ブルアカが永遠に続きますように!
ラリエル「何故其奴なのだ?其奴は⋯⋯⋯⋯⋯。」
ホシノ「うん知らないよ。けどね、これが一番良いような気がするんだよね〜。」
王様の言葉に私はあっけらかんと返す。はっきり言って私は政治なんて興味無い。
だが、私は勘がいい。これは暁ホシノとなる前からずっとだ。勘というのは意外と当てにならない。私は困った時は『勘』を信じる。それが私である。
暁 裕翔は超エリート出身である。両親は父親が弁護士、母は電気工学関係の大企業の幹部であり、周りの親戚も政治家であったりとエリートばかりである。そんな環境で過ごしたというのもあるが、裕翔自身の才能も相まって『完璧超人』と呼ばれる程の逸材であった。いずれは入社していた大企業の社長候補となる程だ。
その自信が暁ホシノを後押ししたのだ。
だが周りからすればそんなの知るわけが無い。周りからは非難轟々だ。
「失礼申し上げます。発言を許可していただけるでしょうか?」
貴族達の怒号が響く中、すっと前に出たのは王様から近い位置にいた王様と似ている顔のイケオジだった。
王様から「許す。」と許可を得たことで私に質問を投げた。
「何故あの者を?あれは確かに我が国の魔道具技術を高めた『匠賢』です。ですが⋯⋯⋯⋯。」
「おいおいおい。まさか私が火竜の素材を無駄にすると?そんな訳無いだろうに。」
「そうではありません。貴女は人として問題がある⋯⋯⋯⋯。」
「あーあーあー聞こえなーい!ねぇホシノ君?後で私の所に来なよ!売ってもらったお礼がしたいのさ!」
一連のやり取りで分かった。この科学者、相当曲者だな?
だが答えを変えるつもりはない。イケオジの意見も分かる。人は腕だけじゃなく人柄やコミュ力も大切だ。まぁ、人としてはあれかもだが、『匠賢』と呼ばれているのだ。腕は確かだろう。なら問題無い。何度も言うが私は政治なんて興味無いのだから。
ラリエル「うむ、これで素材に関する件も解決したな。これにてこの会は終いとする。解散!」
王様の一言で一週間以上に渡る問題は解決するのだった。
「本当によろしかったのですか?王よ。」
ラリエル「良いのだ。弟よ。それにここには我らしかおらぬ。昔のようにしても良いのだぞガリエルよ。」
ここにいるのはラリエル王、弟のガリエル、昔からの付き合いである護衛の近衛騎士団長のみである。やかましく喚き立てる貴族も、場の空気を読まない冒険者も、隅でニコニコと笑っていた女神すらもいないのだ。立場的には無礼な言葉も無に帰す事だろう。
ガリエル「⋯⋯⋯⋯。はぁ〜。全く、兄さんは本当に人を試すのが好きだねぇ。というか、そう言うなら仰々しい口調をやめなよ。」
ラリエル「断る。やめてしまえばつい昔のように小言を言ってしまうかもしれん。」
ガリエル「コイツめぇ〜。」
始まるはどこにでもある兄弟の会話。王や公爵も関係無い。母親譲りの小言を吐くただのラリエル・フォン・モードレストと、王としては采配を重ねられるのに、兄としては不器用すぎる事をからかうただのガリエル・フォン・モードレストのつまらない会話だ。
ラリエル「して、どうだった?『シャーレ』は?」
どうだった?その真意は一つ。
ガリエル「手掛かり無し。本当にぽっと出てきたよ勇者みたいにね。」
ラリエル「勇者の可能性は⋯⋯⋯低いであろうな。ヤラセやマッチポンプの類でもないであろうな。」
ガリエル「いい加減認めようぜ?女神様の言う通りだって。」
