白亜紀からこんにちわ   作:VISP

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その36 前夜

 巨大彗星とそれに率いられた隕石群、否、ギドラとその部下達が地球圏に襲来するまで一週間という頃、遂に人類は最後の準備を始めた。

 各地の大深度シェルターは国民の受け入れを本格化し、各国軍は最後の時に向けた最終チェックと各種兵器群の整備に余念が無い。

 結局、完全に相手を撃破できるだけの戦力を揃える事は叶わなかった。

 後1年、それだけあればメカゴジラシリーズを更に20は増産できたし、モゲラ系も同様に多数増産できた。

 対大型怪獣想定のミサイルや砲弾だってもっと備蓄したかったし、軍人の訓練ももっとしたかった。

 しかし、もうそれをするだけの猶予は無い。

 途上国は兎も角、自前で大深度シェルターを用意できなかった国も既存兵器ながら輸出用の軍用UWAVと対大型怪獣ミサイルを購入して備えてはいる。

 想定される戦力に比して全く数合わせにもならない事を除けば、彼らは彼らで出来る事をしていた。

 なお、途上国は今も政府軍と寄り合い所帯のテロ集団との戦闘が継続中であり、一部はテロ集団が勝利してシェルターを乗っ取ったものの、政府軍を打倒した瞬間に内ゲバが始まった挙げ句、シェルターを破壊してしまった所もあるらしい。アホかな?

 なお、自称中国正統政府はへドラ事件以降四度目の崩壊を迎えたが、何処も「我こそが正統政府!」と訴えているので、国連も何処の国も話しかけられても「正統な中国統一政府代表を決めてから声かけてください」と返している。

 こうするとどの勢力の誰それを代表と認めるかで永遠に内乱してくれるので面倒が減るのだ。

 

 そんなカオスな地上と異なり、月では遂に最後の仕上げと月の裏側へと移動していた隔離区画の攻略作戦が開始され、人類の目には見えない電子の戦争が始まった。

 その推移は大方の予想通り月人の正規軍の方が優勢であり、洗脳された隔離区画は終始圧されていた。

 それも当然で、用意できる演算リソースにマンパワーが段違いなのだ。

 洗脳によっていつもより更に無機質なゾンビの様になった連中など、正常な判断力とモスラの加護を得た月人正規軍が負ける筈も無かった。

 だが、事態は予想外の展開となる。

 

 『隔離区画内部の人員は、全て自閉状態です。無理に干渉してしまえば自壊してしまうかと・・・。』

 『抵抗が少ないと思ったらこれか。何たる事か。』

 

 自閉状態というのはその名の通り外からの干渉に対し、ガードを固めてその中に完全に閉じこもる事だ。

 元々過酷な環境で長い間生活するための機能の一つであり、単純労働を灯籠型月人=無人作業機械に任せ、成果が出るまで他に仕事も無い場合なんかに使われる、言わばスキップ機能だ。

 とは言え便利なものではなく、自閉状態では内部もまた完全に停止し、何も出来ない。

 こうなるともう外部からは中身が解除するまで待つか、外から破壊するしか手出しは出来ない。

 例え区画内部の月人達の大元データを確保しているとしても、洗脳によって操られた罪無き同胞を殺すのは忍びない。

 そう思った月人達は最終的に彼ららしい理性的かつ合理的な対応を決めた。

 

 『邪魔にならんというのなら拘束を施した上で監視を残して放置するしかあるまい。何か動きがあれば報告を。』

 『畏まりました。』

 

 だが、後にこの判断が間違っていたと分かったのは、全てが手遅れになってからだった。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 巨大彗星の中に身を潜める皇帝、カイザーギドラの率いる軍団は当初ここまで大規模ではなかった。

 

 原因となったのは、とある知的生命体の存在だ。

 太陽系から遙か彼方、数万光年の先に存在した「彼ら」の母星から話は始まる。

 彼ら、仮称「X星人」とでも呼ぼうか、実際は人類とは似ても似つかぬ生態だが、それは置いといて。

 彼らX星人は極めて発達した科学技術によって隆盛を誇り、宇宙進出も盛んに行い、時に他星人への侵略も行って複数の星系を領土としていた。

 

 そんな彼らの下へと、ギドラがやってきた。

 

 彼らの不幸は発達したが故にギドラの目に付き、彼らの幸運はそのギドラが未だ亜成体だった事だ。

 初めて遭遇する巨大な宇宙怪獣の猛威に凄まじい被害を出しながらも、高い技術力に裏打ちされた強力な軍事力によって何とX星人はギドラの撃破に成功した。

 真ん中の首を始めとした胴体の半分近くを破壊した後、活動を停止したギドラはしかし未だに生きていた。

 溢れんばかりの生命力に戦慄しつつ、X星人は半死半生となったギドラを利用する事にした。

 

 その肉体をサイボーグ化し、兵器へと転用したのだ。

 

 真ん中の首と胴体を中心に機械化したそれはメカギドラと呼称され、開拓先の惑星で遭遇した怪獣や現地知的生命体の文明を撃滅していった。

 また、ギドラの細胞を培養、対怪獣ロボットの有機素材として転用したガイガンシリーズも開発し、一騎当千だが数を揃えられないメカギドラ以外の戦力の拡充にも成功した。

 向かう所敵なしとなったX星人は広大な銀河系を掌握すべく版図を広げていく・・・筈だった。

 彼らの誤算はギドラ族には多数の特殊能力が備わっており、その一つであるテレパシー能力について軽視していた事だ。

 ギドラが助けを求めて同族を呼ぶ?

