痛みに耐えながら再生魔法で無理やり突っ込んでいく正義のヒーローに出会ったら?   作:だだだめ

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強靭なヒーローたちにもっともっと頑張ってもらおう作戦

転生したら、なんと人類が滅びかけてました。

 

侵攻してくる『悪魔』。

人類最後の生活可能拠点である『都市』。

そして、命を投げ捨てるのが仕事みたいな『ヒーロー』たち。

 

詳しく語れば長くなるので割愛するが、確かなのは、治安が世界規模で最悪だということだ。

 

そんな世界でも生まれてしまった以上は生きなきゃいけないということで、僕なりに生存戦略を考えてみている。

 

ヒーローとしてまっすぐ滅びに抗うという線も考えたが、これは割とすぐに却下になった。

 

理由は単純、僕が怖いからだ。戦うとか普通に嫌だし。か弱い生き物である僕は、強い人たちに守られて生きる市民でありたいのだ。

 

しかし、自己防衛手段をなにも持たないというのもそれはそれで怖い。そこで僕は、回復魔法の存在に目を付けた。

 

要するにヒーラーである。これになれば、戦線維持の重要な資源扱いでヒーローも守ってくれるという算段だ。

 

ありがたいことにこれに関して、僕はそれなりの才能があった。幼少期から継続した研究と訓練によって、成人(この世界では十五歳)になるころには完全にコツをつかむことができていたのだ。

 

極められた回復魔法は、不死身と遜色のないレベルにまで到達した。

 

怪我が治るのは当然として、欠損も即座に生えてくる。

 

それどころか「死のうとしても、体が死ぬのを拒否する」レベルにまで持っていくことができた。

 

ここまでのレベルになれたのであれば、もしかして戦闘とかもできちゃったりしますかね。そんな風に慢心し始めるほどに、いい感じの優れた実力を手にしていたのだ。

 

で、そんな僕が初めて悪魔と遭遇。攻撃を食らったとき気が付いたんだよね。

 

回復しても痛いものは痛いって。

 

いやぁ、前線にいる人たちは皆頭がおかしいのだと思う(褒め言葉)。

 

こんな苦行、僕は一秒も耐えられないというのに、ヒーローは自力でこれを治す手段を持たないまま戦っているのだ。

 

もはや怖い。すごい超えて、もう怖い。

 

怖がりながら、僕はこの人たちが味方でほんとよかったと心底思うとともに、ふと完璧な人類勝利計画を思いついた。

 

合理的、人道的、そしてなにより僕が守られる最高のチャート。

 

その作戦の名は、『強靭なヒーローたちにもっともっと頑張ってもらおう作戦』、である。

 

---

 

作戦の中身を説明しよう。

 

僕の極まった回復魔法は、当然他人を回復させることもできる。

 

そして、僕はこれを更にもう一段昇華させ、『加護』という形で付与できるようになったのだ。

 

つまり、回復バフをかけることができるということだ。

 

加護を受け取った者は、そう簡単には死ななくなる。

 

考えてみてほしい。傷がつけられたその瞬間に治癒していくようなリジェネレーターの倒し方を。なかなか困難そうだろう?

 

もちろん何人分もの加護を維持できるほど、僕に魔力量があるわけじゃない。おそらく加護の付与可能数は、せいぜい数人といったところだろう。まぁそれはおいおい解決していくとして、これをヒーローに付与すれば本来そのヒーローが勝てないような悪魔にも勝つことができるようになると思う。

 

簡単にいえば、強いヒーローをもっと強くして、その分もっと頑張ってもらおうというわけだ。

 

---

 

結果として、この作戦はそれなりにうまくいって、それなりに失敗した。

 

