白亜紀からこんにちわ   作:VISP

3 / 15
その3 未だ隠された歴史

 『ねぇ、なんで皆こんなにすぐ死んじゃうのかな?そうでなくてももっと仲良くとか、協力とかすれば生きられるのにどうしてそうできないんだろ?昔より随分発達したのに、まだこんなに無意味に争ってる。』

 

 出会ってから最早どの位の年月が経過した事だろうか。

 現在ではヒト種の多数住まう京の都にいるFUSHIもといかぐやからの通信に私はうんざりとしていた。

 群れなどと言うのは、所詮はそんなものである。

 強く、優秀な者が上に立ち、より多くの子孫を残すために生きていく。

 弱く、役に立たない者は他者か或いは環境に適応できず淘汰されて消えていく。

 自然界においては普遍の真理であり、ヒト種においても大して変わらない。

 少なくとも、後千年以上文明が進み、世界から最低限飢えと貧困が消えない限りは決して変わらない・・・否、そこまで進んだ所で争い事は消えないだろう。

 ヒトとしての残滓たる知識が教えてくれる。

 どうせ宇宙に飛び出た所で貧富の格差も差別意識も特権意識も消える事は無い。

 宇宙怪獣相手に人類存亡の危機になろうとどうせ相争うのがヒト種なのだ。

 まぁそれも当然と言えば当然だ。

 それはあらゆる生命の根幹に残された本能だからだ。

 人為的な遺伝子調整や洗脳でもしない限りは消えてなくならないそれは個体として、種として生きていくためのシステムなのだ。

 無くせば何も求めず、何も成さなくなり、何者にも抵抗出来ず、やがて死に絶える。

 他者より上へ、他者より先へ、他者より多く。

 出来なくば満足できず、場合によってはそれでももっともっとと望む欲望こそ繁栄のための原動力なのだ。

 特に知的生命体の場合はその傾向がより強い。

 本能だけの獣ならば、満腹を覚えれば収まるが、富や知識の概念を持った知的生命体はそうではない。

 自分は半ばそうした欲が消えかけているから、余りヒトの事をどうこうは言えないのだが、争う事、競争が盛んであるのはとても良い事であると思う。

 無論、種の存続を前にして同種で相争う事は愚かだと思うが。

 

 『うぐ!何も言葉は聞こえてこないけど「良い事だ」って思ってるのだけ伝わる!不思議~!』

 

 私はヒト種の、特にかぐやの言葉は嘗ての知識から理解している。

 しかし、私から言葉を返す事は無い。

 ただ意思のみを高度に操作された電磁波によって伝えるだけだ。

 と言うのも、こいつと私は群れの仲間でも共生関係でも無いからそこまでしてやる必要が薄いからだ。

 更に言えば、ただでさえやかましいこいつが私がこの通信を用いれば言葉を発する事も可能だと知れば、文字通り永遠にお喋りに付き合わされる可能性がある。

 基本的に穏やかに過ごしている私にこいつとの永遠のお喋りなど拷問に近い。

 よって話さない、基本無視、必要ならば感情のみ伝えるという対応をしている。

 

 『あー!何か呆れてるのが伝わってくる!なんでそんな器用に感情だけ伝えてくるのさ!普通に喋れー!!』

 

 やかましい、嫌だ、黙れ。

 

 『うわーん!!』

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 此奴、さては大分面倒くさがりだな、とかぐやが腐れ縁の大蜥蜴の性格に気付いたのは結構早かった。

 元々賢さ自体は相当に高く、他者への観察力も高いかぐやは僅かな交流によってあん畜生の性格をしっかりと把握していた。

 基本的に面倒くさがりであり、リスクを嫌い、しかし自分のすべき仕事だけはしっかりと熟す。

 よく言えば大人であり、悪く言えばお役所仕事というべき性質だった。

 だが、それも仕方ないだろうな、ともかぐやは思う。

 彼らの様な存在が気軽に動き回ればそれだけ周囲に甚大な影響を及ぼしてしまう。

 本人らがどう思っていようが、大山が鳴動どころか暴れ回れば鼠だけでなくあらゆる生き物が動揺するのだ。

 