ガリエルは探っていた。ホシノ達の正体を。だっておかしいではないか。冒険者登録をする前に長年の頭痛の種だったあの頂点捕食者のミミズを討伐し、そして一週間も経たずに火竜ルインカイト及びヘルホーンハウンド個体名凶星を討伐するなどと。
どのような英雄であろうと、最初は無名である。しかし、彼女達は違う。戸籍も無し、記録も無しという疑わざるを得ない状態だ。
だからこそ、最初は耳を疑ったのだ。
女神ルーナのお告げ。『この世界にイレギュラーが現れ、世界を救う』という言葉を。
ラリエル「⋯⋯⋯⋯⋯。」
ガリエル「まだ納得できない?でもこれで分かったでしょ?場の空気を読まない、政治関係なんて知ったことかと言わんばかりの発言、こっちの都合を考えない。あれはまさに『イレギュラー』だよ。」
ラリエルもそれは分かっているのだろう。王としては優秀な彼ならば、それぐらい分かっている。
しかし、それでも心に靄が掛かるのは⋯⋯⋯⋯⋯。
ガリエル「やっぱり娘さんのこと?⋯⋯⋯⋯⋯まぁまぁ、落ち着けって。確かにお転婆娘だけど、いい娘だぜ?」
ラリエル「分かっている。」
王である自分は、父親として振る舞う事が難しい。娘には苦労を掛けているのも分かっている。
娘がイレギュラー扱いされていることも分かっているのに。
ガリエル「なら、あいつらをぶつけてみようぜ?なにか良い反応が返ってくるかもしれんし。」
正気かと疑いの目を向ける兄は、しばらく熟考し⋯⋯⋯⋯⋯。
ラリエル「それも、そうだな。」
イレギュラーであるのなら、いやだからこそ、頑固なあの娘を変えられるのだろうと、そう父親として思うのだった。
ホシノ「あのさぁ?なんであそこで『サンキュー』なんて言葉使うの?首落とされたいって言いたいのかな?もちろん、言葉の自由を尊重するさ。誰にだって好きなように発言していい権利はあるさ。けどね、あの状況は流石にないよ。どうなったらあの場であの言葉が出てくるのかな?大人の端くれならそのくらい分かるよね?あれはいけないってさ。これはこの後生きてく私達の未来を蔑ろにして、生きるという当然の権利を侵害した!許せざる行為だよ!私達を軽視している!私の気持ちを分かってほしいなぁ!」
クルミ「分かった!もう分かったから!お願いだからノミ以下構文をやめてよ!」
ヒフミ「ホントっウに肝が冷えましたよ二人とも!片やフランクに言うわ片や適当なこと言うわ!ヒヤヒヤしましたよ!」
ホシノ「そうだよヒフミちゃんも言って⋯⋯⋯⋯⋯え?私も?」
ヒフミ「当然です!」
場面は変わって王城の廊下。そこではレグルス構文を垂れ流すホシノと、だんだん頭キヴォトスとなり天津 実の素が混じった天津クルミがひたすら謝り倒すという珍光景があった。
怒り心頭のヒフミと、呆れたキサキとケイの三人も加わってワイワイと会話を重ねていく。情けない声やら怒り声やらで、荘厳で静寂に満ちた普段の王城とは異なる顔を見せ、通り過ぎたメイド達から稀有な視線を向けられる。
今、彼女達は白鳥ウタナの部屋まで、案内役に任命されたメイドに案内をされているところだった。
案内役のメイドが苦笑いを浮かべていることを知らずに話に盛り上がる中、突如としてそれは現れた。前方から五人の白い騎士に守られた神々しい少女と、眼鏡をかけた知性的な女性が歩いてきたのだ。
五感が鋭いクルミは、即座に反応。意識を向け、視界の中心を神聖さを感じさせる少女にした瞬間。
(あぁ、こいつ⋯⋯⋯⋯俺が嫌いな奴と同じやつじゃん。)
上位存在への嫌悪、ムカつく奴への苛立ち、根本的に相容れない者へのモヤモヤが一瞬でクルミの全身を巡るのだった。
「おや?貴女方は。」
