ジャンク屋ジードと拾われた少女 作:増えることに飽きたプラナリア
かつて、地球圏の支配に王手をかけていたハマーン・カーン率いるネオ・ジオンはグレミー・トトの反乱による混乱とハマーン自身の死によって崩壊した
その後崩壊したネオ・ジオンは連邦、エゥーゴの艦隊による激しい攻撃とその後行われた追撃によって散り散りになり、戦場となったサイド3……特にコア3周辺の宙域には大小様々なデブリがひしめく暗礁宙域が出来上がっていた
未だ小規模ながら戦闘も続き、下手をすれば死に損ないのMSに殺される危険性すらあるデンジャーゾーンであるが。ネオ・ジオン、連邦、エゥーゴの最新鋭機の残骸や、軍用の純正兵器の残骸というあまりにも魅力的で価値の高いお宝がわんさか浮いてるであろうその宝の山を前に、ジャンク屋と言うあまりにも強欲な職業につくものたちは危険を犯して向かい初めていた
俺もその1人だ。かつては一年戦争、デラーズ紛争を戦った後、ツテを頼ってジャンク屋を始めた俺は、たった1人でこの小型郵送船「クラウン号」を操り、コア3へと向かっていた
クラウン号は一年戦争が始まる3年ほど前に建造され始めた最近の船で、少人数での操艦を前提とした輸送船だ 船の全長は40メートルないくらいで全高は6メートル程、長方形の箱型の船体と新幹線を彷彿とさせる先の細い顔が特徴の船だ。本来であれば30人くらいで運用するのが普通なんだが、ジャンク屋として気ままに行きたかった俺はツテを頼ってゴリ押し的に解決した
そう言って説明してる間に。目的地のコア3に到着した俺は、手頃なサイズの岩塊に船を隠すと、急いで全体の大部分を占める格納庫兼倉庫へと向かう
エアロックを抜けて真空状態の格納庫内に入り、床に設置されたハンガーに寝かされたジム・コマンドが現れる。こいつが俺の商売道具であり、一年戦争以来ずっと修理とカスタムを繰り返しながら使い込んできた相棒でもある
外見はジム・コマンドにデブリ対策で装甲と関節保護のためのカバーが追加され、腰の両側と両肩にはデブリ積載用のフレキシブルアーム(メタ的に言うとサンダーボルトのあれ)を装備し、臀部にジム・コマンド用のビームガンを、左腕にはジム・カスタム用に製造されたシールドを装備している
俺は迷いなくコクピットハッチの開いた愛機へと乗り込み、コクピットからの操作で格納庫のハッチを開き、同時にハンガーをスライドさせて格納庫の入り口まで移動させる
するとハンガーがゆっくりと半円に開いて機体を船外へ出し、俺は機体のロックを外すとわずかにスラスターをふかしてゆっくりも機体を前進させ、影響が及ばない距離まで遠ざかったところでスラスターの推力を引き上げて正面に見える大きなデブリ地帯へと飛び立ち。その後方では岩塊の影に同化したクラウン号がハンガーを収容してハッチを閉じていた
ものの数分でデブリ地帯へと到着した俺は、まずデブリ地帯の外周を少し離れた位置から観察しつつ、入れそうなポイントを探る。こうするのは生き残った奴に殺されないようにするため&面倒ごとを避けるためだ
前者はここがさっきまで戦場だったことが大きい。文字通り生き残るためには敵を殺すしかない戦場を生き残った奴はイカれてしまってることが多い。敵と間違われて殺されるのはごめんだし、そんなイカれた奴を殺す趣味もないし、なにより修理代をわざわざ発生させる必要性はないからだ
後者は単純に俺がやってることが犯罪行為だからだ。ジャンク屋がデブリなんかを漁るには許可が必要だし、基本的にこう言うデブリは全部お上のものっていうのが法律で定められているわけで、もし生き残りに襲われて騒ぎになれば見つかるリスクが高まる。それは断固として避けたいわけだ
