金曜日はカレーの日!
艦これで習いました。
決して火竜が弱かったわけではない。
爪牙は恐ろしい程に力強く、翼は雄々しく、息吹は強大で、鱗は鉄壁だった。
だから、決して火竜は弱くない。
相手が火竜以上の化物だったというだけ。
ただ、それだけの話。
ホシノ「一、二⋯⋯⋯⋯そこ!」
EXスキルの集中攻撃で火竜の翼を完全に破壊する。火竜の悲痛な悲鳴が響き渡るが、無視してダァンダァンダァン!!!と扇形の銃撃を放ち爪を的確に打ち砕かれる。
既に火竜ルインカイトはボロボロだった。
ホシノの挑発に乗ってしまった哀れな竜はフルボッコにされていた。
ブレスはホシノの盾で完全に防がれ、爪撃はヤーナム市街の狩人のステップによりいなされる。後ろにいる男が炎の魔法と組み合わせた矢により集中力が途切れてしまう。
何より竜にとって大切な竜鱗があまり機能しなかったのが、この状況の原因だろう。
『竜殺し』は言った。竜で最も厄介な点は牙でも爪でも翼でも体力でも無い。ましてやブレスでは無いと。攻撃を弾くだけでなく毒などの状態異常さえも弾く竜鱗であると。
だが、悲しいかな。ホシノはサブスキルにより自身の攻撃の全ては敵の防御力に関係無く八割五分無視する。
相性は最悪だった。
馬鹿な。馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁ!!
ありえぬ!ありえてはならぬ!こんな事が!
火竜は自分の体から激痛を感じて、初めてあり得ないと現実を否定しようとする。ここまでの一方的な戦いは初めてだった。
我は最強のはず!あのトカゲはともかく人間如きに負けるなど⋯⋯⋯!
ホシノ「余所見しない。考え事をしない。それが戦いの中では何より大切なんだよ?私は皆を信じてる。お前は信じられるものなんてないんだろうね。それがお前の敗因。お前は⋯⋯⋯⋯⋯弱すぎる。」
ふざけるなぁぁぁぁぁ!!
咆哮と共にボロボロの右腕を振るう。
しかしそれを謎のステップで回避された。それはさながら獣を狩る狩人のようだった。
千切れかけた左腕を横薙ぎして吹き飛ばそうとする。
だが後方へのローリングで容易く回避される。
苛立ちのあまり桃髪の人間を喰らおうとする。
けれど、それを最小限で左側に回避された。一瞬、目が合う。
その目は絶殺の誓いをたてる化物のようだった。
右手にあった銃を仕舞い、素手となった右手を火竜ルインカイトの左目に腕を突っ込み左目を、一切の躊躇も無くモツを抜くようにもぎ取った。
少女の右手にはしっかりと目玉が握られ、下らないものを見た目で一瞥し投げ捨てた。
少女は血に染まった右手をなんとなく見た。思う所もあるだろう。以前であればこんな事なんてしないのだから。
しかし、彼女はもう『彼』ではない。誰もが誇れる『暁 裕翔』では無い。『暁ホシノ』だ。
だからこんな事ができるのだろうと自分に言い聞かせた。両目を失い何も見えなくなった竜哭を聞き流しながら、少女は綺麗なハンカチで手を拭うのだった。
トオル「ルミナス、君にお願いがある。クアトル城塞都市に行き、冒険者達の手助けをしてくれないか?」
ルミナス「詳しくお聞かせ願えますでしょうか?」
豪華な一室で高級な執務机に座っている若い男がいた。空色のような薄緑の髪をオールバックにしており、優しい微笑みと優しい顔立ちで人を安心させるような雰囲気を醸し出している。高そうなスーツを身に着け、見事な加工技術で生まれたエメラルドの宝石が付けられた指輪を左薬指に嵌めている。
