中谷南美よ、立ち上がれ。
そして救え。
すべてはこの世界に住む者達のために。
ノセル「ま、そうだね。でもさ⋯⋯⋯⋯⋯⋯とっとと立ち上がってくれない?君。」
え?
ヒフミ「突然何を?」
ノセル「は?突然?良い?ここはね、誰かが必ず守ってくれる場所でも、絶対に安全な場所でも無いんだよ?」
確かに⋯⋯⋯⋯そうですが。
事実、ノセルさんの言う通りだ。正面には今も凶星と戦っているクルミさん達が戦っているし、左にはあの恐ろしい火竜の攻撃を謎のステップで回避しながら銃撃するホシノさんやあの男の人が。
今も戦っていた。腰が砕けた私とは違って。
勇敢に、恐れを知らないかのように。
ヒフミの顔は徐々に暗くなっていく。自分は結局何も為せなかったと自己否定し続ける。
ヒフミ「ノセルさんは、怖くないんですか?」
勝手に口から出た。
ヒフミ「あんなにも怖い化物相手に立ち向かえって言うんですか!?」
早く閉じてと思っても、止まらなかった。
ヒフミ「無理なんです!怖いんです!分かってます!この場で腰抜けなのが私だって事くらい!でも無理なんです!怖くて怖くて仕方無いんです。足に力を入れても立てなくて、すぐに抜けてしまうんです。私は、わたし⋯⋯⋯は。どうすれば、良いんですか?」
止められなかった。この緊迫した状況で言い訳を並べる事に。
気付けば涙を流していた。何の涙か分からなかったけど、湧き上がる感情のままに流し続けた。
ノセル「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。私も怖いよ?」
ヒフミ「⋯⋯⋯⋯⋯え?」
素っ頓狂な声を出す私を無視してノセルさんは、変わらず言い続ける。
ノセル「だから怖いって言ってるの。あんな化物相手に『怖くない』なんて言える奴なんて、ここには極僅かしかいないよ?」
ヒセル「ヒセルもねー怖いよー。ほら。」
ヒフミの手をヒセルは握る。今も震えるヒフミの手と同調するように、ヒセルも震えていた。
ノセル「大体火竜とか凶星とか。そういう奴のいるこの森の依頼なんて受けたくなかったんだよねぇ。あのババァ!絶対許すマジ!⋯⋯⋯⋯⋯んんっ!ま、そんなこんなで今私達はここにいるって訳。」
「アオオオォォォォォンンン!!!」
その声に釣られて皆が前を向けると、空に二度目の遠吠えをしている凶星がいた。
その声は最初と違って誰かに呼び掛けるような声だった。
その考察は正解となる。
「「「「「アオオオォォォォォンンン!!!」」」」」
次々とあがる狼の遠吠え。ワンテンポ遅れて木々の間を抜ける『何か』の音。
嫌な予感しかしない。
そして、それらは現れる。
ニクス「マジかよ⋯⋯⋯何でもありだな。」
クルミ「一匹狼って話じゃなかったの?」
ニクス「総員!迎撃しろ!」
現れたのはヘルホーンハウンドの群れ。きっと凶星がかき集めたのだろう。
この群れは凶星をリーダーとし、手足となる。
凶星の遠吠えと、本来の役割の遠距離の伝達を可能とする角により、この場は混戦状態となる。
ケイ「ケイちゃんフィールド展開!」
ケイは即座に密集している味方に増幅装置を投げ込み、冒険者達の底力を上昇させる。
この言葉と共にラウンド2が開始される。
それを遠くで見るヒフミは、口を手で覆って悲鳴を抑える。
見たのだ。誰かが狼の爪により体を切り刻まれて、地面に付すところを。
凶星の砲撃に巻き込まれて、塵と化したタンク達を。
凄まじい連携により追い詰められる後衛を。
ヒフミ「う、ぅぅう、う、あ。」
誰かが死ぬ度に嗚咽し、悲鳴を上げる。
何もできない自分を呪いながら。
ノセル「」
ノセルは何も言わない。たとえシスターであっても、答えが分からない事だってある。
けれど、今ここで言わなければ、シスターとして、非常に情けなくなる。ヒセルの妹であると胸を張れない。
ヒセル「ヒフミは、何をしたい?」
ヒフミ「それってどういう?」
戦場の怒号と悲鳴、爆発音と肉を切る音が木霊する。時々、竜の悲鳴が響き渡る。
ノセル「!胸に手を当てなよ。何をしたいのか。逃げたい?隠れたい?死にたくない?それもあるかもね。でも、君の奥底ではこう言っているんじゃない?『助けたい』ってさ。」
ヒフミ「!!」
後ろを向く。そこにはシスターがいた。迷える仔羊を導き、己の本当の願いを問うているシスターが。
ノセル「アタシはヒフミ。君の罪を赦すよ。そして、立ち上がって!そんな貧弱な心なんて握り潰しちゃってさ!惰弱な自分すら信じて!」
ヒフミ「しん⋯⋯⋯⋯じる?」
ヒセル「そうそう。信じる者は救われるんだよ?ヒセルはね、ノセルと女神様を信じてるのー。この困難に立ち向かうヒセル達を見守っているって。」
はっ!と空を見上げる。今も見ているだろう女神ロアに思いを馳せて。
そして、思い出す。何故この世界にやって来たのか。
