悪役令嬢の腰巾着に転生した俺、「流石はお嬢様!」と煽てながら全力で生き残る   作:延暦寺

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第12話 バタフライエフェクト

 盛大な合格祝賀会も無事に終わり、あれよあれよという間に月日は流れ――いよいよ十束学園への入学式当日がやってきた。

 

 なんだかんだで、あっという間の数ヶ月だった。

 試験では原作の主人公たちと事故的な遭遇を果たしてしまったわけだが、原作と違ってお嬢様のメンタルコントロールは徹底している。

 闇堕ちしないよう、ケアも万全だ。

 今のところお嬢様が闇堕ちしそうな前兆はない。

 あとはこのまま、可能な限り主人公たちと関わらないように学園生活を送ればいい。……送れるはずだった。

 

「あ」

「げ」

「まぁ……」

 

 いざゆかんとレンガ調の立派な校門をくぐり抜けた瞬間、そこにいた。

 特徴的な赤毛の少年と、金髪ツインテールの少女。――つまり、主人公と、メインヒロインの二人である。

 

 フラグ回収がはやあああああい!?

 

 原作でも入学式の日に勇希がお嬢様に絡まれるイベントがあったけども!

これはもう、運命の強制力というやつだろうか。俺は内心で、その見えない力に向けて恨みの念を送る。

 

「あ、あの九条さん……試験の時はすみませんでした。俺、誰かが危険な目に合ってるって思うと、つい体が……。ボスにとどめを刺した時だって本当は――」

 

 ガルルとこちらを威嚇するカリンの横で、勇希が謝ろうとしたところでお嬢様がストップをかける。

 

「ストップ。謝罪は結構です。経緯がどうあれ、私が2位で貴方が1位。この結果は変わりませんの。あくまであれは入試での結果。改めて私がこの学園で1位を取ればよろしいだけ」

 

 おお、お嬢様が大人だ……。

 結果発表の時は人を辞めかけていたが、どうやら自分の中で決着をつけたらしい。

 

「それに勝者が謝るという行為は敗者への侮辱。1位を取ったのなら1位らしくドンと構えておきなさいな。もっとも、すぐに私が1位の座を奪い返して見せますが」

「九条さん……。うん、わかった。君に負けないよう俺も頑張るよ」

 

 お嬢様の言葉を聞き、感銘を受けたように瞳を輝かせグッと拳を握る。

 

「ふん! 九条財閥だろうがなんだろうが、()()()()勇希に勝てないんだからね!」

 

 これぞ強気ヒロインと言わんばかりに、カリンがビシッとお嬢様に指を突きつけて宣言する。

 こらカリン! 「人を指さしちゃいけません」って教わらなかったのか!

 

()()()()……?」

 

 お嬢様とカリンの間で激しい火花が散る中、お嬢様の背後に控えていた少女がポツリと呟いた。

 見た目は完璧な文系美少女、しかしその中身は意外と肉食系であることが最近判明した栞奈が、小首をかしげてそのワードを繰り返す。

 

「~~~~~にょおおおおおん!?」

 

 栞奈にツッコミを入れられ、自分が口走ったセリフの恥ずかしさにようやく気づいたらしい。

 カリンは自身の頭を抱えると、デンプシーロール顔負けの勢いで頭を左右に振り回した。瞬間湯沸かし器もびっくりな速度で一瞬にして顔を真っ赤に染め、頭頂部から湯気が出ている。

 

 どうやら、このリアクションを見る限りではまだ付き合ってはいないようだ。

 原作での告白イベントは秋の文化祭のはずだし、今はまだ友達以上恋人未満の甘酸っぱい段階だろう。

 その告白イベント、ぜひ特等席から見せてね!(出歯亀クソ野郎)

 

「……平民の考えることは、本当によくわかりませんわね。行きますわよ、忍! 栞奈!」

「承知いたしました」

「は、はい!」

 