この男の名前は梔子トオルというクアトル城塞都市を含む地域の梔子家の当主である。
トオル「先程、使用人がとある手紙を渡してきてね。友人からの手紙だよ。そこには『火竜ルインカイトと凶星と呼ばれるヘルホーンハウンドがエーテルリアの森にいるから、なるべく早く援軍を頼む。』というものでね。いえ困ったものだよ。すぐには援軍なんて呼べないというのに。」
困ったように笑みを零すトオルは、嫌味を言うように文句を垂れた。
トオル「援軍を呼ぶための時間、費用、人材、物資。それを『なるべく早く』なんて普通は無理なんだよ。」
トオルは他の貴族連中とは違い、冒険者達を見下したりなどはしない。それはクアトル城塞都市の先にある死の森は、騎士団などの自分達ではどうしようもない場所を任せられたからだ。
昔はそこに絶えず行き来していたことを覚えているし、その時に知り合った冒険者と友人にもなっているのも一因している。
ルミナス「つまり、解決策はあると?」
トオル「話が早くて助かるよ。君が選ばれたのはそういう理由だ。」
成る程、とルミナスは思う。月光騎士である私は。
トオル「君の強さなら⋯⋯⋯⋯⋯一瞬でいけるだろう?」
その強さにより選ばれたのだろう。
クアトル城塞都市に辿り着いた際に掛かった時間は二時間。馬車を使った際は最低で二日以上、クアトル城塞都市の冒険者なら半日、冒険者協会の組長は早馬込みで三時間である。
二時間とは英雄並みの強さが無ければ辿り着けはしない。多種多様な襲い掛かる魔物相手に片手で倒せるだけの強さが無ければ。
ルミナス「はぁ!」
剣を一閃し襲い掛かるヘルホーンハウンドの一体を真っ二つにする。うちにあった臓物がぶしゃぁと不快な音と共に撒き散らし、血生臭い悪臭が戦場をより混沌とさせる。
それには目をくれず次の敵に向かって進む。
状況はこちらが優勢。けれど、狼の群れの連携と凶星の攻撃の余波により多数の死傷者が出ている。早く終わらせたいが、黄昏が終わりを迎えるにつれて魔物は強くなっていくため時間が掛かってしまう。
先程まで圧倒していた。にも関わらず、もう一体倒すのに手こずっているのが良い証拠だ。
凶星も例外では無く今もあの者達が戦っていた。
ニクス「ふん!」
「」
キン!と金属と金属の弾く音が響く。ニクスのグレソと凶星の爪がぶつかり、それが音楽を奏でるように切り合いをする戦士と獣。
凶星の爪撃はさながら剣士のようだった。相手の隙を見抜き、斬り、弾く。真似事ではないのが恐ろしい。
さらに⋯⋯⋯⋯⋯。
クルミ「こっちを見なさい!はい!チーズ!!」
閃光盾のギミックを発動して視界を奪うも、まるで見えているかのようにクルミの銃撃をバックステップで避ける。
クルミ「もぉーなんで避けれるのよ!」
ケイ「動きを止めてください!狙いが定まりません!⋯⋯⋯っ!キサキ、危ない!」
凶星から放たれる『見えない爪撃』を間一髪で躱すキサキは、思わず叫んでしまう。
キサキ「光線にバリアに、果てには見えない攻撃じゃと!?こやつだけ世界が違くないかえ!?」
ニクス「くそっ!どこまで強くなってやがんだ!?ここまで強くなってなるなんて馬鹿げてる!?」
一体いつから体を鍛え、技術を習得し、能力を発展させるのが、人間などの弱者だけだと錯覚していたのだろうか?
