地上で人類が全力で来る戦争に向けた生産活動に励んでいる頃、地下でもまた動きがあった。
『洗脳対策?出来ますよ。』
『え、マジですか!?』
ゴジラへと行ったコミュニケーション実験と同様の方式でモスラと交信した所、あっさりとお話を聞いてくれた。
モスラ、地下世界の管理を行う彼女は基本言語を介さない怪獣達を管理するだけあってテレパシー能力に長けており、他者からの精神干渉への対策も熟知していた。
『要は異物を挿入されてバグってる訳ですからね。挿入される隙間を無くして対策するか、抜いて解くかの話です。』
『そんな歯車みたいな単純な話で・・・。』
『そもそも多数の知的生命体を完全に意のままに操るなんて基本的に無理です。対象を絞るなら兎も角、多数を一方的に洗脳して操る等、手間の割にリターンが少なすぎます。それが出来る存在なら普通に戦った方が無難でしょう。まぁ普通に当該知的生命体が従うパターンもありますが。』
モナークの担当者、絶句。
でもまぁ、基本強さが物言う地下世界だと地上の人類と違って単純なのでそんなもんである。
モスラ三部作で小美人の一人が洗脳された際も、姉妹の言葉であっさり洗脳が解けた事からもその程度のものでしかないのだろう。
なお、月人の作った洗脳アプリもこの辺は共通しており、奴隷労働は兎も角高度な知的活動をさせる事は出来ないし、精神力の高い者は抵抗が出来る。
月人の場合は肉体が無く、精神薄弱で抵抗が極端に弱いが故の悲劇だった。
『怪獣じゃなく人類相手だともっと繊細な干渉が必要ですけどね。対策の方が簡単なので、人類と協力している月人に対策を施す分には私の所に連れてきてもらえれば可能ですよ。』
『所で、ゴジラが洗脳を解除した件についてですが・・・。』
『アレは乱暴過ぎて真似しちゃいけない奴です。止めておいた方が無難でしょう。』
ヤバい薬でラリってる麻薬中毒患者が正気に戻るまで延々と苦痛と恐怖を与え続ける。
言ってしまえばそれだけなので、人類相手にやると先に心身が完全に破壊される可能性が高く、絶対に禁止となった。
後に人類側がこの方法の効果を疑問に思う程度にはこのゴジラ式洗脳解除術の成功例が少なかったため、「そんな事する位ならとっとと介錯すべし」という事となった。
そんな訳で、時間がかかるものの何とか月のダークサイドへと隔離中の洗脳された月人達への対応にも目処が立った。
『それと、地下の怪獣達による地上での参戦ですが・・・可能ですか?』
『相手側の能力次第としか言えませんね。今回は質ではなく数で来るみたいですし・・・王の号令に逆らえる者達限定となると難しいですね。』
αコール、王の号令に逆らえる怪獣は希少だ。
ゴジラ、モスラ、バトラの王達を除くと、グレイトエイプの王個体キングコングに古くからの実力者であるシーモ、知能の高いメガロ、そして誰だろうと極めて好戦的なアンギラスを除くと、後はそもそも知能の極端に低い=戦力にならない者達しかいない。
そんな訳で、現在地球怪獣の中で戦力になるのはゴジラ達8体を除くと、僅か6体しかいない計算になる。
地上で急ピッチに進んでいるモゲラシリーズ量産計画だが、計画が始動してまだ一ヶ月程度なので数は20に届かない程度しか出来ていない(普段と比較すればべらぼうに早いが)。
月人製対ゴジラ兵器の改修は進んでいるが、ギドラ相手に役立つかは未知数のためにカウント外だ。
『うーん、せめて王の号令を出せる個体さえ排除出来ればグレイトエイプの生き残りを動員できるのですが・・・難しいでしょうね。』
『それってつまり一番ヤバい連中を黙らせるって事ですからね・・・。』
そうなのである。
ギドラ族は一部の例外を除き、皆王の号令を使用できる。
過去1回目の地球への飛来時はそれを知らず凄まじい損害を出し、2回目は対策として王の号令に耐性の無い怪獣達全てを地下世界へと避難させた。
しかし、それ故に手数が足りず、超巨大隕石を破壊する事が出来ずに再び大損害を出す事となった。
