悪役令嬢の腰巾着に転生した俺、「流石はお嬢様!」と煽てながら全力で生き残る 作:延暦寺
「あなたが佐藤家の息子ですわね。……さぁ、顔をお上げなさい」
重厚な黒檀の机を挟んで、傲然《ごうぜん》と言い放った少女がいた。
縦ロール気味に美しく巻かれた金髪を揺らし、勝ち気な青い瞳でこちらを見据える少女。
九条財閥の令嬢、九条葵。
その背後には、現代日本の
(……あ、これ詰んだわ)
膝をつき、頭を垂れていた俺――佐藤忍の脳内に、突如として溢れだす存在する前世の記憶が流れ込んできた。
ここは、現代ダンジョンRPG『ダンジョン・ブレイブ(通称:ダンブレ)』の世界だ。
そして目の前でふんぞり返っているお嬢様は、数年後……主人公に敗北し続けた末、その劣等感を付け込まれて魔人へと変貌する、悲劇の悪役令嬢。
俺はその横で「流石はお嬢様です!」「あんな平民、お嬢様の敵ではありませんよ!」と無責任に煽り散らかし、最後は主人の魔人化に巻き込まれてあっさり消滅する、文字通りの三下、腰巾着キャラ。
――佐藤家は、代々九条家に仕える影の一族。
その責務は、主君を命懸けで守ること。
(いや、守りきれてねーじゃん、原作の俺!)
むしろお嬢様の増長を助長して、破滅への特急券を一緒に握りしめているじゃないか。
だが、まだあわあわわてる時間じゃない…今の俺はまだ五歳。お嬢様も同い年だ。
原作のシナリオが動き出すまで、まだ時間はたっぷりある。
「……どうしたのです。私の顔に何かついていますの?」
お嬢様が不機嫌そうに眉を寄せた。
金髪に青い瞳、陶器のような白い肌。凛とした美しさはあるが、口を開けば「オーッホッホ!」と高笑いしそうな、典型的なお嬢様。好き。
対する俺はといえば、鏡を見るまでもなく自覚している。
黒髪で、これといった特徴のない
俺は頭を下げながら口を開く。
「いえ……。あまりの神々しさに、言葉を失っていました。お嬢様」
「 オーホッホ! お世辞だけは一人前のようね!」
満足げに喉を鳴らし、早くも悪役令嬢らしい高笑いを響かせるお嬢様。好きです。
この人を闇に落とさないことが、俺の生存ルートに直結する。
お嬢様が太陽の下で傲慢に笑っていられるよう、俺はその影に潜んで、破滅の芽を摘み取ってやろう。
「今日この時より、我が身、我が命は全てお嬢様のもの。あなたの行く手に立ち塞がる障害があるならば、この忍が、人知れず全てを排除いたしましょう」
と、そこまで言って俺は内心で「しまった」となる。
七歳にしてはあまりにも難解すぎる言い回し。
意味わからないこと言うなぼけぇ! とお嬢様に怒られるかと思い、恐る恐る彼女の顔を見ると、彼女はポカンとしていた表情を笑みに変え口を開く。
「なんだか小難しいことばかり言ってよくわかりませんが……気に入りましたわ! ついてきなさい、忍!」
そこは流石お嬢様。見事なまでに器の大きさを見せつけてくる。愛していますお嬢様。
満足げに歩き出すお嬢様の背中を見上げ、俺は静かに決意を固めた。
財閥の令嬢として、常に最高の結果を求められるこの人の絶望を、俺が全部振り払ってやる。
これが、歴史のゴミ箱に捨てられるはずだった腰巾着――佐藤忍による、運命改変の第一歩だった。