対ゴジラ兵器が行った自爆の被害は甚大だった。
核分裂炉4基分の核爆発、それも至近距離どころか密着した状態でのそれは幾らゴジラと言えども凄まじい被害だった。
高い耐電・耐熱性を備えたナノメタル製の装甲越しの核爆発は密着していたが故に余す所なくその衝撃波をゴジラの体内へと伝達し、肉体を打ちのめした。
またこの際、激突した対ゴジラ兵器の尾部の先端が深く体内へと食い込み、奥深くへとナノメタルの侵入を許してしまった。
ナノメタルはその自立思考金属体としての特性を活かし、体内へと侵入してからはゴジラ細胞及び共生する極限環境微生物群へと攻撃を開始した。
勿論、ゴジラ細胞も黙っている訳がない。
侵入してきた異物に対して免疫機能が応戦し、体内は損傷した肉体の回復と周辺の放射線と熱量の吸収と合わせて大変な事になっていた。
2機の対ゴジラ兵器の特攻により道連れ気味に倒されたゴジラは同じく2体。
残り4体のゴジラで5体もの対ゴジラ兵器を倒さねばならない上、周辺に爆発によって散布された粒子状のナノメタルにより光線技が拡散されるため、大きく弱体化している状態だ。
大音量の咆哮に指向性を持たせた超振動波攻撃は問題なく使えるものの、その性質上連射も出来ず、発射前の息を吸うモーションも長いため、当てるには何かもう一手を必要としてしまう。
更にこの状況で大きく呼吸する事は体内にナノメタルを吸引してしまう事も意味する。
迂闊な使用は毒を飲む事と同義だ。
一応呼吸を止めての活動も可能だが、それとて何れ限界は来る。
では接近戦を行えば良いと言われそうだが、それもまた難しい。
確かに最も小柄なG7でさえ全高約100m、G2に至っては約160mのゴジラ達は見た目よりもかなり軽いとは言え、体格差から近接戦闘は有利になるだろう。
だが、それは相手がこちらの思惑に付き合ってくれた場合だ。
ゴジラよりも小柄かつ軽量でありながら、更に反重力機構を搭載する対ゴジラ兵器達は致命打となる近接攻撃の届かない一定の間合いからその火力を押し付け、徐徐に徐徐にゴジラ達を倒す戦術を採っていた。
つまりは引き撃ちである。
両腕部のレールガンと背面のミサイルコンテナ、大腿部側面の3連装副砲を連射しつつ、その機動性・運動性の差を活かして距離を詰めさせない。
無論、ゴジラ達にとって通常の砲撃は意味を成さない。
しかし、これはただの砲撃ではなかった。
放たれるミサイル群は全て先程もあったナノメタル粒子散布用ミサイルであり、継続してゴジラの熱線を阻害し続けている。
レールガンと副砲にしても貫通力を最優先としたナノメタル製の細い杭状のレールガン用特製砲弾とAPFSDSを採用している。
共に耐熱・耐電性の高いナノメタル製のため、その砲撃はゴジラ達の持つ電磁バリアを蒸発せずに貫通、僅かながらも確かに肉体へと届いていた。
だが、これだけでは勿論ダメージにならない。
耐熱・耐衝撃においてはこの地球上において最も高い性能を持つゴジラの肉体にとって、そんなものは人間で言うと画鋲が刺さった未満のダメージにしかならない。
問題なのはこの砲弾がナノメタル製であるという一点だ。
先程戦闘不能へと陥ったゴジラ2体と同様に、その体内へと猛毒として作用するナノメタルが侵入した事により細胞及び体内の極限環境微生物群へと攻撃が開始されたのだ。
外からは頑丈だが、中からは外程ではない(それでも出鱈目レベルだが)ゴジラ達にとって、次々と毒を追加される現状はかなり厳しいものがあった。
更に、地中海方面では2対3と数の不利もあり、相手側の一機がより火力を叩き込むべく次の一手を出してきた。
頭部から脊髄、尾部までが連動して変形し、腕部を除いた上半身がそのまま100m近い長大な加速レールを備えたレールガンと化したのだ。
そこから放たれる砲弾は背面に連なっていた背鰭に酷似した金属プレート群だ。
これは元々月人の設計には無かった部分であり、モゲラから受け継いだ放熱板兼ヒートブレードが原型であり、その機能も未だ保持している。
しかし、現在はより攻撃的に対ゴジラ用大型レールガンの砲弾として機能する。
放たれたブレードは電磁加速により一瞬でマッハ7に達し、電磁バリアを貫通してゴジラへと突き刺さる。
2発、3発と続け様に放たれたそれらは容易にゴジラの肉体へと突き刺さり、内部へと更なるナノメタル群を注入していく。
GYAWOOOOOOOOOOOOO・・・・・・!