魔物にも知能もある。そしてこのように技術面を伸ばさないのは、元々自分が強者にいると思っているからだ。
しかし凶星は、スカーグラッジという己にとって死に等しい存在に常に晒されていた。
つまり、凶星は弱者の立ち位置になったということ。
ならば、強くならなければならない。
全ては、生き残るために。
死にたくないから。
クルミ「『解』来た!」
凶星の見えない爪撃は本来ならそこまで強くはない。魔力特有の見えないエネルギーを用いた攻撃は有効だが、距離を離すほどに威力は低減していく。なら、魔法として使ったほうが良いに決まっている。しかし、従来の角の機能と当人の魔力操作により、高威力の見えない爪撃を可能とした。
クルミにより勝手に名付けられた『見えない爪撃』ならぬ『解』を連発して、クルミ達を苦しめる。
クルミやケイなどは食らっても痛いで済ませられるが、ニクスは当たれば手足の一二本は無くなってしまうだろう。
皆が必死に避けてはいるものの、このままじゃジリ貧。ルミナスの加勢により風向きはクルミ達に向いているが、いつ逆転するか分からない。
ニクス「おい!キシラ!補助魔法頼む!」
仲間のキシラに助けを求めるが⋯⋯⋯。
キシラ「ごめん無理!ホント無理!今私達手一杯なの!」
クルミがちらっと見てみればタンクに守られながら魔法を放つ後衛組がいた。
確かにあれは無理そうだとクルミは察した。
ニクス「なら一か八か⋯⋯⋯⋯!」
ニクスが隙を作ろうと特攻しようとした瞬間。
「退いてくださーーい!!」
「!?」
ドリフトを決めながら凶星に体当たりをかますクルセイダーちゃんが突然現れた。
皆唖然。急に現れた存在に思考を放棄しかける。それはヘルホーンハウンドの群れも同様だった。
その隙をついてクルセイダーちゃんは凶星と交通事故を起こした後もドリフトを決めながら砲身を変える。狙いは当然唖然としたヘルホーンハウンド達の一体。
ノセル「発射ぁー!!」
可愛い声の後に続くドォン!と重々しい音と空気を切り裂く音が響き渡る。音速超えの砲撃は狙われたヘルホーンハウンドに直撃し、その体は貫かれた。
当たった箇所は消し飛び、周りの肉は弾けた。それはさながらルミナス·ノヴァを食らったデスワームくんのようだった。
ニクス「なんじゃありゃーー!?!?」
ノセル「ヤッバァ!てっこうだん?だっけ?ヤバすぎるんですけどぉ!にしても⋯⋯⋯⋯狼のくせして敵前で放心するとか舐めすぎぃ〜。雑っ魚ー。雑魚雑魚!」
ハッチから顔を出しているノセルが罵倒している間も絶えず砲撃していくヒセルは、運転役のヒフミに言葉を掛ける。
ヒセル「スッゴーい!運転上手いねー。その調子で頑張ってー。」
ヒフミ「私これに乗るの2回目なんですけどー!」
そう言いながらも、見事なテクで再起動したヘルホーンハウンドの猛攻を最小限でくぐり抜け次々と撃破に貢献していくヒフミ。
ヒフミのEXスキルで召喚したクルセイダーちゃんはそう安々と召喚できるものではない。召喚したら三時間は再召喚できないからだ。それにこれは運転役と砲撃役に分かれる二人乗り専用の戦車。
では何故ノセルが乗っているのかというと⋯⋯⋯。
ノセル「ほら『ヒール』だよ!クソザコな冒険者はぁ、これでも癒されて感謝しな?蹲った自分を助けてくれたアタシに感謝しながらさ!『ヒール!』『ヒール!』『ヒール!!』」
ノセルが負傷者を見つけ次第神聖魔法『ヒール』を用いて戦況を立て直していく。
攻撃しつつも仲間を回復するそれはまさに⋯⋯⋯⋯。
クルミ「『セナ』のEXスキルじゃん!」
ケイ「やはりロアちゃん!ロアちゃんは私達を救ってくれる!」
キサキ「勝機は今しかあらん!畳み掛けるのじゃ!クルミはニクスの援護!ケイは妾のバフを受けたら即座に撃つが良い!」
クルミ「今はあんたの盾になってあげるわ。感謝しなさい。」
ニクス「んじゃ、最後まで付き合ってもらうぜ!」
キサキのバフがニクスを包み込む。全能感に酔いそうな程の力がニクスの体を巡る。
キサキのサブスキルにより、キサキのバフを受けた者は、誰であろうと全て一定の効果を受けることができる。
キサキ達は知らない。この世界の補助魔法と呼ばれるバフはあまり優遇されてはいない事に。
何故なら補助魔法は自身の力量だけでなく、相性も存在するからだ。言うなれば料理に等しい。人それぞれに調理方法があるように、他者の好みで評価が分かれるように。補助魔法も千差万別だ。
しかしキサキのサブスキルの知彼知己は魂に干渉し、バフを掛けられる。
結論を言おう。魂がバフを得れば、肉体はそのバフを受けた魂に適応するために強くなる。肉体はバフの効果を最大限活かす状態になるのだ。
ニクス「今なら何でも出来そうだ!オラいくぞ!」
凶星目掛けて突撃する。通常時よりも遥かに速く凶星の元へ辿り着き、鋭さも力も増した一閃を食らわせる、が。
キン!
