悪役令嬢の腰巾着に転生した俺、「流石はお嬢様!」と煽てながら全力で生き残る   作:延暦寺

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(;゚Д゚) …!?

オリジナルで総合日間3位!?


第10話 主人公

「やあああああ!」

 

 ボスエリアの中央、巨大な樹木が蠢く広場で、一人の少年が閃光のように跳ねた。

 勇希が、縦横無尽に飛び交う蔓を紙一重で掻い潜り、捕らえられていた受験生たちを次々と救出していく。

 お嬢様も負けじと救出していくが、勇希の方がいくらか速い。

 おかしい……。

 このエリアのボスは本来、二周目以降の『強くてニューゲーム』を前提としたステータスのはずだ。

 だが、目の前の主人公――勇希は、呪縛の古木(トレント・エルダー)の猛攻を、まるでギリギリではあるが回避し、確実に救助を進めている。

 ……ちょっと、強すぎないか?

 君、実はもう中身が二周目のプレイヤーだったりしない? 

 

「な、な……なんですの、あいつは! わたくしの晴れ舞台を、よくも土足で荒らしてくれましたわね!」

 

 主人公の異常なポテンシャルに戦慄していたが、隣から響いたお嬢様の憤慨した叫びで我に返る。

 いかんいかん、今はお嬢様の機嫌取りが最優先だ。

 

「お嬢様、落ち着いてください。救助活動については、もうあいつに任せておけばよろしいのです。お嬢様は戦いの華である『トドメ』にだけ集中しましょう! あいつは、お嬢様の勝利をより美しく彩るために用意された、都合のいい囮……いえ、『引き立て役』だと思えばいいのです!」

「……そ、それもそうですわね。あのような無作法者に、わたくしが取り乱す必要もありませんわ」

 

 般若のような憤怒を浮かべていたお嬢様が、俺の言葉でスッと冷静さを取り戻す。

 チョロ……いや、なんと気品溢れる切り替えの早さだろうか。

 それを見計らったかのように、地面を這ってきた一本の太い蔓が、死角からお嬢様を強襲した。

 

「危ない、お嬢様!」

 

 俺はザっと前に出ると、身体強化を全開にしてその一撃を腕で弾き飛ばす。

 

(ぐっ……重てぇ……っ!)

 

 父さんからの地獄の特訓を受けてきた俺の体でも、骨が軋むような衝撃が走る。さすがは周回前提のボスだ。

 腕が痺れているが、お嬢様の前で無様な姿は見せられない。俺は平然とした顔を保ち、一歩も引かずに立ちふさがる。

 

「ナイスですわ、忍! お喰らいなさい! 陽光の処刑槍(サンシャイン・ジャベリン)!」

 

 お嬢様の手から放たれたのは、超高密度の白熱する炎の槍。

 それは周囲の空気を一瞬で焼き焦がしながら射出され、迫る蔓たちを炭化させるどころか、文字通り消滅させて幹へと突き刺さった。

 

「ニョワアアアアッ!?」

 

 幹に浮かび上がった、苦悶に歪む老人のような顔。それが耳障りな絶叫を上げ、激しくのたうち回る。

 なんとも気の抜ける叫び声だが、その音波には微弱な精神汚染が含まれているのか、肌が粟立つような嫌な感覚が伝わってくる。

 どうやら呪縛の古木(トレント・エルダー)は、勇希の斬撃よりも、お嬢様の圧倒的な火力の方を脅威だと判断したらしい。

 ボスは無数の蔓を波のようにうねらせ、お嬢様へと向けた。

 

「シッ……!」

 

 俺はお嬢様から見えない角度で、指先から微細な闇の魔力を放つ。

 相手の動きを一瞬だけ停止させる搦め手の魔法。

 本来ならボス級には通用しにくいが、お嬢様の炎でダメージを負っている今なら話は別だ。

 不自然に動きを止めた触手の群れを前に、お嬢様は「自分の威圧に相手が怯えた」とでも思ったのか、高らかに杖を掲げた。

 