ノセル「だから聞かせてくれない?君の、あんたの、本当の願いってやつをさ。」
口では煽るように、けれど慈愛を込めた目で、その後に起こる全ての行動を許す。
ヒフミ「⋯⋯⋯⋯⋯。行きます!皆さん、聞いてください!!」
そこには泣きじゃくる子供はいなかった。この状況を打破するべく立ち上がるイレギュラーがいた。
空に向けて人差し指を向ける。天に届けと伸ばす。
ヒフミ「私はバットエンドが嫌いです。」
世界に宣言する。
ヒフミ「これ以上誰かが死んでしまうのは嫌です。」
ヒフミの思いを、願いを、決意を。
ヒフミ「そんな辛くて憂鬱な話、私は大っ嫌いなんです!平凡で、大したことも無い私ですが⋯⋯⋯⋯⋯それでも!私はもうこれ以上死んでほしく無いんです!!」
ここにある皆の意思を奇跡に変えて。
凶星から見ればヒフミの行動は攻撃してくださいと言っているようなもの。即座に攻撃をしようとするが。
クルミ「少しは空気読みなさいよ!」
クルミのシールドバッシュにより、顔面を強打する。
クルミ「子供の願いを叶えるのは、大人の努め、よ!」
心の中で感謝しながらも、絶えず宣言する。
ヒフミ「誰かが死んでしまう、そんな運命なんて私が否定します!誰かが苦しんで辛い思いをするのなら、私は寄り添います!それがここにいる理由です!でも私一人じゃ何もできない!だから力を貸してください!私は見たいんです!分け隔てなく手を組んで、これまでの努力を振り絞って、辛いことも悲しいことも乗り越えて、笑顔を掴む!!そんなハッピーエンドを!!何度だって言います!私に力を貸してください!私も頑張りますから!そして迎えましょう!誰もが望んで、くだらなくて、笑ってしまうような、ハッピーエンドを!!!」
その言葉を聞いた世界は、祝福する。
「見事な誓いだ、少女よ!」
最強の援軍を送る形として。
ヒフミ「え?誰ですか?」
後ろを振り返れば、見事な騎士の鎧を纏う女騎士がいた。
薄紫の長髪を一つにまとめ、背中には独特な模様が施された長剣があった。
そして気付く。そこからは神秘を感じることに。
「うむうむ。素晴らしい!素晴らしいぞ少女よ!あの誓いは私の心を奮い立たせた!我が神の御言葉に比べてしまうくらいには!」
ヒフミ「本当に誰ですか?」
ノセル「えぇ!?なんでこんな所に!?」
ヒセル「ちょーゆーめー人じゃーん。」
ヒフミ「え?知っているんですか!」
ヒセルはマジ〜?と呟き、ノセルは信じられない顔を見せた。
ノセル「この人の事をなんで知らないの!?この人は当主様の騎士の中でも最強って言われるくらい強い人だよ。」
ルミナス「申し遅れた。私は月光騎士ルミナスという者だ。当主様の命令により馳せ参じた次第。して、どっちを相手にすれば良いのだ?」
困惑と驚愕に支配された凶星と、現在進行系でボコボコにされている火竜ルインカイトを見比べる。
ニクス「!!⋯⋯⋯こっち!こっちだ!こっちを頼むぅ!」
ニクスの言葉により凶星も再起動して、攻撃の指示を出した。
ルミナス「相分かった。ゆくぞ!!」
ドンッ!という音共にルミナスの姿は掻き消えた。衝撃により砂煙が舞ってヒフミの口に砂利が入る。
ぺっぺっと吐き出した後に見たのは⋯⋯⋯。
ヒフミ「何ですかあれぇ!?」
凶星が呼んだヘルホーンハウンドを次々と狩るルミナスの姿だった。
それは圧倒的だった。的確に急所を狙い、冒険者達の負担を減らしていく。群れの中には爪を使って屠ろうとするも、それを長剣を使って弾き、一瞬の隙をついて首を切り落とした。
あれだけ苦戦していた群れをたった一人で狩るルミナスは、ホシノを彷彿とさせた。
ノセル「あれが月光騎士ルミナスだよ。ちょーやばいよね?強さ的には確か⋯⋯⋯⋯。」
ヒセル「Sランクー、だよ。」
冒険者登録の際に教えてもらった事がある。
階級というのは八つの階級システムでできていて、GからSまであると。
その中でも階級が最も高いSランクは『英雄』と呼ばれていて、世界でも数少ないという。
成る程、これは英雄と呼ばれてもおかしくは無い。だって今も一人で片付けられるのではないかと思ってしまう程に圧倒しているから。
ヒフミ「それでも見ているだけなんて、私が許せません!」
弱い自分に活を入れて、呼び出す。
来てください!クルセイダーちゃん!
月光騎士ルミナスと『シャーレ』の中谷ヒフミにより、形勢は逆転することとなる。
冒険者階級順
Gランク アイアン(鉄級) 駆け出し
Fランク ブロンズ(青銅級) 初心者
Eランク スチール(鋼鉄級)見習い
Dランク カッパー(銅級)一人前
Cランク シルバー(銀級)ベテラン
Bランク ミスリル(魔銀級) ベテラン中のベテラン、または熟練者
Aランク ゴールド(金級)最高峰
Sランク アストラル(星霊級) 英雄又は規格外
Dランクから上がることが難しくなり、大抵はBランク止まりとなる。