204×年代は混乱の内に過ぎ去った。
地下世界の情勢安定に伴い、今まで月一という高頻度で出現していた大型怪獣の出現が途絶えたからだ。
スカーキング討伐以降に発生した怪獣災害はどれも小型と中型のみで、大型の発生は無くなった。
また、人類側の対怪獣戦闘ノウハウの蓄積により、中型怪獣までなら以前よりも遙かに犠牲を少なくして勝利できるようになったため、ゴジラが出現する事態も大幅に減った。
この点だけ見れば、ここ数十年で最も平和な時期になったと言えよう。
しかし、それ以外では多くの混乱があった。
へドラ事件以降、各地で破壊された重工業地帯は未だ完全なる復旧には至らず、比較的被害の少なかった乾燥帯や寒帯を中心に世界の重工業が回り始める事となる(ただし米国は政府の補助のお陰で全部復旧した)。
また、新開発の核融合炉の発表により石油・石炭関連の株価が急激に低下、経済的な混乱を齎した。
米国が今後10年を掛けて国内の原子力発電所をより安定して安全性の高い核融合炉へと切り替え、更にマイクロウェーブ給電の普及を目指すという宣言に対し、中東の産油国を中心として反対運動も発生した。
これに対して米国(とその友好国)は一部石油関連施設がへドラ事件による被害を受けて供給量が低下し、原油価格の高騰に繋がっている事から取引量を削減、以降も価格が低下しないのならば取引量を削減する方針を取った。
一連の事態を見た一部欧州含む親米国家では大小差はあれど同じ方針を決定、米国に倣って続々と新型核融合炉の商業発電への採用に踏み切っていく事となる。
これにより今まで石油頼みの経済体制だった産油国の多くでは経済が急速に悪化、既存のものに加えて過激な団体や新興宗教が誕生し、既存の国家・社会体制に不満を持つ人間を中心にその構成人員を急速に増やしていった。
こうした過激な思想団体は既存団体と対立・吸収をしながらも活動を続け、主に産油国に住まう彼らの生活を脅かした国々への報復テロを画策するようになった。
今まで中東へと積極的に介入していた米国や中国を対象としていたテロ行為が、今度は中東から手を引いた国々に対して矛先を向けられる形となった。
米国はこの動きに対し、「断じてテロには屈しない、正義の戦いを続けていく」と宣言し、テロとの戦いへと注力していく。
同時に、怪獣災害の最悪のケースが発生した場合に備え、各種対策を進めていた。
目玉となる新たなAT兵器の開発をモナークと酒寄ロボ研、国内軍需産業と進めつつ、公共事業として国内各地への大深度地下シェルターの建設、そして対外宇宙用観測・軍事衛星及び地対宙大型ミサイルの開発と配備の三本柱のこの計画は自称有識者からは「税金の無駄遣い」や「第二次スターウォーズ計画」とまで言われたが、米国は大真面目にこの計画を推進した。
先進国内でも温度の差はあれど宇宙からの脅威への対策は進められており、最低でも国民全てが避難可能な大深度地下シェルターの建設には着手していた。
なお、中華は戦国時代のままだし、地続きの半島や船で簡単にいける香港では今も流入する難民に頭を悩ませており、シェルターの建設すら着手できていない有様だった。
他にも先進国以外の地域、南米やアフリカ、東南アジアや西アジア等の発展途上の国々は技術・資金面双方で自力でのシェルター建設が不可能であり、先進国へと援助を求めた。
しかし、米国を筆頭とした先進国側もまたそんな余裕は無いという事で大々的な支援は断り、あくまで技術者の派遣などに止めた。
これにより自力で破滅的事態への対策を行える先進国とそれ以外との対立が深まり、また後者の地域では未来に絶望した人々の間で新興宗教が流行する事となってしまった。
怪獣災害という事態を乗り越えた先に待っていたのは、次なる破滅的災害への対策を巡る人類同士の対立だった。
そして始まった205×年代もまた、波乱の幕開けとなる。
モナークの地下世界探索に協力してくれるイーウィス族から、モナークの調査員らはとある石版の閲覧を認められた。
そこに記されていたのは天から降り立った三つの首を持つ龍、それと戦うゴジラとその周囲で相争う地球怪獣達の姿だった。
イーウィス族の女王曰く、モスラからの交信により、地上の人々もまたこの歴史を知るべきだと言われ、公表する事にしたそうだ。
天、つまり宇宙からやってきた黄金に輝く三つ首の龍ギドラは偽りの王であり、王の号令によって地球怪獣らの一部を裏切らせ、ゴジラ率いる他の地球怪獣らと戦わせた。
ギドラの目的、それは地球の生物の絶滅であり、そこから得られる生体エネルギーの採取だった。