 事実、かつてかぐやの本体であるタケノコ型宇宙船が藤原京に安置されていた頃、現れた他の巨大な怪物を相手にあの大蜥蜴が戦った時、周辺には凄まじい被害が出た。

 

 両者は別に人間を憎んでも、悪戯に殺そうとも思っていなかった。

 ただ、互いしか見えていなかった。

 沢山の棘のある甲羅と角を持った四足の爬虫類染みた怪物がただ近くを進んだだけで藤原京に住まう人々はパニックを起こした。

 更にそこに現れた大蜥蜴が地の果てまで届こうかという大きな吠え声を上げ、怪物がそれに一切怯まず同じく凄まじい咆吼を上げて挑みかかった。

 二体の衝突による衝撃が都の建物を地震の様に揺らした事で人々は完全に恐慌状態に陥り、役人や兵士達の制止や誘導も空しく出鱈目に逃げ回り、様々な被害が出た。

 最終的に小一時間ほどで怪物は殺され、大蜥蜴は勝ち鬨の咆哮を上げた。

 怪物の遺体の大半は大蜥蜴が引きずって帰って行ったが、僅かに残った角や爪、棘や肉片等は回収され、私のタケノコ型宇宙船と一緒に保管される事になった。

 彼に悪意も害意も無かったのは確かだった。

 寧ろ私の通信を聞いて、一時は怪物を都から離そうとすらしてみせた。

 だが、あの怪物はその動きに逆らって巨体からは想像できない程の素早さで暴れ回り、結果的に都に大きな被害を齎した。

 この被害の甚大さと人々の心に深く刻みこまれた恐怖、トラウマから復興は不可能と判断した宮中は前々から計画していた藤原京からの遷都を決定、平城京の造成を開始した。

 成程、たった小一時間程度でこれ程の被害を出すのなら、動く事に慎重になり、やがて億劫になっていくのも分かる話だ。

 だが、それは私達ヒトのスケールだからだ。

 ただあるがままの彼にとって、それは随分と窮屈で退屈な事だろう。

 

 なんか、それはちょっと、いや、随分と嫌だなぁ。

 

 月の姫で何百年か何千年か限界社畜OLをやっていた私にとって、退屈で不変な事はとてもとても苦痛だ。

 それをもう7000年近い腐れ縁の彼が抱え続けているなんて、私には我慢ならない。

 

 『そうだ!彼もいつかツクヨミに誘えば良いじゃん!』

 

 高度な電子通信・索敵・攻撃能力を彼は既に獲得している。

 多少翻訳機を挟む必要はあるが、逆に言えばそれだけで彼をツクヨミに招待できるのだ。

 無論、それはまだまだ遠い未来の話だが、逆に言えば人類の技術がそこまで発展しさえすれば不可能ではない。

 彼もまた退屈で不変な日々から解放され、視覚と聴覚のみとはいえ電子の世界で気兼ねなく過ごす事が出来る。

 ・・・まぁ、あの物ぐさで静かな方が好きな性格では誘われても断られるかもしれないが。

 

 『まぁそれは将来の課題として・・・今は平城京の造成プランを考えなきゃ。』

 

 今ある物資を用いて荒廃してしまった藤原京に簡易的な仮設住宅を建てつつ、平城京予定地を開拓していく。

 そのための物資に作業量と内容、労働時間等の必要量を計算し、それらをどうやって用立てるかを宮中の者達と相談していく。

 あぁ肉体が恋しい、パンケーキ食べたい、彩葉に甘えたい等と思考を横道に反らしつつ、私は未来に向けて成すべき事を成すのだった。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 202×年、奈良県南飛鳥村にて、驚くべき発見があった。

 完全に未発見の7~8世紀の絵巻物と関連物品が現地の寺の補修工事が決まって改めて調査の行われた倉の隠し棚から発見されたのだ。

 絵巻物の最盛期は平安時代後期(11~12世紀)から鎌倉時代(12世紀末~13世紀前半)だが、その起源は中国大陸から伝来した仏教の経典を説明する「絵因果経」であり、最古の8世紀とされる。

 そのため、時代考証としては決して間違ったものではないのだが、その内容が問題だった。

 

 長らく古代日本史上の謎とされていた藤原京の遷都に至る経緯だったのだ。

 

 藤原京は694年〜710年、持統・文武・元明天皇の3代に渡る16年間、日本の首都であった。

 しかし、多少の不便さはあれどもたった16年程度で首都機能を他へと移す遷都など行うであろうか?

