白亜紀からこんにちわ   作:VISP

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その21 決着

 コング族の王、キングコングは若いながらも正統なる王として、群れの長たる自覚を持ってこの戦いに臨んでいた。

 

 彼の故郷、最早滅び去ってしまった宮殿の記憶は殆ど残っていない。

 ただ、瘦せ細った同族達が一人、また一人と去っていった事だけは覚えていて、まだ赤子の自分を連れた母親もまたそうだった事も今となっては察せられる。

 長い流浪の旅だったな、と幼き日々を思い出す。

 斧一つ持った父が襲ってくる敵を討ち、獲物として食し、暫くしてはまた別の場所へと移る。

 時に仲間が増える事も、減る事もあった。

 それでも家族と仲間達の間には愛があり、安らぎがあった。

 

 それがある日、突然奪われた。

 

 皆が寝静まった頃、赤毛の長に率いられた大きな群れの攻撃により、老いて体の弱った父と母は殺されてしまった。

 毛が白くなる程老いても最後まで勇敢に戦った父と他の弱い仲間達を逃がすために囮となった母の背中を覚えている。

 本当なら、自分も戦いに参加したかった。

 だが、当時の自分は今以上に若く、幼かった。

 大人達の半分位しかない自分では役立たずでしかなかったと、今なら納得している。

 

 だが、心は別だ。

 

 轟々と、炎が自分の中で燃えている。

 毎日毎日、群れの住処が焼き払われた日の事を夢に見る。

 父の形見の斧を満足に振るえる位に成長する前から今まで、ずっとずっと多くの事を学び、体を鍛え続けた。

 小さな仲間達から知恵を、大きな仲間達からは戦い方を教えてもらいながら、ずっとずっと鍛え続けた。

 小さな仲間達はそんな自分を思ってそれ以外の事も教えてくれる。

 でも、どうしてもそれに夢中にはなれなかった。

 目を瞑るとあの日の事を思い出す自分は、きっとあの日から時が止まってしまったのだろう。

 悲しそうな仲間達の姿を思うと、変わらねばとも思う。

 けれど、けれど、この心だけは、この思いだけは、あの赤毛の長を倒す事でしか消えてくれない。

 他の大きな仲間達や小さな仲間達、皆あの赤毛にやられた者達だった。

 許せない、憎い、殺してしまいたい。

 そんな感情の影に隠れ、生きたいならばあの赤毛の群れを倒さねばならないとも自覚していた。

 奴らがいる限り、あの赤毛がいる限り、自分達に平和は訪れない。

 逆に言えば、あの赤毛さえ倒せれば、皆が平和に暮らせる。

 今日、銀ピカとデカ黒、小さな箱に乗る小さな仲間が増えた。

 これで漸く赤毛を倒せるとモスラ、女王が言っていた。

 でも、それだけじゃダメだ。

 あっちの群れの方が多いし、何より白くてデカい奴がいる。

 白くてデカい奴、シーモは角の友達の仲間達を大勢殺したらしい。

 角の友達の仲間達は賢く、色んな事を知っている者達だった。

 自分も幾度も世話になった小さな仲間達が、しかし今は殆ど残っていないと伝えられた。

 悲しい、悲しい、憎い、憎い。

 でも、今は我慢する。

 確実にここで赤毛を殺すために、今だけはこの心を飲み込んで戦う。

 

 GUWOOOO!

 GOGAAAA!