そんなわけで大小様々なデブリを観察して、少なくとも生きてそうな奴はいないということを確認した俺は、デブリ地帯に接近するとフレキシブルアーを駆使してぱっと見状態の良さそうなザク3の胴体やら元が何かもわからないMSの手足を回収し、更にコクピットが完全に破壊されているものの他には対してダメージのなさそうなガザDを両手で抱き上げる
もうこの時点でかなりの収穫だ、俺は帰った時に貰えるであろう上がりの額を予想しつつ、期待値の高さに思わず舌なめずりをしながら一度クラウン号へと帰投する
クラウン号に到着した俺は、ひとまず一時保管場所として用意してある格納庫の一角に積み上げ、次の獲物を探しに再びデブリ地帯へ戻る
次のチャレンジでは胴体の損傷が著しいガルスJとコクピットと両足のないズザを回収し、俺は変な笑い声を上げながら戦利品をクラウン号に搬入する
もうこの時点で普段の収穫など比べる価値もないほどに膨大な品物を手に入れられているが、まだ同業他社や連邦軍がいないことに欲をかいた俺は、更なる獲物を求めてデブリ地帯の奥へと侵入した
危険地帯であるデブリの中を慎重に進む。奥に行けば行くほどその戦場跡がどれほど苛烈であったのかを表すように、デブリの密度が増していくのを相棒の各種センサーで確認しつつ、俺は常に警戒しながら進んでいると、ある程度密度の薄くなった場所に一隻のエンドラ級が見えた
ブリッジは消失、主砲も後部だけでボコボコになった無惨なその巨大デブリは、しかし爆誕することなくその艦体の限界は保っていた
俺はそのお宝を見て苦悩することになる。理由としては艦の状態的に爆沈などが起こらなさそうな状態である(エンジンが完全に死んでいることなどから判断)ことと、エンドラのMS格納庫のハッチが開いていることからジオンの人間に出会わなさそうという点(おそらくランチが脱出するために使用したと思われるため、人がもう残っていない可能性が高い)の二つからもしかしたら放棄されたMSようのパーツなどが良い状態で手に入る可能性が頭をよぎったからである
俺はしばらく悩んだ末に、より良い上がりを求めてエンドラの中へと侵入することを決め、念の為にMSのまま開いたハッチからエンドラの中へと侵入する
中は完全に電源が落ちているため完全に暗黒の中にあり、俺は頭部に追加したライトを起動して格納庫内を照らす
格納庫の内部は外から見た艦体通りボロボロになっていて、保管されていたMSやパーツは見るも無惨な姿となっており、当然ながらその中にはかつて人だったものが死体が散乱していた。この感じでは仲間の骸を連れていく余裕がない程度には切迫した状況下に置かれていたことが窺える
そんな格納庫の状態に、俺は当てが外れたかと落胆のため息を吐き出しながら格納庫内の捜索を続けていると、ふと格納庫の一角の壁が崩れて…と言うよりは壁の一部がそのまま向こう側の通路に倒れた感じになっている場所を見つけた。通常ではあり得ない光景だ
そのあり得ない光景に、もしかしたら何かあるのではないかと言うジャンク屋的発想に至った俺はすぐさまそこに駆け寄り。そしてそこにあるものを見て絶句した
そこにはハンガーごと横倒しとなり、瓦礫によって半分ほどその姿を隠されたMSがいたのだ……書かれていない部分で全く損傷がない状態で、だ
俺は目の色を変えて瓦礫をどかし初め、あっという間に隠れていたMSの全容が明らかとなる
現れたのは量産型を表す緑ではなく、エースや指揮官用機としてのオレンジで塗装されたバウ…それも瓦礫が降りかかった際にできたであろう装甲表面の凸凹以外はさして損傷した様子のない、極めて良い状態のものがハンガーに固定されたままに倒れていた