 まだまだ未発達のこの時代では遷都のための労力は想像を絶する程の負担を国庫と人々にかける。

 なのに、遷都はたった16年で断行された。

 この理由が長らく謎とされていた。

 地盤の問題や飢饉・疫病、都市機能の限界、三方を山に囲まれたが故に水が豊富だが水はけが悪く水害が多発したなど諸説ある。

 この絵巻物に描かれていた内容は今までに全く見られない新説であり、関係者一同に困惑を誘っていた。

 

 曰く、突如として藤原京が巨大な化生に襲われた。

 

 「藤原京怪獣絵巻之図」と題されたそれには、2体の巨大な怪物の出現とその戦い、その余波によって滅びる藤原京の様子が生々しく描かれていた。

 色素こそ永い年月により劣化していたものの、都の各所から立ち上る炎と煙、逃げ惑う人々、逃げる途中で転んで他の人々に踏み潰されて息絶えた死体、瓦礫の山とその下から助けを乞う人々、そしてそれらに一切構う事なく戦い続ける2体の巨大生物の姿は現代人の目から見ても恐ろしく真に迫ったものであり、とても偽物や創作とは思えなかった。

 怪物の内、一体は大戸島の古い伝承に登場する巨大生物「呉爾羅」と酷似している事から同種の個体、或いは同一個体である事が考えられる。

 残ったもう一体はアルマジロや鎧竜に似た身体構造を持つ巨大生物だった。

 これには「悪鬼羅」と表記されていたが、アンキロサウルスと酷似した構造からアンギラスと呼称される事となった。

 2体の苛烈な戦いの余波により藤原京は壊滅し、最終的にアンギラスはゴジラによって殺害、その遺骸はゴジラによって持ち去られ、大阪湾へと去って行ったという。

 これにより人民と宮中は大きく混乱した事で藤原京の復興は断念、新たに平城京へと遷都する事になったという顛末が記されていた。

 また、この絵巻物と共にあった関連史料としてアンギラスの爪や牙、棘に肉片の一部等も発見されており、絵巻物と合わせて極東支部にて重要史料として調査に回す事が決定した。

 心苦しいが、予定通り関係者には情報工作を行い、今回の絵巻物とその関連史料のみ無かった事にしてもらった。

 

 これがあるという事は、協力者Y・Rからの情報の裏付けが取れたという事だ。

 今後もY・Rからの情報提供を求めていくと同時に、何としても巨大生物への対策を講じていく必要がある。

 そのためにも先ずは対象の観測と調査を継続していく事とする。

 現在、我々が観測に成功している対象は7体だけだ。

 その何れもが巨大生物らの住処である地底空洞世界との通路を塞ぐ門番の役割を持っている。

 一部の者達が主張する彼らの排除とは、即ち我々人類が今も地底世界に存在する無数の巨大生物らの脅威に晒される事と同義だ。

 そんな危険を認めずに新たなるフロンティアと夢を見る事は自由だが、現実的に考えて現在の人類の軍事力では無数の巨大生物を相手取る事は不可能だ。

 熱核兵器による飽和攻撃など、奴らの最盛期を再び地上に現出させる利敵行為に他ならない。

 何としても、我々は現状を維持しなければならない。

 人類の技術が飛躍し、巨大生物の陰に怯える事が無くなるその日まで。

 

 

    対巨大生物関連特務研究機関MONARCH所属のある調査員の報告書の一部より抜粋

 

 

 




8000歳BBA「記録は大事だから残さないとね!お友達の活躍でもあるし、ちゃんと後世に残るようにしたよ!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。