悪役令嬢の腰巾着に転生した俺、「流石はお嬢様!」と煽てながら全力で生き残る   作:延暦寺

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第15話 入寮試験②

「……誰だ、貴様は」

 

 巨体の男は、近寄ってきた俺をじろりと睨みつけてくる。

 

「ふへへへ、旦那ぁ。名乗るほどの者ではありやせん。ただ、見るからに強そうな旦那の力添えをしたいと思いましてねぇ……」

 

 俺は三下ムーブ全開で揉み手をした。

 もちろん、腰を低くし卑屈な笑みを浮かべることも忘れない。

 

「ふん、貴様のような地味な男が役に立てるとは思えんが、見る目はあるようだな」

 

 男はヒクヒクと嬉しそうに小鼻を膨らませ、自信満々に腕を組む。

 原作では見たことがない顔だが、お嬢様と同じチョロい匂いをひしひしと感じる。

 つまり――こいつは簡単に乗せられる!

 文字通り、俺の隠れ蓑にはうってつけの男だ。

 

「仮にも俺も入学試験を突破した身、多少なりともお役に立てるかと……。ちなみに、差し支えなければ旦那のお名前と試験の順位をお聞きしても……?」

「ワシの名は黒古田院 和邇(くろこだいん わに)。青森からやってきた地元最強の男だ。ちなみに順位は47位だ」

 

 ほう、47位。口先だけじゃなく実際に強いのか。

 一見かませのような雰囲気を放っているが、地元最強というのも頷ける高順位だ(←150位)。

 

「47位! かなり上位じゃないですか、旦那ぁ! そのあふれ出る強そうなオーラから察しは付いていましたが、まさかそこまでとは」

「フハハハハ、そうだろうそうだろう! 貴様、中々口が回るではないか!」

 

 黒古田院は、腕を組んだまま愉快そうに大口を開けて笑う。

 初対面のはずなのに、どこか既視感のあるその姿に、俺はこっそり安心感を覚えていた。

 

「ちなみに、旦那のアーティファクトは何ですか? 大きな斧が見えますが」

 

 ちらりと横を見れば、身の丈ほどもある巨大な両刃の斧が地面に突き刺さっている。

 九条のロゴが入っているので九条製のアーティファクトのようだ。毎度ありがとうございます。

 

「ふふ、ワシのアーティファクトは獣王破天斧(グレイトアックス)。風属性を操るワシの武器じゃ。この武器を振るえば、地を割ることすら容易いわ」

 

 そう言って、彼は重量のありそうな大斧を軽々と持ち上げる。

 どうやら、見た目通りの力もありそうだ。

 

「ほう、旦那に相応しい立派な武器ですね」

「当然だ、これは母が貯金をはたいて買ってくれたアーティファクトだからな」

 

 アーティファクトを褒められ、黒古田院は嬉しそうに頷く。

 

「どうやら貴様は中々骨があるようだ。戯言など無視しようと思っていたが、話を聞いてやろうじゃないか」

「さすが旦那は心が広い! 実は俺に考えがありましてね……」

 

 俺は彼の耳元に顔を寄せ、作戦を伝えた。

 

「まともに挑めばまた同じ。ですので、俺が囮になります。 まず俺が突撃し、寮長の注意を引きます。寮長が払い除けようとした瞬間に、一撃を地面に叩きつけ、寮長の足場を崩してください。 そして彼女が怯んだ隙に、旦那が俺の襟首でも掴んで力技でゴールへ駆け込む。これなら寮長も出し抜けるはず」

 

 全力の獅子王烈火であれば、こんな小細工はあっさり潰されるだろう。

 だが、今の烈火はその場から動かないという縛りに加え、力もだいぶセーブしている状態だ。

 これなら十分に勝算はある。

 

「ワシがそのまま、貴様を置いていくかもしれないとは考えないのか?」

「旦那はそういう男らしくないことはしないでしょう?」

 

 俺がそう答えると、黒古田院はニヤリと不敵に笑う。

 

「いいだろう、その話乗った」

「そう来なくっちゃ」

 

 彼に釣られ、俺もニヤリと笑うのだった。

 

「ちなみに、地面を割ることは?」

「ふん、そんなの朝飯前じゃ。役目は果たしてやろう」

 

 ◇

 

「おらおら、今年は不作かぁ!? どいつもこいつも弱すぎるぞ!」

 

 黒古田院との打ち合わせを終え、俺はスタートラインに立つ。

 全身に身体強化の魔法をかけると、そのまま烈火に向かってダッシュを開始した。

 

「おんどりゃああああああ!」

 

 腕をぐるぐる回し、やけくそ感を演出する。

 少しでも小物っぽく、情けない三下に見えるように全力で突貫する。

 

「……ちっ、今年ははずれだな」

 

 突撃してくる俺を見て、他の有象無象と同様と考えたのか、烈火は露骨に舌打ちをする。

 

「面洗って出直してこい!」

 

 烈火はそう叫び大剣を振りかぶる――今だ!

