悪役令嬢の腰巾着に転生した俺、「流石はお嬢様!」と煽てながら全力で生き残る   作:延暦寺

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黒古田院の人気に嫉妬


第16話 入寮、クラス分け、窓辺にて

「よーし、ここまでだ!」

 

 日が暮れ始め、烈火はそう叫んだ。

 俺たちが合格した後も、手を変え品を変え烈火に挑み、合格者が続々と現れた。

 難関の入学試験を突破してきた連中だ、実力は確かなのだろう。

 戦法さえしっかり組み立てれば、ちゃんと突破できるようになっていた。

 しかし、それでも突破できない者が数名おり、絶望の表情を浮かべている。

 入寮試験に落ちた者の選択肢は、別の寮に向かうか、寮長も居ない第4の名もなき寮……通称落ちこぼれ寮に入ることになる。

 この寮は、試験に受からなかった奴や、単純に寮費を節約したい奴が行き着く場所だ。

 落ちこぼれ寮という名は伊達ではなく、通常の寮に備わっているようなサービスは受けられない。

 一応、転寮は可能なので、学園生活中も寮長への説得などで何とかなる。

 そんな噂を知っている不合格の連中は、烈火に涙ながらに訴えたり、他の寮へダッシュで向かったりしていた。

 まぁ、烈火が一番シビアで実力しか見ていない。他の寮のほうが、まだ恩情というかチャンスがあるのだろう。

 

 厳しいかもしれないが、この学園は基本的に実力主義。

 将来、命がかかった職業に就くなら、これくらいは乗り越えられなければいけないというわけだ。

 実際、入学志願者も多いが、学園のルールについていけず辞めていく者も一定数居る。

 

「最初は不作かと思ったが、予想に反して中々に豊作だったようだな」

 

 不合格の生徒が全員いなくなり、烈火がこちらへやってくると、グルリと周囲を見渡して不敵に笑う。

剣の寮(ブレイド)は戦闘に特化した寮だ。トレーニングルームはもちろん、模擬戦闘に使う広場なども完備している。好きに使ってくれていい」

 

 烈火の説明に、周りの生徒はワクワクとした表情を浮かべる。

 まぁ、この寮を選ぶくらいなのだから戦いが好きな奴が多いのだろう。

 かくいう俺も、トレーニングルームが充実しているという情報には、少しばかり男心がくすぐられる。

 

「そうそう、もちろん俺にもいつでも挑んでいいからな。無いとは思うが……俺に勝てれば()()になれるぞ」

 

 その言葉に、和気藹々としていた生徒の雰囲気が一気に引き締まる。

 これは原作でもあったシステム――『下克上システム』だ。

 学園生活中、いつでも各寮長に挑むことができ、勝利できればその地位を奪い取ることができる。

 現在の寮長たちも1年の時にこのシステムを使い下克上を果たしている。……つまり、彼女らは3年になるまで誰にも負けず、その地位を死守しているのだ。

 

 実際、彼女らのステータスはかなり高めに設定されており、1週目のプレイでも勝つことは可能だが、かなりの高難易度を誇る。

 だが、無事に勝てれば恩恵はデカく、ゲーム内であれば寮長になった時点であらゆるステータスにバフが乗る仕様だった。

 まぁ、現実であるここでは寮長としての権限が振るえるようになるくらいだが、それでも十分だろう。

 

「なんなら、今挑んでもいいぞ?」

 

 ニヤリと笑いながら周りを見渡す烈火だが、誰も名乗り出ようとしない。

 それはそうだ。さっきの入寮試験でさえあれだけ苦戦したのだから、本気の烈火に勝てると思っている人間はいないだろう。

 ――一部を除いて。

 

 地元最強だと自負している黒古田院はもちろんとして、お嬢様も闘気を漲らせている。

 

「忍、栞奈。私は強くなりますわよ。彼女に勝てるほどに」

「は、はい、お手伝いします!」

「もちろんです、お嬢様。必ずや勝ってみせましょう」

 

 お嬢様は確かに強い。だが、まだ経験が足りず、今の実力では本気の烈火には勝てないだろう。だからこそ、これからの学園生活で鍛え、強くなるのだ。

 

「――ま、流石に今挑む奴はいないか。さっきも言ったが、いつ挑んでもいいし、何人でかかってきてもいい。その気のある奴はいつでも来い」

 

 そう言うと、烈火はこの寮についての説明を始めた。

 寮の構造は、男女共有の今いるロビーを中心に、左右で男女のエリアに分かれている。お互いの部屋への異性の立ち入りは基本的に禁止(寮長の許可があれば別)。

 消灯は24時。トレーニングルームや模擬戦闘場などの説明を受け、それらが書かれたルールブックも渡される。

 ちなみに部屋は1人1部屋。さっそく、俺は割り当てられた部屋へと向かった。

 

「おお、すごいな」

 

 部屋の中は十畳一間。一通りの家具は既に備え付けられている。

 風呂とトイレは別で、さらには寮の施設として大浴場まで完備されている。寮という環境を考えると、これが個人に与えられるのはかなり豪勢だ。

 ゲーム内では何度も見たことのある室内だが、それが実際に目の前に広がっているのを見ると、少し感無量である。

 

 荷物を床に放り出し、俺はベッドに横になる。

 マットも良質なものを使っているのか、身体がふわりと沈み込み、寝心地がかなりいい。

 