当時、地上世界に数多くいた怪獣達の殆どが相争い死亡するという地獄の中、激戦の果てにギドラはモスラとバトラの支援を受けたゴジラにより討伐され、地球の滅びは免れた。
そしてまた長い時が流れ、地球が平和になった頃、二度目のギドラ襲来が起きた。
前回の経験からゴジラを除いた怪獣達は殆どが地下世界へと避難し、8体まで増えたゴジラ達がこの戦いに挑んだ。
対するギドラは巨大な隕石の中に身を隠し、迎撃への盾にしつつ当時の南米へと落下させた。
これにより巻き上げられた粉塵が日光を遮り、氷河期の原因となった。
この隕石落下の直撃を受け、最も若かったゴジラが死亡、南米に開いた大穴からギドラは一度は地下世界へと侵入を果たすものの、シーモの本気の冷凍光線で撃退に成功、大穴はシーモの氷によって急遽塞がれた(これも氷河期の遠因では?)。
その後、地上でゴジラ達による一斉報復を受けたギドラは敗れたものの、隕石落下の余波に伴う氷河期の到来によって地上は壊滅的打撃を受ける事となった。
そして何時の日か、地上と地下が再び繋がり、ゴジラ達の王が目覚める時、三度目のギドラ襲来が起こるだろうと締め括られていた。
この情報は公開するかどうか各国上層部で話し合いが行われていたのだが、よりにもよって某国より機密情報が漏洩、民間の放送局により全世界へと公表される事態となってしまった。
地上の先進国が大深度地下シェルターの建設等に躍起になっているこの御時勢で、この情報は正しく劇薬だった。
未来を儚んで享楽に耽る者や命を絶つ者、必死に生き残りをかけて行動する者、パニックになる者と様々であり、最早誰もがこの混乱を収める術を持っていなかった。
この混乱に乗じ、日本の税関や審査待ちの難民キャンプではテロ行為が発生、これを切っ掛けに先進国を対象としたテロ活動が頻発、一気に緊張感が高まる事となった。
混迷の時代を迎え、将来の危機を知りながらも人類は未だ一致団結する事が出来ていなかった。
なお、情報を漏洩した人物が如何にしてこの件に関する情報を得たのかは現在調査中である。
・・・・・・・・・・・・・・・
『ヤオヨロー、モスラさんこんにちはー。』
『あら、ヤチヨちゃんこんにちは。そっちは大丈夫?何だか荒れてるって聞いてますよ。』
人のサーバー化した神経系を中継所にして、私より年上の女王と年下のBBAがのほほんと世間話に興じていた。
いや、お前ら自分らで会話しろよ。
何時まで私のサーバー(化した神経系)を使っているんだ、他へ行け他へ。
『あら、だって貴方もヤチヨちゃんの事心配だったんでしょう?これ位良いじゃない。』
おい待て女王、何を根拠のない事を言っている?
後、そんな事言うとこいつが調子乗って・・・
『へー?ほー?ふーん?』
ニヤニヤニヤニヤと悪童そのままの笑みを浮かべるヤチヨに、私は内心で頭を抱えて呻いた。
『えー?君ったら私の事そんなに大事に思ってくれてたんだー?普段はあーんな頑なに声かけてくれない癖にー。』
あああああああああああああ!ほらやっぱりー!
く、ここで噛みつくとウザ絡みが余計にウザくなる・・・!
無視だ無視、仕事の話しよっと。
女王、地上が荒れてるという話だが、そっちからの干渉は観測していないな?
『えぇ、こちらから地上へ干渉してる者はいませんね。そろそろ時期だったからギドラの事は伝えましたけど。』
それでいい。
ギドラの事は何れ人類も知らなければならなかった。
へドラの件もあったし、何れは宇宙からの脅威に備える必要があった。
そうでなければ何も出来ず滅びるだけだ。
『ただ、少しタイミングが悪かったみたいですね。少々所じゃない混乱になってるみたいですし。』
いや、これで良かった。
ヒト種がより大きな、統一された群れとなるにはこの痛みは必要な事だった。
そうでなければ次に耐えられまい。
『・・・近い内に来るというのですか?』
十中八九、間違いなく。
あの三つ首は地球を狙い撃ちにしていた。
太陽系において最も豊かで生命に溢れているこの星を標的にしていた。
そうした星に侵略し、滅ぼし、生命エネルギーを啜るのは奴らの生態にして最大の娯楽だ。
止める事は有り得ん以上、次があると判断するのは当然の事だ。
そして、単なる力推しでは難しい事も学習しただろう。
『絡め手で来ると?』
既に来ている。
平押しの一度目に対し、二度目は明確に私への対策を講じてきた。
でなければ最も若いとは言え分体を撃破されるものか。
恐らくは超光速通信か、それに近い能力を奴らは持っているのだろう。
私ならば数を揃え、妨害を試み、その上で奇襲攻撃による先手を打つ。
所で女王、肉体を捨てて精神のみになった元ヒト種が月へ移住した事は知っているな?
