クアトル城塞都市 女神ロア信教の教会
「女神ロアよ⋯⋯⋯⋯⋯どうかこの者達に癒しを与え給え⋯⋯⋯⋯『セイクリッドヒール』」
女神ロアを信仰する勤勉な教徒達の家である教会の治療室。そこでエーテルリアの森での激戦を繰り広げ、傷を負った者達がこの都市で一番位の高い大司教の神聖魔法の施しで癒されていた。
ニクス「感謝します大司教様。お陰で体調が優れました。」
大司教「感謝は結構です。これは大司教としての務め。当然の事をしたまでのこと。」
いかにもな大司教の服装を着ている老年の男性は隣にいる老年のシスターに安らぎを与えるような声で指示を出す。
大司教「マイリーン。この者達の治療が済みましたら、別の患者さんの所へ。」
マイリーン「かしこまりました。」
そんな一連の会話を聞いたケイは。
ケイ「ロアちゃんって大変そうですね。」
そう呟いたという。
ポツポツと雨が降り出す。傘を刺さなくても良いかもと思うくらいの雨の中、ホシノは埋葬される棺桶に悲壮な顔を浮かべた。
ホシノだけじゃない。隣を見ればクルミとキサキ、ケイは涙を堪え、ヒフミは嗚咽を抑えながら泣いていた。
棺桶の前には三人の親子がいて皆泣いていた。
アトランティスの葬式は大体地球の葬式と似たようなものだ。違いがあるとすれば今後さらなる悲劇が起こらないようにと、ただ青く光った光源を涙のように降らせるだけの魔法を使うことくらいか。
この葬儀の参列者の中にはニクスだけでなく協会の組長や秘書。見えなかったがこの都市を含めた土地を治める当主様達も居たらしい。数多くの人達がアンナさんの死を悲しんでいた。
ザッザッと埋まっていく棺桶を見る。
助けられなかった。私が一緒に行けばこうはならなかったのだろうか?
引き止めれば死ななかったのだろうか?
少しでも速く到達できれば。
もし。もし。もし。もし。
そんなイフの事ばかりが頭を呪いのように渦巻いている。
息を深く吐く。
そんなあり得たかもしれない未来を想像するな。アンナさんは。
もういないんだから。
ホシノ「⋯⋯⋯⋯⋯アレンちゃん。」
アレン「⋯⋯⋯⋯⋯⋯なに?」
ホシノ「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ごめんなさい。私が⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」
アレン「言わないで。」
ホシノ「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」
アレン「お姉ちゃんが冒険者になった時に、こうなるんじゃないかってなんとなく⋯⋯⋯⋯⋯⋯思っちゃったから。だってお姉ちゃん、魔法の才能無かったんだよ?今より小さかった頃にさ。私の為に魔法を使おうとして何度も失敗して。⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯私は間違えちゃったんだと思う。あの時に泣いていれば⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」
ホシノ「アンナさんは君のため、家族のため、そして自分のために冒険者になったんだよ。選択した結果死んでしまったとしてもアンナさんは⋯⋯⋯⋯⋯⋯君を責めないと思うよ。だってそうじゃん?自分の意思で選んだ冒険者という道。そこには苦労もあったと思うし、辛いこともあったと思う。けどさ、後悔はしていないんじゃないかな?短い期間であったとしても私には分かる。あれは楽しいと、本気で思っている顔だった。」
アレン「私の事、家族の事、お姉ちゃんの事!ホシノお姉ちゃんに何が分かるの?お姉ちゃんの事知らないくせに!」
ホシノ「知らないね。けど大切な物を失う気持ちは痛いほど分かるよ。私だってそうだもん。一週間くらい前までは仕事をして、両親と仲良く話していて、読書好きな弟と本を読みあっていて、好きなゲームをしている。そんな日々をいきなり終わらせられたもん。唐突な終わりが来た時の気持ちは私には分かる。君のお姉さんと同じく⋯⋯⋯⋯⋯⋯もう二度と家族とは会えないからさ。」
アレン「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ぅ、ぁぁぁあああ。うぐっどうして?どうして!?どうしてどうしてどうして。なんで死んじゃったのお姉ちゃん!ぁ、く、ぅぅっ、ぁぁぁぁ!」
少女の慟哭がホシノの心を締め付ける。
少女の涙と雨が姉の墓石を濡らす。
ホシノは何も言わずに少女アレンの頭を撫で続けた。
そしてとある奇跡の、その一部のテキストを思い出す。
涙は死者のために、それ以上に生者のために
梔子家の屋敷
梔子家当主の執務室には三人の人物がいた。
一人目は梔子家現当主の梔子トオル。
二人目はクアトル城塞都市の冒険者協会の支部長モグリット·グラグウィス。
三人目は月光騎士ルミナスである。
トオルは執務室の椅子に、モグリットはソファにとお互いに腰掛けており、ルミナスは部屋のドア付近で直立不動の姿勢のまま待機していた。
トオル「あれから三日。お互いに積もる話があるだろう。本題に入ろうか?」
モグリット「あぁ、面倒な前振りは嫌だからな。」
トオル「⋯⋯⋯⋯⋯さて、エーテルリアの森に現れた火竜ルインカイトとヘルホーンハウンドに個体名が付けられた凶星。その二体を討伐。今いるクアトル城塞都市の冒険者達の中で最も実力が高いパーティーのグレイソードのリーダー、ニクス・メステウスが指揮を取る。その戦場の中で特に貢献したのが最近冒険者登録をしたばかりの『シャーレ』。しかも登録前にはあの目障りなミミズを討伐。それで例外としてCランクに。そして今回でAランク。異常なスピードだ。これ程までに速く上がったのは勇者達くらいしか思い浮かばないよ。」
手元にある報告書を見ながら読み上げるトオルは、疲れ気味の声で語る。その声の中には呆れも入っていた。
トオル「今回はエーテルリアの森という場所だった。しかし、クアトル城塞都市で戦闘が行われる可能性も十分にあり得た。そうだろう?」
モグリット「あぁ、その場合はスタンビードも発生し、さらなる被害が出ただろう。」
トオル「そうだね。討伐してくれた者達には報酬を支払う予定だ。特に貢献してくれたニクスくんと『シャーレ』には特別な報酬が必要だね。⋯⋯⋯⋯⋯ホシノくんには一度会ってみたいよ。」
モグリット「あいつ⋯⋯⋯⋯⋯いや他のメンバーもそうだが、礼儀正しい。けど、他の人の指示を受けない。矛盾した奴だ。」
トオル「けど、ホシノくんは火竜ルインカイトの素材を全てこっちに任せてくれた。個人で売り飛ばせば一生遊んで暮らせる金額を貰えるというのに。こちらとしては助かる。『例の件』の費用の足しになる。これは慎重に進めなければならない。我が娘の為に。」
モグリット「分かってると思うが⋯⋯⋯⋯⋯。」
トオル「分かっているさ。焦らない、だろう?⋯⋯⋯⋯さて、さぁスケジュールを組もう。」
トオルはモグリット、ルミナスの順に見つめ、彼にとって最大の仕事に取り掛かる。
トオル「死の森の探索及び魔性衰弱症の薬入手のそのスケジュールをね?」
To Be Chapter2