 

 父の形見の斧を握り締めて、コングは重力の無くなった地下世界で、必死にシーモと群れの配下へと命令を下そうとしている赤毛、スカーキングへの妨害のために果敢に攻撃を仕掛けていた。

 無重力空間で溺れるスカーキング配下のグレートエイプ達の隙を突いて頭数を減らす作戦は何とか上手くいっていた。

 相手側の最も有力な戦力であるシーモはゴジラが、スカーキングはキングコングが相手をし、拘束する。

 その間に飛行可能戦力が多数いる対スカーキング連合が先ず数を減らす事で数の不利を打ち消す事を目標とした。

 経験豊富なシーモとスカーキングならば無重力空間に素早く適応する可能性があり、隙を突いて撃破できる可能性が低いと判断されたからだ。

 更にシーモは耐久力が出鱈目に高い事が事前に判明しており、AT部隊の兵装では有効打を与えられない可能性があった。

 実際、地上世界であらゆる怪獣を撃破してきた熱線の直撃を受けて肉眼ではダメージが確認できず、ケロリとしている様子を見て、AT部隊の面々はその威力を知るからこそ冷や汗が出ていた。

 アレが地上に出てきたら、ゴジラ以外ではどうにもならないと理解できたからだ。

 ゴジラとキングコング、シーモとスカーキングは互いに宙に浮いた岩石や死亡したグレートエイプの死体にお互いの身体を足場にして跳び、揉み合いながら、無重力空間でも巧みに戦闘を続けていく。