ジャンク屋家業をしてる奴が一度はジャンク漁りてわ夢見る光景が眼下に広がっているのだ、歓喜と恐怖にワナワナと全身を震わせながら俺は思わずうそだろ、と胸中の思いををこぼれ出させると、慌ててコクピットハッチを開けてバウへと飛び出す
飛びついた俺は即座にバウのコクピットハッチを開けるための操作版を探して胸周りを右往左往し、何とか見つけた操作版のスイッチを押すと、特に問題なくコクピットハッチが開く
マジかよ!? と言う歓喜と驚きの声をあげた後、開き切るのが待たないと言わんばかりに半開きのハッチからコクピット内に飛び込む
飛び込んでみればコクピット内も外と同様傷らしいものはなく、彼はリニアシートがザクⅢやガザ系列のきたいと見た目上の変わりがなさそうなことに予想が当たったと喜びながらシートに座った俺は、手慣れた動きでバウの予備電源を稼働させ、バウのモノアイが光を取り戻す
次いで機体のメインシステムを起動し、融合炉を稼働させるとそのまま機体を起動させる。特徴的なMSの起動音とともにスクリーンが点灯していくとともに、コクピットハッチが閉じられ、その位置のスクリーンが走らせた自己診断プログラムに則って機体の損傷状況をリアルタイムで更新しながら表示していく
これら一連の肯定を得て、彼は無事に起動したこのバウが極めて良好な状態で放棄された機体であることを理解する
俺はコクピットの中で思わず高笑いを上げた。バウなどと言う噂でも聞いたこともない。無論見たこともないネオジオンの新型を新品同然で手に入れたのだ。これをアナハイムに売りつければどれほどの高値がつくか、想像もできない額だろうと言う確信だけはあった
そうして高笑いしていた俺の耳に、不意に聞こえるはずのない声が聞こえた
「た、すけて…」
こんな戦場跡で聞こえるはずのない…いや聞こえて良いはずのない……年端も行かない少女の声がバウの軍用通信回線越しに聞こえてきたのだ。喜びの感情が冷水を浴びせられたかのように消えいってしまう
「たす、け、て……」
先ほどよりも弱々しい声がもう一度聞こえてくる。それによって聞き間違いだと言う可能性を完全に潰されたことに俺は……激しい怒りを覚えながらバウのレーダーで敵味方識別信号を探り始めるのだった
少女たちプルシリーズは、言うなれば人類史上初めて【純粋な兵器】として歴史の表舞台に立ったニュータイプと言えるだろう
ニュータイプという人類の新種が持つポテンシャルを、人が持つ技術の限りを尽くして戦争のためだけに最適化させた彼女たちは、敵に勝つという至上命題を達成するためだけに天文学的な予算と膨大な時間を注ぎ込まれて生み出された
しかしその日、初めて実戦を迎えた少女たちにとって、戦場は地獄そのものだった
戦場を渦巻く無数の感情は鋭敏にすぎる少女たちの感覚を逆撫でし、彼女たちの喉笛を買いちぎれる猛者たちがぶつけてくるプレッシャーは死への脅威と焦燥を駆り立て、そして……
唯一の家族というべき少女たちが次々に討ち取られていく現実が絶望となって少女たちの心を破壊していった
「ぅ…ぁ……」
その地獄の果てに、少女……「プルスリー」と名付けられた兵器は、機体を大破させ、 重傷を負いながらもその命までは失わずに済んでいた
「だ、れか……」
痛む体、未だ消えぬ戦場の恐怖、目の前で失われていった家族の最後…多くの理不尽に生きる希望を砕かれながらも、それでもプルスリーは生存の道を捨てなかった
「たす、けて……」
届くわけのない声を発し、取られるわけも無い手を伸ばして必死に生き足掻く。諦めるという選択肢を奪われてしまった、託されてしまった少女は一生懸命に生存を求め続けた
まさにその刹那、突如として壊れかけたコクピットハッチが不協和音を上げながら歪に開く