最初に加護を与えた人は、三日三晩悪魔に殺され続けた末に救出された。

肉体は健康そのもの。

骨も、内臓も、皮膚も、爪の先まで新品みたいに整っていた。

ただ、彼は救助隊の足音を聞くたびに悲鳴を上げていた。

どうやら差し伸べられた手を見て、悪魔の爪だと思ったらしい。

精神状態はまあ、うん、次回に活かそうという感じだ。

僕はその事件の重要参考人として政府に追われる身になってしまったが、知見を得たと思えば、まぁプラマイぎりプラだろう。

 

いやぁ、誤算だったな。まさかヒーローともあろうものが、三日三晩殺され続けた程度で心が折れてしまうだなんて。付与する対象を間違えたと言っても過言じゃない。

 

まぁしかし、僕にまったく過失がなかったかと言えば、そうではないのも理解している。

 

廃人化しても生き続けるのはさすがにかわいそうだし、次からは『心が折れたら加護が焼き切れて死ぬ』という設計にしてみよう。

 

我ながら、人道的な改良だな。

 

---

 

それに伴い、加護を与える対象の条件は大きく変化した。

 

『強いヒーロー』から、『たとえ今は実力がなくても、決して折れない心を持っている本物の英雄』に。

 

絶望の中、歯を食いしばって立ち上がる。

逃げ場のない死の縁で、それでも悪魔をにらみ続けるような。

そういう本物を、僕は探し続けている。

 

おかげで半分ヒーローオタクの戦場野次馬のようなことをする羽目になった。

 

我ながら、頑張ったと言える。おっそろしい戦場に自ら身をさらし、観察し、さらにはヒーローサイドからも逃げ回る。何が悲しくてこんなことをしているのかと思ったこともあった。

 

そして、そんな生活を続けて半年。ついに僕は、彼を見つけた。

 

カイ・アーデル。都市北部出身の、元戦争孤児。

 

戦場で彼を見つけた日のことを、今でも覚えているよ。

 

そのとき彼は……そう、片足を失っていた。

 

---

 

皆、逃げている。

それが正しい。

それでも、心のどこかで情けないと思ってしまう自分がいた。

 

叫び声はもう悲鳴ですらなかった。

誰かが誰かを呼ぶ声と、肉が潰れる音がぐちゃぐちゃに混ざっている。

焦げた血の臭いが喉に張り付いて、息を吸うたびに吐き気がした。

 

撤退の合図など、とうの昔に意味を失っていた。隊列も指示も何もかもが崩壊して、『あとは各自で頑張って生き延びろ』という状態。

 

俺は右足を失っていた。

そんな状態でここにいるのは、ほとんど死んでいるみたいなものだ。

泥と血が混ざったような地面に伏して、あとはいつあの悪魔が俺の意識を刈り取りにくるか。それを待つだけ。

 

なんとも、笑えてくる。これが、こんなのが俺の人生の末路か。

 

背後で、地面が鈍い音を立てた。

 

いつの間にか周りはもう静かだ。きっと逃げきったやつは遠くへ行き、それ以外の奴はもう死んでいるのだろう。

 

ふと、手を伸ばせば届くような距離にハンドガンが落ちているのに気が付く。

 

手を伸ばした。せめて一発、あの化け物に報いを受けさせてやりたいと思ったからだ。

 

身をよじり、仰向けの体をうつ伏せに直す。匍匐前進の要領で少しずつ距離を稼ぎ、ようやく少し触れたかというところで、俺の視界を影が覆った。

 

悪魔が俺を見下ろしていた。

 

人に似た輪郭をしているのに、人の形をしているとは思えなかった。

関節の数が合わない。皮膚の下で、別の生き物が蠢いている。

顔にあたる場所には、笑みだけが貼り付いていた。

 

それが、こちらを嘲笑っているのだと、なぜだかはっきりわかる。

 

次の瞬間、腕を踏みつぶされた。

 

ぐしゃ、という音とともに、痛みが全身を走る。

声を上げそうになるのを、なんとか歯を食いしばって耐えた。

 

ふと、脳裏に昔の記憶がフラッシュバックする。

 

なるほど、これが走馬灯か。本当にあるんだな。

 

