悪役令嬢の腰巾着に転生した俺、「流石はお嬢様!」と煽てながら全力で生き残る 作:延暦寺
「――ぶ、――のぶ!……忍、聞いてますの!?」
「ハッ!? こ、ここは……?」
お嬢様に声をかけられて俺は我に返った。
辺りを見回せば、なにやら大講堂のような広いホール。その席に俺は座っていた。
「あ、あの、お嬢様。ここはどこですか?」
「どこって、入学式を行うための第一大講堂ですわよ。忍ったら、あの平民たちと話してからずっと上の空でしたので、私たちが引っ張ってきたんですわ」
そうだった。とんでもない原作改変を目の当たりにして、俺はすっかり放心していたんだった。
思わぬところに影響が出ていて驚いたが、よくよく考えれば主人公が原作より強いというのは悪い話ではない。
主人公が強いということは、その分、ラスボスを撃破してくれる確率も上がるということだ。
お嬢様と勇希たちの戦闘も発生しなかったし、破滅ルートはひとまず回避できたと見ていい。
あとは勇希たちにラスボス戦を丸投げして、俺はお嬢様や栞奈とキャッキャウフフしていればいいのだ。
頑張れ主人公、俺は陰ながら応援しているぞ!
「って、そういえば勇希たちはどこへ行ったんですか?」
「さぁ? 貴方が放心した後、あの平民たちとはすぐに別れましたからわかりませんわ」
とお嬢様。
まぁ、それなら別にそれでいいか。
その後も入学式が始まるまで他愛のない雑談を交わし、そして、ついに入学式が始まった。
辺りが暗くなり、壇上にだけスポットライトが当たると、一人の女性がハイヒールの音を響かせて中央へと現れた。
大きな三角帽子に、ボディラインが露骨に出る露出の高い黒いドレス。そしてねじくれた木製の杖。
異世界ファンタジーからそのまま飛び出してきたような、ベタベタな魔女ルックだ。
肌は瑞々しく、豊満なプロポーションを隠そうともしない。
彼女こそ、この十束学園の学園長であり、最初の
『
見た目は二十代後半に見えるが、実年齢は不明。百歳を超えているとも言われている(公式設定でも明かされていない)。
数少ない、魔人化していない
実力至上主義を掲げつつも、若い探索者の卵たちが理不尽に命を落とすことを嫌う、心優しい女性だ。
「ようこそ、我が十束学園へ。
その厳かな声色に、ざわついていた講堂内が一気に静まり返る。
それほどまでに圧倒的な威厳が、彼女から溢れ出ていた。
「ダンジョンが現れてから幾星霜。現代は、ダンジョンによって成り立っていると言っても過言ではない。そして、夢を掴むためダンジョンに挑む
メーデイアは一呼吸置いて言葉を続ける。
「だが、無謀な戦いを繰り返し、命を落とした者も多い。
その言葉には、
その後、学園長の話は短めに切り上げられ、各寮の説明へと移る。
十束学園には三つの寮が存在する。
第一寮:
第二寮:
第三寮:
どこぞの魔法学園のように、喋る帽子が「アズ○バァァァン!」などと勝手に組み分けたりはせず、各生徒が希望を出すシステムだ。
この学園には寮対抗のイベントもあるため、各寮ともに有能な生徒を欲している。
つまり、この場は寮長たちによるスカウトの場でもあった。
まず、第一寮――
身長は180センチほどの高身長。長い黒髪を後ろでポニーテールにまとめた女性――三年生の
お嬢様と同じ火属性使いで、強さこそ正義を地で行く武人タイプだ。
「俺は
有無を言わせぬ覇気に、新入生たちがゴクリと息を呑む。
続いて、壇上の熱気を一瞬で凍りつかせるような、冷徹な足音が響いた。
第二寮――
常に冷静沈着で情報分析に長けている。氷属性使いで……非常に
感情の失せた瞳で新入生を鋭く見据えると、彼女は冷たく澄んだ声を開いた。
「……
氷の令嬢の名にふさわしい、凍りつくような雰囲気。烈火とは正反対のキャラだが、彼女も相当な実力者なので敵には回したくない。
そして最後、第三寮――
研究家や理論派が集まる寮を束ねる、文字通りの天才児だ。
玲は前髪を軽くかき上げ、どこを見ているか分からない糸目で周囲を見渡し、胡散臭い笑みを浮かべる。
「やあ、新入生の諸君。
三者三様、強烈な個性を放つアピールが終わり、講堂は割れんばかりの拍手と緊張感に包まれた。
――さて、どの寮にするか。
原作でも、主人公である勇希は好きな寮を選ぶことができる。選んだ寮によって伸びるステータスが変わってくるので、自分の目指す戦闘スタイルで決める仕様だ。
ちなみに原作でのお嬢様は
わかりやすいね。
つつがなく入学式は進んでいき、ようやく閉会となった。
周りの新入生たちも、これから自分が入る寮について和気あいあいと話し合っている。
「お嬢様はどちらの寮を希望されるのですか?」
「私はもちろん……
高笑いをしながらお嬢様はそう宣言する。
まぁ、原作でも
「わ、私も葵様と同じ
「え」
栞奈の意外な選択に、思わず声が漏れた。
お嬢様の指示で前衛をこなしてはいるが、栞奈の本来の性格からして、てっきり
「葵様に出会う前の私なら、たぶん
栞奈の健気な言葉に、お嬢様はわなわなと身を震わせ、嬉しそうに抱き着いた。
「流石は栞奈、私の親友ですわ! えぇえぇ、一緒に強くなりますわよ!」
「では、俺も……
「忍、私の護衛のために気を遣って同じ寮にすると言っているのでしたら、遠慮は不要ですわよ? 確かに貴方は私の護衛ですわ。ですが、忍にだって意思はある。寮くらいは自分の意思で選びなさいな。……安心なさい、これに関しては誰にも――お父様にさえも文句は言わせないと、この九条葵の名にかけて誓いますわ」
……ご、後光じゃ、後光が差しておる!
なんだ? お嬢様は観音様の化身だったのか?
あまりの慈悲深っぷりに、俺は心の中で感涙する。
「有難きお言葉……。ですが、俺はお嬢様や栞奈様と一緒が良いのです」
もし原作通りにステータスの伸びが変わるのであれば、俺のビルド的には
だが、ステータスの伸び方が原作通りになるとも限らないのだ。
であれば、俺はお嬢様のそばにいる方を選ぶ。
――あと、純粋に
原作云々を省きそう説明すると、お嬢様はプイっと顔を逸らした。
「ふ、ふん。そこまで言うのならいいですわ。寮でもしっかり世話をさせてあげますから、感謝なさい」
「はい、お嬢様」
俺はそう言って、笑みを浮かべるのだった。