そして来る3回目、ギドラは200を超える圧倒的多数の手下を従えて進軍中だ。
地球側からしたらお前ふざけんなよマジで!?ってもんである。
『取り敢えず、月人の洗脳対策を希望する者達は私の所に寄越してください。加護を与えて対策しますので。』
『分かりました。』
この瞬間、地下世界の女王モスラのデスマーチが始まった。
何せ今まで月人の頭を悩ませていた死活問題を完璧に対策してくれる者が現れたのである。
事実上初の侵略を受けて感情が極端に希薄な彼らなりに大いに危機感を募らせていた月人達はこれに飛びついた。
結果、月内部の月人全員が半年以内に順次モスラの元へと参る事となった。
ナノマシンで現地に合わせた肉体を構築し、次々と次々と、一切の切れ目なく訪れる月人達に、当初モスラは(え?多い、多くない?)と内心で思ったが必要な事だと納得して幾つもの行列を作る月人相手に只管に加護を与え続けた。
しかし、それが10日、20日、遂には一ヶ月経ってもまだ一切切れ目が出来ないとなると流石に根を上げた。
『ちょ、ちょっと待ってください!流石に多くないですか!?一体何人いるんですか!?』
『そりゃまぁ、一部例外を除いて月人全員が希望してるらしいですからね。地上の人類よりもかなり少ないですが、それでも1億ちょいの人口はあるらしいですし。』
『いちおく???』
モスラ、流石に絶句。
え、人類多過ぎない?地上はもっと凄く多い?そっかぁ・・・(思考停止)
モスラは悟った、このままでは過労死しかねない、と。
『お願い助けて相棒!私だけじゃ過労死しちゃう!幾ら転生するって言ってもこんな方法で死ぬのなんていやぁ!』
『だから調子の良い事を言うなと・・・。私がいても足らんなこれは。イーウィスの民も動員するぞ。』
死が労働を止める理由にならないモスラは同類であるバトラに必死に泣きつき、バトラもまた言わんこっちゃないと文句を言いながらも手を貸すことにした。
こうして、地下ではモスラとバトラ、そしてイーウィスの民でもテレパシーの得意な巫女達を中心としたデスマーチが開催される事となった。
死なないでモスラ!頑張ってバトラ!負けないでイーウィスの民!
泣いても笑っても半年後には終わるから!
それまでは死ぬ気で頑張って月人達に洗脳対策をし続けてね!(鬼畜)
この彼女らの頑張りは報われると知るのは、もう少し後であった。
尚、現在進行形で地下世界にはお礼&お布施の名目で月人製の各種物資が雪崩込んでおり、後にイーウィスの民の生活を大きく変化させる原因となるのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・
月の影から接近するギドラ率いる宇宙怪獣軍団に対し、地球人類と地球怪獣達は無力だった。
だって月壊すと地球も滅ぶんだもん。
月が破壊された場合、破壊の規模にもよるが多少割れたり、削れたりしてもそこまで大きく地球上に影響はしない。
勿論破片が落下した場合は相応の被害が発生するが、破片にある程度の質量があれば破片同士が互いの引力に引かれ合って砕け散る事は無く、再び一カ所に集まる。
しかし、ギドラ率いる宇宙怪獣軍団を撃破するだけの火力、それもG0を含むゴジラの熱線の全力集中砲火ともなれば話は異なる。
月は砕け散り、その破片は地球に降り注ぐか、それすら起きない程に消滅するかだ。
勿論、内部の月人は全滅する。
その上、そんな事態になったら地球もまた壊滅的な被害に遭う。
破片の落下のみならず、自転軸の不安定化に伴う極端な気候変動や新たな氷河期の到来、潮の満ち引きの激減による海の生態系の壊滅、月明かりが消える事による月明かりを道しるべにする夜行性の動物や昆虫、海洋生物の産卵等の生態系の壊滅等々・・・数え上げれば切りが無い程の悪影響が出る。
では地上人類の核兵器をミサイルに搭載してありったけ叩き込む飽和攻撃ならばどうだろうか?