「オーッホッホッホ! 恐怖で動けなくなりましたの? そのような児戯、わたくしの前では無意味ですわ! すべてを灰燼に帰しなさい! 大爆布(プロミネンス・フォール)!」

 

 それは、まさに炎の滝だった。

 上空に形成された巨大な魔力の塊から、爆発的な火炎の飛礫が絶え間なく降り注ぐ。

 ボスの蔓もろとも、演習場の中央広場全体が赤く染まり、猛烈な熱波が吹き荒れる。

 本来ならお嬢様の魔力量をもってしても、このボスは泥沼の持久戦になる相手だが、こちらには原作知識がある。

 ボスの行動パターンは、すべて俺の頭の中に叩き込んであるのだ。

 

 奴は一定のダメージを受けると、体内の魔力を気化させ、魔法耐性を極限まで高める特殊な花粉を散布し始める。

 だがその発生源は、枝の先端に実った禍々しい紫色の果実。

 あれさえ叩き落としてしまえば、魔法が効かなくなるフェイズは回避できる。

 

「お嬢様! あの枝先の果実を狙えますか? あそこに魔力が集中している……あそここそがボスの弱点だと見受けられます!」

「愚問ですわね、誰に言っていますの! 炎矢(フレイム・アロー)!」

 

 瞬時に形成された炎の弓に、一筋の光線のような矢がつがえられ、放たれる。

 矢は見事な放物線を描き、怪しいオーラを放つ果実を、一点の狂いもなく正確に射抜いた。

 流石はお嬢様だ。性格以外は、本当に完璧超人なんだよな、この人。

 

「ンホオオオオオォォッ!」

 

 防御の要を潰された呪縛の古木(トレント・エルダー)が、地響きを鳴らす。

 ボコボコと地面が盛り上がり、地中に潜んでいた巨大な根が、攻撃直後の硬直で隙を晒したお嬢様の足元から一気に突き出した。

 

「……あっ」

 

 流石のお嬢様も、大魔法を連続行使した直後で反応が一瞬遅れる。

 俺は咄嗟に彼女の体を抱えて突き飛ばそうと、魔力を足に込めた――。

 だが、その瞬間に、俺の視界を青白い閃光が横切った。

 

「危ないっ!」

 

 勇希がお嬢様の前に割って入り、迫りくる巨大な根と蔓の群れを、その身の丈ほどもある大剣で一網打尽に斬り伏せたのだ。

 

 ……ンババンバンバウラッホラアアアアアア!

 おい、そこの主人公!

 俺の大事な役目を奪ってんじゃねえよ!

 

 俺が内心で血の涙を流して絶叫していると、タイミング悪くお嬢様が反射的に放った迎撃用の魔法が、弾かれたボスの蔓ごと勇希の大剣――『アストレア』へと吸い込まれていった。

 

 ……皆は覚えているだろうか。このアストレアの、あまりに卑怯な特性を。

 『逆転の加護(ジャイアント・キリング)』――相手が自分より格上であればあるほど、その攻撃や周囲の魔力を吸収し、自身の出力を爆発的に跳ね上げる性質。

 ボスの膨大な魔力と、お嬢様の規格外の炎。その双方を真正面から喰らった大剣が、今、臨界突破の輝きを放ち始める。

 

「こ、これは……力が溢れてくる……!」

「勇希、今よ! 一気に決めて!」

 

 カリンの激励を受け、勇希が大きく大剣を上段に構える。

 ――アストレアには、ダメージや外部から取り込んだ魔力が一定値に達した時にのみ解放される、特殊なゲージが備わっている。

 そのゲージが満たされたとき、いわゆる超必殺技が放てるようになるのだ。

 

「喰ら……えぇぇぇぇ!」

 

 振り下ろされた一撃が、空間そのものを断ち割るような轟音を響かせる。

 

正義の裁定(ジャッジメント・ブレイブ)

 

 それは、格上の持つ耐性も防御力も、さらには再生能力さえも一切無視して、因果ごと対象を両断する必殺の一撃。

 巨大な光の刃と化したアストレアは、呪縛の古木(トレント・エルダー)を、まるで柔らかな豆腐でも切るかのように、あっさりと縦一文字に引き裂いた。

 