 その一方で対スカーキング連合側は飛行可能という強みを活かし、無重力に溺れて藻掻くスカーキングの配下へ向けて一方的に攻撃を加えていく。

 しかし、大型怪獣相手にUWEVの持つ火力だけではこの数を減らしきる事は出来ない。

 なので、彼らの目的は専ら射撃火力は低いモゲラと同じ事となる。

 可能な限り眼球や鼻、耳などの感覚器官が集中する頭部へと攻撃を集中させる。

 特にレーザー兵器を持ったスーパーモゲラと2機のモゲラはこれが得意だった。

 レーザー等の強い光で眼球やカメラを焼くのは軍事以外でもよくある事だ。

 その知識を生かし、手軽にグレートエイプ達の戦闘力を奪うべく、次々とその顔へと攻撃を加えていく。

 対する飛行可能怪獣はもっと単純だ。

 飛べずに藻掻く連中へと高威力の即死技を加え、一撃離脱に徹する。

 300という膨大な物量を相手に効率よく数を減らすには、この状況下でなお防いでくる精鋭を除いた雑兵を減らすのが最も効果的だ。

 バトラの複眼から放つ紫の光線に鎌、モスラの吐く粘着性の糸と触覚から放つビームもまた油断できない。

 音速を超過した状態から放たれる鎌の威力たるや一撃でグレートエイプの身体を切り裂く事も可能だ。

 粘着性の糸もこの状況下で岩にでも張り付けられたら後はされるがままだし、この後も考えると死んだも同然だ。

 更に、この場で最も驚異的な存在がいた。

 メガロである。

 空中機動性こそ特化したモスラとバトラにこそ劣るが、角から放つ光線に口から放つ地熱ナパーム弾による手数、そして両腕のランス状の甲殻による突撃は凄まじいの一言だ。

 実際、超音速状態でのランスチャージを受けたグレイトエイプは例え防御した所でそれを貫かれ、一撃で仕留められていく。

 しかし、攻め手もまた無傷とはいかなかった。

 スカーキングの配下達の中でも精鋭にして親衛隊の証の赤い染料を塗った者達、レッドスプライトス。

 当初は無重力に溺れたものの、他の個体に比べて早く冷静になった彼らは不慣れな環境ながらも必死に反撃を開始した。

 実際、普段は空を自由に飛んで近づいてこない蛾共が殴れる距離まで近付いてきてくれた事は彼らにとってプラスだった。

 小煩い銀の何かも脆いらしく、近づき過ぎた個体は叩き落され、時に浮いた瓦礫を投げられたり、鈍器で打ち出されたりで撃墜される事もあった。

 想定されていた事とはいえ、数が多い事はそれだけで脅威なのだ。

 ジワリと増えていく損耗率とこれまで経験の無い状況に、部隊長の額に汗が滲む。

 そんな時、ゴジラの熱線が不意にコングの斧へと放たれた。

 余りの衝撃と熱、光にコングが驚きながらも、ゴジラの熱線を受けた斧はそのエネルギーを吸収し、光り輝いていた。

 その行動によって抑え込んでいたシーモから反撃の一撃を貰うも、後の事を考えれば十分に意義のある行動だった。

 光り輝く斧を見て呆然とするコングの隙だらけの姿を好機と見たスカーキングが鞭の一撃を放つも、結果だけを言えばそれは悪手だった。

 ゴジラの熱線、そのエネルギーを貯蓄したコング族の秘宝にして王権の証たる斧は攻防にそのエネルギーを転用できる。

 鋭い鞭の一閃を弾くために放たれた迎撃のための一閃は、しかし持ち主の意図を外れた凄まじい威力を発揮した。

 腕の力だけで放たれた横一閃の一太刀は、しかし本人の意図したそれの数十倍の威力を以てスカーキングの鞭を切断、その衝撃で先端にある結晶構造体が切り飛ばされてしまったのだ。

 

 OGA!?

 

 これに慌てたのはスカーキングだ。

 何せそれを無くすと自分より格上で最大戦力のシーモへの支配が解けてしまう。

 それはつまり、現状の天秤が完全に敵側へと傾いてしまう事を意味する。

 王の咆哮を放つ、あの黒い蜥蜴。

 シーモすら警戒するあの怪物の存在こそ、スカーキング最大の誤算だった。

 奴のせいでシーモに雑に薙ぎ払ってもらう予定が全てオジャンであり、こうして以前からしつこく絡んでくる小僧相手に手古摺らされている。

 しかも、使えない配下共はバタバタと宙で藻掻いて、今更反撃を始める始末だ。

 そんな所にこれである。

 絶対に手放す訳にはいかない。

 焦ったスカーキングが何とか執拗に絡んでくるキングコングを蹴り飛ばし、宙に漂っていた結晶構造体を手にした時、不意に聞きなれぬ声が戦場に響いた。

 

 『重力反応の縮小を検知!間も無く無重力状態が解除されます!』

 『聞いたな!今度は落ちていく連中に残弾を叩き込め!落下に巻き込まれて死ぬ様なヘマはするなよ!!』

 『カウント開始!10・9・8・7・6・5・4・3・2…』

 

 相手側からの攻撃の手が緩んだ?

 否、違う、これは次を仕掛ける前の溜めだ。

 そう即座に看破したスカーキングは咄嗟に結晶構造体を握り締め、激戦を続けるシーモの方へと跳んだ。

 

 直後、無重力状態が消失し、あらゆるものが地面に向けて落ちていった。

 

 それは持ち上げられた大小無数の瓦礫であり、死亡したグレートエイプであったり、巨大な氷の塊であったり、熱線で溶けた溶岩であったり、撃墜されたUWEVであったり、スカーキングとキングコング、ゴジラとシーモだったりした。

 それらが一斉に綯い交ぜになって、地面へと落ちていく。

 空中で推進力を生む手段を持たないグレートエイプとシーモは何とか着地態勢を取ろう、落下の衝撃を殺そうと藻掻くものの、しかし空を自在に飛ぶ者達は容赦しない。

 そうした必死の努力をさせじと攻撃を集中させ、妨害する。

 火力は殆どいらない。

 この高さならば、落下の衝撃で如何な大型怪獣とて一部例外を除いて死ぬ。

 そんな死中にあって、スカーキングは生き汚く活路を見つけていた。

 地上へと繋がる穴、ポータル。

 今の自分の角度と勢いなら、そこの一つに正確に突入できる。

 配下を失うのは痛いが、何、地上で新たに自分の群れを作るのも悪くない。

 シーモさえ従わせていれば、他の事は後から付いてくる。

 折角時間を掛けて多数の怪獣を地上へと追い出したのだ。

 きっと地上は怪獣同士の戦いで荒れ、混乱状態だろう。

 そこにシーモを従えた自分が力を見せれば、負け犬共は自然と頭を垂れて従うに違いない。

 大丈夫だ、シーモさえ従わせていれば大丈夫の筈だ。

 