 この広い宇宙でどうやって?

 どれだけの出力が必要で何処に飛ばせば良いのかも分からないのに?

 もし来た所でまた撃破すれば良い。

 そうすれば次のメカギドラの素材を確保できる。

 そんな軽率な対応は、正しく因果応報となって彼らに襲いかかった。

 

 事態を察知したギドラ族の皇帝、カイザーギドラの来襲である。

 

 おまけでカイザーギドラの奴隷も付いてきたがさておき。

 亜成体のギドラとは比較にもならない程の圧倒的強さを持ったカイザーギドラを前に、X星人は腰を抜かした。

 慌ててその全戦力を以て戦おうとしたものの、それは悪手だった。

 カイザーギドラも持つ洗脳能力によって、指揮官個体を除いて自意識を持たないガイガン達はあっさりと操り人形にされ、指揮官個体達は抵抗を試みたものの叶う筈もなく、最終的には降伏する事となった。

 最後の切り札メカギドラも性能差と体格差もあってあっさりとやられた。

 更に機械部品のみ剥ぎ取られ、徐徐に再生していき、遂には元通りのギドラへと復活した。

 後は語るまでもない。

 X星人の版図は全て怒りに満ちたカイザーギドラと新たに眷属となった者達によって蹂躙され、消滅した。

 彼らのいた星の生命もまた同様に滅ぼされ、星の生体エネルギーはギドラ達の糧とされた。

 この様な事が広大な銀河系各所で繰り広げられ、ギドラ族はその悪名と共に星間文明や長命種の間で最重要警戒対象とされてきた。

 

 そんな中、カイザーギドラは地球で討たれた同族のテレパシーを察知した。

 

 仇討ち(というかより美味く歯応えのある獲物を求めて)に行こうとする同族を制し、永年の退屈に飽きていたカイザーギドラは部下達を率いて遙か彼方の星、太陽系第三惑星地球を目指して旅だった。

 数万光年の遙か彼方にある生命溢れる星とそこに住まう強敵を目指し、彼らは外征を開始した。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 後に第三次ギドラ大戦と称される戦いの48時間前、人類は持ち得る全ての熱核兵器のICBMへの搭載を完了し、今か今かと発射の時を待っていた。

 地上から月方面へと発射されたICBM群はその後、月人達による終末誘導を経て目標へと命中する。

 これらの狙いは最も巨大で的が大きい巨大彗星・・・ではなく、その周囲に付随する隕石群だ。

 正直、G0でも苦戦が予想される相手に人類の現行の核ミサイル程度では何の効果も期待できない。

 月人製ナノメタル弾頭ならばまた話は別だが、貴重なナノメタルはメカゴジラの建造やモゲラ系の強化に使用されるので1gとて無駄には出来ない。

 そこで数を減らす事を目的に隕石群に目標を定めたのだ。

 飛来する隕石群が表面を通常の岩石で覆っている事は確認済みであり、中身が出てくる前に吹き飛ばそうというのがこの先制攻撃プランだった。

 後は地球へと降下してきた敵戦力を各個撃破していく方針だ。

 想定される主な戦場は欧州に米国、日本、そして中東だ。

 なお、南米のベヒモスは既にゴジラの号令によって地下世界へと帰還している。

 最終的な地上人類の戦力は各国の既存兵器にUWAVが1500機以上、量産型モゲラが約100機、スーパーモゲラが40機、そしてメカゴジラが1機に月人製メカゴジラⅡが50機である。

 そして、地球怪獣側は地上にG1を除いた全てのゴジラ達だ。

 彼らは既に自らが戦場と定めた場所(モスラと相談済み)で熱線のチャージを開始して1ヶ月近く経過している。

 放たれた熱線は収束すれば月すら砕く威力となるだろう。

 勿論、月人と現在協力関係にある状態でゴジラ達にそんな事をするつもりは無いが。

 

 「いよいよだね。」

 「彩葉、もう今日は休まない?やれる事はやったんでしょ?」

 「分かってる。でももうちょっとだけ、ね?」

 