「や、やった……倒せたのか?」

「うおおおお、すげぇ! あんなバカでかいボスを一撃かよ!」

「あいつ、さっきの魔力量試験で2500だった奴だろ!? どうなってんだよ、あの威力!」

 

 ボスが光の粒子となって霧散していく。それを見届けた受験生たちが、救われた安堵と興奮で勇希に駆け寄り、惜しみない喝采を送る。

 俺も正直、驚きを隠せない。

 慢心せずに訓練を積んできた今のお嬢様なら、苦戦はしても最終的には勝てる計算だった。

 だが、まさか一周目プレイのはずの主人公がボスを倒すのは予想外だった。

 

 周りから英雄のように称えられ、照れくさそうに頭をかく主人公。

 その光景を、文字通り主役の座を奪われた形のお嬢様が、目に涙をいっぱい溜めてプルプルと震えながら見つめていた。

 わ……泣いちゃった……っ。

 お嬢様、プライドが高いからこういうのが一番こたえるんだよな……。

 

「こ、このわたくしの……わたくしの華麗な活躍の場が、あ、あんな平民なんかに……う、ううっ……」

 

 ま、まずい。このままではお嬢様の堪忍袋の緒がプッツンしかねない。

 

「あ、あなた――」

「流石はお嬢様です! あえてここぞという場面で、哀れな平民に手柄を譲るとは! なんと慈悲深い!」

 

 今にも勇希に食ってかかろうとしたお嬢様の前に、俺は光速のステップで割って入る。

 

「……は? 忍、何を言っていますの?」

「いいえ、分かっておりますとも! 普通の凡人ならば、自分の名声のことしか考えないでしょう。しかし……しかし! 深謀遠慮(しんぼうえんりょ)なお嬢様は一味違う! あえて自らが土台となることで、あの平民に『トドメ』という華を持たせたのですね! これぞ強者の余裕、ノブレス・オブリージュの極致です!」

「へ? あ、えぇ……? そう、なのかしら……?」

 

 必死にまくしたてる俺の剣幕に、お嬢様は目を白黒させて頭の上に疑問符を浮かべる。

 

「ええ、そうですとも! 先ほどあの平民が放った一撃、あれはお嬢様の絶大な魔力を吸収して放たれたものに違いありません! つまり、実質、お嬢様の力! 奴はお嬢様から溢れ出たおこぼれの力をお借りして、ようやく倒せたに過ぎないのです! お嬢様無くして成しえなかった偉業……やはり真の英雄はお嬢様でございます!」

「あ、あの……!」

 

 俺が全力で揉み手をしながらお嬢様をなだめていると、数人の受験生が恐る恐るこちらへと近づいてきた。

 

「貴方たち、とくにそちらの金髪の方、ありがとうございます!」

「貴女のおかげで無事に助かりましたっ」

「あの炎の魔法、本当に凄かったです!」

 

 俺の苦し紛れの屁理屈に、これ以上ないタイミングで援護射撃が加わった。

 お嬢様は一瞬きょとんとしたものの、受験生たちからの羨望の眼差しと感謝の言葉を浴び、すっかり機嫌を良くした。

 分かりやすくフンスと鼻を鳴らし、腰に手を当てて高笑いを炸裂させる。

 

「…………オ、オーッホッホッホ! 当然ですわぁ! 九条家の娘たる者、下々の者を助けるのが役目ですもの!」

「流石はお嬢様! その心の広さ、まさに北岳(日本で二番目に高い山)の如しでございます!」

「もっと褒めてもよろしくてよぉ!」

 

パッと優雅に扇子を広げ、実に嬉しそうに胸を張るお嬢様。チョロい。実にチョロくて助かる。

 なんとか俺の苦し紛れの屁理屈と受験生たちの感謝が功を奏し、お嬢様の機嫌は完全に回復してくれた。

 

こうして、二次試験は無事に(?)終了するのだった。




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