当然のように弾く凶星。
そこからは刀と爪の応酬。凶星の右爪がニクスの振り上げと拮抗し弾く。上段の構えから振り下ろされる剣を横から弾くことで体には一つも傷を付けない。カウンターとして放った右爪は無防備になってしまったニクスを守る為にクルミが盾となる。
鉄壁に等しいその盾をクルミは持ち上げ⋯⋯⋯⋯。
クルミ「これでも喰らえ、クソオオカミ!」
閃光盾のギミックを発動し、目潰しを行う。
ニクスは数回見た事でこれを事前に回避。クルミは『クルミ』のように発動と同時に回避。
凶星はEXスキルの効果で回避しきれず、視界不良を起こす。
ニクスはチャンスと見た。バフを受け取り気分も体も絶好調。この距離で心臓を貫ければ確実に殺せる。これを逃したらニクス達の被害が広がる。
ヒフミが作ってくれたチャンスを逃しはしない。
ニクスが人生最大の突きを放ち、凶星の心臓を貫く。
その直前で凶星は切り札を切る。
アオオオォォォォォンンン!!!(静まれぇぇぇぇぇぇ!!!)
ニクス「がっ!」
(頭が⋯⋯⋯⋯⋯⋯割れる!)
直接送られた凶星の思考がニクスの頭に響く。凶星の咆哮もあって鼓膜が破れそうだ。
耳鳴りが酷い。頭がクラクラする。思考が纏まらない。頭痛で膝が笑ってしまう。
これこそが凶星の切り札。額にある角の機能は仲間との通信を可能にさせる魔力操作。
仲間との通信。そこに着目し凶星は発想を変えた。
仲間に己の意思を伝えられるのなら、敵にも伝えられるのではないかと。
こうして生まれた咆哮と強制的な意思伝播のコンボ。
これを食らった者は最初あらゆる者は身動きが取れない。
クルミ「うるさい!!!」
イレギュラーを除いて。
怒りと共にクルミは凶星の顔面、それも至近距離でフルオートの連射を放つ。凛々しかった顔は今や血塗れで、角は半壊していた。
さらにノーマルスキルの攻勢転換も加わり、凶星の物理防御力が下がる。
クルミ「今!!」
その言葉を聞いた瞬間、ニクスは体に活を入れて思いっ切り凶星の心臓を貫く。
「きゅうぅぅぅぅ!」
凶星の情けない悲鳴がニクスの頭を貫くがそれを無視してさらに深く貫く。
獣血がニクスの全身に浴びせられ、見事な鎧は汚れる。血が剣の柄に付き滑りそうになっても離すのをやめない。
凶星は悟る。このままでは死ぬと。せめて一矢報いなければと。
残った全ての力を使い凶星は、魔力を口元に込めるも⋯⋯⋯⋯。
ケイ「さよならです。光よ!!!」
ケイから放たれたルミナス·ノヴァの光が凶星の胴体を穿つ。天然の鎧はなんの役にも立たずにその役目を終える。光弾は凶星の土手っ腹に大穴を開けて、血も肉も骨も消し炭にする。
しかし凶星は死ぬ事を拒む。
当たった衝撃を使って胸に刺さった剣を強引に引き抜き、残り火を燃やして逃げようとする。
当然他のヘルホーンハウンドに逃げるのを手伝わせるのも忘れない。ボスの命令を聞いた残った者達は身体を引きずり、攻撃されても尚命令を実行しようと駆け出す。
クルミ「ニクス!今のあんたは動けないわ!だからここで壁となるわ!」
ニクス「すま⋯⋯⋯⋯⋯ねぇ。」
凶星は今も足を引きずりながら森へ逃亡しようとしている。今やあれは風前の灯火。何もしなくても野垂れ死ぬだろう。
ケイとしては今すぐにも追撃して確実なものとしたいが、周りが邪魔で動けない。
よって。
ケイ「放置ですね。」
追撃しないことを選んだ。
そして構える。襲い掛かるヘルホーンハウンドを撃つために。
グオオオオォォォォ⋯⋯⋯⋯⋯⋯!