 

闇の帳(ダーク・ヴェール)!」

 

 魔法を発動した瞬間、俺を中心に濃密な闇の霧が立ち込め、烈火の視界を覆い隠す。

 原作にもある、敵の目を眩ませるための視覚妨害魔法だ。

 

「――あめぇ!」

 

 一瞬動きを止めた烈火だったが、すぐにまるで見えているかのように、こちらに向かって炎を纏った剣を振り抜いてくる。

 

「ぬわあああああっ!?」

 

 目くらましが通じず、野生の勘でゴリ押してくることなど百も承知。俺は身体強化をフル稼働させてし、剣撃を受け止め、勢いを殺しながら大げさに吹き飛ばされる。

 

「うおおおおお、烈風砕(ダウンバースト)!」

 

 俺が吹っ飛ばされ霧が晴れる瞬間、既に技のモーションに入っていた黒古田院は、風の力を借りて勢いをつけた巨大斧を地面に叩きつけた。

 刹那、激しい地鳴りとともに土塊がめくり上がり、走った亀裂が烈火の足元を爆砕する。

 

「お、 おお!」

 

 彼女にとっても予想外の搦め手だったのか、バランスを崩しながらもどこか楽しそうにする。

 彼女は原作でも、面白いと思った技はあえて受ける癖があるので利用させてもらった。

 その隙を逃すまいと、黒古田院はそのまま俺の襟首を掴んで寮に向かってダッシュした。

 

「旦那ぁ!」

「貴様の功績に報いなければ男ではないからな!」

 

 黒古田院は男らしい笑みを浮かべ、そのまま全力で烈火の横を通り過ぎようとし――。

 

「まだだぁ!」

 

 だが、体勢を立て直した烈火が、俺たちに向かって再び大剣を振りかぶろうとする。

 

「……シッ」

 

 俺は懐から短く小さい鉄の棒――魔力を帯びた寸鉄を取り出すと、身体強化した体で大剣に向かって投げる。

 

「ぬぉ?」 

 

 烈火の死角から大剣が弾かれ困惑した隙を逃さず、さらに周りに聞こえないほどの小声で魔法を発動し、両手から極細の闇の糸を放出すると、烈火の動きを一瞬だけ縛る。

 ほんの一瞬の硬直だが、黒古田院の身体能力ならお釣りが来る。

 俺は彼の太い腕に首根っこを掴まれたまま、一気にゴールである寮へと滑り込んだのだった。

 

「見たかぁ! これがワシの実力じゃあ!」

「流石です、旦那ぁ!」

 

 俺の目論見通り、黒古田院は自分の実力で突破したと確信している。

 裏での小細工がバレてなさそうなので何よりだ。

 

「気に入ったぞ! 貴様! 改めて貴様の名前を聞こう!」

 

 ――まぁ、彼のおかげで目立たず突破できたのだから、名前くらいは教えてもいいか。

 

「佐藤。佐藤忍です、旦那」

「佐藤か! どうだ、ワシの子分にならんか!」

 

 突然のスカウトに、俺は一瞬思考がフリーズしてしまう。

 どう角を立てずに断ろうか悩んでいると、お嬢様がスタスタと割って入ってきた。

 

「ちょっとそこのマウンテンゴリラさん? 忍は私のですわ。あなたに譲るわけにはいきませんの」

 

 俺を守るように黒古田院の前に立ちはだかり、扇子をビシッと彼に向ける。

 

「なんじゃあ、お前は! ワシは今、佐藤と話してるんじゃ!」

「九条葵ですわ! 忍はもう私の従者ですの! あなたの子分になる暇なんてありませんのでお引き取りくださいませっ」

 

 やめて! 私のために争わないで!

 なんてヒロイックな状況を楽しんでいると、黒古田院が九条の名にピクリと反応した。

 

「もしや九条財閥か?」

「えぇ、それがどうしましたの?」

「……それなら仕方ないのう! お前んとこのアーティファクトには世話になってる! これは素晴らしい武器だ! お前の従者も良い男だ!」

「オーホッホッホ! ただのマウンテンゴリラかと思ったら、随分とわきまえてらっしゃるのね!」

 

 お嬢様! ゴリラは森の賢者と呼ばれるほどに頭が良いんですよ!

 

「ワシは黒古田院和邇! これから同じ寮として切磋琢磨していこうか!」

「改めて九条葵ですわ、ゴリラさん。忍といいアーティファクトといい、見る目はあるようなのでほんの少しだけ認めてあげますわ! ですが、覚えておいてくださいませ、この寮で……いえ、学園で一番になるのはこの私ですわ」

「ガッハッハ! 随分とでっかい夢だなぁ!」

「オーホッホ! 当然ですわぁ!」

 

 ――類は友を呼ぶ。

 どういうわけか、お嬢様と黒古田院は謎の意気投合を果たすのだった。

 

 




割と気に入ってます。黒古田院
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