 カリンの愉快な行動のおかげで何とか会話はうやむやになり、一触即発だった空気は霧散する。

 原作にあったような、その場でのバトルは発生しなさそうだ。

 俺はホッと安堵の息を吐きながら、歩き出したお嬢様の後を追おうとして――。

 

「あ、待って! 君、佐藤忍くん……だよね。もしかして、佐藤護(さとう まもる)さんって知ってる?」

「な……っ」

 

 背後からかけられた、聞き覚えがありすぎるその名前に、俺は思わず振り返ってしまった。

 俺の反応を見て確信を得たのか、勇希の顔に嬉しそうな笑みが浮かぶ。

 

「あ、やっぱりそうか! 試験の時から名前を聞いて、ずっと気になってたんだ!」

 

 そう言うや否や、まるで生き別れの親友でも発見したかのようなテンションで、グイグイと距離を詰めてくる勇希。

 ぐっ、流石は原作主人公……! 陽の気が強すぎる……!

 

 陰の極致である俺には、あまりに眩しい。

 すまんが、そのオーラをしまってくれんか。わしには強すぎる。

 

「ちょっと。気安く()()忍に近づかないでくださらない? 困っていますわ」

 

 俺がまばゆい光に目を焼かれていると、お嬢様がずいっと俺の前に割り込んできた。

 お嬢様ぁ! 好きぃ……!

 

「っ! い、今! 今言った! 私の! 私のって言ったわよね!?」

 

 瞬間湯沸かし器デンプシーロールから奇跡の復活を遂げたカリンが、鬼の首を取ったように喚き立てる。

 

「ええ、私の忍ですけれど? それが何か?」

 

 しかし、カリンの必死の指摘に対しても、「何を当然のことを騒ぎ立てているのこの小娘は」という目で返す。

 

「――アタシの負けね……!」

 

 お嬢様のあまりの堂々とした態度に気圧されたのか、カリンはなぜかガクッと膝をついて敗北を認めた。

 ちなみに、俺はお嬢様のあまりにも男前すぎる台詞を浴びた結果、今度はこっちが顔を沸騰させていた。

 一生ついていきますお嬢様! 

 

「えっと……話を続けてもいいかな?」

 

 お嬢様とカリンの繰り広げる謎のバトルを苦笑いしながら見守っていた勇希が、おずおずと手を挙げる。

 ちらりとお嬢様がこちらの様子を窺うように見てきたので、俺は無言でうなずいた。

 

「忍にこれ以上近づかないというなら、発言を許可しますわ」

「ありがとう。……えっと、どこから話そうかな」

 

 お嬢様の許可を得た勇希は、顎に手を当てながら「ウーン」としばらく唸った後、真剣な表情で口を開いた。

 

「実はね、俺が七歳のころ、地元で大規模なダンジョン災害があったんだ」

「ちょ、勇希!?」

 

 あまりに唐突でデリケートな昔話に、カリンがギョッとした様子で勇希の袖を引くが、彼は「いいんだ」と優しく手を振って制する。

 俺は原作知識ですでに知っているので驚きはしないが、事情を知らない栞奈はもちろんのこと、お嬢様もお労しそうに眉をひそめていた。

 

『ダンジョン災害』。

 それは、ダンジョン内でモンスターが異常繁殖し、地上へと溢れ出す最悪の現象だ。

 当然、戦う能力のない一般市民も大勢巻き込まれるため、災害が発生した地域は文字通りの地獄と化す。

 

「その時、九条財閥の治安維持部隊や探索者(シーカー)の人たちが駆けつけて、俺たちを助けてくれたんだよ」

 

 九条財閥の治安維持部隊。

 それは表向きの名で、実際はうちの父が率いる九条家直属の護衛部隊だ。

 彼らは治安維持と裏の護衛という二足の草鞋を履いており、所属しているのは一騎当千の戦闘エキスパートばかりである。

 アーティファクトの市場をほぼ独占している九条財閥は、必然的に国内の主要なダンジョン管理も一手に引き受けている。

 富と権力の集中しすぎだと叩かれることもあるが、今回のダンジョン災害のような有事の際、九条ほどの圧倒的な機動力と戦闘力で対応できる組織は他に存在しない。だからこそ、周囲からも文句が出にくいのだ。