宇宙空間では大気が無い故にその威力は大幅に減ずるものの、それでも怪獣にも十分な威力を発揮するのが熱核兵器だ。
しかし、放射線は多くの怪獣にとっては栄養にもなり、宇宙を渡る怪獣ならば最低限でも耐性は持っているだろう。
多少直撃した程度の純粋な熱量だけで撃破できるとは考えづらい。
更に言えば、どうやって命中させるかという問題もある。
元々宇宙空間での運用は人類の核兵器やミサイルは想定していない。
ICBMは大気圏を抜け、極短時間のみ宇宙を通過した後に目的地に向けて再加速するが、宇宙空間で月の向こう側から飛来する彗星とそれに伴う隕石群を迎撃するためのものではない。
動体目標、それも人類にとって完全に未知のソレに確実に命中させるにはどうしても目標を確認した上で確実に誘導せねばならない。
月の影に隠れた200を超える隕石群に向けて、である。
無理に決まってんだろが!というのが各国技術者と航空宇宙開発者の返答である。
唯でさえ月の影、裏側方向は極端に調査が進んでおらず、データも少ないのだ。
最低でも裏と表の境界付近に人工衛星を飛ばして照準、全ての目標に対して適切に誘導を行う必要がある。
更に核弾頭の飽和攻撃となれば通常よりも遙かに高濃度の放射線が荒れ狂う事となり、通常の電子機器ではどれ程対策しても不安しかない。
そして、そこまでやっても有効かどうかは分からないと来た。
かと言って、そこまで素通りさせては月の影で各方向へ分散して飛来でもされたら先制での火力の集中投射で数を減らす事が出来ず、その物量の差で地表戦力は各個撃破されかねない。
ゴジラや地下の怪獣達は多分生き残るだろうが、それ以外全てが嘗てと同じく滅び去るだろう。
「絶対嫌だねそんなバッドエンド!意地でもハッピーエンドにしてやる!」
絶望に包まれる対策会議において、人類の叡智を一人で数世紀早めてるDr.サカヨリは言い放った。
え、アンタまた何かやらかしたんです?と注目が集まる中、手を挙げた者達がいた。
「我々に任せてほしい。宇宙での事なら君達より遙かに上だと自負している。」
月人である。
肉体を捨て、過酷な宇宙と月での暮らしに適応した彼らはその分多くのノウハウを持っている。
勿論、月の影方向から来る無数の怪獣軍団の潜む彗星と隕石群に正確に照準・誘導する事も簡単だ。
ただ、こちらはこちらで問題がある。
月が戦場になってしまった場合、月人達には怪獣に直接抵抗する術が殆ど無いという点だ。
彼らの開発した対ゴジラ超重質量ナノメタル製決戦兵器はその性質上対ゴジラに性能が偏っている。
つまり、ゴジラならざる未知の宇宙怪獣相手ではどれ程効果があるかは不明なのだ。
もし彼らの存在がギドラに気取られた場合、為す術無く滅ぼされる可能性が高い。
「既にギドラは我々の存在に気付いています。良いように利用したのがその証拠です。となれば、このままではどちらにせよ滅ぼされます。」
幸いにして現在、月の民は急ピッチで洗脳対策と合わせて地球上でナノマシン製の肉体を構築し、先進国各国に散って技術提供を行っている。
つまり、もし月人の住まう月内部の巨大演算装置が破壊されたとしても、月人が絶滅する事は無くなったのだ。
「幸いにして、保険も何とか用意出来ました。これから我々はギドラが来る前に洗脳された同胞の救出作戦を実行します。ギドラ達へのミサイルの誘導はお任せください。」
こうして、ギドラ軍団迎撃作戦の大枠が決まった。
後はその日が来るまで勝利のための準備を積み重ねるだけだ。
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ギドラ族はこの広い宇宙において、最強種の一角だ。
宇宙を流離い、目に付いた星の生命を殺し尽くしてその生命エネルギーを啜り、そうして数多の星の生態系を絶滅させてきた。
無論、その過程で幾度も障害に出会ってきたし、時に反撃で撃破される事もあった。
同じような放浪種族と遭遇し、互いに食い合った経験もあれば、不死の存在と戦った経験もある。
だが、同族が二度に渡り返り討ちにされた星は聞いた事が無かった。
一度目は現地の大型生物を多数巻き込んだ乱闘の果てに。
二度目は巨大隕石で星諸共滅ぼそうとした果てに。
その両方でギドラ族は敗れ、その命を散らした。
有り得ない出来事だった。
テレパシーによって同胞の死を知ったギドラ族は再びその星を襲おうとした。
だが、止められた。
彼らの長が止めたのだ。
ギドラという宇宙の王、その中においてなお王とされる者に。
王の中の王、即ち皇帝は自らが外征する事を宣言し、多数の奴隷と未だ若い同胞を連れて出発した。
彼ら種族の時間感覚からしてもかなり長い間宇宙を渡る事となったが、元々同胞の中で最も長命な皇帝にとっては大した事は無い旅路だった。
皇帝は巨大な彗星の内側で微睡みに揺蕩いながら、確信していた。
次の戦いは、自分の永い生の中で最も激しい戦いになると。
休眠状態の奴隷達と若い同胞達を引き連れ、暗黒の宇宙を目的地である青い命溢れる星目指して進みながら、皇帝は眠りの中にあってなお獰猛な笑みを浮かべるのだった。