情勢不安により国内の富裕層の多くが資産と共に複数のルートで国外へと脱出した結果、北京市内は未だ国政の中心であるにも関わらず、街の殆どがスラム街も同然の有様だった。

 そのため、当然ながら環境問題に取り組んでいる筈もなく、また住民もそんな汚染された都市で暮らす事を当たり前としていた。

 勿論環境汚染を由来とした多種多様な疾患に苛まれる者が多いのだが、彼らはここで生まれ、ここ以外での暮らしを知らず、またその伝手も無い。

 故に状況は改善されず、今日まで来てしまった。

 そんな人々の無知と無責任、政府の無為無策の代償が取り立てられる日が来てしまった。

 

 中国の東部海岸線を埋め尽くす程の無数の小型へドラと10体もの中型ヘドラによる死の軍勢が上陸してきたのだ。

 

 軍による攻撃はまるで意味を成さなかった。

 ヘドラ達の本能のままの飽和攻撃に対し、中国軍はありったけのナパーム弾だけでなく通常弾による砲爆撃で少しでも足止めしようとしたのだが、余りの数に焼け石に水にしかならなかった。

 また、おまけとばかりに韓国沿岸部も被害に遭っていたが、ギリギリで在韓米軍との連携が間に合ってある程度被害を抑え込む事が出来た。

 無数のヘドラ達に飲み込まれた中国沿岸部では、逃げ遅れた人も動物も植物も死に絶えた。

 砲爆撃の雨に晒された事で周辺に肉片を撒き散らしながらも、ヘドラ達は悠々と食事を開始した。

 自動車の排ガスとガソリン、化学工場や石油コンビナートのタンク、大型ドラッグストアやマーケット等など。

 現代の先進国において、化学物質が存在しない場所など僅かだ。

 ヘドラ達はゆっくりと食事を楽しむと同時に、肉片の一部を砲弾の様に放ったり、全身から毒ガスを散布していく。

 こうして歩兵や車両は近づけず、ヘリによる近接航空攻撃も危険である事から、高高度からの爆撃や遠距離からの大雑把な砲撃しか中国軍に出来る事は無かった。

 幾度も幾度も砲爆撃は繰り返された。

 しかし、上陸地点の工業地帯や市街地をどれだけ破壊しようとも、それらはヘドラ達を倒すには至らない。

 寧ろその肉片を撒き散らし、次のヘドラを生み出す土壌にしかならなかった。

 上陸から三日、中国沿岸部は死と汚濁とその化身たるヘドラが闊歩するこの世の地獄と化してしまった。

 この事態に対して北京の共産党政府は自国の首都及び工業地帯へと熱核攻撃の実施を決定、これ以上内陸部へとヘドラが侵攻する前に核兵器で焼き払うという暴挙に出ようとしたのだ。

 だが結果だけを言うと、それが実施される事は無かった。

 

 中国沿岸部を北と南から挟み込む様に2体のゴジラが出現、ヘドラ達を殲滅し始めたのだ。

 

 この2体のゴジラは何処から来たと言うと、南からの個体は日本海溝から、北からの個体はベーリング海南部の深海から来ていた。

 と言ってもロシア極東方面のウラジオストクの工業地帯では未処理の下水の海洋投棄、より北方のワニノ港では石炭業による大気汚染、更に冷戦期だと核廃棄物や原子力潜水艦の原子炉の不法投棄などの闇深い問題が多々ある事からヘドラが大量発生しそうなものだが・・・ヘドラの低温・高温・乾燥への耐性の低さと例年よりも早い季節外れの降雪が発生したために数が極端に少なかったのだ。

 僅かな小型個体と一体の中型個体を5発の熱線でサクッと処理して南下してきたのだ。

 一方、日本海溝にいたゴジラは東京湾に上陸しようとした水中形態の中型ヘドラ3体を海溝へと引きずり込む事で対処した。

 確かにその不死性は驚嘆すべきヘドラだが、浅瀬ならば兎も角深海の圧力に適応できておらず、それも日本海溝の深さ7000~8000mの超深海の圧力に耐えられる構造、好圧性を持っていなかった。

 しかも餌となる汚染物質等も地上に比べて極僅かな事もあり、散らばって逃げる事も水圧によって出来ず、毒ガスやヘドロ弾も有効とは言えないというその特性の多くが活かせない環境だった。