 そんな多くの事から目を逸らした思考をしていたスカーキングがポータルへと落ちていく直前、不意に黒く大きな尾がその全身を強かに薙ぎ払った。

 

 一瞬、余りの衝撃と激痛にスカーキングの意識が飛ぶ。

 次瞬、地面に叩き付けられ、ゴロゴロと転がっていく衝撃と激痛で意識を取り戻す。

 ダメージに呻きながらも何とか視線を入ろうとしていたポータルに向ければ、そこには黒い影が立っていた。

 否、それは影なんて無害なものではない。

 黒いケロイドと鱗の混ざった外皮、連なる剣の様な赤紫の背鰭と棘、巨大な尾とその全身をしかと支える逞しい両足。

 あの黒い蜥蜴の化け物が立っていた。

 しかも、明らかにシーモと戦っていた個体よりも一回り大きい。

 彼こそがG2、先行して地下世界に降りていたゴジラの分体の一つだった。

 

 GA、GAGAAAAA!

 

 焦りから結晶構造体を見せる様に掲げ、G2へと向ける。

 シーモに目の前のコイツを殺せと命じるも、しかし何も起きない。

 振り向けば、落下の衝撃を受けきれずに多少のダメージを負ったシーモは局所放射による落下速度の減速でダメージの無いG5と引き続き戦っており、何か出来る状況ではなかった。

 配下達も多くは死んだか瓦礫に埋まるかであり、抵抗している者達は敵側のグレートエイプ達やAT部隊と戦闘中であり、こちらも支援など望めない。

 それを見て呆然とするスカーキングの様子を見逃さない者達がいた。

 今回で最大速度へと加速したバトラの鎌による一撃が、結晶構造体を握るスカーキングの右手首を切り飛ばしたのだ。

 

 GA、AAAAAAAAAAAA!?

 

 絶叫を上げて膝をつくスカーキングに対し、周囲は畳み掛けに入った。

 再びG2の尾が振るわれ、吹き飛ばされるのとほぼ同時、メガロが上空からチャージをかける。

 そのランス状の両手を結合、更にどんな構造なのか回転させる事で円錐状の巨大なドリルとして結晶構造体を確実に破壊すべく突撃した。

 その光景を眺めていたスカーキングは制止の声を上げようとするも、しかし出来ない。

 そのまま自分の支配を確立していた宝物が砕かれる様を見ている事しか出来なかった。

 

 甲高い音と共に、内部のエネルギーを開放しながら結晶構造体は砕け散った。

 

 そこからはもう処刑ターンである。

 勿論対象はスカーキングだ。

 弾き飛ばされた先で解放に喜ぶシーモの尾の一撃によって再び宙に打ち上げられ、更にモスラとバトラ達の光線を受けて叩き落され、何とか受け身を取って立ち上がった所でゴジラの熱線(手加減付き)で適度に燻された。

 そして止めとばかりに父母の、仲間の、友達の仇とばかりにキングコングの斧による滅多切りを受けて、最後まで致命傷を避けるためにその両腕でガードするもそれすら切り落とされ、最後にその首を切り飛ばされた。

 

 WOWO、OOOOOOOOOOOOO!!

 

 敵首領の首級を掲げ、勝鬨の雄叫びを上げるキングコングの姿はどちらが勝者なのかを雄弁に物語っていた。

 勝敗は決したと悟ったのか、抵抗を続けていたスカーキングの配下達の内、意識のある者達は一斉に戦闘を止め、戦いは終わった。

 こうして地上世界と地下世界、双方を巻き込んだ戦乱は漸く終わりを告げるのだった。

 

 

 

 




あれ?G1どこ行った?
その疑問は次回までお楽しみに!
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