そうして飛び込むように入り口に立った男が現れ、プルスリーを見つけるやコクピット内に飛び込んでくる
「すぐに助けてやるからな! おい? 大丈夫か!? 死ぬんじゃないぞ!」
パイロットスーツに触れたことで振動を利用した直接回線が繋がり、聞こえるようになった男の声には自分を助けようという強い意志を感じさせる力強い声が聞こえてくる
「ぁ…りが……」
ありがとう。その言葉を紡ごうとしたプルスリーはしかし、その言葉を発するよりも先に、助けが来たことによる安堵で意識を手放すのだった
俺はさいっこうにはらわたが煮えくりかえっていた。なぜかと言われれば目の前で手を伸ばしたまま意識を失った女の子が軍用のMSのコクピットの中にいたからだ
どう見ても、どう考えても10代前半の少女……それがこんな物に乗っている理由など一つしかなく。ジオンというキチガイどもなら当たり前にやるだろうな、という納得と怒りしか湧いてこない。子供を守るべき立場の大人が、守るべき子供を戦場に送るなど到底容認できる行いではない
俺はそう内心で怒りを巻き上げながらも、少女にこれ以上の苦痛を与えないよう慎重に…そして迅速にパイロットスーツ越しに少女の状態を確認する
パッと見た限りスーツに亀裂などの重篤な障害はなく、顔色は悪いが命が危険なほどに変色しているように見えない。血も流れているようには見えないためひとまずは動かしても大丈夫だろうと判断して俺は少女をシートから抱き上げ、それを足場にコクピットから出る
コクピットの外は複数個のMSより大きなサイズの岩塊と大小様々な岩石からなら小さなデブリ帯のど真ん中、隠れるのには適した場所が広がり、そのど真ん中の小さな空間に少女が乗っていたものを含めて4機の量産型キュベレイがいた
状態はひどいもので、4機全てが大破の判定を受けるほどの損傷を負っていて、3機の中にいた子たちは既に息を引き取っており、頭の中に抱き抱えている少女だけが唯一生き残っていた子供だった
俺は急いでここに来るまでに乗っていたバウに乗り込むとシートに少女を座らし固定、そのまま手を掴んで引っ張ってきたジムコマンドに乗り込み、バウを右手で、左手とフレキシブルアームで4機の量産型キュベレイを掴み、急いでクラウン号へ向かう
量産型キュベレイを全部待って行こうとしているのは単純に少女たちをこのまま宇宙の藻屑にするのが忍びなかったのと、テレビ演説で見たハマーンのキュベレイそっくりなこの機体と、それに乗っていた少女たちが普通のパイロットには思えず、ともすれば藻屑どころか死体すらも利用されて死後の尊厳を凌辱されてしまうかもしれない、という可能性が頭をよぎってしまったからだ
そういう楽でもない話に関しては宇宙の星々のように溢れかえってるのがこの宇宙世紀なのだから、考えすぎということはないだろう
頭の片隅で帰ったらまたハワードに怒られるな、と思いながらもクラウン号に辿り着いた俺は、持ち帰った機体たちを格納するスペースを作るためにさっき拾ってきたデブリたちをポイポイと乱雑に宇宙に放り出し、空いたスペースにバウと量産型キュベレイを格納すると、自分も機体をハンガーに固定させてから格納庫を走って少女の元に向かう
バウのシートに座らせておいた少女は意識は未だ回復していないままだったので急いでシートから抱き抱えると医務室へ向かい、簡易的な症状診断が可能な医療用マシンに少女をセットして診断してもらっている間にブリッジへと向かい、船のエンジンを始動して月への帰路に着く
幸いなことにサイド3は月の裏側に位置しているため、そこまで時間はかからずに月には辿り着けるだろうと考えつつ、俺は頭の中でこのまま何事もなく家に帰れることを祈りつつ、船を自動航行に切り替え医務室に寝かせた少女の元へと踵を返すのだった