白亜紀からこんにちわ   作:VISP

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その2 かぐやから見た彼

 

 『そんでさー彩葉ってばさー。』

 

 そんな通信を右から左に流しつつ、どうしてこうなったと私は内心で頭を抱えていた。

 先日、この星の外から飛来した物体の反応へ向かうと何やら妙な電波を発する金属製の不審なタケノコを発見した。

 攻撃でも探知のためでもない、通信用と思われる妙な電磁波をまき散らしていたためにこちら側から何とか解析しようと自己進化を行ったのが既に一月位は前の事だった。

 

 『ちょっとー!人の話は真面目に聞きなよー!』

 

 現在、暇を持て余したアホによる通信爆撃を喰らっている私である。

 人語を介するのは残滓からの知識により簡単だったが、同種でも管理者としての仕事でもないのに関わる義理は無いと判断し、私はそいつの周囲から立ち去り、再び地下世界からの穴の監視に戻ろうとした。

 

 『わ、わ、わ!?待って待って戻らないで!お願いだからかぐやの話聞いてー!このままじゃずっと水没したままなの~~!!』

 

 どうやったのか、こちらがカットした筈の電磁波の受信に無理矢理通信を差し込んできたのだ。

 恐らくは常時展開している電磁バリアに干渉したのだろうが・・・自分から見れば砂粒程の小さな存在がそれを成した事に久方ぶりの驚愕を覚える。

 電磁バリア、正式名称非対称性透過シールドとは私の全身の体細胞が電磁石のコイルとしての機能を応用した防御機能だ。

 私の体細胞は強い電磁気を発生させる特性と逆に電波や熱量、放射線を吸収する特性を併せ持ち、通常の肉弾戦の他にもそれらを応用して攻撃や防御を行うのが私の戦い方だ。

 当初は肉弾戦の合間に電撃を見舞う程度だったが、悠久の戦いの中で状況や必要に応じて幾つもの技を編み出し続けた。

 また、この電磁気を用いた熱線、正式名称高加速荷電粒子ビームは原子炉から直接エネルギーを汲み上げて放つそれ以前の熱線よりも環境負荷も少ない事から現在の主な攻撃手段でもある。

 消すべきか、という将来の脅威を警戒したものの、音声のみならず泣きながら若いヒト種の雌が懇願する映像まで送りつけ始めたのを見て、私から殺意は霧散した。

 要は呆れたのである。

 

 『おへ?わ、マジ?』

 

 これ以上騒がれては堪らないと、私はタケノコを潰さぬように慎重に持ち上げようとして、しかし固まった。

 タケノコの大きさが本当に小さく、私にとっては砂粒と同程度なのだ。

 とてもではないが上手く摘まめそうになかった。

 下手に強行しようものならうっかり潰してしまう可能性もあり、ちょっと困ってしまった。

 

 『わ、待った待った待った!お願いだからもうちょい頑張ってーー!!』

 

 諦めて背を向けようとした所、再びの喚き声が脳裏に響き渡る。

 本当に五月蠅い。

 今度こそ遮断しようと電磁バリアを一旦停止して去ろうとしたのだが、こんなタケノコ相手にそれをするのはちょっと負けた気がしてしまう。

 

 『お、おお?』

 

 なので、仕方ないから周辺の岩礁ごと手でごそっと掬い上げた。

 これなら砂粒単体よりも遙かに運びやすいし、周辺の岩礁に守られてぷちっといく可能性も低い。

 一応宇宙から飛来して着水する程度の頑強さはあるのだから、多少岩にぶつけた所で問題も無いだろう。

 それをものの数歩で着いた陸地へと下ろし、今度こそ背中を向けて立ち去る。

 

 『ありがとー!デッカい蜥蜴さんありがとー!ホントのホントにありがとー!!』

 

 最後まで五月蠅い奴だった。

 しかし、嘗てのヒトとしての感性の残滓がその感謝を心地よいと感じた事だけは覚える事にした。

 

 

 

 

 

 『そんでさー、彩葉ってばさー。』

 

 後日、暇になると碌に眠れないからと通信を繋いでくるヒト種の雌、かぐやから延々と一方的に話される事になるとはこの時の私は想像もしていなかった。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 失敗した、失敗した、失敗した。

 かぐやは漸く月での仕事とその引き継ぎを終わらせ、何とか地球にいる自分よりも大事な人である彩葉の元へと帰るべく出発した。

 けど、そのまま帰っては彩葉はお婆ちゃんで余命も僅かな状態だ。

 それじゃ帰っても意味が無い。

 だからかぐやは時間遡行、つまりタイムトラベルを計画した。

 頭抱えながら漸く実用化した基礎理論と専用の宇宙船を作り終え、彩葉と別れたばかりの時間に向けていざ出発!