他人事のようにそう考えていると、死んだ友人の顔がこちらに笑いかけているのが見えた。

 

そういえば、こいつも悪魔に殺されたんだったか。

 

はは。これじゃあ俺も、お前も、いったい何のために生まれてきたのかわからないな。

 

俺は体を起こして、悪魔を見上げた。

 

銃はもう手に取れない。起き上がって何がしたいのかなんて、自分でもわからない。

 

でも、そうしたかった。

片足がなくても、腕もまともに動かなくても、息を吸うたびに、胸の奥で血が泡立っても。

それでも、地面に這いつくばったまま終わるのだけは嫌だった。

俺はまだ、戦っている気になりたかったのだ。

 

「やぁ」

 

後ろから声がした。

 

悪魔は人語を話さない。まさかまだ人がいたのか?

 

早く逃げろ、殺されるぞ。

そう叫びたいが、血の塊が噴き出るばかりで何にもならない。

 

……いや、目の前の悪魔が怯んでいる?

 

なんだ?何が起きている。

 

片足で支えていた体が、バランスをおかしくして俺は倒れた。

 

足元を見ると、失ったはずの右足が生えている。

 

よく見れば、全身がそうだ。

ぐちゃぐちゃに砕けたはずの右腕が動く。脇腹の痛みが、いつ負ったのかも覚えていない無数の傷が勝手に塞がっていく。

 

これは、回復魔法か。誰かが俺に、高度な回復魔法をかけている。

 

助かった。情けないことに、俺の脳裏に真っ先に走った言葉はそれだった。

 

「ありが――」

「選べ」

 

その人は俺の礼を遮って、背後から声をかけ続けてくる。

 

声色は落ち着いていた。高くも低くもない。まるで感情の乗っていない、どこまでも平坦な声。

 

「守る側か。守られる側か」

 

俺は振り返った。

 

顔はフードをかぶっていてよく見えなかったが、この人がただの市民でないことは雰囲気で感じ取れる。ヒーローなのか?いや、こんなやつ基地では一度も見たことない。

 

差し出された掌の上には、見たこともない果実が一つ乗っていた。

 

「この果実を喰えば、力を得られる。そうしたら、お前は二度と楽には死ねない。喰わないのなら、僕がお前を逃がしてやろう。お前は生き延びる。お前は今日の出来事のことは見なかったことにして、これからは安全な場所で生きていくことができる。さぁ、好きなほうを——」

 

迷いなく、俺はその実に歯を立てた。

 

果肉は柔らかかった。

だが、噛んだ瞬間、何かが俺の内側から噛み返してきた。

心臓を掴まれたような感覚があって、それから全身が熱を持った。

 

俺が果実を噛み砕いた瞬間、悪魔が動いた。

頭が粉砕され、視界が黒く塗り潰される。

 

しかし、俺の意識は途切れなかった。

視界はない。

音もない。

それでも、目の前の敵が困惑しているのが、どうしてかわかる。

 

思わず笑みが零れた。

頭が再生していく。

視界が戻る。怒りが戻る。

砕けた歯が生え直し、潰れた喉が空気を吸い込む。

焼けるような痛みが、神経の一本一本に火を灯していく。

感情が、少しずつ声になっていき、やがてそれは、静まり返った戦場に咆哮として響いた。

 

この全身を駆け巡る痛みが、お前はまだ生きているのだと、教えてくれているような気がした。

 

---

 

彼は悪魔の放った攻撃魔法の中を、笑いながら歩む。

 

皮膚が焼け、骨が砕け、内臓が潰れる。

そのたびに、彼の体は無理やり元の形を取り戻していく。

 

痛いはずだ。苦しいはずだ。今すぐ膝をついて、泣き叫んで、許しを乞いたいはずだ。

 

それなのに彼は、前へ進んでいる。

 

見てみなよ。もはや悪魔のほうが、彼を恐れているじゃないか。

 

ああ、本当に。

 

ヒーローは素晴らしいな。

 

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