「ようやくここまで来たな」

 

 ひとまず、入学式当日の主人公である勇希とのバトルは回避できた。

 衝突こそあったものの、深刻な事態にはならなかったので、十分な結果と言えよう。

 あとは、展開を変えたことで今後の流れがどうなるかは分からないが、大筋はそう変わらないと思っている。

 

「……そういえば、勇希たちはどの寮に入ったんだ?」

 

 剣の寮(ブレイド)では彼とカリンの姿を見かけなかった。

 まぁ、原作でもどの寮に入るかは自由なので、単純に別の場所を選んだのだろう。

 できれば、このまま疎遠になってくれるのなら言うことなしだが……お嬢様が覇道を歩もうとするのなら、避けては通れない道だ。

 引き続きお嬢様のサポートをしつつ、闇堕ちを回避しなければならない。

 原作はプレイ済みだからある程度のことは覚えているが、転生してから何年も経つので、おぼろげな部分も多い。

 だが、泣き言は言っていられない。俺とお嬢様の命がかかっているのだ。

 

「うっし、頑張るぞい!」

 

 パンッと自身の両頬を叩いて気合を入れる。

 その日は、疲れもあって食事も摂らずに泥のように眠るのだった。

 

 ◇

 

 朝、目を覚ました俺は身支度をし、食堂へと向かう。

 そこは登校前の生徒たちでごった返していた。

 食費は寮費に含まれているので食べ放題だ。普段は食べられないような高級食材も、ここでは遠慮なく胃袋に収められる。

 何を食おうかと悩んでいると、後ろからポンと肩を叩かれた。

 

「おはよう, 忍。昨日は食堂に来なかったけれど、大丈夫だったかしら?」

 

 振り向けば、そこには今日も元気に金髪縦ロールを揺らすお嬢様と、美しい黒髪をなびかせる栞奈の姿があった。

 

「おはようございます、お嬢様。昨日は入寮試験で気を張っていたせいか、泥のように眠ってしまいました。お嬢様は本日もお元気そうで何よりです」

「オーホッホ、当然ですわ! あれくらいのことで疲れるような、軟な身体はしておりませんの!」

 

 今日も元気ハツラツな高笑いをするお嬢様。

 

「流石はお嬢様です。俺もお嬢様に負けないよう、さらに鍛えたいと思います!」

「えぇ、精進なさいませ! 期待しておりますわ」

 

 と、いつもの様式美をこなしつつ、何を食べるかという話になる。

 

「俺は普通にご飯とみそ汁、それに納豆ですかね。お嬢様は何をお食べになりますか?」

 

 地味ではあるが、前世が日本人の俺としては、こういう素朴な朝食が一番しっくりくる。

 

「そうですわね。焼き立てのクロワッサンと、ハーブやスパイスを使ったというオムレツ。あとは果物を少々とヨーグルト辺りですわね」

 

 うむうむ、お嬢様らしいお上品なチョイスだ。

 栞奈は何にするのかと思い、チラリと視線を向ければ――。

 

「わ、私はヤサイマシマシアブラカラメチョモランマにしようかなと」

 

 ――なんて?

 

「なんて?」

 

 敬語も忘れ、俺は思わず素で聞き返す。

 おおよそ深窓の令嬢から聞こえるはずのない単語に、俺は自身の耳を疑った。

 

「ヤサイマシマシアブラカラメチョモランマです。あ、大丈夫ですよ。ニンニクは今回は無しにしますから」

 

 口臭問題を心配されていると勘違いしたのか、栞奈はムンと両手を握りながら自信満々に答える。

 そんな○郎系みたいなメニューが学園の食堂にあるわけないだろ、とメニュー表を確認すれば、普通に載っていた。

 あんのかい!

 

 その後、栞奈は宣言通り、野菜が堆く盛られた凶悪なラーメンをほくほく顔で席に運び、見事に平らげたのだった。

 ……意外と健啖家ですのね、栞奈さん。

 

 ◇

 

 栞奈の意外すぎる一面を発見しつつ、俺達はクラス割が発表されている広場へとやってくる。

 1クラス30名 × 6クラスで、A組からF組まである。

 これは別に成績順というわけではなく、実力がバランスよく割り振られる――はずなのだが。

 

「あら、私たち全員同じクラスなのですね」

 

 そう、俺とお嬢様、栞奈は三人ともA組に割り当てられていた。それだけなら、まあ偶然の一致で済ませられたのだが。

 

「あ、佐藤君! 君もA組だったんだね! 俺もだよ!」

 

 人懐こいワンコのような笑みを浮かべ、赤い髪を揺らして勇希が近寄ってくる。

 もし尻尾があれば、はち切れんばかりに振っていただろう。

 そんな勇希を見て、お嬢様は露骨に顔を歪めてしわくちゃになっている。

 お嬢様、レディがしてはいけない顔になってるので、もうちょっと抑えて。

 

「これからよろしくね、佐藤君!」

 

 彼はなんでこんなに俺への好感度が高いんだ、と思いつつも、俺は「あぁ、よろしく」と返す。

 主要人物がすべて同じクラスとか、何か作為的なものを感じなくもないが……これだけは断言できる。

 

 この先、絶対に平穏には暮らせないと。

 

 




お嬢様の顔はしわくちゃピカ○ュウのあれです。
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