 

 でも、失敗した。

 

 入念に計算した筈なのに、何故か進路上に突如隕石が出現、接触してしまった。

 かぐやの宿るタケノコ型宇宙船はそれにより損傷して予定された進路を大きく外れ、更に我ながら繊細かつピーキーな理論で構築された時間遡行技術は当然の如くトラブルが発生してしまい・・・なんと全く見覚えの無い時代へと落着してしまった。

 後に分かった事だが落着した場所は8000年前の日本、しかも海中である。

 

 『ど、どうしよ。残ったエネルギーとシステムじゃ私の身体も作れないし・・・まさか、このままずっと一人で?』

 

 かぐやはゾッとした。

 永劫の輪廻を繰り返す事で不滅となった月人ならば多少は孤独にも耐性があるだろうが、限度というものがある。

 暗闇で音もない、自分一人だけでは発狂するまではそう遠くないだろう。

 酸素などが無くとも問題ないのは電脳思念体とも言える状態の長所だが、何とか対策を講じるまでに発狂せずに済むだろうか?

 ひたひたと迫り来る孤独と絶望に無い筈の背筋をゾッと冷やしながら、かぐやは必死に残されたリソースで周囲に干渉する術を探した。

 その結果、何とか同行していたペットプログラムである犬DOGEをウミウシ型のFUSHIに改良して周囲の偵察に出す事に成功した。

 FUSHIとの情報共有により周辺には何時か知らないが人間の活動も見られており、彼らの協力が得られれば海水からタケノコ型宇宙船を引き上げてくれるかもしれない。

 

 が、一向に近付いてきてくれない。

 

 FUSHIの活動範囲はタケノコ型宇宙船の近場に限られるため、彼らが足の付かない水深5m程度の海へと来てくれないと接触できないのだ。

 なお、当時の人類はまともに船を用いての漁業をしておらず、専ら釣りや浅瀬でも採取ばかりだった。

 何れは始めるのだろうが、その前にかぐやの正気が保たないだろう。

 

 『だぁぁぁぁぁぁ!!このままじゃやばい!誰でも良いから気付いて~~!』

 

 音声すら碌に外に流せない電脳思念体のかぐやは唯一自在に流せる電波を用いて周辺に干渉しようとする。

 しかし悲しいかな、この時代に電子機器は存在しない。

 ちなみに世界初の電子式コンピュータENIAC(エニアック)は1946年にアメリカで世界初の汎用電子式計算機として開発され、真空管を用いているし、部屋いっぱいになる程の大きさを持つ。

 かぐやの行動は残念ながら全くの無駄、エネルギーの無駄遣いだった。

 そうなる筈だった、本来ならば。

 

 『・・・・・・・・・・・・・・・』

 『んえ?何か反応?』

 

 誰も答えてくれない筈の通信に、僅かなノイズが走った。

 最初は気のせいだと思ったが、一向にノイズは消えない。

 否、寧ろ僅かながらよりはっきりとある種のパターンが検出され始めている。

 

 『嘘!?感度最大にして、こっちから話しかけてみる!』

 

 海岸で活動する人間の様子から、この時代が彩葉達の時代から1000年以上昔である事は分かっている。

 だと言うのに、こちらの電波に反応し、一定の反応を返す?

 常識的に考えれば有り得ないと一笑に付す所だが、生憎とかぐやの存在の方こそ非常識なのだ。

 未知の知性体、月人かそれ以外の宇宙人や未来人なんかの可能性をかぐやは想定した。

 

 ズン  ズン  ズン  ズン  ズン

 

 しかし、現実はかぐやの想像の遙か彼方をかっ飛んできた。

 

 『うっそやん・・・。』

 

 FUSHIの視界から入ってきたのは山の様な巨体を持つ、二足歩行の爬虫類らしき生物だった。

 端的に言って怪獣である。

 元の時代では廃れながらもカルト的人気を誇るジャンルとして人気だったのでかぐやも何度か視聴した事がある。

 しかし、実際の生き物としてそれが目の前を闊歩している姿を逃げたくとも逃げられない状態で眺めるのは余りにも恐怖であった。

 

 AGYAAAAAAAAAAAAAAAA!!

 

 『ほぎゃ~~~~~~~~!?』

 

 ただ吠えただけ。

 それだけで海面が、地面が、大気が激しく揺さ振られ、FUSHIの視界も激しくシェイクされる。

 この状態ではFUSHIを退避させる事すら出来ない。

 何とかFUSHIをタケノコ号へと帰還させ、逸れないようにするだけで精一杯だった。

 そんな状態で、目の前の怪獣がじっとこちらを見つめてきた。

 

 『なになになになに!?何なのぉ!?なにこの生き物怖いよぉ!助けて彩葉ぁ!!』

 

 月より逃げてきたかぐや姫、人生初の絶体絶命のガチピンチであった。

 

 

 

 

 これが8000年に及ぶ腐れ縁とのファーストコンタクトになる事を、この時の両者はまだ知らなかった。

 

 

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