ヒト種の世界では怪獣への対抗策として先進国では一様に軍拡が始まった。
一桁から10m程の小型、小型以上で30m代までの中型は兎も角として、40m以上の大型の怪獣相手には各地で火力不足が発覚した事が主な原因だ。
また、EMPや毒ガス等の特殊能力や飛行可能な怪獣は現代の技術レベルではどんなに頑張っても完全な対抗は難しい事もあり、どう進めていくか難航している。
そのため、国連(とアメリカ&モナーク)が中心となって各国で得意分野を活かしてある程度分担する形で進めていく事となった。
まぁ先ず最初は火力の向上と増員だったが。
そうしていくと徐々に討伐に成功した事例も現れ始め、また私に討たれた怪獣の死骸と合わせて多数のサンプルが確保された。
モナークの公開した資料とも合わせて、人類の対怪獣研究はドンドン進んでいった。
特に大型怪獣の持つ環境改変能力は大きく注目され、そのメカニズムを解明すれば自然保護に転用できるのではないかと大きな期待を寄せられた。
なお、怪獣を保護して自然保護に利用しようという環境保護団体の声は黙殺された。
既に世界各地で何万人もの犠牲者を出している怪獣を保護しよう等と、被害者からすれば利敵行為に他ならない。
それどころか今回限りは我慢ならんとそうした人々からリンチされる事件すら発生したため、警察に保護される事態となった程だ。
ちなみに怪獣達の持つ環境改変・保護能力は私も大体全部持っているのでもうやっている。
この世界は私のいない世界に比べればかなり自然環境が豊かだし、人類の放射線への耐性も強くなっている筈なのだが、それを知る者はいない。
それはさておき、遂にツクヨミとやらが正式にサービスを開始した。
『ヤオヨロー!神々の皆ー!月見ヤチヨだよー!今日のライブもしっかり楽しんでいってねー!』
現実では怪獣の出現に伴って各国の予算が軍事に割り振られたために軍需産業とそれに伴う重工業は景気が良くなったものの、それ以外の民需は冷え込み始めていた。
また、海外旅行は移動中に怪獣災害に遭遇した場合、余りにリスクが高いとして大幅に減少している。
そこで仮想空間の出番である。
初期投資こそ庶民には痛い金額なスマコンだが、基本プレイ無料かつ古い日本をベースとした世界観のツクヨミはその先進性とモラルの高さも相まって日本に行きたいが行けない外国人及び日本人の幅広い層から人気を集めた。
同格のゲームが未だ出ていない事もあり、ツクヨミはあっという間にオンラインゲーム界隈の覇権を握る事に成功した。
その陰に月人という異星人由来の技術が使われている事を秘されたまま、人々は恐ろしい現実から逃避する様にツクヨミへと嵌っていった。
因みに私はネット社会が始まって以来、電子工学とか重工業とかの解説動画を漁っているから特にツクヨミに出入りしていない。
それら動画にしても自分の能力を磨くためのものなので、娯楽として利用する事はほぼ無い。
他を見ない訳ではないが、それらも時事ニュースばかりでヒト種の社会情勢の情報入手という意味合いが大きい。
ヤチヨもといかぐやはそんな私にネットの面白さを教え込もうと以前から色々言ってきているが、いつもの通信爆撃と同じとして私は聞き流している。
あの手この手で様々な動画を私に視聴させてくるが、どれも余りそそられる事が無い。
永い時を付き合ってきた腐れ縁となるも、ヒト種に近い彼女と私では価値観に大きな隔たりがある。
どう言い繕おうが所詮は異種、真に馴れ合う事は無いのだ。
・・・だから通信爆撃してくるな。
ツクヨミが、ヒト種の積み上げてきた文化が素晴らしいのは分かったから押しつけるな。
おいFUSHI、お前の飼い主だろうが。
こういう時こそちゃんと諫言するべきじゃないのか。
何?浮かれポンチ化してるから焼け石に水?
彩葉がツクヨミに参加するようになったからどうしようもない?