 現在、酒寄博士率いる酒寄ロボ研の面々は北米と日本に分かれて活動している。

 態々この状況で分かれているのは、酒寄ロボ研のデータをそっくり二カ所に分けてどちらかが滅んでも後世へと残すためだ。

 彩葉は覚醒以降、実に様々な技術を開発し、多くが特許として電子データや書類として残っているが、地上が焼き払われれば流石に消えてしまう。

 そこで日本とアメリカの大深度シェルター内部に他の技術情報と並んで保管してもらう事にしたのだ。

 これにより人類の歴史が続けば何時かは誰かが役立ててくれるだろうと希望を残すために。

 

 「まぁ日本側はそれに加えて未発表の諸々を具体的な数値にして紙と電子媒体に出してもらうって役割もあったけどね。」

 「大丈夫?研究所の人達SAN値チェックにならない?」

 「・・・大丈夫大丈夫。何だかんだ皆鍛えられてるしね。」

 

 なお、日本に残った人員は「何であの人これ発表してねぇんだよクソがぁ!!」と怒り狂ってたり、SAN値チェック失敗からの一時的発狂してたり、見てしまったものを忘れようと必死に頭を壁に打ち付けてはFUSHIによって記憶洗浄処置を受けてたりしていた。

 具体的に何を見たかっていうと、低重力下でのみ作成可能な超合金とか、重力操作によるマイクロブラックホールの作り方だとか、その発展のマイクロブラックホールエンジンの作り方だとか、ご家庭の材料で出来る酸素破壊兵器の作り方だとか、ホームセンターで材料の揃うプラズマメーサー砲の作り方だとか、艦首にドリル付いてる飛行船艦の設計図だとか、1億年以上昔の地下と地上世界双方の観測情報だとか、共生ゴジラ細胞の知られざる効果だとか、ゴジラの推定される自己進化による新能力獲得の条件とか、ゴジラと戦った場合の人類軍のシミュレーション結果とか、ゴジラの能力を用いた理想的な自然環境の構築方法とかとかとか・・・。

 馬鹿と冗談を現実にする案件はまだしも、軍関係者とかモナーク関係者が見たら発狂間違いなしのデータが目白押しであった。

 アンタなんてモン残してるんだよ!?こんな激ヤバデータ自分で処理しておけよッ!!と叫びながら必死に整理整頓して保管すべき内容を吟味していく羽目に陥っていた。

 

 「ういー二人ともお疲れ様ー。」

 「あ、お疲れヤチヨ。」

 「お疲れ様。はいこれホットミルク。」

 「ありがとー・・・。」

 

 へろへろ状態のヤチヨも合流してきた。

 三人ともフォーマルとは言えない位質素な私服(彩葉のみ+白衣)だが、ここモナークでは問題無い。

 軍人以外は皆それぞれ似たようなものだが、この辺は元々研究機関らしいフリーダムさと言える。

 

 「勝てるかなぁ・・・?」

 「最終的にはね。」

 「人類の文明が存続するかどうかはまた別だけどね~。」

 

 不安げなかぐや、確信を持って返答する彩葉、そしてしおしお顔で懸念を口にするヤチヨ。

 かぐやの不安は尤もだが、彩葉としてはあの王様が負けるなんて考えられない。

 ヤチヨもその点は心配してないが、負けたら滅亡、勝っても下手すると文明後退と碌な事が無いこの戦いそのものを憂いていた。

 最悪、戦後に月人のナノメタル技術を用いてでも文明復興していく必要があるとなると、そりゃ憂鬱にもなろうというものだ。

 

 「ま、私達に出来る事はやったし、後は野となれ山となれってね。」

 「いやーヤッチョとしてはリスナーの皆含めて今後もツクヨミやっていきたいから、是非頑張って勝ってもらいたいねぇ。」

 「んー・・・かぐやとしては勝てるか不安なんだけど・・・え、マジで勝てるの?」

 

 二人の言葉を聞きながらも、なおもかぐやは不安そうな顔を崩さない。

 だが、それも当然だろう。

 彼女はネット上でしかゴジラの活躍を知らない。

 時にリアルは人の予想を彼方に置いてかっ飛んでいく事を知らない少女なのだ。

 

 「「勝つよ。」」

 「何でそこていきなりハモるのさ!?えぇーいかぐやも混ぜろー!」

 

 確信を持って放たれた言葉に、空かさずかぐやは二人に抱きつき、ウリウリとその頭を二人へと押し付ける。

 きゃらきゃらと、年甲斐も無く大声で笑う三人。

 彩葉が求め、一度も諦めずに手を伸ばし続けた尊い光景は今、そこにあった。

 

 「さ、今夜はゆっくり寝よう。」

 「朝になれば大勝利!希望の未来へレディGo!かもしれないしねー。」

 「ごめん、かぐやそのネタ分からない。」

 「なん・・・だと・・・?」

 

 こうして人類最後の夜は更けていった。

 

 




X星人さん、本編で見せ場なく退場
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