余りのダメージにゴジラが苦痛の悲鳴を上げる。
ここ1億年近く、前回のギドラ侵攻以来まともなダメージを負ってこなかったゴジラの上げた久方ぶりの悲鳴だった。
更に、止めとばかりに動きの止まったゴジラへと対ゴジラ兵器側が遂に近接戦の間合いへと入ったのだ。
まるで侍の居合いが如く、全長の半分近くを占める尾部を身体ごと後方へと引き絞り、尾部のブレードが高速で振動を開始する。
直後、引き絞られた尾部はスラスターによる加速を加えた身体の捻りと共に、鞭の様に振る舞われた。
その終端速度はマッハ3に達して雲を引き、しかもインパクトの瞬間には反重力機構によって敢えて重量を増加、更に威力を増していた。
GYAWOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!
胸部を骨ごと深く切り裂かれ、G2が絶叫する。
ゴジラ達の中でG0とG1に次いで最も耐久力の高いG2ですら防げず、致命傷手前の深手を負う様子に、対ゴジラ兵器に搭載された量子CPU内のAI群は勝率が向上した事を告げ、生体CPU群は勝利を確信した。
見るべきは見たな
だが、それは余りにも早計だった。
G0、真なる星の王はこの戦いが前哨戦だと知っていた。
だからこそ、敢えて自分を除いて戦いを始めるよう分体を動かした。
結果として、月人の技術力の高さを改めて検証する事が出来た。
また、人類側の中で自分に一方的な恨みを持つ者達を纏めて掃除する事も出来る。
分体のダメージが予想よりも深刻な事は驚きだったが・・・半年もあれば回復した上でエネルギーをチャージするには十分だ。
故にこの前哨戦を終わらせるべく、分体達に反撃を命じた。
同時、敢えて最低限にしていた分体へのエネルギー供給を自壊する限界ギリギリまで高める。
それで十分だった。
瞬間、6体の分体達が内側から赤熱した。
GYAWOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!
咆吼が6つ重なって響き渡った直後、6つの超高熱波攻撃が同時に放たれた。
この攻撃に、対ゴジラ兵器群は僅かな停滞も見せずに緊急回避を選択、実行した。
反重力機構による重量の軽減、スラスター群による後退と上昇、そして逆間接脚部による後方斜め上への跳躍を合わせた緊急回避は近距離ならばゴジラの荷電粒子ビームすら完全に回避可能だ。
しかし、その移動速度の代価として機体には20Gを超える凄まじい重力加速度がかかり、生身の人間ではどんな装備をしていようとも即死する。
そして、脚部の跳躍と併用する関係上、一度行えば着地するまで同様の行動は取れない。
空中ならば姿勢制御スラスターと飛行時の主推進ブースターにより再び回避機動は出来るが、推進力を集中していないために飛行形態程の速さは出ない。
つまり、反撃の好機という事だ。
6体の分体ゴジラ達が内部から燃え上がりながら、再び立ち上がっていた。
手品は簡単だ。
幾らナノメタルが高い耐電・耐熱性能を持っていた所で、粒子サイズまで細かく分けてあるが故に限界がある。
だからこそ粒子状のナノメタルを散布して行う熱エネルギー緩衝層は使い捨ての一回限りであり、適宜周辺空間へとナノメタルの補充を行う必要がある。
それが今、6体同時の超高熱波攻撃により燃え上がり、吹き飛ばされてしまった。
それをするにはエネルギー量はあっても、体内のナノメタルがゴジラ細胞と極限環境微生物群の活動を阻害しているために不可能の筈だった。
しかし、G0から供給された圧倒的エネルギーにより内側から強引に核融合・分裂を促進、供給されたエネルギーと強引な核反応で体内のナノメタルを燃やし尽くしたのだ。
そして、過剰供給されたエネルギーを体外へと強制排出するために超高熱波攻撃を行った。
勿論、ノーリスクな訳が無い。
余りにも強引な真似をしたために、体内にはナノメタルの浸食以上のダメージが発生しており、長期の戦闘継続は不可能だ。
だが、未だ分体の体内には過剰なまでのエネルギーが唸りを上げ、放出先を求めている。
対ゴジラ兵器達は再びキルゾーンを構築するために粒子状ナノメタルの再展開を試み、ミサイルの発射と装甲表面の剥離、そして直接散布を試みるも、その前に第二の超高熱波攻撃が2つ放たれた。