その刹那、竜の慟哭が響き渡る。
ふとケイが見れば終わりゆく黄昏を背に、火竜ルインカイトの屍に腰掛ける暁ホシノの姿があった。
???「ウオォォォォォ!!どうだ見たか火竜よ!もうお前は恐ろしく無い!俺は!竜殺しだぁ!!!」
ホシノ「うへぇ〜。」
ホシノが屍の近くで騒ぎまくる男に苦笑いを浮かべる。
ケイ「竜をたった二人で⋯⋯⋯⋯仲間だというのに、恐ろしいですね。」
竜が弱すぎたのか、ホシノが強すぎたのか。どちらもそうだったのだろう。
けれど、たとえ恐ろしくとも、彼女は梶間ケイにとって数少ない秘密を共有している仲間なのだ。
これからも仲良くしようと、そうケイは思った。
足を引きずりながら森を歩く獣がいた。
胴体に大穴、顔は血の厚化粧、額の翡翠の角は半壊。その姿はまさに敗者そのものだった。
主人の慟哭を聞いても歩きをやめなかった。
死にたくなかったから。
生きていたい。
腹一杯食べたい。
ぐっすり寝たい。
あぁ、メスも欲しいな。ずっと隣りにいてくれる、そんなメスが。
一人だったから。だから私は
グチャ⋯⋯⋯⋯⋯⋯バキッ。
あ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯れ?
ニクス「よし!すぐに帰還して⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」
クルミ「ホシノ!何か来るわ!」
ホシノ「!」
帰還の指示を出そうとしたニクスだったが、クルミの声で遮られる。
ホシノがすぐさま銃を取り出し盾を展開したその時。
グオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!
野太く、野性的な竜のような声が森全体に木霊した。
ドシンッドシンッと力強い足音と心臓が震えるほどの衝撃を出しながらホシノ達の元へ歩いていく謎の存在。
ニクスの全身から汗があふれる。ニクスだけではない。この場にいる冒険者は皆向かってくる者がいるであろう場所をじっと見つめる。
圧倒的な存在感。身が竦む程の威圧感。
ヒフミの近くにいたヒセルとノセルは今、ヒフミに縋り付くコアラ状態になっていた。
ルミナスは剣に力を込める。いつでも皆を守れるように。
足音が大きくなっていく。それと同時に何かを引きずっている音も聞こえてくる。
そして姿を現した。
それは一言で表すなら全身に古傷が大量にあるティラノサウルスだろう。
ティラノサウルスを凶悪にしたような外観だ。全身が血のような赤黒い体色で覆われており、トカゲの鱗のようなものがビッシリと生えていた。あまり長くない両手は獲物を捉えるのに十分な機能を持つだろう。足は太くしっかりとしていて、顔は大きな傷跡も相まって恐ろしい。何より目を引くのが尻尾だろう。尻尾はまるで不格好な刀のようで容易に大岩を両断できそうだ。
そんな暴君が目の前にいた。口に死んだ凶星を咥えながら。
ケイ「あれはもしかして?」
ニクス「あれがスカーグラッジだ。」
スカーグラッジ。誰が名付けたのかは分からない。けれど約五十年前から存在するその暴君は冒険者であれば誰もが知る魔物。
その強さはSランク。ブルアカ的討伐難易度はLunatic。
今この状況で戦ってはならない存在。
そのスカーグラッジは直立不動で、じっとホシノと屍となった火竜ルインカイトを見比べる。
ニクスは問題児の『シャーレ』の五人に注意する。
ニクス「いいか⋯⋯⋯⋯⋯刺激するなよ。静かにしている⋯⋯⋯⋯。」
ホシノ「ねぇ私に何か用?黙ってると困るんだけど?」
ホシノは苛立ちを含めた言葉をスカーグラッジにぶつけ、ジャコッと意味も無くショットガンのリロードをした。
ニクス「おいコラァー。テメェ何してんだよぉ。」
本当は怒鳴り声をホシノにぶつけたかったがこれ以上刺激するわけにもいかず静かに怒鳴った。
その言葉に反応したスカーグラッジは、そっとホシノ達『シャーレ』の前に凶星の屍を置いた。
まるで勝利の証を渡すように。忘れ物を届けに来たよと言いたげに。
ホシノ「くれるの?」
その言葉に反応はしなかったもののそうだと肯定したような気がした。
ホシノを見つめる目は闘争心を理性で必死に抑えようとする目だった。
一瞬の静寂の後、スカーグラッジは咆哮を上げる。
その咆哮は新たな強者に巡り会えたことに対する歓喜の咆哮のようでもあった。
スカーグラッジは何かをする訳でも無く、暴君はホシノ達を離れて森に戻るのだった。
後日、ブラッドサウルス・レックス 個体名スカーグラッジはヴァイス大草原の新たな頂点捕食者となった所を確認された。