・・・スゥ~~~~~ハァ~~~~~・・・(アンガーマネジメント)
この8000歳BBAがぁ!!(怒髪天
・・・・・・・・・・・・・・・
酒寄彩葉にとって、世界は過酷だ。
優しい音楽家の父が亡くなってから、酒寄家は酷く息のしづらい場所になってしまった。
というのも、正しく鬼婆となってしまった母親の存在故だ。
言っている事は正しい。
だが、只管に辛辣で容赦なく心を抉る言葉ばかり投げかけてくる。
頼みにしていた兄も一人で上京して家からいなくなり、毎日あの人と顔を突き合せてはその罵詈雑言に心を抉られる日々が続いた。
父方の祖父母の家に避難しようかとも思ったが、望む進学の高校とは随分離れている事もあったし、何より父の両親らしく心優しいあの二人に負担をかける事を彩葉は嫌った。
いや、違う。
正直に言おう、誰かに頼る事が彩葉には出来なかった。
あの人から早く自立したいがために、誰かに頼るという思考が完全に消えていた。
最早それは強迫観念、トラウマの領域に入っており、彩葉が自分から誰かを頼るという選択肢を奪っていた。
そんな彩葉が無理を通して何とか上京して一人暮らしを始めた結果、彼女は高校生の身で生活費と学費のためのバイトと学業の両立という凄まじい事をし始めた。
しかも成績は学校でも常にTOP、更に推し活と両立するために寝る間と食費を切り詰めての事である。そのままだと何れ死ぬぞ
幸いな事に推し活、電子仮想空間ツクヨミは基本プレイ無料であるために彩葉の懐事情にも優しく、益々彼女はツクヨミの管理人ことAIアイドルの月見ヤチヨにドハマリしていった。やはり垂れ目だからか
『現在、我々は旧チェルノブイリ跡地に来ております!現地では怪獣同士の激しい戦いの跡が生々しく残っています!』
『幸いにもゴジラによって残留放射能の殆どは吸収された模様です。ゴジラは二体の怪獣の死骸を残して既に立ち去っており、現地ではロシア軍による死骸の解体が始まっています。』
『モナークも参加予定だったのですが、ロシア政府の要請により今回は非参加となっています。』
『今回現れた二体の怪獣はムートーと呼ばれ、番いで繁殖のために放射線の多いこの場所を選んだとの事です。』
『えーそれではカメラをスタジオに切り替えまして、専門家であるモナークの極東支部からの情報をお知らせさせて頂きます。』
『改めて申し上げますが、怪獣達はそれぞれの食性に合った摂食行動の他、放射線を吸収する事でエネルギーを得て活動しています。そのため放射線の多い場所は怪獣達の襲撃を受けやすくなっております。具体的には原子力発電所や放射性廃棄物処理施設等が該当します。日本でありますと各地の原発に加えて青森県六ヶ所村にある「日本原燃・使用済み核燃料再処理工場」が標的になる可能性があります。』
『この使用済み核燃料再処理工場では使用済み核燃料を再処理し、プルサーマル発電の燃料となるプルトニウムを抽出する事業が進められていますが、過去に何度も事故が発生して今日まで完成が延期し続けている施設で安全対策が完全でないとして問題視されてきました。』
『過去には高レベル廃液が漏洩した事故もあり、正直な所何時襲われてもおかしくはない施設としてモナークにより改めて各種警報装置が設置されており、日本政府にも早急な対応が要請されています。』
(またやってる・・・。)
彩葉にとって、否、多くの日本人にとって怪獣災害は遠い世界の話だった。
事実、戦後の日本は一度も怪獣災害に見舞われていない。
日本海溝に潜むゴジラが活動を開始した事で避難警報が発令され、太平洋側の人々が避難する事はあっても、一度も上陸された事は無かった。
海面に浮上したゴジラが目指す先は大抵中国や韓国、ロシアや東南アジア方面なので、日本では最近ではすっかり危機感が薄れてしまった。
だが、海外での怪獣災害の悲惨な状況は幾度も途切れる事なく続いており、世界経済は今日も不安定だ。
海外との貿易も商品の生産地や港湾部が被害を受けて出荷できない状況に陥る事もあり、原油価格も航路が不安定なために値上がりした事で全ての物価が上がっている状況が続いている。
怪獣共のバカヤロー!と苦学生の彩葉や日本人の殆どが思っているが、現状がそんな事で変わる訳もなく。
今日も地球の何処かで怪獣が暴れ、現地の軍かゴジラによって鎮圧される。
その余波で色んな場所が壊れて荒れ果て、経済を通じて世界中に余波が及ぶ。
「はぁ・・・早く平和になって物価下がらないかなぁ~・・・・・・。」
酒寄彩葉16歳、常に家計簿と睡眠時間と勉学と推し活とバイトに心身を疲弊させているブラック企業の社畜も斯くやの学畜であった。
この時の彼女はまだ知らなかった。
15年後の自分が、怪獣達によって散々に翻弄されている世界情勢を大きく動かす事になるのだと。
未だ月よりの姫に出会い、別れる前の彼女には想像すら出来ない事であった。
8000歳BBA「彩葉!彩葉!彩葉!彩葉ぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!彩葉彩葉彩葉ぁぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!きっといい匂いなんだろうなぁ・・・
んはぁっ!彩葉の黒髪と言わず全身をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!以下自主規制
FUSHI「・・・」 ←理解しつつも嘗て無い醜態にドン引き
ゴジラ主(うっさ)