俺の視線を気にする素振りも無く平然と俺達に話しかけてきたこの少女⋯⋯⋯⋯⋯いや、神は。
ヒフミ「あのすみませんどちら様ですか?」
ヒフミの困り声にクスクスと小さな笑い声を上げ、余裕と気品を魅せつける。
神々しさを感じさせる態度も、月光を思わせる色を用いた聖女のような服装も、後光が差しているんじゃないかと思わせる容姿も、何もかもが俺の感情をかき乱す。
あぁ、本当にイライラする。あいつと同じというだけでこんなにも腹が立つなんて。
そう思っている間にも話は進んでいく。後ろにいた騎士達を宥めるように手を軽く上げた神は、穏やかに話していく。
「あぁ気にしないでください。彼等は少々過激な所があるので。ただ、可笑しいなと思いまして。私はこれでも凄く有名神ですから。」
「勿体ぶらずに早く言えばいいでしょうに⋯⋯⋯⋯私の時間を無駄にしないでいただきたい。」
「おっと⋯⋯⋯⋯失礼しましたね桔梗さん。では、初めまして。私は月を司る女神ルーナと申します。以後、お見知りおきを。」
可憐な容姿を引き立てるお辞儀と挨拶に、俺はただただ無心になるのだった。
女神ルーナ。その神はこのアトランティスにおいて最も新しい神の一柱である。
女神ルーナの自己紹介。柔らかな微笑みとともに告げられたそれは、老若男女問わずあらゆる人達を魅了するだろう。
それは、目の前で告げられたイレギュラーでさえ例外ではない。
ケイ「⋯⋯⋯⋯⋯カワイイ!!」
ワナワナと震えたかと思えば、本人の目の前でカワイイ発言する梶間ケイは、間違いなく魅了されていることだろうて。
ケイ「なんですかなんですかなんですか!その可愛さは!フリフリな衣装も良しですが、ロアちゃんのように神々しさすら感じるお顔!柔らかく優しさが滲み出る目は聖母のようです!小さな身長はおそらく151センチくらいでしょうが、それがまた良し!それがカワイイを引き立てて⋯⋯⋯⋯⋯。」
クルミ「ねぇ止めてくんない?俺今不快だから。」
ケイ的には好みだったらしく、ブルアカの推し生徒を語る時と同等の熱量で話していたが、無の表情を浮かべたクルミによってそれは強制的に中断させられた。
女神ルーナ「(何故身長が分かったんでしょうか?)あぁ皆さん先に行ってください。私は少しお話していきます。護衛は結構です。⋯⋯⋯⋯⋯さて、ふふ、にしても本当に先輩の言う通りだったなんて驚きですケイさん。先輩の時もそうやって先輩を口説いたんですか?」
ヒフミ「先輩?」
後ろにいた護衛の騎士とともに桔梗はシャーレの横を通り過ぎる。桔梗は何かを言いたげだったが、皆は無視した。女神ルーナのクスクスと鈴を転がしたような笑いとともに会話を続けた。
女神ルーナ「えぇ、ロア先輩は私に連絡したんですよ。『どうかシャーレを支援してほしいです』と。」
クルミ「連絡あったの?こっちには一度も来ていないんだけど?」
嫌味ったらしい口調は、確かに人を不快にさせるもの。しかし、女神ルーナは変わらなかった。
女神ルーナ「なんでかっていうとそれは貴女たちはイレギュラー、ですから。」
イレギュラー。その言葉を何度聞いたことか。しかし、この世界におけるイレギュラーというのはどういうものなのか全く知らなかった。話を聞こうと声を掛けたものは皆腫れ物でも扱うような態度であったために聞けなかったのだ。
ホシノ「聞かせてください。『イレギュラー』っていうのはどういうものなのか。」
女神ルーナ「⋯⋯⋯⋯そうですね。敢えて酷い言葉を使うなら、この世界におけるバクのようなものです。または異物と捉えても結構です。」