『勿論。肉体を捨てた所で精神は残っていますから、私なら感知できますので。』
『え、ちょ、待って待って!それって月人の事だよね?まさか、月人が侵略に協力してるって言うの?言っちゃ悪・・・くない事実だけど、アイツら理性オンリーで動いてる機械とか虫みたいな連中だよ?侵略者に屈するような真似するかなぁ?』
故郷故だろうが、その認識は甘い。
あの三つ首、個体差もあるのだろうが妙な超能力を持ってたりする。
中には王の号令に依らず、目を合わせた格下の存在を操る事もあった。
自意識も希薄で肉体の無い精神体、電子生命体とも言うべき月人がそれに抗えるかどうかは私は知らんが、一部は間違いなく協力関係になっている。
でなくば地上はこうも荒らされてはいないだろうよ。
『まさか、もう既に工作を?』
『何処まで把握してるの?根拠は?』
非ツクヨミユーザーかつ産油国を始めとした落ち目の地域でローカルネットワークを通じて拡散している事は確認済みだ。
ご丁寧に月との通信は一部の秘匿された人工衛星とレーザー通信を介したものに限定してな。
しかも終末思想の新興宗教と共に、明らかに洗脳と思しき手法を用いてだ。
まさかスマフォの画面見せて脳内にウイルスプログラム染みた思念波を送り込むとは・・・。
まさかの催眠アプリ方式とは恐れ入った。
今はまだ現地の元からある宗教が抑え込もうとしているが、もう勢力としては根付いてしまっている。
その内大混乱に陥るか、もっと悪質に全方位に戦争、否、テロを仕掛けてくるかも知れんな?
『ウッソでしょ・・・そうなったらどれだけの被害が・・・。』
『おおもう・・・地上の人類も頼りになるなぁと見直した所でしたのに・・・。』
まぁ、上手い話が早々転がっている訳もないという事だ。
この分だと後数十年以内には確実に始まるな。
恐らく地上でヒト種同士の戦乱を起こして混乱・疲弊させた後、宇宙からの侵略で諸共薙ぐのが目的だろう。
とは言え、私がする事は特段変わらない。
ヒト種については余程の事が無い限りは基本的に不干渉の方針だ。
その結果、自ら滅びを選ぶのならば、その選択を尊重する。
敵として立ち向かうというのなら、王としての責務の下に戦い、裁定を下すのみ。
それを事前に防げるか否かはヒト次第だ。
今後の動きに関して話し合いをする女王とヤチヨを流し見しながら、私もまた今後の事を考える。
ヤチヨを慮って言わなかったが、私はヒト種を高く評価しているが、同時に危険視もしている。
ヒト種は私の庇護下と言えどもその知性を以て獣を脱し、地上で繁栄に成功した。
しかし、これ以上ヒト種が増えれば地球を食い潰すだろうとも見ている。
否、怪獣達が目覚めなければ半世紀は早くそうなっていただろう。
だが、粛清は可能な限り避けたかった。(本人には絶対言わないが、ヤチヨが泣き喚くから)
だからこそ、ヒト種が自らその過剰な数を減らし、宇宙へと(防衛のためとは言え)進出する事は喜ばしい。
それはつまり、何れは宇宙へとその生息域を広げ、この星から巣立つという事だ。
これ以上増えては人類が地球を食い潰しかねない現状でこれは大歓迎だ。
また、月人が一部か全体かは知らないが敵対している事もこの場合は好都合だ。
これにより今まで控えていた奴らへの手出しが自衛という大義名分で可能になる。
今まで人類が宇宙進出を鈍磨させていたのは技術的・コスト的課題による所が大きかったが、同時に月人を気にしたヤチヨが宇宙開発への手出しを控えた事も大きかった。
上手くいけば諸々の事が片付くが、強欲になり過ぎてもいかん。
第一目標は地球の防衛、第二はギドラの協力者の排除(月人含む)、第三が人類の宇宙への進出。
第一が絶対、第二・第三が努力目標と言った所か。
やれやれ、長期休眠するにはまだまだ暫く時間がかかりそうだな。
取り敢えず、直ぐに始めるべき事は地表での活動の再開と年単位のエネルギーチャージか。
グレイトエイプを粛正したんだから、人間も場合によっては有り得るという話。
ギドラ族さん、登場作品にもよるが実は引力・重力操作以外にも小技が沢山ある。
首一つ残ってたら時間をかけて全身再生したり、目を合わせた小美人を洗脳したり、日本中の子供達をテレポートで拉致したり、精神・エネルギー体だけで活動したり、他からエネルギーを吸収したり、両翼からのエネルギー放出による全方位攻撃したり、周囲の天候を自在に操ったり、何故か宇宙怪獣なのにαコールを使えたりする。
後、星間飛行やエネルギー体からの実体化とか、使用するのが引力じゃなく電撃だったりもする。
基本的に侵略的外来種であり、既存生態系を破壊する事に一切躊躇しない。
また、知性こそ高いものの悪辣かつ好奇心旺盛で残虐な性格(例外は護国聖獣と高次元怪獣)。