アラビア海と地中海の方でそれぞれ一つ放たれたそれは範囲は兎も角射程の短さ故に辛うじて回避された。
しかし、ここで対ゴジラ兵器群のAIは自らの失策を悟った。
超高熱波攻撃を放たなかったゴジラ達より、超大出力の電磁パルスが放たれたのだ。
ムートーという怪獣がいる。
放射能を餌とする古代の怪獣で、天然の原子炉であるゴジラにすら卵を産み付けようとする寄生生物でもある。
三角形の頭部と顎、赤く輝く目、鍵爪型の長い腕を持っており、全体的な風貌は昆虫を思わせ、実際の生体も繭の状態を経ての変態、一度に大量の卵を産卵する等、昆虫や節足動物のそれと酷似している。
雄に比べて大柄で巨大な2対の腕で陸上戦を得意とする雌と、体長が中型怪獣の中でも小柄だが腕の1対が巨大な翼で高い飛行能力(100m超えのゴジラを引きずる程の推進力を持つ)を誇る雄が番いとなって子育てをする。
ムートーの特性として、その爪の先端から全方位へと極めて強力なEMP、電磁パルスを発生させる事が出来る。
その出力たるや一撃で大都市を丸ごと機能停止させ、範囲内の軍艦や戦闘機を残らず戦闘不能に追い込む程である。
使用時には爪へと赤い光が集中して発光、それを地面に叩き付ける形で発動する。
この電磁パルスは生体電気を操る事で発揮するゴジラの荷電粒子ビームと電磁バリア機能に干渉し、使用不能に陥らせ、無力化する事も出来る。
また、これを至近で浴びた生物は怪獣の様な耐久力が無い場合、内臓をドロドロにされて即死する事となる。
斯様に極めて強力な怪獣だが、ゴジラはこのムートーとも幾度となく戦い、勝利してきた。
その結果、他の怪獣でも同様だが遺伝子の水平伝播によって様々な生物の特性遺伝子を取り込んでいるゴジラもまた、このムートーの遺伝子とその特性を後天的に得ている。
だが、その電磁パルスという原始の地球では雑魚狩り位にしか使わない特性を、今までゴジラは使ってこなかった。
自分の特性である電磁バリアや荷電粒子ビーム、熱線に超高熱波攻撃、体内放射や局所放射、超振動波攻撃だけで戦闘はほぼほぼ完結していたし、それらをより高出力にしたり、適宜調整を加えて肉弾戦もするだけで十分だった。
だから、基本的に他の怪獣の遺伝子から取得した攻撃は使わない、使った事が無かった。
今まで観測されなかった、知らなかった事に対策は打てない。
過去にゴジラが発した電磁パルスはあくまで荷電粒子ビームや電磁バリア、放射能熱線の余波でしかなかった。
だが、ここに来て初めて超大規模にして超大出力の電磁パルス攻撃を行った。
これが対ゴジラ兵器群にとっては致命的だった。
勿論、極めて高度な電子機器の塊である対ゴジラ兵器も電磁パルスには入念に対策をしていた。
だが、幾ら対策を施していたとしても、それを超える出力を叩き付けられてはどうにもならない。
機体の主電源である4基の核分裂炉を含む全機能がダウン、機体の活動が完全に停止してしまった。
基地から発射され、向かってきていた粒子状ナノメタルを内蔵した大型極超音速ミサイル群も全てが制御を失って砂漠や荒野へと墜落していく。
辛うじて機能の一部を保っていた生体CPUもいたが、それらだけで全機能がダウンした対ゴジラ兵器を再起動させる事は不可能だ。
出来たとしても、それは相応の時間を掛けねばならない。
それはつまり、今目の前で怒りと殺意に物理的に燃え上がっているゴジラ達を相手に完全に無防備となる事を意味していた。
月に照らされた礫砂漠、否、ガラス化した地面やクレーターだらけとなった荒野に爆発音が七度起きた。
GYAWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!
勝利を知らせる咆吼が長く響き渡り、前哨戦の終わりを告げた。
これから半年までの間、ゴジラ達は人類の前から再び姿を消した。
それが次の戦い、宇宙からの侵略者との決戦のためであると知った人類は混乱しつつ、やがて自らが生き残るために持てる全てを尽くしていく事となる。
G0は何処だって?
G1が地下ぶっ潰した時と似たような事してました