クルミ「どっちも同じだ。バクも異物も、どっちもクソだ。」
女神ルーナ「⋯⋯⋯⋯⋯あの、乙女がそのような言葉を使うのはいかがなものかと。」
クルミ「悪い。つい口に出てしまった。以後気を付けるわ。」
喧嘩腰のクルミは、いつにも増してキツイ。というか素が混じっているどころか前面に出ている。それでも尚会話が途切れないのは女神ルーナは寛容だからだろう。
女神ルーナ「んんっ!話を戻しますね。この世界は運命により結末がある程度決まっているんですよ。例えば、先程の桔梗さんは先代の勇者なのですが、彼女は『勇者になる』という運命が定められています。これは変えられるものではなく、確定事項となります。どうあがいてもそれは変わりません。」
運命は自分で決めるものではない。もう決定されており、ターニングポイントと呼ばれるものは変わらないのだという。特定の高校に入る、あの人と結ばれる、あるいは死。それが勝手に決まってしまう。
ホシノ「それが、アトランティスの常識⋯⋯⋯ってことですか?」
女神ルーナ「はい、そうです。もちろん、全てではありません。その道中で様々な人に出会ったり、ちょっとした変化であったり、日常であったりと、ある程度の自由意志は勿論あります。」
クルミ「でも結局は運命って奴は変わらないんでしょ?この世界もそうよね?この世界は魔王によって滅びる運命⋯⋯⋯でしょ?」
個人に定められているのなら、当然この世界そのものも定められていると考えるのが自然である。
女神ルーナ「えぇその通りです。この世界はいずれ滅びるでしょう。どう足掻いて藻掻いて努力して苦労して頑張って叫んだとしても、『滅び』は変わりません。ですが、イレギュラーは違います。」
突如として真顔になり、能面と表すほどに無となる。神々しさも、慈愛も、優しさすらも消え去り、今この場にいるのはお告げと果たさんとする上位存在、女神ルーナ。
女神ルーナ「貴女たちはイレギュラー。あらゆる運命に干渉し、あらゆる者達の干渉を受けず、己の手で運命を掴む世界の理から外れた存在。偶然という形であるとは言えど、使命そのものに変更など無いでしょう。滅びるかどうかは貴女たちに掛かっています。⋯⋯⋯⋯⋯だからどうか、この世界を、よろしくお願いします。」
神としてのお告げ、ルーナとしての個人的な願い、使命。それは本来なら彼女達を縛るもの。しかし彼女達は異物。そんなものは鎖にすらならない。
だが⋯⋯⋯。
クルミ「やっぱ神って嫌いだわ。勝手に俺の人生終了させるし、楽しみを無くすし、使命押し付けるし⋯⋯⋯⋯⋯。ホント嫌いだわ。」
女神ロアの時に神嫌いとなった天津 実は、今後も神のことを忌み嫌うだろう。
クルミ「だけど、呪いは既に掛かってしまったし、こうして新しい人生を過ごせてる。以前ならこんな退屈しない日々を送れなかったもの。だからそこに関してだけは感謝している。」
ふぅと小さく息を吐く。心の中にある雑念を吐き出すように、覚悟を決めるように。
クルミ「あんたの願いは片手間に叶えさせてやるわ。感謝しなさい。」
その言葉を聞いて、女神ルーナは目を見開く。何故こんな反応をしたのか分からなかった。これまで神としての力の一端である思考を読む事ができる力を使わなくても、これが本心だと分かるからだろうか?
それとも神としてではなく、ただのルーナとしての願いを聞き入れた事が初めてだったからだろうか?
分からない。けど、悪い気分では無かった。
女神ルーナ「⋯⋯⋯ありがとうございます。」
この瞬間、女神ルーナの運命は、変わった。