 一方のゴジラは普段からここで過ごしているホームである。

 元々正面戦闘能力ならば隔絶した両者である事から、三対一の強みを活かす事も出来ずに深海の圧力で身動きできない状態でゴジラの赤色熱線を受けて蒸発した。

 辛うじて一体のヘドラが海面まで逃げ延び、飛行形態となって餌の豊富な日本本土を目指そうとしたものの追撃してきたゴジラの赤色熱線によって撃墜、海面に落下した所を捕らえられ、再び深海へと引きずり込まれて処分された。

 これにより、少なくとも近日中に大型個体が出現する可能性は低くなったと判断したゴジラは南下して九州ー台湾沖を経由して中国広東省へと上陸、珠江デルタ地帯を我が物顔で闊歩するヘドラ達へと体表温度5000度に燃え上がらせたゴジラが襲いかかった。

 特に普段以上の出力の赤色熱線と全方位へと放たれる超高熱波攻撃により、ヘドラ達は成す術なく焼却されていた。

 無論、戦場となった中国沿岸部も諸共に焦土にしながら。

 そしてヘドラもまた知能こそ無いものの馬鹿ではなかった。

 本能的に危険を察知したヘドラ達は中型以降の個体は飛行形態へと転じて移動を開始、最も多くのへドラが上陸していた北京へと集合したのだ。

 これは季節外れの寒気によって石油や薪ストーブ、暖炉などの暖房具を使う家庭が多く、夏場よりも遙かに大気汚染が酷かったために起きた出来事でもあった。

 また、ヘドラはその生態故に危険に対してより大きな群れを作る事で対処する。

 即ち、ゴジラという極大の脅威を前にしてヘドラ達はより大きな群れ=強力な身体を作る事で対応しようとしたのだ。

 そして、飛翔する際にヘドラは推進剤代わりに大量の毒ガスを放出する。

 ただ飛ぶだけでその下にいる人々は軽度ならば呼吸器や粘膜への激しい痛み、中度ならば後遺症が、重度ならば僅かな骨しか残さず溶けてしまうという凄まじい被害を出した。

 勿論、人間以外の動植物も同様の被害を受け、あちらこちらで枯れた山や森、死に絶えた野生動物や魚が浮かぶ河川が広がった。

 これは世界各国でも飛行形態のヘドラが発生した地点で同様の事態となっており、被害の拡大した最たる理由だった。

 こうして道中で無数の屍の山を築きながら、北と南の双方から挟み込まれたヘドラ達は北京市で合流、そのまま1カ所へと固まり、一体の大型怪獣ヘドラへと変じた。

 全長120m、推定体重10万t超というこれまで見た事が無い程の巨体と化したヘドラは挟み撃ちされる前に片側だけでも撃破、最低でも突破すべく南下を開始した。

 この際、巨大化した分だけ飛行速度は大幅に落ちており、そのまま飛んでも撃ち落とされるだけだったため、ヘドラの判断は至極正しいものだった。

 内陸部に移動?

 一時的には良いかもしれないが、追われ続ける事に変わりは無いし、時間を置けば更に相手の数が増える可能性もあった。

 ゴジラの片一方さえ倒す事が出来れば、ベストではないがベターな選択とも言えた。

 勿論、ゴジラ相手にそんな甘い見通しが通じる訳も無かったが。

 南下する大型ヘドラと北上するゴジラが見えるのは長江デルタの一角、中国最大の経済・金融都市にして人口2500万人を超えるメガシティたる上海だった。

 既に中・小型へドラ達によって蹂躙されていたその都市は最早見る影もなく、ヘドロと毒ガスに汚染され、溶けて崩れ行く半ばの状態だった。

 あらゆる動植物が枯れ果て、溶け落ち、死に絶えた都市で一連のへドラ事件で最大の戦闘が幕を上げた。

 

 後知恵になるが、ヘドラ達が生き残るためには全力で飛行形態と水中形態を駆使して全方位に逃散、そこから群体を解除して無数の個体となって海中に逃げ散る事だった。

 それだけがゴジラ達をして殲滅が不可能になる唯一の行動だった。

 既に世界中に拡散してしまった全てのヘドラの元となる微生物サイズの鉱物生命体(後に鉱物宇宙生命体ヘドリュームと呼称)を根絶する事は現状不可能だが、対処法が明確になった時点でその脅威度は大きく減少する。

 最悪の初回を乗り越える事は人類単体では不可能だったが、ゴジラ達の怒りの殲滅戦によってその芽は潰えた。

 以降は初期対応さえ間違えずに素早く行えば、被害を大幅に抑える事が出来るだろう。

 この一連のヘドラ事件以降、人類は地下と地上、そして宇宙からの脅威を想定して都市計画と復興、技術革新と軍備増強に注力していく事になるのだった。

 

 




人類に逃げ場無し
生き残りたくば、戦え
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