 

「九条ばかりが独占してずるい」と言う奴がいたら、「じゃあお前らが代わりに命を張って災害を止められるのか?」という一言で論破されて終わりである。

 

 実際、災害が起こった際は九条財閥が率先して私財を投げ打ち、被災者への手厚い保障や地域の復興を行っている。

 まあ、大衆の人気取りと言われればそれまでだが、それでも救われた一般人の多くは九条財閥に多大なる恩義と感謝を抱いていた。

 

「俺とカリンはその時、治安維持部隊の隊長さんに直接助けられたんだ。その人の名前が、佐藤護さん」

 

 とうさぁぁぁぁん!!?

 あれぇ!? 原作ゲームの設定では、名もなき探索者(シーカー)に助けられたっていう設定じゃなかったっけぇ!?

 いや、確かに俺が七歳くらいの時、父さん、しばらく家を留守にしてた時期はあったけども!

 まさかその遠出先が、原作主人公の地元だったなんて聞いてないって!!

 

「護さんは、よく君のことを話してくれたよ。『ある日を境に、あいつは急に目つきが変わった』って。強くなるために、俺の課した地獄みたいな特訓に必死に食らいついてくる、自慢の息子なんだってさ」

 

 その、ある日というのは、間違いなく俺が前世の記憶を取り戻した五歳の時だ。

 お嬢様(と自分)の破滅フラグを叩き折るために、とにかく強くならなければと、死に物狂いで訓練に励んでいた頃である。

 

「で、護さんと色々話していくうちに思ったんだ。この凄い人に鍛えてもらえれば、俺も強くなれるかもしれない、って」

 

 おっとぉ?

 

「最初は当然、断られたんだけど、俺が何度も必死に頼み込んでたら、護さんもついに折れてくれてね。『必死に上を目指そうとする目が、うちの息子に似ているな』って理由で、手ほどきをしてくれるようになったんだ」

 

 あぁ、そういうことか……。

 これで、入学時点の勇希が中身は二周目なんじゃないかと俺が戦慄するほどに強かった理由がわかった。

 あの父に直接しごかれたのだ。あそこまで強くなっているのも当然である。

 

「護さんに直接鍛えてもらった期間は短かったけど、それでも俺にとってはすごく有意義な時間だった。おかげで、これの扱い方もうまくなったしね」

 

 勇希はそう言って、自身の背に帯びた白銀の大剣――『アストレア』を見る。

 

「護さんは最後にこう言ってくれたんだ。『俺の息子は、いずれ必ず十束学園に入学する。だから、あいつに会いたければ頑張りなさい』って。……だから俺、護さんがいつも自慢に思っていた君にどうしても会いたくて、ここまで頑張れたんだ。君のお父さんには、本当に感謝してもしきれないよ。もちろん、九条さんの家にもね。おかげで今日まで生きてこれた」

 

 勇希の言葉に、お嬢様は扇子で顔を隠しながら照れたように「フン」と鼻を鳴らす。

 

 ――なんということだろう。

 俺がお嬢様を救うために必死に努力した結果、その姿に影響を受けた親父が、巡り巡って原作主人公を劇的に強化するきっかけを与えていたのだ。

 とんだバタフライエフェクトだよ……!

 

「これから同じ学園の生徒として、仲良くしてくれると嬉しいな、忍くん!」

 

 満面の笑みで右手を差し出してくる、まばゆい光。

 

 拝啓、父上。

 どうやら俺は、避けようとしたはずの主人公との因縁が、がっちりみっちり強化されてしまったようです。

 ……ここからでも入れる保険ってあります?

 

 

 

 

 




まだラブには至っていませんが、お嬢様から忍への矢印は割とクソデカです。
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